魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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戦闘描写の書き方が分からない…


第4話・■為災害/give dolls to play with

『ギ、ギギギィッ!!』

 

 奇怪虫(クィンギブド)の爪が凄まじい速度で迫る。

 俺は眼前に迫る爪を、ナボールを後方に突き飛ばしながら身を投げ出して横転し回避する。

 すれ違いざまにに腰に携えた曲刀を抜刀、巨大虫の前足を切りつける事で注意を惹く。

 狙い通りに怪虫(てき)の気配がこちらを捉える感覚を肌で感じつつ即座にナボールとは反対側へ誘導するように走り出す。

 このまま走り続ければナボールとの距離を離しつつ仕切り直しが出来るはず…

 瞬間、強烈な寒気と全身の肌が総毛立つ感覚を覚え思考する間もなく頭から飛び込むように前転する。

 直後に俺のいた場所の地面を虫の爪が抉り取る様子を垣間見る。おかしい、なぜ追いつかれている?相手が巨大であるとしても、()()()()()()()()()()()()()()はず…

 そこまで思考し、ようやく肉体が発していた違和感を頭で理解する。俺の体を流れる()()()()()()()()()()()()()()()()()

 脳裏に浮かぶ包帯の魔物(ギブド)の奇声、金縛り、そして開戦に聞いた()()()

 

 (あれは威嚇などではなかった)

 聞いた生物(もの)の魔力を縛る魔封じの奇笛(こえ)

 

『ギギギィ!!』

 

「ぐ、う…うおおおおおお!!」

 

 振るわれる凶爪を曲刀で逸らすも、俺の腕に浅い裂傷を残しつつ曲刀はクィンギブドの背後へと弾き飛ばされる。

 絶体絶命。状況をそう認識する俺をまるで甚振るように両足の爪を振るう怪虫は、かすり傷を作りながらも懸命に転がり避ける俺を見て。

 ──()()()()()

 奇声を重ね掛けし、念入りに魔力の使用を封じられる。爪が腕の肉を抉る。爪が足の皮膚を裂く。執念深く、それでいて悪辣に。俺の心に灯る反骨心をぽっきりと折ってしまわぬように。まるで子供の棒倒し砂遊びのようにじわじわと俺を追い詰めていく。

 

(だが、これでナボールは逃げられる…ざまあみろ虫野郎)

 

 死神が鎌首をもたげる状況にも笑みを絶やさない俺に怪虫は不満げな奇声(こえ)を鳴らす。その時、怪虫の背から上がる火の光が俺の顔を照らす。

 

『ギギギッ…ギギャァァァァ!!!』

 

「どうだぁ!このクソ虫!アタイのバクダンを食らいなァ!」

 

 奇怪虫(クィンギブド)を挟んで後方に、赤髪を携える若き女戦士は矢を放った姿勢で煽るように吠える。

 体の震えを、褐色の上からも分かる程の血の気の引いた表情を悟られぬように。誇り高き女王の娘は、まるで俺を庇うように不敵に笑っている。

 

「どうした、怖いのか?さっきまでオマエを見て震えあがってたアタイなんかにビビってるのか!何ならもう一度バクダン矢をお見舞いしてやろうかい!?」

 

 待て、お前はさっきまで虫が怖いとか言って縮こまっていたじゃないか。なんで、そんな…そんな目で俺を見る…まるで…己の死を受け入れるような、安らかな目で…!

 

(やめろ…やめてくれ…)

 

地に這いつくばる息も絶え絶えな俺を横目に、玩具を見つけたかのように。

 醜悪。劣悪。露悪。俗悪。害悪。──邪悪

 邪悪(あくい)の化身が、そこにいた。

 

(何なんだ…コイツは…!)

 

 通常の生物では考えつかないほどの悪意。いや、砂漠に棲まう魔物ですらここまでの悪意は宿さない。これではまるで…‘‘ニンゲン()‘‘のような──。

 

 『ギギギギッ』

 

 邪悪(ムシ)顎を鳴らし(わらい)ながら、少女を貪り喰らうために俺に背を向ける。‘‘惰弱(おまえ)はそこで這いつくばり、守るべきだった少女が苦痛と恐怖の悲鳴を上げながら死ぬその時を見ているがいい‘‘と言わんばかりに、悠然と歩く。

 

 その背に俺は──()()光明を見た。

 

 ()()が見えた瞬間。俺は唯一残された武器である弓を手に取り、懐から取り出したなけなしの矢を番えて放つ。

 奇怪虫(クィンギブド)はその風切り音を聞いてなお余裕を崩すことなく──

 

『ギャアァァァァ!!!』

 

 ──白く染まった背の甲殻に深々と矢が刺さり悲鳴を上げる。

 確かに背部に弱点である爆発(ほのお)を受けた。しかし大きく成長した己の甲殻であればちっぽけな子供の放つ矢など弾いてしまえるはず…!

 

「虫如きが。(ゲルド)を舐めるなよ」

 

 俺の持つ弓は大きさこそ子供(それでも只人(ヒューマン)の7歳と比べれば大きいが)に合わせた弓矢であるが、その張りの強さは大の大人であっても引くことは難しい強弓。稽古場にあったすべての弓が俺の筋力に耐え切れずお釈迦にしてしまったのを見た(ゲルド)の技術班が寝る間も惜しんで作り上げた特注品(オートクチュール)。魔力を封じられてなお武術の冴えは衰えず。連射は出来ないだけで一射であれば問題なく放つことが出来る。

 

『ギッ!ギギャッ!ギギャアッ!!』

 

 一射。また一射と強射の一撃が放たれ、その背に突き刺さる。

 

「弱点の攻撃を受けると白くなる、のではない。その白く脆い姿こそが女王(おまえ)の本性。砂の化粧(コーティング)で隠していた醜い‘‘惰弱‘‘の姿だ。」

 

 日の光から逃げ隠れ生きることで光への耐性を失った生白い姿。何故か今は()()()()()()()()()()()()が、あるいはそれこそが女王(ムシ)の傲慢の根源か。しかし生物としての弱点を克服するにまでは至ってはいない。

 

『ぎぎぎぎぎぎぎ!!』

 

あれはまずい。本能で少年(ガノン)を天敵と定め、羽で砂塵を巻き上げる。竜巻の形ではなく、ただ後ろの外敵から逃げるためだけの砂掛け。ガノンは質量を纏うほどの砂塵に腕を交差して目を守る。その隙に女王(じゃあく)は駆ける。‘‘あの小娘を、己よりも矮小なあの惰弱(こむすめ)を殺す!‘‘その先に待ち受ける惨劇を理解せずただ己の虚栄を満たすためにか弱き少女を狙い虫は駆ける。

 

『ぎ?』

 

 だがそこには惰弱など存在せず。‘‘巨大な虫(こちら)‘‘を正眼に待ち構えバクダン矢を番える戦士(ナボール)の姿がそこにあった。

 

「本当は、死体(ギブド)だって怖かったさ。昔は仲間の死体が起き上がって襲ってくる作り話を聞いて眠れなくなったものさ…だけどね」

 

 ナボールは独白する。己に言い聞かせるように、あるいは何かに宣誓するように。

 

「お母さまが聞かせてくれたよ。ギブドはかつての仲間が襲ってくるんじゃない、地上で迷う魂を閉じ込めてるだけだって…だからアタイ達がギブドをやっつけて解放してやるんだって」

 

 弓を引き絞るナボールの眼にもはや怯えはない。ただ、眼前の(あく)を滅する覚悟(いし)に満ちている。

 

『ぎぃっ・・・ぎいいいいいい!!』

 

 虫はとうとう怯えを隠すことなく全力で羽を羽ばたかせる。あの()は魔封の声は通じない──!背後の天敵(ガノン)が一歩ずつ此方へ近づいてくる恐怖を感じながら、虫は空へと飛翔する。砂塵の霧で身を隠し、ただ敵が過ぎ去るのを待つ。

 

「これじゃ、狙いが定まらない…!」

 

 その時、ナボールは己の腰袋(ポーチ)が震えるのを感じ取る。震える袋から‘‘魔法のコンパス‘‘が飛び出し、ナボールの腕に絡みつく。そして、その針が砂塵の中のある一定を指し示す。

 ナボールの頭に過去の記憶がよみがえる。

 

 

________________________________________

『わぁ…これすごいよ!動かしてもおんなじ方を向いてるよ!』

 

『それはね、オババ様の作った‘‘魔法のコンパス‘‘だよ。これがあれば砂嵐の中でも迷わないんだって』

 

『それってすごい!?』

 

『すごいわよ?これはね、方角だけじゃなくて持ち主が行きたい場所もさしてくれるのよ?』

 

『じゃあアタイとおかあさまが持ってればずっと一緒だね!』

 

『アハハ、そうならいいんだけどね…コンパス同士を近づけると()()()()()()()()()壊れ

ちゃうのよ』

 

『ええー!じゃあ役に立たないじゃないか!』

 

『だからアタシが持っておくのよ。アンタがどこにいても探し出せるようにね?』

________________________________________

 

 

「なんだ…そこにいたんだね、お母さま…」

 

 ナボールの眼には砂塵の中を飛ぶ巨大虫、その胸から漏れるひび割れのような光が見えている。その先にある”魔法のコンパス”が括り付けられたゲルドの槍さえも…!

 

(お母さまはあの日、コイツに会って戦ったんだ…後に続く戦士のために、逆転の一手を残していたんだ!)

 

「お母さまの魂…返してもらうよ!!!」

 

 ナボールは亡き母と同じようにコンパスを矢に括り、放つ。引き合うコンパスは追尾弾となり矢の重さをものともせず標的の古傷(ひかり)へと吸い込まれるように突き進む。

 そして──

 

『ギッ…ギャアアアアアアアアア!!!!』

 

 叫ぶ。裂ける。避けられぬ矢は体の内からその邪悪を焼き払い、浅ましき貪欲なる女王(クィンギブド)は母娘2代に渡る時を超えた致命攻撃(とどめ)により失墜する。

 

 

 

 

「やったな」

 

「ああ…アタイ、やったよ…お母さまの仇を討ったよ…ガノン…」

 

 崩れ落ちるようにして倒れる少女(ナボール)少年(ガノン)が支える。

 ‘‘あまりいいところなかったな…‘‘と思いつつも腕の中の少女の勇気を称えるように抱えなおす。

 

「アンタも、なかなかイイ戦いっぷりだったじゃないか。…ま、アタイには劣るけどねっ」

 

「ああ、そうだな……っ!」

 

 

 おどけるように健闘を称えるナボールに笑みを浮かべるも、虫の死骸(クィンギブド)がピクリと動いたことに即座に警戒態勢を取る。

 

 

 クィンギブドの死骸がまるで糸に吊り下げられたように宙へ浮き…真の邪悪が覚醒する

 

『gigigigigigggggggggggggggggg!!!!!!』

 

 身体を振るって擦り鳴らし、もはや虫の鳴き声ですらない怪音を奏でる。直後、足をだらりと垂らし滑るようにこちらへ急接近し俺の腕からナボールを連れ去る。

 

「ナボール!」

 

「ガノン!」

 

 引き離され、お互いの名を叫ぶ。ナボールを抱える骸虫(ギブド)は宙へ舞い、俺は胸に大きく空いた穴の中に‘‘ひび割れた紫紺の石杭‘‘を発見する。

 

(魔石!?ダンジョンの無い砂漠(ゲルド)に何故!?)

 

 ツインローバから教えられた知識の中から最も近い存在を引き出すが、むしろ理解が追い付かなくなる。

 俺の疑問に答える者も無く、骸虫(ギブド)は腕の中の少女の息の根を止めるために凶爪を突き立てようとする。

 

「させるか!」

 

 即座に矢を番えて放とうとする。砂の化粧(コーティング)はもはや関係ない、あの魔石を射抜くのみ…!

 

『gigigg…キイィヤァァアァァアァァアァァ!!!!』

 

 死骸を生体の如く操り、骸虫(ギブド)は俺に向けて奇声を発する。

(今更魔力を封じたところで…!?)

 

 硬直。俺の体はまるで()()()()()()()()()()()に、指一本も動かせなくなる。

 

(何故だ!?今まであの奇声にそんな効果はなかったはず!)

 

 その瞬間に俺は初めに奇声を聞いた時の記憶がフラッシュバックする。

 

‘‘包帯の魔物(ギブド)の奇声、金縛り‘‘

 

(こいつはおそらく、死んでいる。死んでいて、外から与えられていた魔石(ちから)死体の魔物(アンデッド)に再定義されている!)

 

 加工の痕跡の見て取れる魔石(いし)の形状にさらなる悪意の気配を感じ取るも既に遅く。俺の体はもう動かない。奇声を幾たびも浴びせられたことで魔力も今だ使えず。このまま彼女の死を見過ごすのか…?

 

「──!」

 

 否。そんな事は断じて認めない。たとえ与えられた立場(もの)であったとしても、(おれ)が先にあきらめるなど在ってはいけない…!

 

「──っ!」

 

 力を全身に込める。弓を握る腕の皮が裂け、矢を番える指から血潮が流れ落ち、矢羽根を掴む指の骨が砕け、それでも力を籠め続ける。

 俺は力を求める──。総てを(すく)える絶対的な力を!この一矢こそ、その嚆矢と知るがいい!

 

「──ぉおおおおおおおおおおッ!!」

 

 奇声に縛られる全身と全霊が引き千切れるほどに力を振り絞り、弓矢を引く。

 

『ggggggggggg!!』

 

 そんな俺をあざ笑うかのように骸虫(ギブド)は、()()()()()()()()()()穴を隠す。一歩も踏み出せぬその身で、射抜いて見せろと言わんばかりに。

 

(その程度で、あきらめると思ったか!)

 

 俺は更に身を捩ろうとする。狙いを外すためではなく、矢を()()()ために。

 

(動けええええええええッ!)

 

 指が──離れる。

 

(あ…)

 

 矢を曲げるに至る速度と構えに至る前に、体が限界を迎える。

 意思はまだ折れてはいないのに──

 

 

 

 

 

 

 

 ──世界の動きが極限までに緩慢になる。魔力を使わねば至れぬはずの極限の世界。既にナボールの命を取りこぼした瞬間に極めるなど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべてがスローに見える視界で──不意に、俺の頬を冷気が撫でる。それは、まるで俺の体と魂を慰撫するように吹き抜ける。俺の体から()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが緩慢な世界でそれはオアシスに吹くさわやかな風のように、するりと、なんてことの無いように俺の魔力を操り今まさに放たれようとしている矢先へと収束し渦を巻く。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の魔力を操った()()が俺に寄り添うのを感じる。俺の口が独りでに動き魔法()を告げる。

 

「『【(■■■)()】』」

 

 世界の速度が引き戻される。氷の魔力を纏った矢は既に放たれており、盾として翳された少女(ナボール)から大きく外れて骸虫(ギブド)の羽に命中する。

 

『gigi!?…ggggg、GIッ!?』

 

 魔力を纏う矢を見て一瞬の動揺を見せた骸虫(ギブド)だが、羽に命中した事で少女の運命を変えられなかったガノンを嘲笑し──己の体が動かせないことに驚愕の声を上げる。

 

 

 

 

『──』

 

 もはや羽どころか爪の一本すら動かせないほどに全身が凍てついた骸虫(ギブド)は己の運命()を悟り…少女(きぼう)ごと己を殺した少年の絶望(かお)を一目見ようと意識を向けた怪物の眼は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──霜すらも降りていない様子の少女を助け出す少年(ゆうしゃ)の姿を映し、魔石(いし)ごと灰に還ったのだった。

 

 

 

 

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