【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~ 作:どくたあちょこら~た
※今回、直接描写は避けてありますが今作中最もエグい内容を仄めかす場面がございます。
存分に注意してご覧下さい。
「よくも私たちの同志を虐げましたね………」
寅丸星が宝塔を構え、輝之輔に向け言い放つ。
「毘沙門天様に代わり、罰を与えます。」
命蓮寺の者達が、輝之輔を睨む。
「お、お前らは……………」
魔理沙が立ち上がろうとし、力が出ずガクリと倒れるのを見て、寅丸星は優しい口調で彼女を制す。
「魔理沙、貴女はたった一人でここまで戦ってくれました。ここから先はもう無理はせず、私達に任せて下さい。」
「――――――――!
…………ま………待ってくれ!あいつは私が…………ぐぅっ!?」
落ちた時胸を打ち付けた痛みで声が出ず、星達には届かない。
「星ー、こいつ、ホントに私の錨を紙にしてしまったよ!慧音の言っていた通りだ!」
「ああ、私の弾幕も全部防がれたみたいだね。慧音の【巻物】を探知してここまで辿り着けたけど、ここから先はどうする?」
村紗とナズーリンが、星に話し掛ける。
「確か、慧音が彼の弱点を教えてくれましたね。えっと、確か……………」
う~んと唸る星に、ナズーリンが呆れて答える。
「『生き物は紙にするために【恐怖のサイン】が必要』、だろうご主人?全く、君は物だけでなく記憶までも無くそうというのか?いくら私でも物体以外は――――――――」
「それなら、私と雲山の出番ですね。」
ナズーリンが説教を始めそうなのを遮り、一輪が一歩進み出る。
「雲山、行きなさい!」
コクリと頷くと、モクモクと雲山が姿を変え、幾つもの巨大な拳に変化する。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
雲山の拳が輝之輔に襲い掛かった。
「邪魔アアァァァァァァァァ!!」
懐から【紙】を抜き、開く。
「するなァァァァァァァァァァァァッ!!」
地下水路から出てきた時回収した【『スーパーフライ』の鉄塊】で、拳を防御しようとした。だが、
ズッ―――――――
鉄塊に当たる寸前、拳は拡散し幾つもの小さな拳となって輝之輔に向かって来た。
「なッ――――――――!?」
ズズドドドドドドドドドドドドドドドド!!
何発もの拳が彼の胴に叩き込まれ、輝之輔は吹き飛ばされる。
「ぐあァァァッ!」
ドサッと背中から倒れ、輝之輔は呻く。
「やった、効いてる!」
「よぉし雲山、そのままのしてしまって!」
村紗と一輪の声を聞き、雲山はまた巨大な拳を輝之輔に見舞う。
ゴガシャアァ!
仰向けに倒れている輝之輔を、押し潰すように鉄拳を見舞った!
「どうなったの?潰したの?」
「いえ、どうやら違うみたい………」
村紗の質問に、一輪は雲山の様子を見て答える。
「……………………」
雲山が拳を退かすと、そこには一枚の【紙】と輝之輔が握っていた【鉄塊】のみ残されていた。
バシュウゥゥゥゥン!
【鉄塊】から放出された【エニグマ】のエネルギーが雲山の拳を紙に変え、
ズバシャアァァ!
雲山の拳を型どった【破壊エネルギー】が、紙にされた拳を引き裂いた。
「ッ………………!!」
雲山が顔を歪める。
「ふん、不定形だから物理攻撃は効かないと言って油断するな!こっちははなっから殴るパワーなんて無いんだぜ!」
【紙】から輝之輔が姿を現し、不敵に笑う。
「雲山!【紙】になったそいつに打撃は効かないわ!掴まえて破りなさい!」
一輪の声に、雲山は両手で輝之輔を掴み、握り潰そうとする。
「しゃらくせえェェェェェェェェ――――――――ッ!!」
【紙】を抜き出し、【キラークイーン】の爆発を解き放った。
ドグオオォォォォォォォォ!!
自分諸とも爆炎に包まれ、雲山の両手が爆圧で弾け飛んだ!
「ッッ!!」
堪らず雲山が怯み、身を引いた。その隙を逃さず、爆炎を【紙】に変え、輝之輔が追撃を掛けようとする。
「ま、まずい!雲山、退いて!」
一輪が叫び、雲山は輝之輔から離れようとする。だが彼はその巨体と気体の身体ゆえ瞬発力に欠けていた。
「もう一ぱぁぁぁぁつッ!!」
身体を捩る隙を突かれ、爆圧が直撃した!
「ッ!?」
顔面の半分が木っ端微塵に吹き飛び、雲山の頭はグラリと傾く。
「雲山っ!?」
一輪がハッと息を呑み、目を見開いた。
「Dust to dust………塵に過ぎない貴様らは………!」
使用済みの紙を投げ捨て、もう一枚の【紙】を抜く。
「塵に還れェェェェッ!!」
トドメを刺そうと【紙】を開いた瞬間、
ビシィッ!
寅丸星が輝之輔の前に立ちはだかり、錫杖で【紙】を叩き落とした。
ドグオオォォォォ!
爆炎が輝之輔を襲い、やむなく【エニグマ】で【ファイル】する。
「ええいっ!!」
爆炎に乗じて錫杖を振り回し、輝之輔の頭を狙う。
「無駄ァッ!」
【エニグマ】で錫杖を【紙】に変えもぎ取る。だが、それを見越していた寅丸星は彼の懐に潜り込む。
「せぇいっ!」
彼の腹にボディブローを叩き込もうとした、が、
「えっ?」
寅丸星の拳撃は、彼に到達する手前で霞のように掻き消えた。
パシィ!
ガクンと減速し、止まってしまった星の拳を易々と輝之輔が掴む。
「でええぇい!」
輝之輔は不敵に笑うと、左手で右手首を、右手で襟を掴み、右足を掛け星の態勢を崩すと、全身の捻りを利用して彼女を投げ飛ばした。
ドダァアァン!
「きゃあっ!?」
地面に叩きつけられ、星が悲鳴を上げる。
「し、星!?」
「ご主人、どうしたんだ!?そんなやせっぽちの男に倒されるなんて……!」
村紗、ナズーリン、一輪、雲山が驚き、雲山以外が声を上げる。
「う……う~ん………?」
のびていた星が目を開け、起き上がろうとする。だが、
「一本!」
輝之輔がピン!と人差し指を立てた。すると、
「え?」
星の手が高く掲げられ、同じように人差し指を立てた。
「あ…ゼロ本。」
輝之輔が手を握った。すると、星の手も同時にギュッと握らされる。
「あ…五本。」
輝之輔が手を開いた。
星の手も連動するように独りでに開く。
「え……?え!?」
訳も分からず、星は目を白黒させて困惑する。
「クククククク――――――――いいぞ!良い気分だ………」
輝之輔は口角を歪ませ下劣に笑う。【エニグマ】が彼女の頭を掴み、神経の信号を操っていた。
「はいパクゥ!」
輝之輔が今度は手を口に模して開く動作をした。さっきと同じく、星の口が勝手に開く。
「あ………は……っ?」
口が開いているためア行しか発音出来ない彼女を見て、輝之輔は膝を叩いて大笑いする。
「フフフハハハハ!これは面白いな!良いぞ、楽しくなってきた!
お前、寅丸っていうくらいだから虎なんだろ?ということは猫科だな?じゃあ次はニャーと啼け!3、2、1、はい!」
「………ニャァ……………」
自分が猫の鳴き真似をした事に、星は恥から顔を赤くし輝之輔を睨む。
「アハハハハハハハハハ!良いぞその顔だ!混乱と焦燥と屈辱と恐怖が綺麗に混ざった表情だ!」
輝之輔は喝采し愉悦の哄笑を上げる。
「お前はあの餓鬼共のようには騒ぐなよ。餓鬼共の泣き声ばかり聞き飽きていたら、久しく忘れていたぜ…こんな美しい【顔】をよォォォォ……………」
屈み、星の顎を掴んで見上げさせた。
「美しい!スゲェ美しいッ!百万倍も美しい!………うまく言い表せないが、こう……なんというか、夢中にさせるぞ……見てみたい、この純情可憐な顔が恐怖に染まり、どう歪んでいくのか、是非ともビデオカメラにおさめたい!どんな声で泣くのか、怖いモノは何なのか、どのくらい虐め抜けば壊れるのか、とても興味が湧いた!好奇心がツンツン刺激されてくるぞ!」
ゲラゲラと笑い声を上げ、輝之輔は彼女の目を覗き込む。
「星!そいつは自分の【守護霊】みたいなのを相手に取り憑かせて行動を自在に操る!そういう【能力】なんだ!」
魔理沙が叫び、星は状況を呑み込んだ。
「『取り憑かせている』ということは、【本体】は今がら空きということか?魔理沙」
ナズーリンがダウジングロッドを構え問うが、魔理沙は【巻物】に目を落とし首を振る。
「いいや、ヤツは今バッチリ【守護霊】の防御範囲内に収まっている!星の頭にだけ【守護霊】を取り憑かせ、動きを操っているんだ!」
「雲山もかなり弱っているわ……あの爆発、相当の威力があるみたい。」
背後に戻って来た雲山を気に掛け、一輪が皆に伝える。
「とにかく、星を助けないと!」
村紗が錨を振り回し、投げつけて星を引っ掛けようとする。
「邪魔ァ!」
輝之輔は【紙】からボウガンを抜き、錨を射た。
ドグオオォォォォォォォォ!
矢に巻かれていた【爆弾紙】が爆発し、錨が粉砕された。
「ここから先はお楽しみの時間だ!邪魔をするなァァァァ――――――――ッ!!」
輝之輔は一枚の【紙】を抜き出すと、
「【エニグマ】!部分解除ォォォォッ!」
輝之輔がバチィン!と指を鳴らす。次の瞬間、【紙】から男の腕が飛び出して来る。輝之輔は【紙】から伸びる腕を掴むと、
「ふんッ!」
バリバリバリバリッ!
「なっ――――――――!?」
「えっ!?」
腕を引きちぎり、もぎ取った!
ブッシュゥゥゥゥゥ――――――――
断面の動脈から、噴水の如く鮮血が噴き上がる。
「お、お前何をやっているんだッ!それは人間の腕じゃないか!」
ナズーリンが声を荒げる。
「そのとおり、こいつは捕まえた人間の一人だ。僕が【ファイル】しておいた人間達はみんな生きてる…いや……『生かして』ある『仮死状態』だ……ありがたく思え……殺して山に捨てる事もできたんだ…クソケダモノ共が喰いやすいように細切れにしてなあ~~~……」
輝之輔はぎらついた異様な目付きで魔理沙と命蓮寺の者達を睨み回す。
「そんな事を言っているんじゃない!貴方、なんで突然そんな恐ろしい事を――――――――」
村紗が目を剥き捲し立てるが、輝之輔は余裕綽々と遮る。
「あっあ~~~~♪待て待て待て。あっあっあ~~♪」
喉の調子を確かめると、輝之輔はドスの利いた声で言い放つ。
「喋るのはこの僕だ……僕が仕切る!お前らは黙ってろ!お前らのメソメソした台詞なんて、聞きたかないんだ。僕が質問して、答えろって命令するまで口を塞いでろ!耳くそをカッポじるのは許可してやるがな…フフフ……いいな!
いいか……喋っていいのは『降参の時』だけだ!それ以外の『言葉』を一言でもその便器に向かったケツの穴みたいな口から吐き出してみろ!『一言』につき一本指を落とす!『何?』って聞き返しても落とすッ!クシャミしても落とすッ!一ミリ動いても落とすッ!心臓の鼓動がしても、また落とすッ!」
「なっ何を――――――――」
動揺し一輪が思わず口を開いた瞬間、
「はい一本!」
ブチィッ!
もう片方の腕を引き摺り出し、親指を引き千切った。
「なぁっ!?」
愕然と村紗が悲鳴を上げ、
「はいもう一本!」
ブチッ!
人差し指の根元を紙に変えもぎ取った。
それを見た命蓮寺の面々は
「えっ!?」
「なっ?」
「ああっ!?」
「ッ!?」
突然、一斉にガクリとくずおれ、地面に這いつくばる。
「な………何よこれは………」
「じ……【錠前】……?」
「お、重い…っ!」
彼女らの胸には、【銭】と書かれた巨大な【錠前】が取り憑いていた。
「ほう、やはり妖怪にはその【錠前】が見えるのか。【満月の光】の反射か何かで……」
輝之輔はニヤニヤと笑みを浮かべ、彼女らを見渡す。
「今…お前らはこの男に対して、『僕の命令を破り、怪我をさせた』という【罪の意識】を感じただろ?ン?お前らの【罪悪感】が大きければ大きいほど錠前はでかくなるぜ…つまり、この錠は【罪の重さ】なのだ。これは自動的なんだ。コイツが眠ってもお前らがどんなに遠くへ逃げても絶対にはずれないぜ。」
輝之輔は【小林玉美を封印した紙】をヒラヒラと振る。
「ぐっ……!」
輝之輔の注意が逸れ、【エニグマ】の金縛りが解けた星が起き上がろうとするが、
「おっと!僕に変なマネするなよ!【ルール違反】には【罰】!そして【罰】とはコイツへの【罪】!錠前をくっつけた者が僕に逆らうってことはよ―――っ、その【錠前】にはねかえっていくんだぜ―――っ!」
星の頭を軽く踏むと、星は【錠前】の重みでドシャリと倒れ込んだ。
「フハハハハハハハハついにやったッ!
お前達こーなったらもう【罪悪感】の重みで心が自由にならないッ!【スタンド】とは精神のエネルギー!貴様らの【肉体のパワー】がいくら強かろーがそんな物理的な力は全くの無意味ッ!」
勝ち誇った笑い声を上げ、星の頭を踏みにじる。
「分かったら、僕の【邪魔】をするな。お前らの相手は、終わってからしてやる。」
クルリ、輝之輔は後ろを振り返る。
「………………………………」
霧雨魔理沙が、そこにいた。両足で立ち上がり、敵意に満ち満ちた目で彼を睨んでいた。
「…………お前……!この人でなし…!!」
怒気を孕んだ声で、輝之輔を蔑む。
BGM Draw the Emotional 『Vanished truth』
「――――――――ロバート・D・カプラン『バルカンの亡霊たち』より――――――――」
「――――――――?」
突然、厳かな声で話し始めた輝之輔を、魔理沙は訝しげに見つめる。
「――――――――、一九四一年一月二二日の夜、『大天使ミハイル軍団』は正教会の賛美歌を歌い、ルーマニアの土を入れた袋を首にかけ、互いの血を飲み、聖水を身体にかけて浄めを受けたのち、子供を含む二百人の男女を家から引きずり出した。
そして、彼らをトラックに詰めこみ、ブカレスト南部にあるドウンボビツア川近くの赤煉瓦の建物、市営の屠畜場に運んでいったのである。
犠牲者はすべてユダヤ人で、凍えるような暗闇のなかで裸にされ、ベルトコンベアの上で四つん這いにさせられた。 こうして、恐怖の叫び声をあげながら、ユダヤ人たちは全自動化された屠殺装置の中に送りこまれていったのである。
頭と手足を切断され、血が噴き出している胴体を軍団員はひとつずつ鉤にかけ、『食用可』というスタンプを押していった。
逆さまに吊るされた五歳の少女の胴体は『血まみれで、仔牛肉のようだった』と、翌朝、現場を目撃した人は証言している。 」
スラスラと、澱み無く、立て板に水を流すように朗読した輝之輔は、魔理沙の目を見据え言葉を繋ぐ。
「人間のやることとは思えないだろう?人間に対してできることだなんて、思えないだろう?だがな――――――――」
千切り取った玉美の指を掲げ、輝之輔が笑う。限り無く黒い、悪意に満ちた微笑。
「それができるヤツが、【人でなし】なんだぜ。」
指を口の中に放り込み、噛み砕いた。
「なっ…………あ………っ!?」
魔理沙が目を見開き、声にならない悲鳴をあげる。
ゴリッ グジャァ ベキバキ グチュッ
輝之輔が顎を動かす度に、骨が砕け、肉が裂け、血が口から溢れ、ダラダラと伝い落ちる。
「…………うっ!?」
込み上げる吐き気に、魔理沙は口を押さえる。
「ぐ……っ、ううっ………うえ………っ!」
胃から逆流しようとする物をなんとか堪え、涙を滲ませ輝之輔を睨む。
「こ………このゲス野郎………っ!!」
ミニ八卦炉を構え、『帽子の鍔を下ろし、目を隠した』。
その動作を、輝之輔は見逃さなかった。
「見つけたぞッ!お前の【恐怖のサイン】をッ!」
頬張っていた魚肉ソーセージとドロップ、トマトジュースを吐き捨て、【紙】に変え手の中に隠していた玉美の指を放り出す!
「そして【恐怖のサイン】を見つけた時!我が【エニグマ】は絶対無敵の攻撃を完了する!!」
【エニグマ】が物凄い速さで魔理沙に肉迫する!
「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
身に迫る危機を感じ取り咄嗟に『マスタースパーク』を放つが、
バシュウゥゥゥゥン!
一瞬で【紙】に変えられ、【エニグマ】が彼女の眼前に迫った。
ドオォォ――――――――ン!!
【エニグマ】が魔理沙に組み付き、ミニ八卦炉が彼女の手を離れた。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!」
足下からみるみる紙に沈んでいき、魔理沙は叫び声をあげる。
「本当に幸せを感じるって状況…あるよな…魔理沙……」
ザッ―――――ザッ―――
輝之輔が悠然と彼女に歩み寄る。
「『幸せ』には……『二つの場合』があると思うんだ。
ひとつは 絶望が…希望に変わった時…幸せだと感じる。お前に蹴り飛ばされた時、命蓮寺の連中が襲って来た時は、実にヤバイとパニクったよ…本当に絶望だと思ったんだ…
だが、僕は切り抜けた…
自分の知恵と…精神力で、絶望を逆転したんだ……
それって…『幸せ』だって感じるんだよ…今、本当に…」
腰の辺りまで紙に沈んでいる魔理沙に、輝之輔はのんびりと語り掛ける。
「ぐっ……!」
魔理沙は落としたミニ八卦炉を掴み、輝之輔に向ける。
「なるほど、確かに、【エニグマ】の攻撃前にお前の身体から離れていた物体は、お前が完全に【紙】に封印されるまで【ファイル】される事は無い………だがッ!!」
ガシィ!
ミニ八卦炉を握る魔理沙の腕を、【エニグマ】が掴み【紙】に変える!
「そんな小細工ッ折り込み済みだアアァァァァ――――――――ッ!!」
グシャアっ!!
ペラペラの腕はミニ八卦炉の重みに耐えられず折れ曲がり、見当違いの方向に『マスタースパーク』が発射され、幾つもの民家を破壊した。
「そして幸せだと感じる『二つ目』の状況は…!!
絶望したヤツを見下ろす時だあああーッ!!」
輝之輔が勝利の雄叫びをあげる。
「くっ………魔理沙………!」
星が輝之輔の背後からレーザーを撃つ。しかし、【錠前】に縛られた彼女のレーザーはグニャリと湾曲し地面に堕ちた。
「くだらない事を……君が何をしようと…結果は何も変わってないぞ……寅丸星、この輝之輔の勝利という結果はなああああー!!」
魔理沙の胸、肩、首が、紙の中へ沈み込む。
「勝ったッ!
やったッ!見せろッ!表情をッ!
僕に絶望の表情をッ!
よおーく見せるんだッ!希望が尽きて…意識が消える瞬間の顔をッ!」
溺れようとしている者のように、必死に息をしようと頭を上げる。だが【エニグマ】のパワーには逆らえず、頭も消え、黒いトンガリ帽の先端も見えなくなり、手だけが残される。藁を掴むようにミニ八卦炉を掴むが、輝之輔に向ける事もできず手は沈んでいく。
勝利を確信し、腹の底から湧き上がる哄笑を吐き出す。
「絶望を僕の方に向けながら沈んでいけえええええええええええ――――――――!!ははははははははははははは――――――――――――――――」
ドオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
輝之輔の横っ腹に、極太レーザーが直撃した!
「ヤッダ―バァァァァァァァァァアアァァァ――――――――ッ!!!?」
輝之輔の身体は光の奔流に呑み込まれ、吹き飛ばされた。
「ぶげェあァァッ!!」
暴風雨の中のトタン板の如くぶっ飛ばされ、輝之輔は地面に投げ出された。
「――――――――がッ…………ギッ…………!
な……………何が起こった……………?」
ズタズタにされ、無様に地べたに仰向けに転がる輝之輔は、レーザーの向かって来た方向を見やり、愕然とした。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――
さっきの『マスタースパーク』が飛んでいった方角、破壊された民家の向こう、【スーパーフライ】の外に、一つの鉄の像があった。
「稗田………阿求…………」
鉄搭の一部と化した稗田阿求が、そこに佇んでいた。彼女が『マスタースパーク』を受け止め、輝之輔に向かって反射したのだ。
「――――――――――――――――
――――――――!」
魔理沙が封印された【紙】は、折り畳まれる前にミニ八卦炉が挟まれていたためつっかい棒となり、完全には折り畳まれていなかった。さらに、
「ッ!?」
【紙】に【錠前】が生え、その重みで勝手に【紙】は開いていく。
ハッと輝之輔が辺りを見回すと、彼の手を離れた【玉美の紙】が落ちていた。そしてその横に、片腕と指二本を失い、口から泡を吹いて気を失っている玉美がいた。だが、輝之輔の目が釘付けになったのは、彼の全身に拡がる軽い火傷だった。
「(ま…………まさか……ッ!【錠前】を利用して【紙】から脱出するため、『マスタースパーク』が玉美に当たり、その【罪悪感】で【錠前】が発動する事まで計算に入れていたというのか………ッ!?)」
筆舌に尽くしがたい戦慄が、輝之輔を襲った。
――――――――パタン
【紙】が開き、魔理沙が現れた。
「――――――――――――――――――――――――………………」
無言で立ち上がり、気絶している玉美を見る。彼が輝之輔から解放された事を確認し、【錠前】が解錠された。ミニ八卦炉を握り締め、輝之輔に歩み寄る。
「(に……………逃げなくては…!ここで退くのは敗北ではない!僕が倒されれば、それだけで【計画】は瓦解する!こだわるべきは【勝ち負け】じゃない、目的を達する事!ここでの逃走は、次の勝利への布石だ!)」
朦朧とする意識を繋ぎ止め、【エニグマ】を戻し、どうにか逃走しようとするが、
「ッ!?なぁッ――――――――!?」
彼の胸から、【錠前】がはえていた。
小林玉美が【ファイル】されている間本体同様紙にしていた【錠前】が、本体の解放と同時に再発動したのだ。
「(ぐっ……!?……畜生、身体が……動かない……………!)」
想像を絶する重さに、起き上がる事もできず、這って逃げる事もできない。
ザッ――――――――ザッ――――――――
魔理沙が、ゆっくりと、だが着実に、輝之輔の下へと迫る。
ザッ――――ザッ――――
―――ザッ
ガクガクと震え、起き上がろうともがく輝之輔に僅か一歩の場所で、魔理沙は足を止めた。
「…ひ………いぃ…………あああ…………!あ………………ああ……っ!!」
怯え、声にならない悲鳴をあげる輝之輔に、魔理沙は静かにミニ八卦炉を突き付けた。ミニ八卦炉に、これまでの『マスタースパーク』などとは桁違いの魔力が凝集し、バチバチと火花を散らす。
「(な……何かないかッ!?今こいつから逃げる方法はッ!こいつの攻撃から逃れる手段はッ!!)」
懐から【紙】を取り出そうにも、腕さえ動かない。【罪の意識】が【スタンド能力】をも縛り、身体を【紙】に変化させることも、地面を【紙】に変え地中に逃れることもできない。
「(くっ…ど……っどこにも無い…………!バカな!どこにも【逃走の糸口】がッ………!!)」
ドクンドクンドクンドクン――――――――
輝之輔の心臓が激しく脈打つ。
ハア―――ハッ―――ハァ―ッ―
胸が締め付けられ、荒い息が漏れる。
「(ぼ…僕は今まで……【あの人の行く道】を進んでいれば必ず【光】が見えるはずと信じて来た……勝利の方向を示す【光】が必ずどこかにあると、だからここまで進んで来れた……だが、今はどこにも!………そんなバカな!どこにも見えないッ!
この魔女擬きに僕は追い詰められてしまったのか…………!!…!?…すでに、すでに!こんな場所で…こんな化け物共の世界の中で………………折角【人質】を集めたというのに…………まだ何もかも途中だというのに…………【光】がどこにもないッ………ここで闘いが終わってしまうのかッ!?僕はまだ何ひとつ決着をつけていないッ!)」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――
「――――――――なあ、輝之輔。」
森の中、【ビーチボーイ】の竿を振り糸を飛ばしながら、吉廣が口を開いた。
「なんです?親父さん。」
【ビーチボーイ】の糸が飛んでいった方を見ながら、輝之輔が尋ねる。
「お前、【外の世界】に帰ったら、やりたい事とかあるかの?」
唐突な質問に、少し訝しみつつも輝之輔は答える。
「そりゃあ、いっぱいありますよ。なんてったってこっちは、10年以上も本になっていたんですから。
そうですね、本になっていた間は何も口にしてなかったし、復活しても貧相な食べ物しか食べられなかったから、まず牛タンの味噌漬けとごま蜜団子を飽きるほど頬張って、撮り貯めたビデオを売り捌いて、それから他には――――――――」
手で輝之輔を制し、吉廣が彼の言葉を遮った。
「あー、違う違う、そういうことを聞きたいんじゃないわい。わしが訊きたかったのはな…………」
吉廣が輝之輔の方を見る事なく、言葉を繋ぐ。
「お前の【夢】、じゃよ。」
「…………【夢】、ですか?なんでまた急にそんな………」
唐突な質問に輝之輔は逆に聞き返した。吉廣はなんでもないといった感じに返事をする。
「いや、ちょっとした興味本意じゃ。わしの息子は子供の頃から大抵の事は上手くできたんじゃが、『野球選手になりたい』とか、子供らしい【夢】を持っておらなんだ。あの子にとって、【幸福】は【静かな生活】だけじゃったからな。だから、子供の【夢】というものがどんなものだったか聞いてみたかったんじゃ。」
「なるほど、確かに吉影さんは【野望】とかからは縁が無さそうですからね。
えーっと、【夢】ですか…………」
暫く考えると、輝之輔は答える。
「強いていうなら、【ギャングスター】ですかね。」
「【ギャングスター】?」
「そう。僕の【エニグマ】なら、麻薬・武器・人身売買も簡単でしょう?それで大きな取引をして、一気に組織を大きくするんです。組織が肥大化してくると裏切り者が現れるかもしれませんから、あの間田とかいう男の【サーフィス】を参謀にして、僕は誰にも正体を知られずに君臨する。もし万が一正体がバレても、【エニグマ】なら銃も毒も怖くない。誰も僕の王座を揺るがせませんよ。」
それを聞き、吉廣は苦笑する。
「ケケケケ、まさしく【子供の夢】じゃな。そこまで幼稚な返事が返ってくるなんて、思っておらんかったわい。」
「ハハハハハ、そうかもしれませんね。」
二人は声を合わせて笑った。
「あ、掛かったようですよ。」
ピクンと【ビーチボーイ】の竿が動いたのを見て、輝之輔が指差す。
「おお、そのようじゃわい。」
吉廣が【ビーチボーイ】のリールを巻くと、ピンと張った糸の先の方向から野太い獣の吼え声が聞こえてきた。竿がグンとしなる。
「【エニグマ】。」
輝之輔が【ビーチボーイ】の糸に触れると、咆哮は聞こえなくなった。吉廣がリールを巻くと、針には【紙】が掛かっていた。
「……………冗談ですよ、親父さん。」
【紙】を針から外して懐にしまい、輝之輔は言った。
「本当は僕、マジシャンになりたいんです。」
「ほう、さっきのに比べたら幾分かマシになったな。どうしてなりたいんじゃ?」
また【ビーチボーイ】の糸を森の闇の中に放り、吉廣は訊ねた。
「僕は、人が怖がっているのを観察するのが好きだ。でも、あの妖怪の娘達を苛めてて、ふと思ったんです、『こんな事してるだけで、僕は幸せになれるのだろうか?』ってね。
それで、手品師なら人を驚かして、それを喜んでもらって稼げるでしょう?【エニグマ】を使えば、大抵のトリックは簡単に作れる。あとは僕のアイデアと演出で、トップクラスのマジシャンも目指せるかも、と思ったりしまして。」
「ケケケケケケ!そりゃあそうじゃ!作り物の魔術に本物の超能力を持ち込むなんて、インチキも良いところじゃわい!」
ケラケラと吉廣は笑い声をあげ、輝之輔もニッと悪戯っぽく笑う。
「でしょう?でも【マジック】だと言ってしまえば、お客さんは『どこかにタネがあるはずだ!』『凄い!どうやってこんな事できるんだろう?』と勝手に考えて、拍手してくれる。最高の【夢】だと思いません?」
「ケケケケ、確かにそうじゃわい。
輝之輔、【外の世界】に帰って【夢】を叶えたら、わしらも観に行ってやるぞ。ただし舞台裏から無銭観賞して、お前のイカサマを大笑いしてやるわい!」
「ハハハハハハハハハハ、それは参ったな、会場はあらかじめお祓いしておいてもらいましょうか?」
「「ケケケケケケケケケケケケ――――――――
ハハハハハハハハハハ――――――――」」
――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
BGM 石鹸屋 『UFOロマンス』
「(――――――――くそッ!)」
輝之輔の双眸が、キッとミニ八卦炉を睨み付けた。
「(もう少しだッ!
くそッ!あとほんの少しなんだッ!
どうしてもこの女に勝ちたいッ!
【生きる】とか【死ぬ】とか誰が【正義】で誰が【悪】だなんてどうでもいいッ!
敵が恐るべき化け物共だなんて事も僕にはどうだっていいんだッ!!
僕はまだ【過負荷(マイナス)】なんだッ!【
ゼロ】に向かって行きたいッ!
【外の世界】に帰って自分の【過負荷(マイナス)】を【ゼロ】に戻したいだけだッ!!)」
輝之輔の瞳に、【漆黒の炎】が灯る。
いつしか彼の胸の【錠前】は消え去り、【公正さ】が彼の胸を満たしていた。
「(もう逃げも隠れもしないッ!
『立ち向かって(Stand up to)』ッ【勝利】を勝ち取るッ!)」
彼の目にもはや恐れはなく、ダイヤモンドのごとく硬い【決意】が宿っていた。闘志がみなぎる。
「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!!」
星符『ドラゴンメテオ』を遥かに上回る威力を誇る、彼女の持つスペルカード中最強のスペルが、超至近距離から迸る!
「【エニグマ】ッ!!」
【エニグマ】の上体を起こし、邪恋『実りやすいマスタースパーク』を迎え撃つ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――ッッ!!!!
勝負は、一瞬だった。
バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンッ!!
『普段の倍以上のパワー』で、【エニグマ】が『実りやすいマスタースパーク』を【ファイル】した!
「(やった!勝ったッ!!)」
輝之輔が歓喜に身を震わせる!
「だめ押しだッ!!【エニグマ】ッそいつのミニ八卦炉を奪えぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!!」
「っ――――――――!!」
魔理沙が目を見開き、腕を引こうとした。だが、遅かった。
『実りやすいマスタースパーク』を紙にした勢いのまま、【エニグマ】がミニ八卦炉へと手を伸ばす!
「うおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」
【エニグマ】がミニ八卦炉に手を掛け、【ファイル】しようとした。その瞬間!
バチィッ!
「ぐあああッ!?」
ミニ八卦炉が謎のエネルギーを放ち、【エニグマ】が大きく仰け反った。
「【緋々色金】は永久不変ッ!【紙】になんてできないぜッ!!」
魔理沙が叫び、ミニ八卦炉を彼の胸に押し当て、魔力を集中させる!
「し、しまっ――――――――」
【エニグマ】が仰け反り本体が生身を晒している輝之輔に向かって、『マスタースパーク』が放たれた!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――ッ!!
「ぐあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」
零距離からの『マスタースパーク』が直撃し、輝之輔は物凄いパワーで吹き飛ばされた!
「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」
光の奔流に呑み込まれ、民家の壁を幾つも突き破り輝之輔はぶっ飛ばされる。既に限界を超えていた【スタンドパワー】が枯渇し、すべての【紙】の封印が解除された。
懐の【紙】が暴発し、輝之輔は壮絶な爆発に呑み込まれた。
立ち上る火柱、もうもうと上がるキノコ雲、立ち込める爆炎を眺め、魔理沙は無感動に呟いた。
「―――――――――ところで お前がぶちまいていた幸福論だが…こうして今のお前を見ても 『幸せ』なんか全然感じないぜ。
お前には最初から勝っていたからな…」
「魔理沙………っ!」
振り返ると、寅丸星たち命蓮寺の面々が駆けつけて来ていた。
「彼は………どうなりましたか?」
寅丸星が顔を強張らせ、彼女に問う。
「―――――――――あいつは………自爆したよ。」
帽子の鍔で目を隠し、魔理沙は感情を押し殺した声で答えた。肩が微かに震えていた。
「―――――――あの男の応急手当、やっておいてくれ。」
命蓮寺の面々に背を向け、魔理沙はこの場から離れて行こうとする。
「ま、待って魔理沙!」
村紗が呼び止めようとするが、星がそれを制す。
村紗は引き下がり、彼女達は玉美のところへと駆け寄った。
「――――――――――――――――――」
魔理沙は輝之輔が爆発に巻き込まれた場所に背を向け、立ち去ろうとした。だが、
「―――――――――っ!?」
何か【予感】を感じ、咄嗟に振り返る。
―――――――――立ち上る爆煙が、徐々に晴れていく。完全に煙が吹き払われ、全容が見えた時、魔理沙は悲鳴を上げた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫び声に反応し、命蓮寺の面々が魔理沙の方を振り向く。
「どうしたのですか魔理沙!?何があったのです!?」
「……あ………あれは何だ……!?あいつは………何なんだ………っ!?」
腰が抜けへたり込んでいる魔理沙が、ガタガタと震える指先で指し示す。その先には――――――――
腹から下が何処かに吹き飛び、胸元が弾けて大きくえぐられた、輝之輔の身体が転がっていた。
だが、本当にショッキングなのは【その事】ではなかった。
【内臓】が、無かったのだ。
腹の断面からも、破れた胸から覗く中身からも、肉の色が全く見られない。
代わりに、彼の傷口からボロボロと転げ落ちて来るのは土の塊だった。
「なっ……!」
「え……っ!?」
命蓮寺の面々も、愕然と目を見開く。
さらに驚くべきは、胴を引き裂かれ即死したはずの彼の頭が、ピクリと動いたことだ。
彼は目蓋を開くと、何度か瞬きし、ゆっくりと、顔を上げた。
「―――――――――………本当は………………わかってたんだ………」
か細い声で、輝之輔は呟く。
「外の世界に帰って………あの魔女の力が消滅したり………あの魔女の射程距離に踏み入ったりした瞬間……僕は塵芥になって消えてしまうって………」
魔理沙と命蓮寺の面々は立ち上がり、再び神経を張り詰め警戒心の籠った目で彼を見張る。
「【魔女】……?それはパチュリーの事か?お前………一体何なんだ……?その身体は……っ!?人間じゃないのか!?」
魔理沙がミニ八卦炉を突きつけ、問い詰める。
「フフフ………失礼な事を言うもんじゃない…………僕はしっかりと人間さ……」
力無く笑い、輝之輔は答えた。
「ただ………一度本と一体化させられ、あの紫モヤシに復活させられた時、身体が土人形になった………ただそれだけだ………」
「復活………!?」
ナズーリンが息を呑む。
「ああ、そうだドブ鼠。
素材提供パチュリー、技術提供アリスで創られた泥人形に、本と一体化させられ活動を停止した僕の魂をインストールして生み出された使い魔、それが今の僕さ。」
自嘲気味に輝之輔が笑う。
笑うにつれて顔にヒビが走り、土くれがパラパラと落ちていく。
「この身体、凄いんだぜ?
内臓から髪の一本一本まで、生きていた頃の僕と寸分違わず同じなんだ。
魂の波長のパターンを読み取って、そこから復元したらしい……
強いて一箇所、以前の僕と違うところを挙げるなら……『アレ』が無いんだよ。
ほら、君らには元から無くて、男にはある『アレ』さ。
あのいかにも女童貞臭い紫もやしとお人形遊びの引きこもりコンビが、そんなもん付けてくれるワケ無いもんなあ…?」
魔理沙たちの表情が嫌悪感に歪むのを見て、輝之輔は泥の涙を流しゲラゲラと笑う。
「『輪姦(まわ)す』って言ったよな?
ギャハハ、できないって!できてもやらないって!しないしさせねえっての!
あんな『気色悪い』こと……ッ!
……まあ、そんなわけで僕自身この身体に不満は無かったんだよ。
だけど、一つ不便なところがあってね………【あの魔女】の魔力を20時間毎に補給しないと、魂が剥離してしまうんだ。
でも僕は補給の間はずっと寝かせられていたから、勿論そんな事知らない。
その事を知ったのは、アイツを陸で溺れさせて逃げ出した後だった。」
輝之輔の顔の左半分の皮膚が剥がれ落ち、泥の塊が露になる。
腐臭が辺りに満ちる。
「森の中で人知れず、死の境をさまよった。
誰にも知られずに、のたうち回って苦しんだ。
四半日して、身体が崩れ始めた。
土塊になんて、獣共さえそっぽを向いた。
僕は覚悟したよ、『ああ、僕は今度こそ死ぬんだ。折角自由になれたのに、誰にも知られずにこんな場所で、森の土に還るんだ。』とね。
でも、その時―――――――――」
口角を吊り上げ、ニヤリと笑った。
「―――――――――突然、息が楽になった。
身体の崩壊が止まり、力が戻った。
不思議に思って、振り返った。そしたら………」
妖怪達には見えた。
彼の背後に佇む、アフリカやアボリジニの木彫りの像を彷彿とさせる、不気味な人形の姿が。
「こいつが僕にとり憑いて、僕の魂を繋ぎ止めてくれていたんだ。
【エボニーデビル】っていうんだがね……【本体】が殺され、【スタンド】だけが怨念の力で漂っていたのが、僕を人形だと勘違いして憑依したらしい。
どうだい?凄い奇跡だろ?
いつもそうなんだ…最後の最後でいつも運は僕に味方してくれるんだ…………」
もの悲しげに、渇いた笑いをあげる。
「―――――――――でも、結局僕は不幸なんだ……折角府内有数の進学校に入学したのに、オカマ掘られて、僕を見捨てた教師を殴って逃亡した先で【スタンド】を手に入れても、本にされ、復活しても奴隷みたくこき使われ、脱走しても死にかけて、間一髪で助かっても、結局【外の世界】には帰れず、今死にかけている…………」
輝之輔の瞳は、死んだ魚のようにどんよりと濁っていく。
「少しずつ、少しずつ……………
『宿命』が僕を気づかないうちに取り囲んで…
ぐるぐると縛ってすぐに逃げられないように…
そして希望で一瞬だけ喜ばせておいて…最後の最後で僕を見捨てるんだ…誰も関心なんか払わない、みんな見捨てる…観にさえも来ない。
得体の知れない【化け物】が静かに僕を取り囲んで追い詰めている。最早【エニグマ】なんかじゃあ何もできない………僕のスタンド能力なんかじゃあ手も足も出ない。」
生気を失った彼の顔は、どんどん萎び朽ちていく。
「負け……たのか……僕は。僕は死ぬ…死ぬのか………
だが……ただじゃあ死ぬ…ものか…
死ぬ…前に…」
輝之輔の両目に、突如冷酷な光が戻った。
「―――――――――僕のような【弱い人間】は……人生のいたるところで惨めに敗北して………鬱屈し、歪んでいく。
90度折れて道を逸れ……180度曲がって地べたを這い……270度歪み憎悪して……360度捻れて、何もかも道連れにして破滅するんだ。
だが………僕はポリに捕まって『ムシャクシャしてやった 誰でもよかった』なんて言うような屑にはならない…………どうせ屑なら、『最低の屑』になってやる………!!」
BGM 豚乙女 『宵影』
彼の目は、死ぬ前の最期の輝きを放っていた。
「…………………っ!?なっ…………!」
彼の手には、一枚の写真が握られていた。それに映った【モノ】に気付き、魔理沙は愕然とする。
「フフフ………気付いた、か………」
ニヤリと笑い、輝之輔は写真を掲げ、彼女に見せつける。
「僕は………絶望的な時、いつも運がいい………バラバラにぶっ飛ばされた時……【偶然】適当な家の屋根裏に隠しておいたこいつを、見つけることができた…………」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――――
彼が握る写真の中、ポツリと一人佇んでいる中年の男。その男の顔に、魔理沙はよく見覚えがあった。
「フフフハハハハ――――!そうだ、この写真の中に閉じ込められているのは、霧雨雑貨店店主、お前の親父だッ!!」
ギリッと歯軋りし鬼のような形相で睨む魔理沙を見て、輝之輔が愉悦の笑いをあげる。
「―――――――――僕はまだ人を一人も殺した事はない……
だが、今お前の親父を殺せば地獄行きが決定する……
『スタンド』とは精神の力、『地獄に行きたくない』と強く思えば…!
吉良の親父さんのように『スタンドパワー』で魂をこの世に固定すればッ!
成仏する事なく現世に留まれるかもしれない………!!」
夜叉のごとき形相で、輝之輔は魔理沙たちを睨み回す。
「ッ……!?や、野郎ッ…!!」
魔理沙がミニ八卦炉を輝之輔に向け、『マスタースパーク』を撃とうとした。命蓮寺の者達も弾幕を撃とうと身構える。
「ふんッ!」
『マスタースパーク』が発射されるより前に、輝之輔は自分の舌を力一杯噛んだ!
「うぐっ!?」
突然、魔理沙が血を吐いた。
「えっ!?」
「な、何が―――――――――っ!?」
命蓮寺の面々が驚き、魔理沙に目を向ける。
「人の話は黙って聞けと学校で教わらなかったのか!?」
舌から血を溢れさせながら、輝之輔は怒鳴る。
「危なかったな………もしあのまま僕を『マスタースパーク』でぶっ飛ばしていたら、今頃お前も肉片になっていたぞ……」
「な……何だ…と…!?」
口を両手で押さえて、魔理沙は輝之輔に問う。
「僕は今、新たな【能力】を身に付けている………!自分が狙った相手を、同様の手段で自殺の道連れにできるという、最悪の【能力】をなッ!お前の舌が勝手に切れたのはそのためだッ!!」
輝之輔の額から、【DISC】が僅かにその姿を覗かせていた。
「僕は今、殺される事を、死を『覚悟』している…!
魔理沙だけじゃない、妖怪共、お前らにもだ!
この【スタンド】、【ハイウェイ・トゥ・ヘル】は本体の『死の覚悟』によって発現する。
今僕を殺せば、【ハイウェイ・トゥ・ヘル】は魔理沙、お前を道連れに死に引き摺り込む!!
お前らは僕に手出しできないッ!
魔理沙ッお前は自分の実の親父を見殺しにするしかないんだぜええッ!!」
焦点の定まっていない両目で魔理沙を睨む。
その尋常ない雰囲気は正気の沙汰ではなかった。
「殺れよ……殺されてやるよ……ゲブッ!!だが、写真の中の『親父』はよォォォォォこのままで………ガブッ済ませるわけにはいかねえ……
僕はこの場で殺されてやる。しかし!!お前の親父は僕のこの手でよおおおおお―――」
両手で【写真】を握り、力を加える。【写真】の端は既に破れかかっていた。
「写真ごと、私の親父を破り捨てよおって考えているんなら………止めた方がいいぜ…!!
その手を動かすより早く!!私の『マスタースパーク』はお前を死なない程度に粉微塵にする!!」
ミニ八卦炉を輝之輔に向け、魔理沙は叫ぶ。
「そいつは……どう……かな?僕はもう、死ぬんだぜ…何やったって損はねえ…だろ?お前の心に親父を見殺しにしたという『絶望』を残してくたばれるんなら……僕は喜んでやるぜ……」
輝之輔の顔は、半分以上が崩壊しその部分は既に原形を留めてはいなかった。だがそれ以前に、顔の残った部分も狂気に歪み、最早人間らしさを感じ取る事はできなかった。
「………………………………………さっき、お前の目の中にダイヤモンドのように固い決意を持つ『気高さ』を見た……だが…堕ちたな……」
憤怒と、養豚所の豚を見るように一切の興味も失せた眼差しを輝之輔に向ける。
「ただの……ゲス野郎の心に…………!!」
魔理沙がピシャリと言い放った言葉を、しかし輝之輔は壊れた笑い声でもって返す。
「堕ちる?堕ちるだって?」
眼球が片方転げ落ち、残った血走った目で【写真】に目を移す。
「地獄に堕ちるのはギャヒャハハァ――――ッこれから親父を見殺しにするお前の方だァァァァ―――――ッ!!」
最期の力を振り絞り、【写真】を引き裂こうと両手を捻る。
バリバリバリバリ―――――――――ッ!
【写真】が破かれ、中の男が真っ二つに引き千切られようとした。
ドバキャアァァァッ!!
聖白蓮の鉄拳が、輝之輔の頬に叩き込まれた。
「グバァ………ッ!?」
ガグッ、輝之輔の身体が傾く。
「聖…っ!?」
「聖っ!!」
魔理沙が目を見開き、命蓮寺の面々は安堵と歓びの色を浮かべる。
「―――――――――貴様は私に倒される事を【予想】していなかった………よって『死の覚悟』は無く、【能力】は発動しない。なにより、手加減したうえ法術で回復させたので魔理沙にダメージは返って来ない。」
超高速で飛来して来た白蓮は輝之輔の前に降り立ち、冷酷な瞳で見下ろす。
「そして今、顎を揺らして昏倒させた。これで『私に倒される』という【覚悟】はできない。」
朦朧としている輝之輔を睨み、白蓮は一喝する。
「まことに卑しくッ!極悪非道なりッ!!」
魔術で肉体を強化し、猛然とラッシュを繰り出す!!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――――――――ッッッ!!!!!!」
幾十幾百の拳の連打を叩き込み、輝之輔の泥とヘドロで構成された肉体を叩き上げる!!
「いざッ!!南無三―――――――――ッ!!」
トドメの一撃をぶち込み、輝之輔の身体はヘドロを撒き散らしてぶっ飛ばされた。
【ハイウェイ・トゥ・ヘルのDISC】が頭から弾き出され、地面に落ちた。同時に飛び散った泥が【DISC】に降り掛かり、『挟まれ』、【DISC】は消えた。誰も見てはいなかったので、その事に気付く者はいなかった。
ゴガシャアァァァッ!!
弧を描いて宙を飛び、輝之輔は慧音が破壊したゴミ収集車に叩き込まれた。
『燃えるゴミは月・水・金』と書かれたプレートが衝撃で軋み、傾く。
白蓮はクルリと背を向け、魔理沙の下へ駆け寄る。
「魔理沙、大丈夫ですか!?」
先程とはうってかわって、慈愛に満ちた声を魔理沙に掛けた。屈み彼女の怪我を見て、白蓮は息を呑む。
「まあ、酷い傷!少しじっとしていて下さい、今法術で治療しますから―――――――――」
白蓮は法術を発動しようとするが、魔理沙はそんな彼女が目に入らない様子で、一点を見つめていた。それに気付き、白蓮も彼女の視線の先を見る。
魔理沙が見ていたのは、輝之輔がぶち込まれたゴミ収集車だった。
BGM 天野月子 『龍』
ゴミを積み込む箱形容器の中で、輝之輔が目を覚ました。
「―――――――――お…………!ぐ………が、があ…………あ!」
蚊の鳴くような声で、彼は嗚咽をあげる。
「こんな………ところで…………ッ!僕は………ッ!
こんなところで死ぬのか……ッ!!こんなところで…………一人ぼっちで死ぬのかッ…!!」
片方しかない瞳が、恐怖に見開かれる。
グオォン…………グオォォォン……
停止していた機関部が作動を始め、圧縮板が駆動を始める。
「―――――――――魔理沙、見ないで下さい。【傷】になります。」
白蓮が魔理沙に諭すように言う。
だが、魔理沙は目を逸らさなかった。
「……嫌だ………ッ嫌…だ…!!
一人ぼっちで生きて……!一人ぼっちで死ぬのか……ッ!」
崩れゆく顔を絶望に染めて、輝之輔は慟哭する。
「嫌だッ……!一人ぼっちは嫌…だ…!
【あんな思い】は……ッ二度と………!!絶対に……嫌……だ!!」
彼の脳裏に甦る、忌まわしい記憶。
図書館に寄贈された後、誰にも知られる事なく気が狂いそうな暗闇と絶望の中で一人慟哭していた、あの地獄の日々。
その胸の内は、白蓮達には伝わる筈がない。
「……………ハァ……ッ!?
ハッ………く…暗い……!?さ…寒い………!
だ…誰かいないか……!ハァッ……誰か……ッ!」
助けを求めるように、誰かの手にすがろうとするかのように、輝之輔は震える手を空へと伸ばす。
グオォォォン―――――――――
圧縮板が万力のごとき力で降りていき、輝之輔の頭に迫る。
「魔理沙っ!!見てはいけませんッ!!」
白蓮が魔理沙の肩を掴み目を逸らさせようとする。が、魔理沙は険しい表情で輝之輔の姿を見つめ続けた。
彼の最期の瞬間を看取り、生涯自身の記憶に焼き付けておくためだというように。
ゴオォォォンン―――――――――
ギロチンのごとき圧縮板が、輝之輔の喉元に迫った。
その震動を感じ、輝之輔は全てを悟ったように、嗚咽を止めた。
絶望、恐怖、怨念、憎悪――、暗黒の感情に満ちた声で、彼は最期の言葉を呟いた。
「―――――――――畜生(JESUS)……ッ」
グジャアァァァ―――――――――!!
輝之輔の首が切断され、頭部がまるごと圧縮板に押し潰される音。
生々しくおぞましい音が人里の空に響き、消えた。
「―――――――――ううっ……!?」
魔理沙がうずくまり、口を押さえる。
「うええっ……!う……っ…ぐう………っ!!」
胃が捻り上がり、込み上げてくる吐き気を、魔理沙は懸命に堪える。
「―――――――――魔理沙、あの者が死んだのは、貴女のせいではありません。貴女は一人で、大勢の人達のため戦ってくれました。一人で背負い込む事はないのです。」
白蓮が慈愛深く囁き、彼女の背を擦ろうとした。
パシィッ―――――――――
魔理沙が白蓮の手を払い除けた。
「っ―――――――――!?」
白蓮は驚き、息を呑んだ。
魔理沙は白蓮を振り向き、涙の滲む瞳で、彼女をキッと睨み付けた。
「―――――――――人を殺して……平気な奴なんていない…………っ!」
魔理沙の双眸は、怒りを籠めて白蓮を睨む。
「あいつもそうだった………あいつは最後に、正面から私に立ち向かって来た……
あいつは逃げなかったんじゃない…逃げられなかったんだ…っ!
【錠前】の重さで……【罪の意識】の重圧でッ!!
リグルの指を引き千切った時も、男の腕をもぎ取った時も!あいつの目は罪悪感で一杯だった!
あいつは極悪人なんかじゃない……!どうしようもなく弱虫な、何でも考え込み過ぎて身動きできなくなった、只の大馬鹿野郎だった!」
涙を拭い、立ち上がると、魔理沙は白蓮に背を向けた。
「あんな弱虫にこんな大それた事、できた筈がない……あいつの弱さにつけこんで、これをやらせた奴がいるッ!!」
ギリギリと歯を喰い縛り、魔理沙は義憤に駆られ、東の空を見上げる。博霊神社上空の空は、さらに火を映して紅くなっていた。
「絶対に許せねえ……っ!何もできない無知なる者を、テメエの都合で踏み台にする奴はっ!!」
魔理沙は歩き出し、【紙化】が解除され転がっている箒を拾った。
「―――――――――魔理沙」
白蓮に呼び止められ、魔理沙は足を止める。
「―――――――――その通りです。人を殺めて、ショックを受けない人なんていません。
ただ、私は―――――――――永く生き、多くの死と出会ってきて……いつしか、そのショックを表に出さなくなったのです。」
魔理沙の背中に語り掛けると、悲しげに溜め息を吐いた。
「――――――――――――――――――?」
二人と命蓮寺の者達が、辺りを見渡した。
人の姿が、通りという通りに戻っていた。
【紙】にされ誘拐されていた人間達は、何事かと暫くきょろきょろと辺りを見回していたが、すぐに再会に歓喜する。
親と子、夫と妻、兄と弟、姉と妹、祖父母と孫、近所の人々、あらゆる人々が悪夢の終わりを喜び、その喜びを分かち合っていた。
「―――――――――――――――――――――――――――」
魔理沙達は暫くその光景を眺めていた。
と、白蓮がある事を思い出し、魔理沙に話し掛ける。
「魔理沙、貴女の御父様は………………?」
ハッと顔を上げ、輝之輔が落とした写真に目をやる。
「―――――――――あれ?」
写真の中にも、外にも、彼女の父親の姿はなかった。
何処に行ったのか、魔理沙が辺りを見渡していると、
「あら、親御さんと御会いしたかったの?それは悪い事をしたわ。親子の感動の再会を邪魔しちゃったようね。てっきり顔を合わせたくないと思ったから、店までスキマで送って上げたのに。」
ビクッ
突如虚空から聞こえてきた声に、一同は思わず身を竦める。
あどけない少女のようでいて、妖しい色気を漂わせる、裏に底知れない何かを隠しているような、なんとも胡散臭い声色。
こんな声で話す者は、彼女達の知る限り一人しかいない。
彼女達が振り返る。
その視線の集まる先、空間の裂けた亜空間から、紫色の洋服を身に纏い、きらびやかな金髪を満月の夜空に靡かせた一人の女性が姿を現す。
日傘を携えた大妖怪、八雲紫が、静かに佇んでいた。
ED へたのよこずき 『毒吐き』
第二十一話、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたなら幸いです。
今までもそうでしたが、今回特に『弱いスタンドを強力に応用する』ということを顕著に描きました。
【スーパーフライ】や【ザ・ロック】など、戦闘に応用し難いスタンドを【エニグマ】で活用する。輝之輔を登場させた目的の一つがそれです。
DIOの言っていた『スタンドに強い弱いの概念はない』という言葉をより保証できたのではないでしょうか。
・反省
なんというか……その、詰め込みすぎですよね。
思いついたネタを片っ端から入れていくからこんなに長くなってしまいました。その分、戦況が二転三転するある意味【ジョジョらしい】展開にできたかと思いますが、【助っ人による逆転】というアメコミみたいな展開を乱用しすぎた感が否めませんね……
次回から、物語は最終決戦へと進んで行きます。伏線回収も行うので、今までの話を読み返していただくとより一層楽しめるかと思います。
では次回、~吉良吉影は静かに生き延びたい~
第二十ニ話 バイツァ・ダスト スカーレット・デビル ⑤、お楽しみに。