【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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第十二話です。今後の戦闘はジョジョ東方互いに能力をフル活用するこの作品内でも屈指の見せ場となっております。お楽しみください。
大幅な書き直しを行っていないので、未熟な文章になっております。ご了承ください。
【ジョジョの奇妙な東方Project@Wiki http://www28.atwiki.jp/shinatuki/pages/1.html】より転載。


第十二話 紅魔館地下決戦後編―フォービドゥンフルーツ――

「や、やめろ…!た…大変な事になるぞ……ッ!!」

「いいえ!『限界』よッ!圧すねッ!」

フランの左手に力が籠る!

「今だッ!!」

ボグオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!

薄暗い地下空間に、炸裂音が反響した。

ドパァッ

ビタビチャァ

肉質的な物が弾ける音、液体やグニャリとした物がぶち撒けられ、床や壁に滴る音、床の格子状の溝に広がっていく紅い幾何学模様。そして―――――

「……あ……ああ………

「アギャアアアァァァァァァァッッッ!!!!」

吹き飛んだ右腕を押さえ、苦痛に悶えるフランの絶叫が、地下室に木霊した。

「…大人の忠告には素直に従うものだ…言っただろう?『大変な事になる』と……」

落ち着いた、しかし冷酷な声で、吉影は口を開く。

「なっなんでっ!?ああっ!手ッ!私の右手が~…!!」

フランの右腕は肘のあたりから先がグシャグチャに砕け散り、鮮血が脈動と供に噴水のように噴き出す。驚きと激痛に、フランは涙を滲ませうずくまる。

「『何故か』だと?わたしがそうさせたからだよ。」

吉影は立ち上がり、呻くフランを冷然と見下ろすと、どうってことないといった風に言葉を繋ぐ。

「【トリック】だよ、すり替えておいたのだ…わたしと君の『目』をね……」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「うおおおおあぁぁぁぁぁ!!」

キラークイーンの脚で跳躍し、フランに迫る!

(ヤツにはキラークイーンの右手しか見えていない!その『隙』と『左手は使えないという思い込み』が最大の『チャンス』だッ!!)

フランが『右手スイッチ』に気をとられている隙に、限界まで伸ばしておいたキラークイーンの『左手』がフランの右手に触れた!

(やったぞ!あとはコイツを『爆弾』に変えてやるだけだッ!)

自身の『目』を解除し、キラークイーンの左手がフランの身体を『爆弾化』しようとした瞬間だった。

ギィンッ!!

「ッ!!!?」

フランが顔をあげ、吉影を睨んだ。狂気の滲んだその姿は、まさに悪魔。

(こ、この小娘っまさか!?)

「もらったァーッ!!!」

フランが崩れかかった左手を突き出す!

(くそッ!やはりこの『隙』を…わたしが『爆弾を解除する瞬間』を突くつもりか…だがッ!!)

吉影の瞳がギラリと輝く。

(その程度…予想済みだッ!!)

自身の『目』を解除し、同時にフランの右手を爆弾化する。さらにその直後、フランの右手の『目』を解除した。

「マズイッ!キラークイーン!!」

解除され『持ち主』のもとに戻ろうとする『目』を、キラークイーンが捕まえようとする『ふり』をして手を伸ばす。だが、『目』はキラークイーンの指から離れ、フランの左手に引き寄せられた。グシャグシャに傷付いた左手のひらに、彼女自身の右手の『目』が着床した。

バギィッ!

フランの爪先がキラークイーンの顎を直撃し、吉影はぶっ飛ばされた。

(そしてこれで…)

空中で自身の『目』を抜き取り、キラークイーンの右手を背中に隠す。

(これで『完成』だ…!!)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

「あぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

うずくまりフランは痛みに呻く。吹き飛んだ右腕を押さえるが、いくら吸血鬼とはいえ『目』から破壊された部位の再生は容易ではないらしく、なかなか血は止まらない。

「がぁ…ぐっ…よ、よくも…ただの人間がぁ…!!」

涙を浮かべた瞳で、吉影を睨む。

「『ただの』?君は誰と闘っているつもりだったのかね?」

鼻を鳴らし、冷徹な目で吉影はフランを見下ろす。

「『同じタイプの能力者』だ、君よりココの使いどころを知っている、な。」

こめかみに指を当てて、落ち着いた、しかし経験に裏付けされた自信を含んだ口調で言い放つ。

「…さて、無駄話はここらへんにして…」

キラークイーンの指がライフル弾に触れた。『目』がスイッチに『ジャンプ』し、爆弾に変わる。

「こいつで終わりにしてやる…この馬鹿げた『遊び』をな。」

キラークイーンが射撃体勢にはいり、フランの眉間を狙う。

「…う…ううっ……ぐっ!!」

フランが唇を噛み締めた。肉が裂け、血が噴き出す。

「ナメるな……人間ッ!!」

血まみれの左手で涙を拭い、震える膝を押さえつけ立ち上がる。ほう、と吉影が感心した。

「痛みを相殺したか…なかなかの覚悟だ。

…しかし………」

自身の血をベッタリつけた、殺意に満ちた形相で睨むフランを見返す。

「まるで奈落の底のような眼をしやがって…人の形をしているくせになんて様だ。」

ビシィッ!

フランがスペルカードを掲げ、宣言する。

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

フランの左手に焔の魔剣が出現し、力の限りぶん回す。

「…最初は驚いたが…」

右手を下ろし、キラークイーンの脚で駆け出す。

「何度も同じ『芸』を見せられると人は飽きるぞ、馬鹿の一つ覚えがッ!!」

ザッ!

飛び上がり横薙ぎの一撃を飛び越え、天井を蹴り着地する。即座に前に跳びだし、ローリングで火球を避ける。

(頭に血が上ると判断力が鈍る。攻撃は大振りになり、直線的になっていく…)

ヴォォン!!

唸りをあげて襲い来る袈裟斬りを左に回避する。

ズズゥゥゥン!!

重い音をたてて床が抉れ、煉瓦片が飛び散る。襲い掛かって来る火球を最小限の動きで回避し、フランとの間合いを一気に詰める。

「このふざけた丸太、やはり餓鬼が棒切れを振り回す訳にはいかないようだな。こういったデカブツは…」

足元を狙ってきた火球をジャンプで避け、壁を蹴りフランに接近する。

「懐に潜り込むのがッ定石だろう!!」

『レーヴァテイン』のようにその重量で叩き斬る武器は上に斬り上げる攻撃に不向きである。フランに飛び掛かり、頭上から攻撃を加えようとした時、

ブゥン!!

なんと、フランがレーヴァテインを投げた!

「ッ!!?」

床に突き刺さった部分を支点にし、突如方向を変え襲って来た紅蓮の刃を咄嗟に弾く。

(このクソガキ、何を考えているッ!?)

戦闘中に得物を投げるなど常軌を逸している。だが、『意表を突く』のは相手の『焦り』を誘発する場合非常に効果的である。

「くッ…!」

不意を突かれた吉影は咄嗟にフランを狙いライフル弾を構えた。だが…

ニィッ…!

「ッ!?」

吉影を見上げていたフランの顔が、不気味に笑った。

(こ、コイツ…我を忘れてなどいない!冷静そのものだ!)

フランの左手が吉影に向けられる。

「きゅっとして…!」

「(ッ!マズイっ!)

解除しろ!キラークイーン!」

ライフル弾の爆弾化を解除し、自身の『目』を抜き取る。しかし、フランの狙いは彼自身ではなかった。

「ドカ~ン!」

ドオォォォォン!!

吉影の背後の天井が破裂した。

「なッ…!?」

振り向き、キラークイーンのラッシュで瓦礫の雨を弾く。

「しばばばばば!!」

その隙を、彼女が見逃すはずがなかった。千切られて右しか残っていない翼で空を叩き、弾丸のような速さで吉影の背後に迫る。

「『二手』遅かったわね『人間』ッ!『オモチャ』は箱に仕舞ってあげるわ!!」

フランの左拳が、吉影の後頭部に叩き込まれた!!

グシャアァ!!

「…が……あ…!?」

フランの肋骨がメリメリと悲鳴をあげてへし折られ、小さな身体が吹き飛ばされた。

「キラークイーンの脚が見えない事を忘れたか?」

スタッと着地したキラークイーンの脚には、フランの血がベッタリと付着していた。

「がはっ…!!」

壁に叩き付けられ、ずるずると崩れ落ちる。内臓をやられ、ゴボッと血を吐き出す。

「あ…うああ…ああ……!」

涙交じりの呻き声をあげて、フランは壁にもたれかかる。僅かでも動いただけで、肋骨の突き刺さった内臓がズキンと痛む。

「…………………」

先程も痛みに嗚咽している間に撃てば勝てていたのだ、もう油断はしない。吉影は無言でライフル弾を爆弾化し、彼女の脳天を狙って発射した。

「ギャアアァァァァァ―ッ!!」

ドグオォォォォ!!

フランの眉間が銃弾に撃ち抜かれ、爆発した。壁が吹き飛び、肉片が飛散する。

「…やったか……?」

土埃がもうもうと立ち込める中、キラークイーンの目で部屋の中に目を凝らす。やがて埃はおさまり、見通しがよくなってきた。

彼女は、居た。部屋の向かい側の壁に血と肉片がへばりつき、床には臓物が撒き散らされている。はみ出した腸の先には、焼け焦げ半ば消し炭と化した下半身が転がっていた。頭部と上半身は見当たらない。脳天を爆破されたのだから、跡形も無くぶっ飛んだのだ。おおかた、壁にこびりついている物がそれなんだろう。

だが、吉影はまだ警戒を解かず近寄らずに部屋内を眺め回す。相手は吸血鬼だ、上半身だけで隠れ潜んでいる可能性もある。何かヤツが死んだと確実な『安心』を得られる物は…

ふと床に目を落とすと、フランの手首が落ちていた。長く紅い爪がそれを示している。

「ッ!」

吉影が目を見開いた。

ここで彼が『フフ・・・下品ですが(ry』となっていると思った方はお帰り下さい。

(なん…だと…!?)

吉影はその特殊な嗜好故、手首という物に非常に敏感である。だからそれが目に入った瞬間、彼は気付いた。

「『右手』だとッ!?さては分身か!!」

吉影が再度拳銃弾を爆弾化しようとした時!

ボガァァァァァン!!

ドゴオオオォォン!

穴の両脇の壁を蹴破り、二つの影が吉影目掛けて突っ込んでいった。

 

 

 

―――――――――――

    ―――――――

      ―――――――――

「―――――――はあ……はあ……!」

本棚の間を宮本輝之輔は必死に逃げる。だが、彼の目の前の角から箒にまたがった魔理沙が現れ、彼の前に立ち塞がった。

「ようやく追い詰めたぜッ!」

魔理沙がミニ八卦炉を輝之輔に向ける。

「さあ、教えてもらおうか。どうやって私のマスパを撃ち返したのか…」

輝之輔は立ち止まると、不敵に笑う。

「『追い詰めた』だって…?『逆』だ!君が僕に『追い詰められた』んだ!周りを見てみな!」

「なにっ!?」

魔理沙は慌てて周りを見回す。

「こ…ここは…!禁書スペース!!」

「ご名答、君では手出し出来ない強力な結界が張られた場所さ…」

輝之輔は一枚の紙を取り出す。『ダブルスパーク二発目』と書かれた紙だ。

「そしてここでッ!」

ビリビリと紙を破く。封印されたマスタースパークが『破壊』され、全方向に拡散した!

「ええっ!?」

不規則に拡散し襲って来るレーザーを魔理沙は咄嗟に回避する。

「あ、あいつ!私が研究中の拡散マスパを…!!」

技は撃ち返されるわ自分が研究中の技を一瞬で実現されるわで、悔しがりながらも小刻みに避けていく。

「だが…これじゃマスパを分散させているだけだぜっ!私が目指しているのはこんなチャチな物じゃなくて…!!」

「おいおい、独り言を言っている場合か?後ろを見てみろ。」

「ん?後ろ?」

輝之輔の言葉に後ろを振り向くと…

「げぇッ!?」

本棚のプロテクトに張られた結界に乱反射され、レーザーが迫ってきた!

「うわッ!」

慌てて発進し、ギリギリのところで避ける。

輝之輔は自分に向かって来る光線を『エニグマ』でファイリングし、それを魔理沙に向かって撃ち返す。

「フハハッ!無様じゃないか『切り裂き魔羅沙』!!鼠獲りに掛かった鼠が餌に向かって『追い詰めた』ってのは笑えたぞ!」

復讐に燃える輝之輔は彼女を徴発し続ける。

「降りて来い!下の毛も金なのか確かめてやるッ!!」

プッツーン

魔理沙の中で、何かが切れた。

「お前……!お前…!!」

怒りに身体を震わせ、魔理沙は怒鳴る。

「馬鹿にするな小悪魔のクセに!!」

ミニ八卦炉にエネルギーが収束していく。

「星符『ドラゴンメテオ』!!」

極太レーザーが下方に撃ち出された。反動で魔理沙が浮き上がり、レーザーの包囲網を脱出する。

「喰らえッ!」

ファイナルスパークより強力な光線がレーザーを消滅させながら輝之輔に迫る。

「フンっ、何かと思ったら…」

だが、輝之輔は余裕に満ちた表情で見上げ、己の『スタンド』に命令を下す。

「やれ、『エニグマ』。」

漆黒の人型のスタンドが彼の前に立ち塞がり、両手をドラゴンメテオに向ける。

ゴオォォォ!

魔理沙の放った渾身の一撃は、容易く紙に変えられてしまった。

「まだ理解しないのかッ!?我が『エニグマ』は完璧だ!荒巻く海だって『封印』できる!暴走する機関車だって止められる!お前がどんな『火力』のレーザーを撃っても無駄だ!ドゥーユーアンダースタァァァンド!?」

「Yes, I am!!」

「…え!?」

背後からの声に輝之輔は振り返る。その視線のさきでは、魔理沙が箒の先を輝之輔に向けていた。

「ちなみに、今のは文法的に間違っているが、もちろんわざとだぜ!」

ガチャン!

ミニ八卦炉を箒の尾に向けて固定し、エネルギーを集中させる。

「理解したぜ…お前の弱点を!確かにお前は弾幕戦では強い。だが…(確証は無いが)相手自身は『封印』出来ない筈だぜ!だったら!!」

スペルカードを掲げ、宣言した。

「私自身が弾になれば良いんだぜ!『ブレイジングスター』!!」

ミニ八卦炉が後方にマスパを放った!その爆発的な推進力で、さながら彗星のように輝之輔に迫る!

「なッ…!?」

輝之輔が身構える間もなく、弾丸と化した魔理沙が直撃した。

「うあああああぁぁぁぁ………」

 

 

「…ううっ……イテテ…」

勢い余って地面に激突した魔理沙が起き上がり、服の埃を払う。

「―――――や、やったか…?」

辺りを見回した時だった。

「外の世界では『フラグ』って呼ばれてるぞ、その台詞は。」

「っ!?」

背後からの声に、魔理沙は振り返った。其処にいたのは無傷の輝之輔だった。

「その台詞を言うとな…たいてい相手が無事だっていうおまじないさ…」

「…オーケイ、礼を言うぜ。二度とお前と戦っている時に言うもんか。」

魔理沙はミニ八卦炉を、輝之輔は紙を、それぞれ構え、身構える。

ズキンッ

痛むわき腹をそっと押さえ、輝之輔は耐える。

(ぐっ…!自分を『紙化』するのが遅かった…引っ掻けてしまったか…!なんとかコイツに覚られないように…!)

考えていた時だった。

「日符『ロイヤルフレア』」

ドオォォォォ!!

突如発生した爆炎が二人に襲い掛かった!!

「なっ…!?うあああああ!」

「マズイッ見つかったか!!」

輝之輔は咄嗟に『エニグマ』で防御し、魔理沙はマスパで業火を吹き飛ばして放たれた矢のように一目散に逃げ出した。

「う…うああ……ああああ…」

紙に変えられた『ロイヤルフレア』を握りしめ、輝之輔はガタガタと震える。 「……運が良かったわね、魔理沙…禁書スペースに潜り込むなんて、いつもなら全力で追い掛けて撃墜してやるところだけど……」

爆炎の中から姿を現したのは……

「…今日は外からの鼠じゃなくて、家の中のを退治しないとね…」

フラリと宙に浮かび、『彼女』――パチュリー・ノーレッジは彼を睨んだ。

 

 

―――――――――

     ―――――――――

           ―――――――

二人の人影が土煙の中此方に向かって来る。

「ヤツめ、『分身』を盾にして爆発に紛れ、壁を破壊して部屋の中に逃げ込んだのかッ…!」

ライフル弾を爆弾に変え、吉影は身構える。

「右のヤツか!?左のヤツか!?どっちを倒す!?どっちが『本物』だ?すぐに決めないと……」

ゴオオォォォォ!!

二つのフランのシルエットが電光石火の速さで吉影に迫る。

「まず、わたしの『右手』を攻撃されるッ……」

吉影の頭脳が対抗策を模索する。

(ヤツの『分身』は恐らく感覚の共有もないオートコントロールの『偽者』…、そして…さっきの『身代わり』の様子から戦闘中の傷までは再現出来ないようだ。それならば…!!)

ゴオオォォォ!!

二人のフランが土埃の中から飛び出した。瓜二つの少女達が、吉影に襲い掛かる。

(『腕』!!)

キラークイーンの双眸が、左側のフランの『右手』の欠損を捉えた。

(こいつだ!!『左』のヤツ…、

ッ!?)

ライフル弾を向けようとした瞬間、キラークイーンの瞳が『右手』以外の異常を捉える。

(いや…『違う』!二人共服に『血のシミ』が無い!!『本物』は『服の汚れた』ヤツだ…『本物』が『腕』のヤツとは限らない…自分で右手を破壊出来る…!!)

左のフランが弾幕を撃つ構えをし、右のヤツが拳をグッと引く。

(この二人は壁を『能力』で破壊せず足で蹴破って出てきた…つまり、『能力』を持つのは『本物』ひとりと予想できる…わざと私が『右手』で見分けようとするのを…フランドールはすでに計算に入れている。)

二人が目前まで迫る!だが、彼の意識は自身の『目』に向けられていた。

(わたしの『目』が引き寄せられる…方向は…もうひとりいるッ!!うしろだッ…!!)

キラークイーンの脚で後ろに跳躍し、二人の攻撃を避ける。後ろを振り向くと彼女は、いた。『左手』を吉影に向けていて、右手が無く服に血のシミが付着している。

(いた!こいつだッ!!)

空中で身体を捻り、背後から『目』を引き寄せていたもうひとりのフランを狙う!

「しばッッッ!!!!」

満身のスタンドパワーを籠めて放たれた手刀が、フランのわき腹を突き破った!手刀はそれで止まらず、内臓をかっ捌き、脊柱を叩き斬り、反対側に抜ける。

「…があっ……!?」

両断されたフランの身体が盛大に内臓をぶち撒け、糸が切れた操り人形のようにフッと力無く落下を始める。瞳が『信じられない』といった風に見開かれ、口から鮮血が迸る。

(勝った!)

血飛沫と臓物がスローモーションのように飛散する世界で、フランの口が『何で――』と動く。そして――――――

 

『―――――勝った気になってるの?』

逆さまに落下し血が溢れるフランの口が、ニィッと不気味に笑った。次の瞬間、

ビシャァッ!

「なッ!?」

フランの身体が空中でドロリと溶け、霧散した。それと同時に

「残念♪」

「ッ!!」

振り返った瞬間、腹に強烈なボディーブローが叩き込まれた。

「がはッ……!?」

メキメキと肋骨が軋み、血を吐き出す。

「ハズレよ、『本物』は私。私の禁忌『フォーオブアカインド』は『能力』もコピー出来るし、服もさっきの『分身』と取り替えておいたの。」

吉影を殴った『分身』の後ろで、『本物』のフランが悪戯っぽく笑う。

「私は貴方に近づかない。『爆弾』や『見えない人』に反撃されちゃったら、今度こそやられちゃうだろうから…。だから……」

フランの瞳が鋭く吉影を睨み付ける。

「壊しなさいッ!」

『分身』が左手で吉影の肩を掴む。右拳を引き絞り、力を溜める。ビキビキと細い腕の筋肉が緊張し、血管や筋が浮き上がる。まともに喰らえば人間など、一撃で肉塊と化してしまうだろう。

(マ、マズイッ!)

危険を察知した吉影は、考えられないような行動をとった。

「キラークイーン!!爆破しろッ!!」

ドグオオォォォォ!!

渾身の右ストレートが放たれるのと吉影が怒鳴るのと、『分身』が爆発するのは、同時だった。

「えっ!?」

「ぐあぁぁぁッ!!」

零距離での爆発に、吉影の身体は吹き飛ばされる。

ドシャアァ!

7、8メートルぶっ飛ばされ、床に叩き付けられる。勢いが殺されるまでズザザーと滑り、全身を打撲した。

「ぐ…うう……クソっ…」

キラークイーンに支えられ、吉影は立ち上がり逃げようとする。

「…フフッ、まさか爆風で脱出するなんて…」

爆発から離れていたためダメージのなかったフランが、地面に降り立つ。

「でも…それほどの『覚悟』を持ってやったことも…ただの『悪あがき』でお終いよ。」

足を引きずり離れて行こうとしている吉影の背中に、左手を向ける。

「きゅっとしてドカーン。」

ボゴォォ!

「ッ!?」

足元の床が砕け、足をとられて倒れ込む。

「ぐっ…!」

尚も立ち上がろうとする吉影に、フランは語り掛ける。

「……貴方には感謝しているわ…貴方が私の右手をこんなにしてくれたお陰で、頭に上ってた血が抜けたもの…」

ボグオォォォ!

左手を握りしめると、吉影の頭上で天井が崩落した。

「あぐあぁぁ…!」

キラークイーンに腕で防御させる力も無く、瓦礫を背中で受け止めさせるが、ダメージがフィードバックする。

「さっきはちょっと怒ってたから、『すぐに終わらせる』なんて言っちゃったけど…今はそんな気にはならないわ。」

左手を握る。床が炸裂し、破片が吉影の身体を穿つ。

「ぐぅ…ッ!」

「…ギリギリまで長く、アソンデアゲル。頭とかはすぐ死んじゃうって聞いたから、まず足を潰してあげるわ…それから両手をクシャクシャにして……」

フランが小さな舌をペロっと可愛らしく出し、左手を舐める。爆発で飛び散り付着した吉影の血が爆炎の熱で乾き、チョコレートコーティングされたコーンフレークのように、噛むとサクサクと心地よい歯触りと音を立てる。

「…最後に血を吸ってあげるわ…首筋に歯を突き立ててね。私も初めてだけど、そろそろ『大人の階段』を上ってみるのも良いかなって。そうすれば……」

キラークイーンの指先が瓦礫の一つに触れようとするのを、フランは見逃さなかった。

「あらダメよ、おいたしちゃ♪」

左手を吉影に向け、彼の『目』を引き寄せる。吉影はやむを得ず自身の『目』を抜き取る。

「私も貴方も『能力』は使えなくなっちゃったけど…私には『弾幕』があるわ。」

左手の引力を緩めず、フランは弾幕を放つ。

ビシィッ!

弾幕が吉影の右手親指をへし折った。

「ぐあッ…!」

吉影の押し殺した叫びを聞き、フランはニィッと邪悪に笑う。

「人間って不思議ね。指先とか、爪とか、死んだりしない場所でも、同じように痛がるもの。妖怪じゃあこうはいかないわ…」

さらに弾幕を乱射し、吉影の背中に浴びせる。

ドドドドドドドドド!

「ぐッ!がはッ…!!」

傷付き爆弾を封じられ、吉影は頭を守りしゃがむことしか出来ない。状況は誰が見ても一方的だった。 「でも、何時も脆いと思っていたけど、人間も意外ともつのね。ちょうどよかったわ…このまま暫く『遊んで』、お姉さまに渡せば…」

「……………フフ……」

フランが吉影の背中を見つめる。

「………なに…?なにか可笑しいことでもあったかしら…?」

不愉快そうにフランは話し掛ける。

「………フ……フフッ…フフフフ……」

吉影が身体を起こし、振り返った。

「…フフフフッ……何が…可笑しい…かって…?」

笑い、吉影はフランの顔を見上げる。その目には、死や痛みへの怖れは微塵も無かった。ただ、強い『覚悟』を湛えているだけであった。

「君の…『未熟さ』がだよ…フランドール。」

フランのこめかみがピクッと動いた。

「なんて…言ったの…今…?私が、『未熟』って…」

フランの狙いが吉影の足に向けられる。

「ああ、そう言ったよ。君は『未熟』だ。」

吉影がフランの瞳を睨む。

「…君、確かこの『遊び』をしているのは、君の姉に言われて…だったな…?」

「…うん、そうよ。だから、貴方を殺さないように……」

「そこが『未熟』だと言ったんだよ。」

吉影の台詞に、フランが目付きを鋭くする。

「……貴方…私が貴方を殺せないと思って、調子にのってるの?言っとくけど、私は貴方を『殺せない』んじゃなくて『殺さない』だけよ。貴方を殺すも殺さないも、私の気分一つで……」

フランの話を遮り、吉影が口を開く。

「嘘だ!君に私は殺せない!」

「なッ…!?」

フランの動揺を、吉影は見逃さなかった。

「君はさっき私から『血を吸う』と言った。なのに、その数秒後には『姉に引き渡す』に変わった……何故だ?何故特に原因もないのに急に心変わりした?」

「だ…だから…貴方を『殺さない』って、お姉さまと…」

畳み掛けるように問い詰める吉影に、社会経験皆無のフランはたじろぐ。

「また言ったな『お姉さま』と!君は姉の言いなりじゃあないか!」

フランがカッとなり、怒鳴り声を上げる。

「違う!私はアイツの言いなりなんかじゃない!!言いなりにならないために今ここにいるのよ!!」

「いいや、君は姉には逆らえない!!」

吉影が語勢を強め、言い放つ。

「根拠はある…フランドール、貴様は私の血を吸うと言ったが……その後――何と言おうとしていた…?何か姉に聞かれてマズイ事を話そうとしていたんじゃないか?」

「っ!な、なんでそんな事が分かると言うの!?私はそんな事――」

反論しようと口を開くが、黙らされてしまう。

「『そうすれば』と言った後、一瞬だが……目が泳いだッ!壁に監視カメラが無いか確認していたように見えたが……!?」

「ッ!!」

フランがビクッと背筋を震わせる。

「そして監視カメラが無い事を確認した後も、お前はその言葉を飲み込んだ。姉に聞かれる心配も無いと言うのに……君は姉に逆らうような事を言えない。最初に遭遇した時は初対面の私に対してあれほど姉の悪口をぶちまけていたのに…」

「うっ…あっ…そ、それは…」

吉影の発する言葉が、フランの幼い心を絞めあげていく。反撃する間も与えられずに、蛇のように俊敏に潜り込み、毒牙を突き立てる。

「理由は、お前が自分で言った事…『冷静になった』からだ…君は、興奮したり頭に血が上ったり…そうなったりすると、感情が抑えられなくなる…。だから、興奮状態にあったお前は、私と最初に対面した時姉の悪口を言えた。だが…右手が破壊され、興奮がおさまると、貴様の心には別の感情が拡がった…」

フランは吉影の瞳に心を覗き込まれているような気分になり、彼に恐怖をおぼえ始めていた。

「『恐怖』……君の姉に対する恐怖だ。自分をこんな暗い地下に閉じ込め、自分の微小な世界と他の世界との唯一の繋がりとなっている…彼女を怒らせたら、自分は完全に孤独になってしまう…そんな『怖れ』に縛られているんだ!」

フランがショックを受け、愕然と目を見開いた。

「うっ…!うう……あ、ああっ…!」

自分の心を見透かされ、フランの感情が爆発した。

「黙れっ!」

ドドドドドドドドドド!!

弾幕が吉影に襲い掛かる。

「あがッ!はぐっ…!!」

吉影がぶっ飛ばされ、床を転がる。

「グッ……貴様がどれだけ弾幕を撃とうとも、『事実』は変わらない……!!」

口から血を流しながらも吉影は口を閉じない。

「黙れぇッ!!」

ドドドドドドドドド!!

「あぐあぁぁッ!」

弾幕が直撃し、吹き飛ばされ壁に激突した。

「が…あ…っ!」

壁に背を預け力無く崩れ落ちるが、さらに強くフランを睨み付ける。

「フン…わたしを殺すか…!?それも良いだろう…わたしを殺そうが殺すまいがお前は姉の『奴隷』である事は変わらないッ…!そうやって同じところをぐるぐる廻り続けていろッ!姉の『ライオン』として頭を垂れ、『負け犬』のまま地下で朽ち果てろッ!!」

「黙れェッ!!」

ドドドドドドドドトォォォ!

「ぐあ…ッ!」

嵐のような弾幕が吉影の身体を穿つ。

「黙れッ!黙レッ!ダマレェェェェェ~ッ!!」

フランが絶叫する度に無数の弾幕が吉影に襲い掛かる。

「うおおおああァァァァァ―――……!!」

「―――ハア……ハア…だ……ま…れ…!黙…れ……」

弾幕を撃ち過ぎて全力疾走したようにフランは肩で息をしている。

「ガ……ハ…ゲホッ…!!」

対して吉影は、弾幕の集中砲火を受け満身創痍であった。彼の背中が当たっている壁の無惨な姿を見れば、フランの猛攻がいかに強力だったかは一目瞭然である。

「ハア……フフっ…もう…口もきけないようね…貴方が何と吠えても、貴方の死という『事実』は変わらないわ……お姉さまのことも…今は関係ない…『負け犬』は、貴方よ…!」

フランがトドメを刺そうと、弾幕を放とうとした時だった。

「…フフ……フハハハ…ハハハハハハ…!」

「…!?」

瀕死であるはずの吉影が、薄ら笑いを浮かべ顔を上げた。

「君は…わたしの言ったことを…勘違いしているようだ……わたしの言った『事実』も、『負け犬』も…!最初から君が『わたしに』負ける事を言っているのだッ!気付かなかったかッ!?わたしの『目』に注意するあまり、『肉眼』で周りの状況を把握しなかったか!?ここに至るまでの通路と!この通路の『明るさ』の違いに気が付かなかったか!!」

「ッ!?明かり…!?ハッ!!」

慌てて『目』の視界から肉眼に切り替えて辺りを見回すと、確かに異常な暗さだった。光源と言えば、彼女の背後の蝋燭のみ………

「このためだったのだ!あらかじめ闘うルートを決め、『その道筋以外』の『蝋燭』を消しておいたのは、このためだったのだ!わたしが貴様を挑発し、弾幕で撃たれるままに『あえて』なったのは、此処に貴様を誘導するためだったのだッ!!そして…ッ!気付かなかっただろう…?あれほど『絶叫』して、『弾幕』を乱射していたんだからなッ…!!徐々に近くなっている『音』にッ…!!」

ドグオオオォォォォ!!

背後で突如大爆発が起こった。

「えッ…!?」

フランが反射的に振り返った。そこには、粉々に爆砕され崩壊した壁。

「そうら・・・もう来たぞッ!!蝋燭の『道しるべ』を辿って・・・そしてッ!たった今ッ!!最後の蝋燭の灯が消えたッ!!つまり、残った『熱源』は・・・?」

『蝋燭』が爆破されたため、『肉眼』では何も見えない。咄嗟に『目』の視界に切り替えたが―――

「えッ!?」

遅かった。既に『髑髏の死神』の手は彼女の目前に迫っていた。

ギャルギャルギャルギャル……

『死神』が咆哮し、目の前の少女に残酷に死の宣告をする。

「コッチヲミロォ~」

フランの眼前でシアーハートアタックが爆発した。

ドグオオオォォォォ!!

「ギャアアアァァァァァァァァ!!」

咄嗟に左手で身体を庇い、左手が千切れ飛んだ。爆炎がフランの胴体を貫き、爆風が彼女の小さな身体を吹き飛ばした。

「フン……餓鬼の相手の割には手こずってしまったが……」

壁に叩き付けられ、くずおれるフランを一瞥しながら、吉影は立ち上がる。

「まあいい…わたしは『最初から』勝っていたのだからな……」

―――――――――――――――

 ――――――――――――――――

  ――――――――――――――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「う……ああ……うわあぁぁぁぁ………!」

輝之輔はガクガクと震え、悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えた。彼の視線の先には、爆炎の中から姿を現した大図書館の主、パチュリー・ノーレッジが、ドス黒い殺気を纏って佇んでいた。

「…ねえ……輝之輔……?」

パチュリーが瞳を鋭く細め、彼をキッと睨み付ける。

「…貴方…何やってるの?いつの間に魔理沙と闘えるほど強くなったと言うの?」

彼女の口から発する一言一言が、呪詛のように輝之輔の心臓を締め付ける。

「…それはどういう意味?つまり え? その行為の意味は??

私は闘えないと言った貴方の事信頼して仕事を任せてやったというのに…貴方はその心を無視して、ずる賢く誤魔化そうとしてるって事ね!?

私の目を盗んで!

この行為はそーゆー事なの?

え?そーゆー意味なのね?おい!」

青白い肌を怒りで真っ赤にし、ワナワナと拳を震わせる。

「二人の関係はおしまいなのかァーッ!!

答えろォォォォォーッ!!」

普段の彼女からは考えられない怒鳴り声を張り上げ、感情を爆発させた。

「う…うう……ああ……ッ!」

輝之輔はガクガクと震える膝を押さえつけ、己自身と向き合う。

(……今………僕の目は閉じていない……しっかりと見開かれている……

…つまり、僕は今目の前の『魔女』を怖いなんて思っていないッ…!)

膝の震えを押さえるのを止め、震えに身をまかせてみる。

(この震えは…『恐怖心』から来るものじゃない…!これは…『武者震い』だッ!眼の前で今がなり散らした、僕を奴隷のようにこき使ったこの『魔女』への怒りだ!こんなにも面白い能力を身につけたのに、それを楽しむ事もなく暗い地下で燻っていた『理不尽』への憤怒だ!この僕が陰気な引きこもり女にビクビクさせられ、この最高の能力を『ハタキ』替わりにされた『屈辱』への憤りだッ!そして…!)

輝之輔の背中から、有り得ないほどの負のエネルギーがオーラとして見えそうなほど立ち上る。彼の瞳が黒い焔を帯びる。

(この一ヶ月、そして本棚に仕舞われていた年月…溜まりに溜まったそれら全部をこの女にぶつけてやれる、『歓喜の震え』だッ!!)

輝之輔の心に、最早『恐怖』は無かった。顔をあげ、キッとパチュリーを睨み付ける。

「………何…よ…その目は…!?」

パチュリーの表情が一段と険しくなるが、彼は臆することなく口を開く。

「『信頼』…?『裏切った』…!?さっきから自分の都合ばかり語りやがってッ…!」

怒り、怨恨、苦痛、輝之輔の言葉に負の感情が滲む。憎悪の念が台詞と共に洪水のように溢れ出した。

「この一ヶ月間、僕を馬車馬のように働かせたのは何処の『魔女』だ?こんな薄気味悪い地下に僕を閉じ込めて、カビの生えたパンと水だけで過ごさせたのは誰だッ!?それが何?『命の恩人』?『雇い主』?笑わせるな、人並みの慈悲も持ち合わせない、只の『偽善者』のクセにッ!日光浴が足りずに皮膚が冷えきって、神経まで届かないんだろうが!?自分のエゴだけ呑み込んで、自尊心だけ膨れ上がった引きこもりの女王様なら、そうやって本棚に囲まれて、いつまでもマスターベーションに耽っていろッ!!この……『紫モヤシ』がッ!!」

怒りのままに一気に捲し立て、輝之輔は紙を取り出した。『ファイナルスパーク』と書かれた紙だ。

「……ふうん……貴方の気持ちは、良く分かったわ……」

パチュリーがヒクヒクとこめかみを動かしながら、輝之輔を睨む。

「それで…まさか貴方、私に『勝てる』…なんて、考えてないでしょうね…?何故、急にそんな『自惚れ屋』になったというの…?まさか…魔理沙を追い返したくらいで、私とも闘えると、そう思っているんじゃないでしょうね…!?」

パチュリーの双眸がギィィン!と光った。

「その癪に障る過小評価を正してあげるわッ!!」

彼女の号令と共に、大量の本が輝之輔を取り囲んだ。パラパラと風も無いのにページが捲られ、魔力を発する。

「……ッ!?ぐああぁぁぁぁ!!」

輝之輔の全身を電撃が駆け巡った。

(ぐっ…!う、動けない…!『エニグマ』で紙化する事も出来ないッ!拘束用の魔方陣か…!?)

「……『対スタンド用無効化拘束術式』…幻想入りする『スタンド使い』が増加した時に備えて、美鈴との共同開発で完成したけど…まさかこんなにも早く実戦での実験が行えるとは、夢にも思わなかったわ……」

パチュリーの表情は怒りをとうに通り越し、無表情といえる様子だった。ただ、その背後から輝之輔の其れを凌駕するほどのドス黒いオーラが立ち上っている。

「さあ…トイレはすませたかしら?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?まあ、貴方には震える事すら出来ないでしょうけどね…。」

指一本動かす事が出来ない輝之輔を養豚所の豚を見るような目で眺め、手元の本を開く。

「丁度今日は喘息も調子が良いから……喜びなさい、一瞬で消し炭にしてあげるわ…」

パチュリーが詠唱を始めた。彼女の周囲に膨大な精霊の力が集い、彼女の怒気と同化して、圧倒的な熱を帯びる。彼女の十八番、日符『ロイヤルフレア』なぞ比べ物にならない、殺意をみなぎらせた魔力。常人なら近くにいるだけで気絶しかねない。だが――

(………………ッ?)

詠唱を続けながらパチュリーは輝之輔の顔を一瞥した。

(……妙ね、輝之輔のような下っぱのカスは、こんな時には怯えた狗のようにへつらうかと思っていたけど…)

輝之輔は、笑っていた。口角をあげて、何処か『勝利』を確信したように。

(まあ、たぶん見間違いね…ワライタケや笑気ガスといった麻痺系の薬物の影響を受けた人間は、顔の筋肉が麻痺してさも笑っているかのように口角を引きつらせるらしいわ。きっと此れも術式の麻痺効果の影響………)

パラッ――

(?…後ろで物音が……)

パチュリーが反射的に振り返った瞬間だった。

「…………えっ…?」

彼女の目に飛び込んで来たのは、空中に浮かぶ一枚の写真だった。そして、それがどういう事か考える前に―――――

ぶわぁぁぁァァァァァァァァ

おびただしい量の埃が彼女の顔を襲った。

「なんッ……!?ううっ!!」

突然の事で口と鼻を覆う事も出来ず、写真から溢れ出した埃を吸い込んでしまい、むせかえる。輝之輔を縛っていた本がバタバタと落下し、彼は解放された。

「フ~~~っ…、やっぱり貴方達と組んどいて正解でしたよ……吉良の親父さん。」

パチュリーの背後に仕掛けておいたトラップ用の写真を見て、輝之輔は一人ごちる。

「……さあ…ようやく僕の『番』だ…」

ニィーっと口角をあげて、輝之輔はパチュリーに歩み寄る。

「かはっ…!げほっ、ケホッ……!」

床に無造作に転がる本を蹴飛ばし、うずくまり激しく咳き込むパチュリーの前に佇む。

「おやおや…どうなさいましたか…?『パチュリー様』…?」

マルフォイさながらの嫌味をたっぷり含んだ口調で、輝之輔は語り掛ける。

「あれ、この埃、僕が今日集めた量と同じではないですかぁ~、全く、誰でしょうかね…?人の『仕事』を無に還すような事をしてくれたのは……」

肺の空気を全て吐ききっても、パチュリーはヒュー、ヒュー、と咳をし続ける。ガクガクと背を震わせ、爪で苦しげに床を掻きむしる様は、まさに虫の息であった。

「う~ん…しかし、埃っぽいですねぇ、この辺りは…」

輝之輔はパチュリーの前で屈み、彼女の髪を掴んで強引に顔をあげさせた。

「きっと乾燥しているからでしょう…少々、『水分』が必要みたいですねぇ……」

輝之輔は一枚の紙を取り出した。元々色白の顔がさらに青白くなり、目をぐるぐる回して悶える彼女の口を開き、紙を押し込んだ。

「……ム……グ…!」

パチュリーの手が弱々しく彼の手を掴み、抵抗しようとする。その姿は溺死しようとする者が闇雲に何かに掴まろうとしているようであったが、輝之輔は冷酷に振り払う。そして………

「……がッ……がぼっ…!?」

消え入りそうに呼吸をしていたパチュリーの口から、大量の水が滴った。彼女の両目が絶望に見開かれる。

バッシャアアァァァァ――

パチュリーがおびただしい量の水を吐き出し、バタリと仰向けに倒れ込んだ。

「人間が水で溺れる時間は訓練された者で5分から7分かかるという……だがそれは空気を吸い込んで肺の中に残っている場合だ。もし両肺の中の空気を全て吐き出させた状況下でなら……人は『数滴の水』で即死状態で溺れ死ぬッゥゥゥ―――ッ!では――さあて、『魔女』なら…どうなんだろうな…?」

 

「……!――――!――――!!」

喉を掻きむしり、白目をむいて悶え苦しむパチュリーを見下ろし、輝之輔は口を開く。

「さあ…どのくらい肺に入った?数滴?それともコップ三分の一くらいか?まあどちらにしろ…気分は大海原に飲み込まれていく苦しみだろう……」

パチュリーは呻き声一つあげることも出来ず、海老反りに仰け反ってのたうち回る。その動きすら弱々しくなり、彼女が絶命するのは時間の問題かと思えた。

だが、パチュリーが死の苦しみに衰弱していくのと反比例して、輝之輔の表情は凶悪になっていく。

(違う…っ!こんな物じゃない…!!)

輝之輔が忌々しげにギリッと歯軋りする。

(コイツは今、『恐怖』していない…!ただ窒息という『苦痛』に悶えているだけだッ…!)

『恐怖のサイン』を見付けなければ彼女を『ファイル』することが出来ない。早まって息の根を止めに掛かってしまったことを後悔する。

(この『僕』に『恐怖』しろ……!『僕』の『存在』に刮目しろッ…!今までコケにしてきた『僕』が、どれ程恐ろしい存在であったか『認識』しろッ!!)

輝之輔が足を振り上げ、パチュリーの頭を踏みつけようとした。その時――

「輝之輔!吉影から電話が来たぞ!!『アレ』をやる時じゃ、直ぐにここから脱出する!!」

際限無く膨張していく彼の怒りと加虐心に水を差したのは、吉良吉廣の声だった。彼は輝之輔の頭上の写真から顔を出し、輝之輔を呼ぶ。

「くそッ!まだこれからだってのに…!!」

忌々しげに舌打ちし、輝之輔は振り上げていた足を下ろす。

「コイツで……!お返しとしてやるッ!!」

彼のスタンド『エニグマ』で自分を拘束した本を『紙化』し、パチュリーの頭上に掲げ、まとめて引きちぎる。彼女の自信作は一瞬で紙の束となり、動かなくなった彼女の身体に降り掛かった。

「ほれ、何をしておるんじゃ!さっさとここから逃げ出すぞ!!」

急かす吉廣の言葉に輝之輔は自身を『紙化』し、写真内空間に入っていった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

「――――――あ……あうウ…!ぎゃあアぁァァ…!!」

うずくまり、フランが痛みに悲鳴をあげる。手首から先が吹き飛んだ左腕から鮮血が噴き出し、彼女の服を深紅に染め上げる。

ギャルギャルギャル…

「コッチヲミロォ~」

シアーハートアタックがフランに向かって突進し、大爆発した。

ドグオォォォォォ!

「きゃあアァぁァァァ!」

幼い彼女の身体は木の葉のように宙を舞い、壁に叩きつけられた。

ドグシャァッ!

「がぁっ……ギっ…!?」

フランはくずおれ、床にへたりこむ。

「よし…左手をぶっ飛ばしてくれたな……よくやった、戻れ、シアーハートアタック。」

キラークイーンの左手の甲に、爆弾戦車が収納された。

「…どうだね…?『理解』したか…?君は『最初から』わたしに敗北していたのだよ…」

立ち上がらず、座り込んだまま吉影はフランに声を掛ける。

「………ウ…グゥ……」

フランは呻き、顔をあげた。その瞳にまだ闘争心の灯を灯し、吉影を睨む。

「………ギ……ッ……!うっ…ウウウぅ…!」

痛みに目を潤ませ、憎しみに表情を歪める。

「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

ドオォォォォッ!

フランが吼え、粉砕するほどの力で壁を蹴り、紅い弾丸のように吉影に突っ込んでいく。

「ほう……まだ『闘える』気でいるのか……」

全身傷だらけで壁に背をあずけている吉影は、しかし、その圧倒的な生命力を目の当たりにしながらも、一切の動揺無く感心する。

「だがしかし……言っただろうッわたしは『最初から』勝っていたのだッ!!」

バッ…バッ…バッ…バッ…バッ…バッ…バッ…バッ…バッ…

突如聞こえてきた物音に、フランは気付かない。

バッ…バッバッバッバッバッバッババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ……………………………

無数の『写真』が、地下空間の天井を覆い尽くした。そこから舞い落ちる、無数の『紙』。

一枚が、フランに触れ、展開した。

バッシャアアァァァァァッ

「ギャアぁァァァあッ!?」

フランは塀に激突したトラックのように動きを止め、絹を裂いたような悲鳴をあげてのたうち回る。

「輝之輔が『ファイル』した湖の水だ……吸血鬼の君には、爆弾以上の効き目があるだろう……?」

紙は次々と舞い落ち、一枚一枚がタクシー一台分もの水をぶちまける。紙が水に戻り襲い掛かる度に、フランの全身を硫酸を浴びたような激痛が襲う。一瞬の内にフランは海をひっくり返したような滝壺に叩き込まれた。

「ぎゃ…!アぁ……ぁぁァぁぁぁ……、………………………――――――」

水の檻の中でフランの手の無い腕が、何かにすがろうとするように掲げられた。それも直ぐに見えなくなり、悲鳴も掻き消されてしまった。

吉影が、無感動に呟いた。

「……チェックメイトだ………………」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「………ねえ…どういうことよ…これは…?」

レミリアが頬杖をつき、苛立った口調で射命丸に突っ掛かった。

「何で昨日休戦してから一度も二人の姿が見えないのよッ!退屈で仕方無いわッ!!」

「そんな事言われましても…此方も予算の都合で、全ての場所をカバーしきれているわけではありませんので…おそらく何処か死角になっているところに……」

そう呟き、モニターを見上げた射命丸はハッと息を飲み、硬直した。

「ッ!?まさか、まさかこれは……!?」

「何よ、何か分かったというの!?」

射命丸はゴクリと喉を鳴らし、冷や汗を流す。

「やられました…このモニターに映っている映像…!一つも『蝋燭の炎』が揺らめいていないッ!!」

「えッ!?そっそれってつまり……!!」

射命丸がこくりと頷く。

「……これらの映像は、全て『偽物』です」

ガタンッ!

レミリアが椅子を蹴倒し、射命丸を押し退けて部屋から飛び出した。

(…悪い予感がするわ……!)

バタン!

蝶番が弾け飛ぶほど勢い良く扉を開け、まっしぐらに地下へと向かう。

(フランっ……!どうか…どうか…!!)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「――――――…………………………………?…………」

フランは、ゆっくりと目を開けた。目の前には見慣れた煉瓦敷の床ではなく、フローリングの床が見える。

「…………………ん……………」

フランは身体を起こそうとするが、力が抜き取られ身動きがとれない。気だるげに拒否する身体を使役し、なんとか顔はあげる事が出来た。

「………………!………」

その時、ようやく彼女は気付いた。彼女の目の前に立つ、男の足に。

「…………ぁ……ぁぁ……!」

震えながら彼女は顔をあげ、男の顔を見上げた。

其処に無言で佇むのは、吉良吉影。彼は怒りも喜びも無く、只静かに立ち尽くしていた。

「………ぅ………ぁぁ………!…ぅぇぇ………」

フランの衰弱した身体がふるふると震える。目に涙が滲み、頬を伝う。

「ぁ………ぁぁ………たす…け…て………おねがい………」

掠れ震える声を絞り出し、涙を流しながら彼女は哀願する。吉影の顔は陰になっていてその表情は伺い知る事は出来ない。

「やめて……いやッ…!助けて、死にたく…ない…………ッ」

清い水に浄化され力を流されてしまった身体に鞭を当て、フランは請い願った。

「………………………………………」

だが、吉影はそんな幼子の生々しい姿にも一切の感情を見せず、冷酷に見下ろしていた。

「ぁぁ……ごめんな……さい……助けて…、お願い……!……ひっく…………!」

吉影は無言で右手を振り上げる。

「ひぃ………ッ………!」

ビクッとフランは目を瞑り、身体を強張らせた。

 

 

 

……ポンッ…

 

「―――――……………ぇ………?」

頭に軽い感覚を感じ、フランはゆっくりと目を開け、吉影を見上げた。吉影の右手が、彼女の頭に帽子を被せていた。

「…………わたしも……『独り』だった……」

吉影の右手が、優しく彼女の頭を撫でる。

「…………わたしも……何時も『孤独』だった………………誰も『外の世界』には、わたしの『能力』を理解してくれる者はいなかった…………」

「………………………?」

フランは、虚ろな目で吉影を見上げ、不思議そうに首を傾げた。

「…………皆……わたしが触れると…『壊れて』しまった………誰も彼も……わたしを恐れ…遠ざけた……」

吉影は何処か遠くを見ているような口調で、独り言のように呟くと、フランを見下ろした。

「…………わたしは……同じだ………君と………」

吉影は哀しそうな、だが優しげな声色で、フランに語り掛ける。

「………わたしも……危険な『能力』を持って、生まれてしまった。わたしも…そのために『孤独』だった……」

慈しみの籠った目で、フランの顔を見下ろし、彼は続ける。

「……わたしも…家族に幽閉されていた………

………そして……わたしも人を『壊さず』にはいられない『性(さが)』を持っている……」

見上げるフランの瞳と、見下ろす吉影の眸が合った。彼の目は、フランが暗い地下で過ごしてきた人生の中で見た事の無い、『慈愛』に満ちた物だった。

「今まで……辛かっただろう……寂しかっただろう………

……だが……もう恐れる事はない……君はもう『独り』じゃあない……」

吉影の言葉が、温もりと共にフランの心を氷解させた。

「―――――【友達】に、なろう。……わたし達は……『友達』だ……」

 

 

(……………なんだろう………この『気持ち』………)

フランが、心の中で呟いた。

(…………とっても………あったかい……優しい……感じがする……この人と一緒なら……『安心』していられる気がする………)

彼女に自覚は無かったが、フランはこの一日半、異様なまでに吉良吉影に執着していた。最後まで『外来人』である彼と『スペルカードルール』に従って闘った事も、普段の彼女からは考えられない事だ。その事からも、彼女が無意識的に吉影に関心を寄せていた事が窺える。それは単に『能力』が似ていた事が理由ではなく、 フランが彼に『より深く通じ合った物』を感じたからだろう。

また、彼女は広大であるとは言えこの一日半『閉鎖空間』に吉影と二人きりで過ごしてきた。彼女がこれ程濃密に人と過ごした事は、姉や他の館の住人とすらなかった。それらの『環境』も、『ストックホルム症候群』に近い症状を演習し、彼女の心を動かした要因となっていた。

と、吉影はおもむろに右手を自分の顔の前に掲げ―――――

スパッ――

キラークイーンの手刀で、人差し指を軽く切った。

「あっ…………」

驚きに目を見開くフラン。

「おっと……指を怪我していたようだな……黴菌でも入ったら事だ……『舐めてくれ』」

目の前に、吉影は人差し指を近付ける。

「え……っ………?」

フランは思わず戸惑った。当たり前だ、吸血鬼にすすんで血を吸わせようとする人間など、居るわけがない。しかも、たった今『友達』になった人間から血を吸うというのも彼女を躊躇わせた。

「フランドール、『命令』だ…『舐めろ』」

吉影の強い口調に、フランは彼の人差し指に焦点を合わせた。傷からポタ…ポタ…と滴る血の雫が、彼女の深紅の双眸に映った。

「あっ……………」

紅い宝石のように光る雫に、彼女の瞳が釘付けになる。理性が失われていき、目が恍惚の光を帯びる。頬が赤く上気する。

「あ……あぁぅぅ………」

その妖しい輝きに吸い寄せられるように、フランは口を近付ける。吐息が激しくなり、おそるおそる舌を出して、滴る命の雫に触れる。一滴…二滴………暖かく、優しい刺激が彼女の舌の上から霞のかかった脳に伝わり、覚醒させた。

 

「ハァ……ハッ………ハァ……」

舌をぺろっと伸ばして、吉影の指に触れる。傷口に舌を沿わせ、其処から流れ出す血潮を舐める。衰弱し冷えた彼女の身体を、温もりが脈動と共に拡がっていく。青ざめた肌に赤みがさし、血の気が戻っていく。ついに堪えきれず、口に含んだ。

「んっ……むぅ………ハッ……はむ…ッ……ハァ……」

哺乳瓶からミルクを飲む子猫のように、夢中で指を舐める。舐めて、しゃぶり、貪り、ねぶる。彼女の口内を、鼻腔を、濃厚で甘美な風味が、芳醇な香りが満たす。それはまさに【フォービドゥンフルーツ(禁じられた果実)】だった。

「そうだ………良い子だ……」

吉影が口角をあげ、優しく囁く。

「ぷはぁっ……!」

口を離すと、フランは倒れ込む。小さな口が荒い呼吸を刻み、快楽の余韻にヒクヒクと痙攣している。

彼女の側に佇む吉影は、片膝を着き屈み込んだ。フランの耳元に口を寄せ、何事かを囁こうとした、その瞬間だった。

「……ッ!?」

気がつくと彼は何者かに腕を捻り上げられ、床に押さえつけられていた。

(何ッ!?いつの間に……、ッ!?)

抵抗しようとして、喉元にナイフを突きつけられて硬直する。

「動くな、下衆ッ!」

怒鳴り声と共にナイフを握る手に力が籠る。切っ先は既に皮膚を破り、血が流れ出していた。僅かでも動こうものなら、ナイフを握る者が彼の首筋をかっ斬るまでもなく喉笛に新たな呼吸口が開くだろう。

(くっ……この声…あのメイドかッ!…しかし……どういう事だッ?直前まで全く気が付かなかった……!いや、それどころか『攻撃された』事すら認識出来なかった…!!今回も最初の時も……、これは……そうだッ間違いないッ!!『あの時』の感覚……!!)

彼の脳内を駆け巡る、自身の死の瞬間の記憶。今彼が陥っている状況は、その時のものと酷似していた。

「咲夜、止めなさい。」

幼い声が図書館に響き、メイドの手に込められた力が緩んだ。吉影は顔を上げ声のした方を見た。

其処に佇んでいたのはこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。

「ですがッ…!お嬢様…!!」

咲夜は興奮冷めやらぬ様子で反論しようとしたが、

「悪魔の『契約』は絶対なのよ、知っているでしょうッ?早くナイフを退けなさいッ!!でないと私は…!」

レミリアは咲夜に飛び掛かろうとする身体を必死に押さえ付ける。咲夜は渋々と吉影の首筋からナイフを離し、彼を解放した。

「ぐっ…!ゲホッゲホッ……!」

呼吸すら出来なかった吉影は咳き込み、捻り上げられた肩を押さえる。就寝前のストレッチのお陰か、そこまで痛みは無い。

「咲夜ッ!フランは……!?」

レミリアの狼狽した声に、咲夜はフランのもとに駆け寄った。全身ずぶ濡れで床に倒れ伏す彼女の表情は虚ろで頬が紅潮し、熱にうなされているように何かうわごとを呟いている。

「大丈夫です、命に別状はありません!ですが、激しく衰弱しています!早く治療を…!」

「その必要…は…無い…」

二人の視線が、吉影に集中する。

「わたしが…先程、『血』を与えた……吸血鬼の代謝に詳しくはないが……『血液』を摂取すれば回復力は増大するんだろう?」

吉影は立ち上がり、レミリアを見据える。

「なんで…すって……!?『血』を……!」

レミリアが驚愕に目を見開き、言葉に詰まった。と、その時

「お嬢さまぁ~!!」

小悪魔の泣き声に、三人は顔を向ける。其処には、瀕死のパチュリーを肩で支える小悪魔の姿があった。

「パチェっ……!」

レミリアは小悪魔のもとまで飛び、親友の容態を確認する。そして、愕然とした。

パチュリーは息をしていなかった。肌は死人のように冷たく、目が開く様子もない。

「ああッそんな…!!パチェっ!パチェっ!!」

レミリアの悲痛な呼び掛けにもピクリとも反応しない。

「咲夜ッ!直ぐにフランとパチェを運んで手当てなさいッ!小悪魔、貴方は永遠亭の薬剤師を呼んで来てッ!!」

咲夜は一度吉影を憎悪を籠めた瞳で睨むと、

「かしこまりました。」

フッと瞬時にパチュリーと共に消え失せた。驚愕する吉影の横で、次の瞬間フランの姿も消える。小悪魔も大慌てで図書館を飛び出していった。

「ああ……フラン…パチェ……………!」

レミリアは顔を両手で覆い、悲嘆にくれる。

「……………………………」

「………何よッ!?」

無言で見詰める吉影に、レミリアは噛みつく。

吉影は謝辞を述べるべきか少し考えた後、逆上させるのがおちだと結論付け、話し掛ける。

「……悪魔の『契約』は絶対…なんだろう…?約束の『賞金』を、渡して貰おうか。」

「『賞金』?何故私がお前にそんな物をあげなくちゃならないの?」

怒りの籠った声で彼女は答える。

「とぼけるな、確かに聞いたぞッ!わたしが『賭け』に勝ったら、新聞の通り『賞金』を出すと―――――」

吉影の怒声を遮り、レミリアは言葉を繋いだ。

「お前は『賭け』に勝ってなんていないわ。よく思い出しなさい、『勝利条件』は『三日間地下で生き延びる』こと。それを貴方は二日と経たずに出てきたわ。」

「なッ……!!」

吉影が凶暴に顔を歪め怒鳴る。

「ふざけるなッ!!何のためにわたしが餓鬼のお守りに命を賭けたと思っているッ!!そんな『屁理屈』が通用すると思っているのかッ!!」

ズドオオオォォォォンッッッ!!!!

吉影の頬を真紅の槍が彗星のように掠めて行き、背後の本棚を粉微塵に吹き飛ばした。

「……それ以上……口を開くな………人間…ッ……!!」

シュウゥゥ……レミリアの左手が煙を上げていた。紅い瞳が殺意をみなぎらせ、吉影を睨む。吉影も初対面の時のように臆することなく、彼女の目を睨み返す。

暫く無言で睨み合っていたが、レミリアは『契約』で攻撃出来ず、吉影は満身創痍で立っていることもままならない。お互いに手だし出来ないなら、膠着状態すら生まれないので、ようやくレミリアは怒りを抑えて口を開いた。

「本当なら今すぐにでも殺してやりたいけど……『契約』だから、怪我を治療してやるわ……但し永遠亭の薬剤師にはみせない…包帯でも軟膏でもくれてやるから、勝手にしなさい。」

憎々しげにそう言うと、レミリアは指を鳴らし妖精メイドを呼んだ。

「連れていけ。」

五人の妖精メイドが吉影を支え、図書館の出口へと連れていく。

「「………………………………………………………………」」

二人がすれ違う瞬間、二人の間にバチバチと火花が散った。

吉影は無言のまま、図書館から外に出ていった。

 

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バサァッ………

バサァッ………

紅魔館のテラスから、一対の翼が夜空へと飛び立った。それは小悪魔の翼でもなければ、蝙蝠の翼でもない、黒い羽毛に覆われた漆黒の烏の翼。

「フフフ…………戦闘場面はあまり撮影出来ませんでしたが……肝心の場面はおさえてやったわ……」

翼を翻し、矢の如き速さで夜空を駆けていく影は、不気味にほくそ笑み、呟いた。

「これであの人間に『復讐』出来るわ……ああ、『復讐』は蜜より甘い……見出しは何が良いかしら……『悪魔と契りを結んだ外来人』……これが良いわね……」

ニィッと凶悪な笑みを浮かべ、影は湖の上を横切る。満月まであと僅かの月の光を浴び、彼女はまっしぐらに妖怪の山へと向かっていった―――――――――――――――

 

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エンディングBGM Silver Forest 『sweet little sister−』

 

 




第十二話、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたなら幸いです。
前中後と三話続いた『紅魔館地下決戦編』はこれにて終了です。
この話の中で何が描きたかったかといいますと、勿論『同じタイプの能力同士がしのぎを削る戦い』『チンケと言われた輝之輔の意外な強さ』などありますが、なんと言っても一番は『きらフラ』、吉良吉影とフランのカップリングです。能力の類似、殺人欲求と破壊欲、成熟した理性と歪な幼稚さ、二人の似通った部分と相反する性格は最良の組み合わせだと考えています。しかし、ニコ動、pixiv、色々な場所でこれをテーマにした作品を探していたのですが、全く見つからず、「無いなら作ればいいじゃない!!」と、この作品全体のテーマとして掲げることにしたのです。
そんなわけで、二人の関係はこれから一気に親密になっていきます。二人の仲がどのように発展するか、お楽しみに(あ、『きらけーね』も忘れないで下さいね)

次回から、『起承転結』でいう『転』に差し掛かっていきます。ご期待下さい。
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