魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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この話には時のオカリナの重大なネタバレがあります。ご注意ください。


第6話・女神邂逅<前章>

 どうしてこうなった…

 黒馬に跨り道を行く俺は現実を直視しない様に目を細めていた。そうでもしないと視界にチラチラと映る()()のそれを認識してしまいそうになるからだ。

 一人気ままな筈の旅は、今や姦しい声に彩られ気の休まらぬ様相を呈していた。

 

 長い時の間を踏みしめられて出来た道を行く2頭の馬。赤い鬣の黒馬と金の鬣の白馬が尾を揺らしながらかっぽかっぽと音を立てる。それぞれに2組の旅人を乗せながら。

 

 白馬の手綱を握るのは半妖精(ハーフエルフ)の青年。白布をターバンの様に巻き、同じく口元を白布で覆っている。それだけならばエルフとしてはまだ分かるが、身に纒う忍び装束の様な服が圧倒的な怪しさを醸し出してしまっている。白布から覗く金糸の髪と紅玉の瞳に彩られた美顔が無ければ即座に通報されてもおかしくは無いだろう。

 あからさまに忍者(ニンジャ)な青年と相乗りしているのは、丈の長い鮮やかなドレスを着る茶髪の女性。肩にかかるくらいの髪を後ろに纏め、ドレスの上からでも分かる健康的な瑞々しい肢体を持つ女性は一見すると活発な村娘の様な印象を与えるが、背を預ける半妖精の青年と並んでも陰ることのない美貌は人を超越した存在感を放っている。

 

「揺れは大丈夫ですか?荒れた道では無いですが、乗馬に慣れていなければお辛いでしょう」

 

「ひひぃん…イケメンの囁きが耳元にぃ、いや大丈夫!これでも馬と旅には一家言あるからね!気にせず走ってくれ!」

 

「分かりました。ですが何かあれば直ぐにお伝えくださいね」

 

「ひひん…やば…そんなに囁かれたら好きになっちゃうぅ…ガノン君助けて…私ガチ恋しちゃいそうだよぉ」

 

 青年は人ならざる美貌の女性に対し、丁寧な物言いで身を気遣う。不審者ルックを帳消しにする美顔から放たれる言葉は、茶髪の女性の顔を蕩けさせ美貌を台無しにする。

 こちらに助けを求める声を努めて無視してなるべく遠くを見つめる。俺は、この先にある牧場に早く着かないかなーと思考を巡らせないようにする。

 

「ふふ、あちらは楽しそうですね。こちらもしてみますか?耳元に囁き」

 

「身長が足らないだろう」

 

「もう、いけず。(わたくし)狐人(ルナール)である事は分かってる筈でしょうに」

 

 そんな俺の努力を無に帰すように黒馬に相乗りする銀髪の女狐人が誘う様に声を掛けてくる。

 極東の物に似た着物を着てなお主張する豊かな双球が乗馬の振動で揺れている。

 訳あって護衛の青年と共に旅をしているとか言っていたが、なら護衛の馬に乗れよとか、その着物で旅は無理だろとか、護衛を雇う様な女性が男を誘う様な物言いをするなとか無限にツッコミが湧いてくるが言うだけ無駄だろう。

 おそらくこの二人は、()()()()()()()()()()のだから。

 

 そうしていると目的地である"ロンロン牧場"が見えてくる。

 

エポナ様、牧場が見えてきましたよ」

 

「ひひん…ありがたいけどもうちょっとシーク君のイケボ堪能したかったな…」

 

「あら、もう着いてしまうのですね。(わたくし)も、もう少し殿方の逞しい身体を堪能していたかったですのに」

 

「着いたら直ぐに降りろよ、パイン。金を要求しなかっただけ有り難く思え」

 

「なら、身体で払って差し上げても…」

 

「今すぐ降りるか?」

 

 もう一度言う。どうしてこうなった…

 事の始まりは時を遡り数刻前、立ち寄った馬宿での出会いからだった─

 

G

 

 「ここがハイラル平原か、思っていたより平和だな」

 

 ゲルド砂漠を抜けて山間の谷を越えた事で景色が開け、緑豊かな平原が広がっていた。

 初めてこの平原を見渡した時の感動は筆舌に尽くし難いもので、数分の間は手綱を操る事を忘れていた程だった。

 

「砂漠とはやはり匂いが違うな。少し湿っていて、だが爽やかな空気だ」

 

 ハイラル平原の土地の肥沃さを全身の五感で味わいながら馬を走らせる。風を切って走る事でさえ心躍る感動を伝えてくる。たまに出くわす魔物(ボコブリン)を黒馬で轢き潰しながら、もうすでにハイラルが好きになりかけている自分に気付く。

 原作のガノンもこうであったのだろうか…いや、むしろ野心を燃やしていただろうな…

 

 そんな取り止めもない事を考えていたが、流石に黒馬が疲れてきていた。むしろ砂漠と谷を越えてやっと疲れるのか、と愛馬のタフさに驚いたが。道の先に建物が見え、立ち寄ってみると看板には"馬宿・ハイラル平原西"と書かれていた。

 馬を野に放ち休ませて宿を取る。宿の店主が"お宅の馬逃げてったけど…"と言わんばかりの目を向けてくるが、気にせずチェックインする。

 あの馬はとても頭がいいからな、朝になれば帰ってくるだろう。初めてあった時は野生のリザルフォスを蹴り殺していたからなぁ…

 

 黒馬との出会いを回想しつつ宿の談話室で時間を潰す。ここには宿の予約を入れた人が思い思いに過ごしており、耳を傾ければ様々な情報が入ってくる。

 魔力操作で聴力を強化して噂話から情報を取得する。ハイラルが滅んだというのは、あくまでハイラル王家が攻め込まれて陥落したという事でありハイラルの地が戦火に包まれた訳ではないようだ。

 果たしてそんな事があるのだろうか?このハイラルは「王国」だ。故郷ゲルドの様に王権と神託に権力が別れて存在するならともかく、王家が滅んでどうしてここまで平和で居られるのか。

 

 きな臭いものを感じつつ更なる噂を収集しようと耳を澄ませる。直接話をすれば速いのだが、俺の顔は既にガノンドロフの面影を感じさせる強面であるためか、或いはハイラルに馴染みのない浅黒い肌のためか、他の客に近寄ろうとすると警戒されてしまった。

 

HEY!(ヘイ)そこの君!」

 

 活発そうな女性の声が耳に響き、キーンと耳鳴りがする。聴力強化がなかったとしても耳に突き刺さったであろう声量で声を掛けてきた女性に対して恨みがましい視線を向ける。

 宿の中でデカい声を出すとか、常識ねえのかよ…

 そう思いながら女性を見て、厄介なのが来たと直感する。

 茶髪のポニーテールに、丈の長い民族衣装的なドレス。顔立ちは田舎の村娘の様な印象を与える癖に、故郷で目の肥えた俺から見ても美しいと思ってしまう整った顔。初めて見るが、一目で分かる。

 この女性は超越存在(デウスデア)だ。

 

 人懐っこい笑顔でこちらに駆け寄るその女性に警戒心を抱くが、そんな事はお構いなしに隣の席へ我が物顔で座ってくる。

(許可を出した覚えは無いが)

 

 神であろう女性は渾身のキメ顔を作りながら話しかけてくる。

「君、旅人だね?」

「ここにいるのは誰でもそうだろう」

 

 そんな当たり前のを聞いてくる女神に半目を向ける。

 

「いーや、私の目は誤魔化せないよ?ハイラルとは異なる民族衣装についた砂の匂い、使い込んだ双曲刀、何より覚悟を決めたその瞳!相当旅ってるでしょ?」

 

「旅ってるとは何だ。変な略し方をするな」

 

「ほら!こことか、こことか!旅P(ポイント)が溜まってるのを感じるよ〜」

 

「旅Pって何だよ」

 

 思ってたより変なのに絡まれた…周囲に目を向けるが、一斉に目を逸らされる。触らぬ神に祟りなしはハイラルの地でも通用するらしい。

 

 喧しい女神の言葉を適当に受け流していると、周りの客が騒めくのが聞こえる。

「おい、あれ見ろよ。すげー上玉だぞ」

 

「うお、(耳が)デッカ…」「ああ、(胸が)デカいな…」

 

 客たちが騒ぐ方を見ると、談話室の入り口に2人組の男女が見える。空いている席を探しているのか、室内を見渡している。

 

「旅人君、あれ見なよ」

 

「何だ」

 

 隣の女神が耳打ちをしてくる。あの2人組は極東(にほん)風の装束に身を包んでいる。異国情緒感が満載の彼らに、旅P(ポイント)がどうとか言い出すのだろう。

 

「あの銀髪の狐人(ルナール)ちゃん、オッパイでっかくない?」

 

「なんでセクハラに舵を切ったんだよ、旅Pはどうした」

 

 急にセクハラ親父みたいな事を言い出した変神(へんじん)に思わずツッコミを入れる。そこは旅じゃないのかよ。

 

 極東風の二人は空いている席が見つからなかったのか、予約した部屋に戻るのか踵を返そうとする。それをみた女神が立ち上がり手を振る。

 

「はい!はーい!ここ、空いてますよー!」

 

「は?」

 

 見えている地雷を躊躇なく踏み抜く神に信じられない物を見る目を向ける。何故ここに呼ぶ…!そもそもここはお前の席じゃない…!

 

「でも君の席でもない。ここは談話室だよ?いいじゃない、旅は道連れ世は情け!旅先での交流こそ旅の華さ」

 

 俺の考えを見透かす様に女神は持論を語る。若草色の瞳がこちらを見ている。俺は居心地が悪くなり、席を立とうとするが先の二人組がこちらの席に座ってしまう。くそ、機を逃した!ここで席を立つと失礼な感じがするじゃないか!

 日本人的な思考が久方ぶりに蘇る。この女神と会話してからどうにも前世の(おれ)が揺さぶられる。まるで同郷の人間と話している様な感覚に陥るのだ。

 

「よし、揃ったね。じゃあ自己紹介しよっか!まずは言い出しっぺから行きまーす!私はエポナ、馬と旅人を司る女神だよ。ふふん、敬ってくれても良いのだよ?」

 

「エポナ?似合わん名前だ」

 

「ムッキー!神に向かってなんだよその言い草!正真正銘私がエポナですー!何千年も前からこの名前なんだからね!」

 

 司会面して自己紹介を始める女神改め、エポナ。聞き馴染みのある名前に目を細めるが、正直この変神(へんじん)に名乗って欲しくないな…と思い、辛辣な言葉を掛けてしまう。

 

「じゃあ次は旅人君だね!」

 

「何故俺が言わねばならん」

 

「いや君が先に座ってたんだからさ、先に言うのが礼儀ってもんでしょ?YOU自己紹介しちゃいなYO」

 

「そのノリやめろ」

 

「ふふ…」

 

 着物を来た銀髪のルナールがこちらを見てくすくすと笑う。よく見ると隣の忍者男も顔を背けて少し震えている。この変神(へんじん)のせいで笑われてしまった。

 

「仲がよろしいのですね。もしかして【ファミリア】なのですか?」

 

「違う」「そう、今あったばかり…運命の糸で結ばれたズッ友さ」

 

「それも違う」

 

「その割にはとても息が合っている様ですが」

 

 俺たちの話を傍観していた忍び装束の青年が声を掛けてくる。

 

「【ファミリア】ではない…つまり君は『神の恩恵(ファルナ)』を貰っていないのか?」

 

「そういう事になる」

 

「随分と腕が立つ様に見えるが…意外だな」

 

「ふふーん!お目が高いね!そう、そうなんだよ!旅人君は冒険してるのに恩恵を刻んで無さそうだったから声を掛けたのさ!」

 

「下らん、見ただけで分かるのか?神は地上では全知零能(ぜんちれいのう)なのだろう?」

 

「もちろん分かるとも!多くの旅人を見守ってきた私にはね…君、童貞だろう?」

 

「童貞言うな。女性がいる席だぞ」

 

 余りにもあんまりな言い方をするエポナを嗜める。『恩恵』を刻んでいない事を指している事は分かるが、なぜ女性がいるのにその言い方をしたのか。

 幸い、ルナールの女性は気にしていない様子で微笑んでいる。一方、忍び装束の青年は動揺した様に目を逸らしている。

 

「なら、私から。私はルナールの()()()と申します。ハイラルは私の父の故郷と聞いてここまで旅をしてきました。こちらは護衛をしているシーク。ハーフエルフなので、肌を隠す理由は聞かないであげて下さいね」

 

 パインと名乗るルナールの女性が護衛の彼もまとめて自己紹介をする。ハーフエルフと紹介された青年(シーク)が俺とエポナの視線を受けて会釈をする。重力に従いさらりと流れる前髪は美しい金髪で、頭を覆う白布から覗く長い耳と紅玉(ルビー)の瞳が特徴的だ。

 

 …遠目から見た時から既視感があったが、名前までドンピシャだともはや他人のそら似とは思えない。このシークという青年はどう見ても『時のオカリナ』の登場人物のシークにそっくりだ。おそらくこの世界でのシークが彼なのだろう。

 そしてネタバレを恐れず言うなら彼の正体はハイラルの姫ゼルダ。『時のオカリナ』原作ではシークとはゼルダ姫の変装した姿なのだ。シークと共にいるパインは知らない名前だが、ここまで来れば候補は絞れる。

 『時のオカリナ』でハイラル王家の暗部として『シーカー族』が存在する。シークの表向きの身分もこの『シーカー族』であり、原作ではインパという女性がゼルダの乳母であり唯一姿を見せる『シーカー族』となる。

 パインを名乗るこの狐人(ルナール)はインパのポジションではないだろうか…そうなんじゃないかな、と思う。

 少し自信がないのは、ゼルダの伝説に狐キャラは存在しても狐人(ルナール)という種族が存在しないからだ。一応作品によっては『シーカー族』は和のテイストが強いため狐のキャラ付けをしていてもおかしくないが…

 

 改めてパインを見る。シークやエポナと並んでも見劣りしない美人。キラキラとした銀髪。頭から生える大きな狐耳。少し胸元が開いた着物を押し上げる豊満な胸。着物とは言ったが、旅をしやすくするためか丈は短く膝が見えている2次元的デザインの服。

 属性が多すぎないか?まるで男性向けソシャゲのキャラの様なあざとさの塊に眩暈がする。これがゼルダの伝説のキャラなんて…ゼル伝はもっとこう…硬派なゲームだったはずだろ…?*1

 

 相手から自己紹介をされてしまった以上はこちらもしなければ無作法というもの。ここまできたら覚悟を決めて接点を持つしかないだろう。

 

「俺の名はガノンドロフ。砂漠から来た」

 

「まあ、砂漠から…もしや、砂漠に住まうというゲルドの方でしょうか?」

 

「そうなるな」

 

「てっきり、貴方は男性とばかり思っていましたが…女性の方でしたのね」

 

男性だが?

 

 そう言うと2人は目を丸くする。そう思うのも無理はないだろう。女しか生まれないアマゾネスの国から来たとなれば男とは思えないだろう…たとえどこからどう見ても男にしか見えなかったとしてもだ。

 

砂漠から来た黒衣の男…

 

 シークが声をひそめて呟く。周りに聞こえない様に言ったようだが、シークと分かってから再度聴力を強化した俺は聞き取れていた。

 多くの作品でゼルダには予知夢の能力があるとされている。俺のことは予知されているのかどうかを知るためにあえて名を隠すことはしなかったが…

 

 一瞬、シークとパインが目を合わせる。すると、パインが俺の側に寄ってきて胸を当てる様な体勢で甘く囁いてくる。

 

「道理で…逞しいお方だと思っていましたが、アマゾネスの国で貞操を保つとはお強いのですね」

 

「一応、褒め言葉として受け取っておこう」

 

「褒めていますのよ?ゲルドの方とはお会いしたことがありますから、並大抵の強さでは不可能なのは承知しております」

 

 扇情的に微笑むパインから必死に意識を逸らす。色気にやられた訳でも、周りの男から突き刺さる殺意の視線から逃れる訳でもない。ゼル伝のキャラが露骨な色仕掛けをしてきたことから現実逃避するためだ。ゼル伝はこんなエロ釣りしてくる様なゲームでは無い…!*2

 

 視界の端で「いいなー!」と騒ぐエポナを尻目に、パインは俺の目を覗き込む。

 

「ねえ、逞しいお方。一つ、護衛を頼まれてくださらないかしら」

 

「護衛ならそこのがいるだろう」

 

(シーク)は役に立ちますが、直接戦闘はあまり頼りにならなくて…貴方がいてくだされば百人力ですわ」

 

 シークを下げる様な物言いで俺を持ち上げようとしてくる。大方、シークを前線から下げるための理由付けと色仕掛け(ハニトラ)だろう。俺の予想が正しければ、シークはゼルダ姫でありこの女(パイン)こそが本当の護衛の筈だからだ。

 

「何が目的だ」

 

「ここから東の牧場まで、旅に同行させて下さい。報酬なら払いますわ」

「牧場まででいいのか」

 

「城下町はまだ復興中で…牧場の周りには拠点もあり、近くの村との物流の要所になっていますのよ。ハイラルを旅するならば一度は訪れるべきかと」

 

「なるほど、こちらにも利があると」

 

「それに、最近は村や拠点を襲う賊が現れるそうです。しかも女性を(さら)う噂もあって…(わたくし)、怖いです」

 

 パインは両目に涙を溜めており、不安そうな表情で見つめてくる。その様子は手弱女にしか見えず、周りの男どもは"断ったらぶっ殺す"と殺意ある目を向けてくる。そこは自分が守るとか言う場面では?

 

 それだけ賊とやらは強いのだろうか…?そうなると、この女を釣り餌に賊を呼び寄せてみるのもまた一興か。

 

「分かった。護衛を引き受ける」

 

「!…ありがとうございます、ガノン様」

 

「様はいらない。それと、報酬は前払いだ」

 

「…何をお求めで?」

 

「地図だ。ハイラルの地図が欲しい」

 

 そうして俺はハイラルの地図を手に入れ、シーク一行と牧場を目指す事になった。…エポナもついて行きたいと駄々をこね、哀れに思ったのかシークが助け舟を出して同道する事になる。

 そして、時は冒頭に戻り…時折パインから飛んでくる色仕掛け(ハニトラ)に神経をすり減らしながらロンロン牧場に着いたのだった。

 

G

 

「いらっしゃいませ!ここはロンロン牧場。ゆっくりしていって下さいね」

 

 栗色の髪を持つ少女が俺たちに挨拶をしてくれる。いかにも純朴な娘といった感じで、最近は綺麗所が多すぎて凝った目をほぐしてくれる様な気持ちになる。

 

「なんか失礼なこと言われてる気がする…」

 

 こちらを見て訝しむ少女。まずい、視線に表れていたか?それとも女の勘か?怪しまれる前に挨拶を返す。

 

「俺はガノンドロフ。砂漠から来た」

 

「砂漠から!遠くから来たのね。アタシはマロン、よろしくねっ」

 

 凄いな、この強面にも動じないのか。この牧場が交流に使われる様になっているのもあるのか?

 

「私の時と違って直ぐ挨拶したね、ああいう娘が好みなの?」

 

「違う。あれはお前達が見るからに怪しかったからだ」

 

「あなたも大分怪しいカッコしてると思うけど…」

 

 エポナがあっさりと自己紹介する俺をみて揶揄い、それに反論するがマロンにグッサリと刺されてしまう。確かに時オカのガノンドロフみたいな格好だが…!

 

「初めまして、ボクの名はシーク。聞きたいことがある」

 

「あなたは…」

 

 俺たちに続いてシークがマロンに挨拶をする。正直、服だけ見れば俺とどっこいの不審者ルックだが大丈夫か?

 

「シーク様っていうの…?カッコよくてキレイな人…♡」

 

 メロメロになっていた。イケメンは無罪だとでもいうのか。エポナが俺の肩に手を置き、ドンマイ!と励ます。別に…気にしてないが…?

 

「そうね…前までは果物(バナナ)やお金が盗まれる事が多かったけど、最近になって美人な女性が攫われる様になったって聞いたわね」

 

「やはり、噂は真実か…聞かせてくれてありがとう。君も気をつけるといい」

 

「そ、そんな!アタシは噂を聞いてただけで…それにアタシはただの牧場娘だもの、狙われる訳ないわよ」

 

「そんな事はないさ。君の働きぶりに元気付けられた人も多いと聞いているよ…それに君を目当てに来る客もいる様だ」

 

 シークが牧場の入り口を見ると、男性客がこぞって覗き込んでいる。常連なのか、たまたま居合わせただけなのか…牧場の看板娘が通りすがりのイケメンに掻っ攫われるかも知れないと危惧しているのだろうか。

 

「あれは数の内に入らないわよ。女の人見たら直ぐ鼻の下伸ばすんだから…ほら」

 

 マロンが指さす方を見ると、こちらに向かって歩いてくるパインがいた。その後ろで、揺れる胸と尻を見てだらしない顔をする男共がいた。どうやら真の目当てはこちらの方だったようだ。

 

「アイツら…さっさと働きなさいよ!」

 

「「「ごめんなさーい!」」」

 

 マロンに叱られてスタコラサッサと散っていく男たち。しかし、よく見ると叱られた男たちは一様に喜んでいる様にも見える。女好きは間違い無いのだろうが、もしやマロンに構われたくてやってるのだろうか…いい年した男どもが一体何をしてるのか。

 とはいえシークの言う通りマロンも人気がある様だ。本人にはありがた迷惑だろうが。

 

「シーク、こちらは聞き込みを終わりましたわ。部屋も取ってあるので、あとで情報を交換致しましょう」

 

「了解した。ボクももう少ししたら合流する。部屋の番号を教えてくれ」

 

「え゛」

 

 パインと親しげに話すシークを見て何かが破壊された様な表情で固まるマロン。イイと思う相手に限って相手がいるのはよくある事だ。

 マロンに同情の目を向けていると、彼女は俺の胸倉を掴んで顔を引き寄せてくる。

 

「ねえガノン?あなた、あの人達と一緒に来てたわよね。シーク様とパインって女、どういう関係なの?」

 

「護衛だそうだ…一緒に旅をしているとも聞いた。あの2人は俺より先に組んでたから、付き合いは長いと思うが」

 

「そ、そんな…」

 

 俺の無慈悲な言葉に打ちひしがれるマロン。初対面の相手に距離が近くないか?経験値の少ない前世の俺だったら勘違いしていたぞ。

 そんなマロンを見て、パインが近寄ってくる。

 

「大丈夫ですよ。私とシークはただの幼馴染です、弟の様なものですわ」

 

「幼馴染ィ!?尚更ダメじゃない!そーいうのに限って片思いされてたりするのよぉー!」

 

「大丈夫ですわよ、私はこの逞しいお方に夢中ですから♡」

 

「やめろ。後でどうなっても知らんぞ」

 

「まあ、私どうされてしまうのでしょう…逞しい殿方に組み敷かれ、あんな事やこんな事を─」

 

「お前、恋愛小説とか好きだろ。しかもちょっと過激な奴」

 

「─ななな、何をそんな事を(わたし)そんな事は無いですわぞ?私はただ少し想像を膨らませていただけでその様な事実はございません事よ??」

 

(誤魔化し方が下手すぎる)

 

 もしかしたら『シーカー族』じゃなくてただの耳年増だったかもしれん。まさかインパと思わしきキャラが、こんな全身あざとさの塊で、本で読んだだけの知識を使って色仕掛け(ハニトラ)をしてくる様なポンコツのはずがないしな…

 

 ボロを出して焦るパインと途中から復活したマロンを連れて牧舎に行くと、そこではエポナが大活躍をしていた…!

 

「いやーいい汗かいたなー。マロンちゃん、ここの()たちはみんないい子だね!久しぶりに気合い入っちゃったよ!」

 

「すごい、牛や馬達が整列してお世話されてる…」

 

 馬を司るというだけあってか、神の力を使えない地上にあっても動物達と心を通わせることが出来るらしい。エポナが声をかけただけで牧場の動物達がキビキビと動いていく。

 

「いや、普段お世話してくれる人が愛をこめてくれているからさ!みんなマロンちゃんの事が大好きみたいだ」

 

 フフフーン、と『エポナの歌』の鼻歌を歌うエポナ(神)。原作ではマロンが教えてくれる歌だ。

 

「私がよく歌ってるメロディ…神様って凄いのね!もし良かったらここで働かないかしら?給料は弾むわよ!」

 

「人手はいる様だが、人件費(カネ)は足りるのか?」

 

「父さんを解雇するわ」

 

(タロン…この世界でも寝坊助なのか?)

 

 目の座ったマロンを見て本気の凄みを感じ取ってしまう。

 

「気持ちは有難いけど、今はガノン君の旅路を見ていたいかな。もちろん馬たちも大好きだけど、やはり旅人を見守るのが一番楽しいかなーって」

 ガノン君に旅Pが溜まってるってのもあるけどね!と言うエポナの言葉を聞き、マロンが俺をジト目で見てくる。

 

「…何か言いたいことでも?」

 

「あなたって、顔に見合わず女たらしなの?」

 

「失敬な。コイツらは勝手に着いてきただけで、俺は女を口説く様なマネはしていない。大体、俺から口説いた女は1人しか─」

 

 口を滑らせた、と気づいた時にはすでに遅し。3対の好奇の視線が俺に突き刺さる。

 

「ほうほう、ガノン君も隅に置けないね!もしかして故郷(ゲルド)の子だったり?」

 

「あらあら、その様な方がいらしたなんて…悪い事をしてしまったかしら?」

 

「へえー?意外と一途なんだ?どっちから告白したの?いつ?どこで?」

(か、姦しいとはこの事か…!)

 

 俺はシークに目線を向けて助けを求めるが…

 

「ボクの事は気にせず、続きを話すといい。君の口説き文句に合わせて曲を弾こう」

 

(コイツ…!)

 

 クール振ってはいるが、その目に宿る好奇の色は3人と遜色がない。やっぱコイツの正体ゼルダだろ。徐にハープを取り出して弾き始めるシークを見てそう思う。

 

 女たちの追求を何とか躱した後、牧場に併設された宿の部屋に行く。動物にストレスが貯まるのはよくないという事で、宿泊施設などは牧場の外に建てられている。

 なお、予約はエポナが勝手に取っていたせいか、俺はエポナと同室になってしまっていた。代金はエポナが今日働いた分で支払ってしまっているので文句が言いにくいのが実に腹立たしい。

 部屋に戻った俺に旅Pがどうのと言って今までの冒険を聞き出し、満足したあとはベッドの上でイビキをかいて爆睡していた。

 色気もへったくれもない…最も、女とはいえ神に手を出そうとは思わないが。畏れ多いとかではなく、なんか凄く執着されるかもしれないし…

 エポナがそうであるとは思えないが、神の尺度は人間とは異なる。用心に越したことは無い。

 俺は部屋の灯りを消して眠りにつく。恋バナの追求で疲労していたのか、直ぐに眠りに落ちていった。

 

 

 

「ここだな」「おい。この女、神だぞ」

「何?」「流石にコーガ様とはいえど神に手を出すとは思えんぞ」

「しかしこのままでは俺たちの手柄が…」

 

 部屋の中で物音と話し声が聞こえる。コイツらが噂の賊か…女を攫うのは本当のようだな。

 侵入を察知して眠りから覚めた俺は、寝たフリをしてベッドごと縛られる。エポナを攫うのを後から追って賊のアジトを突き止めようと思っていたが、どうにも手際が悪い。

 世間を騒がせる賊と言えど、神に手を出すのは畏れ多い様だ。エポナに畏れを抱く様な要素は無いと思うが…。

 

「!おい、男が起きグエー!」

「何、早くズラかるゾーラっ!?」

「動きが速─うぉオクタロック!」

 このままでは拉致があかない。俺は縄を引きちぎり賊共を一人だけ残して手刀で鎮圧すると愉快な悲鳴を上げながら気絶していった。なんだコイツら…

 

「ひええ、お、お助けーっ!」

 

「命を助けるかどうかはこの後のお前次第だ」

 

 俺を見て震え上がる賊。目を模した紋様の入った仮面に丁髷(ちょんまげ)、赤い忍び装束を着ており、仮面の紋様は『シーカー族』の紋様によく似ている。

 まさか、賊の正体とは『シーカー族』なのか?疑問に思った俺が賊を問い詰めるとペラペラと自分の事を喋り出した。

 

 賊の組織はイーガ団という名で活動している事、自分は元々ただの農民だった事、イーガ団のボスはコーガ様を名乗る男で、食うに困っていた自分を勧誘してくれた事を話す。

 

「こ、コーガ様は俺たちを導いて下さったんだ!俺たちは悪くねえっ」

 

「金や物を盗む賊が何を言っている」

 

「それは王家の奴らが不甲斐ないせいだろ!アイツらがエルフの貴族共を放置してたから俺たちヒューマンが食えなくなっていったんだ!」

 

「なら女を攫う事はどう説明する?食欲の次は性欲を満たすつもりか?クズめ」

 

「そ、それは…」

 

 下っ端と思われるイーガ団の男を問い詰めていくと、そいつも疑問に思っていたのか言葉に詰まる。

 

「前はコーガ様はこんな事を命じる人じゃなかった…王家に見捨てられた者達で楽園を作ろうって言ってくれたんだ…アイツが来るまでは」

 

「アイツ?」

 

テウタテスとか名乗ってた男の神だ。コーガ様を素晴らしい部族の長だとか褒めちぎって取り入っていったんだ。それから、だんだんとコーガ様の要求が過激になっていって…」

 

 そこまで話すと、涙ぐんだ声の男が俺の足に縋り付く。

 

「なあ、アンタ強いよな?アイツを、テウタテス神を追い出してくれよ!」

 

「自分で言えば良いだろう」

 

「もう無理なんだよ!今のイーガ団はもはや独裁状態だ…それにコーガ様の側近のスッパが会わせてくれないんだ!」

 

「スッパ?」

 

「ああ、スッパはテウタテス神と一緒にイーガ団に入った大男だ。流れの武芸者とか言ってたが、アイツの強さは人並み外れてる。まるで魔物(モンスター)だよ」

 

 イーガ団の男は身振り手振りでスッパの強さを表現しようとする。岩を剣で両断したとか、剣圧で離れた場所の魔物を切り殺したとか、聞くだけでも人間の力を超えたエピソードが出てくる。

 神と共に来た武芸者…まさか『神の恩恵(ファルナ)』か?

 思案する俺の思考を裂く様に荒々しいノックがドアを叩く。ドアを開けると、そこには険しい顔のシークが肩で息をしていた。

 

「夜更けにすまない、だが緊急事態なんだ」

 

「何があった?」

 

 あのシークが息を荒くしているとは、それ程の事が起こったか…あるいは演技か。

 昏倒している賊──イーガ団を見て、シークは無表情の中に期待に満ちた眼差しを浮かべてこちらを見る。

 

「パインとマロンが攫われた。彼女たちを助けたい、力を貸してくれないか?」

 

「──は?」

 

 どうやら、俺は厄介ごとに巻き込まれようとしているらしい。

 短時間に2件も舞い込んできた冒険者依頼(クエスト)。ハイラルの地にて再び、俺に冒険の時が訪れた。

*1
コタケ・コウメ「セクシーダイナマイツアタ〜ック!」

*2
ナボール「イイこと してやるよ!」




ハイラルでのファミリア結成編はおよそ4話で終わる予定です。
キータンがいるならルナールがいてもいいよね…?
  1. 目次
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