【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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第二十三話です。いよいよ最終決戦が始まります。 『起承転結』でいうところの『結』もようやく終わりに近づいてまいりました。
大変長くややこしい戦闘シーンですので、休憩を挟み読むのが苦痛にならない程度のペースで御読み下さい。最悪二十六話まで「キング・クリムソンッ!」して戴いても構いません。

●あらすじ 『ヤバイ【遺体】がイン!』
絶体絶命の危機でさえ、彼の予想の範疇を超えてはいなかった。
【前の一時間】に仕掛けた悪魔の罠が作動し、戦局は一気に回天する。
咲夜、パチュリーを次々に敗り、【遺体左腕部】を取り込んだ直後、レミリアの一閃で彼の身体は塵と化した。
だが突如彼の死骸は消失し、背後から現れた【キラークイーン】がレミリアの腹を貫通!
彼女の姿は爆炎に呑み込まれ、爆音と美鈴の悲鳴が博麗神社境内に木霊したのだった―――――――― 正体の見えない【キラークイーン】の【新能力】、果たして美鈴に勝機は!?

※【オリジナル能力】は取り敢えず『吉良吉影の死後自動発動する【マンダム】』と仮定してお読みください。



第二十三話 吉良の世界―Last One Channel to 0― 前編

OP Epica 『The Last Crusade』

 

「――――――――わたしの親父は………(全く理屈に合わないが)………【生きている】。親子の【絆】で感じ取れる。彼はまだこの世にいて、闘っている……【アトム・ハート・ファーザー】を解除したのは、きっとやむを得ない事情があったのだ………わたしの【写真】を誰かに奪われた、といった【危機】が………

……そして、親父が【写真間移動】で離脱していないということは………【勝てる勝負】と踏んでいるからだ………心配は必要ない…………

輝之輔も死んではいない………【エニグマ】の【能力】が消滅していたなら………【ファイル】も解除されている筈だからな………

………館の主、レミリア・スカーレットは滅び……、【七曜の魔女】パチュリー・ノーレッジは再起不能………、十六夜咲夜も無力化された。

そして【あの御方】はここにある…………

そしてわたしはここ(博麗神社)にいる………

全ては順調…………、全く以て順調だ。」

眼前で迸る爆炎を眺め、吉良吉影はそう呟いた。

オオオオォォォォォォ――――――――

境内を吹き抜ける風が、レミリアの成れの果てである灰塵をさらっていった。

「――――――――お……………

……お……………」

美鈴がワナワナと拳を震わせ、両の目をカッと見開き、絶句した。

「お嬢様ァァァァァァ――――ッ!!」

ザンッ!

絶叫し、石畳が足下で砕け散るほど強く地面を蹴りつけ、吉影に向かって跳び出した。

「うわあああああああ――――ッ!!」

背中を向けて立ち尽くす吉影目掛け、【気】を練り込んだ弾幕を浴びせ掛ける。

ダンダンッ!

二発の炸裂音が響き、弾幕は撃墜された。

「――――――――」

美鈴を睨み付け、吉影は硝煙を吐く【水平二連散弾銃】を【キラークイーン】腹部のスペースに放り込み、バックジャンプで美鈴の重機のごとき一撃を避ける。

ゴガシャァッ!

吉影の立っていた石畳が、美鈴の拳に粉砕された。

「フンっ――――――」

憤怒の形相で睨み付ける美鈴に、着地と同時に【キラークイーン】がライフルを発砲した。

片手で構えたライフルが発射した弾丸を、美鈴はあり得ない反応速度でかわし一瞬で距離を詰める。

「うおおおおォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」

雄叫びをあげ、輪郭がぶれるほどの速度と怒気を纏い突きを繰り出す。

「チッ―――――」

舌を鳴らし、吉影は【キラークイーン】の右手でライフルを【爆弾】に変え、美鈴の拳を防御しようとした。

バヂィィンッ!

最大出力で放出された膨大な【気】が、ライフルを触れずして弾き退けた。

「なッ!?――――――――」

ライフルから気が流れ込み、【キラークイーン】が動きを止めた。

その一瞬の隙を突き、美鈴は【キラークイーン】の脇を掻い潜り跳躍する!

「せえぇぇぇぇいっ!!」

ハンマー車のごとき健脚が、吉影の無防備な顔面を直撃した。

パアァンッ!

破裂音と同時に、ビタビチャアァという液体が飛び散る音が響いた。

頭部の上半分が吹き飛ばされ、弾け飛んだ眼球が視神経を引き千切り転がり落ちる。

頭蓋は物凄い衝撃を受け大きく変形し、砕け剥がれ落ちた頭蓋骨の隙間から割られたウニのようにブヨリとした脳がはみ出し、石畳にシミをつけた。

――――――――グラリ………

司令塔を失った吉影の身体は重力に従い、無造作に落下し石畳に叩き付けられた。

「――――――――ハァ―――

―――――ハァ――

――ハァ――ッ――ハ――」

地面に足を下ろし、肩で息をして、美鈴は吉影の死体を見下ろす。

口蓋が吹っ飛び、舌がさながらオープンカーから身を乗り出し街道の観衆に手を振る著名人のようにベロリと剥き出しになったそれは、まだ脳幹が微妙に残っている断面からおびただしい量の鮮血を迸らせ、ゴロリと地面に転がっている。

確実に、死んでいた。

「―――――ハァ――ッ―――ハッ――――ハァ―

(……『死んでいる』………【気】を読んでも、確実に【生命反応】が途絶えたことが分かる………

…でも………そんな馬鹿な……!この男は確かに『死んでいた』…!お嬢様に全身吹き飛ばされた時っ!既に…!なのにっ!……気付いた時には死体が消えて、お嬢様のお腹を背後から貫いていた……!!いったい……何をされたというの……?

……いえ…『そんなこと』よりも…っ…!!)」

美鈴が、ゾクリと背筋を震わせ後ずさった。

「(【これ】は……っ…まさか……!【これ程のもの】が…っ!なぜここに………っ!?)」

吉影の死体を見下ろす美鈴の双眸が、恐怖に見開かれていく。既に息絶えた人間に対して、人間ならばともかく妖怪が、これ程恐れ狼狽えるなど、【異常】の一言に尽きる。

――――――――いや………【異常】なのは彼女でも、死体でもない。真に【恐るべきもの】は、死体の【左腕】に潜む、【何者か】の発する尋常ではない【気配】の方だった。

 

――――――――カチリ

「っ!?」

微かに耳に届いた【作動音】のような音に、美鈴はビグッと身体を強張らせ、反射的に辺りの【気】を探知した。

「………え?」

美鈴は自分の足下に目を落とす。

いや、正確には彼女の【足】に目を落としたのだ。

彼女の右足には、『小さな時計のような【部品(ピン)】がビッシリと引っ付いていた。

「こ……これは…っ?」

【気の視界】で【部品(ピン)】を凝視する。カチコチと音をたてて時を刻む【部品(ピン)】は、彼女の足と一体化していた。

「【スタンド】……!?いつの間に――――――――?」

ただならぬ【予感】を察知し、【気】を足に流して【部品(ピン)】を無効化しようとした。

 

――――19:33:02―――――

 

その刹那、

「―――――――っ!?」

眼前に横たわっていた吉影の死体の死体が、消えた。境内の石畳に拡がっていたおびただしい量の血液と共に、跡形もなく消え去った。同時に、

ガァンッ!!

美鈴は咄嗟に身を翻し、背後から放たれた散弾を避けた。

「くっ……!」

数メートルジャンプして着地し、背後で煙を吐く散弾銃を構えていた吉影に身体を向け、身構える。

背後に現れた彼の【気】を察知していなければ、全身に鉛玉のピアスを埋められていただろう。

「(まただ……っ!また死体が消えて、瞬間移動して復活した……)」

美鈴が注視する前で、吉影は散弾銃を【キラークイーン】の【腹部の空間】に放り込んだ。

そして懐から【紙】を取り出し、広げた。【水平二連式散弾銃】が彼の手の中に現れた。だが、先程のものとは少し形状が違う。銃身を切り詰め、【チョーク】と呼ばれる弾の拡散度合いを調節する器具を取り外し、扱いやすさと近距離での殺傷力、殺傷範囲を高めた【ソードオフショットガン】だ。

「『吹き飛ばす』」

美鈴を見据え、吉影はそう宣言した。

「お前を銃や何かで叩きつけたり………拳や指先で触れようとしたり………

いいや…!そういうのはもうしない。【学習】したからな……触れたりしない。お前の肉を撃ち抜いて臓器をシェイクして口から吐き出させてやるッ!

撃ってぶっ飛ばすッ!!」

【ソードオフショットガン】を構え、美鈴に照準を定める。

美鈴はすぐさま地面を蹴り、散弾の殺傷範囲から身をかわそうとした。だが――――――――

ドグオォ!

力強く踏み込んだ美鈴の右足が、突如爆炎を噴き上げて弾け飛んだ。

「なぁっ――――――――!?」

体重を預けていた軸足の消失と爆圧で、バランスを大きく崩し倒れ込む。

「(【部品(ピン)】の付いていた足が………!?)」

咄嗟に飛行能力で宙に浮き、散弾から逃れようとするが、

「(―――間に合わ――――!!)」

吉影はそれを予知していたかのように銃口を向け、引き金を引いた。

ダァンッ!!

横に二つ並んだ銃口が、散弾を吐き出した。

18発の鉛玉が、地に伏せる美鈴に襲い掛かった。

ビシビスバシィッ!

彼女の前身一面に、弾丸が喰らいついた。だが――――――――

「ッ…!」

彼女の身体に命中した散弾は、防弾繊維にぶつかったように皮膚に埋没しただけで、肉体を破壊するには至らなかった。

「………【気】で咄嗟にガードしたか………」

【ソードオフショットガン】を仕舞い、吉影は楽しくて堪らないといった表情で独りごちる。

「ンッン~~♪

実に!清々しい気分だッ!歌でもひとつ歌いたいような良い気分だァァァァ!フフフフハハハハハハハハァァァァ!

わたしの人生は33年間【平穏】だったが…これほどまでにッ!絶好調の晴れ晴れとした気分はなかったなァ…フッフッフッフッフッ、『【あの御方】の【御加護】』のお蔭だ、本当によく馴染むッ!

最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアァァァァアハハハハハハ――――――――ッ!!」

この上無く愉快な気持ちで哄笑し、美鈴を見下ろした。

「ハァ―――――ハ――ッ――――ハァ――――ハァ―」

右足を失い、地面に座り込んでいる美鈴は、荒い呼吸をしながら吉影を睨む。

「……なんなんですか……その【能力】………!確実に死んでいたのに……一瞬で傷が消えて襲ってくるなんて………」

あまりに不可解、あまりに不気味――――――――美鈴が敵に秘密を教えてもらうよう請うような不名誉なことを口にしてしまったとしても、誰も責められないだろう。

「おいおい、適当なことを言ってくれるんじゃあない君………それじゃあまるでわたしの【新たな能力】が治癒能力か何かみたいじゃあないか。たかが治癒能力のような【ちっぽけな能力】が、【全知全能】である【あの御方】から生まれるわけがない。

わたしはただ紅美鈴――――――――きみの【頑張り】を……わたしが君に頭を吹っ飛ばされくたばったという【事実】を……『無かったことにした』だけだ。『【事実(全て)】を【虚構(無かったこと)】にする』………それがわたしの【無敵の能力】――――【大嘘憑き(オールフィクション)】だ。」

芝居がかった調子で吉影は美鈴に弁舌をふるう。

「例えばこの【腕時計】………つい先程までは壊れて使い物にならないただの【思い出の品】だったが………」

吉影が左腕を掲げ、【腕時計】を見せる。

「【壊された事実】を【無かったこと】にした今では、実用性も復活しているのだよ……」

彼の左腕の【腕時計】は、【ストレイ・キャット】に壊される前の状態に戻り、正しく時を刻んでいた。

「そしてわたしに触れた君の足――――――――【足の存在】を【無かったこと】にしてやった……足がぶっ飛んだのはそのためだ。」

美鈴の足の傷口を指差し、吉影はそう告げる。

「理解したかね……?わたしは今、あらゆる【能力】をぶっちぎりで超越する力を身に付けたんだ……【概念】に干渉し思いのままに操る【能力】、君の『【気】を使う』などという、まさしくその『程度の能力』で、どうこうできるはずがな――――――――」

ギャルギャルギャル――――――――ッ!!

したり顔で話をしていた吉影は、突如中空より現れた人の腕ほどもある鎖に絡めとられた。

「なあッ!?」

鎖は彼の全身を拘束し、さらに蛇のごとき素早さで頭部に巻き付くと、

グシャァッ――――――――

万力のごとき力で、吉影の頭を粉砕した。

「こ、この鎖は………」

片膝をつき顔を上げた美鈴の横に、【紅い霧】が収束していく。霧は子供の姿を型どり、白い皮膚の色に変化すると、彼女の隣に降り立った。

「――――――――美鈴……コイツの言っていることを真に受けては駄目………この男は【大嘘吐き】よ。」

バサッ――――――――

黒い翼をはためかせ、レミリア・スカーレットが現れた。

「お嬢様っ…!!」

美鈴がまなじりに涙を浮かべ、歓喜の声を上げた。

「なにを泣いているの、美鈴?私が『生きている』ことは、【気】を探知して分かっていたでしょう?」

左手に握る鎖をジャラリと鳴らし、美鈴に微笑みかける。

「いえっ、ですが……ぐすっ………もしや【霧化】を解除できないほどの傷を負われたのかと…………」

美鈴はグスングスンと泣きながら、主の無事を喜んだ。

「ふふっ……美鈴、私を誰だと思ってるの?蝙蝠一匹でも生存できるこの私が……、ぐっ!」

レミリアは微笑を浮かべていたが、突然痛みに顔をしかめた。

「お…お嬢様……?その傷は…!?」

レミリアの胸には、赤ん坊の頭ほどもある巨大な穴がぽっかりとあいていた。

「………ほとんど間に合っていたわ……でも…ちょっとだけ間に合ってなかったの………

胸を貫かれた後、すぐに身体を【霧】に変化させたわ……でも、ちょっとだけ『触られた』……その部分は回復しないみたい……【爆発】して無くなっちゃったから………」

レミリアが美鈴との会話で、僅かに吉影の死体から注意を逸らした時だった。

 

19:33:08―――――――

 

鎖に縛り上げられていた吉影の死体が、消えた。

「えっ……!?」

支えを失いガシャガチャと音をたて、鎖が石畳の上に落ちた。

びっしりと付けられていた【部品(ピン)】が弾け飛び、カラカラと転がる。

「――――――――すまなかった、冗談だ……【オールフィクション(大嘘吐き)】なんてのは………」

「「っっ!!」」

背後から聞こえた声に、二人は驚愕して振り返る。

そこには、無傷で立ち彼女らを眺める吉影の姿があった。

「……【公平(フェア)】に行こう。スタンド戦は――――――――たとえば自らの【能力】を相手に教えるような……――――【公平(フェア)】さが、精神(スタンド)の力(パワー)として最大の威力を発揮する。【卑怯】さは【強さ】とはならないからな。」

レミリアは鎖を握り締め、

「ええいッ!!」

構えもなにもなく語り掛けてくる吉影目掛けて、鎖を振り回した。吉影は身じろぎ一つせず、レミリア達を見据えている。

ドグオォッ!

鎖は吉影の身体を両断する寸前爆発し、彼に到達することはなかった。

パラパラと鎖の破片が舞い散る中、何事も無かったかのように吉影は話を続ける。

「今の【爆発】、そして美鈴の右足………これらは【蘇生】とは関係のない現象だ。」

吉影の背後に、ユラリと幻影が現れる。

「【Grip & Break down !!】――――――――

たった今手に入れた、新たな【爆弾】……触れたものに【部品(ピン)】を付け、外れたら爆破する【能力】。」

【キラークイーン】とは全く異なるデザインのそのスタンドは、凶悪な容貌をした巨大な鴉のような姿をしていた。

「――――――――そして……わたしが何故死から甦ることができるのか…

それを説明する前に………」

話しながら、吉影はごくゆっくりとした速さで――――会話に集中していたなら全く不自然に映らないほどに――――彼女達の周りを弧を描くように歩く。

「……【並行世界】という言葉……知っているかね?またの名を【パラレルワールド】とも言うが……」

レミリアが敵意を剥き出しに身構えているのを見て、吉影は言葉を繋ぐ。

「君は【運命】を見る能力を持っているから、理解しやすいと思うが………【運命】とは、流れる河に例えることができる。未来へと流れ行く河の通る場所、水の波、渦、飛沫―――――それらが、実際に起こる【出来事】を表しているのだ。

………では……河の【支流】は……何処へ行くと思う?」

吉影の問い掛けに、レミリアは答えない。彼の言葉の真意を掴みかねているのだ。

「【運命】という河の【本流】が、実際に起こる【未来】を通過していくのなら……【支流】は何処へ向かうのか?

涸れ途絶え消滅するのか?崖から無の滝壺へと墜ちるのか?大洋に出て、【大きなもの】の一部となるのか?

――――――――否、【支流】は【存在】する。決して途絶えることなく、無限に枝分かれを繰り返しながら……今も【本流】と並行に、流れ続けている。【現実】とは【別の次元】が、確かに存在していたのだ。わたしもついさっき初めて【理解した】のだがね………」

足を止め、吉影はレミリア達へと向き直った。

「――――――――そして………わたしの【無敵の能力】は…レミリア・スカーレット――――――――『【並行世界】間を移動する能力』だ。」

レミリア、美鈴の二人が、絶句した。

「信じなくとも自由だが――――――――【嘘】ではない。『誓う』。

これは【契約】だ。もし【嘘】だったなら、君はすぐにそれを察知する筈……どうだ?わたしは『【嘘】を吐いた』かね?」

美鈴がレミリアに視線を移した。レミリアは静かに首を振った。

「【Bites The Dust -Channel to 0- (地獄へ道連れ 世は神次第)】――――――――

それは【次元】を爆破する【爆弾】………たった今発生したわたしが【死ぬ】か【生きる】かという【分岐】によって、【並行世界】が生じた。

【運命の本流】は残念ながら、【わたしが死ぬ運命の世界】であり、わたしはお前達に殺された……

だが!わたしの絶命後、我が【Bites The Dust -Channel to 0- 】が、【わたしが生きている世界】を【本流】にして、貴様らを招いたのだ。よってわたしが死んだという【事実】は【本流】とは決して交わることのない【支流】の一本と消え、わたしは今、このとおり生きているんだよ。

……そして―――――――」

バチィン!

吉影が右手を掲げ、指を鳴らした。

「Another One Bites The Dust!!」

指を鳴らした音と、吉影の張り上げた声が、博霊神社の境内に木霊した、瞬間

ボゴォッ!

レミリアの脇腹が、何の前触れも無く吹き飛んだ。

「―――――――え?」

―――ガグリ

何が起こったのか理解する前に、レミリアは膝を着いていた。

「お、お嬢様!?」

美鈴が叫び、レミリアに手を伸ばそうとした。

グチャアッ!

「――――は―――?」

血飛沫が右頬にかかり、美鈴は右を見た。

彼女の右肩には、筋肉を大きく抉られてできたクレーターがあった。

「……な………!?」

ドシャ―――――

レミリアへと伸ばした右手は筋肉の力の作用を失い、勝手に地面に落ちた。

「クククッ……どうだね、全く【認識】できなかっただろう?」

愕然と座り込む二人を眺め、心底面白そうに吉影は笑う。

「これが【Bites The Dust -Channel to 0- (地獄へ道連れ 世は神次第)】の【無敵】たる所以………【並行世界】のわたしが同時間上で、君達を攻撃したのだよ。

【別次元】からの攻撃だから【認識】は不能ッ!【回避】もできないッ!!

【結果】だけだ!この世には『わたしが生きている』『攻撃が命中する』という【結果】だけが残る!!」

身体を震わせながらなんとか立ち上がる二人を見て、吉影はさらに畳み掛けるように言い放つ。

「どんな人間だろうと…一生のうちには【浮き沈み】があるものだ。

【成功したり】【失敗したり】…だが…未来という目の前にポッカリあいた【落とし穴】を見つけ!それの無い【道】を進むことが出来れば、人生は決して【沈む】事がない。【平穏】のままでいられる わたしは!

…そうじゃあないか?え?」

吉影は口角をつり上げて、二人を睨み回した。

「(―――――――お嬢様………ヤツの言っていることは、本当なのですか?)」

「(……取り敢えず、【嘘】は言っていないわ。【契約違反】はしていない………

でもあの男のこと……きっと何か【隠し事】がある……信じてはダメよ、ヤツの言葉は………)」

レミリア、美鈴は人間には聴こえないほどの小さな声で会話し、自分の傷の様子を確かめる。レミリアの腹の傷は【爆弾】によるものではないらしく、間もなく治癒しようとしていた。

美鈴の肩も【気】の治癒により、なんとか動かせるレベルまで回復している。

吉影は悠然とした物腰で、二人に語り掛ける。

「何故こんな事を話したのか……君らはわたしには敵わないという事を説明しているんだよ。

なぜならわたしには……【無敵の能力】などよりも頼もしい、【幸福の唯一神】が味方しているからだ。

この世の【力】!!

【栄光】!!【幸福】!

【文明】【法律】【金】!【食料】【民衆の心】!!

その他諸々のありがた迷惑な【吉良(きちりょう)】が!!わたしの下に訪れてくる!牧羊犬に追い立てられる、羊の群れのように!!」

吉影の言葉は腹の底から沸き上がる高陽を抑えることができないと言った風に、次第に熱を帯びてきた。

「―――――――今…感じる感覚は……

わたしは【白】の中にいるということだ…

貴様らは【黒】!【あの御方】は【白】!

【黒】と【白】がはっきり別れて感じられるぞ!

貧弱な人間の身体でも勇気が湧いてくる。【正しいことの白】の中にわたしはいるッ!

つまり、わたしが【正義】だ。」

恍惚の表情を浮かべ、興奮した口調でそう言い終えると、吉影はまた柔らかい、いつもの警戒心を抱かせない物腰に戻った。

「と、いうわけだ……今や君らを葬る事は簡単なんだよ………

しかし、わたしはさっきの【取引】で言ったように、君らを殺すことは目的じゃない……無駄な【闘い】はしたくないし、なによりフラン、彼女が悲しむ。例え自分をイカれた【趣味】の【玩具】にした姉とはいえ、館の主が居なくては彼女も生活できないからね……フフフフハハ……

そこで、【第二の取り引き】だ……わたしの【頼み】を快諾してくれるなら、君たちには指一本触れないと誓う。【報復】も【奇襲】もしない、君たちに傷一つつけないことを【宣言】しよう。

わたしの【頼み】を聞いてくれないかね?」

人の良さそうな穏和な笑顔を浮かべ、吉影は二人の返答を待った。

「(【嘘】だ……こいつは【大嘘憑き】……!)」

その微笑の裏にどれほど深い闇が広がっているのかを思い知らされている彼女の脳裏に、警告音が鳴り響く。

ズズズ――ッ―――――

レミリアが【グングニル】を出現させる。それを見て【交渉】の余地など無いと悟った美鈴も、全神経を張り詰めて臨戦態勢に入った。

「―――――――その【眼】………【交渉決裂】という意思表示かね?本心からフランのことを思っての提案だというのに……よほどわたしは信用が無いらしい。

残念だな、至極残念だ。

ま、どちらにしても…………」

やれやれと苦笑し、首を振ると、【キラークイーン】を出現させ、身構える。

「君らには損な役回りを演じてもらうがね……」

 

♪BGM SOUND HOLIC 『Grip & Break down !!』

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――

互いの殺意が両者の間でぶつかり、火花を散らす。

満ちる覇気にビリビリと空気が震え、林がざわめいた。

全焼した神社が上げる煙は、闘争の幕開けを報せる狼煙のようだ。

「………【征服】とは、まず相手から全てを奪うこと。

血吸い蝙蝠、貴様の羽をむしり取って、屈服の味を教えてやる。」

レミリアを指差し、吉影は宣言する。

「………その手…『破壊の目』を奪い、『押して』相手を爆破する。

対策は簡単よ。」

レミリアは【グングニル】の切っ先を吉影に向け、鋭い目付きで睨んだ。

 

19:33:14―――――――

 

「「手を私に触れさせなければいいだけの話―――――――」」

気付かなかった。

目の前にいた吉影の姿が、消えていた。

同時に、レミリアの背後に居た吉影が発した声が、彼女の言葉と重なった。

「っ!!!?」

「えっ―――――――」

レミリア、美鈴が漸く反応し、振り返ろうとした時、【キラークイーン】の指がレミリアの肩に触れた。

「ッ……!

チィッ……!」

吉影がしまったと舌打ちした。【キラークイーン】の指は、姿形を保ったまま既に霧に変化していたレミリアの身体を通過したのみだった。

「うあああァァァァァ―――――――っ!!」

そのリーチの長さゆえ【グングニル】を使うのは不可能と瞬時に判断したレミリアは、声を張り上げ【キラークイーン】に後方回し蹴りを放った。

フッ―――――――

蹴りが【キラークイーン】の横っ腹をぶち抜く寸前、また吉影の姿が消え失せた。渾身の蹴りは空を切り、レミリアの身体は勢い余って回転した。これが【吉】と出た。

ガキィンッ――――――

「―――――――っ!!」

グルリと身を捻ったレミリアの視界に、林の陰から銃を向ける吉影の姿が映り込んだ。

「(美鈴が………っ!!)」

美鈴も【気】を探知し気づいたが、遅かった。

ダァン!!

【キラークイーン】の構える【モシン・ナガン】―――――――ボルトアクションライフルが、火を噴いた。

「メイリィィィ―――――――ン!!」

レミリアは美鈴の前に立ちはだかり、【グングニル】でライフル弾を受けた。

ドグオォォォ!!

【第一の爆弾】に変化していた弾丸に触れ、【グングニル】が爆発する!

「っ……!くっ……!!」

【グングニル】を握っていたレミリアの左手が、爆圧で弾けた。

至近距離での爆発に、レミリアの幼い身体は容易く吹き飛ばされる。

「(【見えない速さ】の弾幕…しかも触れたら即死、物でガードしても危険だなんて………!

なんて厄介な相手なの……っ!?)」

「お嬢様っ!!」

美鈴がレミリアを受け止めるが、レミリアは彼女を怒鳴り付けた。

「美鈴、何をやってるのっ!?早く逃げなさい!!」

はっと気付き、美鈴は火線から逃れようとしたが、既に遅い。

吉影が二発目を発射しようとしていた。

「くっ…!」

レミリアは美鈴の腕を掴むと、

ギュゥン!!

翼で空を打ち叩き、上空へと急発進した。

美鈴の髪を掠めて超音速の弾丸が飛来し、爆発した。

ドグオォォォォォォ!!

爆炎が美鈴を襲ったが、距離が離れていたため皮膚の表面を焦がした程度だった。

ダァンッ!

一瞬遅れて、ライフルの発射音が耳に届いた。

 

「…逃げたか……」

林の陰で【モシン・ナガン】を構える吉影は、空中で二手に別れ飛ぶ二人を睨む。

「弾丸の起爆が遅れてしまったな…もう少し慣れれば百発百中だろうに……」

言いながら、吉影はボルトを往復操作し銃口をレミリアに向ける。

「美鈴はいい………『既に【始末】した』。あとはレミリアを片付ければ、それで終わりだ……」

ダァン!

レミリアの飛行軌道を予測し、引き金を引いた。

 

「くっ…!」

レミリアは【キラークイーン】の指が引き金を引こうとするのを見て、弾と爆風から逃れようと急転換した。しかし、

ドグオォォ!

「っ!?」

何の予兆も無く、彼女の左翼が爆炎と共に吹き飛んだ。

「(ま、また……っ!!)」

体勢が大きく崩れ、レミリアはガクリと落下して行く。

そこを狙ったかのように、銃口が火を噴き、見えない弾丸が発射される。

「(し、しまっ―――――――!!)」

弾丸を撃つ直前、このままでは確実に命中すると悟ったレミリアは、瞬間全身を霧に変化させる。

人間の頭を粉砕する威力の弾丸は、さながら虚像のごとくレミリアの身体を通過した。

だが、

ドグオォォッ!

通り過ぎた弾丸は、レミリアの後ろで爆発した。

「がはっ……!」

霧に変化した肉体でも、【スタンド】の爆破衝撃には耐えられない。爆炎に呑まれた部分が魂ごと焼け焦げる。

「お嬢様っ!?」

美鈴の叫び声が境内上空に響く。

「―――――――は…っ!?」

ボルトの往復操作を一瞬のうちに済ませ、吉影が再度引き金を引こうとする。

「(まっ、まずっ―――――――っ!!)」

ガアァンッ!

【着弾点火弾】に変えられた弾丸が、見えない速さで行動不能のレミリアに向け放たれた。

ドグオォォォォォォ!!

レミリアの身体が、爆炎に呑み込まれた。

 

「………むっ…?」

空中で噴き上がる爆炎から、無数の蝙蝠が飛び出し、散り散りに満月の夜空を飛び回るのを見て、吉影は顔をしかめる。

「…身体を【霧】に変えたのでは【第一の爆弾】に対して弱いから、【蝙蝠】になり身を守った、…というところなのだろうが………」

吉影は自身の腕でボルトを往復させる間も、【キラークイーン】の腕と目で照準を定める。

【モシン・ナガン】のような【ボルトアクション式ライフル】の欠点として、ボルトを操作して排莢・装填をしている間、片手を銃から離す必要があるため照準がぶれてしまう。だが、絶対にぶれないパワーと精密さを兼ね備えた【キラークイーン】の腕と、ボルトを操作するには事欠かない程度の力はある腕がある吉影には、伝説のスナイパー【シモ・ヘイへ】を上回る射撃精度と連射速度を実現できるのだ。

「お前の【足掻き】は断末魔の悲鳴を地獄のラッパに変えるだけだ。」

【キラークイーン】の指を引き金にかけ、親指を人指し指付け根の【スイッチ】に当てる。

「えぇいっ!!」

ノーマークの美鈴が、吉影に弾幕を雨と浴びせかける。

弾幕は吉影の頭上に迫り、

ボコボコボゴッ

【ストレイ・キャット】の【空気の防壁】にめり込み、弾幕は消滅した。

ダンッ!

蝙蝠のいる辺りに【着弾点火弾】を撃ち込んだ。

ドグオォォッ!!

蝙蝠十数匹を巻き込み、弾丸は爆発した。

ダァンッ!!

間髪入れずにもう一発撃ち出す。

ドグオォォォォォ!!

今度は『蝙蝠のあまりいない箇所』を狙ったため、数匹を丸焼きにした程度だった。

「今ので五発……残弾ゼロ……」

【キラークイーン】の【腹部空間】に【モシン・ナガン】を放り込み、

ジャキン!

懐から自動拳銃を抜き、

「……しかし…

随分と楽しいなあ~……【さっき】と比べれば…ククッ、圧倒的優勢じゃないか……」

林の陰から躍り出ると、

「どれ、蝙蝠を一匹ずつ始末するのもつまらない事だし……

【お嬢様】にさらなる【絶望】を味わってもらうとするかな………」

ニヤリと悪魔的な笑みを浮かべ、気絶した咲夜、妹紅に銃口を向けた。

「―――――――ああっ!?」

無数の蝙蝠の視野の中、レミリアは見た。

吉影が林から飛び出し、自動拳銃を、地に倒れ動かない咲夜、妹紅に向けるのを。

「(このためだったんだわ……!さっき、『蝙蝠の数の少ない場所』を撃ったのは……私を二人から遠ざけるためだったんだわ……!)」

蝙蝠の身体では飛行速度が遅く、元の姿に戻ろうにも散らばった蝙蝠を集合させる時間がない。

「(まっ間に合わ―――――――!!)」

レミリアが【絶望】に呑まれかけた時、

「せえぇぇぇいっ!」

美鈴が弾幕を放った。

弾幕は妹紅に着弾し、彼女の全身に【気】を流し込む。

ガァ―ンッ!

自動拳銃が【着弾点火弾】を吐き出した。

グウゥンッ!

身体を駆け巡った【気】が妹紅の動きを【支配】し、弾かれたように飛び起きた妹紅が咲夜を掴み弾丸から身をかわした。

ドグオォォ!

二人の背後で弾丸が爆発した。妹紅が残った右腕で咲夜を抱えるようにして彼女を守り、爆風に吹き飛ばされる。

妹紅の身体は空中で身を捻り、咲夜を上にして石畳に落下した。

「があっ!?げえっ…!!」

背中から石畳に叩きつけられ、腹に咲夜の体重をクッションとして受けた妹紅は、激痛と苦しさに目を覚まし、悶絶する。

「ナイスよ美鈴っ!!」

レミリアは蝙蝠を集結させ、元の姿に戻ると、片方しかない翼で二人に向かって飛翔した。

「げほっゴホッ―――!

ぐうっ――な、なんだいきなり――!?」

状況が掴めず、痛みに悶える妹紅に向けて、吉影が拳銃を構えた。

ダンッ!!

【着弾点火弾】はレミリアが妹紅、咲夜を拐った刹那、妹紅の頭があった場所で爆発した。

「チッ――――また形勢不利か……」

吉影は自動拳銃を懐に仕舞うと、【紙】を抜き出した。

 

 

 

「うおっ!?お、おいっ!どういうことだこれは!?何が起こったんだ!?」

レミリアに襟を掴まれ空中を引き摺られながら、妹紅ががなる。

「うっさい!説明するからその前にヤツの【弾幕】から身を守りなさい!」

レミリアは怒鳴り声をあげ、妹紅から手を離した。

「【弾幕】!?何を言ってんだ!?」

「吉良吉影の【外の兵器】のことよ!【スタンド】の【爆弾能力】と併用して、恐ろしい威力を発揮するのっ!」

妹紅は飛び続けながら、吉影に目を落とした。彼は自動拳銃を懐に仕舞い駆け出していた。

「おいおいおいおいおいおい、ついさっきまであいつを完璧に捕まえていただろ?なんであんな活き活きしてんだ?」

「あんたが寝てる間に色々あったのよ!」

怒声を上げながら、吉影に弾幕を撃ち下ろす。

「【ストレイ・キャット】!」

吉影は弾幕を【空気の防壁】でガードし、狙い撃ちを避けるように境内を駆け抜ける。

「お嬢様!咲夜さんを……っ!」

美鈴がレミリアに接近し、呼び掛ける。

「任せたわ美鈴!この娘をお願い!」

美鈴は咲夜を抱え、彼女の治療を始める。

美鈴に咲夜を預けると、レミリアは妹紅の方に目をやり、現状を説明した。

「ヤツは今【無敵】よ。死んだそばから復活して、【瞬間移動】で死角から狙ってくる。【見えない弾幕】は音が聞こえた時にはもう遅い、触れたら即死!防壁でガードしても防壁自体が爆発する!防御方法は発射前に軌道から距離をとるか、弾幕で迎撃するしかない。」

「は?な、なんだって?待ってくれ、意味が―――――――」

「いいからヤツを倒しなさい!そうしないと……っ!!」

ギリッ…、レミリアが歯軋りし、吉影を睨む。

「【皆殺し】にされるわよ……私たち……」

その鬼気迫る表情に只ならぬ気迫を感じ、妹紅は押し黙る。

「…美鈴、ヤツの【気】を探ってみて、どう思った?」

「…ヤツには恐らく、【弱点】があります。」

咲夜の全身に刺さるナイフを、出血しないよう注意して抜きながら、美鈴は答えた。

「ヤツがあの【Bites The Dust -Channel to 0- 】を発現する直前、ヤツのスタンド【シアーハートアタック】が咲夜さんの【懐中時計】を呑み込んで、空へ昇っていきました。

……そして彼の背中に引っ付いている、【マント】のようなスタンド……あれもきっと【能力】に関係があるはず………

―――――――あとは………その………」

ゴクリ、美鈴が不安に喉を鳴らし、【触れたくないこと】について言及し始めた。

「ヤツの……【左腕】………あれに入っている…【何者か】…が……

………の、【能力】の…【鍵】かと………」

美鈴の瞳が、ふるふると震えていた。冷や汗が噴き出し、ガクガクと身体が震え始める。

「おいどうしたんだ?大丈夫か?」

「………そう…あなたは何も感じないのね……?」

美鈴に問い掛ける妹紅を見て、レミリアは呟いた。

「?

何を『感じない』ってんだ?」

「……ヤツの【左腕】に収まっている【者】の……【パワー】をよ……」

見ると、レミリアも額に汗を浮かべ、畏怖の目付きで吉影を凝視していた。

「…何がそんなに恐ろしいって言うの?【夜の王】を自称する吸血鬼様が………」

妹紅も眼下の吉影の【左腕】を見詰めた。確かに【大きな力】を発散しているように感じるが、【恐怖】というより寧ろ【暖かみ】を感じるパワーだ。

「…蓬莱人も腐っても人間ってことよ…

【あれ】は…言うなれば私たち【妖怪】にとっての【悪の大王】……人間にとっての【救世主】………」

レミリアは自分自身を抱くようにして、内から込み上げてくる震えを抑える。

「なんで……っ、なんで【あんなもの】が【この世界】に……っ!【十字架】にも【教会】にも、【絵画】や【像】にも……この世のどこでもない、別の場所にいるって……そう思っていたのに………!!」

レミリアの顔に、恐怖と絶望感が滲んでいく。

「【あんなもの】が【幻想郷】に存在していたら……【この世界】は確実に壊れてしまう……!」

レミリアは紅い魔力を両手の平に集束させ、空を仰いだ。満月の夜空を、遠く小さく見える【シアーハートアタック】が元気に駆け回っていた。

「…蓬莱人、ヤツを殺しなさい。」

「はあっ!?なんで私が―――――――」

妹紅が喚くが、レミリアは強い口調でいい放つ。

「あんたには【スタンド】が見えないんでしょ?私は上空の【シアーハートアタック】を狙うから、あんたはヤツの【左腕】を破壊しなさい。私には……それができないから。」

レミリアの弁明を聞き、妹紅も要求を呑んだ。

「……分かった、私が吉影の【左腕】にとり憑いている【何か】を焼き払えばいいんだな?」

右手のひらから焔を出し、妹紅は吉影を睨む。吉影は境内を走りながら、こちらの様子を窺っていた。

「いきなり気絶させられたり、クッション代わりにされたりした件については、今は保留しておいてやる。」

妹紅の瞳に、【漆黒の焔】が映った。

「―――――――合図と同時に、私が弾幕を撃つわ。それと同時にあんたは急降下して、火炎で視界を遮ってヤツの【弾幕】を封じ、【左腕】を狙う。

美鈴、あなたは咲夜を連れて離れ、その娘を治療なさい。

私は【グングニル】で【シアーハートアタック】を叩く……異存は無いわね?」

「ああ、了解だ。」

「……かしこまりました。」

三人の双眸が吉影の姿を捉えた。

 

「GOッ!!」

散開し、美鈴は咲夜を抱えて森の中へと高度を落とす。妹紅は火炎の翼を展開して急襲の時を待つ。レミリアは両手の平を吉影に向けて、全身から集束させたみなぎる魔力を一気に放出した。

「ええぇぇぇいっ!!」

『レッドマジック』から遊び心を抜いたような、情け容赦のない紅い大玉弾幕が境内に降り注いだ!

 

――――だが……

 

♪BGM MELL 『Red fraction』

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

九天より流れ落ちる深紅の滝のごとき弾雨は、さながら滝水が空中で靄になるかのように瞬きする間に雲散霧消してしまった。

「なっ――――――!?」

予想外の事態に、レミリアは言葉を失った。妹紅も愕然と目を見開き、暫し呼吸を忘れていた。

煙が晴れ、吉影の姿が露になった。

自分の身長程もある銃を【キラークイーン】の腕で構え、吉影は顔を上げた。

「―――――――発射速度485-635発/分………銃口初速887.1m/s…

有効射程2000m、銃口威力(マズルエナジー)10000-13000Feet・Pound、

全長1645mm、重量38.1kg……

12.7×99mmNATO弾、

【ブローニングM2重機関銃】!

パーフェクトだ輝之輔!!」

口角を吊り上げ、歯を剥き出しにする凶悪な笑みを浮かべ、吉影は二人を見上げたのだった。

【12.7mmM2重機関銃】―――――――

アメリカ合衆国の連邦火器法において規制対象外の銃火器で同弾薬を使用する銃は最も威力が高く、アメリカ国内ではその精度の高さと射程距離の長さから長距離狙撃を愛好する人々の間で人気である。

その威力は弾丸がかすっただけで手脚なら吹っ飛び、軽車両をぶち抜く。

その滅茶苦茶な破壊力に御丁寧にも【Grip & Break down !!】の【爆発力】まで付け加えたのだ、幾ら幻想郷屈指の最強種である吸血鬼でも、分が悪いというものだろう。

 

ジャギンッ!!

【キラークイーン】が【12.7mmM2重機関銃】の銃口をレミリアに向け、引き金を引いた。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――ッ!!

轟音をあげ、毎秒十発もの弾丸がレミリア目掛けて放たれた。

余りに圧倒的な【力】を目の当たりにし、【計画】が一瞬で頓挫した衝撃で思考が停滞していたレミリアに、傷付いた翼で逃げる時間は残されていなかった。

「くっ…!!」

眼前の脅威に集中し、紅い防壁を作り身を護る。

ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

「っ……!くっ……!!」

防壁が嵐のごとき弾丸に耐えきれず、悲鳴を上げる。さらに、

ドドドドドドォォン!!

【Grip & Break down !!】によって【爆弾】にされた銃弾が着弾と同時に爆裂し、魔力の壁を蝕んでいく。

「(なっ…なんてパワーなの……!?一発一発が【グングニル】並み…!!これが【外の兵器】っ……!!)」

歯を食い縛り、全身全霊を籠め弾丸を受け止める。

 

――ビキッ―――ビシッ――

無敵の堅牢さを誇る筈の防御壁は、一発着弾するごとに皸が入り、欠け、綻びが生じるが、魔力を最大出力にしてギリギリ持ちこたえた。

 

耳をつんざくような連続破裂音が木霊し、マズルフラッシュが木々の葉を瞬間の陰影で彩る。

「フハハハハハハハハハハ―――――――ッ!!!!」

哄笑を上げ、【12.7mmM2重機関銃】をぶっぱなし吉影は大声で叫ぶ。

「どおぉぉぉだッ!これが【人類の力】だ!【外の科学】と【神の御技】の融合だ!!」

【キラークイーン】に銃身とグリップを持たせ、自分は弾薬帯に指で触れて弾に【Grip & Break down !!】の【部品(ピン)】を付けていく。弾薬帯は銃身に呑み込まれると、撃鉄に雷管を叩かれ弾丸が発射される。その瞬間弾丸が薬莢から離れ【部品(ピン)】が弾け飛び、【点火】される。

弾丸は銃身内のライフリングによって回転運動し、レミリアの【防壁】に激突する。そしてその瞬間、【時限爆弾】が作動し炸裂するのだ。

「うおおおおおおおおォォォォォォォォォォ―――――――ッ!!」

妹紅が炎の翼で空を打ち、吉影に向かって急降下する。

「せええぇぇぇぇい!!」

レミリアから視線を逸らさない吉影目掛け、雄叫びと共に爆炎を撃ち込もうとした。

…だが……

グニュッ!

「っ!?」

突然空中で柔らかい何かにぶつかり、

ドグオォォォォッ!

爆発が生じ、捲き込まれた。

「ぐうっ!?」

爆圧に右肩を抉られた衝撃で、妹紅の手元が狂う。

人の身の丈程もある炎弾は狙いを逸れ、吉影の数メートル横に着弾した。

着弾した瞬間、炎弾は地響きを起こすほどの轟音をあげ爆発した。

だが、爆炎は吉影を呑み込むことは無く、【見えない壁】に阻まれるように彼に到達しなかった。

「ぐうっ……?なにが……」

妹紅が体勢を立て直そうと翼を振るった時、またグニュリと柔らかい何かに翼が引っ掛かった。そして、

ドグオォォッ!

爆発が発生して、翼が吹き千切られた。

「なぁっ―――――――!?」

妹紅がさらにバランスを失い、慌てて姿勢を制御しようとするのを、吉影は高笑いして見上げる。

「わたしが何もせずにただ走り回っていたと思ったか?貴様らが無意味な作戦会議をしている間に、【ストレイ・キャット】の【空気弾】と【Grip & Break down !!】の罠を密かに張り巡らしていたのだよ………」

「ギャアァァァァァ―――――――ス!」

【キラークイーン】の【腹部空間】で、【ストレイ・キャット】が咆哮する。

彼の身体からは、先程吉影を爆炎から保護した長く力強い【見えない手】が伸びていた。

【見えない手】は極小の【空気弾】を無数に縄状に繋げた【泡】で構成されており、半径五メートルほどならしなやかで俊敏な動作でパワフルに操ることができ、さらに【カーズ】が溶岩から身を守った【泡状プロテクター】のように熱を遮断し肉体を保護する。【満月の光】によるスタンド能力の成長と、吉影の頭の回転の良さが生み出した新たな【武器】である。

 

「ぐうぅ……っ!(くそっ!いったい何が爆発したんだ!?)」

妹紅は危険を察知し、一度離れようとした。だが、

グニュゥ―――ッ!

「っ!?」

翼を大きく打ち下ろし後退しようとした時、また翼が【何か】に引っ掛かった。そして、

ドグオォォォォ!

「ぐああぁっ!」

【何か】が爆炎を噴き上げ、妹紅の翼をもぎ取った。

「(くそぉっ!何故【爆弾】が見えないんだ!?)」

妹紅は焦燥を露にして辺りを見渡す。が、何も目に入らなかった。

境内上空、彼女を包囲し空間を埋め尽くす無数の【空気弾】に付けられた【部品(ピン)】が、カチコチと音をたてていた。

 

 

 

――――――――――――――

「―――――――ハア――――ハァ―ッ――ハッ―――――

――――はッ!!」

咲夜を抱え森の中へと逃げ込もうとした美鈴は、何かに気付き慌てて踏み留まった。

「こ…!?これは…………!?」

美鈴は愕然と目を見開き、森の中を見た。

【部品(ピン)】を取り付けた【空気弾】が、森への侵入を阻むようにところ狭しとひしめき合っていた。

 

 

 

「ぐっ……ううう……っ!!」

全身の魔力、全神経を手のひらに集中させ、レミリアは【12.7×99mmNATO弾】から身を護る。

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

紅い防壁は鉄の暴風雨と【Grip & Break down !!】の爆圧に耐えきれず、ビキビキとひび割れ、今にも破られようとしている。

「うわあああああァァァァ―――――――ッ!!」

レミリアは叫び声をあげ、全力を持って防壁を強化&修復し弾丸を受け止めていた。

と、あれほど五月蝿く轟いていた発射音がピタと止んだ。

「ハァっ―――ハッ――――、っ?」

肩で息をして、レミリアは吉影の様子を見る。

「…チッ、弾切れか。」

吉影は【12.7mmM2重機関銃】を放り出すと、胸ポケットから【紙】を抜いた。

「(【時間切れ】のようね…!!)」

限界ギリギリのところで攻撃が中断され、危なかった、と一息吐く間も無くレミリアは上空を見上げる。

キュラキュラキュラ―――――――

博霊神社上空、満月の夜空を、【シアーハートアタック】が沈黙を保ちゆっくりと弧を描いて旋回している。

「(チャンスは今っ!今しかないわ!!)」

レミリアは底をつきかけている魔力を振り絞り、【グングニル】を構築する。

左手に深紅の槍を握り、全身を大きく弓なりに反らせ、振りかぶる。左腕がミギミギと膨張し音をたてて軋む。

「えぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」

ヴォォォォンッ!!

限界まで溜めた力を一気に解き放ち、【グングニル】を投擲した。

【グングニル】は轟音をあげながら、音にも迫る早さで【シアーハートアタック】へと飛翔する。

【グングニル】が、【シアーハートアタック】を貫いた。

「(っ!やった!倒した―――――――)」

レミリアが歓喜に胸を踊らせたのも束の間、

ヒュウゥゥゥゥゥ―――――――ン

………【グングニル】は【シアーハートアタック】を【透過】し、遥か空の彼方へと飛び去って行った。

「えっ!?」

レミリアが仰天し、吉影を振り返る。

吉影の【左手】には、掠り傷一つついていなかった。

「ふん、【シアーハートアタック】を狙いに来たか……

確かに、【Bites The Dust -Channel to 0- (地獄へ道連れ 世は神次第)】は【シアーハートアタック】が【発動】の要ではあるが、だからと言ってそれを【弱点】などとは言ったりしない。わたしの身体でもっとも頑丈なうえ、スタンドであるが故に美鈴の【気功】しか通用しない。そのうえ、【シアーハートアタック】と【マンダム】は『何もしない』故に【無敵】……美鈴の【気】も今ではおそるるに足らない!

倒すには、本体であるこのわたしを叩くしかないが……ヤツもその事には気付いているはず。それでも【シアーハートアタック】を攻撃しようとしたという事は………

おおかた、わたしの【左腕】にいらっしゃる【あの御方】に恐れをなして、面と向き合うこともできないのだろう……フフフ…やはり【運命】は、【この世で最大のパワー】は、このわたしに味方してくれるのだ………」

吉影はほくそ笑み、【紙】を広げようとした。

ドグオォォォッ!

「ぐあぁっ!?」

至近距離での爆発に、妹紅は身を引いて回避する。だが、

グニュッ

背中が【何か】に触れ、反発力に押し返される。

「っ!?やばっ―――――――」

ドグオォォォォン!

背後から爆炎に背中を抉られた。

「ぐおぉあぁぁっ!」

痛みと衝撃に妹紅は悲鳴をあげる。左肩と右足首、脇腹の焼き閉じた傷口がぼろぼろと崩れ、また血が噴き出してくる。

「くそっ!なんだってんだ!?攻撃どころじゃないぞ…!」

妹紅はその場に留まっているので精一杯で、吉影への攻撃ができずにいる。

と、その時、突然紅い気体が発生し、辺りに充満した。

「ううっ!?」

妹紅は慌てて口と鼻を塞ぐが、

「安心なさい蓬莱人、私の霧よ。」

レミリアの声に、妹紅は彼女を仰ぎ見る。

「おい、どうしたんだ!?【シアーハートアタック】ってのをお前が倒す算段だっただろ!」

「失敗よ!ヤツを倒すには、やっぱり本体を叩くしかないわ!」

レミリアは姿を保ったまま身体を【霧】に変化させ、吉影に向かって降りて行く。

「まっ待て!近付くのはマズイ!【見えない爆弾】がそこらじゅうに散らばってるんだ!!」

妹紅が警告するが、レミリアは構わず降りて来る。

「いいえ、『見える』わ。辺りを見なさい。」

「はっ!?」

妹紅が辺りを見渡すと、【紅い霧】の中、透明な球が無数に浮かんでいた。

「【空気の弾】よ、あの【猫草】がばら撒いた…

そして貴方には見えないでしょうけど、そのうち半分は【Grip & Break down !!】っていう爆弾能力付きよ。他の物に触れると起爆する。それが【ルール】……!まるで【地雷】のように、その【部品(ピン)】が空中に弾け飛ぶ!そして【空気弾】は爆発するのよ…!!」

レミリアはあくまで視線を吉影から逸らさずに妹紅に説明する。

「そして【部品(ピン)】のついていない通常の【空気弾】は、燃やしても殴っても潰れずに向かって来るわ。

だから…………」

レミリアは魔力の消費をできるだけ抑え、自分の周りに小さな紅い槍を作り出し、発射した。

ドドドドグオォォォン!

ミニチュア【グングニル】が刺さった【空気弾】はあるものは爆裂し、あるものは萎み消滅する。

「こうやって刃物を飛ばせば、関係なく破壊できるわ!

これだけの高密度弾幕、ヤツ自身迂闊に【見えない弾幕】を撃ったり、動いたりはできないはず…!

目標はあくまでもヤツに狙いを絞って、その途中の邪魔な【空気弾】を撃墜していくのよ。」

レミリアがさらに鋭利な弾幕を放つと、【空気弾】が爆炎を発し減っていく。

「よぉし分かった!」

妹紅も炎の両翼から実体化させた鋭利な炎の羽を発射する。

ドドドドォォォォッ!!

炎の羽が刺さった【空気弾】が爆発し、萎み、消えていく。と、

スパッ――――――

一発の【空気弾】が炎の羽が命中し、二つに切断され向かって来た。

「なっ!?」

ドグオォォォォ!!

慌てて身を捩り離れた瞬間、分裂した【空気弾】が同時に爆発した。

「うぐうぅっ!?」

炎の翼を盾に身を守る。が、物凄いパワーで押し切られ熱が身体を焼く。

「ぐおおォォォ!

なんだコイツ!?切ったのに追って来やがった!!」

「ヤツの【爆弾】には幾つか種類があるわ!何発も撃てて触れると爆発する【Grip & Break down !!】と、一発だけ発射できてスイッチを押すまでは切っても突いても起爆も消滅もしない【キラークイーン】の二種類!【キラークイーン】は威力が桁違いなうえ、切るまでは普通の【空気弾】と見分けがつかないから気を付けて!」

「絶対に消えない爆弾……?『あの時』家ごと爆破された時、煙にまとわりつかれて動けなかったのはそのせいか……!」

レミリアが妹紅に叫んだ時だった。

「っ!!」

吉影が【紙】を開き、腕程の長さの赤い円柱に黒いホースの付いた物を抜き取ると、ホースを二人に向けた。

それを見て、二人は上昇し空へ逃げようとする。

ブシュウゥゥゥ―――――――

吉影の握る【消火器】のホースから、白い粉が煙となって噴出した。

煙はレミリアの【紅い霧】を呑み込み、二人に迫って来る。

「なんだ、煙幕か?しかしなんで……」

妹紅が止まって煙を観察していた時、

「っ!!

早く離れなさい!【爆弾】よ!」

レミリアが発見した。白煙に【Grip & Break down !!】の【部品(ピン)】がびっしり付けられているのを。

【空気弾】に触れ、白煙の【部品(ピン)】が軽い音とともに次々と弾け飛ぶ。

ドグオオオオォォォォォォォォォォンッ!!

充満した白煙が爆発し、激烈な衝撃波が境内上空に吹き荒れる。

「うおおおおおォォォォォォッ!!!?」

間一髪逃げた妹紅が爆圧に吹き飛ばされた。

空中でブレーキを掛け踏み留まり、妹紅はレミリアの横に並ぶ。

「あ、危なかった……」

もうもうと土煙の立ち込める眼下の様子を見て、妹紅は安堵する。捲き込まれていたなら、いくら蓬莱人とて魂ごと木っ端微塵だっただろう。

「火炎放射器ならぬ爆炎放射器ってわけね……よくもこれだけ色々思い付くものだわ。」

レミリア、妹紅の二人は眼光鋭く身構える。

「どうする?土煙でお互い姿が見えない今がチャンスか?

だが、今さっきヤツに焔をぶつけてやったが、手前で止められちまった。多分【空気の壁】とかだろうが……」

妹紅が一斉攻撃の機をレミリアに伺う。

「…そうね……確かにこの煙幕、空を飛べて無差別に弾幕を張れる私達の方が有利……

でも、ヤツの【見えない弾幕】の発射タイミングも分からないし、これほど濃い煙だと【紅い霧】のように【空気弾】を察知する手掛かりにもならないわ。

しかも、この土煙をヤツが【爆弾】に変える可能性もある……案外、これがヤツの狙いなのかも……」

レミリアが慎重に熟考する。

「…なんにせよ、このまま私達が手をこまねいている間にも、吉影のヤツは更なる策を巡らしているのは確実だ。」

妹紅が目を真下に目を落とし、左肩と右足首、脇腹の傷を焼き閉じると、

「一発試しに放り込んでみるべきだろ。」

右手に焔を出し、土煙の中に発射しようとした時だった。

「あっ!?」

土煙が揺らぎ、中から一発の【空気弾】が現れた。

「来たわ!」

レミリアが紅い刃を投げ付けた。

スパッ―――――――

【空気弾】は二つに切れ、萎まず向かって来る。

「【キラークイーン】の【爆弾】よ!」

ザッと二人が後退り、身構える。

「どうする?どうやってコイツを止める!?」

「ヤツが起爆するか解除するかしない限り止まらないわ。」

レミリアは唇を噛み土煙を覗き込む。

「くっ…全く見えない……本体を叩くのは無理そうね……」

「うおおおおおおおおおおお!!」

妹紅は気合いの叫びをあげ、炎の箱に【空気弾】を閉じ込める。だが、【空気弾】はグニャグニャと形を変えスルリと箱から脱け出し、また襲って来た。

「くそっ、やっぱ駄目だ!本体を狙うぞ!!」

妹紅、レミリアは【空気弾】から離れ、土煙の中に絨毯爆撃を掛けようとした時!

ブワァッ―――――――

「「っ!!!?」」

二人の背後、上空で、吉影がショットガンを二人の背中に向けた。

ガアァン!

一つだけの銃口から発射された散弾を、二人は咄嗟に回避した。

ドグオォォ!

散弾が空中で爆発し、二人に焔が降り掛かる。

「ううっ…!?」

「あつっ!?」

レミリア、妹紅は焔を振り払い、お互い逆方向に散って逃げる。

「ちくしょう!なんだ!?なんでアイツ飛んでるんだ!?」

妹紅は右手から炎の弾幕を放つ。

「空を飛ぶなんて事はゴキブリにだってできることだ!嘗めるなッ!!」

吉影の背後では【キラークイーン】が【ストレイ・キャット】の【真空バルーン】に左手で掴まっていた。【真空】はゼロ質量、現代の科学で可能な範囲では最も軽い。大人一人と猫、銃器を腹に満載したスタンドを一瞬で空に運ぶことなど朝飯前なのだろう。

吉影が迫り来る炎の弾幕に銃口を向け、引き金を引いた。

スダァン!

銃声と共に炎の弾幕は爆発と相殺される。

「なによあれは!あのタイプは一発しか撃てないんじゃなかったの!?」

レミリアは上空からの狙い撃ちを避けるよう土煙の上を低空飛行しながら、吉影に弾幕を浴びせる。

バシバシバシッ!

【空気の手】が弾幕を受け止め、吉影はショットガンの排莢・装填を済ませ、次弾発射に備える。

【レミントンM870】―――――――

ポンプアクション式ショットガン。装弾数4発。海上保安庁の装備であり、日本の鉄砲店でも割りと見掛けることができる。

入手経路―――輝之介が一晩でやってくれました。

 

ダン!ダン!

更に二発妹紅に向けて撃つ。

「くそぉっ!」

急加速し一発目は避けたが、軌道を先読みして撃たれた二発目は避けきれなかった。【Grip & Break down !!】の爆風が彼女を襲う。

「うおおぉっ!」

頭上から襲って来た爆圧を受け、妹紅はガクリと高度を落とす。

「はっ!?」

土煙が迫って来て、妹紅はその中から幾つも【空気弾】が浮いて出て来るのを見た。

「でえぇぇぇい!」

【Grip & Break down !!】か通常の【空気弾】だと思い、妹紅は炎の羽を乱射した。だが――――――

スパッ

【空気弾】は萎んだり爆発したりすることなく、サックリ二つに別れ止まらずに昇って来た。

「えっ―――――――」

 

 

 

二人を上空から【レミントンM870】で狙撃し下へと追いやると、吉影は口角を吊り上げ笑った。

【キラークイーン】の右手には、遠目からでは決してその存在に気付かないだろうほど細く透明な【糸】が握られていた。

「【キラークイーン】、着火だ。」

【キラークイーン】が右手のスイッチを押した。

ボッ

【糸】が発火し、火は【某焔の錬金術師】の技のようにチッチッチッ―――――と音をたて【糸】を高速で伝わって行く。火は枝分かれを繰り返し土煙の中へと伸びる【糸】の上を駆け抜け、その終点、無数の【空気弾】に到達した。

カッ!!

妹紅とレミリアの足下、雷光のごとき眩い閃きが放たれた刹那、

ドドドドドドドドドドドドドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!!!!!!

天が崩壊し雪崩れ落ちるかのような激烈な轟音と地鳴りを響かせて、博霊神社境内は一瞬に爆風と業火に呑み込まれた。

 

 

 

 

――――――――――――――

―――――――

「くっ……!」

美鈴は咲夜を左腕で抱え、右手で自身の長く鮮やかな長髪を抜いた。【気】を流し込み、髪は鋭利な針と化した。

「【空気】なら…これで突けば……!」

美鈴が行く手を阻む【空気弾】に【髪針】を投げようとした時、

ボゴオォッ!

「―――――――え……?」

美鈴の脇腹に、何の予兆も無く大穴があいた。

「なっ――また―――――、かはっ!?」

美鈴が口から血を吐き出す。

「ぐっ……ううっ…………」

ボダボダと血を流しながらも、顔を上げ【空気弾】を睨む。

その瞳に屈服の色は無く、ただ使命感と忠誠の心がダイヤモンドのごとき輝きを放っていた。

「私が………私が…咲夜さんを……助けないと………」

ドドドドドドドドドドドドドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!!!!!!

背後に絶望的なまでの爆発音と爆圧を感じるが、彼女は振り返らない。主なら心配いらない。自分に課せられた【指令】を全うするのみだ。

【空気弾】を狙い、髪針を投げた。

 

 

 

オオオォォォォォォォォ―――――――

一陣の風が、立ち込める土煙を吹きさらっていく。

―――――――スタッ

吉影は着地し、立ち上がると、【レミントンM870】を【キラークイーン】の腹に放り込み、【モシン・ナガン】を握り、上空を見上げた。

「―――――――……ぐ……ううう………う……ハァ………ハッ………」

吉影の視線の先、レミリアは蒼白い表情で彼を睨み返していた。

ボダ――――ボダ―――――

レミリアは余裕綽々と見上げる吉影を注視しながら、腹の傷を押さえようとした。

スッ―――――

「―――――――?」

腹部に添えたつもりの右手は、空を切った。

不思議に思い、ごく自然に目を落とす。

――――――彼女の腰から下は、跡形も無かった。

吹き飛んだ足の代わりに胴体からぶら下がっているのは、焼け焦げ爛れ落ちる自身の臓物だった。

「―――――――え?」

コポッ…と、口から血が溢れる。ビタビタと粘っこい水音をたて、鮮血と内臓が石畳に落下し、叩きつけられて飛沫を上げた。

 

「―――――――わたしは……知っている……」

吉影は【モシン・ナガン】に弾丸を籠め、【キラークイーン】に構えさせる。

「吸血鬼は……下半身が吹っ飛んだ程度では致命傷には至らない……頭以外が残らず無くなっても、翌日には再生しているのだからな………」

【モシン・ナガン】の銃口を上空に向け、引き金に指を掛ける。

「……だが……………、

君には生きていてもらった方が都合が良い……」

【キラークイーン】が【モシン・ナガン】をグンと振り、レミリアから照準を外す。吉影の視線の先には、宙に浮かぶ炎の渦があった。

「お前が爆圧に捲き込まれる寸前、自分を焼き尽くして凌いだのを上空から確認した。まずはお前からだ…『死んでもいい』からな…!」

炎の渦は圧縮され、人の形を為した。

「今度こそ死んでもらうッ!!」

ズダアァン!

【キラークイーン】が引き金を引いた。

「お前がなッ!!」

吉影の背後に火炎の竜巻が吹き荒れ、妹紅が現れた。

「なッ!!――――――」

【炎の分身】に気をとられていた吉影が驚愕し振り返ろうとする。

「遅いわァァァァ―――――――っ!!」

右手に凝縮した火焔を、吉影の【左腕】目掛けてぶっ放そうとした。

―――――――ゾォッ―――――――

「(―――――――ッッ!!)」

視界の中央に捉えた【左腕】、その内部、【得体の知れない何者か】の脈動が、波動となって妹紅の魂を震わせた。

 

 

 

山道を先行し降りていく無防備な男の背中

 

緊張に脈打つ胸

 

ダッと駆け出し力一杯背中を蹴り飛ばす

 

男は驚くほど抵抗無く人形のように前のめりに倒れていく

 

男は呆気なく落ち視界から消えた

 

息を荒げ壺に手を突っ込む

 

手のひらの錠剤を見下ろし、生唾を飲み込むと、一気に口に含み飲み下した

 

 

 

――――――――――――――

忌まわしい【罪の記憶】が、爆風のように彼女の脳裏を駆け抜けた。

どうしようも無く黒い閃光が、雷光のように彼女の全生涯を照した。

「―――――――ッ

うわああああァァァァァァァァァァァァ―――――――ッ!!!!」

本能が発する警告音に、妹紅は間一髪のところで狙いを逸らした。

右手から迸る爆炎が、反応する間も無く吉影の全身を消し炭にした。

ゴトッ―――――――

残された【左腕】だけが、境内の石畳に落ちた。

「―ハァ――ッ―――ハァ――!――――ハッ――――ハァ―――――」

妹紅は一気に血の気の失せた表情で、【左腕】を見下ろした。

「(―――な――――なんだ……?さっきのは……!?私の息遣いも…鼓動も……!肌に感じる空気も……蹴った背中の感触も……っ!!【あの時】の感覚が!!まるで今さっき経験したばかりのようにっ!身体に残ってる……!)」

顔面蒼白の彼女は、ガチガチと歯を鳴らし自分を抱くようにして畏縮する。

「(そして―――――――【これ】は…!【こいつ】は!『怒っている』…!私の【罪】に…!あの男を殺したことじゃない…!【薬】を飲んだことに…自分の【神性】を!【絶対性】をっ!私が侵したことに怒ってる……!!【赦されざる罪】としてっ!)」

 

19:33:20―――――――

「――――――はっ!?」

妹紅の足下、彼女の目の前で、吉影の【左腕】が消えた。

「何をしてるのよっ!!【左腕】を狙いなさいと言ったでしょ!!」

上空でレミリアががなりたてる。

「んなこと分かってるわよ!でも…っ無理だって!【あんなもの】に【敵】だと思われたら……!!」

妹紅が空を仰ぎ怒鳴り返す。が、先程の衝撃を思いだし後半には声がすぼんでいった。

「くっ……!

…今はこんな口論してる場合じゃないわ!【復活】したヤツが【無傷】で何処かから狙っている筈よ!いいから飛びなさい、狙い撃ちされるわよ―――――――」

レミリアが叫んだ時、

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

音速の三倍の速さで飛来した弾丸が、妹紅の全身をトマトをミキサーに放り込むように一瞬で粉砕し、爆散させた。

「ああっ―――――――!!」

レミリアが目を見開き、絶句する。

0.2秒前まで妹紅だった肉片は、粉微塵に四散し石畳にぶち撒まけられた。

ドグオォォォ!

過ぎ去った弾丸は林に着弾し、爆発した。

「っ!!」

レミリアが身体を蝙蝠に分解し、身をかわした瞬間

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

極悪の弾丸の嵐が脇を掠め、蝙蝠数匹を潰すと、ほぼ同時に爆発した。

すぐ後ろで起こったいくつもの小爆発に、レミリアの蝙蝠の身体は吹き飛ばされる。

「ぐぅ……っ!?」

―――――――ザッ――

「―――――――【Bites The Dust -Channel to 0- (地獄へ道連れ 世は神次第)】―――――――」

レミリアが振り返った先、『林の陰、先程瞬間移動して現れた場所と同じ位置に』、吉影は立っていた。

「―――――――選択を誤ったな……【モシン・ナガン】を使っていれば【第一の爆弾】で確実に妹紅を亡き者にできたものを……『また【コイツ】を使える』からと、調子に乗ったのが仇だったか……」

【12.7×99mmNATO弾】の弾薬ベルトをたっぷりくわえ込んだ【12.7mmM2重機関銃】を【キラークイーン】に構えさせ、吉影はレミリアの蝙蝠が空に散っていくのを、【炎の渦】が幾つも現れ、人の姿を成すのを眺める。

「チッ……無駄に威圧し過ぎたせいで、奴らに【警戒心】を抱かせてしまった……幾ら『時間が無限にある』とは言え、長期戦に陥るとわたしの方が不利になる……」

舌打ちすると、しかし吉影はニヤリと悪魔じみた笑みを浮かべる。

「……まあ、それでもわたしには、圧倒的に有利な戦況なのだがな……【あの御方】が味方して下さっているのだから…」

【12.7mmM2重機関銃】の銃口を遠くに見える美鈴の背中に向け、引き金を引いた。

 

 

 

「―――――――っ!?」

【髪針】を投げようと投擲モーションに入っていた美鈴は、自身の『気を使う程度の能力』によって自分達に迫る脅威に真っ先に気付いた。

背中に向けられた【12.7mmM2重機関銃】の冷たい殺意、引き金に掛かる指。

「(間に合わ―――――――)」

軌道から身をかわす寸前、銃口から火花が迸り、弾丸が発射された。

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――――

 

 

 

――――――――――――――

「―――――――っ……?」

咲夜を抱き、背を丸め堅く目を瞑った美鈴は、自分の身体に無数の穴が穿たれていないことを不思議に思った。

恐る恐る目を開くと、自分がすらりとした腕に抱かれていることに気付く。

腕の先を目で辿ると、自分を抱く手の持ち主が彼女を見下ろしていた。

「…さ…咲夜……さん…!」

咲夜の腕の中で、美鈴が歓喜と安堵に涙を浮かべ、咲夜を見上げる。

十六夜咲夜は時を止めて弾丸を避け、【空気弾】を切り裂き、美鈴を抱えて林の中へ逃げ込んだのだ。

柔らかな微笑を漏らし、美鈴に眼差しを落とす。

「もう……あんなに強く抱き締められたら……苦しくって、嫌でも目が覚めるわよ……」

そう呟くと、咲夜は美鈴から腕を離した。

「あ、ありがとうございました!助かりました!」

咲夜に解放され、美鈴は残った左足を宙に下ろし、木の陰から吉影を睨む。

「咲夜さん、ヤツは強力な【銃】と、【空気を操る猫草】を持っています。あと、【得体の知れない能力】も……

ここは私たちに任せて、咲夜さんはご自身の安全を最優先しながら、木陰からサポートして下さ―――い――――?」

フッと美鈴が振り返った。

「…っ!?さっ咲夜さんっ!?」

咲夜は仰向けに地面に倒れ込んでいた。

「(くっ………【懐中時計】も無いのに………っ時間を…止めすぎたわ………)」

全身を疲労が襲い、指一本満足に動かせなかった。

「む………!?」

吉影は【12.7mmM2重機関銃】を乱射した瞬間、美鈴の姿が掻き消えたのを目撃した。同時に、そう遠く無い場所の【空気弾のフェンス】が爆発したのを見た。

「十六夜咲夜…か!くそっ…奴だけは優先して倒すつもりだったというのに……!

奴の【時を操る程度の能力】はこの上なく厄介だ……しかも勘も良い…頭も回る……!わたしの【Bites The Dust -Channel to 0-】の【秘密】に気付かれる前にッ!確実に葬らなくてはならないッ!!」

【キラークイーン】の腹に【12.7mmM2重機関銃】を突っ込むと、吉影は懐から【紙】を二枚取り出した。

「こんな時に呑気なことを言うが……子供の頃を思い出すなあぁ~……フフッ…よくこうやって遊んだものだ……」

【キラークイーン】が【紙】を折り、組み合わせ、瞬く間に【紙の手裏剣】を作った。

「【キラークイーン】ッ!」

【キラークイーン】が振りかぶり、【紙手裏剣】を上空に放り投げた。

「そろそろ【チェックメイト】といくか。」

ジャキッ―――――――

吉影は自分と【キラークイーン】を【ストレイ・キャット】の【空気の泡のドーム】で防護すると、自動拳銃を構え、【紙手裏剣】を撃ち抜いた。

 

 

――――――――――――――

「―――――――っ!!」

分裂した蝙蝠の視界の中、レミリアは、吉影が【12.7mmM2重機関銃】を発射した瞬間、美鈴たちの姿が消え、林の陰に彼女らが現れたのを確認した。

「(咲夜が意識を取り戻したのね…!良かった…!!)」

レミリアが安堵の溜め息を吐いた、その直後、

「(―――――――っ!?ああっ!咲夜……!!)」

咲夜がガクリと落ち、地面に倒れるのを見た。

「(【懐中時計】が無いのに無茶をしたのね……!どうしよう、このままだと二人とも……!)」

散らした蝙蝠を集合させ、変身を解除した時だった。

「(……っ!?)」

吉影が何かを空に投げ上げるのを視界の隅に捉え、身体を強張らせ身構える。

「(…………?なに…これ?手裏剣……?)」

【紙手裏剣】はレミリアからかなり離れた場所を飛び過ぎ、上空で減速し落下に転じようとする。

パンッ

最高点に達した瞬間、拳銃弾に撃ち抜かれた。

ドグオオォォォォォォ!!

一枚の【紙】に封印されていた【爆炎】が放出され、もう一枚の【紙】を焼き尽くした。

爆風が地表まで届き、林の木々を揺らす。

「(…?いったい何を………

っ!!)」

レミリアは、見た。【もう一枚の紙】の僅かな燃え粕から、おびただしい量の【水】が噴出するのを。

「(あの僅かな切れ端から、あれほどの水……!じゃあ…【残りの水】はいったい…『何処に行った』の……!?)」

ふと、ひんやりと涼しい風を感じレミリアは自分の身体に目を落とした。

【霧雨】を浴びたように、しっとりと濡れていた。

「……こ…これはっ!?まさかっ!!」

【恐るべき攻撃の正体】に気付いた時には、レミリアは絶叫していた。

「メイリィィィ―――――ンっ!!息を止めなさいッ!!早く【露】から逃げてッ!!」

叫ぶと同時に、体表から渾身の魔力を放ち【露】を払う。さらに最大出力で魔力の防護を張り、【見えない爆弾】を退ける。

「(あの男……なんてことを思い付くの……!)」

【紅い防壁】の中で、レミリアは戦慄する。

彼女は、ギリッと歯軋りし吉影を見下ろした。

彼は黒い微笑を浮かべ、レミリアと目を合わせる。

ゾォッ―――――――

蛇に睨まれた蛙のように、レミリアの全身を悪寒が駆け巡った。

彼の黒い宝石のような視線と、【左腕】の放つ波動が、幻想郷に並ぶ者のない高位悪魔である彼女を、心の底から震え上がらせる。

それは【正と邪】、【清と濁】【影と光】―――――――決して手を取り合うことの無い筈の、人間の底すら無いエネルギーが、人の形を為してそこに在るようだった。

同胞を喰らい尽くした【肉食の羊】が、【狼】を次なる獲物に定め牙を剥いたのだった。

「(この男はもう……!【人間】じゃない……【スタンド使い】…!!そして【魔帝】……!【魔帝】が味方しているッ!!)」

 

 

 

背後からの冷涼な突風、レミリアの絶叫を聞き、さらに【水】が【紙の燃え粕】から出て落下するのを見て、美鈴も瞬時に理解した。

自分の体の表面を【気】で覆いガードし、さらに吸った空気を残らず吐き出す。だが……

「(咲夜さんを……!どうすれば……!)」

考える時間が無い。美鈴は彼女のところに飛び、彼女を救おうとした。

―――――――間に合わなかった。

 

 

「………さて、もう【拡散】しただろう……何しろ【25mプール一杯分の水】を、一瞬で蒸発させたのだからな……【触れたもの】を爆破する【第一の爆弾】に変えて……」

 

【気化爆弾】―――――――【サーモバリック爆弾】とも呼ばれ、燃料を一瞬で気化させて【微小な爆弾】として撒き散らした後にそれらを爆発させることで、恐るべき破壊力を生む兵器。

【キラークイーン】の場合、爆圧や発生する熱は実際の【気化爆弾】には及ばないが、戦車やシェルターごと爆破するその破壊力は、通常の兵器における【破壊】の概念を塗り替えて全く新しい【境地】を切り開くだろう。

もっとも、当の本人にとってそんな【軍事的意味】は全く興味のないものだったが。

 

「着火しろ、【キラークイーン】」

【キラークイーン】は頷くと、右手のスイッチを押した。

カチッ―――――――

 

境内を越え、林の中奥深くまで拡散した【水蒸気】の分子一つ一つに、【キラークイーン】の人指し指から解き放たれた【破壊の目】が光の速さで帰って来た。【目】は水分子に飛び込むと、それが密着している物体の【目】に、『【キラークイーン】に押され加えられた【エネルギー】』を伝播させる。

水に触れていた物体の【目】は、【スタンドエネルギー】を受け激しく振動を始める。そして―――――――

 

ドドドドドドドドグォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――ッッ!!!!!!!!

 

樹が

林が

葉の一枚一枚が

鳥が

蟲が

石畳が

地面が

神社の残骸が

【爆発】した。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

――――――――――――――

「―――――――……………」

吉影が耳を塞いでいた指を離すと、辺りを見渡した。

周囲は完全な更地と化していた。何も無い。林も木の葉も神社の瓦礫も石畳も土も草も、影も形も無く消滅し、かつて博霊神社境内であった土地は巨大なクレーターに成り果てていた。

「……………………ム…?」

―――――――いや、『残ったもの』が、僅かだがあった。

「――ハァ―――――ハァ―――ハァ―ッ――

―――――――ハッ―――ハァッ―――――」

吉影の視線の先、レミリアは、クレーターの底に倒れ、幼い顔を鬼のように歪め彼を睨んでいた。

彼女の自慢の巨大な翼は、両方とも根本から抉られ塵となっていた。

ごぼっ―――――――

レミリアの口からドロドロとした液体のようなものがこぼれ、土に赤黒い染みをつける。【防壁】が爆発した爆圧によって、内臓が口と腰の断面から飛び出したのだ。

「――――ハッ―――ハァ――ッ―――ぐう――――ゴホッ―――ハア――」

美鈴は右手と膝を着き、苦しげに呻いていた。彼女の全身は爆風に耐えきれず、服の色が分からなくなるほど血にまみれていた。

「くっ――――うう―――う……」

美鈴は苦痛に喘ぎながらも、歯を食い縛り、顔を上げた。

「………………ハァッ…!」

血に濡れた美鈴の表情が、凍りついた。一瞬呼吸が止まり、愕然と両の瞳を見開く。数秒おいて、苦悶の呻きは悲哀の嗚咽に変わった。

「う………うう………うあああ………ああ…

うあああああああああああ…………………」

美鈴の慟哭を聞いて、レミリアも理解した。歯が砕けるほど強く食い縛り、まなじりを吊り上げ怨み骨髄とばかりに吉影に憤怒の視線を向ける。

「………………十六夜咲夜……彼女の姿が見えないということは………」

吉影は辺りを見回して、至って穏やかに口を開く。

「……【消滅】した………と、いうわけだな……わたしの仕業で………」

咲夜の姿も、服の一部さえ残っていないのを確認すると、吉影はレミリアに視線を落とす。

「わたしが咲夜を【消した】ことを知ったら……フランドール、彼女は悲しむだろうか………」

独り言のように呟き、レミリアの瞳を覗き込む。レミリアは言葉を返すことなく、深紅の双眸を怒りにさらに赤くして彼を睨み返した。

「…………レミリア・スカーレット………勝敗は決した。いくら吸血鬼とて、それほどの重傷……もう満足には闘えまい。美鈴も同様、既に満身創痍だ。

妹紅は……どうなったか知らない。が、彼女にわたしは倒せない。」

吉影は冷酷に、彼女に現実を叩きつけた。

「わたしの勝ちだ、レミリア。【闘い】は終わった。」

冷然と、一切の感情を表に出さず、倒れ伏すレミリアに告げた。

「……だが……何度も言うように、わたしの【目的】は君たちの抹殺などではない…」

一呼吸おいて、吉影は切り出した。

「…ここから先は……【取引】だ。わたしの【能力】で彼女――――十六夜咲夜を、生き返らせてあげよう。」

「……………!!」

レミリアがピクリと頭を震わせた。

「君には……分かる筈だ。わたしには【それ】ができる。勿論、復活させた後もわたしは彼女に手を出したりしない。【故意】であれ【自動的】であれ、君の従者に一切危害を加えない。君と美鈴の負傷も治そう。フランとの【契約】も破棄する。

……だから…わたしの【頼み】を聴いてほしい。そんな無理難題じゃあない…ただ、君の従者、親友、紅魔館の住民全員に、わたしを攻撃したり、わたしの【敵】に協力したりしないよう強く言いつけてほしい……わたしの傍にいて、わたしが助けを求めたり…わたしが危機に陥った時に……、相手に【わたしのこと】を教えてやってほしい。

それだけだ……それしか要求しない。君にも君の家族にも、指一本触れはしない。わたしはただ……五体満足で、何の悔恨もなく【この世界】を去りたい……それだけだ、わたしの【願い】は……」

レミリアの表情から、彼女の心の揺らぎが読み取れるようだった。レミリアの気持ちは、寵愛するメイドを失った虚無感と諦めの念、そして新たに差した一筋の光に揺れ動いていた。

「……もう一度思い出してくれ。そもそもわたしに【非】はあるのか、

誰がフランの心をほどいたのか、

わたしのささやかな【望み】と君の【願望】と、どちらが穏やかなものか、

そして―――――――わたしがどれほど穏便に【譲歩】しているのか。」

レミリアの目尻から涙の雫が流れ、土に落ちた。

「―――――――三秒だ…三秒数える。その間に【はい】か【いいえ】で答えろ。【いいえ】を選んだり、蝙蝠か霧に化けて逃げようとしたり、三秒経過したなら……」

吉影は懐から自動拳銃を抜き、レミリアに突きつけた。

「【爆弾】を君の眉間に撃ち込む。確実に君は全身灰塵と成り果てて死ぬだろう。」

【キラークイーン】が弾丸に触れ、【第一の爆弾】に変えた。

「……カウントを始める。3―――――――」

ズブシャッ

「―――――――………え?」

吉影は自分の右手を見た。

手首から先、拳銃を握っていた部分が無くなっていて、断面からはホースのようにダパダパと血が溢れ出ていた。

「なあッ…!?なにィッ!?妹紅か!?」

吉影が慌てふためき、辺りに視線を向けた時、

スパァンッ

彼を密かに防護していた【空気の泡の防壁】が割られ、吉影の喉笛が一文字に切り裂かれた。

「ぐ…はッ…!?」

ガグリ、吉影はくずおれ、喉の傷を押さえる。

「ば…馬鹿なッ!!こんな…!こんなことが………ッ!!」

吉影は呼吸困難に陥り、ガクガクと震えもがき苦しむ。

「【ストレイ・キャット】ォッ!!わたしを守れ―――――――」

ズバシャァッ

絶叫し口を開いたまま、吉影の頭部は胴と別れ、ドシャッと地面に転がった。

―――――――ドシャリ

首の断面から噴水のように鮮血を噴き出し、身体も前のめりに倒れ込み動かなくなった。

「―――――――こ………」

「……これ………は………」

レミリア、美鈴が顔を上げ、空を見上げた。

 

19:33:26―――――――

 

「―――――――くっ………!」

首と胴が吉影が別れ死んだ吉影は、その場に直立し【復活】した。

「お…………お前は…………ッ!!」

ワナワナと肩を震わせて、吉影は頭上の【彼女】を睨んだ。

「ふ~、どうやら間に合ったみたいですねー……」

【彼女】は咲夜を左腕に抱き抱え、【蘇生】した妹紅の隣に浮かび愉悦の溜め息を吐く。

「…私の新聞記者としての一番嫌いな言葉、ご存知ですか?

【現場検証】ですよ。事件の名残を掘り起こし底を漁って、山と積み上げ記事にする。美しさの欠片もない泥臭さ……私には堪えられませんね。」

バサッ―――――――

黒い翼を翻し、右手の扇を振りかざす。

「ネタの匂いを嗅いだなら!音の速さで突撃取材!

貴方の町の怪事件!残らず真相さらいましょう!!」

ビシィッ!

扇の先を吉影に突きつけ、朗らかな笑顔でハツラツと、【彼女】―――――――射命丸文は見栄を切った。

「清く正しい射命丸、推参っ!!」

 

 

 

♪ED COOL&CREATE『最速最高シャッターガール 』

 

 




第二十三話、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたなら幸いです。

オリジナル能力【Bites The Dust -Channel to 0-】の正体は
①【バイツァ・ダスト】と【マンダム】の合わせ技
②吉影の言った【並行世界】云々は、丸っきり嘘ではない。
③【復活】と【瞬間移動】の発動タイミングの違い、吉影の言動
などから推測して戴ければと思います。
オリジナル能力とは言えほとんど【マンダム】【バイツァ・ダスト】の原型を留めているのですが…いかがでしょうか?
オリジナル設定に嫌悪感を抱かれた方には申し訳ありません。

念のため言いますが、【Grip & Break down !!】はオエコモバの名前のないスタンドに勝手に名前をつけ、【遺体】の影響で吉影に発現させたものです。

次回、いよいよ紅魔館組&妹紅に射命丸を加え、吉影との全面対決が勃発します。
そして明かされる【Bites The Dust -Channel to 0-】の【能力】―――――――御期待下さい。
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