【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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第二十一話です。『起承転結』でいうところの『結』はまだまだ続きます。
※今回、直接描写は避けてありますが今作中最もエグい内容を仄めかす場面がございます。
存分に注意してご覧下さい。


第二十一話 バイツァ・ダスト スカーレット・デビル ④―不幸せ者のフィロソフィ― 1/2

「うおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォ――――――――――ッッ!!」

 

ズズ… ズザザァ―……

 

慧音が『ビーチ・ボーイ』の糸を手繰り寄せる度に、輝之輔は引き摺られていく。

『エニグマ』と二人で死に物狂いで抵抗するが、所詮少年とパワーEの貧弱極まりない『スタンド』、みるみる距離を縮められていく。

「うわああああああああァァァァァァァァァァァァッ!!

(な………なんてパワーだ…!クソォ……化け物め………!!)」

 

ズル……ズル……

 

地面に溝を穿ちながら、慧音は輝之輔を引き寄せる。

『スーパーフライ』の中で紅く輝く彼女の瞳は、彼に地獄の門前で牙を剥く魔獣のそれを想起させた。

「(な……なにか無いかッ!?この絶体絶命のピンチを切り抜けるチャンスは………ッ!!)」

迫る脅威の目前、輝之輔は必死に打開策を探る。

「(僕は『ビーチ・ボーイ』の扱いに慣れていない……糸を精密に操ったり、透過不透過を調節したり、針を体内を上らせて心臓を破るなんて事もできない。)」

 

ギギギギ………

 

『ビーチ・ボーイ』の竿が大きくしなり、悲鳴を上げる。

「(糸にダメージを伝えたり、直接サブマシンガンで銃撃したいが……今は本当にギリギリの状態、『エニグマ』の僅かな力でも抜けば、一瞬で引き倒され、為すがまま引き摺られてしまう……ッ!)」

 

ズル……ズリ……

 

姿勢が崩れそうになるのを、慌てて『エニグマ』に支えてもらい持ち直す。

「(しかも、あの女『能力』を再発動しやがった!御阿礼の子も混乱に乗じて逃げてしまった……人質にできる人間もいない…!)」

ギリギリと歯を食い縛り、輝之輔は力を振り絞り耐える。

「(こうなったら『ビーチ・ボーイ』を離して、一目散に逃げ出すか!?

いや、駄目だ!ヤツに『ビーチ・ボーイ』を渡した瞬間、逆に奪われた『ビーチ・ボーイ』で釣り上げられる………ッ!)」

彼と『エニグマ』、一人と一体の体力は限界に達していた。腕が、足腰が、乳酸に冒され悲鳴を上げる。

「(駄目だ!普通に考えていたんじゃ、このピンチを切り抜ける策は浮かばない!

そうだ、逆に考えるんだ……犬が玩具をくわえて放さないなら、逆にあげちゃってもいいのさと考えるんだ……要は発想の転換だ……打開策を探る対象を『四次元的』にしなきゃ駄目なんだ……!

ヤツが『ビーチ・ボーイ』を引っ張っているなら………)」

はッ!!

輝之輔は電に撃たれたように顔を上げた。

「そうだッ!犬にくれてやればいい!

………ただし、玩具全部じゃなく……………」

輝之輔は『ベール』に手を掛ける。

「『糸』だけなあアアアアァァァァ――――――――――ッ!!」

弾くように、『ベール』を一気に起こした!

 

ビイィィンッ!

 

「なぁっ――――――――――!?」

『ビーチ・ボーイ』の竿先が跳ね上がり、勢いよく糸が弾き出される。

「うぐっ!?」

千切れんばかりに引き張られていた糸が慧音に飛び掛かり、彼女をがんじがらめに絡めとった。

「フハハハハハハァ―――――――ッ!!」

輝之輔は自身を紙に変え逃走する。

「くっ―――――!」

全身にまとわりつく糸と格闘し、慧音は輝之輔に弾幕を放つ。だが、弾幕は全弾『エニグマ』に防がれる。

「ヒャッハハハハハ―――!無駄無駄ァッ!」

輝之輔は糸の届く限界まで離れ、民家の中に潜む。

「『能力』が解除されていた間に確認しておいた…この家は本物、ヤツの攻撃も通過出来ない!

―――――――そして、一旦危機を脱して落ち着いたら、『ビーチ・ボーイ』の使い方が分かってきたぞ………」

 

ヒュンヒュンヒュンヒュン!

 

「っ!?」

慧音の体に絡みついていた糸が、彼女の皮膚を透過し体内に侵入する。

「ぐっ、マ、マズイっ!!」

慧音は体外に残っている糸を掴み引き抜こうとするが、当然ビクともしない。

糸は彼女の心臓に巻き付き、輝之輔は勝利の雄叫びを上げる。

「勝ったッ!ぶっ殺してやる!!抉れろっ半獣ッ!!」

 

グンッ!

 

満身の力で竿を振った!

 

ズバシャァッ!!

 

肉が裂け、血が噴き出す。

ビシャビシャと鮮血が床に飛び散り、どぎつい朱に染まる。

 

――――――――――ドシャ

 

血まみれの身体が、力無く床に倒れ伏した。

 

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――え………………?」

輝之輔は、床に倒れている自分を発見した。

視界は一面真っ赤で、焦点が合わない。

起きようとするが、身体が言う事を聞かない。

「な……………な…に……が………?

ぐぅッ!?」

後頭部を駆け抜けた激痛に、彼は顔を歪める。

「(これは………僕の………血…ッ!?)」

自身に迫る危機を察知し、『エニグマ』で身を守る。

『エニグマ』が何かを受け止め、紙に変えた。

 

ハァッ………ハッ………ハァ……………!

 

「(な……何かいる…!僕を襲った何かが………

……ッ!?)」

顔面に重い衝撃を受け、輝之輔は壁に叩き付けられた。

「が…………は……ッ!!」

ズルズルと崩れ落ち、輝之輔は苦悶に喘ぐ。

「(なんだ………?何に攻撃された………!?『エニグマ』で紙にできないということは――――――――――ッ!!)」

 

ガシィッ!

 

見えない『何か』に、全身を押さえ込まれた。

「ぶげぁあッ!」

抵抗する間もなく、顔面にもう一発。

「(か、紙にできないっ!まさかコイツら――――――――――)」

 

 

 

「――――――――――――――――――――駄目だ!稗田様の仰っていた通り、鍬が紙に変えられちまった!」

「怯むなッ!生身は紙にならない!」

輝之輔の顔面に拳を叩き込んだ男が、彼に組み付く。

「コイツ、俺たちが見えてねえ!妙な武器を使われる前に叩き潰せ!」

慧音の『巻物』を見ていた男が輝之輔の腕を踏み、他の男が顎を強かに蹴り上げる。

「…………俺たちは、先生にとんでもないことをしてしまった………

この程度で罪滅ぼしにはならないが、命捨てるつもりで行くぞッ!!」

慧音の家を襲撃した男達は、臆することなく輝之輔に立ち向かっていった。

 

BGM 石鹸屋『冒険の潭』

 

 

 

「ぐうっ……………くっ……………!」

糸が体内に入り込み、いくら引っ張ってもビクともしない。

「ま…まずい……!このままだと心臓を………っ!」

『ビーチ・ボーイ』の糸が、彼女の心臓に達しようとしていた時、

「慧音………っ…先生…っ……!」

阿求が建物の陰から走り出て、駆け寄ってきた。息を切らし、阿求は慧音に告げる。

「『巻物』は……男衆に手渡しました………今、あの少年の隠れている家に向かっているはずです…………!」

身体が弱いため滅多にしない全力疾走をし、かなり苦しげに途切れ途切れに話す阿求に、慧音は礼を言う。

「ありがとう、お陰で時間が稼げる。私は彼らを助けに行くので、貴女は早くこの場から離れて――――――――――」

阿求に逃げるよう言おうとした。が、彼女は顔を上げ、慧音に質問する。

「その鉄塔からは出られないのですか?」

「……ああ、試してみたんだが、この鉄塔から出た部分は金属に変化してしまう。」

慧音が腕を鉄塔の外に伸ばすと、手は継ぎはぎだらけの鉄塊に変化する。

「……奴らは貴女だけその鉄塔の中に入れ、私は何故か入れなかった……鉄塔を出した時、最初に入っていた男も引きずり出して、まるで『一人しか鉄塔内に入れたくない』かのように………」

阿求は鉄塔の『ルール』に気付き、慧音に『覚悟』を秘めた目を向ける。

「慧音、貴女がそこから出る方法を思いつきました!」

阿求は息を整え、構える。

「私が入ればいいんですっ!!」

一気に鉄塔内に駆け込み、慧音を突き飛ばした。

「な――――――――――っ!?」

慧音は鉄塔の外に押し出され、着地する。何処も金属になってはいない。

「この鉄塔には…『一人だけ』いなくてはならないんです。最初から男が中に居て、その男を追い出して貴女を閉じ込めた……だから、『二人』中にいればどちらか『一人』は出られるのです。」

「だ、駄目だ阿求!それでは貴女は出られないことになる!貴女をここに残して、奴の所に向かうなんて――――――――――」

「……慧音、今ごろ男衆は奴と交戦しているはずです。今貴女が行かなければ、彼らの命が危ういのです。だから、早く助けに行ってあげて下さい。」

阿求の堅い決意に、慧音は一度口をつぐむ。

「分かった、私はあの少年を倒しに行く。貴女の歴史を『喰らって』行くので、ここで待っていてくれ。」

「はい、頼みます!」

『ビーチ・ボーイ』の糸を辿り、慧音は輝之輔の潜む場所を目指していった。

 

 

「がはッ……!」

顎に強烈な一撃を受け、輝之輔は壁に叩き付けられる。

「(や………やっぱりそうだ……コイツら、ステゴロで……………)」

頭に霞が掛かり、気を失う前に頭と肉体の神経を紙にして遮断した。さらに鍬で殴られた後頭部の傷を紙に変え止血する。

「(僕はもう苦痛も衝撃も感じていない…死ぬまで倒れない。

一撃で顔面が潰れていないという事は、コイツら人間か……?だが早くなんとかしないと殺される……確実に!)

全身を押さえ付けられ、滅多打ちに殴られ、蹴られる。骨が何本もへし折られる音がした。

「(身体を紙にして脱出するか!?いや、これだけガッシリ掴まれている時にそれをしたら、ビリビリに破り棄てられるッ!だが腕も動かせない……クソッ、何か無いか!?脱出の手立ては……

――――――――――ッ!?)」

輝之輔は喉元を何者かに締め付けられ、呼吸不能になった。

 

ギリッ……ギリリ…………

 

「げッ…………が…………は……ッ…!?」

痛覚を切っていても、脳の血流が滞れば当然気を失ってしまう。

物凄い力で首を絞められ、輝之輔は悶える。

「グ…………うっ…………?ぎ…………げェ………ッ……!!」

目をグルグル回し、白目を向き輝之輔は抵抗するが、当然痩せっぽっちな彼の腕力で十数人の男達を払い除ける事は不可能だった。

視界が揺らぎ、ぼやけ、吐き気と共に涙が滲む。

「(こ……この…感覚…

この感覚……は…どこかで……、ッッ!)」

大勢の男達に組み伏せられ、なすがまま嬲られる感覚。

何も抵抗できず、強引に押さえつけられ身体をまさぐられる憐れな自分。

 

 

――――――――「輝之輔ちゃんよォ、俺ァ金曜に言ったよなぁ?いや、土曜だったっけ?まあとにかく、言ったよなァ月曜に五万持って来いってよオ〜?ン?」

 

――――――――「イヤ、だからさァ、テメエの財布の中身とか聞いてねえんだっつーの。親の金でもなんでもいーから、五万キッチリ持って来いや。」

 

――――――――「まあ、これ以上殴っても金出てこねーし、無いモンは無いってよく言うしなァ〜、もう五万のことはいいわ。」

 

――――――――「でもよお、俺らとの約束を一方的に破っといてナーンモ代わりのお詫びナシってのも…そんなんじゃあ輝之輔ちゃんもスッキリしねぇよなァ?だからさ………」

 

――――――――「――――――――身体で払ってくれや、なあ?」

 

 

――――――――「先生ッ!助けて下さいぃッ!センセーッ!宇佐見センセェぇェェェェぇー――――ッッ‼」

 

――――――――投げ掛けられる、『養豚場の豚を見るような目』

 

――――――――目があった一瞬で、見捨てられることを理解した

 

――――――――嫌だ

 

――――――――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだ嫌だ気持ち悪いイヤだ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤダ離して嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だイヤだイヤだ触らないでイヤだ嫌だ嫌だイヤダ嫌ダ汚さないでイヤダ嫌ダ嫌だ嫌だ止めて嫌だイヤダイヤだイヤだイヤだ嫌だイヤダ嫌だイヤダ

イヤダ嫌ダ嫌だいやだいヤだいやだいやだい゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛イ゛ヤ゛タ゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛い゛や゛た゛イ゛ヤ゛タ゛イ゛ヤ゛タ゛イ゛ヤ゛タ゛イ゛ヤ゛タ゛あ゛ぁ゛ァ゛あ゛ぁ゛あ゛

ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛あ゛

ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――ッッ!!」

心の底の底、最も奥深くに沈めていた記憶。

腹の奥から込み上げる、気が狂いそうなほどのどうしようもない嫌悪感。

逃れたい感情が頭を埋め尽くし、屠殺される豚のような声を上げ、輝之輔は限界の力を振り絞った。

【エニグマ】で男達の体温を奪い、神経の電気信号を遮断する。

彼の全身を押さえ込んでいた力が一斉に消えた。

その瞬間、輝之輔は蛇のような素早さで懐に手を伸ばし、紙を抜き出す。

「うおおおオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――ッッッ!!!!」

日符『ロイヤルフレア』が放たれ、室内の全てを呑み込んだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

「――――――――――――――――――――

――――――――――…………ゲホッ…………」

梁や瓦を紙にして、輝之輔は崩れた屋根の下から這い出た。

「ゲホッ、ゲホッ………く、くそっ……あいつら、よくも…………」

喉を押さえ、輝之輔は苦しげに息をする。

そして顔を上げた次の瞬間、

「――――――――――ッ!?」

彼の表情が、凍り付いた。

彼の前には、血溜まりが広がっていた。

「――――――――え………?」

血の池の中に横たわる、男達の身体。

辛うじて原形は留めているものの、その大部分は焼け焦げ顔面は眼孔と鼻の面影を残し完全に吹き飛んでいる。

「――――――――――ハァ――――――――――ハァ………………」

四肢がもげ、バラバラに散らばった者。

グズグズと崩れ、挽き肉と化した者。

腹が破れ、潰れた腸が飛び出した者。

輝之輔の呼吸が乱れる。

冷や汗が流れる。

「――――――――――ぼ…………………僕が………やった…の……か……?これは…………」

 

ドグン…ドグン…

 

胸の鼓動が激しくなり、息が詰まる。

初めて、人を、殺してしまった。

その事実が、鉛の塊のようにのし掛かってくる。

下腹部が冷たい。苦しい。息ができない。

 

ハァ……………ハァッ………

ハァ………ハァ……

 

血。臓物。脳髄。眼球。

どぎつい色彩が、彼の網膜に焼き付く。

 

ハァ……ハァ……

ハッ…ハァ…

ハ…ハァ…

 

「――――――――――ウゥッ!?」

胃が締め付けられ捻り上がり、込み上げて来た物を、輝之輔は地面にぶちまけた。

「うえぇッ!おげえええええええええっ!!」

ビシャビシャと音を立て、反吐が地面に落ちる。

水飲み鳥のように顔を伏せ、胃の内容物全てを吐き出した。

反吐が溢れ、流れ、血溜まりと混じり合う。

「うぐ……っ……うえ……………ゲホ…………」

ひとしきり吐き出し、それでも吐き気は治まらず、輝之輔は口を押さえる。

胃酸のえぐみと甘ったるい血の臭いが鼻をつく。

「――――――――――――――――――――

――――――――――ん…………うっ…………

………ペッ」

【エニグマ】で口の中の反吐を紙に変え、吐き出すと、顔を上げた。

「……………………フ……………」

ブルブルと肩を震わせ、込み上げる感情を吐き出した。

「ふひゃははぎゃははははは~!!」

突如、狂ったように笑い始める。

「ヒャハハハ!な、なんだ、ぜ、全然なんともないじゃないか!」

夜叉のような鬼気迫る表情で、彼は天を仰ぐ。

口を引き吊らせ哄笑を続ける彼の様子は、ちっともなんともなくはなかった。

「ヒィ………っ…ひぃィ…………!」

両手で顔を覆い、輝之輔は目を見開く。

「だ、だって、仕方ないじゃないか……!アイツらだって、僕をこ、殺そうとしていたし、あのままだったらぼ、僕が死んでいたんだし……!!

そ、それに!奴らが死んだのは『ロイヤルフレア』のせいじゃないか…!だからっ、殺ったのはあ、あの魔女だ!!僕は、僕は――――――――――」

支離滅裂な言い訳が、後から後から溢れ出す。

瞳がガクガクと震え、目の端から涙が伝う。

 

ドグシャァッ!

 

「ッ!?」

背後から聞こえた破壊音に、輝之輔はビグッと身をすくめ振り返る。

【ビーチ・ボーイ】のリールを慧音が踏み砕いた音だった。

 

BGM IOSYS『神獣の名の下に』

 

「ひぃっ!?」

ドシャリ、腰が抜け輝之輔は倒れた。

【ビーチ・ボーイ】の糸が消えたのを確認すると、慧音が跳躍し、一瞬で輝之輔の眼前に現れた。

 

ガシィッ!

 

尻餅をついた彼の肩を、慧音の手が掴む。

「ひ………ひぇあァァァァ!!」

輝之輔が声に為らない悲鳴をあげる。

両目に涙が滲む。

慧音が頭を振り上げる。

悪童の脳天に鉄槌を振り下ろさんと。

 

「うわあアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――!!!!」

 

ガッヅウゥゥゥン!!

 

重い衝撃音が、人の気配の無い人里に響き渡った。

 

 

 

「――――――――ッ!?」

 

ギシッ、ギシシ……ッ

 

慧音は息を呑んだ。

彼女の鉄の額が打ち据えた物は、輝之輔の脳天ではなかったからだ。

「――――――――…………」

輝之輔は拳大ほどの鉄の塊で、彼女の重機のごとき一撃を受け止めていた。

「……………………『無い』……」

輝之輔が、ボソリと呟いた。

「無いじゃないか…………あ?」

怒りに肩を震わせ、輝之輔は慧音を憤怒の眼差しで睨み付ける。

「奴らの死体が………!無いじゃないかァァァァッ!!」

輝之輔が、絶叫をあげた。

彼の足下に広がっていた筈の血の海は、肉の列島は、影も形も無く消え去っていた。

「てめぇ………!アイツらのダミー、創ってたんだろう?

貴様の『能力』で!

過去の一瞬を切り抜くとかしてダミーを並べ、それを爆破して殺したと僕に思い込ませたんだ!

その間に例の『巻物』で奴らに指示して、この場からトンズラさせた。

だから死体の転がってた場所に尻餅ついても何も無いんだろ!!」

怒り狂い、輝之輔は捲し立てる。

「どいつもコイツも…寄ってたかって僕を馬鹿にしやがってッ!!」

輝之輔は鉄塊を彼女の眼前に突き付けた。

危険を察知し回避しようとしたが、

「(なにッ!?か、身体が………!!)」

自分の身体でないかのように、指の一本さえ微動だにできない。

「……どうだ…動けまい?

僕の【エニグマ】は、何も物を紙に変えるだけが能じゃない。

ちょっとした『頭の使いよう』で、なんにでも応用可能なんだ…」

【エニグマ】を取り憑かせ、慧音の動きを封じると、輝之輔はギロリと彼女の瞳を覗き込む。

「よくもコケにしてくれたな……?」

ドスの利いた声で、輝之輔は語り掛ける。

「ああ……認めるさ……僕は【チキン】だ、臆病者だ、意気地無しの弱虫だ。

僕は一人も殺した事はない。

妖怪でも人の姿をした奴は、ひっぱたいたことも無い。

それ以上にえげつない仕打ちは加えたがな……身体を傷付けるのは、恐しくて身がすくんでできなかった。

向こうが先に襲って来て、内臓をゲロするくらい蹴られたってのに、その報復に暴力を振るう間も膝がガクガク震えて……ずっと『死にたい』『死にたい』って心の中で繰り返してた……まあ、それが目的で暴行してたんだがな……聖人レベルの清さだろ…?

だが!……これからはそんな【甘さ】は棄てる。

擬似殺人をやったついでに……今、ここで、僕の『処女』切ってやる……メソメソと女々しく泣きじゃくる僕の【弱さ】を切り捨ててやる。」

【スーパーフライ】の欠片を慧音の顔に押し当て、輝之輔は脅しをかける。

「記念すべき初めての人殺しは………ッ!!バラバラ殺人だッ!!

お前を閉じ込めた『鉄塔』には、閉じ込めた者を自らの一部にするのとは別に『能力』があってね………喰らったダメージを、同じエネルギーだけ反射するんだ。

つまりッ!

『鉄塔』を紙に変えたエネルギー!

紙の『鉄塔』からコイツを破り取ったエネルギー!!

そしてお前が頭突きしたエネルギー!!!

これから全て!お前に返って来る!!」

 

ウオォォォン……

 

【鉄塔の欠片】が、振動している。

虐げられた怒りに身を振るわせているように、その怒りを報復と称しぶち撒ける兆候であるかのように。

「ほうら……聞こえるだろう?

この鉄屑が【パワー】を吸収して内部全体に効果的に散らしている音だ……まもなくお前がおっかぶるダメージをな…」

と、慧音が苦しげに口を開いた。

「お……前は……なぜ…悪人にな…ろうとする…?」

「…………なに…?」

「………人を傷付けるのが嫌なら……しなければいい……

【臆病】な心があるなら………その心を捨てるでなく、人の痛みを理解できる【優しさ】として、大切にすればいい……

それを自分から無理に切り捨てるのは……自分を傷付けることになる……」

教師という仕事柄か、彼女は目の前の自分を殺めようという少年の瞳を、臆すること無く、しかし非難がましさの籠められていない、真っ直ぐな目で見つめ、諭すようにそう言った。

「―――――――――………………………

…………僕は…何回殴ったっけ……?通った高校の女教師を怪我させた時………」

突然の独白に、慧音は一抹の不安を覚える。

「4キロもある辞書で後頭部殴りつけてやったんだ。

あの時の気持ちだ…久々に湧いて来た…今と同じ気持ちだ…僕を見捨てやがって…『宇佐見蓮子』……あの女(アマ)………!」

 

――――――――慧音の諭すような敵意の無い台詞は、

「この鉄屑の中の『振動』みたいにグラグラと昂ってくるぜッ!

久々に人をぶっ殺したいというあの時の気持ちがなァァァァァァァァァ―――――ッ!!」

 

――――――――逆効果だった。

激昂し、輝之輔は鉄屑を彼女の顔に押し付ける。

「棒を叩き付けられたスイカのように真っ二つに砕け散るがいいッ!!」

 

ドギュウゥゥン!

 

【エニグマ】の姿をかたどったエネルギーの塊が、慧音に襲い掛かった。

 

 

BGM ふぉれすとぴれお 『アイ・ウィッシュ・クロスフェード』

 

 

 

ズドオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

「ぶぐあァァァァァ――――――――ッ!?」

横合いから突っ込んで来た極太レーザーが、輝之輔を呑み込みぶっ飛ばした!

同時に、黒い影が電光石火の勢いで慧音の手を掴み飛び立つ。

輝之輔の手を離れた【鉄塔】の欠片から放出されたエネルギーが、慧音を掠め、背後の甘味処の壁に激突する。

 

ズバシャアァァァッ!

ドガアァァァァン!

 

壁は紙切れの如く真っ二つに引き裂かれ、粉々に粉砕された。

「ヒュー、危ないところだったぜ、なあ、センセー?」

慧音の右手を握り、箒に跨がり空を切る人影。

闇夜のように黒い服とそれに映える白いエプロン、夜空になびく流れ星のような金髪、そして彼女の存在を物語の世界から抜け出して来た魔女だと主張する黒いトンガリ帽。

「魔理沙……っ!」

霧雨魔理沙はトンガリ帽の鍔を上げ、慧音を見下ろす。

「慧音、教育熱心なのは分かるが、時と場合を考えてやるもんだぜ。アイツは………、ッ!?」

皮肉の一つでも言ってやろうと開いた魔理沙の口は、そのまま固まった。

慧音の左肩から腰にかけて、左上半身がペラペラの紙になっていたのだ。

「おい慧音っ!?お前その身体………!」

風にはためく左半身は、今にも千切れそうに見えた。

魔理沙が叫んだ瞬間、

パッ――――――――

「えっ――――――――」

魔理沙の手を、慧音が放した。

「おっ、おい!?なにやって――――――!」

慧音は空中でとどまると、空いた右手で紙になった左半身を持ち、捲った。

開いた紙から、飛び出す絵本のように左上半身が現れ、【紙化】が解除される。

「――――――――心臓が封印されて血流が止まったのはかなり苦しかったが……大丈夫だ、【開けば直る】。

ありがとう魔理沙、助かった。もしこれが直撃していたら、ただでは済まなかった。」

彼女が手を離すと紙はヒラヒラと舞い落ちていった。

「なんだ……?以前奴と戦ったとき、奴は私を紙に変えることはしなかったぜ。なぜ今はできているんだ?」

「あの鉄塊のせいだ。あれを介して【ファイルエネルギー】を反射した時は、生き物も紙にできるらしい。」

「?

もしかしてさっきの鉄屑、阿求が閉じ込められてたドでかい鉄塔の一部か?一ヶ所引き千切られたような欠損があったぜ。」

「阿求に会ったのか?ああ、そいつの一部だ。あれに与えたダメージは全て同じエネルギーで反射される。」

「なるほど、阿求の救出よりあんたの方を優先して正解だったな。」

「……………もしかして魔理沙、あの鉄塔を破壊しようとしたのか?」

「ああ、ミニ八卦炉押し当てて貫通力に特化した零距離マスパをぶちかまそうとしたが、阿求が先にあんたを助けてくれと言ったから中断した。あれあのままいってたらヤバかったな。」

「……………まったく、魔理沙、前々から口を酸っぱくして言っているが君は無鉄砲過ぎる。後先考えないで直進するだけでは、いずれ狗に棒、杭に木鎚、人の信頼を失い大切な隣人を………」

「あ~はいはい説教はおあずけだ今それどころじゃないって言ってるだろさっきから。」

クドクドと説教を始めた慧音を、魔理沙は諌め顔を上げる。

彼女の視線の先、吹き飛ばされた輝之輔が立ち上がろうとしていた。

「慧音………アイツは私が倒す。手出しは無用だぜ。」

「なっ!?ば、馬鹿を言うな!以前奴と戦ったなら知っているだろう?奴は弾幕を無効果する!倒すには肉弾戦しかないが、妖獣の力を持つ私ですらそれさえも困難だ、人間の君の手に負える者では――――――――、っ!?」

ガッ!

魔理沙が慧音の胸ぐらを掴む。

「『人間の手に負える者じゃない』!?人間だからこそ立ち向かう【義務】があんだろ!」

魔理沙に怒鳴られ、慧音は息を呑む。

「いいか、ここは何処だ?『人里』だろ!今じゃ妖怪共も入り浸るようになっているが、ここは人間の居場所なんだ!この幻想郷の中で、妖怪に襲われる心配なく、飢え死にする心配もなく、人間が暮らしていける数少ない場所だ!

その私達の居場所が、たった数人の外来人に蹂躙されている!この幻想郷の歴史の中で無数にあった、妖怪共との闘争、数え切れないほどの人間の血と努力の結晶の、この里が!そんな人達の苦労なんざこれっぽっちも関係無い奴に、踏みにじられているんだぞ!!

…………私は、先人達の努力とかには興味はない、語る資格も無い。でも!里の歴史を一番良く理解しているお前が、それを言ってどうする!?人間だけでは自分達の居場所も守れないってのか!?半分妖怪だからって図に乗んなッ!!」

慧音に背を向け、魔理沙は戦闘態勢に入る。

「いいか、里の男衆にやったように、【歴史】食べるのは止めろ。奴との決着をつける権利は、私だけにある!!」

ミニ八卦炉に魔力を蓄え、魔理沙は輝之輔の所に向かおうとする。

「待ってくれ!」

呼び止める慧音の声に、魔理沙は振り返る。

「…………………そうだ………私は、つい忘れていた………この里の、人間の強さを。半獣である事を驕り、何時の間にか人を【守る】事しか考えられなくなっていた………でも、違う。この人里の者達は皆、魑魅魍魎が跳梁跋扈する異形の楽園で、自分達の力で【國】を創成した人間達の末裔。誇り高き妖怪退治屋の御霊を受け継いでいる……さっきの男衆にそれを感じた。怯むことなく勇敢に、未知の敵に挑む姿は、まさしくこの地に眠る英霊達の物だった。

ありがとう魔理沙、君のお陰で目が覚めた。」

「…………いや、こっちこそ済まなかったな、ついキツい事口走ってしまった。」

魔理沙はやや照れて頭を掻く。

「なんか変な気分だな、いっつも説教される方なのに、こんな状況の時偉そうに説教垂れて、それで感謝されるなんて。私のガラじゃないぜ。」

二人の口から、笑いが漏れる。

「――――――――さあ、私は行くぜ。慧音はどうするつもりだ?」

「もちろん邪魔はしない。あの子は君に任せる。私は――――――――」

手に持っていた巻物の【歴史】を戻し、慧音はキッと東の空を見上げる。

「私は、博麗神社に向かう。この異変…………いや、【事変】には、黒幕がいる。そいつをなんとかしないと、この惨劇は解決できない。」

見ると、東の空、博麗神社上空には、紅い光が満ちていた。妹紅の放った火柱だ。

「おいおい、神社炎上中か?霊夢のヤツ、これから暫く不機嫌だぜ……一週間は近づかない事にするか。」

苦笑する魔理沙に、慧音は目を向ける。

「君も知っていると思うが、奴の能力【スタンド】は普通の人間には見えない。だから君にこれを渡そう。」

魔理沙に巻物を手渡す。

「いいのか?これが無かったら――――――――」

「大丈夫だ、【歴史を創る程度の能力】はどんな媒体にも効果を発揮できる。」

慧音はもう一つ巻物を取り出し、魔理沙に示す。

「分かった、ありがたく使わせてもらうぜ。」

魔理沙は慧音に背を向け、輝之輔の所に向かおうとした。

「待て、魔理沙。」

慧音が呼び止め、魔理沙は振り返る。

「――――――――くれぐれも、殺生はするな。」

「分かってる、死後地獄逝きはゴメンだぜ。」

それだけ言い交わすと、二人はそれぞれの向かうべき場所へと飛び立った。

 

 

 

BGM C-CLAYS『空振りサディスティック』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぐああああアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ―――――ッ!!」

マスタースパークを喰らい、輝之輔は吹き飛ばされた。光の奔流に呑み込まれ、紙切れのように流されていく。

「クソォッ!!【エニグマ】ァァァァァァッ!!僕を護れぇぇぇ!!」

慧音に張り付いていた【エニグマ】を戻し、彼はマスタースパークを【ファイル】した。

バシュウゥゥゥゥゥンン――――――――

レーザーが消滅し、彼は地面に投げ出されゴロゴロ転がる。やがて止まると、よろめきながらも立ち上がった。

「ぐぅ…………ハァー…………ハァー………………」

輝之輔は息を荒げ、身体の損傷を確かめる。全身に火傷を負っていたが、たいして酷い物ではなかった。破傷風に気をつければ、痛覚をOFFにしている彼にとって、戦闘に支障をきたす心配は無い。

「クっソォォォ…………あのアマァ………」

怒りに燃え、輝之輔が顔を上げた時。

「ッ!?」

彼は目を見張り、息を止めた。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――

「――――――――よう、また会ったな…………?」

霧雨魔理沙が、箒に跨がり上空から見下ろしていた。

「あの出鱈目レーザー…………やっぱりお前だったか…!!」

輝之輔の表情が、憤怒に歪む。

「前の決着、つけようぜ。」

魔理沙がミニ八卦炉を構え、魔力を集中させる。

「恋符『マスタースパーク』!!」

輝之輔に向けたミニ八卦炉から、巨大なレーザーが放出される!

「【エニグマ】!」

バッシュウゥゥゥゥゥン!

【エニグマ】を盾に『マスタースパーク』を封印し、輝之輔はサブマシンガンの銃口を向ける。

「喰らえっ!」

照準を魔理沙に合わせ、引き金を引いた。

ズダダダダン!

サブマシンガンが火を噴き、亜音速の鉛弾を吐き出した!

「うっ!?」

魔理沙は急加速し銃弾を回避した。

「なんだ!?なんかあの機械みたいなのが光って、破裂音がしたが――――――――」

逃げる一瞬前『直ぐ逃げろ』と文字が浮かび上がった【巻物】に再び目をやり、何が起こったのか確認する。

「げっ!?【見えない速さの弾幕】!?全然分からなかった…………撃つ前に動いていなかったら、今ごろお陀仏だったぜ………」

【巻物】を見やり驚愕と安堵の表情を見せた魔理沙。飛ぶ彼女を睨み、輝之輔は歯軋りする。

「(くそっ、あのアマから【巻物】渡されてたのか……!あれが向こうにあるだけで僕の【エニグマ】の戦略的価値は半減してしまう………!)」

輝之輔は懐から紙を抜き、一気に広げた。

 

バラバラバラバラバラバラバラバラ――――――――

 

「ヘリコプターだ!!」

農薬散布用無人ラジコン操作式ヘリを操り、輝之輔は魔理沙目掛け突っ込ませる!

「うおおっとぉ!?」

猛スピードで突っ込んできたヘリを間一髪避け、魔理沙は急発進する。

「……………ん?」

空中で身を捻り急カーブした魔理沙は、輝之輔の姿が消えた事に気付いた。だが、問題はそこではなかった。

「げっ…………!?」

無数の紙が舞い上がり、魔理沙の頭上からヒラヒラと舞い降りて来た。

「マズッ――――――――!」

紙から逃れようと飛行速度を上げるが、

「なっ!?」

既に魔理沙を中心とした紙の包囲網は完成していた。

「あの空飛ぶ機械……どうやら私にぶつける事よりこっちが目的だったようだな………」

自分の周りを大きく旋回しながら紙をばらまき巻き上げていく無人ヘリを睨み、魔理沙は舌打ちする。ヘリの農薬を積み込む容器は改造され紙を満載してあり、羽根の風で広範囲に紙を撒き散らす仕組みになっている。

「うわっ?」

至近距離で紙が開くのに気付き、咄嗟に距離をはなす。直後、

ドグオオオォォォォ!

紙から爆炎が吹き出し、一瞬前魔理沙がいた空間を呑み込んだ。

「あ、危なかったぜ……」

振り返り爆発を確認すると、彼女は八の字を描くよう旋回を始める。

「これだけ大量の【爆弾】撒いといて一斉爆破しないって事は………」

スピードを落とさず、高速旋回を続けながら魔理沙は思考を巡らす。

「ヤツの狙いは、機動力に勝る私を釘付けにしておくこと……そして、どこからか息を潜めて狙っているはずだ。私が【隙】を作る瞬間を!」

旋回しながら、魔理沙は油断なく辺りを見張る。

「【巻物】を見ようとしたり、『マスタースパーク』で突破しようとしたり……そんな一瞬の【隙】を突いて、【見えない弾幕】でトドメを刺す……そんなところだろう、が……!」

魔理沙の瞳が光を帯びる。

「甘いぜっ!この魔理沙様にそんなチャチな作戦まるで歯が立たないって事を教えてやるぜ!!」

八の字旋回を続け、魔理沙はスペルカードを掲げる。

「黒魔『イベントホライズン』!」

魔理沙を中心に幾つもの魔方陣が現れ、放射状に拡散していく。さらに魔方陣はそれぞれ無数の星形弾幕を生み出し、それらが綺麗な紋様を描いて広がっていく。

ズドグオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!

弾幕が当たった【紙】が爆発し、さらに爆風に巻き込まれた【紙】も爆発、ねずみ算式に連鎖爆破されていく。

「大量に仕掛けたのが仇になったな!こっちが起爆の主導権を握ってしまえば、包囲網突破は容易いぜ!」

爆発が爆発を呼び、【紙の包囲網】は脆く崩落した。爆煙が晴れる前に、魔理沙は次の一手を打つ。

「天儀『オーレリーズソーラーシステム』!」

赤、黄、青、緑、紫色、オレンジの玉が魔理沙を中心に回転し、さらにそれぞれが一本のレーザーを放出する。

「煙幕が晴れた時、その瞬間が勝負の時だぜ!」

風が立ち込める煙を吹き払い、視界が開ける。

「っ!!やはり!!」

彼女の視線の先、残りの【紙】を撒き散らして飛行を続ける無人ヘリの姿があった。

「やはりっ!そうだと思ったぜ!」

ヘリの方向へ急加速し突っ込んでいく。

「爆煙の中耳を澄ましていて気付いた!あれだけの爆発がありながら、起爆剤を満載した機械の音が消えなかった事を!つまりっ!」

無人ヘリを目掛け、まっしぐらに飛翔する!

天儀『オーレリーズソーラーシステム』のレーザーが、ヘリに迫った時、

バシュウゥゥゥン!

レーザーがヘリに当たる直前に消滅し、舞い落ちる【紙】が一枚増える。

「ヤツはあの機械に載っている!爆風を全部防いだから、あの機械は撃墜されなかったんだ!

そして今ので確定した!ヤツが潜んでいる【紙】は――――――――っ!!」

魔理沙の視線が一点を見つめる。

「その【脚】に括り付けてある【紙】だぁぁぁぁ――――――――っ!!」

天儀『オーレリーズソーラーシステム』を解除すると同時に、ヘリの脚に括り付けられている【紙】を目指し、箒星のような速さで一直線に飛ぶ。

ヘリから【紙】がばら撒かれ魔理沙の近くで次々と爆発するが、彼女は神業とも言える飛行テクニックで紙一重でそれらを掻い潜り、一瞬でヘリとの距離を詰める!

「はっ!?」

 

目標の【紙】が開かれ、拳銃を握った輝之輔の手が現れる。

 

ダンダンダン!

 

手が引き金を引き、拳銃が火を噴いた!

「嘗めんなぁっ!」

引き金を引く直前、急降下し銃口の延長線上から身をかわす。

弾丸を避けると、魔理沙は身を捻り縦にヘアピンカーブを決め、ヘリの【腹】に向かって急上昇する。

「ここからなら【爆弾紙】も届かない!

竹トンボみたいなのにも巻き込まれないぜ!」

【紙】から伸びる手が、彼女に銃口を向けようとする。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――っっ!!!!」

手が銃を彼女に突きつける動きより、魔理沙が肉薄する動作の方が早かった。

 

ガシィ!

 

手を掴み、銃を叩き落とすと、魔理沙は【紙】をヘリからもぎ取る。

「【金縛り】を喰らう前に速攻でケリを着ける!」

【紙】を開こうと両手を掛けた、その瞬間だった。

「残念、ハズレだ。」

背後からの声。

魔理沙は驚愕し、咄嗟に振り返る。

そこにいたのは、邪悪な笑みを浮かべ【『マスタースパーク』】と書かれた【紙】を開いた輝之輔の姿だった。

「なっ――――――――!?」

『マスタースパーク』が封印を解除され魔理沙を襲う!

「うおおおおォォォォォォォォ――――――――!!」

ミニ八卦炉を構え、迎え撃つ!

「魔砲『ファイナルスパーク』ッ!」

『マスタースパーク』を上回る威力のレーザーが、『マスタースパーク』と激突した。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!

 

『マスタースパーク』は押し切られ、輝之輔の姿を呑み込んだ。

「や、やったか――――――――?」

魔理沙が口を開いた瞬間、

 

ガシィッ!

 

「なあっ!?」

首根っこを掴まれ、振り払おうともがくが、

「(なに……っ!?

か、身体が……!)」

【金縛り】にあったように、身動き一つできず、彼女の体は力無く宙にぶら下がる。

ダラリと垂れた右手から、ミニ八卦炉が離れ落ちていった。

「フフフハハハハ……………

『残念、ハズレだ』とキッパリ言ったばかりなのに……スマン、ありゃウソだった。」

魔理沙の手の中にある紙から輝之輔が姿を現し、ヘリの脚に掴まる。

【エニグマ】のビジョンが魔理沙と重なっていた。

「最初に発砲した後、お前が急降下している途中に投げておいた…………紙に変えておいた僕の『像』をね。

声も姿も僕そのもの、見破るなんてできやしないさ。

しかも像は触れられず、放った『マスタースパーク』はモロに効く。

まさしく【無敵】の分身だ。」

ヘリにぶら下がり、動けない魔理沙を掴んで輝之輔は自慢げに語る。

「っと、この箒は没収だ。

これでもう空は飛べまい!」

魔理沙の箒を『ファイル』し、懐に仕舞い込んだ。

「このままシュールな画でフライトを続けても良いが………生憎このヘリは人が乗るようにはできてないんだ。

だから――――――――」

 

ボンッ

 

輝之輔が腕以外自分を紙に変え、

「君には降りて貰おうか。」

パッ

 

掴んでいた魔理沙の襟を放した。

力を失った彼女の身体は糸の切れた操り人形の如く落下を始める。

「ぐっ!!」

地面に叩きつけられ、受け身もとれずゴム毬のごとく弾み、ゴロゴロと転がる。

帽子も、明後日の方向に飛んで行ってしまった。

「がっ…………は……っ!?」

砂にまみれ、ゴロリとうつ伏せに倒れ込んだ。

全身を強かに打ち付け、鈍い痛みが身体中を襲う。

ヘリが高度を下げ、輝之輔は自身の紙化を解除し地面に降り立った。

「さあ………お楽しみはこれからだ………」

地べたに這いつくばる魔理沙を見下ろし、輝之輔はニヤリと口角を歪める。

「だが、その前に【後片付け】をしないとな。

CDを聴いたあと、それをケースにしまうように…誰だってそうするようにな……」

ラジコンを握り、ヘリを操作する。

「(なっ!?

ま、まさか……!)」

 

ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!

 

高速回転するヘリの羽根が、魔理沙の顔面に突っ込んで来た!

「(っ!?)」

思わず目を瞑り、身を縮める。

だが――――――――

 

バシュウゥゥゥゥン!

 

彼女の目を切り裂く直前、プロペラは雲散霧消し紙と化した。

「クククク……大丈夫、そんなすぐ殺したりはしない。

【お楽しみ】は早く終わらせちゃ勿体ないだろ?」

不気味に笑い、しゃがむと魔理沙の髪を掴み顔を上げさせる。

「調教(まわ)して輪姦(まわ)して録画(まわ)して転売(まわ)して……ボロ雑巾のようになるまで使ってやった後……女として堕ちるところまで堕として遊びながら殺してやるからな…………」

グンッ!

髪を掴んだ手を振り下ろし、魔理沙の頭を地面に叩きつけた。

「ぐ………っ……うっ………」

魔理沙は悲鳴を押し殺すが、それが逆に輝之輔の加虐心に火を点けた。

「ハハハハハハハハ――――――――

どうだ?悔しいか?悔しいだろう?

啼けよホラ、啼いて魅せなよ、霧雨魔理沙。」

立ち上がり、彼女の頭をグリグリと踏みつける。

魔理沙の顔は砂にまみれ、口に砂が入っても吐き出す事さえできない。

「――――――――フン、なかなか骨がある、泣き声一つあげないか。」

輝之輔は足を退けると、今度は顎に足をかけ顔を上げさせる。

「【身体】をいたぶるのはまだだ。

お前も普通の人間、骨が折れたりしたら修復に時間がかかるし、何よりつまらない。

【痛み】が嫌なのはマゾ以外当たり前、誰だって簡単に与えられる【苦痛】だ。

僕ならもっと【エンターテイメント性】を追及する……」

輝之輔は靴を、魔理沙の口に近付ける。

「『舐めろ』。

お前の舌で、キレーになるまでな……」

輝之輔の命令と共に、魔理沙の身体が否応なしに動く。

「う…………んっ………!」

自分の意志とは関係なく、唇が靴に押し当てられる。

「ンッン~♪

巧く靴にキス出来たなァ、いいぞその調子だ………!」

上機嫌に鼻を鳴らし、輝之輔は悦に入る。

「さあ、舐めろ。」

魔理沙の口が開き、舌がゆっくりと伸びる。

魔理沙は必死に抵抗しようとするが、そんな微力はものともせず、吸い寄せられるように舌が靴へと近付いていく。

「……ン?」

魔理沙の周りに、幾つも紙が現れた。

輝之輔はそれらをキャッチする。

「フン、弾幕か。

無駄に決まってるじゃないか。」

【エニグマ】が紙に変えた弾幕をヒラヒラと振ると、輝之輔は鼻で笑い、嘲笑を浮かべる。

輝之輔の愉悦の視線の先で、魔理沙の舌が靴に触れようとした。

 

………ポトッ……

 

「?」

輝之輔の目が、魔理沙の口から落ちた何かを捉えた。

「(なんだ、これは――――――――)」

ふとその【液体に浸けられたキノコが入ったビニール袋】のような物に目を落とした瞬間、

 

ドオォォォォォォン!!

 

魔理沙が口内に仕込んでいた特製キノコ爆弾が、輝之輔の足下で炸裂した。

「なあぁぁぁッ!?」

足を爆破され、輝之輔はバランスを失う。

そのため咄嗟に手に握る【紙】を放してしまった。

「し、しまっ――――――――ッ!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

超至近距離からの弾幕が直撃し、輝之輔の身体が宙を舞った。

「ぐあああァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

輝之輔がぶっ飛び、魔理沙は【エニグマ】の呪縛から解放される。

「(動ける…!

金縛りが解けた!)」

眼前での爆発だが【エニグマ】が自身を護るため爆発を防がざるを得なかったため、彼女は無傷だった。

魔理沙は飛び起きると、自分が落ちて来た場所を振り向いた。

彼女のトレードマーク、帽子とミニ八卦炉が転がっている。

魔理沙はそれに向かい一目散に駆け出した。

 

 

 

「ぐッ…?ゲフ…ッ……!!」

何度もバウンドして地面をゴロゴロ転がり、輝之輔はやっと止まった。

「がはっ……!グゥッ、あのアマぁ…!!」

痛覚を切っているとは言えダメージはダメージ、輝之輔はなんとか立ち上がり、魔理沙の方を睨む。

「なァッ!?」

輝之輔の目が見開かれる。

魔理沙は仁王立ちし、ミニ八卦炉を構え、輝之輔を視界の中心に捉え睨んでいた。

「(しゃ、射程距離外…ッ!?)」

ミニ八卦炉に魔力が集中し、輝之輔に照準を定める。

「(マズイっ!!)

【エニグマ】離れろッ!!

僕を護るんだあぁぁぁああ―――――――ッ!!!」

【エニグマ】を戻し、身構える!

しかしッ!

「彗星『ブレイジング・スター』!!」

ミニ八卦炉を後ろに向け、後方に『マスタースパーク』を放った!

「なんだとォォォ――――――――ッ!!」

まさしく彗星のごとき速さで、輝之輔目掛けて猛進する!

「うあああァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」

生身で突進してくる相手に、自慢の【エニグマ】は通用しない。

超高速で飛翔する魔理沙が激突するまでの刹那、輝之輔は咄嗟に懐に手を伸ばし、『それ』を抜いた。

西部荒野の戦士のごとき瞬発力で、『それ』を迫り来る魔理沙の眼前に突き出す!

 

魔理沙の目の前で、【紙】が眩い光を放った。

「な――――――――っ!?」

反応する間もなく、【紙】から放たれた『マスタースパーク』が魔理沙を呑み込んだ。

 

「………フ………フフ……ハハハハ……!

馬鹿が……ッ!生身を最先端に突っ込んで来るなんて、自殺行為かましやがって……!

一度喰らった技を二度受けるほど僕が馬鹿だと思っているのか!」

冷や汗を流し恐怖に顔を歪めていたが、勝ち誇り、輝之輔は腹の底から哄笑を上げる。

「自分の技を喰らってぶっ飛んでいけェェェェ―――!!

ハハハハハハハハハハハハ―――――――――――――」

 

 

 

ドガアァァッ!!

 

「グバァァァァッ!?」

背後から強烈な衝撃を受け、輝之輔はブッ飛ばされた!!

「(な……………何が……………ッ…!?)」

宙を飛んでいる最中、輝之輔は首を捻り彼を襲ったものを確認した。

「(――――――――――――――――!)」

彼の背後、霧雨魔理沙が脚を蹴り上げているのを見て、彼女に自分の背中を物凄いパワーで蹴り飛ばされたのだと悟った。

「(――――――――なんだよ……………

………箒無くても……飛べるじゃないかよ………………!)」

ドガシャアァァ!

民家の壁を突き破り、輝之輔の姿が見えなくなった。

「【相手が勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している】――――――――

【フラグ】を立てたのはお前だぜ。」

地面に降り立ち、魔理沙はそう言い放った。

 

 

 

【紙】から『マスタースパーク』が放たれた瞬間、彼女は隠していた飛行能力を使いそれを回避し、輝之輔の上空から彼に狙いを定めた。

がら空きの彼の背後から『マスタースパーク』の反動を利用して急降下し、彼の背中に流星のごときキックを見舞ったのだ。

「『ブレイジング・スター・キック』――――――――かなり効いたハズだぜ。」

 

ザッ――――ザッ――――

輝之輔の突っ込んだ民家に歩み寄って行く。

ザッ――――ザッ―――― ザッ

ふと、魔理沙が足を止めた。

「――――――――っ!?下かっ!!」

そう叫び、魔理沙は宙へ飛び上がる。直後、

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

彼女の立っていた地面を突き破り、『マスタースパーク』より強力な極太レーザーが光の柱となって空へと放たれた!

「うおおっ!?」

空中で身を翻し、辛くも魔砲『ファイナルスパーク』から逃れる。

「くそっ、やっぱり箒が無いと機動力に欠けるな……」

舌打ちし、もうもうと立ち込める土煙の中の様子を見ようと【巻物】に目を落とす。

「――――――――――――――――――――――――」

土煙がおさまり、視界が開けると輝之輔が『ファイナルスパーク』が開けた大穴から姿を現した。

「慧音の【巻物】を見て奇襲を看破ったか……」

輝之輔は上空を飛ぶ魔理沙を睨み、呟く。

 

 

 

蹴りが直撃しブッ飛ばされた後、壁を紙に変えてダメージを緩和し、突き破って家の中に逃げ込んだ。そして床と地面を【紙化】して地下水路に進入し、彼女の足下から以前紙にした『ファイナルスパーク』を放ったのだ。

「(まただ………!また僕は【油断】した……)」

ギリギリと歯を喰い縛り、輝之輔は目付きを鋭くする。

「(二度としない……!追い詰めた敵を、【油断】してみすみす逃すなんてマネは………!)」

 

BGM TatshMusicCircle 『Floating Darkness』

 

魔理沙が旋回し、輝之輔と向き合った。

「あれだけ強く蹴りつけてやったのに………ゴキブリ並のしぶとさだな。」

ジャキッ

ミニ八卦炉を構え、魔理沙が輝之輔を見下ろす。

「そうだとも僕は執念深く根に持つタイプでね。くだらん結末など何度でも覆してやるさ。」

輝之輔は【エニグマ】で身を覆い、五枚の【紙】を取り出した。

「なんだ?また面白手品か?それとも奪った私の『マスタースパーク』か?」

注意深く彼を睨み、魔理沙は口を開く。

「フフフフフ――――――――いいや、もっと面白いモノさ。」

笑い、輝之輔は【紙】を開いた。

バシュウゥゥゥゥゥゥン――――――――

「っ!?」

開いた【紙】から出てきた【モノ】を見て、魔理沙はギリリと歯軋りする。

ルーミア、リグル、ミスティア、小傘、響子、五匹の妖怪がドサドサと地面に落ちる。

「――――――――う……………ん…………?」

妖怪たちは呻き、目を開けた。顔を上げ、ぼんやりとした表情で目をこする。

「オラ、起きろ。」

輝之輔はまだ覚醒しきっていないリグルの小指を摘まむと、

ブチィッ!

「…………………え……………?」

紙に変え、引きちぎった。

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!」

血の噴き出す傷を押さえ、リグルが絶叫する。

他の妖怪も振り返り、輝之輔の姿を見た瞬間、

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「ひぃぃっ!?」

表情が恐怖一色に染まり、逃げ出そうとする。自分たちが飛べる事も忘れ、地べたを這いずり恐怖から逃れようとする。

「叫ぶな、黙って話を聴け。」

輝之輔が手を振り、【エニグマ】が彼女達の身体を通過した。

バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンっ!!

ルーミアは目を、ミスティアと響子は口を、小傘は足を紙に変えられ、恐怖に悲鳴をあげのたうち回る。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!目がっ!目がぁぁぁぁ!」

「ん―――――っ!ん~~~~~~~~っ!!」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

もがき、喘ぎ、泣き叫ぶ少女らを、輝之輔は邪悪な笑みを浮かべ眺め回す。

「僕は、何を恐れていたんだろうな…」

手を押さえ蹲るリグルの腕を掴み、強引に引っ張り上げる。

「いっ痛い!痛いっ!止めて!お願い止めてぇ!」

リグルは怯え、輝之輔に泣きすがる。

「五月蝿い、蝿が。」

ゾッとするほど冷たい声。リグルはビグッと震え、口をつぐみ泣き声を堪える。

輝之輔は千切ったリグルの小指を、傷口に押し当てる。

「妖怪なんて、こうやって千切れた部分繋ぎ合わせておくだけで………」

さらに【エニグマ】で紙に変え、小指を接合した。

「すぐに治ってしまうような連中なのに………」

紙を解除すると、小指はまだ結合部に血が滲んでいたがすでに接合していた。

「ハハハハハハハハ!

やっぱり凄いな妖怪は!

べらぼうに凄いな!

存外に凄いな!」

新しい玩具で遊ぶ子供のように、輝之輔は拍手してはしゃぐ。

「怪物(ミディアン)!!人外(ミディアン)!!夜族(ミディアン)!!物の怪(ミディアン)!!異形(ミディアン)!!

それはもはや人ではない、化物(ミディアン)!!

すなわち僕は僅か三日で、その本懐へと指をかけたのだ!

化物を構築し化物を兵装し化物を教導し化物を編成し化物を兵站し化物を運用し化物を指揮する。

僕こそ、遂に化物すら指揮する僕こそ『最後の大隊(ラスト・バタリオン)』の大隊指揮官!」

魔界の軍団長のような口振りで、輝之輔は悦楽の笑いと共に仰々しく声を張り上げた。

だがその瞳は笑っておらず、冷酷な光を放ち油断なく魔理沙を睨んでいた。

「(こいつのこの『面構え』…さっき蹴りを喰らわせた時こんな『目』をしている男ではなかった…まるで『10年』も修羅場をくぐり抜けて来たような……凄味と……冷静さを感じる目だ………たったの数分で、こんなにも変わるものか………

こいつに小細工は通用しないっ!!)」

思わず後退り、魔理沙は神経を緊張させる。

バチィン!

輝之輔が指を鳴らすと、妖怪たちの【紙化】が解除された。

「【命令】だ!霧雨魔理沙を捕縛しろ!但し殺しては駄目だ、骨は折っても良いが喰い千切ったり吹き飛ばしたりはするな。破ったら………どうなるか、分かるな?」

氷のように冷徹極まりない声を聴き、妖怪少女たちは慌てて立ち上がる。

「くっ……!今度は妖怪軍団かよ……!」

ミニ八卦炉に魔力を集中させ、身構える。

「さあ……僕の愛しい怪物達、楽しんできたまえ。」

ダン!

輝之輔の撃った空砲と共に、一斉に妖怪たちが襲い掛かった。

「っ!」

ルーミアが闇を身に纏い、爆風のように一気に膨脹させた!

「ま、まずい!」

ルーミアに背を向け、逃げようとするが、

「(っ…!?箒が無いから遅い……っ!)」

闇が彼女の背後に迫る。

「し、しまっ…………!」

魔理沙の姿は、闇に呑み込まれた。

「くそっ!視界ゼロだっ!」

闇から脱出しようと、魔理沙は加速する。だが――――――――

「っ!?」

闇の中、無数に蠢き、群れを成し包囲する気配。首筋が粟立つ耳障りな羽音、キシキシと節だらけの脚が擦れ合う音、ゾッとするようなおぞましい音に囲まれ、魔理沙は気づく。

「ま、まさか………っ!」

彼女の服に、腕に、髪に、首筋に、無数の得体の知れない蟲達が取り付いた。

「うわあああァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――――――っ!!」

ミニ八卦炉を後方に向け、魔力を集中させる。

「マスタースパァァァァァァクッ!!」

ろくに狙いも定めず、横薙ぎに『マスタースパーク』を放った!

「きゃあぁぁぁぁ!」

リグルの悲鳴が上がり、蟲達の動きが一瞬止まる。その隙にキノコ発煙弾を放り、蟲を燻す。ギュシギュシと鳴き蟲達が彼女の身体を離れていく。

「うおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」

全速力で飛翔し、蟲共を引き離して加速する。無我夢中で突き進むと、闇が晴れ、視界が戻ってきた。

「ぬ、抜けたか――――――――っ!?」

突然目眩がし、フラフラと降下していく。

「な……………なんだ…………き、気分が……!?」

頭がギリギリと締め付けられるように痛む。景色がグルグル回り、ドギツイ朱、黄、青と目まぐるしく変化していく。

「ぐっ……こ、この歌は…………!」

耳鳴りのように頭の中に響く、慟哭とも嗚咽とも金切り声ともつかぬ歌声。ミスティア・ローレライと幽谷響子が魔理沙の前で歌っていた。

「ぐっ…………ううっ……………!」

耳を塞いでも聴こえる歌声が、彼女の精神を蝕んでいく。平衡感覚が狂い、吐き気が込み上げ、頭が割れそうに痛む。精神力でなんとか理性を繋ぎ止めていた、が、

バギィ!

「がはっ――――――――!?」

上空から小傘が放った下駄が、魔理沙の背中を直撃した。ガクリと力が抜け、真っ逆さまに落下した。高度が下がっていき、地面が近付く。

グシャッ

地面に叩きつけられ、息が詰まる。

「ぐ…………は………っ!?」

蓄積したダメージ、狂気の歌声、彼女に限界が近付いていた。

頬を地面につけ、薄れ行く意識の中、魔理沙は視界の端にルーミアの闇と蟲の大群が迫って来るのを見た。

「(……畜生…………【スペルカードルール】無しで……妖怪五匹相手は……ぐっ、流石に無理……か……――――――――)」

脳を震わす歌、目前に迫る闇、耳元で鳴り響く羽音。魔理沙の瞳は閉じ、意識が闇へと沈もうとした。

BGM C-CLAYS 『曖昧スナイパー』

 

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

降り注ぐ弾幕が、ミスティアと響子、小傘を撃ち抜いた。

「――――――――――――――――え………?」

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

顔を上げた魔理沙の前で、三匹は悲鳴を上げ、ドシャリと撃墜されて気を失った。

バシィィン!

霧の塊が平手の形を成し、魔理沙を取り巻く蟲共を払い除けた。

 

ビイィィィィィィィィィィィィィ!

 

蛇行するレーザーが闇の中へ突入し、ルーミアの叫び声と共に闇が晴れる。完全に闇が消滅すると、そこには倒れて目を回しているルーミアがいた。

ヴゥゥゥゥンン!!

唸りを上げる錨がリグルに迫り、鎖で彼女を絡めとり引き摺り倒した。

「きゃあっ!!」

頭を軽く打ちつけ、リグルも気絶する。

ヴウウゥゥゥン!

ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!

もう一つの錨と無数の弾幕が、輝之輔を襲う!

「なッ――――――――!!」

輝之輔は驚愕の声を上げ、咄嗟に【エニグマ】で身を護る。

バシュウゥゥゥゥン!

錨と弾幕は紙に変わり、輝之輔は上空を見渡す。

「き、貴様らは――――――――!!」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――

 

彼の頭上、寅丸星、ナズーリン、村紗、一輪、雲山、命蓮寺の面々が、彼を見下ろしていた。




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