魔王が勇者に倒されたくないのは間違っているだろうか   作:黄巻紙

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スキル名とか魔法の詠唱をかっこよく出来る人を無条件で尊敬する。
自分には無理でした…。


第8話・神の恩恵

 赤髪に褐色肌の男はその背に宿る熱を感じ、獣の如き笑みを浮かべる。

 己の器が拡張されていく感覚。曲刀の柄を握り込み、シークを庇い血に塗れるインパを切り裂こうとする刃の間に身を滑り込ませる。

 

「すまん、遅くなった!」

 

「ガノン!」「来たか…!」

 

 先ほどとは異なり刀に押される事なく二振りの曲刀で受け止める。相対する武人はその力強さに、相手が『恩恵』を刻んだ事を確信する。

 

「ようやくでござるか。これで拙者も心置きなく刃を振るえる」

 

「今までは手加減をしていたのか?お前の主神が聞いたらどう思うか」

 

「言葉の綾でござる。力無き民を斬り捨てるよりは心が痛まぬ」

 

「ならば安心するといい、俺は元から王だ」

 

 レベル2とレベル1。依然として力の差は存在するが、刃を見て受けられるのであれば力を逸らす事は出来る。

 武人と王。本来であれば埋め難い戦闘技術の差があったであろう二人。

 しかし、『恩恵』を刻み魔物を主に相手していた武人と『恩恵』を持たず同族と鍛錬を積み重ねてきた王の組み合わせがその差を縮めていた。

 

 即ち、対怪物の剣と対人の剣。スッパが戦争を経験していれば容易く埋まっていたであろう差を、戦争が起きる前に戦うという幸運により回避していたのだ。

 そしてガノンは全てのステイタスを上回る敵を相手する経験すらも持っている。二人が打ち合えているのは奇跡ではあったが、この瞬間では必然でもあった。

 

「流石はゲルドの出身でござるな。相当鍛えられたと見える」

 

「環境と運が良かったのでな。お前もその剣の腕なら、ゲルドに来れば嫁の10人は貰えるだろうよ」

 

それは遠慮するでござる

 

 軽口の応酬。それは互いの研鑽への賞賛でもあるが、膠着する状況への焦りを隠す為でもあった。

 まさか相手が7歳で巨大な魔物と戦った経験があるとも知らないスッパはガノンの粘り強さに脅威を覚える。

 

(主神殿が殺害を命じるだけはある)

 

 スッパがテウタテスに命じられたのはシークという半妖精(ハーフエルフ)の捕縛とガノンという男の殺害。

 戦争神(テウタテス)による見立ては正しく戦争の火種を起こし、このハイラルを再び戦乱の世に変える人選であった。

 コーガの功名心を煽り王国を作らせようとしたのも、団員のコーガへの想いを利用して女を攫わせたのも、半妖精のシークに王家との繋がりを見出したのも、ゲルドの特徴を持つガノンを殺すように命じたのも、全てはハイラルで戦争を起こそうとするテウタテスによる物であった。

 

 しかしテウタテスは戦争の神であって武勇の神ではなかった。ガノンにスッパを嗾ける際に刺客(スッパ)の名を呼んでしまった事で警戒させてしまい、完全な奇襲は不可能になってしまった。

 

(だが、それだけで殺せぬほど柔なつもりは無い。あの一撃は首か腕を持っていく筈でござった)

 

 しかしガノンはコーガとの戦いで見せた身体能力を超える速度で奇襲を防いで見せた。それには定住の地を持たないスッパと、王として最高クラスの装備を渡されたガノンの武器の質の差もあった。

 【鍛治】のアビリティを有する鍛冶師(スミス)の存在する地域であればともかく、他に『恩恵』を得た人間が存在しないハイラルであるからこそ武器の質の差は開きにくい。

 コーガへと【経験値(エクセリア)】を集約させる為に『恩恵』を団員に与えなかった事が巡り巡ってガノンを生かしていた。

 

 体力で劣るガノンは痺れを切らしたのか、飛び掛かりながら回転し両手の曲刀で斬りかかる。ゲルドの剣術に伝わる空中回転斬り。それは相手のガードを飛び越えて攻撃を通せる必殺の剣技である。

 

「──それは悪手でござる」

 

 スッパは空中に踊り出たガノンに対し己の『スキル』、【居合之構(イアイギリ)】と【真空刃(シンクウハ)】を起動させる。

 待機(ディレイ)状態を自身に付与し解除時にその時間分の敏捷強化を行う【居合之構】と、敏捷アビリティに応じた威力の"飛翔(とぶ)斬撃"を放つ【真空刃】。

 待機(ディレイ)状態では構えたまま動きは取れないが、その後に強化された敏捷により『後の先』を取る。先に攻撃してきた相手に対し"先に攻撃する"スキル構成。

 

 空中からの攻撃は確かに対応し難い。だが人間であれば空中で加速することは不可能。レベル差によってこの飛び掛かりによる体感時差は更に引き伸ばされる。愚かな王は自ら断頭台に上り処刑されるのみ。

 

 

──相手が魔王でなければ、の話だが。

 

「フハハハ!魔力回転斬りィ!」

 

「何っ!空中で加速しただと!?」

 

 魔力による爆発。ガノンはそれを剣を加速させるように断続的に起こしていた。それだけではなく足裏でも魔力爆発を起こし続けて高度を維持し更に加速する。

 独楽(コマ)の様に回るその様はまるで──

 

「ヒャハハハハ!!」

 

「何でござるかその動き──ぐうぅぅ!」

 

──ザントの様だった。

 

「奴の周りを回りながら斬りつけている…」

「人間の戦い方じゃない…」

「ガノン君ェ…もうちょっとこう…カッコいい戦い方を…」

 

 そして味方からも不評だった。

 

「っ舐めるなァ!」

 

 待機状態を解放し真空の刃を解き放つスッパだが、魔力による加速を行いながら地面を転がるガノンに回避される。

 先の戦いで見せた無様な転がり様とは異なり、その転がりは洗練された動きだった。

 

「王を名乗っておきながらよくその様な戦い方が出来るでござるな!?」

 

「勇気とは!!!強大な相手にも逃げず戦うこと!見た目や方法なぞどうでもいい、最終的に勝てば良いのだァ!!」

 

言ってることが悪役でござる!!

 

 真のガノンドロフとは異なり、求められるが故に王になった転生者。王としてのプライドなど端から持ち合わせてなどいない。

 全てのゲルドの民に望まれた僭王(おう)が持つ矜持(プライド)などただ一つ。

 民を脅かす災禍を討ち倒す勇気のみ!

 

「そらァ!」

 

「武器を投げるなど、その様な目眩し──」

 

 曲刀をスッパに投げつけるも、容易く弾かれる。だがその僅か一瞬、武人の目がガノンから離れた1秒にも満たない間隙(かんげき)

 白刃に反射する月光で作られた光の幕を潜る様に、地を這う獣の如く身を屈めたガノンがスッパの構える刀の内側へと潜り込む。

 『恩恵』を刻み頑健さを増した肉体は魔力爆発による加速をより高い位階へと押し上げており、ガノンは地表を滑空するように移動していた。

 

(馬鹿な、速すぎる!)

 

 剣を手放し空いた拳に、闇色の魔力が可視化する程に収束する。魔力が励起して闇に染まる拳を目の前の武人に叩きつける。限界を超える加速、踏み込みなど出来ていない。

 だがこれでいい。拳さえ当たるならそれでいい。拳に宿る魔力を解放し高らかにその技の名を叫ぶ。

 

魔人拳!!

 

「ぐっ、ぁあああ!!」

 

 人間離れした機動、まぐれではあり得ない連続の魔力爆発。スッパはその正体を確信し、戦慄する。

 

(この男、『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』を意図的に引き起こしているでござるか)

 

 本来であれば魔法の制御を失う事で起こる現象。だが──

 

(その恐ろしさは体内で爆発する事にござる。体外で起こすのであれば魔法よりは弱い)

 

 ガノンの魔力爆発はあくまで身体動作の補助と加速。『魔防』の『発展アビリティ』が無いスッパには手痛いダメージであっても致命には至らない。

 爆発によって立ち込める土煙。

 月が雲に隠れ辺りを闇が包むその瞬間にスッパは煙に紛れて『スキル』を起動する。

 【抜足差足(シノビアシ)】闇や影に隠れる事で気配と音を隠す隠密効果を持つ『スキル』と、それに加えて『発展アビリティ』である『夜襲』の効果により夜間戦闘での奇襲攻撃(アンブッシュ)の強化を行う。

 

 ガノンの視界から瞬く間に消え、音も気配も無くレベル2の『敏捷』により背後を取る。

 白刃が煌めきガノンの首に迫る、その瞬間。ガノンの目が動きスッパを捉え、曲刀で刀を弾き腹部に魔力を纏う拳を叩き込む。

 スッパの身体がくの字に折れ曲がる程の衝撃に視界が明滅する。

 

「何故、拙者が見えている…!?」

 

「姿は見えていなくとも、己の魔力は感じ取れるだろう?」

 

「魔力…あの時、拙者に匂い付け(マーキング)をしたでござるか」

 

 スッパは自身に魔力を纏う拳を当てた瞬間を想起する。だが、たとえそれで注目できたとしても走る事で加速した自分(レベル2)を捕捉するなど、レベル1に可能なのか?

 その疑問に答える様にガノンは話し出す。

 

「お前の最初の奇襲のお陰でな、身体より先に意識が動く感覚を覚えられた」

「見えるならば動ける。動かせる」

「俺の身体を魔力で操り動かす技。名付けるなら”クグツガノン”か」

 

 くつくつと愉しげな声を上げるガノンにスッパは今度こそ恐怖を覚える。

 先程まで地を転がりながら戦っていた相手が、既に自身と対等に戦う為の技術を身に付け始めている。

 その場の思いつきによる付け焼き刃ではなく…格上の相手と闘う光景(ビジョン)を確固たる心象(イメージ)として持っている。

 ──この男は、それが出来る事を微塵も疑っていない。

 

「【試練よ来たれ、砂塵の彼方より】」

 

「詠唱か!させないでござる!」

 

 呪文の詠唱を始めるガノンに、詠唱を完成させまいとスッパは刀を振るう。二刀による連撃は、しかし曲刀と鞘による変則二刀の防御により受け流されていく。

 それでいい。魔力による肉体操作でレベル2の動きに追いつこうとも、それを呪文詠唱と両立出来る訳がない。

 依然として自身(レベル2)の優位は揺るがない。レベルが生む体力(スタミナ)の差は覆しようがないのだから。

 

「──【砂嵐(あらし)砂海(うみ)を越え】」

 

「何!?」

 

 それ故に、剣撃を捌きながら詠唱を続けるガノンに驚愕する。

 

「『並行詠唱』だと!?」

 

「【此の()に勇気を満たせ】」

 

 ガノンはあの巨大なギブドとの戦いの後から、度々冷気を感じる事があった。夜の砂漠に吹く荒涼の風とは異なる、水気を含んだ命の冷風。

 恩恵を刻んだ今、それをはっきりと感じ取れるようになっていた。その冷風が教える、魔法の調べを唄い上げる。

 

「【試練よ来たれ、我が()の糧となれ】」

 

「何故だ、何故!『恩恵』を刻んだばかりの人間が、こんなにも!」

 

 詠唱を中断させる為に攻撃の手を速めれば受け流され、『スキル』で一撃死を狙えば攻勢に出てスッパの首や健を切りつけようとする。

 ガノンの身体は限界を越えて稼働しているにも関わらずその詠唱が途絶える事も動きが鈍る事もない。

 何よりもそれだけの事を行いながら『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』を起こしていない、異常な程の魔力操作精度。

 

(魔法種族(マジックユーザー)でもない人間が、何故こんな技術を…!?)

 

「【この一矢を以て邪悪の蠢動に終止符を】」

 

「っならばァ!」

 

 スッパは【居合之構(イアイギリ)】を起動し待機(ディレイ)状態に入る。今まさに完成しようとしている魔法を耐え、その後の攻撃でガノンを殺す、その為に。

 

「例えこの命尽きようとも、コーガ様の覇道の邪魔はさせん!」

 

 スッパの脳裏に浮かぶ、親を亡くし餓えるばかりの自分に果実(バナナ)を渡してくれたコーガの姿。

 刀を手に取り殺すしか出来ない自分と違い、他者を生かして救うコーガのあり方に憧憬を抱いた。

 コーガを王にした後、テウタテスを始末出来ない事は心残りであるが…ガノンをここで倒さねば、間違いなくコーガの野望は潰える。

 

「【氷の矢】」

 

「ぐううぅぅぅぅっ!」

 

 ガノンの頭上で渦巻く冷気から放たれた魔法の矢がスッパに突き刺さり、全身を凄まじい冷気が襲う。

 服は凍りつき、歯の根は噛み合わず体温が奪われていく。しかし手に握る刀は落とす事はなく、肌が裂け血が噴き出る程に握りしめる。

 

「その首、貰うでござる…!」

 

 【居合之構(イアイギリ)】で強化された敏捷を以て刀を抜き放ち、【真空刃(シンクウハ)】で斬撃を放つ。レベル1の身体能力では決して見切る事は出来ない、不可視にして不可避の一閃。

 

(一矢、報いたか)

 

 ガノンに向かい"飛翔斬撃"は放たれる。絶死の一閃は王の首を飛ばす──

 

「お前が【氷の矢】を受ける前であれば、俺は死んでいただろうな」

 

「馬鹿な…避け…られた…?」

 

 ──その寸前に回避される。レベル1には見切れぬ速度で放たれた筈の斬撃を避けられる。その事実を認められずスッパは放心する。

 刀を振り抜いた姿で凍りゆく武人に、王は慈悲なき真実を告げる。

 

「お前が遅くなっていたんだ。身体が凍ったからではなく、魔法が当たったその瞬間からお前の動きが目に見えて遅くなり始めていた」

「おそらく魔法の効果だろう。命中した相手を凍結させ、速度を奪う」

「誇るといい。お前で無ければ動けすらしなかっただろうからな」

 

 ガノンは、氷像となり意識を失う寸前のスッパの前に立ち剣を振りかぶる。

 氷像を砕かんと振り下ろされる剣の間に、一人の男が立ち塞がる。

 

「待て!スッパは俺様の副官、殺すなら俺が相手だ!」

 

「コー…ガ、様」

 

 鉄球の下から抜け出したコーガは、恐怖に震えながらもスッパを庇う。その姿にガノンは愉快げに笑みを浮かべる。

 

「俺に一度敗北したお前がか?今ならば勝負にもならんぞ」

 

「そうだとしてもだ!俺様は思い出したのだ、楽園を作ろうとした理由を!」

「俺様の育てた果実を独占しようとした貴族共に逆らった事で国を追放され、そんな俺に着いてきてくれた奴らの為に楽園を作ろうとした事を」

 

 コーガは訥々と語る。ハイラル王国に巣食う腐敗した貴族の事、追放されてなお追手を向ける貴族達から逃れる為に隠れ里を作り潜んでいた事を。

 仲間を守るために作られたはずの楽園は、いつしかコーガの胸に燃ゆる復讐の炎によってハイラル王国転覆のための武装集団へと変わり果てていった。

 今でもコーガのハイラルに向かう復讐心は無くなったわけではない。だが、かつて自分が成せなかった命をかけた戦いを部下が行った。

 ならば、イーガ団の長である自分が立ち上がらなければどうするというのだ!

 

お前に俺様のイカした名を教えてやろう

イーガ団の…総長…」「強く!たくましい男!

それがこの俺っ!コーガ様だ!

 

 恐怖する相手に立ち向かい見栄を切るその姿にガノンの心が奮い立つ。

 そうだ。これこそが『ゼルダの伝説』、勇気の讃歌!

 

「お前が『神の恩恵』を捨て、罪を償うのであれば許そう。元から俺は外様の人間だからな、ハイラルの人間が許すなら殺す理由はない」

 

「ほ、本当か!」

 

 本当に怖かったのか、俺が許すと口にした瞬間に腰が抜けるコーガ。

 俺は苦笑してコーガを助け起こす為に手を伸ばす。

 

 

「あれ、もしかしてハッピーエンドな感じ?困るなぁそれ」

 

 そこで、傍観していた神が言葉を発する。崩した口調にも関わらず、厳かな響きを持つ重苦しい言葉の圧がその場の人間に襲いかかる。

 

「ゲルドのお坊ちゃんを殺して、そこの変装したハイラルの貴族(ハーフエルフ)を痛めつけてやればハイラルを戦火の海に沈められたんだけどなぁ」

 

 戦争神は残念そうに邪悪そのものの言葉を吐く。その言葉には戦争を望む熱しか無く、ハイラルや眷族に対する情は一切感じられない。

 

「相っ変わらず陰湿なやり方だね、テウタテス!この戦いはガノン君の勝ちだ!さっさと手を引いたらどうだ!」

 

「変な被り物をして馬の魂を管理してたお前には言われたくないなぁ、エポナ。天界じゃ男っ気の無かったお前が人間(おとこ)に熱を上げるなんて、どういう風の吹き回しだ?」

 

「イカした仮面だったろ!?それにガノン君は君みたいな陰湿極まりない性格の戦争(サバゲー)マニアとは違っていい子だからねー!君には分かんない魅力だろうな!」

 

「ああ、分からないね。国を率いるでもなく冒険してる奴の事なんか」

「国を治めず国土を広げず、そんな有様で王を名乗るなんて片腹いてぇよ」

「ソイツは王なんかじゃ無い」

 

 神同士の言い合いに、萎縮した人間は口を挟めず傍観する。テウタテスの言葉にも一理はあるが、あんな神に言われたままでいるのは腹が立つ。

 言い返そうとした時、俺の横に駆けつけたエポナはテウタテスに吠える。

 

「なら君の見る目が曇ってただけさ、ガノン君が国を出たのは逃げる為じゃない」

「これから先も続いていく国の未来を守るためさ!ガノン君は世界を脅かす厄災を討つために冒険(たび)をしているんだ、君みたいな国ごときに収まるスケールの小さい男じゃない!」

 

 俺はエポナの言葉に目を丸くする。正直、エポナは自分を遠くから来た人間だから興味を持っていると思っていた。

 エポナの言う旅とは、もしかしたら精神的な物も含まれているのか。

 自分の経歴や目的をエポナに話した際は目を輝かせて「うんうん」と頷いていたが、どれもリアクションが同じだったので単純に話が聞きたいだけだと思っていた。

 まさか、エポナがここまで俺に期待を寄せてくれていたとは…。その言葉に、俺の胸がじんわりと温かくなる。

 

 エポナの啖呵に対し、テウタテスは嘲笑を以て答える。

 

「ははっ、ならさぁ…その矜持をへし折ってやったらどうなるかなぁ」

 

「何だとぉ!」

 

「下界の人間は神には逆らえない」

「ここでお前の旅を終わりにしてやるよ」

神が命じる。ガノン、コーガを殺せ

 

 超越存在(デウスデア)から放たれる神威にその場の人間が平伏し頭を垂れる。この世に生まれた生物として、神には逆らえない。これはどんな傑物であろうとも変えられない摂理だった。

 

「テウタテス!権能を使えば強制送還されるぞ、早くやめるんだ!」

 

「止めねーよバーカ!ここで送還されようが構わない、ソイツが戦争の起点になってから死ねばその魂は俺の管轄だ!」

「魂が擦り切れるまで駒として使い潰してやる!」

 

「本当に陰湿が過ぎるぞテウタテス!負けるなガノン君、今私の神威で上書きするから!」

 

「お前の司る権能じゃ戦争は止められねぇ!大人しく指咥えて見てるんだな!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ戦争の神の言葉通り、俺の手は弓を手に取り矢を番える。

 

「ガノン君!」「はははは!そうだ、やれぇ!戦争の引き金を引くんだ、ガノン!」

 

 ここでコーガを殺せば貴族に苦しめられていた人間であるイーガ団の憎しみは止まらなくなる。何も知らない団員はハイラルを憎み戦い続け、やがてゲルドにも戦火を広げていくだろう。

 悲鳴を上げるエポナを他所に、俺は矢を放つ。

 

「ははははは!…は?」

 

 放たれた矢は寸分も違わず、狙った通りにテウタテスの額を貫く。

 

「お前…何を…」

 

「あの世で会えるんだったか?」

 

 信じられない物を見るテウタテスに向けて俺は歯を剥き出しに嗤う。

 

「俺もお前に会えるのを楽しみにしているぞ?あの世でお前を殺せるその瞬間(とき)をな」

 

 俺が言葉を言い終えるその瞬間にテウタテス神は光柱に包まれ天界へ送還される。

 神は死ぬ程のダメージを負っても死ぬことはない。しかし、それが下界で権能を使用したと判断されて強制送還されてしまう。

 神は権能を縛り全知零能(ぜんちれいのう)となる事で下界に降りられる。ならば権能を使えばもう、下界には居られなくなるのだ。

 

「ガノン君ー!何やってるのさ!?いや良かったけども!か、神殺しなんて天界で何されるか分かったもんじゃないよ!?」

 

「その時はあの世で戦うさ……いや、死ぬ前に天界に殴り込むのもアリか?」

 

「なに物騒なこと言ってるのさ!でも無事で良かった!」

 

 騒ぐ主神と眷族の主従の団欒に、シークがインパに肩を貸しながら合流して加わる。

 血は繋がらずとも、健闘を讃え合うその姿はまるで【ファミリア】の様であった。

 

「すげぇ…」

 

「コーガ様?」

 

 絞り出すように感嘆の声を上げるコーガに、氷が溶けてずぶ濡れになったスッパが声を掛ける。

 

「格上に勝った上で神殺しまでするなんてな、完敗だぜ…」

 

「コーガ様…」

 

「だが、それは英雄としての話だっ!イーガ団総長としてはまだこれからよ!」

 

「コーガ様!」

 

 決定的な敗北を迎えてなお心の折れぬ主君に、歓喜の声を上げる。

 コーガの胸に宿る復讐の炎は未だ燻っている。

 だが、今日新たに灯された憧憬の火が絶えない限りその心が陰ることは無いだろう。




【ガノンドロフ・ゲルド】
ステイタス(※刻んだ時点のもの)
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》
 【氷の矢】
 ・凍結魔法
 ・凍結対象の速度低下。対象の魔力値により効果減衰。
 ・詠唱式【試練よ来たれ、砂塵の彼方より】
     【砂嵐(あらし)砂海(うみ)を越え、此の()に勇気を満たせ】
     【試練よ来たれ、我が()の糧となれ】
     【この一矢を以て邪悪の蠢動に終止符を】
《スキル》
 【魔王憧憬(レガリス・フォーゼ)
 ・晩成する。
 ・我欲(おもい)が続く限り効果持続。

 【精霊寵愛(ブレスオブネール)
 ・特定行動(アクションコマンド)実行により【氷の矢】の詠唱破棄。
 ・魔法発動後の一定時間、発展アビリティ『堅守』・『魔防』の一時発現。
 ・補正効果はLv.に依存。
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