カチンカチンと硬いものがぶつかる高い音が響いてきた。
まるで何かで食器を叩いているような——
——もしかして、ヤバチャ?
耳をすまして、音の鳴る方へ足を早める。
音源は獣道の途中を外れた暗がりにあった。
草むらの向こうにいるのは、色からしてたぶんギモー。
草を掻き分けて覗き込む。
「ちゃば、ややちゃ……」
「もーぎ、ぎもも!」
そこには、木の枝を持って振り回すギモーと、そのギモーに背を向けるヤバチャがいた。
ギモーが木の枝をヤバチャに振るたびに、木の枝がカップの口縁に当たってカチンカチンと音を立てる。
遊んでるのかな? それとも、ヤバチャがいじめられている?
どちらにせよ、ヤバチャがあのコなのか確かめたいから、静観はできない。
近くにあったキノコを触って、明かりをつける。
2匹は突如点いた明かりに驚いた表情でこちらに振り向いた。
ヤバチャがビクビクしながら潤んだ瞳を向けてくる。
やっぱりいじめられてたのかな。
「ギモー! やめてあげて!」
しかし、ギモーは構わずまた木の枝でヤバチャを叩いた。
カチンと音がして、ヤバチャの体が揺れて紅茶が少しこぼれる。
ヤバチャが小さな悲鳴をあげる。
ギモーがヤバチャに右手をかざすと、ヤバチャの体から黒いオーラが現れた。
その黒いオーラはギモーの鼻に吸い込まれていった。
確かギモーとベロバーは、人やポケモンが嫌がるマイナスエネルギーを吸い取って生きているポケモン。
だからご飯代わりなのかもしれないけれど……。
思わずヤバチャを背にかばって間に躍り出る。
「だめ!」
ギモーがむっとした顔でにらみつけてくる。
「ぎも! もぎもぎ! ぎもー!」
ギモーが憤悶の表情で怒鳴った直後。
ポカっと何かがギモーの頭を強打した。
「てぶ! りりむ!」
ギモーの右側に飛び出てきたのはテブリム。
ギモーを厳しく一喝する。
「ぎ……もぎぎも、ぎもも!」
ギモーが反駁するとテブリムはギモーの足元にロゼルのみを1つ転がした。
「りむ。りりむ。りむてぶ」
テブリムはきのみを指差しながら諭すような声色でギモーに話しかける。
ギモーはやはり反駁する。
「ぎーも、もぎーも。ももぎー!」
「りぶぶててりむりむ‼︎ む、りむー!」
「もっ……! もぎ! ぎぎー……」
テブリムはほっぺたを膨らませてギモーを睨みつけ、帰っていってしまった。
ギモーは一瞬引き止めるように手を伸ばしかけてその手を引っ込める。
テブリムが見えなくなると、ギモーはがっくり肩を落とした。
そんな様子を見てふと思い立って、ギモーの前に膝をつく。
立っているギモーと視線が同じ高さになる。
「喧嘩しちゃったの?」
ギモーは刺々しい目つきで睨みつけてきた。
足元のロゼルのみを拾って、そっとギモーに握らせる。
それから、後で食べようと思って綿の中にしまっておいた、モモンのみもギモーに手渡した。
「ぎも……」
ギモーははっとしたような顔つきできのみを交互に眺める。
そんなギモーの肩をつかんでテブリムが行ってしまった方向を向かせ、そっと背中を押す。
「ほら、追いかけてあげて?」
「も……ぎも!」
ギモーはテブリムが消えていった方向へと駆けて行った。
「……これでよし」
少しいいことをした気分。
「ちゃちゃ?」
「あ、そうだった」
おずおずと正面に戻ってきたヤバチャをみて、当初の目的を思い出す。
ティーカップはあのコと同じ、ピンク色。
やっと見つけたピンクのコ。
もしかして、もしかしたら。
ティーカップの両側に手を添えてゆっくり撫でながら、高台の裏を確認する。
「……だよね」
そういえばあのコとは雰囲気もちょっと違うし。
「ちゃ?」
「ううん、何でもない」
空中に押し出すようにそっとヤバチャを手放す。
「あんまりいじめられっぱなしじゃダメだよ。元気でね」
ヤバチャに微笑みかけて、その場を後にした。
むかしビビリだった ヤバチャ