【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~ 作:どくたあちょこら~た
『第十四話 座して死を待つものならば…』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「―――――――………………………」
眠りから覚め、慧音はゆっくりと目を開けた。
「……………………ん…………」
何度か眠たげにまばたきし、徐々に眠気が晴れてくる。
目を開くとそこには白い天井がある。
どうやら自分はベッドに横たわって眠っていたらしい。
「……………………」
まどろみの中、彼女は自分が何故自宅の寝室以外の場所で寝ていたのかと考え、ふと横を向き―――
「…………、ひゃッ!!!?」
眠気も思考もぶっ飛んでしまった。目の前に吉影の寝顔があったからだ。
「ひぇッ!?」
掛け布団を跳ねのけ、慧音は飛び起きる。
おそるおそる吉影の方を見ると、彼は椅子に座ったまま、ベッドにもたれかかるように寝ていた。
「お、驚いた…………!!」
慧音は寝起きで一気に跳ね上がった心拍数を抑える。
当の吉影はベッドに突っ伏し静かな寝息をたてていた。
「……寝ずに看病してくれたのか……」
昨夜の出来事を思い出し、慧音の表情に陰が差す。
だが、吉影が睡眠を削ってまで自分を看病してくれたことは嬉しかった。
室内を見渡すと、そこは診療所の病室だった。
窓から柔らかな日が差し、室内を照らしている。
「……………………ン……」
と、吉影がピクリと動き、目を覚ました。
ベッドから顔を上げ、身体を起こし、慧音に目を向ける。
「慧音……起きていたのか…」
吉影は椅子に腰掛け、慧音に向き直る。
慧音も身体を動かし、吉影に身体を向ける。
「ああ、お早う川尻。」
慧音は柔らかく微笑む。
「お早う、慧音。
…どうやらいつの間にか眠っていたらしいな…」
つられて吉影も笑顔を返すが、すぐに暗い表情になる。
「……すまなかった……君を、こんな目に遭わせてしまって……」
落ち込んだ表情で謝る吉影に、慧音は声を掛ける。
「……あれは私が勝手に飛び出しただけだし、ただの『事故』だった…君が責任を感じる事はない。
それに、君は私を懸命に看病してくれただろう?
気に病む必要は無いよ。」
「………………ありがとう、慧音。」
慧音の言葉に、吉影は顔を上げ礼を言う。
が、彼の顔から暗い雰囲気が消えることはなかった。
ガラッ―――
と、病室の扉を開け、看護服を着た兎が入ってきた。
「慧音さん、川尻さん、お目覚めでしたか。」
兎は二人の近くまで歩いてきた。
「ええ、おはようございます。」
慧音は兎に挨拶し、ふと訊ねる。
「永琳はどちらにいますか?
きっと治療してくれたのは彼女だろうから、お礼をしたいのですが…」
「師匠は貴女を治療した後、永遠亭に戻られました。
最近妖怪の急患が増え、大変多忙でいらっしゃるので…」
「そうですか…では、鈴仙は?」
「彼女も師匠の助手をしていますので、永遠亭に居ます。」
「…分かりました。
今度永遠亭を訪れた時、お礼を致します。」
会話が終わったところで、兎は慧音の容態や昨夜からの里の動向を説明し始めた。
兎達が現場に到着した時、慧音は吉影の蘇生により心肺停止から回復していた。
その後診療所に運ばれ応急措置を受け、永琳の到着で治療を開始し現在では健康な状態にまで回復しているという。
また、里の自警団が男達を取り調べたところ、彼らが投げた爆弾には数十本もの釘が仕込まれており、吉影の爆弾よりむしろ殺傷範囲は大きく、もしそのまま爆発していたら慧音は顔に女として致命的な傷を受けていたかもしれなかったらしい。
男達は自警団に補導されたが、慧音の直接の負傷要因は吉影だという事で釈放され、吉影も自衛のためやむを得なかったと不問に付された。
話が終わり、兎は病室から退室した。
「…………………………………」
吉影は思い詰めた様子で俯いていたが、やがて決意を秘めた表情で話を切り出した。
「…慧音、わたしは……人里を、出ていこうと思う。」
「……!?」
慧音が息を呑み、目が見開かれる。
「…実は、昨夜君の治療が終わった後、永琳と相談したんだ。
彼女は快くわたしが永遠亭に住まう事を了承してくれた。
今夜にも荷物を纏め、此処を離れるつもりだ。
竹林を案内してくれるよう、永琳が妹紅に伝えてくれた。だから―――」
バッ――
「――――?」
突然慧音に抱擁され、吉影はやや狼狽える。
「……私の…せいか…?」
慧音は吉影の背に回した腕でぎゅっと抱き締め、掠れた声でささやく。
「私が…君の事で傷付いたからか…?
私が、君を『迷惑』に思っていると…そう思っているのか…?」
慧音が顔を上げ、涙の滲んだ瞳で吉影を見上げる。
「私なら大丈夫だ。
あの程度でまいってしまうほど短い人生を歩んで来たわけじゃない。
……私には、里の一部の者達に非難される事よりも……」
強い目付きで、吉影の瞳を見つめ、噛み締めるように言葉を繋いだ。
「…君が…私から離れてしまうことの方が…ずっとずっと…辛いんだ………」
「……………………………」
吉影は見上げる慧音を見下ろし、彼女の双眸を見つめ返す。
幾ばくかの静寂の後、吉影はやんわりと慧音の肩に手を載せ、身体から離れさせた。
「……慧音…すまないが、これはわたし自身のためだ。
もうこの人里に居たくないし、天狗や妖怪の目に怯えて生活なんてしたくない……」
きっぱりと決心を籠めた声で、吉影は慧音に伝えた。
慧音は少しショックを受け目を見開いたが、残念そうに、溜め息をついた。
「………分かった…君がそう言うなら、仕方ないな…」
何処か諦めたように、慧音が呟いた。
スッ――
と、吉影の手が慧音の手に重ねられ、優しく持ち上げた。
「――ありがとう――慧音――――」
吉影の両手が、慧音の手を優しく包んだ。
二人の瞳が、お互いの瞳を見つめ、幾ばくかの時が過ぎていった―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「―――――――これで全部か……」
荷物を鞄に詰め、吉影は呟いた。
慧音の家で生活するようになってから別に買う物も無かったから、増えた持ち物といえば給料と和服くらいなので、なんともこじんまりとした荷物だ。
「………しかし……寂しいものだな……」
吉影は慧音に借りていた自分の部屋を見渡した。
自分が去っても、部屋の内容は殆ど変わらない。
それは里の殆どの住人にとっても同じ事なのだろう。
障子越しに茜色の夕陽が射し込み、またもの悲しさを掻き立てていた。
(…………………感傷に浸るなど、わたしらしくもないな……………)
クルリと背を向け、部屋を後にする。
靴を手に縁側を歩き、裏庭に出た。
裏庭に立っていた妹紅が此方に気付き、振り返る。
「よお、こんばんは。」
「今晩は、妹紅。
今日は永遠亭まで宜しく頼む。」
吉影も静かに挨拶で返す。
が、やはり何処か名残惜しそうな表情だった。
「………永遠亭に入院していた男衆は今日退院だそうだ。
お前と入れ違いで帰ってくるから、向こうでは安心して生活してくれ。」
妹紅が気を遣ってくれていると感じ、吉影は落ち着いたいつもの雰囲気に振る舞う。
「そうか、それなら心配無いな。
永遠亭には今妖怪の患者が多く入院しているそうだが、そっちは問題ないのか?」
「安心してくれ。
永遠亭の敷地内では患者は原則平等、妖怪達も馬鹿じゃないし、追い出される危険を冒してお前を襲ったりしないさ。
―――それに、永遠亭のメンバーはみんな強いから、いざという時は守ってくれるだろうし、みんな穏やかで人当たりも良いから、過ごし易い所だと思うよ。」
妹紅の言葉を聞いて吉影は、やはり妹紅はなんだかんだ言って永遠亭のメンバーを好いているのだと思った。
輝夜も永琳も彼女と同じ永遠を生きる者であり、過去の因縁も含め慧音と同じくかけがえの無い『絆』なのだろう。
フッ、と吉影は微笑んだ。
「ああ、そうだろうな…
だが、出来れば宴会の時は『脱兎』の如く逃げられるように備えておきたいな。」
吉影の微笑を見て、妹紅も安心し笑顔になる。
「ところで、慧音はもう退院したのか?」
「ン、そうだな。
今夜は満月だから『歴史編纂』のため退院するといって聞かなかったんだ。
もう少し安静にしておくべきなのにな……」
「大丈夫、あいつは不死身の私より強いから。
それに、あいつの『歴史』に懸ける情熱は凄いしな、その情熱を授業を面白くする方向に持っていけば良いのに………、
おっ」
妹紅が言葉を切り、吉影の後ろを見た。
吉影はその視線を追い、背後を振り返る。
慧音が佇み、吉影を見つめていた。
「慧音………」
吉影は慧音と向かい合い、別れの言葉を言う。
「この一ヶ月、世話になったな……ありがとう、本当に感謝している。
今夜の『歴史編纂』、無理はしないようにしてくれ。」
「川尻………」
慧音は吉影の目を見据え、名残惜しそうに言った。
「永遠亭では幸福に暮らしてくれ。
風邪はひかないように気をつけて……すぐに治してくれるだろうけど……
…またすぐに永遠亭を訪ねるだろうから、その時まではお別れだ。
君を護ることは出来なかったが、これからの君の幸せを祈っている。」
「……………ありがとう。」
吉影は振り返り、妹紅の背に歩み寄る。
妹紅は姿勢を落とし、『いつでも行けるぞ』と彼に目を向けた。
「………さよならだ、慧音。」
「ああ、さようなら、川尻。」
慧音の表情は、よく見えなかった。
だが、またすぐに会えるのだ。
吉影は荷物を持ち妹紅の背におぶさる。
「さあ、行くよ!」
妹紅の足が力強く地面を蹴り、身体が浮かび上がる。
小さくなっていく見上げる慧音の姿、慧音の寺子屋を吉影は見下ろしていた。
「間もなく日没だ。
日が暮れる前にいったん私の家に寄って、明日の朝方永遠亭に向かうぞ!」
妹紅の身体がグンッ!と加速し、迷いの竹林へと向かう。
夕陽を横に見ながら、二人は茜色の空を飛んでいった
―――――――「よっと、到着だ。」
トンっ、と妹紅が足を地面につき、彼女の自宅前に降り立った。
「ここが私の家だ。
汚いところだが、今夜は此処で過ごしてくれ。」
吉影を下ろし、振り返る。
「おや?どうした、具合が悪そうだが?」
吉影はふらふらとややおぼつかない足取りで立っていた。
「いや、なんでもない……久しぶりに飛んだから、酔っただけだ……」
吉影は少し調子の悪そうな声で答えた。
日が暮れた竹林の暗さのせいで彼の顔は陰り、どんな表情かは分からない。
「はっはっは!!それは悪かったね!」
妹紅が快活に笑う。
「さあ、家に入って晩ごはんとしよう。
大丈夫、すぐに酔いもぶっ飛ぶくらい美味い物を作ってやるからな!」
妹紅がくるりと吉影に背を向け、家の玄関へ向かった。
すっかり日も暮れ、『満月』の光が射す竹林の中を歩いていく。
その膨大な魔力のせいだろう、自分に向けられた限り無く黒い意思に気付くことはなかった。
「昨日、美味しそうな筍を見つけたんだ。
今日はそれを使って筍ご飯を炊こうかなと思って―――」
妹紅が扉を開け、一歩家の中に踏み込んだ時だった。
ゾクッ―――
「―――ッ!!!?」
背後に感じる強烈な殺気に戦慄する。咄嗟に振り返った瞬間、満月の光を背に佇む吉影の姿が目に入り―――――――
ドグオォォォォォォォ!!
「――――――………う……ぐっ…………!」
瓦解した家の梁に押し潰され、身動き出来ない妹紅に、吉影は悠然と歩み寄る。
「か、川尻……何を……!?」
妹紅が苦しげに吉影を見上げるが、彼は一切気に留める様子なく自分の『爪』を眺める。
「『爪』……のびているだろう…こんなにのびている……」
「……………………?」
吉影の爪はミシミシと軋み、目に見えるほどの早さで伸びていた。
「…自分の『爪』がのびるのを止められる人間がいるだろうか……?
いない…誰も『爪』をのびるのを止めることができないように…持って生まれた『性』というものは誰もおさえることができない…どうしようもない…困ったものだ。」
吉影は独り言のように呟く。
その瞳は底の見えない漆黒で、無機質な黒い石のような輝きを放っていた。
「(ま、まさか……『満月の魔力』にやられたのかッ!?
しかし、この『落ち着き』、『言語能力』……!
ただ月の狂気に冒されただけではなさそうだ……!!)
川尻ィ……!な、何故こんなことを………!!」
ギリリと歯を噛み締め、吉影を見上げる妹紅を、吉影は無表情に見下ろす。
「『趣味』なんだ。
君を選んだのも『趣味』だし、持って生まれた『趣味』なんで前向きに行動してるだけなんだよ…『前向き』にね…」
吉影は話し終えると、『キラークイーン』を出現させる。
瓦礫の下から覗く『彼女』が傷ついてないことを確認し、手を振り上げる。
「(ま、マズイッ!何故こうなったか詳しくは分からないが…今は身を護ることを考えなければ!!)
うおおおおおおおおおおおッ!!」
全身から焔を放ち、家の残骸である瓦礫を焼き尽くす。
「むっ…………!」
『キラークイーン』の脚でバックジャンプし、焔から距離をとる。
業火の中で立ち上がった妹紅を見据え、『キラークイーン』に身構えさせる。
「川尻……お前が狂ったのが『満月』のせいなのか、他の要因なのか分からないが……」
決意を籠めた瞳で吉影を睨みつける。
「お前は今ここで、私が止めるッ!
そして永遠亭に連れていって、狂気や怪我も治してやる!!」
勿論妹紅には彼の命を奪うつもりはない。
下顎に蹴りを入れるなりして気絶させようと考えていた。
だが、彼女が駆け出そうとした時だった。
「……ッ!?」
妹紅の身体が固まり、動かなくなった。
「なっ…!?か、身体が……!!」
硬直したまま、妹紅が目を大きく見開く。
「……我がキラークイーンの『第一の爆弾』は、爆弾に変えた物がどんな状態になっても爆弾として『固定』され、『不発』は有り得ない………
そう、例え燃やされて『煙』になったり、『灰』になったりしてもね……」
身体にまとわりつく『煙』の重みに身動き出来ない妹紅に、吉影は冷酷に呟き――――――――『キラークイーン』のスイッチを押した。
ドグオォォォォォォォ!!
――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――ガリ…
―――ガリガリ……
ガリガリガリガリ…………
「―――――――くっ………」
爪を噛む顎に力が籠もる。
爪が傷つき、血が滲む。
「吉影…………」
頭上の写真から、吉良吉廣が顔を覗かせる。
「お前ともあろう者が……妹紅を始末するなんて……馬鹿なことをしたな……!」
責めるような口調で、吉廣は吉影に話し掛ける。
「これから……どうするか…今考えている……」
吉影は唸るような声で答える。
「考えてももう無駄じゃ。
あの小娘は全身跡形もなくぶっ飛ばされても復活出切るぞ…!
『被害者』を『始末』出来ないのでは、『秘密』を守る事など出来るわけがない…」
吉廣は吉影を問い詰める。
「少し……黙っていてくれ……今…考えている……」
吉影の爪からの出血が激しくなる。
そんな吉影の様子を見て、吉廣は大粒の涙を流し泣き始める。
「(人間は誰でもこの世に思い通りにならない事がある事を幼い時に学習する……ほしいオモチャを買ってもらえなかったり、褒めてほしい時に誰も頭をなでてくれないといったようにな……………
吉影……お前はそんなどうしようもない時決してわめいたりする子供ではなかったが……、爪をよく噛む子じゃった……今のようにな……)」
吉廣の皺だらけの頬を、涙が伝う。
「(可哀想に…………絶望した時…お前は血が出るほど爪を噛む……
お前は今とても『絶望』しているのだね…………………)」
吉廣は涙をゴシゴシと拭い、吉影に提案する。
「もう切り抜ける方法は一つだけじゃ……まだ間に合う……『バイツァ・ダスト』を使うんじゃ…!
あの能力で時間を一時間巻き戻して、能力を解除すれば『運命』の繰り返しは起こらず、お前の『記憶』も戻ってくる……そうすれば……」
ガシィッ!
「『戻す』だとッ!?それが何になるッ!?
慧音の『歴史編纂』は今夜だぞッ!
わたしが妹紅の死体から『手首』を持ち去ろうとしたことも、何度も慧音を殺そうとしたことも、全てバレてしまうんだッ!!」
吉影の剣幕に、吉廣は怯む。
「人里の未開人共からは離れられたが、天狗はきっと執拗にわたしを付け狙い、わたしの『平穏』を蹂躙していくッ!!
以前言っただろう!?このわたしが追ってくる者を気にして背後に怯えたり、穏やかでも安心もできない人生をおくるのはまっぴらだとッ!!」
がなりたてると、吉影は写真から手を離す。
その表情には切迫した緊張感と並々ならぬ決意が込められていた。
「…わたしは…逃げも隠れもしないぞ…!!……決して……!」
爪を噛むのを止め、吉影は吉廣に向き直る。
「『アレ』を……やるぞ…!!」
その言葉を聞き、吉廣は驚愕する。
「あ、『アレ』をやるのか!?
しっしかし、『アレ』はあまりにも不安要素が多すぎる!!成功する確率が……!!」
バギッ!!
吉影の拳が竹を叩き折る。
「『出来る』『出来ない』じゃあないッ!
『やらなければならない』のだッ!!」
その気迫に、吉廣は押し黙る。
「……輝之輔は協力しそうか?」
「……ああ、ヤツは既に『玩具』を揃え、早く外の世界に戻って売り飛ばしたいと思っておる……
それに、ちょっとばかし気が大きくなっておるから、怯えて協力しないということもないし、わしらの協力無しで帰れるとも考えてはおらん……」
「よし、ヤツの力があれば、有利に『事』は運ぶ……!
『勝算』は…あるッ!!」
吉影は吉廣に向き直り、指示を出す。
「親父は、輝之輔の『スタンド』を使って『準備』を進めてくれ。
わたしは前話した通り、『奴ら』を待ち構える…
親父には『もう一方』を任せた。
手筈通りやってくれ。」
吉廣も決心を決め、目を鋭く細める。
「ああ、分かったわい……」
吉廣は写真の中に潜る。
写真の枠から出ていく前に、彼は吉影に声を掛けた。
「吉影……死ぬなよ……」
「………ああ…そのつもりだ…」
吉廣は写真の枠の外に消えた。
写真を懐にしまい、懐のポケットに仕舞ってある妹紅の手首を見下ろす。
「わたしは……なんとしても生き延びてやるぞ…!
生きて『平穏』を、この手に取り戻してみせるッ………!!」
顔を上げ、夜空を見上げる。
竹林の竹の葉の合間から、『満月』がその禍々しい顔を覗かせていた。
「……この世界に……『戦争』をッ!申し込むッ!!!!」
彼の爪に、『か』『つ』という文字が浮き出ていた―――――――
ED ゼッケン屋 『エソテリアン・ヒステリア』
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「―――――――お嬢様、天狗からの伝書烏が。」
玉座に座るレミリアの前に、咲夜が姿を現した。
「ふ~ん、私の妹が人間の眷族になったなんていう記事を書いたことを、謝罪する内容かしら。
もっとも、どんなに許しを乞おうと赦すつもりはないけどね。」
レミリアはカップを置き、咲夜の渡してきた紙を受け取って広げた。
「………フフッ……やはり天狗ね…ずる賢いったらないわ。」
読み終えると、レミリアは微笑を浮かべた。
「お嬢様、手紙にはなんと…?」
咲夜が訊ねると、レミリアは紙をヒラヒラと彼女に向けた。
「『あの外来人』が、里を出たそうよ…
しかも竹林の人間も護衛につけずに、一人で竹林をうろついているらしいわ。」
「!!
そ、それでは!?」
レミリアが口角を上げ、ニィッと笑う。鋭い牙がキラリと覗く。
「ええ、そうよ。
パチェとフランの敵を討つ時が来たわ。」
「それは大変喜ばしいことでございます。
―――ですが、あの天狗がそれほどの情報を無償で提供するとは思えません。
また何か裏があるのでは……」
「安心なさい、その件もここに書かれてあるわ。
フランの記事についての免罪と、『取材』の許可をもらいたいそうよ。
まったく、こうなる事を予想して記事にしたなんて、本当に狡猾な種族だわ。」
レミリアはひとしきり笑った後、咲夜に命令する。
「『契約』は成立だと書いて送り返しなさい。
それからパチェのところに行って『仕度』をしなさい。
美鈴も連れて行くから準備するよう伝えて。」
「御意。」
恭しくお辞儀をし、咲夜は姿を消した。
「フフッ……里でかなり迫害されて、苦しめられたようだけど……貴方の『罪』はその程度ではすまないわ…」
レミリアはカップの紅茶を飲み干すと、
「誇り高き吸血鬼を……私の妹を蹂躙した『罪』を……償わしてやるわ、『川尻浩作』……」
カップを握り潰し、破片が飛び散った。