ゆめかなえし ヤバチャ   作:クロサナ

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あしあとがじまんの ヤバチャ

ガサゴソと道の脇の草むらが揺れた。

 

「……?」

 

ちらり、揺れた草むらを視界の端に入れる。

 

「ちゃちゃー!」

 

「あっ!」

 

野生の ヤバチャが 飛び出してきた!

 

「ちゃちゃ! ちゃっちゃ!」

 

ヤバチャ自ら伸ばした手の中に入ってきてくれた。

 

「ちょっと見せてね……」

 

膝を折り曲げてヤバチャを天に捧げるような格好でカップの高台の裏を覗き込む。

 

認識した瞬間、はっと息を詰めたまま吐き出せなくなった。

 

カップの底には、2つの丸と2つの三角が合体した奇妙なマークがしっかり刻まれていた。

 

突然始まった胸の高鳴りを抑えてじっとマークを見つめる。

 

やっぱり、あのコのマークと同じ。

 

頭の中がぐしゃぐしゃになって、目眩がする。

 

全身の血が逆流するような焦りで手が震える。

 

もしかして、もしかして、もしかして、もしかして。

 

頭がいっぱいになる。

 

私はヤバチャのカップを両手で包み込んで、じっと見つめる。

 

ううん、やっぱり、多分あのコじゃない。

 

なんとなくだけれど、あのコとは佇まいが違う気がする。

 

あのコの目はもっと不思議そうな、でももっとキラキラ輝いた目をしていた、と思う。

 

この子も瞳もらんらんと煌めいているけれど、どっちかといえば目には炎が映っていそうな、キリッとした瞳。

 

「やや」

 

ころんとヤバチャが手の中で揺れる。

 

「あ、ご、ごめんね」

 

「ちゃっちゃ?」

 

どうしたの、と聞いているような気がした。

 

「ヤバチャを探してるんだ」

 

「ちゃー?」

 

「えっと、あなたじゃないんだけど、あなたと同じような体の色をしてて、あなたと同じようなマークが……って言っても自分の見たことないか。それでね、体が星形に光る子なんだ」

 

「ややば……?」

 

ヤバチャは困り顔になりつつも話を聞いてくれた。

 

「知らない、よね」

 

ヤバチャは2度3度瞬きをしてから、目を軽く見開いた。

 

ヤバチャが手の上から浮いて、ハンドルの手で髪を引っ張った。

 

「いたた、どうしたの?」

 

「ちゃっちゃ、ちゃばやば!」

 

髪をつんつんと引っ張ってから、ヤバチャはある方向を指さした。

 

「水辺? そこにいるの?」

 

ヤバチャが指さしたのは、ヤレユータンがいるあの水辺の方向。

 

しかしヤバチャはぶんぶんと体を横に揺する。

 

「え、違うの?」

 

「やちゃちゃ! やばば!」

 

ヤバチャは水辺の方向へ飛んでいってしまった。

 

よくわからないけれど、他に当てもないのでヤバチャについていくことにした。

 

道を横断して草をかき分け、木を渡って水辺までの近道を進んでいく。

 

相変わらず水辺はキノコとネマシュの光で七色に煌めくまほろばの地だった。

 

ほとりに座り込むヤレユータンの元へヤバチャが飛んでいく。

 

「ちゃちゃ! ちゃばっちゃちゃ!」

 

「…………ゆた。ゆーた。ゆたん」

 

ヤバチャの話を聞いたヤレユータンが右手に持った軍配をこちらに振るう。

 

すると、体がひとりでに動いてヤレユータンの元に向かった。

 

ヤレユータンは左手に持った棒で地面に円を描いて、それを棒で指さした。

 

「まる……?」

 

「ゆーた。ゆたゆた」

 

ヤレユータンは右手でヤバチャを指差し、もう一度丸を描いた。

 

「も、もしかして、ヤバチャがいるところを教えてくれるの⁉︎ 絵で?」

 

「ゆた」

 

ヤレユータンは頷いた。

 

「ありがとう……っ! お願いね」

 

ヤレユータンが棒を振るって地面に絵を描き始める。

 

「えっと、なになに……木? あ、森。森の、中。森の中にヤバチャは……いない⁉︎ ど、どういうこと⁉︎ そ、そうだね、落ち着く。えっと、森の中にヤバチャはいないけど……外にはヤバチャが、いる? えー、半分消した? うーん……あ、いるかもしれない!」

 

そこまで言うとヤレユータンは大きくうなずいて、描いた絵を全部消した。

 

「森の中、から、外に行くには……ギャロップが連れて行ってくれる。……ヤレユータン。ヤバチャ。水辺。……ここ! ここに、ギャロップを、連れてくる。……ナナのみ。違う? えっと、カシブのみ。合ってた。が、たくさん……。えーっと、ギャロップを呼んでくるにはカシブのみがたくさん必要で、そうすれば森の外にいけるの?」

 

ヤレユータンはゆっくり2度うなずいた。

 

「えー、でも、カシブのみか。一回だけポニータからもらったけど食べちゃったな……タネなら残ってるけど」

 

タネを取り出して、ヤレユータンが描いたカシブのみを指さす。

 

「やば! ちゃばーやばっちゃちゃちゃ!」

 

はしゃぎ始めるヤバチャを見たヤレユータンが、突如吼えた。

 

森にヤレユータンの声がさぁっと響き渡る。

 

森が意思を持ってその音を返すみたいに何度もヤレユータンの声がこだました。

 

水辺の水面に葉っぱが一枚ぽたりと着水した時、背後でガサゴソと草が擦れた。

 

振り向いてその姿を確認するよりも早く、背後の何かは頭上を飛び越えて目の前に姿を現した。

 

「……もぎぃ! ぎもぎももぎぎ!」

 

ギモーがヤレユータンに詰め寄る。

 

「……ゆた」

 

ヤレユータンは水辺の水をサイコキネシスで飛ばしてギモーにかけた。

 

「ゆたた、たゆたた、ゆたんやれゆた」

 

ヤレユータンが軍配を振って、ギモーを無理やり振り向かせた。

 

イライラしているのが見て取れるギモーと目が合う。

 

ギモーは少し驚いたように目を丸くしたが、その顔にはすぐにまた苛立ちの色を戻してヤレユータンの方を向いた。

 

「ぎも。もぎも?」

 

「ゆーた、ゆたたん。たたゆた」

 

ヤレユータンが私の手を木の棒で指し、続いてギモーの髪を指した。

 

「も……ぎももぎも……」

 

横から覗いてみたギモーの表情は厄介ごとに巻き込まれたとでも言いたげに片眉を釣り上げていた。

 

ヤレユータンは何かを説得しているみたいだけれど、ギモーがなびく様子は一向に見えない。

 

そのとき、背後の草むらからもう一度揺れる音がした。

 

ぽよんぽよんという擬音が似合いそうな軽やかさでステップを踏んで現れたのは、テブリム。

 

「りむ、りり? てりりむ?」

 

ギモーの横に止まって、何かをギモーに聞いた。

 

「ぎも、ももっもぎ。ぎもももぎもぎぎぎ!」

 

ギモーが捲し立てると、テブリムは頭のフサでギモーを叩いた。

 

「ぎもっ……」

 

テブリムのフサ攻撃は見かけによらないみたいで、ギモーはかなり痛そうにしていた。

 

「りむ……りむりむてりむぶりむ‼︎ ててぶりむ!」

 

テブリムが柳眉を逆立てて怒鳴りつける。

 

「ぎ、ぎも……も、もぎも!」

 

ギモーがこちらに駆け寄ってくる。

 

「あっ!」

 

手に持っていたカシブのみの種が奪い取られてしまった。

 

ギモーは水際から少し離れた、輝くキノコが茂る場所にタネを植えた。

 

それからギモーの髪が武器のように鋭く尖って周囲を薙ぎ払った。

 

キノコが大量の輝く胞子を噴き出して、ギモーは目もあやな粉塵に包まれる。

 

ギモーがぶんぶんと髪を振るって粉塵を追い払う。

 

姿をまた現したギモーの髪は胞子に包まれて金色に輝いていた。

 

「……ぎも!」

 

神々しく輝く髪がカシブのみのタネを植えた場所に突き刺さる。

 

髪がまるで地面に力を注入するように金色を失っていくと、代わりに地面が輝き出した。

 

ギモーが髪を地面から抜く。

 

たちまち地面からはいくつかの芽が湧いて出て、みるみるうちに成長していく。

 

木は瞬きする間にギモーの背丈よりも高く成長し、鮮やかな紫のきのみをつけた。

 

目の前の急展開に二の句が継げず、わぁ、と思わず声が漏れる。

 

「ぎも!」

 

ギモーは得意げに鼻を鳴らした。

 

「ゆーた。たたんた」

 

ヤレユータンが声をかけると、ギモーとテブリムはもと来た草むらの向こうに帰っていった。

 

「ゆたたんたん。やれーた」

 

ヤレユータンはサイコキネシスでカシブのみをいくつかもいで、それから目を瞑ってしまった。

 

待っていればいい、のかな。

 

しばらくヤバチャと戯れて過ごしていると、遠くから音が聞こえてきた。

 

軽快で高らかな、走っている足音が近づいてくる。

 

音の方向を凝視していると、少しずつ影が見えてきた。

 

ポニータの親子だ。

 

淡く輝くたてがみを靡かせて、颯爽と現れる。

 

姿が見えてくると同時にポニータがこちらに駆け寄ってきた。

 

「にーた! ぽにた!」

 

差し出した手の甲にほっぺたを擦り付けてくる。

 

「よしよし! この前はありがとね」

 

どれくらい前かは覚えていないけれど、ポニータが擦り傷を治してくれたのはよく覚えてる。

 

タネにしたカシブのみもポニータからもらったものだし。

 

「にーたた」

 

綿のようなたてがみをもしゃもしゃと押し付けられると少しくすぐったい。

 

顔を上げると、ヤレユータンがギャロップと話していた。

 

ヤレユータンが頷いて、軍配を振るった。

 

「わ、わわ」

 

サイコキネシスで体が宙に浮いて、声が漏れる。

 

ぐるんと空を舞って、ぴたりとギャロップの背中に飛び乗った。

 

「……つ、連れていってくれるの?」

 

「ぎゃーろ」

 

クールに低く一鳴きしながらギャロップが頷く。

 

「ん……ありがとう。みんなも、ありがとね」

 

左腕をギャロップの首に当てがいながら、右手をヤバチャたちに振る。

 

ギャロップのたてがみと尻尾、それに足先の毛が一斉に煌めき始めた。

 

ギャロップの体が宙に浮かぶ。

 

高らかに一声鳴いて、ギャロップは走り出した。

 

金の光をたなびかせて、木々の間をすいすいと走り抜ける。

 

横を見ると、木の一本一本がすごいスピードで流れていった。

 

森から出たことはなかったけれど、これならすぐにでも出られちゃいそう。

 

ギャロップに乗って行ったら、あのコに会えるかな。

 

あしあとがじまんの ヤバチャ

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