【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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第十九話です。『起承転結』でいうところの『結』はまだまだ続きます


第十九話 バイツァ・ダスト スカーレット・デビル ②―外来事変―

鳴り響く轟音。吉廣と輝之輔が振り返ると、そこにいたのは……

 

 

 

 

「…………………………………」

闇に輝く紅い瞳、月に煌めく薄緑の髪、そして、頭に備えた双つの角。上白沢慧音は、満月の下三人を見据え佇んでいた。

 

ドサドサァ―――

 

両手で掴んでいた妖怪五人を放し、地面に落とす。妖怪達は完全にノックダウンされていた。

 

「――――上白沢慧音――――思っていたより早い再会だな…………」

吉影は前に進み出て、慧音の目を見返す。

「川尻………いや、吉良吉影……」

慧音は歯を噛み締め、身体を震わせる。

「何故………こんな事を……!!何故妹紅を殺したッ!?」

慧音の叫びが静かな人里に木霊する。

「………そんな姿になっていても……やはり君は人間だな、慧音。」

吉影が無表情に口を開く。

「『理由』が欲しくて仕方ない……わたしの凶行との『因果関係』を作らなければ、『理解』できない。その愚鈍な判断力が身を滅ぼすのだよ、慧音」

「っ………!!」

一切否定せず冷静沈着に応答する吉影の雰囲気に、慧音が目を見開く。人を殺してこれほど落ち着いているのは、異常者だけだ。

「―『何を思って殺したのか?』…そう、君は言ったな。」

吉影は静かに語りだした。

「…思う事など――何も無い。何一つ無いのだよ、慧音。

別に感傷もなく、特に感想も無い。感情を殺すこともなく、冷徹である必要すらない。

なぜなら殺す側にとって殺される側は―――どうでもいい人間だからだ。

そして、理由は――『いるよりもいない方が都合が良い』―何処かの誰かに、そう思われた。その者が過ごしてきた日々の全てを――金か、欲か、それとも大義か。

そんなものと引き換えに否定された。

そうやって妹紅は消されたのだよ、慧音。」

 

慧音はゾッと背筋が冷たくなるのを感じた。

 

後ろめたさなど、微塵も無い。

 

そんな底知れぬ『邪悪さ』を、吉影の両目は並々と湛えていた。

 

「そんな………君は………!こんなっ……………!」

慧音の瞳がショックに震える。

吉影は悪びれる様子無く、さらに追い討ちを掛ける。

「どうした?『白沢の能力』で見ただろう、わたしが君や妹紅を何度も殺そうとしていたのを。つまり、そういう事だよ、最初から………」

彼の冷酷な台詞が、慧音の胸を締め上げる。

「………君の歴史は…っ…見ていない……わたしが記録するのは、もっと大きな事件だ。」

込み上げる感情を抑え、慧音は声を押し出す。

「目的は何だッ!?何故里の人間を誘拐した!!」

残酷な事実に耐えられず、慧音は話題を変える。

「なぜそれを君に言わなければならない?『計画』に支障をきたすだけだ。」

クルリと背を向け、歩き出す吉影。その背中を慌てて慧音が呼び止める。

「まっ待て吉影!何処へ行くつもりだ!?」

吉影は足を止め、振り向いて答える。

「逃げるんだよ慧音、君からな。もう十分『人質』は集めた。満月の夜の君は強いし、闘うメリットが無い。そうだろう?」

「なッ――!?」

それだけ言うと、また背を向け吉廣に声を掛ける。

「『人質』は何人ほど集めた?確認してくれないか。」

「ああ、それだったらここに………」

輝之輔が懐から写真を取り出し、覗き込んだ。

「―――――――――えぇッ!?」

輝之輔が叫ぶ。

「?どうしたんじゃ輝之輔、何かあったか―――――――――」

吉廣が横から覗き込み、

「なんじゃとぉッ!?」

吉廣も叫び声を上げる。

「どうした、二人とも……?」

吉影が二人に問いかける。

「『紙』が……無いッ!」

「なに!?」

吉影が二人から写真を奪い、覗き込む。たしかに、紙らしき物は写っていない。

「亜空間に隠した写真と空間を繋げて、その写真を入り口に『紙』を保管しておいたんじゃが……空間接続が途切れてしまっておる!」

吉廣が事態の深刻さに気付き、続ける。

「マズイぞ……わしのいる写真空間においておいたはずのカメラが……無くなっておる。他の写真への『ジャンプ』も出来ん!」

「なッ―――――!?」

吉影は振り返り慧音に目をやる。

彼女は三人を、紅い瞳で睨み付けていた。『覚悟』を決めた目だ。

「………君がやったのか?」

吉影が問いかける。

「『歴史を食べる程度の能力』……貴様達には『現在』を認識出来ない。」

慧音が天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)のレプリカを構え、突きつける。

「………なるほど……人間が忽然と姿を消したのも…破壊した家が修復しているのも……区画が変化しているのも………」

吉影が慧音を睨む。

「君の『能力』の仕業……か!親父が写真を認識出来なくなったのも…………」

吉影の後ろで、輝之輔が吉廣に耳打ちする。

「認識出来ないということは、実際にはあるってことですよね?それなら親父さんが入っている写真にも何人か入れておいたから、写真ごと燃やすと脅せば……」

「!?何を言っておるんじゃッ!この中には………!!」

 

 

 

「…………わたしは『闘い』は好まない………特に今のような『価値の無い』闘いはな………だが……!!」

 

ジリッ―――

 

片足を引き、吉影は身構える。

 

「わたしの『平穏』を乱す者とだけは!闘わざるを得ないッ!!」

 

慧音と吉影、二人の間に覇気が満ちる。傍にいるだけで皮膚がピリピリするような、圧倒的な殺気。吉廣と輝之輔は顔をひきつらせる。

 

「…………もう知っているかもしれないが……」

吉影が口を開く。

「今現在、ある理由でわたしは『キラークイーン』を使えないんだよ。だから……」

懐から紙を取り出し、広げる。紙の上にL字型の機械のような物が現れる。

「(あれは………外の武器か?)」

吉影は電動釘打ち機を右手で握り、ストッパーを外す。

「姑息な手段を使わせて貰おう!」

 

釘打ち機を構え、トリガーを引いた。

 

バスバスバスッ!

 

釘が発射され、慧音に迫る。

 

「っ!」

 

何かに勘づき、慧音は身をかわす。

 

ドスドスドス!

 

釘は慧音の背後の壁に刺さり――――――

 

ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

爆炎を上げて爆発した。

 

「ぐっ!」

 

慧音は咄嗟の判断で空を飛び爆圧半径から逃れる。

 

「釘に『ファイル』した『爆発』を巻いておいたが……勘づかれたか。」

 

吉影はトリガーから指を離し、慧音の後を追う。

 

「わしらは空を飛べる!吉影より先に奴を追うぞ、輝之輔!」

「了解です!」

 

吉廣は写真に、輝之輔は紙に入り込み、慧音の後を追って空へと昇っていった。

 

「くっ………!まずい………!」

 

慧音は空を飛びながら、打開策を練る。

 

「(吉影達は里の妖怪退治の専門家の居住区や命蓮寺に陽動の妖獣を大量に放っていた……しかも襲撃していったのはそれらから離れた防備の薄い場所ばかり……!自警団もほぼ捕まってしまっている……ここまでの計画性、もしや彼は以前からこの計画を……!)」

 

手にした巻物に目を落とし、『歴史を創る程度の能力』で現在までの状況を確認しようとした時だった。

 

「っ!!」

 

気付き、空中で身を捻る。

 

ズダダダダダタン!

 

彼女の脇を見えない何かが超高速で飛び去っていった。

 

「くそっ外した!」

 

屋根の上、慧音を見上げ硝煙を吐くサブマシンガンを構えながら、輝之輔が忌々しそうに吐き捨てる。

「輝之輔、あれは外したんじゃない!避けられたんじゃ!」

輝之輔の傍に吉廣が浮かび上がり叫ぶ。

 

「(鉛の弾幕……?見えない早さで飛んで来たというのか?これが外の武器……危なかった…!)」

 

巻物をチラリと見やって、慧音は何が起こったのか『歴史』を読み返す。

 

「はッ!?」

 

慧音は振り返り、剣を構える。建物の陰から自動拳銃を構え、吉影が慧音を狙う。

 

ダンダンダン!!

 

肉を破り骨を貫こうと、慧音に弾丸が迫る!

 

「えぇいっ!」

 

ガィン!キュン!ガギン!

 

刀身に斜めに弾丸を当て、三発全て弾き落とした!

 

「――ッ!

(そうか…、銃口の向きと引き金を引く瞬間を『リアルタイム』で観察し、着弾地点で剣を構え弾いたのか。『歴史を創る程度の能力』、なんとも厄介な能力だ……)」

 

吉影はさらに慧音の後を追う。

 

 

 

「(………さあ、ここならいいだろう。)」

 

慧音は広場に着地し、振り返る。

 

ザッ

 

吉影、吉廣、輝之輔が追い付き、各々武器を構える。

 

「―――――逃げ続けて妖怪退治屋の到着まで時間稼ぎをするつもりかと思ったが……」

吉影が釘打ち機と自動拳銃を慧音に向ける。

「ここなら里の家への被害が少ない。人も全員避難しているから、思う存分戦える。

それに――――――」

慧音の紅い瞳の中に、ダイヤモンドのように硬く気高い『決意』が輝く。

「君との決着は、私だけが着ける!!」

剣で空を斬る。弾幕が発生し、吉影達に襲い掛かる。

「ふん、くだらん!」

 

吉影は懐から紙を取り出し、開いた。紙から爆炎が吹き上がり、弾幕を打ち消した。

 

「無駄無駄ァ!」

 

輝之輔が『エニグマ』で弾幕を紙に変え、吉廣をガードする。

 

「喰らえッ!」

 

吉影が釘打ち機のトリガーを引く。

 

「はっ!」

 

慧音が剣を振るい、弾幕で釘を迎撃する。

 

ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

爆炎が上がり、視界が遮断された。

 

「(視界が遮られていても、慧音にはわたしの事が見えている…このままでは不利か。)」

 

爆煙を突き抜けて飛んで来る弾幕を避け、輝之輔に向かって叫ぶ。

 

「輝之輔!お前の位置なら慧音が見えるだろう!彼女を撃て!」

「言われるまでもない!」

 

輝之輔がサブマシンガンを構え、乱射する。

 

ズダダダダダダン!

 

「ぐっ!」

 

バックジャンプで慧音はこれを避ける。その瞬間、

 

「今です親父さんッ!」

輝之輔が叫んだ。

「任せろッ!」

 

『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、吉廣は構える。

 

「うおおおぉぉぉぉぉ―ッ!」

 

『ビーチ・ボーイ』の針と糸を、慧音目掛けて全力投球した。だが所詮は老人の腕力、慧音は容易くこれをかわした。

 

「むっ!?」

 

だが慧音はある事に気付き、息を呑む。

 

「(糸に『紙』が……!!)」

 

『ビーチ・ボーイ』の糸に、幾つもの『紙』が数珠繋ぎにされていた。

 

「喰らえ!」

 

吉廣が『ビーチ・ボーイ』の糸に包丁を振り下ろした。糸は包丁を透過し、切断エネルギーは紙に伝わっていく。

 

ズバシャッ

 

糸の上の紙が切れる。

 

「っ!!まずい!」

 

慧音が飛び退き糸から離れた瞬間、

 

ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

紙が一斉に爆発し、爆風が彼女を襲った!

 

「ぐあっ!」

 

慧音は吹き飛ばされるが、何とか壁に激突する前に空中に踏み留まった。だがその直後、

 

「かかりおったなバカめ!」

 

吉廣がニヤリと笑った。そして、

 

ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

慧音の背後の民家の壁が、轟音と共に炸裂した!

 

「糸へのダメージは『ビーチ・ボーイ』の糸に掛かった物に全て返って来る!

最初に投げた時、糸の先端、針の部分を、ぐるっと回り込ませて逃げる先の壁に仕掛けておいた!

爆発のエネルギーは当然壁に返って来る!」

 

瓦礫の破片が慧音に襲い掛かる。慧音はすぐさま身を翻し、

 

「せえぇぇぇい!」

 

飛んで来る瓦礫を蹴りつけた!

 

ドオォン!

 

一際大きな瓦礫が弾かれ、他の瓦礫と衝突する。

 

バギッ!

 

ギュイン!

 

ギュンッ!

 

ドゴォォ!

 

玉突き的に瓦礫同士が激突し、跳ね返り、軌道が逸れる。瓦礫は全て慧音の横を飛び過ぎて行った。

 

「(なんじゃとおぉォォ!?)」

 

吉廣が驚愕する。

 

「(あれだけの数の破片をたった一発の蹴りで…!

瓦礫の軌道を『能力』で瞬時に把握し、計算したというのか?

―――――――――だが……!)」

 

吉廣の瞳は勝利を確信する。

 

「(貴様に見えるのは『過去』だけじゃ……『未来予知』や『読心術』の類いではないッ!)」

 

慧音は瓦礫を全弾逸らした後、壁を背にして着地する。

 

「―――――っ!?」

 

突然、月光が遮られ、顔が陰る。反射的に頭上を見上げると、

 

「なぁっ――!?」

 

吉影が拳銃を構え、飛び掛かってきていた。

 

ダンダンダン!

 

慧音を狙い、自動拳銃の引き金を引く。

 

「ぐぅっ!」

 

咄嗟に剣を振るい、弾丸を叩き落とす。

 

バヂッ!ギュン!ギュイン!

 

弾丸を弾き、吉影を向かえ撃とうとするが、

 

ガィン!

 

ナイフで剣を払いのけられ、衝撃で慧音は大きく後退する。

 

「(ぐっ…!このパワー、跳躍力、おかしい…!いくら吉影が『人間でない』とは言え、満月の光だけでこれほど強化されるわけがない……!)」

 

「てえぇぇいっ!」

 

慧音は剣を握る手とは逆の腕を振るい、ラリアットを叩き込もうとした。が―――

 

「っ!?」

 

吉影は容易くそれを避け、彼女の懐に飛び込む。

 

「(しまっ―――――――――!)」

 

ドバギャッ!

 

吉影の右足が、慧音の腹部にめり込んだ。

 

「かはっ――――!」

 

慧音の身体は吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「今夜は何故かすこぶる調子が良くてね……『満月』がスタンド使いにも力を与えてくれているのかもしれないな。」

吉影は世間話をするような口調で慧音に言葉をかける。

「いくら君の『能力』でも、予測出来なかったろう?この身体能力を披露したのはさっきが初めてだからな……」

 

慧音はなんとか膝を折らず立ち上がる。剣を構えようとするが、

 

「そうはさせない。」

 

ガッ!

 

剣を握る手を足で壁に押さえつけられる。

 

「―――――――――確かに、決着をつけるのは君だったな………」

 

吉影がニヤリと笑う。

 

「逃げて増援を呼んでいれば『人質』は助かっていたというのに……

わたしに『始末』されて『人質』は助からないという決着がなッ!」

 

右ストレートを彼女の顔面に叩き込んだ!

 

バギィィィン!

 

「―――――――――!?」

 

吉影の拳は慧音の頭部を粉砕する事なく、壁にめり込んでいた。

 

「なにっ…?消えた…だと?」

 

吉影は辺りを見渡すが、慧音の姿は何処にも見えない。

「吉影!やったのか?」

吉廣と輝之輔が近づいて来る。

「いや、逃がした。目の前で突然消えてしまった…わけが分からない。」

吉影が振り向き、彼らに目を向けた。

「吉影!何をしておる!そこにいるぞ!」

吉廣が吉影を指差し叫ぶ!

「!?

なんだって?何処にいる!?」

吉影が意味を理解できないでいると、

「後ろじゃあッ!お前の後ろにいるぞォォォォォ!」

 

「ッ!!」

 

吉影が振り返った瞬間、目に飛び込んできたのは剣を振り上げた慧音の姿だった。

 

「なにィッ!?」

 

人間離れした反射神経でナイフを振り上げ防御する。が、半獣のパワーで押し切られ、ナイフの刃が折れた。

 

「うおぁ!」

 

横薙ぎの一閃をしゃがんで避け、足払いを繰り出す。だがバックステップで避けられ、弾幕を放たれる。

 

「『エニグマ』!」

 

輝之輔が自身のスタンドで吉影の前に立ちはだかり、弾幕を防御する。

 

「『ビーチ・ボーイ』!」

 

吉廣が『ビーチ・ボーイ』を振るい、慧音を攻撃する。だが……

 

スッ―――――――――

 

慧音の身体が、壁の中へと沈み、消えた。

 

トプン―――――――

 

『ビーチ・ボーイ』の糸と針は壁を透過し慧音を追う。

 

「き、消えたぞっ!今確かにこの目で見た!溶け込むように壁の向こうに姿を消した!」

輝之輔が声を張り上げる。

「いや、いる!奴はこの家の中にいて、反対側へ向かっておる!」

吉廣が『ビーチ・ボーイ』の糸に耳を近づけ、気配を聞き取る。

「じゃが……クソッ!さっきからいくつも壁を透過して追っておるのに、奴は一度も戸や障子を開けたりしておらん!

何にもぶつからず、足音も出さずに一直線に飛んでおるようじゃ!」

吉廣は慧音の追撃を続けるが、

「畜生め!見失ったわい!」

リールを巻き上げ糸を回収する。

「確かに見た…慧音はこの壁を、『ビーチ・ボーイ』のように透過していた…」

吉影が壁に手を触れ、調べる。何の変てつも無いただの壁だった。

「じゃが……奴の能力は『歴史を食べ、創る能力』、壁を幽霊みたく透過する事など出来るはずがない!」

吉影はまだ壁を両手でさすり、耳を当て調査している。

「無駄じゃ、その壁はただの壁、『ビーチ・ボーイ』で調べたんじゃから間違いない。」

吉廣は諦めるよう言うが、吉影は何処か確信めいた表情をしていた。

「確かに……この壁は普通の壁だ。何も仕掛けは無い……

……だが……彼女はさっき壁を爆破した時、瓦礫を弾き飛ばして防御した。どんな壁でも透過できるなら、そんな必要は無かったはずなんだ……きっとなにか理由がある……この壁でなければならない理由が…」

吉影は壁から耳を離すと、数歩後ろに下がった。釘打ち機を構え、トリガーに指を掛ける。

「何をする気じゃ、吉影?」

「こいつをぶち破る。二人とも、もう少し下がった方が良い。」

壁を狙い、トリガーを引く。

 

ドガガガッ!

 

壁に釘が突き刺さり、

 

ドグオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

爆発し、壁が大破した。

 

「……………………」

 

自動拳銃と釘打ち機を構え、吉影は用心深く足を踏み入れる。

 

「(なんという事はない……ただの民家だ。)」

 

辺りを見回すが、特に違和感は無い。罠や仕掛けは仕掛けられていないようだった。

「親父、『ビーチ・ボーイ』を貸してくれないか。徹底的に捜して……」

 

後ろに手を伸ばし、吉廣から『ビーチ・ボーイ』を受け取ろうとした時だった。

 

コツッ

 

「?」

 

後ろに伸ばした手は、すぐ何か硬い物に当たった。

 

「何だ―――?」

 

不審に思い、振り返る。

 

「ッ!?

な……なんだ…?これは!?」

振り返った吉影が見た物は―――――――――

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ―――――――――

 

 

「な……」

 

輝之輔が目を見開く。

 

「なんじゃこりゃあァァァ~!?」

 

吉廣の目前、ついさっき吉影が壁に開けたはずの大穴は、一切の痕跡無く消え去っていた。

 

「こんな……!こんな事が出来る『能力』…ッ!『透過』だとかそんなチャチなものじゃ断じてないッ!!吉影が分断されたッ!」

 

「輝之輔……わしらは、何かとんでもなく大きな見落としをしていたかも知れん……」

 

吉廣の脳裏にある仮説が組み立てられる。

 

「『歴史を食べる程度の能力』……奴はこの能力でわしらに人質や人間を『認識』出来なくしたと言っていた……

つまり、奴の能力の真髄は『認識』をずらす事にある…輝之輔、確かお前『里の区画が変わった』と言っていたな?」

 

「え?…ええ、そうですが……あと吉影も…、でも、それが奴が姿を消した事とどう関係が……?」

 

「いいか……奴の操れる『認識』とは、『歴史』じゃ。奴は里の歴史を食った、だからこそ人間の姿や、わしらが破壊した家の損傷も消えた――ようにわしらには見える。そして、里の区画が変わったということは、かなり過去まで歴史を遡ったということじゃ。これが何を意味するか、分かるか?」

 

「何を……意味するっ…て?」

 

吉廣は輝之輔に説明する。

 

「簡単に言えば……ここのこの壁」

 

吉廣がコツコツと叩いて示す。

 

「無いんじゃよ、本当は。」

 

「えっ―――――?」

 

輝之輔の目が見開かれる。

 

「そんなっ…!『ビーチ・ボーイ』で確認したんじゃ…!」

 

「ああ、したわい。そして騙された。」

 

吉廣が首を振る。

 

「わしらの『認識』ごと過去にずらしているんじゃ、わしらの脳が、精神が、あると『思い込んで』おる。だから『スタンド』である『ビーチ・ボーイ』では見分けられん。『質感』も感じるし、『音』も聞こえる。わしらは既に奴の『過去の世界』の中に取り込まれておるんじゃ。だから奴は自由に『実在しない物体』を通り抜けられる。至極当然にな。

 

そして、この『能力』……わしの『アトム・ハート・ファーザー』に似ておる。わしが『写真の世界』に『魂エネルギー』を閉じ込め、自在にその中を動けるように……奴はこの『過去の世界』で自由に動ける。元々実在しない物体じゃから修復も消去も自由自在じゃ。そして全てを読み取り筒抜けにする『創る能力』……【見敵必殺(サーチ&デストロイ)】を形にしたような、とんでもなく厄介な相手じゃぞ……」

 

吉廣が額に手を当て、打開策を思案する。その時だった。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド!

 

二人の背後の民家の壁から、弾幕が襲って来た!

 

「『エニグマ』!」

 

エニグマで弾幕をファイルし、二人をガードする。

 

「壁を透過して撃ってきおったな!」

 

『ビーチ・ボーイ』を振り上げ、構える。

 

「そこじゃあッ!」

 

『ビーチ・ボーイ』の針を飛ばし、壁を透過させ慧音を捜す。

 

「無駄です!『ビーチ・ボーイ』は壁や床からの奇襲に効果を発揮するスタンド、奴は針の動きを全て読んでいる!いくら追っても命中なんて出来ません!」

 

「そんな事は分かっておるわい!だから、『分かっていても避けられない攻撃』をやろうとしているんじゃろうが!」

 

吉廣の言葉に、輝之輔が反応する。

 

「なるほど、分かりました!」

 

輝之輔が身体を紙に変え、輝之輔は慧音の潜む民家の上空に移動する。

 

「さあて、いよいよこいつの出番だな……!!」

 

舌を出して唇を舐め、懐から紙を取り出す。

 

「開け『エニグマ』ッ!」

 

エニグマが紙を広げていく。タクシーの何倍も大きい紙だ。さらに何重にも畳まれていたのを開いていき、遂に最後まで開ききった。紙の中に封印されていた物は―――――――――

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ―――――――――

 

 

可燃ガスを満載した巨大なタンクローリーが出現した!

 

「タンクローリーだッ!!」

 

空中で封印を解除されたタンクローリーは、重力に従い落下していった。

 

「はははははははははははははははははははははは―――――――――!!」

 

 

 

 

「くっ……!」

 

慧音は民家の中を飛行し、『ビーチ・ボーイ』から逃げる。

 

「この『針と糸』…なかなかに素早い…!『能力』で動きを探知していなければすぐに捕まりそうだ。」

 

手元の巻物に目を落とし、『ビーチ・ボーイ』の位置、スピードを読み取る。巻物には『歴史を創程度のる能力』により、リアルタイムで情報が書き込まれる。

 

「だがこの『針』…私の気配を探知して追って来ているみたいだが…」

 

居間から壁を透過し、隣の部屋に出る。『ビーチ・ボーイ』が追ってくるが、しばらくのたうつように針の部分を振り回した後、慧音に向かって一直線に向かって来る。

 

「どうやら一度壁を通るたび、私の気配を探し直しているみたいだ。私の飛行速度よりスピードは早いけど、これなら逃げ切れ―――――――――」

 

ビュウン!

 

『ビーチ・ボーイ』が急加速した!

 

「っ!?」

 

間一髪、慧音はそれを避ける。『針と糸』は慧音を追い越すと、前の壁に着水する。

 

「なんだ?急にスピードアップした…!?」

 

糸に触れないよう飛び退くと、巻物を見やり何が起こったのか把握する。

 

「なるほど……そういう事か……!

さっきまで私を追って来ていた速さは、リールから糸を出す速さ。

一度リールから出した糸は、腕の延長のように自在に動かせる。

壁を透過した直後、止まって私を探していたように見えたのは、その間に糸を出し続けて伸ばしきっていない『余り』を作るため……その余りの部分を一気に伸ばす事で、急激にスピードアップしたということか…!

とにかく、『針』に追い抜かれたのはまずい!早く逃げないと―――!」

 

慧音が糸から離れようとした時、

 

シュンシュンシュンシュン!

 

慧音のいる部屋の壁から、『ビーチ・ボーイ』の糸が彼女を包囲するように現れた!

 

「っ―!そうか、既に本体が回り込んで――!」

 

慧音が糸の包囲網を突破しようと巻物に目を落とした時、さらに抜き差しならない事態に気付く。

 

「ッ!この真上にある物体は!!」

 

慧音が天井を見上げたその直後、

 

ドゴオオオオオオオオオオォォォォォ!!

 

タンクローリーが民家に落ち、爆発した。

 

 

 

 

「うわっ!」

 

民家から吹き上がる爆炎を、輝之輔は慌てて『エニグマ』で防御する。

 

「うっわー…、これはスゴい…!」

 

キラークイーンの爆弾とは比べ物にならない威力の大爆発を目の当たりにし、輝之輔は息を呑む。

 

民家は完全に消滅し、地面には巨大なクレーターがぶちあけられていた。タンクローリーの車体の破片が三つ隣の民家の壁を突き破っている。

 

「『ビーチ・ボーイ』で包囲し、タンクローリーで一気に叩く…作戦成功じゃな。」

 

ケケケケと吉廣が笑い声を上げる。

 

「吉廣さんダメですよ、爆発見て安心してたりしちゃ。そーいう事しているとだいたい相手が生きているってジンクスがあるんです、油断せずに……」

 

「そんなもの小説や漫画の話じゃ。お前も見たじゃろ?あれほどの爆発、近くにいるだけで無事では済まんわい。それに、さっきから『ビーチ・ボーイ』で捜しているが姿は無い。きっと跡形も無く―――――――――」

 

吉廣が輝之輔を見上げ話していた時、

 

「親父さん、後ろだッ!!」

 

輝之輔が血相を変え叫ぶ。

 

「はぁッ!?」

 

吉廣が振り向いた瞬間、大量の弾幕が彼に襲い掛かった!

 

「うおおおおおぉぉぉ―――ッ!!」

 

咄嗟に『ビーチ・ボーイ』を振り回し、弾幕を糸に引っ掻け、糸の端を壁に突っ込む。エネルギーの塊である弾幕は糸を伝わり、受け流されるように壁を破壊して消滅する。

 

「喰らえッ!」

 

広場の反対側に突如現れ、弾幕を撃ってきた慧音を狙い、サブマシンガンをぶっぱなす。

 

「…………………」

 

スッ―――――――――

 

慧音は静かに足を運び、そして消えた。

 

バスバシビシッ!

 

弾丸は地面に着弾した。

 

「なッ……なんだ!?奴は……

あんな大爆発の中から、どうやって生還したんだ!?しかも今、確実に『消えた』ッ!壁を透過して反対側に抜けたとか、そんなんじゃない!全く何も無い場所で忽然と姿を消した!」

 

輝之輔は戦き、疑心暗鬼に駆られる。

 

「まさか…奴は自分の歴史を『喰らった』のか?もしそうなら勝てるわけがない…!無敵のステルス状態だ……!見破る手段なんて無い…!」

 

「待て輝之輔、そう簡単に結論づけてはならん。そんな事が出来るなら既にやっているはずだし、『歴史』とは『観測者』の視点から事象を整理、記録した物。『観測者』である奴の『歴史』が消えれば、術は成立しない。」

 

吉廣は冷静に慧音の『能力』について考察する。

 

「まず、奴が生きていて彼処まで回り込めたのは、地下水道を通って行ったからじゃ。今地中を調べてみたが、『現在の人里』にあったはずの井戸水を流す地下水路が無い。今わしらがいる『過去の人里』には存在しないというなら、『ビーチ・ボーイ』でも奴がそこに逃げたとは分からないはずじゃ。『認識』出来ないから―――――――――」

 

と、吉廣の脳裏をある考えがよぎる。

 

「輝之輔、奴が消えたあたりにサブマシンガンをぶちこめ!」

 

「何故です?弾数も無尽蔵にあるわけではないんですから、あまり無駄撃ちしすぎると……」

 

「いいからさっさと撃て!奴の『謎』が分かりかけてきた!」

 

その言葉を聞き、輝之輔は言われた通りサブマシンガンを乱射する。

 

ビシビシバシッ!

 

弾丸は何もない空間に着弾し、止まった。

 

「あっ、空間が…?」

 

「違う、よく見てみろ。」

 

吉廣が『ビーチ・ボーイ』の先で弾丸を指し示す。

 

「弾丸の周り、茶色い土が見えるじゃろう?」

 

「あっ……!」

 

彼の言うとおり、弾丸の周りを土の欠片のような物が囲んでいた。

 

「あそこには、本当は壁があるんじゃ。奴はその後ろに隠れ、壁を『認識』出来んわしらには消えたように見えただけじゃ。」

 

「な、なんだ、分かってしまえば、なんて事無い『能力』ですね。」

 

輝之輔が安堵して笑うが、吉廣の表情は険しいままだ。

 

「いや、そうでもない。奴にはわしらの事が筒抜けじゃし、限定的であるとは言え、奴は壁を透過し死角から一方的に攻撃出来る。しかも早く始末しないと、妖怪退治屋や命蓮寺の連中が加勢に来る。追い詰められているのはわしらじゃ…」

 

ドゴオオオォォォン!!

 

壁を突き破り、吉影が民家から飛び出した。空中で身をひねり、スタッと着地する。

 

「吉影、奴の能力の『正体』が分かった!奴は―――――――――」

 

「ああ、聞いていた。わたしもそれを身を持って体験していたよ。いや、実を言うと、全く理解を超えていたんだがね…『わたしが障子を開けたと思ったら何時の間にか閉まっていた』――ありのまま話すとこんな感じだ。窓も同じ、開いた瞬間にはまた閉じている。壁も何度壊そうとしてもすぐに修復してね、身体ごと壁をぶち抜いて来なければならなかった。」

 

吉影は辺りを見渡し、険しい目付きで慧音の姿を探す。

 

「我々には時間が無い……彼女が出て来ないなら……」

 

吉影は懐から三枚の紙を取り出す。

 

しゃがみ、地面に置くと、順番に広げる。

 

一枚は液体の入ったポリ容器、二枚目は炭素棒二本の電極、三枚目はコードだった。

 

「なッ!?まさか吉影、『アレ』をやる気かッ!?」

 

吉廣が思わず怯む。

 

「『フッ化水素』……非常に安定した物質であるガラスをも腐蝕させる極悪の酸だ。」

 

容器を振り、吉影は呟く。

 

「そしてこいつを電気分解してやれば、単体の『フッ素』が発生する。フッ素は112種類の元素のうち、ヘリウムとネオン以外のほぼ全ての元素を酸化する凶悪極まりない最強の酸。

 

非常に安定しているとされる金や白金も酸化され、王水ですら反応しないタンタルやイリジウムも酸化、さらには反応するとは思えない希ガスであるクリプトンやキセノンまでも酸化する。人間が吸引すれば少量でも即死、皮膚にかかると体内に浸透して人体のカルシウムイオンと反応し、骨を溶かし、挙げ句の果てには神経伝達に不可欠なカルシウムイオンとも反応して電気信号を遮断、心臓が停止し死に至る。」

 

淡々と説明し、彼は容器を地面に置く。

 

「あまり使いたくなかったが、長期戦は出来ない。これだけの量、しかも屋外では、どこかに隠れている慧音を死に至らしめる事など出来ないが、動きを止めるくらいは出来るはずだ。さらにこの風向き、発生したフッ素を『ストレイ・キャットの空気弾』に封入すれば、妖怪退治屋の密集区域にまで到達する。いくら強いとはいえ、肉体は生身の人間、数人くらいは死んでも不思議じゃない。」

 

吉影は『電気』と書かれた紙を懐から取り出す。

 

「わたしは『ストレイ・キャット』の『空気スーツ』を着る。親父も幽霊だが写真が腐蝕されるとまずい、『空気弾』に入ってくれ。輝之輔は『エニグマ』で身を護れ。覚悟はいいか?わたしは出来てる。」

 

吉影が容器の蓋に手をかけた。

 

ドバギャァッ!!

 

「ッ――――――!?!?!?」

 

吉影の頬に強烈な衝撃が走り、顔面が歪む。

 

「―――――――がぁ……あ…ッ…!?」

 

吉影の手から離れた容器は、地面に落下すること無く、空中で消えた。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――――

 

 

 

上白沢慧音が、羽織っていた簔を払い、姿を現す。彼女の拳が、吉影の頬にめり込んでいた。

 

「ぐ……ッ…ガブッ………」

 

吉影の身体が、グラリと揺れる。吉廣と輝之輔が咄嗟に二人から離れ、身構える。

 

「…………………………………」

 

ガッ!

 

吉影は踏み止まり、頬に拳を叩き込まれたまま目だけ動かし慧音を睨みつける。

 

「……………………………っ……!!」

 

慧音が息を呑み、目を見開く。

 

「フフフ…………気付いた……、か!」

 

吉影が歪められた頬をさらに歪ませ、不敵に笑う。顔面に半獣の拳が直撃したというのに、意に介していないかのように。

 

「あえてだ…わたしがわざわざこれからやろうとしている事を喋ったのは、君に容器が壊れて中身が漏れないような方法でわたしを止めさせるためだ。」

 

ギィィン!

 

吉影の瞳が光る。彼の頬の皮膚は無惨に裂けていたが、血は一滴も流れ出ず、肉の代わりに無機質な木片が顔を覗かせる。

 

「なっ…!お、お前は……!!」

 

「そしてもう遅いッ!君はこうしてわたしに『触れた』!すなわち―――――――――」

 

吉影の顔が、グニャリと歪む。

 

骨格が曲がる、

 

背丈が縮む、

 

髪が伸びる、

 

瞳の色が変わる、

 

衣服が変形する、

 

伸びた髪が隆起、凝集し、二本の猛々しい角に為る。

 

「『わたし』は、『私』に変化する!!」

 

慧音の前に現れたのは、上白沢慧音そのものだった。

 

「まさか…っ!『偽者』だっただとっ!?」

 

慧音は第二撃を打ち込もうと飛び掛かる。しかし、『偽者』が腕を振り上げると、彼女も拳を振り上げたまま身動きが出来なくなる。

 

「私はただの『偽者』じゃない…『いなければいい』方のコピーだ。」

 

慧音の偽者はにこやかに笑い、言い放つ。

 

「ケケケケケケ!よくやった『サーフィス』!続けてそいつを始末しろッ!」

 

吉廣が『サーフィス』の胸ポケット、『写真の小窓』の向こうの男に命令する。

 

「わ、分かった…こいつを殺せば、俺は見逃してくれるよな…?」

 

「馬鹿がッ!折角この女の姿を手に入れたんじゃ、まだまだ有効活用させてもらうわい!逆らえばどうなるか…お前も分かってるよな?」

 

写真の向こう、外の世界で媚びた表情を浮かべる間田敏和に、吉廣は脅しの言葉をかける。

 

吉廣が顔を出している写真の中には、撮影された間田の姿が写っていた。

 

「(くっ…、ま、まずい…こいつが『偽者』なら、本人は何処に―――――――――?)」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

―――――――――幻想郷の東の果て、外の世界との境界に位置する博麗神社。

 

ザッ――――――ザッ―――

 

境内の石畳を踏む足音が、無人の神社に響く。

 

ザッ―――――ザッ―――ザッ――

 

足音の主は境内を進むと、階段を登り、賽銭箱の前で止まる。

 

「……………………」

 

その人物は空っぽの賽銭箱を見下ろし、何かを思い返すように数秒じっとしていた。

 

吉良吉影は、賽銭箱の前で呟く。

 

「こいつがもう少し潤っていたなら……『わたし達』の運命も少しは変わっていただろうに………なあ?妹紅………?君もそう思わないか?」

 

吉影が振り返る。

 

その視線の先、鳥居の下。

 

藤原妹紅は立っていた。

 

左手から鮮血を滴らせながら―――――――――

 

 

 

ED 天野月子 『銀猫』

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