Nudist Archive ここは楽園、ならば服を着る必要は無いですよね?   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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補修授業の始まりですわ

「もう嫌っ!! こんなことやってらんない! 分かんない! つまんない! めんどくさい!! それもこれも、全部先生のせい!」

 教室の中で桃色の髪の毛の少女が吼える。彼女の言葉は激しく、頭に載った小さな黒色の帽子をはね飛ばすか知らんというぐらいである。その内容は彼女の年頃ならば、幾度も抱き、口に出さずにはいられなくなる勉学に対しての怒りだった。しかし、その矛先は、勉学それだけに収まらず、勉強を教える先生にまで向きだした。生徒の思いはどれだけでも受け止めると覚悟している流石の先生もこれには困惑の色を見せ、その色合いそのままの言葉を洩らす。そしてその言葉に続いて一人の少女が口を開く。

「もう、コハルちゃん。そんな無茶苦茶なことを言ったら、先生が困ってしまうでしょう? あくまで先生は私たちを助けるために来てくださってるんですし・・・・・・そもそも勉強が分からないのも、試験に落ちたのも、先生ではなくコハルちゃん自身のせいで・・・・・・」

 と、烈火の如く怒りをまき散らす少女を諭すもう一人の桃色髪の少女───こちらは怒る少女と違い長髪で、背から胸に至るまで一回り二回りほど大きい──彼女の言葉は正論だが、正論を言われて素直に「はい、そうですか」と飲み込めるようならば、そもそも怒りにまかせて当たり散らすようなことにはならない。だが、存外にも黒の小帽子を頭に載せる少女は理性が残っていたらしく、「うっ」と言葉を詰まらせた。しかし、ここで引けるほど冷静ではなかったらしく、自分の所属する委員会の業務が忙しく、授業に出られなかったせいで勉強が分からないと言い訳を続けた。

「それは他の正義実現委員会のメンバーも同じだ。でもここに来ているのはコハルだけ」

 そう事実を指摘したのは白髪の少女だった。羽には花をちりばめ、意匠の細かい制服を身につけている。そして、白髪の彼女の指摘の通り、この教室に集う補習授業部四人のメンバーの中で正義実現委員会に所属するのは下江コハル、ただ一人だった。その下江コハルは、その当然の指摘に沈黙で返す。

 

「なるほど。つまりアズサちゃんが言おうとしているのは、ただただコハルちゃんがおバカさんだからですよ、ということで合っていますか?」

 先ほどまで諭していた少女が、からかい気味に白髪の少女の言葉を細かくほぐす。それを白髪の少女は「強ち間違いでもない」と肯定し、言葉を続ける。

「仕方ないものは仕方ない、人生は往々にして虚しいものだ」

「確かに人生は苦痛の連続ですからね・・・・・・そう言うこともあります」

 

 さて、順当に逃げ道を潰された者が最後に採る方法は何だろうか? 諦めて唯々諾々と従うか、あくまでも噛みつき続けるか・・・・・・下江コハルの場合、開き直って噛みつくことだった。

「ああもう、うるさいなぁっ!? そんなこと言ったら、あんたたちもみんな一緒じゃん! 私がバカなら、ここにいる全員バカでしょバーカ!!!!」

 詰まっていた分、濁流のように流れ出す言の葉。それが悪罵で無ければどれほど良かっただろう。恥辱と怒りで顔を赤くしながらコハルは罵倒を続ける。

「あ、あはは・・・・・・えっと、それはその・・・・・・」と言葉を紡ぐ亜麻色の髪の少女の曖昧な言葉が挟まる。それは彼女が補習授業部入りした理由が、テストの正答数の多い少ないではなかったからなのだが、そんなことは露ほども知らないコハルは言葉を続ける。

「な、何も間違ってないでしょ? バカだからここにいるんでしょ!?」

 そう言い切ったコハルは、この場にいる者を指さし始めた。

 

「あんたも!」と、亜麻色の髪の少女を指さした。指先が示す彼女は当惑と何と言えない気まずさを携えて、ふやけた笑顔を浮かべた。

 

「あんたも!!」と、コハルは自身と同じ髪色の少女を指さす。少女はニコニコと考えの読みとれぬ笑顔を浮かべていた。

 

「あんたも!!!」と、白髪の少女を指さす。彼女は普段通りの落ち着いた表情をしていた。

 

「あんたもっ!!!!」とこの中で唯一の大人を指さした。彼は困ったように頬をかいた。

 

「あんたもっ!!」と、キラキラ輝いたブロンドの少女を指さす。彼女はびっくりとしたようで、瞳を小さくし眉が上がる。

 

「・・・・・・あんた誰っ!?」

 指を指した側もまた素っ頓狂な声を上げた。先ほどまでは居なかったはずの少女である。それも何故かバカみたいなほど露出の高い格好をしていながら、その手にはおいしそうな香りを昇らせるバスケットを持っている。

「なんてエッチな格好してるの! エッチなのはダメ!」

「あらあら、困りましたわね」

 威嚇のように唸るコハルに困惑した金髪の少女は、その深海色の瞳を他の人々に向ける。しかし、この場に彼女のことを知る者は二人しかおらず、その二人も、何故彼女がこの場に来たのかまでは分からなかった。

「アイナさん? いったいどうして?」

 この場で闖入者と一番親交の深かった桃色髪の少女がニコニコとした表情と威嚇するコハルを止めて訊ねた。

「ハナコさん、大事な友人のためにできることをしたいだけですわ。ほら、糖分補給にお茶菓子を持ってきましたの」

 そういってアイナと呼ばれた少女は、バスケットを持ち上げてその中にあるお菓子の甘い匂いを振りまいた。

 

 


 

 

「さぁ、召し上がってくださいまし」

 使っていなかった机をくっつけて作った即席のテーブルを囲む。取り出されたのは、マドレーヌとハーブティーだった。

 おかしいのは言動と服装だけだと理解しているハナコが、まず一つマドレーヌを手に取った。それをそのまま口に運ぶ。パクリと口の中に迎え入れたハナコを皆が注目する。

「ッ!? ───ふふっ」

 ハナコは目を大きく見開き、その数瞬後に頬を少し染めて微笑んだ。口元のゆるみや雰囲気が朗らかで柔らかなものになっていく様から、変なもの食べた反応ではなく、それがおいしいものであるという反応だと言うことが伝わる。

「おいしいですね。ほろほろで、口の中に含むと綿飴のように溶けてしまいます」

 しっかりと味わうために瞼を閉じることで視覚を遮断して、「ん~」とおいしさを言葉ではなく原初の鳴き声でハナコは表現する。それはそのまま人の理性ではなく、食欲という原初の欲求を十全に満たせる証左である。その反応を見せられて後に続かぬ者は少ないだろう。補習授業部は先生に至るまで、マドレーヌに手を伸ばす。皆マドレーヌのおいしさに舌鼓を打ち、自然とハーブティーの方にも手が伸びた。

 ほろほろとした食感に、舌の上で広がる香ばしいバターの味わい。ココアなどで味を足していないプレーンのみだが、ここに贅沢を口にする者はいない。そして、その甘さを程良く薄めて、香りがスゥッと鼻筋を抜けることで。頭をすっきりとさせるハーブティー。嫌気の差し始めていた脳をリフレッシュさせるには最適の組み合わせだった。

 

 


 

 

「とってもおいしいです! ありがとうございます」

「良かったですわ。名前をお聞かせ願えます?」

 菓子を振る舞ったアイナに亜麻色の髪をした少女が礼を述べ、それに対しアイナは名前を訊ねる。

「あ、すみません。阿慈谷ヒフミと言います!」

「私も礼を言おう。こんなおいしいものは初めてだ。私は白州アズサだ。貴女の名前は?」

「こちらこそそんなに喜んでいただけるなんて光栄ですわ。私は復楽園アイナと言いますわ」

 パクパクと勢いよく食べているアズサが、ヒフミとアイナの会話に混ざり、名前を伝え、逆にアイナの名前を引き出す。

「・・・・・・ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 先ほどまで烈火の如く怒っていたコハルも、ハーブティーによって鎮火したのか、大人しくなる。

「でも、その格好はダメ! お菓子で釣ろうたってそうはいかないわよ!」

 あぁ、まだ燃え残りがあったようだ。だが、復楽園アイナは既にコハルという少女がどういう者か掴み始めていた。

「ふふふ、中々厳しい方と知り合ってしまったみたいですわね、ハナコさん」

「えぇ、とっても」

 ふふふとお互いに笑い合う。だが、ヒフミや先生はその光景が和やかなものだとはあまり見えなかった。権謀術数渦巻くトリニティ上層部でよく見かけた光景だったからだ。簡単に言えば腹のさぐり合いをしているような雰囲気だった。といってもその要素が強いのはハナコで、アイナの方からはそれらしき雰囲気はそれほど伝わってこない。無論それを隠しきってこその政争ではあるのだが、先生としては、あの陽気な昼下がりに出会った少女が、そんなことをするのか少し疑問があった。

 

「ちょっと! なに無視してるの! いい? 私はね、年上だからって容赦しないのよ! 逮捕してやるんだから!」

「補習授業部を無事卒業できるまでは、委員会の活動ができないんじゃなかったんですか、コハルちゃん?」

 ハナコの言葉で、今にも飛びかからんとしていたチワワのような少女が怯む。そして少しの間言葉を考えたが、彼女は良い返しを思いつけずに、ムシャクシャが臨界点を突破したらしく、ワッとがなり立てた。

「わかってるわよ、そんなこと! でも、このままじゃ! こんな・・・・・・・みんな仲良く退学になりそうな、こんな状況で・・・・・・! もし退学になったら・・・・・・正義実現委員会のメンバーじゃ、なくなっちゃう・・・・・・うぅ・・・・・・」

 先ほどとは違い、無理矢理に噛みつく先を見つけて噛みつこうとはせず、コハルは弱気な言葉を吐き出す。

「もちろん私も、退学になるつもりはない。何をしてでも、例え惨めな思いをしてでも、乗り越えてみせる」

 それに力強く答えたのはアズサである。彼女の闘志は潰えておらず、その言葉には文字通りどんなことでもすると言った意志がありありと見て取れる。

「まあまあ、退学になったからといって何もかもが終わりというわけでもありませんから、気楽に行きましょう。むしろ・・・・・・」

 そうハナコがのんびりとした口調で言う。そして、むしろと続けようとしたところでヒフミが遮った。

「あ、あのっっっ!!」

 シンと空気が静まりかえる。補習授業部のアズサ・コハル・ハナコたちも、先生とアイナも黙ってヒフミの方を見た。こちらに軽く注意を引こうとしていただけだったのが声量のバランスを間違えたのか、ヒフミは「あ、えっと、その・・・・・・・」と少しだけテンパりながら話し始めた。

「───こうして集まっているのは、そもそも退学せずに済むようにするためですし・・・・・・取り敢えず、その、今はみんなで知恵を寄せ合って、何か良い方法を探さないと・・・・・・そうしないと、一週間後には本当に仲良く全員退学、なんてことに・・・・・・」

 彼女は集団を引っ張っていくリーダーシップを発揮したことはそれほど無い。ある集団のリーダーをしているが、それだってなし崩しの結果であり、指揮や音頭を取ったわけではない。いわゆるお飾りの長というものだった。その為、先頭に立って誰かを率いることの少なかった彼女の言葉はだんだんと尻すぼみになっていく。ただ、それは経験が薄いから来るものであり、言葉としては良いことを言っている。だから、この聴衆の中にも、もしヒフミが経験を積めば、立派なリーダーになるのではと思う者もいた。

 

「『知恵を寄せ合う』……なるほど。悪くはないのですが、あまりグッとくる感じではありませんね」

 そう口にしたのは、先ほど話を遮られたハナコだ。彼女はそのまま、「もう少しこう、何か……」と言葉をその頭脳の中で検索する。

「───ここは例えば、そうですね……『弱くて敏感な部分を寄せ合う』という形でいかがでしょう?」

 賢き予言者は己の言葉を、その知謀の出力結果とは思えないような言葉に紡いで表すが、ハナコの言葉に裏表は無く、ただただ楽しげにわざとらしく卑猥に聞こえるように言葉を発した。

「い、いきなり何言ってんの!? 下ネタはダメ! 禁止! 死刑!! び、敏感な部分って、何をどう寄せ合おうっていうわけ!?」

 これに過剰に反応したのはコハルだ。一時間ほど前にあったアイナに対する反応と同じように、彼女は性的なモノに敏感に反応してしまう性質のようだ。これを楽しく思ってたのか、ハナコは更に踏み込んでいく。

「ああ、ちょっと分かりにくかったですか? では、実際にやって見せましょうか。もう少しこう、足を開いていただいて……」

 獲物だと認識した者へ、捕食者はジリジリと近づいていく。勿論、真正面から近づいてくる狩人を警戒しない獲物などごく僅かだ。近づいてくるハナコに対し、コハルは警戒の色を高めていく。一歩ハナコが踏み出せば、困惑しながらも一歩コハルは後ろへ下がる。更にもう一歩踏み込めば、当然もう一歩下がった。

「……え? えっ!?」

 この距離の詰め方でコハルはハナコが本気なのだと知る。その為、更に一歩下がる。しかし、こんな楽しいことやめられるはずがないのだ。

「や、やめて! 近づかないで! 知らないし、分かりたくも無いし、まだ早いからっ!!」

 距離を詰められたコハルはせめてもの抵抗としてその意志を言葉にして紡ぐ。だが、狩りの練習でじゃれ合う大型猫科動物のように、じゃれついて遊びたいハナコにとって───自然界の狩りに理性ある言葉が意味を為さないように──意味のないことだった。

 

「えいっ♡」

 ひょいとハナコはコハルに飛びつく。一瞬先生がその職務と立場と生来の気質のために体を動かしかけるが、ハナコはキチンと加減を分かってやっているのを周りに示し、怪我もなく倒れ込んでいるのを見て、その動きは緩やかになる。かといって体が丈夫とはいえ、それで跳び付きを叱らない理由にはならない。その為、先生は口頭で注意しようとした。だが、それをアイナが静かに制す。もう少し待ってからと言いたげな表情に、眉根を寄せて先生は抗議を示した。

「や、やめっ……! やめてぇっ! たっ、助けて先生……!」

 悲痛な少女の叫び。そして名指しで助けを求められたら先生としては動くべきなのだが、アイナがそれを未だに制する。

「もう少しだけ、お願いしますわ」

 さすがにといった目線を送るが、アイナはそう小声で答えるばかりだった。

 そうするうちに、先生がアテにならないと気づいたコハルはすぐに訴えかける相手を変えた。

「わっ、私が悪かったです! 先輩相手にタメ口ですみませんでした! もう許してやめてっ、それはまだ嫌ぁーーー!!!!」

 反省と形容すべきではないだろう。だが、自分の罪であろう部分には気づいたことを示す悲鳴を聞いて、アイナはやっと先生の邪魔をやめる。どうぞと言うように拓かれた隙間を先生は通り抜け、組み合うハナコとコハルの二人を引き剥がしにかかる。その様子を注意深く眺めるアズサは、興味深そうに「そういう制圧術もあるのか」とつぶやき始める。

「勉強になった・・・・・・ただ、無駄な動作が多い気がするな。私ならあと2テンポ前の段階で関節をきめてる」

 体が闘争を求めているタイプか、それともただのマイペースか。いまいち分からない掴み所の無さを披露するアズサ。

「・・・・・・せ、先生ぇ」

 このメンバーで本当に補習を成功できるのか、自信がどんどん目減りしていくヒフミの悲痛な声に、先生はようやくハナコを引き剥がしながら、疲れの見える声で応えた。

”・・・・・・うん、私も頑張るね”

「よ、よろしくお願いします・・・・・・このままだと、本当に・・・・・・私たちみんな、退学に・・・・・・」

 悲痛な声でヒフミは先を憂いたのだった。

 

 


 

 

「・・・・・・復楽園アイナが、補習授業部に接触した?」

「はい、差し入れを持って行ったようですが、真意はわかりません。確かに浦和ハナコとは以前から親交があったようですが……」

「えぇ、それもハナコさんを入れた理由の一つですから」

 ティーカップを口に運びながら桐藤ナギサはそう言った。彼女は報告を終えた部下を下がらせ、誰もいないテラスで思考を巡らせる。

「早速炙り出せた……訳ではないでしょうね」

 補習授業部の目的、それは勿論補習を受けさせること───ではない。真なる目的は、トリニティの裏切り者を特定することである。エデン条約を進める中でそれを阻止しようとする動きがあるのは分かっていた。元よりゲヘナに対して良からぬ感情を持っている生徒は少なくない。その中で失脚の口実として利用してくる者が出てくるのも予想内だった。だからこそ対策していたというのに、全く予想外のことが起きて、私はそれに対し相手の姿も掴み切れていない。だから、怪しいものは諸共捨ててしまおうというわけだ。

 私も鬼ではない。だから、もし関係ない生徒が退学になってしまうというなら良心も痛む。せめて折り合いがつけられるように探す時間と任務を与えてみたのだ。

 

「派閥というのもおこがましい……数人の集まり。ですが、聞けば他校にも同志がいるとか」

 条約と楽園の名を額に戴く分派。そのエデン分派の調査報告書に目を通せば、少々怪しく感じるところもあります。トリニティの中ではなく外に根を伸ばしているのは、スパイを送り込んでいるということでしょうか? だとしても本部であるトリニティでの規模がこんなに小さいのはどうかと思いますが。

「しかし、力なきものが趨勢をひっくり返すには死角からの一撃で主導権を握ること……そう考えれば、動機の説明は……であれば、補習授業部への接触はメンバーではなく先生が目的……?」

 頭の中で点が繋がっていくような気分がします。説明のつかない部分もあるために仮説の一つに過ぎませんが、容疑者の一人に付け加えてはおくべきでしょう。

「───あぁ、全てが疑わしいですね」

 先生とヒフミさんには頑張ってもらわないと……。

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