ゆめかなえし ヤバチャ   作:クロサナ

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ワクワクしてる ヤバチャ

こんこんと大粒の雪が降り仕切っている。

 

空を見上げても一向に止む気配はない。

 

からんと後ろで固い物がぶつかる透き通った音がした。

 

振り返るとヤバチャが泣きそうに目を潤ませていた。

 

「ほらヤバチャ、おいで」

 

両手を広げてみせるとヤバチャはふわふわとこちらに近づいてきた。

 

両手でカシブの色のティーカップを包み込んで優しく撫でる。

 

ヤバチャは気分良さそうにコロコロ鳴いた。

 

あのコとは雰囲気が違うから、わざわざ高台の裏は確認しなくても良い。

 

急にヤバチャが目を見開いた。

 

何か怖いものでも見つけたみたいに身震いしてこちらに飛び込んできた。

 

振り返ると不思議な人が立っていた。

 

腰まである長い金髪に、紫基調のカラフルで袖の短い装い。

 

小顔とは言えその顔の2倍はありそうな大きなシルクハットの周りには、六つの紅白模様のボールがくるくると浮いて回っていた。

 

「あのもし、そこの方!」

 

「は、はい」

 

「あなた、バドレックスと言うポケモンをご存知ありませんか?」

 

「バド……?」

 

「えぇ、凍てつく氷に覆われたこの地に宿る、エレガントな伝説のエスパーポケモンです」

 

「いいえ、知らないです」

 

「そ、そうですか。このような寒い日にこんなうすら寒い場所にいるあなたならご存知かと思いましたが……今日はワタクシ、ノン・エレガントですね……」

 

「の、のん?」

 

「ん? あなた、ワタクシがなにゆえバドレックスを探しているのか……そう聞こうとしていますね? ワタクシのみらいよちにハズレはありませんゆえ」

 

全然聞こうとしてなかったけど……まぁいいか。

 

「ワタクシはもっと強くありたいのです。ポケモンバトルも、ワタクシ自身のサイコパワーも。聞けば、バドレックスは半径50キロメートル内の過去・現在・未来のすべての出来事を読み取り、広大な森とそこに住む生き物を一瞬にして別の場所に移し変えたとまで言われている、まさにエレガントなポケモンです。そんなポケモンと修行すればワタクシ達のエスパーパワーも真の力が目覚めること間違いナッシー! ですよ。……おやおや?」

 

「……?」

 

「なぜ強くなりたいのか、そう聞きたげな顔をしていますね。ワタクシのミラクルアイ持ってすれば、造作もなくお見通しです」

 

「えと、はい」

 

一応確認してみたけれど、ヤバチャの高台の裏にはあのマークは付いていなかった。

 

「ぼそぼそと語るのは性には合いませんが、他に人もいませんしたまにはいいでしょう」

 

目の前の変な人は、急に佇まいを正してこちらを正視した。

 

「話は1年半ほど前に遡ります。当時ワタクシはマスター道場というところで修行をしておりました。マスター道場は前々チャンピオンマスタードシショーが師範をしている道場で、ヨロイ島という海を隔ててここよりもずっと先にある孤島にある道場でして、自然たっぷりですから修行にはうってつけなのです。……もしや、ご存知でしたか?」

 

「いいえ、初めて聞きました」

 

「それはよろしゅう。続けますね。大体1年半前、ユウリという少女がヨロイ島にやってきたのです。えぇそうです、現チャンピオンの。ご存知でしょう?」

 

「いえ……」

 

「あなたはあまり世間をご存じないのですね。そちらの方がワタクシとしても話しやすくて助かりますが」

 

ピンクのオーラに覆われたモンスターボールを人差し指で指差して、触れないでクルクルと回しながら、謎の金髪の人は話し続ける。

 

「あの時のワタクシは決して強くない自分の居場所を探すのに精一杯でした。マスター道場に転がり込んでせっかく修行をしていたと言うのに、自分よりも年下のとてつもなく強い人が道場に訪れたんです。あの当時ユウリがチャンピオンであった事は存じ上げませんでしたし、ワタクシは自分の居場所が取られてしまうと思ったのです。醜いワタクシはあの手この手でイカサマし、ユウリを目立たせないように画策しました。でもユウリはそのすべてをバトルの実力ではねのけて、さらにワタクシに手を差し伸べたのです。それが少し癪で、でも少し嬉しくて、よくわからなくなりました。だからワタクシはあの者に……ユウリに一矢むくいてワタクシの強さを認めさせたいのです。そのためならばどんな修行でもやってのけましょう」

 

聞いていくうちに、少し他人事には思えなくなってきた。

 

この人の気持ち、少しだけわかる——

 

「あ、そういえば。ユウリもボットデスを持っていましたね。そこのヤバチャとちょうど同じような色をしたポットデスを」

 

「ポットデスですか!?」

 

「え、えぇ。あのシャドーボールには未だ勝てる気がしません」

 

「あ、あの!!」

 

「はい、はい何でしょうか」

 

「そのポットデスは高台の裏に何かマークが付いていませんでしたか? 日の光に当てると、星型に光りませんでしたか? 無邪気で瞳の澄んだ子じゃありませんでしたか?」

 

「そ、そんなに早くしゃべられてしまってはトリックルームでもしませんと追いつきません……えーと、マークについては存じ上げませんが、星型の光は記憶にありませんね。こうエレガントな、四角形だった気がします」

 

シルクハットの謎の人はブロンドの長髪をかき上げて、すらっと長く白い両手の親指と人差し指で菱形を作った。

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

「ところで、あなたは一体何者なのです? モンスターボールを持っているわけでもありませんしトレーナーではないのでしょう」

 

「何者……えと、ヤバチャを探しています」

 

「ヤバチャならばそこにもいるではありませんか」

 

「あのコはこのコとは違うんです。あのコはこのコとを同じティーカップの色でしたけど、高台の裏にマークが付いていて、キノコのあの光で星形に光って、もっと可愛らしい雰囲気だったんです」

 

「エレガントなワタクシの頭脳をもってしても理解が及びませんが、少なくともあなたは幽霊では無いようですね……」

 

「幽霊?」

 

「ここより少し前に訪れた村ではもっぱら噂でしたよ。今じゃもう誰も寄り付かない昔の墓地に誰かを探している幽霊が出る、とね。もっとも、そこに並んでいる墓石の1つの前に木の実を置いているポケモンがいて、そのポケモンの勘違いだとも言われていますし、そも、こんな真っ昼間から出るわけがありませんね。失礼いたしました」

 

「そうなんですね」

 

「それにしても、あられが痛くないのですか? 私はテレキネシス避けていますからなんともありませんが……」

 

「痛い、ですか?」

 

「あなたもあの者と同じ図太い性格なのでしょうか……いえ、お気になさっていないならば良いのです。お互いがんばりましょう。では私はバドレックスを探さなければいけませんゆえ、これで。さらば! セイボリーテレポート!」

 

謎の人はたったったっと金髪をなびかせ走り去ってしまった。

 

あの人に負けないようにがんばってあのコを探そう。

 

決意を新たに矢場町見つめるとヤバチャはあまりわかっていなそうな目でこちらを見てにこりと笑った。

 

 

ワクワクしてる ヤバチャ

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