夢見屋の追憶稼業   作:クロサナ

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夢想

           

 

俺はなやみのタネをポリポリとつまみながら、メモを片手にパソコンに向かっていた。

 

これでも一応警察の依頼だ。

 

夢の内容はきちんと書類としてまとめないといけない。

 

夢のおおよそのあらすじはこうだ。

 

まず、クレセリアに会う。

 

そしてヒューマンボールで捕まえられる。

 

アカデミーに向かうと、クレセリアが苦しみ始める。

 

緑色のエネルギーがクレセリアを包むと、クレセリアが眠る。

 

そこにガラサが来て、ガラサの部屋に行くとクレセリアがまた苦しんでいる。

 

クレセリアの声が聞こえて、またツタでクレセリアが眠る。

 

そして俺は、クレセリアを刺し殺した。

 

場面が変わって、公園。

 

苦しむサラリーマンがまたツタで眠ると、俺はサラリーマンを殺した。

 

そして警察に捕まる。

 

……ショックな夢だった。

 

未だ手のヌメヌメした感触が取れない。

 

時間が経っても鮮明に覚えてしまっている。

 

これまでもいくらかポケモンの刑事事件にも関わってきたが、こんなに直接的な夢を見たのは初めてだった。

 

いや、ショックに打ちひしがれている場合じゃない。

 

この夢から現実を探るのが俺の仕事。

 

登場人物も、話の流れも、そう難しい解釈ではない。

 

一つだけ引っかかるのは犯行の手口だった。

 

凶器はテオルザの言う通り、リーフブレードでほぼ確定。

 

骨まで切れていたという話と、包丁という刃物が凶器だった俺の夢が合致する。

 

夢の中ではクレセリアにしてもサラリーマンにしても、眠っているところを刺していた。

 

恐らくゴーゴートは、何かしらで眠らせて、切りつけて殺していたのだろう。

 

「眠らせる技……?」

 

もう何度となく見た検索結果をもう一度出して、思わずつぶやく。

 

どんなポケモンの生態を解説するサイトを見ても、ゴーゴートには眠らせる技がない。

 

くさタイプのポケモンといえば、くさぶえやねむりごなといった眠らせる技には事欠かない印象があったのに。

 

調査はふりだしのまま進まなかった。

 

眠らせての犯行ではないのか?

 

だとすると夢で眠らせる意味は?

 

眠らせる夢の分析なんてデータはない。

 

夢占いを見てみても、クリエイティブな思考だの、自分の一面だの、状況には合わない解釈しか見当たらない。

 

やっぱり眠らせているんじゃないのか?

 

目を瞑って、状況を思い出す。

 

辺りに緑のエネルギーが充満して、それがツタを形成していた。

 

緑のエネルギー?

 

俺はパソコンの検索欄に「ゴーゴート グラスフィールド」と入力した。

 

トップヒットした、ゴーゴートのバトル大会での動画を開く。

 

トレーナーがグラスフィールドを指示すると、ゴーゴートが叫んで、緑色のエネルギーがフィールドに充満していた。

 

間違いなさそうだ。

 

しかしこれに眠りが関係あるのか。

 

「グラスフィールド 眠り」で検索をかける。

 

トップヒットしたのはある論文だった。

 

技『ひみつのちから』の応用可能性。

 

……なるほど。

 

夢の中にディスクが出てきたことも、これで説明がつく。

 

俺はデスクに置いたスマートフォンを手に取った。

 

電話の履歴から、テオルザに発信する。

 

待つこと3コールと少し。

 

『はい、テオルザです』

 

「もしもし、レムノです」

 

『あぁどうも! お世話になってます』

 

「いえいえ。頂いていた案件に関してなんですが、もう報告ができそうです」

 

『え、早いですね。了解しました。報告はいつ頃がいいですか?』

 

「すぐに資料を作成しますので、今日の夕方ごろでお願いします」

 

『分かりました! 場所はどうしましょう、警察署で大丈夫です?』

 

「そうですね、それで……いえ。機密的に問題なければ、どこか外だと助かります」

 

『外ですか。了解です! 行きつけのカフェがあるんで、そこで』

 

「分かりました」

 

『時間はどうします? 4時頃でいいですか?』

 

「はい、問題ありません」

 

『おっけーです! では4時に駅前で』

 

「お願いします」

 

『いえいえ! それではまた』

 

ぷつ、と通話を切った。

 

またその場の勢いでカフェにでもと言ってしまった。

 

警察署の応接間は仰々しくて苦手だ。

 

こんなにすんなり通るとは思っていなかったが、あの場所に行かなくて済むのはありがたい。

 

さて、3時までには報告書を仕上げなければいけない。

 

俺はまたパソコンに体を向けた。

 

           

 

注文を済ませると、ウェイトレスさんは「畏まりました」と言って席を去っていった。

 

窓際の丸テーブル。

 

目の前にはテオルザが座っていた。

 

「それにしても、普段も報告はカフェなんですか?」

 

メニューを見ていた時の楽しそうな顔のまま、テオルザは俺を見た。

 

「個人の報告なんかだと利用することもありますね。警察の仕事の時は大体応接間です」

 

「あ、ですよね。俺もそう思ってました」

 

というのは、やはりカフェをお願いした理由が気になるのだろう。

 

「まぁその……署の応接間がどうも苦手でして」

 

「苦手っすか。まぁなんか重苦しいですよね。ソファーでっかいし」

 

「ですね。それで、ダメかなと思いつつ言ってみたんですが」

 

ははっ、と噴き出すようにテオルザが笑う。

 

「いや、多分ほんとはダメなんすけどね。機密情報ですし」

 

やっぱりダメだったのか。

 

「それは申し訳ないです。全然今からでも」

 

場所を変えましょうか、と言う前に遮られた。

 

「いえ大丈夫ですよ。依頼先の指定なんで。もう既に表に出てるニュースですし、多分そんな煩くはないです」

 

「そうですか、よかったです」

 

ひと段落ついたところで、俺は資料を取り出した。

 

それに気づいたのか、テオルザもメモ帳とペンを取り出す。

 

盗み見た顔つきも、真剣だった。

 

「じゃあ、本題の方に」

 

「はい」

 

「一通りまとめてはおいたんですが、改めて私から説明します」

 

「お願いします」

 

  ꚸ  ꚸ  ꚸ  

 

見た夢の概要は資料のとおりです。

 

まず、クレセリアに会って、遊んでいました。

 

テーブルシティが舞台で、ヒューマンボールで捕まえられまして。

 

アカデミーの部屋に帰ると、クレセリアが苦しみ始めました。

 

仕事が嫌だとか、怒られたくないとかそんな感じの呻きが聞こえました。

 

そこで緑色のエネルギーが現れまして、それがツタのようにうねっていました。

 

ツタがクレセリアを包むと、クレセリアが眠りまして、

 

そこに昔の友人——って言うのは、まぁお話しした夢見屋のきっかけの女の子ですね——が来て、相談したいと呼ばれるんです。

 

その子の部屋に行くとクレセリアがまた苦しんでいました。

 

今度は明確に、死にたいと。

 

クレセリアの声が聞こえたあと、またツタでクレセリアが眠ります。

 

そして私は、クレセリアを包丁で刺し殺しました。

 

ここで一度起きてしまったんですが、その後続きを見ました。

 

場面が変わって、公園。

 

クレセリアと同じように苦しむサラリーマンがいました。

 

同じようにツタでサラリーマンが眠りまして、同じように私はサラリーマンを殺しました。

 

そして警察に捕まりました。

 

大体こんな感じです。

 

この夢の解釈なんですが、まず登場人物の当てはめからですね。

 

まず夢での私はゴーゴートで間違いないと思います。

 

ボールで捕まってたので確実です。

 

次にクレセリアなんですが、ゴーゴートのトレーナーと考えるのがぴったりハマりそうです。

 

私自身クレセリアには感謝も親しさもあります。

 

私とクレセリアの関係に似ている関係がゴーゴートにあるなら、ポケモンにとって一番近いのはトレーナーかなと。

 

夢でクレセリアにボールで捕まったところからもそう言えそうです。

 

私がゴーゴートで、クレセリアがゴーゴートのトレーナーと。

 

そう考えて夢をもう一度振り返ると、多少過去がわかりました。

 

まずゴーゴートはトレーナーと出会って、そのうち捕まって一緒に暮らし始めます。

 

場所がアカデミーかどうかに関しては、私自身も通っていたので判定できないですが。

 

トレーナー自身もアカデミーに通っていた可能性もありますが、もしくはトレーナーの通っていたところに相当するところが私にとってアカデミーだっただけの可能性もあります。

 

夢は見る人やポケモンによって、同じような存在という共通点を残して変わるのは、昨日お話しした通りです。

 

同じ理由で、私が例の女の子に呼ばれたところも情報としては怪しいでしょうか。

 

逆に、クレセリアが苦しむところは人によって変わりようがないので、恐らくあったのだと思います。

 

仕事が嫌だ、怒られたくない、というのは、トレーナーが社会人になってからの家での様子ではないかと。

 

ゴーゴートの生態を調べてみたんですが、「ツノを握るわずかな違いからトレーナーの気持ちを読み取っていた」という報告があるそうです。

 

トレーナーの気持ちがゴーゴートにも伝わっていて、それが夢に現れていると考えるのが自然でした。

 

トレーナーが死にたいと言うのも、本当にあったのだと思います。

 

トレーナーが死にたいと思うのを見ていられずに、殺した。

 

これがゴーゴートのニンゲンを殺す理由ではないかと私は思っています。

 

確保されたときゴーゴートが誰のポケモンでもなかったのも、もうトレーナーがこの世にいないからだと考えると納得できます。

 

動機は、ここまでの話の通り優しさです。

 

夢での私自身の感覚ですが、クレセリアの声を聞いた時も、サラリーマンの声を聞いた時も、不安や心配の感情でした。

 

夢の中の、眠らせて意識のないうちに殺すというのも、相手が楽に死ぬことを考えているなら納得できます。

 

最後に手口なんですが、割り出すのに少々苦労しました。

 

夢の中では相手を眠らせてから刺していたんですが、ゴーゴートは眠らせる技を一見覚えないんです。

 

なんですが、「グラスフィールド」中の「ひみつのちから」にねむりを誘発する効果があることが調べると分かりました。

 

グラスフィールド中のひみつのちからの、ツタを作り出して攻撃するというのも、夢の中の描写に合います。

 

と、こんな感じでしょうか。

 

実際の事件の話と擦り合わせつつ、まとめますね。

 

まずゴーゴートはひみつのちからで眠らせた後にリーフブレードなどで殺していたと思います。

 

最初の犯行は手持ちのトレーナーで、原因はトレーナーを苦しみから助けるため。

 

トレーナーがいなくなって以降は野生のポケモンとして公園などに暮らしていて。

 

たまに公園で黄昏れるサラリーマンを、同じように優しさから殺していた。

 

そして何人も殺すうちに、捕まった。

 

これが夢から読み取れたことです。

 

  ꚸ  ꚸ  ꚸ  

 

出てきたコーヒーとショートケーキをつつきながら、俺は資料の内容を話した。

 

「ありがとうございました」

 

仕事へのお礼を形式的に言うテオルザは、どこか浮かない顔だった。

 

「どうしました?」

 

「いや、ままならないなと」

 

「今回の事件が、ですか」

 

「はい、なんていうか、誰も悪くないじゃないですか」

 

「それは私も思っていました。私の夢が全部本当だとすればですが」

 

「実際殺されたサラリーマンたちも、偶然か身寄りのないような人しかいなかったわけで。ゴーゴートの優しさだったと思うと、悪いとはとても言えなくて」

 

涙ぐむテオルザに、この夢を分析してから思っていたことを聞いた。

 

「……ゴーゴートはどうなるんですか?」

 

これが本当なら、ゴーゴートは決していたずらに人を傷つけていたわけじゃない。

 

この優しさはもっと何かに使えるはず。

 

「言いにくいんですが……多分保健所ですかね……」

 

意図的にニンゲンを傷つけたりするポケモンは、少なくない数いる。

 

こうしたポケモンたちは基本的には保健所が保護をするはずだ。

 

保健所の人手にも限度があるから、一定期間引き取り手が見つからなければ、野生に返すことになる。

 

……というのは理想的な話で。実際は野生に返すよりも薬などで安楽死させる方が多いとも言われている。

 

ニンゲンに危害を加えたポケモンなんて引き取り手が見つかることは少ないし、野生に返してもまた事件が発生するかもしれない。

 

保健所に流れつけば、ほぼ確実に安楽死させることになる。

 

「私の話では、何か扱いが変わるわけでもないですよね」

 

「ですね。目の前で言うのも申し訳ないんですが、流石に事件の証拠としては……」

 

少なくとも現状の方法では、ポケモンが見た夢をそのまま同じ夢で見られるわけでもない。

 

そもそもポケモンが見ている夢自体事実と断定できるわけでもない。

 

夢見屋の情報は、法的に効力を持たない。

 

見た夢が信憑性に欠けることは、俺自身よく知っていた。

 

「あくまで再発防止の措置ですからね……」

 

ゴーゴートがこのまま幸せに生きることは、多分ないのだろう。

 

あんなにも優しいのに。

 

「仕方ないっすよ。優しいかもとはいえ、殺しの経歴があるポケモンなんて言われるとやっぱり怖いっす」

 

じゃあ俺が手元に置けるかと言われれば、やっぱりそうもいかない。

 

誰だって自分が大事だ。

 

「ままならない、ですね」

 

「仕方ないっす」

 

さっきまでと打って変わって明るい声で言うテオルザも、どこか自分に言い聞かせているように見えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

お互い喋ることがなくなって、かといって急な方向転換をして出すような明るい話題もなく。

 

ひとまず俺はケーキの最後のひとかけを口に入れた。

 

味わって飲み込んだら、続けて残りのコーヒーも飲み干す。

 

「ケーキ、美味しいですね」

 

テオルザが顔をばっと上げた。

 

まだ口にものが少し入っているのか、口を手で押さえながら喋り出す。

 

「でしょう! そうなんすよ。よく通ってて」

 

「私も個人依頼の報告なんかで適当なカフェに入ることはあるんですが、ここのは本当に美味しいです。また来たいくらいに」

 

「お、もしかしてまたお誘いしても?」

 

「本当ですか。ぜひまた」

 

「お、じゃあ今度は完全にプライベートでっすね!」

 

「そう遠いわけでもないので、お気軽に」

 

「やったー! 面白い話たくさん持ってるし、仲良くなりたいなーって思ってたんですよ」

 

「面白いかは分かりませんが……守秘義務に触れない限りでお話ししますよ」

 

「そりゃもちろん。楽しみにしてますよ」

 

本当に嬉しそうな笑みでテオルザもコーヒーを飲み干した。

 

「食べちゃいましたし、話も済んでますし。出ます?」

 

「私の方は大丈夫ですよ」

 

「じゃあ出ましょうか。お会計は警察の雑費で出ますんで」

 

がらっと椅子を引いて、同時に席を立った。

 

           

 

ガタゴトと電車が揺れる振動を感じながら、窓の外を眺める。

 

夜になる気配を感じさせない、鮮やかな夕焼け。

 

……悲しい事件だった。

 

誰も悪くないのに、噛み合いが悪すぎた。

 

ゴーゴートには、せめて夢でくらいいい思いをしてほしい。

 

あんな殺す夢ではなく。

 

そういえば何かを殺す夢は、夢占いでは自分が変わろうとしていることの暗示だと言われる。

 

そして俺は大事な存在でありながら、自分自身にも等しいようなクレセリアを殺した。

 

見方を変えれば、あれは自分自身を殺す夢とも言えるのかもしれない。

 

現実を思い出す夢を見せているはずだから、自分が2人現れるなんてありえない以上考察結果が崩れることはないが。

 

……案外楽しかったな。いつも喋るのは面倒だったのに。

 

俺にもまた、なにか変化があるのかもしれない。

 

fin

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