【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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本編と繋がりのあるスピンオフ回です。題名通りフランが主役でございます。 大幅な書き直しを行っていないので、未熟な文章になっております。また、軽度のちゅっちゅ表現もございます。ご了承ください。


閑話休題 『U・N・オーエンは恋しているのか!?最終鬼畜妹フランドール・S・V』

前話から時間を遡り、吉影が紅魔館から帰還して里人の襲撃を受けた後の話――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――――――――――

――――――……………………………」

吉影は目を覚ました。掛け布団をどかし、気だるそうに身体を起こす。

「……………………」

吉影の表情は彼の陰鬱とした心情をよく表していた。目の下の隈、濁った瞳。里人の迫害により彼が受けたストレスがどれほど彼の精神を蝕んできたのか、その様子を一目見れば理解出来るだろう。

――――だが、今彼の心を覆っている雲はそれが原因ではなかった。

「………………よし、日の出前だな……」

障子を開け、吉影は日の光の無い明け方の空を見上げ呟く。彼の口調は『よし』という言葉とは正反対の、苦痛を滲ませた声だった。

障子を閉め、踵を返し布団の上に戻ると、吉影は辺りの気配に耳を澄ませる。

傍に誰もいない事を確認し、懐から『写真』を取り出した。『中』を覗き、吉影は声を掛ける。

「…………フランドール………聞こえているか……わたしだ………」

『写真』から慌ただしい音が聞こえ、突然真っ暗だった写真から光が射し込んで来た。それと共に少女の黄色の髪と紅い瞳が、小窓から覗くように現れる。

「吉影っ!今夜も来てくれたのね!」

フランドール・スカーレットは吉影の訪問に、主人の帰りを嬉しがる仔犬のように喜びを隠さない。

「ああ、『約束』通りやって来たよ。『友達』との約束は破るわけにはいかないからね。」

吉影も疲労の色を隠し笑顔を返す。

 

今吉影とフランの二人は会話をするのに吉廣の新能力【Crazy Atom Faith Father】の写真を通している。紅魔館での地下決戦の決着後、フランの帽子に『写真』を仕込み渡していたのだ。そして吉廣の『アトム・ハート・ファーザー』と『切断されても平気』という外の幽霊の特性を利用し、吉廣の魂の一部(足の小指)を写真空間内に残しておいた事で、二人の手元の写真同士の空間を繋げ、小窓のようにお互いの顔を見たり声を聞いたり出来るようにしているのだ。

ちなみに、本体吉廣が射命丸に抹殺された後も吉影がフランを呼び出せたのは写真内に親父の一部が残留していたからである。

 

「吉影………吉影ぇ……………早く…早くアレを………」

紅潮した顔で、フランは吉影に乞う。

「やっぱり……あ、貴方のじゃないと駄目なの………

他のじゃ全然、満足出来ないの…………!」

頬を上気させ、吉影を潤んだ瞳で見上げる。

ここで彼女の望む通りに行動していては、彼女に対して『上位』に立つ事は出来ない。 吉影は落ち着いた雰囲気の声で、フランをなだめる。

「―――わたしの訪問をそれほど楽しみにしていてくれたんだな。頼りにしてくれているようで嬉しいよ。

―――でもその前に、いつも言っている事をやって貰わないと………フランドール、君は良い娘だから、それまで我慢出来るな?」

写真に手を突っ込み、フランの頭を優しく撫でる。フランは頬を赤く染め、しばらく吉影の手に身を任せていた。

「―――うん、分かった。」

吉影が手を離すと、フランはクルリと背を向け自室の扉へと歩み寄る。

フランが吸血鬼の聴覚、第六感で外の気配を確認している間、吉影は密かにほくそ笑んでいた。

彼が先程フランの頭を撫でようと写真に手を入れた時、彼女は彼の『待て』という命令を忠実に守ったからだ。

彼女――フランドール・スカーレットが狂気の悪魔と揶揄される理由、それは彼女が『契約を反故に出来る悪魔』であるからだ。考えてみろ、もし彼女が『契約』で縛れるなら、姉は彼女を暗い地下に閉じ込める必要はなかったはずだ。ただ『外に出る時は自分の命令を遵守する』という約束を交わさせれば、悪魔の血がフランドールの肉体と精神を完全に拘束し、何のリスクも無く散歩させられるのだから。

そして今彼女は餓えに飢え、『あれ』を渇望している。理性では抑えられないほどに欲しているはずだ。以前のワガママ妹様なら堪えきれるはずがない。しかし、彼女は極めて忠実に、吉影の『命令』を実行している。すなわち―――

「(―――目覚め始めたな…………悪魔の血が……)」

写真の小窓から死角となっている位置で、吉影は口角を上げて笑う。

「(何故……わざわざ、わたしがフランドールに血を与え、手懐けておいたのか?

このためだったのだ……フランドールから悪魔の『性(さが)』を引き出し、わたしの眷族に変えるためだったのだ……)」

吉影は目論みの成就を確信し愉悦に浸っていたが、すぐにまた陰鬱な表情に戻る。これから払わなければならない『代償』を思い浮かべて。

「―――吉影………大丈夫よ、誰も張り込んでいないわ。」

フランが戻ってきて、小声で吉影に話し掛ける。

吉影は写真の小窓の前に顔を戻し、落ち着いた微笑を浮かべる。

「よし、『約束』通り我慢出来たな。良い娘だ。」

まだすぐには『あれ』を与えてやらない。焦らしてやったほうが有り難みを感じるモノだ。

「吉影…………早く………ハァ………もう我慢出来ないの……ああ、早く………」

虚ろな瞳で吉影を見上げ、フランは急かす。鋭い八重歯の覗く小さな口が生暖かい吐息を吐き、紅潮した彼女の表情は何処か背徳的な色気を孕んでいた。

「(―――そろそろいいか。)」

何度か深呼吸し吉影は覚悟を決め、フランに微笑み掛ける。

「よし、『約束』を守れた『ご褒美』だ。じっくり堪能してくれたまえ。」

吉影は彼の背後に『キラークイーン』を出現させ――――――――――

スパッ――

キラークイーンの手刀で、人差し指を軽く切った。

写真に手を差し入れて、フランの目の前に人差し指を近付ける。

―――ポタ………ポタ………

滴る紅い宝石のように光る雫に、彼女の双眸が釘付けになる。

「―――はぁ………」

フランは彼の人差し指に焦点を合わせ、恍惚の嘆息を漏らす。まるでそれだけが自身の安らぎであるかのように、ほっ………、と安心の溜め息を吐いた。

「ハァ……………ハァ…………」

フランは口を近付ける。舌で滴る命の雫に触れると、一滴…二滴………と、甘い温もりが彼女の舌の上から全身に拡がっていく。

「ハァ……ハッ………ハァ……」

舌をぺろっと伸ばして、吉影の指に触れる。傷口に舌を沿わせ、其処から流れ出す糖蜜のように甘美な血潮を舐める。暫し夢中で吉影の指を舌で愛撫し、至福の時を味わっていた。

だが、足りない。彼女の身体は貪欲に血を欲していた。ついに堪えきれず、口に含む。

「んっ……むぅ………ハッ……はむ…ッ……ハァ……」

哺乳瓶からミルクを飲む子猫のように、夢中で指を舐める。舐めて、しゃぶり、貪り、ねぶる。彼女の口内が、鼻腔が、濃厚で甘美な風味で、芳醇な香りで満たされていく。

「そうだ………良い子だ……」

吉影が写真に顔を寄せ、甘く囁く。

だが、内心では彼はこの行為を嫌悪していた。想像してみて欲しい、彼はフランの就寝前に合わせて夜明け前に起床したばかりなのだ。寝起きでいきなり指先を生暖かい湿り気でベタベタにされては、誰だって不快だろう。自分だってそーだろう。

また、調子に乗って血を与え続けていると、吸血鬼の唾液には血液の凝固を阻害する成分が含まれているため際限無く出血してしまう。しかも、吸血時は血だけでなく『精気』のような物も吸っているのか、著しく消耗してしまうのだ。

以上の事から、吉影はフランに血を吸わせる事を嫌がっていた。

もし彼が幼女趣味を持っていたり指を舐められて悦ぶような人間であれば話は違っていただろうが、ご存知の通り彼は健全な手首愛好者であり舐められるよりむしろ舐める事を好む男であるので、この状況を楽しむ術などあるはずない。

それでも彼はこの苦労が何時か功を結ぶと信じ、毎晩フランへの『餌付け』を行っていた。

「ぷはぁっ……!」

口を離すと、フランはパタンと倒れ込んだ。小さな口が荒い呼吸を刻み、快楽の余韻に浸ってヒクヒクと身体を痙攣させている。

「(くそ………!やはり、かなりキツいな………)」

吉影はすっかり力を奪われ、ガクリと膝を折る。写真から手を引っ込めると、人指し指からはまだ血が流れ出ていた。

吉影は少し迷った後、フランの唾液で濡れている人指し指を自分の口に含んだ。手っ取り早くフランの唾液を取り去り、自分の唾で消毒するためだ。

『吸血鬼の唾液なんて摂取して大丈夫か?』という疑問はあるが、既に傷口からガンガンに取り込んでいるので今更気にしない。

「(――――――………しかし………)」

吉影は写真から、床に伏せるフランの様子を眺める。

「(何故これ程までわたしの血に執着するんだろうな……新鮮な物なら、メイドから普通に入手出来るだろうに。)」

フランの部屋の中に目を移すと、吉影はその異常な依存性を目の当たりにした。

壁にへばり付いているのは、ケーキの残骸だろうか。赤黒いスポンジ生地と赤黒いクリームがべったりと張り付いている。フランが壁に投げ付けたのだろう。

扉の傍の床には、粉々に割れた食器が血のスープの水溜まりの中に散っていた。さらに、一度口に入れて吐き出したと思われる物も床に落ちている。

「(………どうやら、本当にわたしの血以外は喉を通らないようだな。)」

吉影は口角を上げ笑う。フランが彼の血を必要としている限り、彼女は彼に依存する以外ない。『契約』にも逆らえない。フランが彼の駒となるのも、時間の問題だろう。

「――――――――――ん…………………」

と、フランの身体がピクリと動いた。顔を上げ、写真越しに吉影を見上げる。

「ありがとう……とっても濃くって美味しかった………

気のせいかしら、毎晩だんだんと美味しくなっている気がするよ……」

満足気に溜め息を漏らし、無邪気な笑顔で吉影を見つめる。

「(だんだん美味くなっている?わたしの健康状態は確実に悪化しているが………)」

吉影は首を傾げるが、実はフランがそう感じる理由はその『彼の健康状態の悪化』にある。

妖怪は犯罪者、落ち込んでいる者、怨みを抱いている人間を特に好む。以前フランに血を与えた時、彼はまだ『犯罪者』の項目しか満たしていなかったが、現在は三つとも当てはまっている。それゆえ、フランが彼の血を『更に美味しくなっている』と評したのは正しいという事になるのだ。

頭に浮かんだ些細な疑問は置いておき、吉影は取りあえず適当に応答し、お休みの言葉を掛ける事にした。ぶっちゃけ、早いとこ床に就きたかったのである。

「そうか、君が喜んでくれているならわたしも嬉しいよ。

――そろそろお別れの時間だ。わたしはもうおいとまするとしよう。じゃあ、おやすみ―――」

話を切り上げ、写真を仕舞おうとした時、

「あ、待って!」

フランが慌てて呼び止めた。

「?

何だね?」

吉影は写真を覗き込み、フランに目を戻す。

「―――あの……………その……………えっと……………」

フランは頬を赤らめ、モジモジと俯いている。少しして、彼女は上目遣いに、気恥ずかしそうに言った。

「……フランって呼んで………ほしいな………って。」

「―――?」

照れながら言うフランに、吉影は首を傾げた。フランは言葉を続ける。

「お互いもうお友達……いいでしょ?吉影、フランって……呼んで欲しいの……。…みんなが妹様って呼ぶ…お願い、吉影………」

「―――(…なるほど、そういう事か…)」

納得し、吉影は答える。

「そうだな、何時までも『友達』を愛称で呼ばないというのも変だからね。これからはそうさせて貰うよ、フラン。」

吉影は優しい声で彼女に言った。フランは嬉しそうに微笑む。

「ありがとう、吉影…。

……でも、ちょっと違うの…」

「?」

フランはまたモジモジと言いよどむが、思い切って吉影の目を見つめ、言った。

「フランっておもいっきり!

…なじるように呼び捨てにして欲しいの………っ!」

「―――???」

吉影は戸惑った。最初に彼女が言った事、それは容易に理解出来る。だが、今さっき彼女の言った事の意図はさっぱり分からない。何故『なじるように』などと注文してくるのか、冗談かと思い見つめ返すが、彼女は本気で言っているように見えた。

「…………………」

吉影は辺りを見渡し、気配を探った。傍に誰もいないのを確認し、吉影はフランに向き直り、言った。

「フラン!」

なじるように言い放つと、フランはゾクゾクと身を震わせる。

「ああ~~~いいッ!

イイッッ!!とてもいいわッ!すごくっ!」

フランの異様なリアクションに、吉影は目を丸くするが、取りあえず続けて言う事にする。

「フランッ!」

「ああ~~ッ あっ!あぁっ―――」

フランは嬌声を上げ、床に突っ伏した。そのままビクビクと床の上で悶えている。

「――――――…………………」

吉影は本格的に困惑し始めた。理解出来ない。何が『イイ』のか全く分からなかった。

しばらくしてフランは身体を起こし、爛々と輝く瞳で吉影を見上げた。

「あなたの事は大好き!でも、あなたには足りないモノがあるわ、吉影。

そう!刺激よ!

あなたは優しくてあったかいけど、刺激が足りなかったの!もっと私をドキドキさせてくれるような……そんな『刺激』が……」

フランの紅い目は蠱惑的な光を帯び、ただ吉影を見つめている。

「ねえ お願いがあるの…」

甘えた声色で、フランは吉影に話し掛けた。

「あなたの手で掴んで欲しいの…

そうして欲しいの。」

「……………?」

言っている意味が分からず、吉影は頭に疑問符を浮かべる。

「いいでしょ?掴んで…ねっ。ギュッって圧迫して欲しいの、ねっ」

「ギュッ?」

聞き返すと、フランが興奮した口調で答える。

「お顔をよッ!私の!

そのピアニストみたいにキレイな手で押しつぶしてッ!

ああ――っ早く!早く押しつぶして!」

「なんだって!?」

吉影が驚愕し目を見開く。

「圧迫よォッ!呼吸が止まるくらいッ!」

「興奮して来たわッ!早く!『圧迫祭り』よッ!お顔を圧迫してッ!」

フランは大声で吉影を急かす。一秒たりとも我慢出来ないといった様子だ。

「(こ……こいつ…!異常だ…

おかしいぞ……何を言っているんだ……?血を与えたために、一時的に『ハイ』になっているのか?

兎に角、何とか落ち着かせないと…)」

頬をひくつかせ、吉影はなだめようとする。

「……フラン、『友達の条件』、覚えているか?この間話しただろう、『友達』はお互いに、恩を受けたらそれを返さなくちゃならないんだ。

君はまだわたしに『今夜の血』の分のお返しをしてくれていないだろう?だから、『ギュッ』はまた今度、フランが『お返し』してからだ。それまではお預けにしておくよ。」

「………………………………

…………うん、分かった。」

吉影の返事を聴き、フランの声のトーンが下がる。よし、落ち着いたか、そう吉影が思い安堵した瞬間、

「―――――――――なっ――!?」

吉影の持つ写真から、血のように紅い爪の生えた小さな両手が、蛇のように鋭い動きで、吉影の顔に伸びて来た。

ガシィッ!

写真から伸びる両手が吉影の頬に添えられ、動けないようガッシリ固定すると―――――――――

「―――――――――っ!?!?!?」

吉影が気付いた時には、彼の目から数センチのところまでフランの顔が迫っていた。

ズキュウウゥゥゥゥン!!

「・・・・・んぅっ?!」

吉影が一瞬怯むと、彼の唇に柔らかい物が当たる。

さらに霧化して写真の小窓をくぐり抜け、フランの頭、肩、腰、膝、くるぶしと、フランが飛び出して来る。

写真から飛び出した勢いのまま、吉影は布団に押し倒された。そのまま布団に背中が押さえつけられる。 「んぐっ!?……むぅ…」

 重なった唇の柔らかさに、するりと割り込んでくるのは湿った熱の感触。

口腔内に入り込んでくる何かは吉影の舌を、歯を、丁寧に撫でていく。

唇をなぞるように蠢いたその感触は、フランの舌だった。

「んーっ!!んーっ!!」

必死に吉影は抵抗するが、いつの間にか両手首をフランに押さえ込まれていた。

 ちゅ、と水っぽいような粘っこいような音。

 湿った感触に彼の舌は捕らえられ、絡め取られた。 

貪るように吉影の舌を口の中で弄ぶフランの舌は、吸血鬼の本能を顕在化させたように暴力的に蹂躙し、魅惑的に絡みつく。

「……んっ、んちゅ、ぅ……む」

 痺れるような熱が、舌から背中に抜けて、頭の奥まで染み渡っていく。

 顔が熱い。背中から頭へ渡った熱が、そこからさらに全身まで広がっていく。

その甘美な刺激は徐々に吉影の思考を麻痺させていった。

「んっ・・・・う・・・んんっ・・・!!」

徐々に吉影の頬が赤くなり、酸素が足りなくなってきたのか動きが鈍くなっていく。

「・・・・ぷはっ・・・・。」

ようやく吉影は唇を開放された、二分ほどされ続けていたかもしれない。

快感と酸素不足から、息を荒くし、そのままズルズルと倒れ込んだ。

「……………ハァ…………ハッ…………ハァ……………」

フランも快感から犬のように荒く息をしている。

 つぅ、と唇の間に伝う唾液の糸が、なまめかしく彼らの間に垂れ下がる。

いつも以上に粘り気を持った唾液が、二人をつなぐ様に垂れる。

「―――――――――えへへ……私の【初めて】、あげちゃったぁ………」

フランは唾液を指で掬うと、濡れた指を彼女の口元へ近付けた。

ちゅっ、と目を閉じてその指先をくわえる。彼女の漂わせる雰囲気はその幼い外見からは想像出来ない妖艶な代物だった。

「エヘヘ…………これで良いでしょ?『お返し』。」

と、フランが自信に満ちた様子で、倒れている吉影を見つめた時、

ガシィッ!!

瞬間、フランの顔面に吉影の右手が伸び、掴んだ。

「―――――――――…………」

グシャアァァッ

身体を起こし、吉影が怒りの表情で暗闇に目を光らせ、彼女を写真の中へと押し込む。

顔面を掴まれ写真の向こう側、自分の部屋へと押し戻されたフランは、床に叩きつけられた。しかし、さらに異様な興奮状態で彼女は悶え喘ぐ。

「イヤン!ああっ~~!

もっと掴んで吉影ッ!

強くッもっと!もっと!

ああッ!押しつぶして……――――

――――――――――――――」

フランの歓喜の絶叫が、突如終わった。

「――ハァ――――ハァ―――」

床に力無く横たわるフランを見下ろし、吉影は荒い呼吸を整える。

「………ハァ………………、ハァ……………」

写真越しにフランの様子を確認する。

「…………………スー………………スー…………………」

耳を澄ますと聴こえてきたのは、小さな寝息だった。

「…ハァ…………き…効いたか………」

まだ息を荒くしている吉影は、危なかった、と溜め息を吐く。

「親父が永遠亭から盗んで来た、対妖怪用睡眠薬………あらかじめ指先に塗っておいて正解だった………」

写真の小窓から、フランの部屋の様子を確認してみる。先程の大騒ぎに気付いて、部屋に来る者の気配は無かった。

「(―――しかし………)」

吉影は眠っているフランに目を落とした。

「(いったい何を考えているんだ……?考えの読めない娘だ………

だが…これほどまで積極的に関わろうとして来るという事は、わたしへの思慕が本物だという事を証明してくれた。それは間違い無く『良い事』で、『喜ぶべき事』だ。)」

吉影はフランの寝顔を見つめる。

「(―――寝顔は普通の子供だな………)」

安らかに寝息をたて、幸せそうな表情で眠るフランを眺め、吉影は軽く微笑み―――――――――

「(―――――――――!?

なに…?『微笑んでいる』だと?)」

自身の表情に気付き、吉影は驚愕する。

「(何だ……?この吉良吉影…ひょっとして今この小娘の寝顔を見て安らいだのか?彼女がわたしの血を舐めて満足して眠っている事に……今、心から喜んだのか…?何だ…この気持ちは…)」

吉影はフランから目を反らし、心を落ち着ける。

「(このわたしが他人の、こんな小娘の事を心配するなどと…!

いや違う!この小娘がわたしを頼っている事が分かって、彼女がわたしの味方である事が確認できただけ…この小娘の寝顔を見て微笑んだのはその事だけのせいだ…ただそれだけ…)」

彼は頭を振って一瞬浮かんだ考えを打ち払い、写真を懐に仕舞った。

「(―――――――――疲れたな…………眠ろう)」

乱れた布団を直し、何処かもやもやとした物を感じながら、吉影の意識は眠りに落ちていった。

 

 

 

ED TaNaBaTa 『Unknown Girl』

 

 

 

 




閑話休題 『U・N・オーエンは恋しているのか!?最終鬼畜妹フランドール・S・V』終了です。お楽しみいただけたでしょうか。
今回、第十七話でなぜフランと吉影が協力関係にあったのかを説明する回となりました。が、やりすぎ感半端ないですね・・・お許し下さい。
やっぱりこの二人のカップリングは書いていて楽しいです。きらフラ流行れ!!

次から物語の時間軸は『バイツァ・ダスト』発動後に戻ります。復活した親父、輝之輔と共に吉影が【真の目的】のために行動を開始し、波乱の展開がレミリア達、そして幻想郷を襲います。
長い『結』はまだまだ続きます。お楽しみに。
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