魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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今回の話はナボールのキャラ崩壊がすごいです。
というか話が全体的にすごい恥ずかしくて顔から火が出そう


第5話・勇者台頭/魔王胎動

ゲルドの国を襲う砂嵐の原因であったギブドの親玉、クィンギブドとの死闘は決着を迎えた。クィンギブドを討伐した俺は極度の疲労と全身の内外に負った重症の影響で、ナボールを魔物の手から救出した後その場で気絶してしまっていた。

 

 大量の血を流しながら砂漠で気絶するという、そのまま死んでしまってもおかしくはない状態だったが、次に目が覚めた時には()()()()()()()()()()()()()のほとりにナボールと共に寝ていた状態だったという。

 俺とナボールが負っていた大小様々な傷は何故か完治しており、ツインローバが派遣した戦士隊が到着したころには泉の周辺に植物が生えてすらいたという。

 

 俺たちが神殿の跡地に到着した時には草木など生えてなく荒れ果てていたはずだが…。ツインローバが語るには、この神殿はもともとオアシスに集まった流浪の民たちが発展していった際に死者の魂の鎮魂と再誕を祈るために建てられたものであったという。

 

 その泉には古代には精霊が住まうとすら言われていたほどに清らかで、砂漠の中にあっても生命に満ちていたという。泉に対する信仰心は篤かったが、いつしか神との交信が可能な人間が産まれてから次第に神のお告げに依存していく事となり、長い年月を経て神への信仰にすり替わっていった…らしい。

 それでも泉に対する感謝の念は変わることなく続いていたが、ある時に人間とエルフの2人組が現れた。その男女の二人組はその時にはゲルドと名乗っていた国の文化に興味を示しており、古代ゲルドの民は二人を温かく受け入れたそうだ。

 しかしそれこそが過ちであり、その二人がゲルドを去った後に泉が枯れることや魔物の増加などが立て続けに起こっていった。当代の神託を受けた人間が新たなオアシスを見つけていなければゲルドの民は既に滅んでいたに違いない、とツインローバは語っていた。

 その出来事こそが現ゲルド国の建国伝承であり、同時に長く続くハイラル王国への憎悪の始まりであった。ゲルドを訪れた人間の男とエルフの女はハイラル王国を建国した祖であったのだ。実際の真実は分からないが、ゲルドが滅び掛けてハイラルが繁栄した事でゲルドの民はゲルドを襲う厄災の数々はハイラルにあると信じ込み憎悪を向けるようになっていったという。

 

 とまあ、ツインローバから伝えられた古代ゲルドの伝承はこの様なものだ。この伝承は古代ゲルドが一度滅びかけた事で口伝でしか伝わっていなかったため真偽は定かではない。しかし、俺は前世の知識にある『スカイウォードソード』の物語を思い出していた。

 精霊の住む泉、架空の女神ハイリア。もしや、女神ハイリアとは精霊の力を借りた人間であり伝承にあるエルフの女性こそがその人であるのではないか。俺が泉で傷を癒されていたのも、あの決着の時に発動した魔法【氷の矢】もかつて泉にいたという精霊の力なのではないか?

 おそらく泉からいなくなって年月が立っているのに今になって戻ってきた理由は分からないが、そうだとするのなら俺に起こった一連の現象にも納得は行く。

 

 俺達が戦士隊に保護されたあとの顛末だが、先に目覚めていたナボールの証言もあり巨大な魔物を倒した強者として国全体に話が広がってしまい俺とナボールは一躍時の人となった。

 

 俺に関しては元からだった様な気もするが。ただこの日からやたらと俺達が付き合ってるのかどうかをみんなから根掘り葉掘りと聞かれる様になる。アマゾネスが強者に靡く性質であっても恋話が好きな事は変わらない様だ…そも、先王がフレンドリーだった為かプライベートでは上下関係に関わらず馴れ馴れしい人が多い。仮にも王国なんだが。

 まあ、有事には指示に従うしこれがゲルドの国民性という事にしよう。俺はそう納得した。

 

 そして月日は流れて3年経ち、俺は10歳を迎えた。急に時が流れた様に感じるが、その間に起こった事を説明しよう。

 

 まずは俺が正式にゲルドの王になった事。先王の娘であるナボールが認め、これ以上ない功績を上げたからな。満場一致で可決していた。

 王になった俺はツインローバの助言も借りつつ、旧ゲルド神殿跡地改め「ゲルドの泉」との道を整備する事や水場が増えたことで砂漠でも育てられる植物の栽培に本腰を入れるなど、国を発展させていった。

 …まあ、現場に俺が行くと強い雄(イイオトコ)が来たせいで使い物にならなくなるアマゾネスが一定数いたため現場指揮としてナボールが活躍していたが。あの日認められたのは俺だけではないという事でもある。

 

 そのナボールはというと、あの後に成長期を迎えたのか身長が伸びていき比例する様に武力に置いても頭角を現していた。年上の戦士をも圧倒していたので、身長だけでなく修羅場を乗り越えた精神的な強さの表れでもあるだろう。俺がいなくなったとしても、今のナボールであれば問題なく王として認められる事だろう。

 

 ただ、女性らしく成長した身体で今までの様にスキンシップを取るのは勘弁して欲しい物だが。…一応俺も年頃の男であって、やはり異性を意識してしまう事はあるのだ。ガノンロールプレイと強固な意思で性欲をねじ伏せているだけであって、心の底から平気な訳ではない。ビューラにそれとなくナボールについてどうにかならないか相談したら、呆れた様な表情で「自分でお考えになって下さい」と言われてしまった。

 

 そしてあの日使えた【氷の矢】の魔法だが、あれからは使えた試しがない。身体に纏わりつく様な冷気もあれ以降感じる事はなく、やはりあれは精霊の仕業だったのだろう。氷の矢を放とうとして「氷の矢!」と叫びながら弓を射っていた姿をビューラに見られて"ガノン様もそういうお年頃か"と言わんばかりの曖昧な笑みで去って行った時の事は今でも脳裏に焼きついている。今世でも黒歴史など作りたくなかった…!

 

 とはいえ収穫が無かった訳ではなく、全力集中モードが魔力無しでも入れる様になっていた事が判明した。きっかけは魔法を撃とうとしていた事の理由をビューラに弁明するために集中力が極限に高まった事だが。

 魔力を使わなくとも脳に負担が掛かる事には変わりなく、短期間でそう何度も使えはしないため一度の集中でより多くの行動が出来る様に鍛えていった。

 もし、条件さえ整えば何度でも集中モードに入れる人間がいるとしたらそいつは化け物か何かだろう。

 そうして過ごしている内に、俺の旅立ちの日が迫っていた。

 

 きっかけはオラリオにて「勇者」の二つ名を持つ冒険者が2大ファミリアの片方の団長であると聞いた事だった。それを聞いた俺はすでに『原作』*1が始まりを迎えようとしているのだと感じ取り、オラリオに向かう事を皆に発表した。

 

 ゲルドの民からは最初は行かないでくれと引き止められたが、"オラリオ"、あるいは世界を襲う厄災の目覚めが近いかもしれない事を伝え、俺が厄災を討伐するためにオラリオへ行くと宣言すると皆は戸惑う様にざわついていた。

 あの当時最強のゼウスファミリアとヘラファミリアが討伐に失敗した相手に挑む事に戸惑いを隠せていなかったが、いつ封印を破るか分からないものをそのままにはしておけないと説明しツインローバの神託にも厄災の目覚めが近いとあったと告げるとてんやわんやの大騒ぎになったが、ナボールの一喝で静かになる。

 

「戸惑う者がいるのも分かる。何故遠く離れた地の王がそれを成さねばならないのか?2大ファミリアがいる以上、俺が挑む理由も無いのではないか?」

 

「ならばこう答えよう、だから征く。ただ災禍が過ぎ去るのを待つ姿のどこに王威があるというのか。伏して待ち、手に入れた王権(へいわ)などに価値はない!俺が時代の覇者となり、勇者も英雄も過去のものとする!」

 

俺が、英雄譚を終わらせる者となる

 

 もはや、ゲルドの民に恐怖は無く。そこには、王の凱旋を待ち望む熱気に満ち溢れていた。喝采と雄叫びの入り混じる空間で、ナボールだけが俺を心配の目で見つめていた。

 

 

 旅立ちを表明する前夜、ナボールはガノンの寝室へと向かっていた。

 彼がオラリオに旅立とうとしている事は事前に聞いている。ガノンの補佐として国事に関わることもあってか、ガノンはよく自分の事や国の事をナボールに話していた。まるで、後の事を託すかの様に。

 

 だからこそその前に一度しっかりと話し合っておきたかった。

 決して、旅立ちの前というムードの盛り上がる時に行けばイイ雰囲気になるのではとかそういう下心はない。普段の胸を隠すだけの服にズボンではなくちょっとしたドレス*2を着ておめかししている事も特に関係はない。

 

 ガノンの寝室は国の中心にある塔、その上階に位置する。ゲルドにおいて、権力のある存在は高いところにいるべきという風潮があるからだ。

 コタケ・コウメの居室や祭祀場もここにある。民へと儀式の結果を伝えるのは下の広場であるが。

 ナボールは緩やかにカーブを描く階段を登りつつこれまでを回想する。

 

(あれだけいけ好かない野郎と思ってたガノンにここまで気を許す事になるなんてね)

 

 強い雄は認めるアマゾネスではあるが、やはりナボールにとってはそれだけではなく3年前のあの日の事が頭に焼きついている。

 自分が恐れをなして震えるだけだった相手に不利な条件を押し付けられて嬲られようとも、自分を逃そうとしていた年下の男を見て己の体たらくを恥じた。

 この姿のどこが先代の娘か。年下に慰められ奮い立たせられ、あまつさえ命の危機でさえ足を引く。

 ならばこちらも命を掛けてゲルドの誇りを示す。その覚悟を以ってギブドを挑発したのだ。

 その後にガノンと共に母の仇を討ち、それでも立ち上がる魔物を魔法の矢で討つガノンの姿に──まるで物語の勇者様のようだと憧憬を抱く。

 

(あの時のガノン、カッコよかったな…ってそうじゃないだろ!)

 

 思い返すだけでぽやりとしそうな頭を振り、目的を思い出す。それはガノンの真意を問いただすこと。遠く離れたオラリオに旅立ってまで何を成したいのか。

 英雄になりたいのであれば背を押そう。気になる男が英雄を目指すのはアマゾネス的にOKだった。

 箔を付けたいのであれば既に十分であると激励しよう。なんなら先代の娘である自分もいる事だし、箔付けならアタイが──と再び茹だりそうになる思考に荘厳な音色が響き出す。

 

 その音色はかつてはガノンが配下に作らせた異国の楽器の物。

(確か、ぱいぷおるがん?だっけ)

 

 3年前にナボールがガノンに突っかかった理由の一つでもあった。武を尊ぶ種族と社会にあって、音楽に傾倒する王など認め難いものであった。しかもハイラルの楽器なんて…と気に食わない要素が積み重なった結果があの日の出来事であった。

(しかし無駄に上手いね…前に聞いた時よりかなり上達してる)

 

 ゲルドの国に似つかわしくない音色のせいか、あるいはその曲がやたらと禍々しい曲調であるせいか。ナボールは夜の階段の闇が深く、広がっていく様に錯覚する。

(いやいや、もうギブドが怖いとか夜に厠に行けないとかは克服したし!こ、怖くなんてないよ!)

 

 しかしナボールの胸の不安はオルガンの音が大きくなるにつれてより大きくなって行った。背後から、地中の下から、何か悍ましい物が這い上がって来る様な気味の悪さに気持ちを急き立てられる様な感覚に襲われる。

 自然と早足になったナボールがガノンの寝室にたどり着く頃には少し汗ばみ、息が上がってすらいた。

 

「ガノン?部屋に入るよ」

 

 一言断りを入れてナボールが部屋に入ると、天井を高く改築した部屋に作られたオルガンを弾いているガノンの後ろ姿が目に入る。

 ナボールに気づいた様子もなくオルガンを弾き続けるその姿に、まるで何かに取り憑かれているかの様な不安を覚える。

 

「ガノン…?」

 

 もう一度声を掛けると、ガノンは演奏の手を止めて此方へと振り向く。

 

「ナボールか…もう夜だが、寝なくて良いのか?」

 

「そりゃお互い様だろう?ていうかアンタこそこんな夜更けに楽器弾いてどうしたんだい。他の人に迷惑掛けてないかい?」

 

「問題ない。ツインローバの結界で防音している。塔の外に音が漏れる事はない」

 

「いやそれはそれでオババ様の魔法の無駄遣いだろ」

 

 そうしてアタイ達は和やかに会話を続ける。僅かな違和感を胸に抱きながら。

 

「オラリオに行くって言ってたけど、どういう風の吹き回しだい?アンタはてっきりゲルドの王になるためにあれだけ鍛えてたと思ってたけど?」

 

「環境に満足出来なくなった、とでも言えばいいか。ここが嫌いな訳ではないが、もはやオレを超える者はいない。ならばより高みを目指すまで」

 

「真面目だねぇ、王様になったんだからここの皆アンタのオンナにしちゃえばいいのに」

「ま、それでこそガノンだと思うけどねっ」

 やや恥ずかしい事を口走ったと思い、茶目っ気をみせてウインクで誤魔化す。王としての仕事と鍛錬に余暇の時間を注ぎ込むガノンの心と身体を慮る意味合いもあるが。

 

「アタイがお母様の仇を討てたのはアンタのお陰だよ」

 

「またその話か?あれはお前の功績だろう。あの時お前が動いたから討てたのだと」

 

「それでもだよ。…あの場所に行こうとしたのも、あの時に立ち上がれたのも、全部アンタがきっかけだから」

「アンタが…アタイに()()をくれたんだ」

 

 そう言うと、ガノンは驚き目を見開く。心外の言葉を掛けられたかの様な反応を見せるガノンを訝しみつつ、ナボールは言葉を紡ぐ。

 

「あの時のアタイは、何か行動していれば前に進めると思ってた。何もしないよりはマシだって。前を向いたフリして無理やり明るく振る舞ってた」

「それが間違いだったって、結局は過去を見てばかりだったって気づけたのはアンタが砂嵐を止めようって言ったからだよ」

「思いもしなかった…自分で砂嵐を止めるだなんて。無意識に無理だって思ってたのかも」

 

 そこで言葉を区切り、一息をつく。ナボールは元凶を討ったその日の事を思い出しているのか、興奮で頬が上気していくのが見える。

 

「だから、アンタが何をしたいのか教えて欲しい。アンタのやりたい事を手伝いたいんだ。そのためなら、アタイ何だってするよ」

「戦士として強くなりたいなら、アタイも同じくらい強くなって戦う。国をよりよくしたいなら、アタイも頑張って勉強する。王として箔を付けたいなら…その…アタイと、ゴニョゴニョする…とか、どうかな…な、なんて言ってみたり…」

 

 初めは勢いよく捲し立てていたが、後半になるにつれてもじもじと言葉尻がすぼんでいき、最後には恥ずかしげに俯いてしまった。あの勝ち気な性格のナボールがこうも女を見せるなど、以前のオレでは夢にも思わなかっただろう。その事が、堪らなく可笑しくなってしまう。

 

「ククク…」

 

「なっ!わっ笑うこと無いじゃないか!アタイがどれだけ勇気を出したか──」

 

「クックック…ハーハッハッハ!ハーッハッハッハ!!

 

「──ガ、ガノン…?」

 

 恥ずかしさと怒りを忘れて戸惑うナボールを他所に、高らかに哄笑するガノン。

 笑うガノンの影が蝋燭の火で揺らめく。窓から差し込む月の光が傾き、影が大きさを増す。まるで大きな怪物の様に…。

 

「あの魂の賢者(ナボール)が!この(オレ)を!王と認め!あまつさえ、勇気をくれたなどと!これが笑わずにいられるか!」

 

「──アンタ、誰だ?正体を現せ!」

 

 ナボールは部屋のテーブルに置いてあった果物ナイフを手に取り、臨戦態勢を見せる。

 いよいよ持って今夜のガノンに抱いていた違和感が顔を出し、ガノンの顔でこちらを見ていた。

 ガノンとは似ても似つかない、邪悪な笑みを浮かべながら。

 

「正体?何を可笑しな事を。(オレ)の名はガノン…ゲルドの王だ」

 

「ふざけるんじゃないよ!いつからガノンの中にいたのかは知らないけど、今まで引きこもってたヤツが王だなんて片腹痛いね!」

 

「矮小な魂の小僧がオレの中に入って来た時は直ぐにでも握り潰し、オレの糧とするべく喰らってやろうと思った…この魂の持つ記憶に触れるまではな」

 

「おい、無視するんじゃないよ!さっきから何の話をして──」

 

「お前が熱を上げている小僧(ガノン)の話だ。小僧の魂にはそのちっぽけな様の何処に詰まっているのか不思議なほどの知識の記憶があった」

「今よりもずっと未来の知識、今よりもずっと過去の知識。ここではない何処かの世界の記憶だ。」

 

「知識?記憶?それがガノンに何の関係が…」

 

「その知識にはこうあった…オレが世界を支配する魔王となり勇者に敗北し封印されると」

 

「へえ?それはよかったじゃないか。平和になってサ」

 

「しかしそれだけではない。オレが封印されようが討伐されようが、世界は容易く滅びへと向かった。そしてついにハイラルが滅ぶ事すらもその知識にあった」

 

「そんなの当たり前の事じゃないか。現に今やハイラル王家は滅んでいるよ」

 

「当たり前…そう、オレにとっての当たり前(アタリマエ)を見直す時が来たのだ。オレがより強大な存在となるために」

「だからこの魂を受け入れた──矮小である事をな。記憶にある勇者の様に、オレがより高みへと成長する可能性に賭けた」

 

 ガノンを名乗る何者かは気付けば窓の近くへと立ち、こちらに振り返り腕を大きく広げた。10歳にして170Cを超える体格の肉体から吹き出し荒れ狂う、赤黒い魔力の奔流がナボールの目に映る月を赤く染める。

 

「そして賭けには成功した。(おれ)(オレ)に欠けていた勇気を手に入れ力とした。それはお前もよく知っているだろう?魂の賢者(ナボール)

 

「それは、ガノンのものだろう!オマエのモノじゃない!」

 

「そうだ。今はな…喜ぶといいナボール。小僧の成長が遅かったが故に今しばらくはこの身体を明け渡すのだからな」

「力・勇気・知恵、その全てを完全に手中に収め世界を支配する絶対的な力を手にするまではな」

 

「ハッ…随分と臆病なんだね、あまり余裕をこいていると遅きに失するよ」

「ゲルドがご先祖様から受け継いできた勇気(たましい)をガノンは持っている。そして物語の勇者様みたいに冒険を成した!」

 

 ナボールはガノンの魔力に負けじと睨み返す。その身に宿す勇気を証明するかの如く。

 

「勇気は繋がる──魔王(オマエ)なんかに、勇者(ガノン)は負けない!」

 

「ハッハッハ!この英雄無き時代でもオレに立ち塞がるか、リンク(小僧)!」

 

 ガノンは愉快そうに笑い、その身に魔力を収める。

 

「ならば楽しみにしているぞ。そのちっぽけな勇気とやらが、オレに呑まれるその時をな」

 

 その言葉を最後に禍々しい気配は去り、糸が切れた様にガノンが倒れ込みナボールは慌てて抱き止める。

 その寝顔に先ほどの邪悪な表情はなく穏やかなものであった。

 それに安心したナボールはガノンを寝台に寝かせ、精神的な疲れからか寄り添う様に一緒に寝てしまう。

 次の日の朝に一悶着あったのは、また別の話。

 

 魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか。

 ──結論の日は、未だ遠く。

 

G

 

 出発の日の朝、俺はツインローバとビューラ、そしてナボールに見送られていた。

 

「ガノン様が旅立つ日が来るとは、感慨深いものですね…コタケさん」

「この日が来るのではないかと思って服を作って置いて正解でしたね…コウメさん」

 

「ありがとう。コタケ、コウメ。二人の作ってくれた服は着心地が良い」

 

 俺の身を包む服は、いわば『時のオカリナ』のガノンドロフが着ていた服とほぼ同じだ。強いていうなら、肩当てのトゲっぽいのは外されているくらいか。ガノンドロフのビジュアルは好きだった俺的にはとても満足だ。

 横で見ているビューラとナボールは"悪役みたいな服…"と少し引いていたが。

  ツインローバにお礼を言うと、二人は神妙な雰囲気で俺に向き直る。

 

「ガノン様、いやガノンや…これからは"ガノンドロフ"と名乗りなさい」

「ドロフは古代ゲルド語で"男の王"を意味する言葉。気休めの様な呪いですが、名は体を表す物です」

「もはやアタシ達がアナタに送れるものはこれくらいしかありません」

「ゲルド国の最後の神官として、アナタの旅の祝福を祈りましょう」

「「ガノンドロフ、その名の通り強い男におなり」」

 

「…今までありがとう。さようなら、コタケ、コウメ」

 ツインローバ…いや、コタケとコウメからその名を受け取る。ガノンに生まれたからじゃなく、親代わりとして育ててくれた二人からの気持ちとして。

 

「では、私からはこの黒馬を鞍と手綱付きで送りましょう…というかガノン様が引き取って下さい。ガノン様が拾ってきた黒馬は貴方以外に懐きもしない暴れ馬なので」

 

「迷惑を掛けたな、ビューラ。野生の黒馬を見た時はつい舞い上がってしまってな」

 

「ガノン様の迷惑は昔からなので今更気にすることはありませんが」

 

(気にしてそうな言い方…!)

 気まずくなって目を逸らしていると、ビューラは一通の手紙を渡してくる。

 

「これは?」

 

「貴方に宛てられた物です。今回の旅立ちに当たって、どうしても声を掛けたかったと。直接会う勇気はないので手紙という形で渡したいとの事です」

 

 封を開けると、手紙にはこう書かれていた。

『ガノンへ

直接会わずにこの様な形で伝える事、申し訳ありません。

ですがどうしても伝えたい事があったので、ビューラ様に無理を言って渡して貰いました。

貴方を産んだ時、貴方に怯えてしまったこと。その後も貴方に会わずにいたこと。謝っても許されるとは思ってはいませんが、それでも言わせてください。ごめんなさい、まだ赤ん坊だった貴方を受け入れてあげられなくて。

その後すくすくと成長していく貴方を見ても、貴方と目が合った事を思い出すと恐ろしくて…どうしても受け入れられなかったのです。

その印象が変わったのはナボール様と行動を共にする様になってからでした。彼女と会話する貴方の表情はまるで子供の様に活き活きとしていて、私は気づいたのです。このゲルドの誰もが、あなた自身を見ていなかった事を…

だから、旅立つ前に一言だけでもかけていきたかったのです。貴方が、自分の生を良くないものと思わない様に。

母親として、貴方を誇りに思います。産まれてきてくれてありがとう。

 

(──母さん)

 そこまで読み、ふと、目頭が熱くなる。前世があるのに、ろくに顔も合わせてないのに、そこには母親の無償の愛が痛いほどに込められていた。

(ごめんなさい、母さん。俺みたいなのが息子で。ありがとう、母さん。俺を産んでくれて)

 

 今世の母への感謝を胸に抱きながら、最後の紙をめくった。

 

──追伸、初孫は旅に出る前に作っていってくれてもいいわよ?』

 

それは関係ないだろ!!!?

 

「「ガノン!?」」「ガノン様!?」

「ガノン!?急に叫んでどうしたんだい!?」

 

「いや、何でもない」

 

「何でもはあるだろ、気になるじゃないか」

 

何でもない

 

「ええ…?」

 

 ナボールに問い詰められるが何でもないで強引に通す。ナボールにだけは知られてたまるかこんなの…!というか貴重な紙をまるまる一枚使ってまで伝える内容か!?この手紙が国の誰かの手に渡ってみろ、大義名分を得た!と言いふらして大量に押し寄せて来るに違いない。

(この手紙は保管しておこう…誰の目にも入らない様に…!)

 ビューラに挨拶が終わるとナボールが駆け寄ってくる。

 

「最後はアタイだね。といっても渡せる物はないけど…」

 

「気持ちだけでもありがたい。それに俺が去った後の国を頼むんだ、むしろ俺が何か渡すべきだろう」

 

「そ、そう?それなら…そのう…一つだけいいかな…?」

 

 俺がナボールに感謝を告げると、ナボールは急にしおらしくなって頼み事をしてくる。…なんか、イイ雰囲気な気がする。もしかしてこう、抱きしめてお別れ(クリミアさん)的なイベントとか起きるんじゃないか…?

 

 そんな妄想を膨らませていると、ナボールが俺に近づいてきて…

 ──俺の唇を奪う。

(!?)

 急な接吻に驚きを隠せず、動揺してしまう。その間にもナボールは俺の唇を角度を変えて啄んでくる。

 羞恥と混乱と嬉しさと解釈違(こんなことしな)いにぼんやりする頭と視界の片隅に、"若いねぇ""アタシだってあと300歳若ければ─"とコタケとコウメが話し合っているのが見えて頭が再起動する。

 いつのまにか全身を絡める様に俺を抱きすくめていたナボールを何とか押しのける。

 ぶはぁ、と息を吐き新鮮な空気を取り込むと、ようやく現実に理解が追いつく。なんで俺がナボールにキスをされているんだ!?

 

「ひどいじゃないか。キスするオンナを押しのけるなんてさ」

 

「いや、そもそもなんでキスを…いやまずキスする理由があったか!?」

 

「このニブチン。アマゾネスがオトコに惚れる理由なんて一つしかないだろう?」

 

「だけど、俺達はそういう感じじゃなかったろ!?」

 

「アンタね…泣いてたアタイを連れ出してお母様の仇を討たせてくれた時点で十分だと思うけど?しかもその後アタイを助けてくれたじゃないか」

 

「それは吊り橋効果って奴では…?」

 

「吊り橋だかなんだか知らないけどさ、オンナが勇気を出したんだ。それに応えるのがイイオトコってヤツじゃないの?」

「─それとも、アタイじゃダメ?」

 

 不安そうに俺を見るその表情に、ガツンと頭を殴られた様な衝撃を受けた。そう錯覚するほどの驚愕が俺を襲う。─ナボールが、俺を…?

 顔を耳まで赤くして俺の言葉を待つナボールは、普段の姉御肌な様子からは考えられない程に少女然としている。

 

(クソ、前世の22年間でも惚れた腫れたなんて経験してないってのに…無理難題が過ぎるぞ!)

 

 気持ち的には、ただ倒せばいい魔物に挑む事よりも遥かに勇気のいる冒険であった。世の中のカップル達は、これほどの強敵に立ち向かっていたのか─!

 ナボールが視線を地面に落とした隙に、その後ろにいるビューラに瞬きで救援信号を送る。

 

(タ・ス・ケ・テ)

(シ・ン・デ)

 ─ダメだった。

 

「アンタも男なら、早く決めたらどうだい!?」

 

 俺が言葉を出せずにいると、ナボールが痺れを切らしたのか催促してくる。

「だ、ダメじゃないです」

 

「なら、言うことは?」

 

 期待する表情で俺の言葉を待つナボールに、俺が身につけていた宝石の付いた首飾りを掛ける。

 

「これって…」

 

「それを言葉には出来ない。俺は厄災に挑む…命の保証は出来ない」

「それでも良いのなら、待っていてくれないか。俺が厄災を討ち、帰って来るまで」

 

 ガノンとしてでもなく王としてでもなく、ただの(おれ)としての言葉を返す。

 それに対し、ナボールは呆れた様に…どこか納得した様に息を吐く。

 

「アンタね、それアタイとの仲じゃなかったら失望されてたよ?まあ、アタイはアンタがいざって時は覚悟のあるヤツって分かってるからイイけどね」

 強がる様にそう言うナボールを抱き寄せ、今度は俺の方から口付けをする。

 

「必ず戻る」

 

「ゼッタイだよ?」

 

「その首飾りにかけて」

 

「なら、大事にしなきゃだ」

 

 微笑むナボールの顔が脳裏に焼き付く。後ろ髪を引かれる気持ちを振り払い、俺は黒馬に跨り故郷から旅に出る。

 

 魔王が勇者に倒されないために。俺の手中(すべて)を守るために。

*1
ゼルダの伝説の方。勘違いである

*2
ワンタッチで脱がせる機構がある。母のお下がり




次回からはオラリオ編、じゃなくてファミリア結成編です。
ホントはオラリオ行きたいんですけど、着くのが暗黒期の予定なので戦力(人手)を拡充してから行きます。増えるのは3人くらいだと思うのでそこまで長くないです。
誤字や疑問点があればご指摘ください。
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