【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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第二十五話です。いよいよ最終決戦が始まります。
『起承転結』でいうところの『結』もようやく終わりに近づいてまいりました。
大変長くややこしい戦闘シーンですので、休憩を挟み読むのが苦痛にならない程度のペースで御読み下さい。最悪二十七話まで「キング・クリムソンッ!」して戴いても構いません。


第二十五話 吉良の世界―Last One Channel to 0― 後編

――――――――――――――――――――――――――――

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

 

『―――――――19:33:50(二度目)―――――――』

 

 

「―――――――ッッ!?!?」

 

ハッと頭上を仰ぎ見上げた咲夜の表情が、凍りついた。

「――――――あ……………ああ」

咲夜の唇から、嗚咽にも似た押し殺した叫びが漏れる。

 

空中に拡がる、おびただしい量の劇薬

宙に浮いた巨大な円筒形の容器の上、吉良吉影が、勝利の愉悦の笑みを浮かべ四人を見下ろしていた。

彼が乗っている【貯水タンク】は爆発寸前だった。

全体がヒビ割れ、その裂け目から爆炎が噴き出している。

―――――――そして、大きく吹き飛んだ部分から流れ出す膨大な水の落ちる先は―――――――

彼女の愛しい主、レミリア・スカーレットの脳天をもぎ取らんと、無色透明無害の魔手を伸ばしていた。

「―――――――お………………

お嬢様ああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッッ!?!?」

『時の止まった世界』の中、咲夜の絶叫のみが木霊した―――――――

 

 

 

~吉良吉影は静かに生き延びたい~

第二十五話『吉良の世界―Last One Channel to 0―』後編

 

 

OP 平沢進 『崇めよ我はTVなり』

 

 

 

「……あ………ああ…っ……

…あああぁぁぁぁ…………!」

咲夜は瞳を震わせ、頭上を見上げる。

殺人鬼の魔性に満ちた視線が、レミリア達を見下ろしていた。

さっきの【時間停止】と合わせて、既に三秒経過。

間もなく彼女自身が時の堰に縫い付けられ、身動きできなくなる。

そして咲夜が時の堰を切ったなら、その刹那膨大な清水が彼女の主の魔力をもぎ取るだろう。

無論、自分も、美鈴も、妹紅も、落下する薬品を浴びせられてしまう。

絶対絶命。

この状況にそれ以上似合う言葉なんて、ありはしなかった。

 

――――――だが、紅魔館随一の従者、悪魔の側近中の側近、十六夜咲夜の頭脳は、停止していなかった。

「(――――――落ち着いて……

落ち着くのよ……十六夜咲夜……!)」

彼女は、焦っていた。

混乱していた。

だが、『冷静でいよう』とする理性は残っていた。

「(お嬢様の身の安全…っ!

それは【最優先事項】っ!

でも…!この距離!この状況っ!

今をおいてコイツを仕留めるチャンスは…他に無いっ!)」

身を守ること、敵を撃滅すること。

追い詰められたこの状況でさえ、彼女の聡明な思考は両者をリスクの天秤にかける。

ナイフを投げれば仕留められるか?

否、【空気の防壁】で易々と防がれるだろう。

接近して直接ナイフを叩き込めば、仕留められるか?

否、薬品に阻まれてしまう。

そのために彼は撒いたのだ。

落下してくる脅威から逃れるため、横に逃げるか?

否、【貯水タンク】は今にも爆発しようとしている。

ギリギリ時を止めて移動できる程度の距離では、爆風を受け拡散する水飛沫からは逃れられない。

となると、残る手は――――――

 

「くぅ…っ!」

 

咲夜はナイフを抜き、身体を反転させると、

 

ドスッ

 

妹紅の心臓にナイフを突き立てた。

 

そしてナイフを引き抜き、上方に投げる。

 

ビタァッ

 

吉影の眼前に切っ先を向け、銀の刃は停止する。

さらに心臓に風穴のあいた妹紅の襟を、両手でむずと掴むと、

「えぇぇぇいっ!!」

腰の回転を利用し、力一杯投げ上げた。

 

ビタァッ

 

妹紅はナイフが通過した軌跡を辿り、薬品のカーテンを突っ切って、【空気の防壁】に阻まれたナイフの後ろで停止した。

 

「……はあ………

…ハァ………ハッ……

はぁっ……」

咲夜の額に汗が浮かぶ。

動悸と息苦しさがみるみる増していき、潜水服を着ているかのような重苦しさが彼女にのし掛かる。

【時の止まった世界】での活動限界が近付いてきたのだ。

だが、まだだ。

まだ解除するわけにいかない。

 

グッ

 

踵を返し、すぐさまレミリア、美鈴を抱えると、咲夜は全速力で降下して行った。

 

 

 

「――――――――――――ッ!?」

『時間を巻き戻し』、レミリア達が足下に現れるのを見下ろしていた吉影は、次の瞬間、眼前で起こった小爆発に驚かされた。

「(この爆発……恐らく十六夜咲夜のナイフ……!

まだ時を止められたとはな……

だがわたしの読み通り、レミリアを避難させたうえで、【劇薬】の幕を迂回してわたしに直接ナイフを突き立てる程の時間は、活動できなかったようだ――――――)」

爆発が治まり、視界が開けた瞬間、

「―――――――なぁッ!?」

彼の目に飛び込んで来たのは、瞳孔の開いた妹紅の顔だった。

【貯水タンク】が爆裂するのと、心臓を抉られ絶命した妹紅の亡骸が【リザレクション】するのは、同時だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

「――――――はっ!?」

レミリア、美鈴が気付いた時、彼女らは円陣を組んでいた位置の真下にいた。

頭上で轟音が轟き、爆炎が噴き上がる。

「えっ!?

こ、これは…!?」

「…くっ……失敗したようね……」

美鈴、レミリアは真上で起きた爆発を見上げ、射命丸文の【作戦】が失敗したことを悟る。

「――――――……!?」

と、その時、レミリアは気付いた。

自分の左肩に掛かっている【重み】に。

はっと息を呑み、レミリアは左肩に目を向けた。

「っ!

ああっ……!」

両目を見開き、レミリアは驚愕する。

彼女の目の先数センチのところに、虚ろな表情で彼女にもたれ掛かる咲夜の顔があった。

「さ、咲夜さん!?」

レミリアに寄り掛かり、ピクリとも動かない咲夜を見て、美鈴は大声で呼び掛ける。

「気を失っているわ…

きっと時を止め過ぎたのよ…私達を助けるために………」

咲夜を左腕に抱え、レミリアは再び頭上を睨み付ける。

 

ザザアァァァァ――――――

 

妹紅の【リザレクション】で蒸発し切らなかった水と薬品が、しかしその爆発で吹き飛ばされて、真下にいるレミリア達を避けるようにドーナツ状に拡がって降り注いだ。

「………妹紅は…この娘が【爆弾】代わりに使ったようね。

…文は?」

爆煙に紛れ見えない吉影の急襲に対抗できるよう、紅い魔力の防壁を展開しつつ、レミリアは辺りを見回す。

「――――――はぁっ……!?」

【それ】に気付き、美鈴は愕然として呼吸を乱す。

「お…お嬢様……!

そこです…っ!!」

美鈴がレミリアの背後を指差し、彼女は振り返る。

「っ!?

…えっ……?

うそ…、文……っ!?」

レミリアの双眸が混乱と焦燥に揺れる。

彼女の視線の先、射命丸文が、血まみれの姿でうつ伏せに倒れていた。

「そんな……!!あいつが……!」

常に飄々と抜け目なく暗躍する射命丸が、【パープル・ヘイズ】を食らった鴉のように無惨に打ち棄てられている。

その情景が信じられなかった。

「………止まっています……心臓も…肺も……

ヤツの【爆弾】を食らって、原型留めてるだけでも奇跡なんですから……多分……もう…」

黒い翼は二つとも吹き飛び、背中には断面が消し炭のように真っ黒に変色した大穴があいている。

彼女の背中に、妖怪や蓬莱人をも塵に還す極悪の【爆弾】が命中したことを、雄弁に物語っていた。

「――――――美鈴!

ヤツはどこにいるの!?」

余計な感傷を切り捨てるかのように射命丸に背を向け、レミリアは彼女に問う。

「……真上の爆煙の中です!

妹紅の【蘇生焔】に捲き込まれましたが軽傷、すぐ襲って来ます!」

二人は頭上に立ち込める爆煙を見上げ、戦闘態勢に入る。

「美鈴、貴女が先に攻撃なさい!

ヤツを探知できるあなたの方が【早い】…

ヤツの【爆破防壁】を解除した瞬間、私が貫通特化の【グングニル】を叩き込むわ!

ヤツを殺したら、貴女が【左腕】に【気】をお見舞いして!」

「了解っ!」

レミリアは【スピア・ザ・グングニル】を右手に構え、美鈴は【気】を研ぎ澄まし攻撃の機会を待つ。

 

ボシュウゥゥゥゥ――――――

 

「「っ!!」」

煙を突き破って、吉影が飛び出した。

【真空バルーン】に掴まって上空から二人を見下ろし、【重機関銃】を彼女達に向ける。

「今よッ!!」

レミリア、美鈴は一気に散開し、

「ええぇぇぇぇいっ!!」

「破っ!!」

満身の力を籠めて、一撃を放った。

 

 

 

「うおおォォォォォォ―――――――ッ!?!?」

目の前で妹紅の死体が爆発した瞬間、

「ギャアァァァァァァ―――――――スッ!!」

間一髪のところで【ストレイ・キャット】が、爆炎を空気ごと【固定】した。

「ぐぅあぁぁ……ッ!」

爆圧や火焔に直接呑まれはしなかったが、炎の熱を至近距離で浴び、吉影が顔を歪める。

「十六夜咲夜…ッ!

あの女ァ…!

【止まった時の中】で妹紅を殺して、【爆弾】のように……!!

なんてヤツだ…よくもあの状況で…!とんでもないことを思い付く……ッ!!」

射命丸が正体不明の攻撃で破れ、主の頭上に【瞬間移動】した吉影が【弱点】である水をぶち撒けてトドメを刺さんとしている。

常人なら混乱のあまり我を失うその絶体絶命の危機を、あのメイドはブッ飛んだ発想と冷酷さで凌いでみせた。

咲夜から【懐中時計】を奪取しておいて良かったと、吉影は心の底から痛感した。

「(咲夜の行動力から考えて、恐らくレミリア達はまだ無事だ…

時を止めていられる限度から考えて、そう遠くへは行っていまい。

大方、妹紅の爆風で安全圏となっている【真下】にいるだろう…

ヤツらがあの圧倒的な弾数で無差別攻撃を仕掛けて来ないのは…、ヤツらも現状の把握に手間取っているということだ。

転がっている射命丸の死体を見付けて、わたしの【能力】を推察しようとしているのかもしれない……

分かる筈ないがな…)」

現在自分の置かれている状況と、予想される相手の状態から、吉影は思考を巡らせる。

「(しかしすぐに体勢を立て直して、攻撃してきたら厄介だ…

向こうにはわたしを完璧に探知できる美鈴がいるうえ、弾数も無限、煙で視界を遮られているこちらは防戦一方を強いられる……

ならば―――――――ッ!)」

【空気弾】を作り、内部の圧縮空気を一気に噴出させる。

ロケットの要領で急加速し、吉影は立ち込める煙から脱出した。

「(先手を打つッ!)」

煙から飛び出し視界が開けた瞬間、煙の真下にいたレミリア達の姿を視認した。

「(やはりいたッ!)」

【キラークイーン】に【M2重機関銃】を構えさせ、三人に銃口を向けた。

その時、

 

ボンッ

パンパンパンッ

 

【空気の腕】に当たった【髪針】の一本が爆破され、残りが【空気の腕】を構成する小さな【空気弾】を弾けさせた。

「(なにィ!?

まッマズイ!

【先】なら良い!

どんな威力でも【爆破】できるならだ…!

だが【後】は駄目だッ!)

【キラークイーン】ッ!!」

吉影は【空気の腕】を再び【第一の爆弾】に変えようと、咄嗟に腕を伸ばす。

だが、レミリアは既に攻撃を終了しようとしていた。

 

 

 

「【スピア・ザ・グングニル】ッ!!」

美鈴の【髪針】が尖兵として【空気の防壁】に突っ込み塵と化した瞬間、レミリアは極限まで力を溜めた右肩を解放し、必殺の紅槍を吉影の顔面に命中させんと、全身の捻りを乗せて投擲した。

その時だった。

 

ズパァァン――――――

 

「(―――――――っえ……?)」

レミリアの左腕が、何の前触れもなく弾け飛んだ。

左腕に抱えていた咲夜の身体が宙へ投げ出され、驚愕とバランスの喪失により投擲モーションが著しく乱れる。

 

ドッシュウゥゥゥゥ――――ッ!!

 

何者をも貫き粉微塵にする極悪の紅い槍は、吉影のこめかみを掠め、後方の夜空に消えていった。

 

「(ま………また…………勝手に……?)」

レミリアは主人の行動を阻むがごとく吹き飛んだ左腕に目を落とし、そこから下方へと視線を移す。

「……っ!!」

レミリアは息を呑んだ。

彼女の足下、気を失っていたため受け身も取れず真っ逆さまに地面に叩きつけられた咲夜が、銀髪を赤く染め倒れていた。

 

 

 

「くっ……!!」

【空気の腕】を突き破り、【スピア・ザ・グングニル】がこめかみを掠め飛び去って行った後、吉影は唇を噛み締める。

「ぎ…ギリギリだった……!

もし【前の六秒】で、ヤツの左腕を撃ち抜いた【運命】が発現していなかったら……」

ドッと冷や汗が噴き出し、しかし同時に口角を歪め笑う。

「やはり【あの御方】は…!

このわたしに【味方】して下さっている!

この【御遺体】がわたしのもとにある限り、わたしの【勝利】は揺るがないッ!」

 

 

 

―――――――愉悦に浸る吉影の背後で、静かに炎がとぐろを巻いた。

炎は凝集し、人の形を成して、燃え上がる瞳で吉影の背中を睨む。

「(悪魔の狗…!

アイツ、よくもこの私を使い捨ての【爆弾】みたいに…!

…でも、文句は後にしてやる…!

今はただ……!!)」

炎が消え失せ、片腕片足の妹紅が姿を現した。

「(貴女が命懸けで作ったこのチャンスをっ!

ものにするッ!!)」

右手に火焔を集束させ、無防備な吉影の背中に向けて放った。

 

 

 

―――――――フッ……

 

「なぁっ!?」

完全に隙を突いて浴びせた爆炎は、唐突に急降下した吉影に呆気なく避けられた。

 

「ムッ……?

熱ッ!?」

突然落下する感覚を覚えた吉影は、直後頭上に熱を感じた。

見上げると、噴き上がる爆炎と、その後ろで彼を見下ろす妹紅の姿が見えた。

その手前では、穴があいた【真空バルーン】が勢いよく空気を吸い込んでいる。

「(背後で【蘇生】し、襲って来たのか…

まったく気付かなかった……【グングニル】で【真空バルーン】が破られ、浮力が落ちていなかったら危なかったな。)」

吉影は【真空バルーン】を切り離し、【キラークイーン】の脚で着地した。

辺りを瞬時に見回す。

咲夜は地面に倒れ込んだまま、頭から血を流し、ピクリとも動かない。

レミリアは咲夜を助けに向かおうと、吉影に背を向け矢のごとく急降下している。

美鈴は吉影の追撃を食い止めようと、こちらに向かい飛行して来ていた。

妹紅は頭上から吉影を仕留めようと、特大の火焔を掲げ投げ落とさんとしている。

状況を把握し、吉影は行動に出た。

幸い手は四本、猫の手も足りている。

このくらい捌き切れないことはない。

 

ジャキッ――――

 

【キラークイーン】が【M2重機関銃】を、動かない咲夜に向ける。

【ストレイ・キャット】が頭上から迫り来る火焔に備える。

吉影がリボルバー拳銃二丁を抜き、美鈴、妹紅に向ける。

 

爆炎が地表に落ち、銃口が煌めいた。

 

 

 

「ああっ……!?」

地に墜ちた咲夜を救出しようと全速力で降下していたレミリアは、背後に殺気を感じ振り返った。

吉良吉影が【重機関銃】の照準を、無抵抗のメイドに向けていた。

「(っっ!?!?)」

レミリアの心臓が跳ね上がり、彼女は急転換して地面に降りた。

銃口がマズルフラッシュで輝いた時、間一髪二人の間に割って入った。

紅い魔力の防壁を展開し、レミリアは身を挺して自分の最も寵愛する従者を庇う。

音の三倍の速度を誇る凶悪な弾丸が、毎秒十発という驚異的な連射性で襲い掛かる。

防壁に食い込んだ弾丸は、【Grip & Break down !!】の【部品(ピン)】が弾け、爆裂してガラスが割れるように綻びを拡げていく。

ギリギリと歯を喰い縛り、全身の魔力を振り絞ってレミリアは持ちこたえるが、既にボロボロの彼女は、もって数秒というところだった。

「(っ!!)」

汗が伝う彼女の顔に、驚きと希望の色が現れた。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――っ!!」

上空の妹紅が直下の吉影目掛け、特大の焔弾を撃ち下ろした。

近くを通り過ぎるだけで服が燃え上がるほどの強力な火炎が、吉影の脳天に迫り、

 

ガッシィィィ―――――ンンッ…

 

「…っ!?なにぃっ!?」

妹紅が両目を見開き、足下の光景を凝視する。

彼女の満身の力を込めた火焔は、吉影に到達する寸前で空中に縫い付けられ、炸裂することなく消滅した。

「(周りの空気ごと【固めた】ってのか?

なるほどな…あれで私の【リザレクション】を……!!)」

と、身動ぎもせず【キラークイーン】と【ストレイ・キャット】に攻防を任せていた吉影が、ついに動いた。

 

ジャカッ――――

 

両手に握る二丁のリボルバーの撃鉄を起こし、頭上の妹紅と正面の美鈴に向ける。

「…!」

「ちっ…!」

美鈴、妹紅は身を捻り、銃口の延長線上から身を退いた。

 

パンパンッ

 

軽い銃声が響き、二つの銃口から火花が散った。

次の瞬間、

 

ドグオォォ!!

 

「くぅっ!?」

「がはっ…!?」

美鈴の左腕、妹紅の左胸が、爆炎を噴いて弾けた。

「(な…なぜ……?

確実に避けたはず……!)」

ダメージの影響で高度を落とし、美鈴はガクリと膝を着く。

「(な…っにが……!?

おかしい…!

さっき撃ちまくっていた時は、全く当たらなかったのに…!)」

胸にあいた大穴から鮮烈に血を噴き出し、妹紅は力無く落下して、地面に叩きつけられた。

「(ぐ……っ!

ううっ………!

ま…マズイ……っ!

心臓を……っ…やられた…!!)」

おびただしい血液が流れ出し、みるみる血溜まりが広がっていく。

血流がストップし、急速に意識が薄れていく。

「(ぐ……あ…ああぁ……!!

…【リザレクション】―――――――!!)」

事切れると同時に、彼女の肉体は焔と化し消滅した。

炎は揺らぎ、集束すると、人の形をかたどり、妹紅が復活する。

だが―――――――

「……ぐうっ!?」

鮮血を迸らせ、妹紅はくずおれた。

「くっ……!

やはり…っ!!」

左胸に手を当てると、大量の血が泉のように溢れ出る傷が口を開いていた。

「(吉影の…『魂を破壊する【爆弾】』……っ!!

左腕や右足、脇腹と同じで……!!

『回復しない』……ッ!!!)」

心臓を丸ごと吹っ飛ばされた妹紅は、もはや数秒と意識を保っていられない。

死んだも同然だった。

倒れ込んだ妹紅は、霞がかっていく頭を、最期の力を振り絞って上げる。

死に逝く彼女を見下ろして、吉影は悠然と佇んでいた。

ギラリ、硝煙を吐き出す拳銃を突きつける吉影の双眸が、冷徹に光った。

「(………さっきの……あの爆発が………『【並行世界】からの攻撃』…っていう…ヤツだったの…か……?―――――――)」

ガクンと顔を落とし、妹紅は息絶えた。

 

 

 

「………………ようやっと『死んだ』か……蓬莱人……」

心臓を潰され死んだ妹紅を眺め、吉影は拳銃を下ろす。

「空砲で【空気弾】を撃ち出す【高速ステルス追尾弾】……発射後軌道を操り命中させた。

【第一の爆弾】を同時に使うために二等分して使用したから、威力に不安があったが……腕と心臓をぶっとばすには十分だったな……」

妹紅から美鈴、【キラークイーン】の猛攻を耐え忍んでいるレミリアと、視線を移していく。

「これで妹紅は無力化された。

復活した端から勝手に死んでくれるからな…

美鈴も片腕片足の満身創痍、もはや脅威ではない。

咲夜も今や倒れ伏すだけ……レミリアは転がっている部下を庇うことしかできない。

自身も下半身消失と内臓破損、両翼をもがれズタボロだ。

…だが左腕はもう回復したあたり、流石吸血鬼と言ったところか……」

と、吉影の目に、射命丸文の死体が映った。

「………そうだったな…

『殺した』んだった………完全に……」

吉影の口角がつり上がり、思わず笑みが洩れる。

「殺した瞬間は、その後の行動で手一杯であまり感じなかったが………

【安全】で落ち着いてくると……、クク…【実感】が湧いて来るなあ~~…」

『女性を殺した』

この感覚をどれほど待ち望んでいたことだろう。

心に満ちていく幸福感に、長い溜め息を吐く。

「なんと言うか……

気品に満ちた水というか…、例えるなら、アルプスのハープを弾く乙女が飲むような水と言うべきか…

3日間砂漠をうろついて初めて水を飲んだようだ……凄く爽やかだ……

清々しい!」

晩夏の蒸し暑さがスッと引いた、秋風が吹く丘の上で夕陽を眺めているような、目が冴えるような清涼感。

胸一杯に空気を吸い込むと、硝煙と血の臭いが金木犀の芳香に変わる。

【M2重機関銃】の銃声と【Grip & Break down !!】の炸裂音は、オーケストラの奏でる極上のBGMに昇華した。

 

そう、これこそが彼の【幸福】。

究極の嗜虐

極限の略奪

至福の征服

美しい女の命を、己の手で蹂躙し、冒涜し、使い棄てる。

これ以上の贅沢などありはしない。

これぞ背徳の味、悪徳の甘美。

これこそが彼が17の夜以来、15年以上焦がれ虜にされてきた、至上の【娯楽】だった。

 

それに復讐の法悦が加味され、倒錯に倒錯を重ねた極上のカタルシスが、麻薬のように彼の脳を振るわせる。

「クククク………

フハハハハハハハハ…………

なんて清々しい気持ちだ…!

歌でも一つ歌いたい、実に晴々とした気分だ!!」

染み渡る悦楽が、吉影の頭を隅々まで覚醒させる。

不安も嫌な思いも、纏めて吹き飛ばしてくれるようだった。

「クククククク………

本当は口にライフルを突っ込んで股間まで撃ち抜いてやりたいところだったが……

まあいい……この【幸福】を味わえたなら、そんな小さな怨み辛みは些末なことよ……

長かったなあ~~…この感覚を味わうまで……

妹紅を殺しても薄味で…ちっともイイ気分にはなれなかったからな……」

フウゥゥゥ~~~……、と、食後腹鼓を打っているような満足げな吐息を溢し、再び射命丸の亡骸を一瞥する。

「―――――――【あの御方】は…

『あなたの右の頬を打つ者があったら、左の頬も差し出せ』

と仰った。

ならばわたしは、本当にそうしなければならないのか?

いいや、その必要はない……

なぜなら【あの御方】自身、処刑の前に頬を打たれるところがあるが、もう一方の頬も差し出したとは書かれていないからだ。」

吉影はスッと手を挙げ、『撃ち方止め』の指示をする。

【キラークイーン】が引き金から指を離し、けたたましく続いていた銃声が止んだ。

シュウゥゥゥ……と、熱せられた銃身から湯気が立ち上った。

「……わたしは君たちに、酷い目に遭わされた。

だからわたしは君たちを、酷い目に遭わせてやるべきなんだ。」

踵を反し、振り返る。

 

―――――――ドシャッ

 

レミリアが腰から崩れ落ち、地べたに倒れ込んだ。

元々色白な顔はさらに蒼白になり、幼い小さな口は息も絶え絶えに激しく呼吸をしている。

防壁を破られかけた時、爆発に捲き込まれたのだろう。

彼女の両手は弾け飛び、煙が燻っていた。

そんなレミリアの向こうには、ピクリとも動かない咲夜の姿があった。

落下の衝撃で首を折って、もう死んでいるのかもしれない。

「お嬢様………っ!」

離れた位置で膝をつき、左腕の止血をしている美鈴が、焦燥に駆られ叫ぶ。

彼女自身も隻腕隻脚、脇腹に穴を穿たれ、傷だらけであった。

満身創痍の三人を見回して、吉影はレミリアに目を向けた。

「―――――――なあレミリア…

【強さ】というのには、3つの【U】が必要なんだ………」

射命丸を殺害したことで幸福感に満たされている吉影は、普段にもまして穏やかな口振りでレミリアに話し掛ける。

「【3つのU】だ……教えてやろう……

1つ目はな……【Unrivaled(無敵)】だ。

2つ目は【Unknown(正体不明)】……

そして3つ目は【Untouchable(不可蝕)】だ。

いいだろう?

強さの3つの【U】だ。」

柔らかい笑顔を浮かべ、吉影は彼女に語り掛ける。

レミリア、美鈴は地べたに這いつくばりながらも、なお敵意の失せない瞳で吉影を睨んでいる。

そんな二人を見下ろして、吉影はやれやれと肩を竦める。

「……実を言うとね…君たち五人の中で、君が一番なまっちょろいんだよ…レミリア・スカーレット…」

【キラークイーン】と【ストレイ・キャット】の警戒は怠らず、彼は小馬鹿にするような笑みを浮かべ、言葉を繋ぐ。

「君の従者…十六夜咲夜は、わたしが一度敗北を喫した者と同じ『能力』を持っている…

と、言っても…今では満足に使えないようだがね…

門番、美鈴は磨き抜かれた体術・技…【気功】を操り…そして唯一【スタンド】を完全に視覚出来る。

我が【キラークイーン】の天敵だ……

写命丸の『風の【能力】』と【カメラ】は【キラークイーン】にとって脅威…

妹紅の焔の妖術と絶対の不死性、己が身を焼き攻撃を受け流し、再生の火焔で敵を巻き込もうという【覚悟】は、厄介この上ない。」

「そして、君はどうだ?

鬼に比べ貧弱なパワー、

射命丸以下のスピード、

パチュリー・ノーレッジ未満の魔力、

美鈴に対しあまりにお粗末な格闘能力、

妹紅に劣る不死性、再生力、

十六夜咲夜のそれと違い無価値な能力、

博麗霊夢とは雲泥の差の戦闘センス……

そして……このわたしに、圧倒的に劣る、【精神力】、【判断力】、【運命力】、【覚悟】。

そういった中途半端な【長所】の寄せ集めでは、我が【BITE THE DUST -Channel to 0-】にはどう足掻こうが及ばない。

いくら【再生】しようと【霧化】しようと…我が【キラークイーン】の【爆弾】と『【並行世界】からの攻撃』の前では紙切れの甲冑だ。」

立て板に水を流すように話しながらレミリアの表情を確認するが、これほど侮辱されているにも関わらず、プライド高い彼女に変化は見受けられなかった。

ただ、変わらず殺意の籠った視線を向けているだけだ。

「…断言しよう、君にわたしにとっての【危険性】は、『無い』。」

はっきりと言い切った。

流石に怒りを覚えたのか、ギリッと金属的な音がレミリアの口から溢れる。

「だが…ならば何故先程から執拗に君を狙っているのか…?

…今この場にいるわたしの【敵の】中で、最も幻想郷において発言力を持つのは、君だからだ。

君がわたしに【味方】してくれたなら、あの博麗の巫女もわたしを甘く見はしまい。

君の【霧化】【変身】は魂ごと破壊する【第一の爆弾】の前では無力だが…『逃げる』ことを優先されては、いとも容易くそれを赦してしまうだろう…」

ここで吉影は、【腕時計】を確認した。

ズレを計算して、実際の時間は『19:33:56』、【六秒】経過している。

それを認識した後、彼は【キラークイーン】に【モシン・ナガン】―ボルトアクションライフル―を構えさせ、照準をレミリアの額に合わせた。

「「っ……!!」」

レミリア、美鈴の表情が強張り、身体が緊張するが、吉影は右手を振って殺意が無いことを表現する。

「だから、だ……

いいか……これが本当に最後だ。

【取引】をしよう。

【契約】が完了したなら、わたしはフランとの【契約】を破棄する。

射命丸も咲夜も、皆無事な姿で帰してやるし、今後も一切傷付けたりしない。

紅魔館と【我々】は、今後一切不干渉を保ち、レミリア、君には【人質】としてわたしの傍についていてもらう。

当然、契約違反をしない限り、互いに手出しも命令もしない……わたしの指示で、誰かにわたしの【情報】を話させたりはするがね……」

 

スッ――――

 

吉影は右手を【腕時計】の竜頭に添え、構える。

「もしここで、再三わたしの【取引】を蹴るつもりなら……

射命丸を葬ったのと同じ方法で、レミリア、お前を【始末】する。」

「……う…っ…!?」

レミリアの紅い目が、見開かれた。

「あれは絶対確実にお前を葬る。

【嘘】でも【ハッタリ】でもない、事実そうなのだ。

そしてッ!!

今この場にいる私の【敵】はッ!!

誰一人生きては帰さないッ!!」

吉影の声に、殺気が滲み始めた。

「君がつまらない意地を張らなければ……皆幸せになれるんだ…

皆助かるぞ……!

もはや究極の選択ではないはずだ…

ただ一言、了承するだけでいい……それだけだ…何のリスクも無い……

さあ、【契約】を結んでくれ。」

【キラークイーン】の指が、引き金に掛かる。

レミリアの顔から、血の気が引いていく。

殺気が萎んでいき、おずおずとレミリアは口を開いた。

「わ…私が【契約】すれば…

私が投降すれば…

ほ……ほんとに…皆の【命】…は…助けてくれるの…?」

レミリアのか細い声を聴き、内心、吉影はほっとしていた。

【無敵】であるというのは気分がいいが、実際は死ぬ痛みを味わうし、ショックが強く心臓に悪い。

別段戦闘狂でもなければ、大量殺戮願望があるわけでもない彼には、これ以上闘いを続けるメリットが無いのである。

しかも、これは本来『するつもりのなかった戦闘』、ここで力を使うより、次の【本命の闘い】に温存しておく方が賢明なのは明らかだ。

「ああ、約束するとも………

わたしの【安全】と引き換えの『ギブ・アンド・テイク』だ。

さあ…【契約】してくれ。」

吉影が努めて無表情に、そう促した時だった。

 

 

「だが断る」

 

 

レミリアの口から、明確かつ残酷な【拒否】の言葉が飛び出した。

「ッ!?」

吉影は一瞬たじろいだ。

が、交渉決裂と知るや、すぐさまトドメを刺そうとする。

「【キラークイーン】ッ!

撃―――――――」

 

ズブシャッ――――――

 

吉影の眉間から、焔が噴き出した。

口を開いたまま硬直した彼の頭は膨張し、爆炎を散らして破裂した。

 

 

『―――――――19:33:50―――――――』

 

 

 

「しばッ!!」

既に【六秒】以上経過していたため、瞬時に復活した吉影は、振り向き様左腕で裏拳を繰り出した。

「ぐおっ!?」

吉影の背後にいた【それ】は、身体を仰け反らせ吉影の【左腕】を避ける。

 

BGM C-CLAYS 『純真ベルベット』

 

ザッと飛び退き着地すると、【それ】――――妹紅は吉影を睨み、身構えた。

「(なぜだ…ッ?

心臓を潰されて、生きていられるはず―――――――)」

確実に仕留めたと思っていた妹紅が立ち向かって来ていることに、吉影は一瞬訝る。

が、彼女の全身を見て、すぐに納得した。

妹紅の身体は半透明で、白く光を放っていて、まるで『活気のある幽霊』のようなイメージだった。

「(【霊魂化】か…ッ!!

物質としての【肉体】がなければ、鼓動が止まっていても問題なく活動できる…!)」

【キラークイーン】の脚で跳躍し、背後からの弾幕を避けた。

空中で身を翻すと、美鈴が立ち上がり向かって来ているのが見えた。

レミリアも身体を跳ね起こすと、生え揃った両手に魔力を集中させる。

「(やれやれだ……!

まだ闘わなければならないのか…!!)」

いい加減辟易しながらも、吉影は二丁拳銃を抜き、撃鉄を起こした。

「(心臓が駄目なら……ッ!

頭を吹っ飛ばすッ!!)」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

「―――――――う…………

………う……うう……っ

………………ぐっ…!」

十六夜咲夜は、目を開けた。

痛い。

身体中あちこちが痛み、悲鳴を上げている。

特に頭が、割れるように痛い。

瞬きすると、目の前に赤いものが見えた。

彼女が調理中にいつも見ているもの、血であった。

「(………わ……私は…

確か、時を止めて、お嬢様達を安全なところへお運びしていて………

途中で気を失って、……地面に落ちたんだわ…)」

と、耳に轟音が届いた。

鉛のように重い身体を懸命に動かして、顔を上げる。

「―――――――……っ!!」

咲夜は絶句した。

彼女の前方で、レミリアが倒れていたのだから。

しかも、その向こうには吉影が立ち、何やらレミリアに話している。

「(お嬢様……っ!!)」

咲夜は咄嗟に立ち上がり、吉影にナイフを突き立てようとした。

だが、落下時に打ち付けた痛みと【時止め】の疲労で、身体は全く言うことを聴いてくれない。

焦燥に駆られる咲夜の前で、【取引】が進められていく。

吉影の傍らに【ライフル】が浮き、銃口がレミリアを向いた。

きっと【キラークイーン】が構えているのだろう。

吉影は『右手を左腕の【腕時計】に当て』、静かに口を開く。

「もしここで、再三わたしの【取引】を蹴るつもりなら……

射命丸を葬ったのと同じ方法で、レミリア、お前を【始末】する。」

 

「(―――――――!)」

それを見た瞬間、咲夜の脳裏を閃光のように、ある光景が駆け抜けた。

 

地中から飛び出した吉影を、【時の止まった世界】で迎え撃った時

 

円陣を組んでいた彼女達の頭上で、薬品と水をぶち撒いていた時

 

どちらも、吉影は『右手を【腕時計】に伸ばしていた』。

ここで、咲夜の脳内に、今まで引っ掛かっていたことが嵐のように吹き荒れた。

 

なぜ吉影が復活するのにタイムラグがあるのか

 

なぜ【瞬間移動】を連発できる場合と、できない場合があったのか

 

【並行世界】という言葉

 

『未来に起こる【運命】』とその予知

 

戦闘が始まる前のお嬢様の『これから起こることが何もかも分かっている』ような不自然な怯え方

 

【左腕】の存在だけでは足りない、【懐中時計】の必要性

 

それらが目まぐるしく回転し、パズルのピースが組み合わさるように、一つの【仮説】を形成した。

「(もしかして……ヤツの【能力】の正体は………!)」

ドクン、と心臓が高鳴る。

「(私にもできない、【時空間操作】…っ!?)」

打ち立てた【仮説】、それは吉影の【新能力】が『時間を巻き戻す【能力】』だというものだった。

「(ヤツの【腕時計】……そして私の【懐中時計】……

ヤツの【能力】が【時】に関係していることは、想像に難くないわ……

そして、私に【認識】できず、かつ【復活】だとかが可能なのは、『時間を戻す』以外考えられない…!

それなら全ての辻褄は合う…っ!!

お嬢様も、あの男もっ!

【未来】を体験して来たから、正確な予知ができるのよ…!

ヤツが【瞬間移動】したり、水を撒いたりしたのは……!

既に行動が終わった後に、『時をもどして』、さも【0秒】で行動したように見せ掛けていたんだわっ!

美鈴が見た【もう一人の美鈴】は、【未来】から送り込まれた美鈴で…!

【過去】に干渉したから、元の世界と変化した世界に分岐して、【並行世界】ができた…!!

だから美鈴と射命丸との間で、【証言】が食い違ったのね…

それならヤツがお嬢様に伝えた【能力】の詳細とも合致しているから、【嘘】は吐いていないことに……っ!!)」

思考を巡らせるにつれ、【仮説】が【確信】へと変化していく。

だが十六夜咲夜の心は、以前にもまして焦燥に駆られていた。

「(私でも物体の【動き】しか遡れないのを……この男は【自分の死】さえ遡って、『無かったこと』にできる…っ!!

射命丸が倒された時、彼女自身が離れた場所に【瞬間移動】していたのは、『移動して円陣を組んだ』という事実を『無かったこと』にされたから…ッ!!

危険よ…危険過ぎるッ!

『【過去】を変える』なんて…そんな力、神か何かでないと持ってはいけないわ…っ!!)」

その時、レミリア達があれほどまでに恐れていた【何者か】の正体が、朧気ながら理解できた。

レミリアと出逢う前、自分以外の超常の存在を知る由もなかった、【あの場所】。

彼女は毎朝、皆と一緒に祈りを捧げていた。

憐れで無力な自分達には、最後まで振り向きもしなかった、空っぽの【神様】に。

 

 

 

―――――――忌まわしい記憶を振り払い、咲夜は必死に策を練る。

「(お伝えしないと…!!

ヤツの【能力】の正体を…っ!

……でも…、身体が動かない…!

伝えられたとしても…!

『戻され』たら、また忘れてしまうっ!

そうしたら、真っ先に口封じに殺される…!

それに、どうやって倒せばいいの…?

殺しても焼き尽くしても、【復活】して向かって来る…!

左腕から【あれ】を引き摺り出そうにも…すぐに『時間を戻されて』何が起こったか分からないまま倒される…!!

何か無いの…!?

【弱点】と呼べるものは…っ!?)」

と、突然、何かが爆発する音が聴こえた。

ハッと顔を上げると、【霊魂化】した妹紅が吉影の頭を吹き飛ばしていた。

だが、吉影は瞬時に【復活】し、妹紅に裏拳で反撃する。

「(はっ!!)」

咲夜の目が【腕時計】に釘付けになった。

 

 

 

死ぬ直前の時間より【六秒】、秒針が遅れていた。

「(時計の秒針が…まるで【瞬間移動】のように……!

……そうよ…、そうなんだわ……!

『遡る時間』はぴったり【六秒】!

【インターバル】も【六秒】!

そこにきっとあるはずよ……ヤツの【弱点】がっ!!)」

妹紅と美鈴が吉影と戦闘を始めた。

レミリアも飛び起き、吉影に攻撃しようとする。

「(あと一回……!

それが限度…!!)」

身体の調子を確かめ、咲夜は最後の【時止め】を発動した。

 

 

ドオォォォォ―――――z――ン……

 

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

「ッ!?」

地面から飛び上がり、生え揃った両手で弾幕を放とうとしていたレミリアは、突然後頭部に何かが当たっているのを感じた。

吉影の攻撃に備え、【取引】の間ずっと【霧化】していた彼女の後頭部に、何かが埋まっている。

実体化し手で取り出して見ると、それは銀のナイフだった。

【柄】の方から彼女の【霧化】した頭に当たり、埋没していたのだ。

「はっ…!!」

レミリアは気付き、後ろを振り返る。

気を失った咲夜が、力無く倒れていた。

「(あの娘…時を止めて……っ!

このナイフを私に渡したの…!?)」

「うおおおぉォォォ―――――――ッ!!」

「せええぇぇぇいっ!!」

妹紅と美鈴の声を聴き、レミリアは正面に向き直る。

「(このナイフをヤツの【左腕】に突きたてろってことね……!

分かったわ咲夜っ!)」

ナイフを片手に、戦いの最中へと突入して行った。

 

 

 

「ええぇぇぇいッ!!」

集束し硬化させた、実体化した炎の刃を、吉影に浴びせかける。

「チィッ…!」

舌打ちし、吉影は【空気の腕】で防御する。

一発当たるごとに【第一の爆弾】が解除されてしまうが、【キラークイーン】に常に触れさせているため、解除される端から再度【爆弾化】し防ぎ切る。

「せぃやァッ!」

美鈴が【気】の弾幕を放つが、【M2重機関銃】で撃墜し、さらに反撃する。

美鈴は素早く身をかわすと、回り込むように飛行して吉影の隙を窺う。

「(【復活】の度に【前の六秒】で使った弾薬は補充されるが…あまり使いすぎると弾切れになるな…!

くそッ…貴様らなんぞに使う筈じゃなかったのに…!!)」

妹紅が実体化していない炎を放射してきたため、【ストレイ・キャット】で固めて防ぎ、バックステップで距離を取る。

「妹紅!

君はどうなんだ!?

わたしの【取引】に応じる気は無いかッ!」

【キラークイーン】の脚で駆け出し、吉影は叫ぶ。

「君はわたしを倒せば、それで満足なのか!?

わたしを殺して、そのあとどうする気だ!?

時の流れは残酷だ、やがて慧音も死ぬぞ!

お前が知っているものは残らず死んで、必ず君を置いていく!!

それだけじゃない!

この幻想郷も、外の世界も、時が経てば確実に滅ぶッ!

【終末論】とかそんな類いではない、太陽の膨張によって、遠い未来にはこの地球は灼熱に焦がされた死の星となるのだ!

何十億年後かの話だが、その時はいつか必ず間違いなくお前に訪れる!

しかし世界がそうなっても、お前は変わらずその【生き地獄】をさ迷い続けることになる!」

【M2重機関銃】を掃射し、美鈴を牽制しつつ、吉影は声を張り上げる。

「どうする?

お前は何時まで生き続けるんだ?

憐れなお前は一体何時まで生き続けなければならない?

だが、わたしなら!

そんな絶望しかないお前の【未来】を救うことができる!

少しわたしが指で【触れる】だけだ!

それだけで君は現世からも、【輪廻】からも完全に脱却できる!

わたしにしかできない!

今この機を逃せば、君には二度とチャンスが巡って来ることはないぞッ!

さあ、どうする…ッ!?」

「ここで生き残っても、この先生き永らえても、君の未来には苦痛しか待っていてはくれない…

『諦める』のも、勇気じゃないか…?」

鋭い光を放つ吉影の目を、妹紅は燃えるような瞳で睨み返す。

「…【諦め】なんて言葉は……随分昔に捨てた……!」

両手に焔を握り、妹紅は答えを返す。

「『死なない』っていうのはな……【寿命】が無いっていうのはな……何度でもやり直せるってことだ……!

九割九分九厘命を落とす破格の博打にも、私は何度だってこの安い命を賭けられる。

【生きる】ってことは…【諦めない】ってことだ!!

そうでしょう!?

私と同じ【不死者】さんよッ!!」

ニィッと不敵に笑い、妹紅は心底楽しそうに吉影を眺める。

【絶望】を克服した、『生きる喜び』に輝く快活な目だった。

「……わたしは…【不死身】ではない…

君と【同じ】だったなら、【あの御方】はわたしに味方して下さることはなかっただろう…!」

吉影が目を細め、キッと睨み返す。

「ハハッ違いないね!

…にしても、『何十億年後』云々言い出したのには笑えたよ!

そんなずっとずっとずっとずっとずっとずっと先のことなんざ考えてられるかっての!!

ま、そんときゃそんとき考えて……」

両手の焔が硬質化し、大きな刃物に変化する。

「【宿敵(あいつ)】のロケットにでも忍び込んでやろっかなッ!!」

両手の焔の刃を、力一杯投げつけた。

「【ストレイ・キャット】!」

さっきと同じように【空気の腕】で受け止め、爆破しようとした。

だが、

「ッ!?」

【空気の腕】に触れる寸前、焔が拡散し、吉影を包み込むように襲い掛かった!

間一髪、焔を固め彼は身を守る。

その時、

「今だッ!!」

妹紅の叫びと同時に、吉影の隙を狙って身構えていたレミリアが、銀のナイフを投擲した。

【グングニル】並みに加速された【気】を満タンにしたナイフは、【固めた炎】に視界を遮られた吉影の【左腕】目掛け、一直線に飛翔する。

 

ズバシャアァッ

 

【固まった炎】を貫通し、ナイフは中に飛び込んで行った。

「(やったのっ!?)」

レミリアの一瞬の期待は、しかし呆気なく裏切られた。

「くっ―――――――ッ!!」

無傷の吉影が姿を現し、レミリアに機銃掃射した。

「は、外したっ…!?」

【霧化】して回避し、レミリアはショックを受ける。

「(いつの間にナイフを渡したんだ……!?

ナイフが回転していなければ、危なかった…)」

ナイフは槍と違い短いため、【回転】がかかりやすい。

【グングニル】と同じ要領でレミリアが投げたナイフは、【固めた炎】を貫いた際大きく軌道を逸れ、吉影の肩を掠めたのだ。

吉影はさらに【キラークイーン】に【M2重機関銃】を操らせ、美鈴の弾幕を掻い潜り走り続ける。

「はっ!」

彼の走る先を見て、美鈴は息を呑む。

「咲夜さんの方に走ってます!

人質にする気です!」

「そうはさせないわっ!」

吉影の背中を狙い、三人が一斉射撃した。

弾幕が彼の背後に迫ろうとした時、

 

ザッ

 

突如吉影はブレーキをかけ、身体を方向転換させた。

襲い来る弾幕の嵐を見据え、吉影は右手を【腕時計】に伸ばす。

「気付いてないか…

ここはレミリア、お前がいた場所の真後ろ。

【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動したなら、わたしが妹紅に殺された瞬間、わたしはお前の背後にいることになるのだ。

そして前回の二の轍は踏まん……」

弾幕が彼の眼前に迫った時、【竜頭】に指をかける。

「どうせまた【霧化】していたんだろう?

だが今度はそれが『分かっている』…

【ストレイ・キャット】で固めて、まるごと【爆弾】にしてやろうッ!」

弾幕が彼を八つ裂きにする寸前、秒針を【六秒】戻した。

 

 

ドオォォォォ―――――z――ンンン………

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

――――『19:34:00(二回目)』―――

 

「―――――――く…………

…ぐ……ぅ……ッ!?

ぐは…ァ……ッ!!」

【キラークイーン】の腕を振り上げたまま、吉影は硬直した。

「な……

なんだとォォォ……ッ!!!?」

時を戻し、隙だらけのレミリアを一撃で葬らんとしていた吉影は、衝撃のあまり行動を停止していた。

 

 

―――――――彼の左胸に、【銀のナイフ】が突き刺さっていたからだ。

 

そう、これこそが彼女、十六夜咲夜の『最後の策』。

吉影が『時を戻し』レミリアの背後をとることを予測した咲夜は、自分の主人を囮に使い、吉影を仕留めようと計画した。

気絶覚悟で時を止め、レミリアにナイフを投げ渡した時、彼女はナイフに『ある仕掛け』を施していた。

その仕掛けとは、彼女のスペルカード『トンネルエフェクト』を応用した、『時間を遡るナイフ』だった。

承太郎がDIOの【ザ・ワールド】の影響下で初めて『【止まった時の中】を動いた』ように、

咲夜の【動き】しか遡れないはずの『時を操る程度の能力』は、『【逆転する時間】の中を動く』ことを可能にしたのだ。

 

ナイフの【柄】を先にしてレミリアに渡せば、あとはその後の【六秒】何をしようと、戻って来る時には自動的に【切っ先】から吉影を貫くだろう。

誰よりも深く『時間を操る』ことを探究してきた彼女だからこそ考案できた、起死回生、一撃必殺の策だった。

 

 

 

「はっ!?」

妹紅に頭を破壊され殺された吉影が消えた瞬間、レミリアは背後に男の驚愕の声を聴いた。

反射的に振り向く。

左胸にナイフが刺さった、吉影の姿がそこにあった。

「ええぇいっ!」

両手に溜めた魔力を、一気に解き放つ!

超至近距離からの弾幕が、吉影の胴をバラバラに粉砕した、

 

 

 

 

かに思われた時、

 

バイィ――――ンッ

 

弾幕は弾力的な物体に弾かれ、その衝撃で吉影の身体は吹き飛ばされた。

「これは……!

また【空気の壁】!?」

吉影はさらにバックジャンプを繰り返し、間合いを開く。

ナイフが抜けて、地面に落ち音を立てた。

ザザザ――――ッ、と着地し、吉影は身構える。

彼の左胸からは、一滴の血も流れ出ていなかった。

「(あのナイフは……くそッ!

十六夜咲夜か…

危なかった…まさか【二度】も助けてくれるとは……奇跡としか言い様が無い……)」

彼の大事な一張羅の、穴のあいた胸ポケットからは、満月の光を反射して光物体が顔を覗かせていた。

「(壊れた腕時計……外の世界でくすねてきた同じ型のものを使って【マンダム】の起動スイッチにしていたが……

早人の【猫草】での奇襲を防いでくれた【ジンクス】から、胸のポケットに入れておいたおかげで、ナイフを防ぐことができた…

もしそれが無ければ、【ゼロ秒時点】で心臓を貫かれ、妹紅と同じように無限に死に続ける羽目になっていたところだ…

お袋が護ってくれたのか、【あの御方】の御加護なのか……

とにかく、ツキが良いとかそんな次元じゃあない……!

やはり【運命】はッ!

このわたしに【味方】しているッ!!)」

吉影は【キラークイーン】腹部のスペースに収納されている【ストレイ・キャット】に目を落とす。

「お前もよくわたしを護ってくれた…

【外の世界】に帰ったら、高級刺身を奢ってやろう。」

そう伝えると、彼は顔を上げ、キッと目を鋭くした。

レミリア、妹紅、美鈴が、一斉に襲って来ていた。

「まだ来るか……

【無駄】だということを教えてやるッ!!」

【キラークイーン】の脚で地面を蹴り、猛然と立ち向かって行った。

 

 

 

「(ヤツの左胸に刺さっていたナイフ……

あれは咲夜のもの…!

でも、咲夜に背を向けていたヤツの正面側から刺さっていた…!

何が起きたの…ッ!?)」

【空気の腕】で弾幕を防ぎ、吉影が距離を開いていくのを、神経をはりつめ注視しながら、レミリアは思考を巡らせる。

ふと、彼の胸からナイフが抜け落ちた時、【あるもの】が目に入った。

「(―――――――ん?)」

ナイフの柄に、赤いもので何か書かれている。

目を凝らすと、それが何なのか見ることができた。

 

――――『⑨』と、血で書かれていた。

 

 

 

「(―――――――……え?)」

一瞬、レミリアは唖然とする。

「(『⑨』?

『⑨』って……なに…?)」

全く意図が分からなかった。

だが、咲夜が意味の無いことを、こんな状況でするはずがない。

何かを伝えたかったのだ、レミリアに、彼女が話せなかった、何かを。

「うおおォォォォォォっ!!」

妹紅、美鈴が、吉影に飛び掛かっていく。

吉影は【キラークイーン】の脚で俊敏に駆け回りながら、【重機関銃】で迎撃する。

レミリアはモヤモヤしたものを振り払い、戦闘に加わって行った。

 

 

 

「せいっ!!」

妹紅の焔を【ストレイ・キャット】で固め、吉影が【重機関銃】で美鈴を狙う。

「美鈴っ!」

美鈴はギリギリそれを避け、レミリアが援護射撃する。

吉影は跳躍し、弾幕を掻い潜ると、拳銃を抜きレミリアに向けた。

咄嗟に【霧化】した瞬間、【高速空気弾】が彼女の傍で弾けたが、軽傷で済み、追撃を続ける。

「(でも……あの【血文字】、一体あの娘は何を………)」

激しい攻防戦の最中、レミリアの頭にはまだあの【血文字】が踊っていた。

ふと目を落とし、地面に落ちているナイフの柄に焦点を合わせる。

「―――――――!」

その時、彼女は気付いた。

遠目には『⑨』にしか見えなかったが、実は数字の周りの円は『矢印』だったのだ。

しかも矢印は『⑨』の下の部分、即ちこの血文字は『6を反時計周りの矢印で囲ったもの』であった。

「(『6』…?

『反時計周り』……?

『時計を逆に』………、

はっ!?!?)」

レミリアの脳内に、電撃のようにある【記憶】が甦る。

「(そうか…っ!!

なんで気付かなかったのかしら……!!

ヤツの【能力】は……ッ!!)」

【バイツァ・ダスト】を発動された時、時計塔を見た瞬間。

『一時間時が戻っている』現象の体験。

それらが彼女に語りかけてくるものは、一つだった。

 

 

 

「えぇぇぃやぁっ!!」

美鈴が渾身の弾幕を吉影の頭上に降らせる。

「【ストレイ・キャット】!」

【空気の防壁】を展開しそれを凌ぐと、吉影は【M2重機関銃】をレミリアに向けた。

その瞬間、

「【六秒】!」

レミリアの叫びに、吉影はピタと動きを止める。

「『【六秒】時間を戻す』……

それがあなたの【能力】よ…!!」

レミリアの紅い双眸が、吉影を見据える。

疑問や不安が吹っ切れた、真っ直ぐに勝機を見詰めた目だ。

「「っ!?」」

美鈴、妹紅も動きを止め、レミリアに視線を集中させる。

 

…はたして、吉影は口を開いた。

「―――――――理解していたのか、我が【BITE THE DUST -Channel to 0-】の能力を…

フン…少しだけ誉めてやる。」

面白くなさそうに、吉影はそう言った。

「見破ったのは咲夜よ。

彼女の【覚悟】は無駄にはしない。」

レミリアが【グングニル】を構え、吉影を睨み付ける。

だが吉影は別段焦ることもなく、どうでもいいと言った風な口振りで言い放つ。

「だからどうだというのだ?

理解したからどうするというのだ!

貴様に何ができるというのだ!

間もなく『19:34:06』秒、【六秒】経過!!

時を戻せばそんな【記憶】纏めて吹き飛ばしてやれるッ!!」

そう叫ぶと、吉影はまた【重機関銃】を横薙ぎに乱射した。

三人は散開し、三方向から一斉に吉影を襲う。

だが、既に遅かった。

「忘れてもらうッ!!」

『19:34:06』、吉影が竜頭に手を伸ばした。

 

 

 

バザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ―――――――

 

 

「(――――――――――――――

 

―――――――え……?)」

刹那の意識の中で、彼は見た。

彼の懐に仕込まれていた、大量の【紙】。

それらが何の前触れもなく、マジシャンの帽子から飛び立つ鳩のように、一斉に飛び出した。

交通事故に遭った人間が見るという、あらゆるものがスローモーションのように見える世界の中、最後に吉影が見たのは、【紙】から次々と飛び出してくる、

薬品

貯水タンク

空気弾

銃器

ロードローラー

タンクローリー

そして―――――――

 

ドグオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!!

 

出鱈目極まりない威力の爆発にゼロ距離で呑み込まれ四散する、自分の身体だった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

―――――――『―――19:34:00(一回目)―――』

 

博麗神社で吉影とレミリア達が死闘を繰り広げていたのと同時刻、人里にて勃発していた戦闘の決着が着こうとしていた。

「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!!」

星符『ドラゴンメテオ』を遥かに上回る威力を誇る、彼女の持つスペルカード中最強のスペルが、超至近距離から迸る!

「【エニグマ】ッ!!」

輝之輔は【エニグマ】の上体を起こし、邪恋『実りやすいマスタースパーク』を迎え撃つ!!

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――ッッ!!!!

 

光の奔流が【エニグマ】に触れ【ファイル】されていき、鍔迫り合いのように両者一歩も退かず全身全霊を振り絞る。

一進一退を繰り返し、双方死力を尽くした精神力の格闘は、【六秒】経過したことで終了した。

 

 

ドオォォォォ―――――z――ンンン……

 

 

吉影が博麗神社で【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動させたことで、時間が【六秒】巻き戻された。

 

 

『―――『19:34:00(二回目)』―――』

 

 

 

当然『時が戻った』ことには気付かず、二人はまた同じように【決闘】を始めた。

「邪恋『実りやすいマスタースパーク』!!」

星符『ドラゴンメテオ』を遥かに上回る威力を誇る、彼女の持つスペルカード中最強のスペルが、超至近距離から迸る!

「【エニグマ】ッ!!」

輝之輔は【エニグマ】の上体を起こし、邪恋『実りやすいマスタースパーク』を迎え撃つ!!

 

 

だが、今回の勝負は、一瞬だった。

 

バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンッ!!

 

【前の六秒】で『マスタースパーク』を【ファイル】したという【運命】が発現し、『普段の倍以上のパワー』で、【エニグマ】が『実りやすいマスタースパーク』を【ファイル】した!

「(やった!勝ったッ!!)」

輝之輔が歓喜に身を震わせる!

「だめ押しだッ!!

【エニグマ】ッそいつのミニ八卦炉を奪えぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――ッ!!」

「っ――――――――!!」

魔理沙が目を見開き、腕を引こうとした。

だが、遅かった。

『実りやすいマスタースパーク』を紙にした勢いのまま、【エニグマ】がミニ八卦炉へと手を伸ばす!

「うおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!」

【エニグマ】がミニ八卦炉に手を掛け、【ファイル】しようとした。

その瞬間!

 

バチィッ!

 

「ぐあああッ!?」

ミニ八卦炉が謎のエネルギーを放ち、【エニグマ】が大きく仰け反った。

「【緋々色金】は永久不変ッ!

【紙】になんてできないぜッ!!」

魔理沙が叫び、ミニ八卦炉を彼の胸に押し当て、魔力を集中させる!

「し、しまっ――――――――」

【エニグマ】が仰け反り本体が生身を晒している輝之輔に向かって、『マスタースパーク』が放たれた!!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――――ッ!!

 

「ぐあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」

零距離からの『マスタースパーク』が直撃し、輝之輔は滅茶苦茶なパワーで吹き飛ばされる!

「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――」

光の奔流に呑み込まれ、民家の壁を幾つも突き破り輝之輔はぶっ飛ばされる。

既に限界を超えていた【スタンドパワー】が枯渇し、すべての【紙】の封印が解除された。

 

ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――ッッッ!!!!!!

 

懐の【紙】が暴発し、輝之輔は壮絶な爆発に呑み込まれた。

 

・・・・そうして、吉影が運命を変えたことで、輝之輔の敗北が早まってしまったのだった。

 

 

 

 

BGM efs 『或る従者の閉塞的結論』

 

―――――――そして同時刻、博麗神社―――――

 

――――ズズッ…

 

モノクロの世界の中で、肉片が動いた。

宙を飛んで集結し、人の形を形成する。

「(―――――――誰が言った言葉………だったか………

我々はみな運命に選ばれた兵士』…

え?…くそ……!)」

復活した吉良吉影は、彼にしか認識できない世界の中で、自分の【六秒】の軌跡をなぞる。

「(『だが……この世がくれた真実もある……

運命はこのわたしに……『時を巻き戻し』……【運命】を操る能力を…授けてくれた…

間違いない………それは明かな真実だ…

この世の運命は我が【キラークイーン】を無敵の頂点に選んだはずなのだ……

わたしは【兵士】ではない…!)」

【重機関銃】を振り回しては、返って来る弾丸をその銃口でキャッチしながら、吉影は考えを巡らせる。

「(だが……!!

あの【暴発】は…何だ?

【前の六秒】では起こらなかったことが、なぜ今さっき起こったのだ……ッ!?)」

【キラークイーン】の脚で跳ね回り、吉影は【結論】に辿り着いた。

「(……ああ、そうか…

わたしが【BITE THE DUST -Channel to 0-】を発動させたから……そのために【運命】が変わって、輝之輔が倒されたのか……)」

まだ燃え盛っている灰色の爆炎の中に飛び込み、虚像のように通過した。

「(【運命】の選別は……わたしの【能力】ではない…

わたしにできるのは、ただ『時を戻し、【運命】を固定する』ことのみ……

【吉良(きちりょう)】を選別するのは、【あの御方】の御意志……)」

なんとなく、予感はしていた。

何かを失敗したり、後悔したりした時、誰しもが一度は思うこと、

『あの時ああすればよかった』

『もし、あの頃に戻れるなら』

それらの願望を指先一つで実現できる、ただ一人の存在、吉良吉影は、しかし、その【能力】を行使する時、このような思いがいつも頭の隅に引っ掛かっていた。

『もし一つの後悔を解決したことで、それより遥かに恐ろしい【運命】に辿り着いてしまったら?』

『もし既に最善の道を選んでいたのに、過去を変えたことで、体験しなくてよかったはずの茨の道を歩くことになったら?』

超常中の超常、外法中の外法とも言える力を有してしまった彼は、その代償を恐れずにはいられなかったのだ。

そして、遂にその時が来たのではないか、そんな考えが彼の脳内で渦巻いていた。

「(もしや……

わたしは自分でも気付かないうちに、この力を『わたしの能力』だと驕っていたのか?

そのことで【あの御方】のお怒りを買ってしまったのか?

丁度【あの御方】の奇跡を真似て、言葉や仕草だけ模倣し神を冒涜した、愚か者達のように……

これは…【あの御方】がわたしに下した【罰】なのか…ッ!?)」

自分一人の世界の中、暗黒舞踏を踊りながら、吉影は戦慄する。

疑心暗鬼から生まれた憶測でしかないが、そもそも自分のような【悪人】に、つい昨日まで無神論者だった男に、最後の審判で人類の罪を裁くはずの【あの御方】が味方して下さったことの方が不自然だ。

そして【運命】を操作できるのは、【あの御方】のみなのだ。

これが【あの御方】の御意志であることは、最早疑いようもなかった。

黒い疑惑の雲が彼の心に立ち込める。

「(そ…そんな…事が…あ!

これは…何かの……間違いだ…

こんな…ヒドイ事が…

植物のように平穏に生きたいと願う…この吉良吉影の人生に…こんな…ヒドイ事が…あっていいはずがない…)」

人外魔境の中、ただ一つの光明が己の手から溢れ落ち、吉影は絶望感に支配されそうになる。

「(だが…こんな時…忘れてはいけないのは…

こんなヒドイ時にこそ…最悪の時にこそ!

『チャンス』というものは訪れるという過去からの教訓だ…

『追い詰められた時』こそ…冷静に物事に対処し『チャンス』をものにするのだ…

この吉良吉影いつだってそうやって来たのだ…)」

これまで築き上げてきた、自信と誇り。

それらで折れそうな心を支え、奮い立たせる。

「(そうだ……

あの【暴発】がわたしへの【罰】だとは、なにも決まったことじゃない…!

爆発に捲き込まれ、レミリアと妹紅は大きなダメージを負っている……)」

視界の端で、爆炎に呑まれたまま停止したレミリアと妹紅の姿が見えた。

 

「(今日の【日付】は【外の世界】では、西暦2011年12月10日……【宇宙】が一度滅び、再び創世されてから二週間後の【皆既月食】……

だが【幻想郷】の暦では2012年4月7日土曜、4月上旬の【満月】、その翌日は【イースター(復活祭)】……ッ!

【日付】が変わった時、【あの御方】は三度(みたび)この世に【聖誕】されるはずだ……!!

それまで持ちこたえればいい…!!

【あの御方】を信じろッ!!

 

今まで乗り越えられなかった物事(トラブル)など…)」

【六秒前】の位置に脚を置き、吉影は決意を新たにする。

 

「(一度だってないのだ!)」

 

 

『―――――――心が迷ったなら………キラヨシカゲ、撃つのはやめなさい。』

「(ッッ!!!!)」

突如背後から聴こえた、男の声。

聴いたことのない声だった。

しかも、まだ世界はモノクロのままだ。

この世界で動けるのは、彼以外存在しない。

『よいな…心が迷ったらだ…………撃つのはやめなさい。

【新しい道】への扉が開かれるだろう………』

まだ身動きできない吉影の後ろで、男はそう言い残し、気配が消えた。

「(なんだ……!?

確かに今背後に誰かいたッ!

幻覚とは何かが違うッ!

息遣いと体温があったッ!!

男がいたッ!!

今の男はッ!!

いったいどこから来た?

まさかッ!!)」

 

『―――19:34:06(二回目)―――』

 

 

 

世界に色が戻り、時間が元に戻った。

身体の自由が戻った瞬間、吉影は弾かれたように後ろを振り返る。

 

 

拳を引き絞り跳躍した、美鈴の姿があった。

 

 

 

「はああぁぁァァァァァァ―――――――ッ!!」

声を張り上げ、美鈴はぐっと右腕を引く。

【六秒前】の位置で、吉影が【復活】するのを待ち構えていたのだ。

【キラークイーン】の左手甲に、全身全霊を籠めた手刀を振り下ろした!

 

 

ズプシャ―――――――

 

吉影の左手首から、血が迸った。

「ぐううおぉぉぉあァァ……!!」

吉影の苦悶の声が、満月の夜空に響いた。

「なぁっ……!?」

美鈴は驚愕の表情を浮かべ、吉影を凝視する。

空振ったのだ。

吉影が自ら【左手首】を切断したから。

「ぐっ……ううっ…!!

痛いなァ…なんて痛いんだ……

さっきから何度も、死ぬ程の痛みを味わっているのに……!!

だが、これで……ッ!」

 

バチィンッ!

 

掌に穴のあいたミイラのような左手が覗き、ドクドクと血の噴き出す傷口を、【空気の膜】で止血すると、【キラークイーン】右手の【重機関銃】を向けた。

 

 

 

「―――――――はっ!?!?」

吉影の【自爆】に捲き込まれ、ボロ雑巾のような姿で地べたに這いつくばっていたレミリアは、美鈴と吉影が至近距離で激しく撃ち合っているのを目撃した。

「(くっ……!

失敗した…ッ!?)」

美鈴が【シアーハートアタック】を倒して【遺体】を弾き出し、一斉にトドメを刺す。

その計画が失敗した今、早急に加勢しなければならない。

手をつき、起き上がろうとするが、

「うぅっ……!?

右手が……!」

爆発によって、右腕が肘まで抉りとられていた。

千切れた胴の断面からも血が流れ出て、力が出ない。

「くっ………うぅぅ……っ!!

やっと…!追い詰めたのに……!」

起き上がることも、飛行することもできず、悔しさに歯軋りするレミリア。

と、彼女の目に何かが留まった。

「………あれは…っ!!」

猛然と美鈴と渡り合う吉影の背後、血塗れの【空気弾】が、美鈴から遠ざかるように上空へと昇っていく。

中には、吉影が切り落とした【左手首】が入っていた。

「あれを破壊すれば………!!」

望みをかけ、レミリアは上昇していく【空気弾】に狙いを定めた。

 

 

 

「ええええぇぇいッ!!」

発射炎煌めく銃口が吐き出す超音速弾を掻い潜り、美鈴は弾幕を浴びせかける。

「【ストレイ・キャット】ォッ!!」

【空気の腕】で弾幕を爆破し、残った右手でリボルバーを抜き出す。

「っ!!」

先程美鈴の左腕をもぎ取った銃が自分を狙っていることを察知すると、美鈴は俊敏な動作でその照準から外れ、左側面から斬り込んで行く。

「くッ…!!」

【空気の腕】を振るって髪針をガードし、リボルバーを美鈴に向け、撃った。

美鈴は回避するが、【部品(ピン)】が外れた【高速空気弾】が彼女の脇腹に当たり、小爆発する。

「ぐぅっ……!?」

美鈴は顔を歪めるが、怯むことなく猛攻をかける。

「(くそッ!

接近戦で、しかも片手で、反動の大きい長物は不利か…!)」

そう判断した吉影は、【キラークイーン】の脚で後方に飛び退き、

「【キラークイーン】ッ!!」

なんと【M2重機関銃】を美鈴に向かって投げつけた。

「っ!?」

意表を突いた吉影の行動に、美鈴は一瞬だが怯んだ。

その一瞬が命取りだった。

 

ドグオォォォォッ!!

 

美鈴の眼前で【重機関銃】が爆発した。

「ぐはっ…!!」

回避し切れず、美鈴の身体を爆圧が襲う。

吹き飛ばされ、残った片足で着地した。

ズザザァ――――、と踏ん張って衝撃を殺し、また追撃しようとする。

吉影も着地し距離をひらくと、

 

ガシャッ!

 

【ファイル】を解除され足下に散らばった銃の一つを蹴り上げ、【キラークイーン】にキャッチさせた。

【上下二連式ショットガン】を【キラークイーン】が構え、一斉射撃を加えようとした。

その時、

 

「はぁっ!!」

 

吉影の背後に現れた【霊魂化】した妹紅が、彼の背中に焔を浴びせた。

「なァッ!?」

吉影は咄嗟に身体を翻し、サイドステップでかわそうとした。

だが、左足を焔が直撃し、スボンが炎上する。

「ぐ……ッ!」

素早く【ストレイ・キャット】に消火させるが、妹紅が猛追しトドメを刺そうとする。

「くらえッ!」

妹紅が火炎放射で吉影を消し炭にしようと右手をかざした時、

 

スッ―――――――

 

吉影は左手を掲げ、妹紅に向けた。

「っ!!」

【あの御方】への恐怖が胸に甦り、妹紅は一瞬動きを止めた。

次の瞬間、

 

ブシュウゥゥゥゥ―――――

 

止血の【空気膜】を解除し、噴水のように勢い良く噴き出した鮮血が、妹紅に掛かった。

「うわっ!?」

血を介して【スタンド能力】が【霊魂化】した妹紅に触れ、彼女の身体に【部品(ピン)】を付けた。

血は実体を持たない妹紅の身体を透過して流れ落ち、物が『離れた』ことで【部品(ピン)】が弾け飛ぶ。

 

ドンドンドゥンッ!!

 

妹紅の身体中で小爆発が起こり、小柄な彼女を吹き飛ばした。

「(『19:34:10』、あと二秒…ッ!!)」

チラリと【腕時計】に目を落とし残り時間を確認すると、妹紅から美鈴に視線を移した。

美鈴は既に彼の左側面に回り込み、【髪針】を両手に飛び掛かって来ていた。

「うおおおおォォォォォォ―――――――ッ!!」

ショットガンとリボルバーを向け、全力で迎え撃った。

 

 

 

「(時間が無い……!!

【六秒】持ちこたえられたら、また『戻されて』しまう…っ!

【一撃】で決めないと……!)」

【空気弾】で覆われ浮遊する【左手首】に、レミリアは慎重に狙いを定める。

大きく息を吐き、心を落ち着けると、レミリアは右手を【左手首】に向けた。

「はぁっ!!」

レミリアの右手から、幾つもの【ミニチュアグングニル】が放たれた。

小さな紅い槍は満月の空を唸りを上げて飛翔し、まっしぐらに標的へと向かっていく。

一発目が【空気弾】に触れた、瞬間、

 

ボォンッ

 

紅い槍は爆破され、塵と消えた。

「(一発目は捨て石…二発目以降ならきっと、ヤツの【左手】をバラバラにできるっ!)」

レミリアが息を呑んで見守る最中、はたして、二発目が【空気弾】に命中した。

 

ドグオォォォッ!

 

「(えっ―――――――?)」

二発目以降の【グングニル】も、次々と【空気弾】に触れては爆ぜ、消滅した。

「なんでっ…!?

ヤツの【爆弾】は一発きりのはず………

…っ!?」

その時、レミリアは気付いた。

【空気弾】から伸びる、細い【空気の糸】、その先が【キラークイーン】の右手へと続いていることに。

「(【糸】を介して常に触れているから、何度でも【爆弾】にできるの!?

それじゃあ……もう…!

あの【手】を破壊する方法は無いじゃない…!)」

絶望にうちひしがれ、とうに限界を超えていたレミリアは崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。

全身が悲鳴を上げている。

制限時間も間もなく過ぎようとしていた。

レミリアの心を、どうしようもない絶望感だけが支配していた。

時間が巻き戻されたなら、彼女のこんな感情も残らず吹き飛ばされてしまうのだろう。

彼女が諦めかけた、その時だった。

 

スパアァァ―――z―ン

 

突然、空中を漂っていた【左手首】が、【空気弾】ごと切断された。

【手甲】が真っ二つに切り裂かれ、上空で【シアーハートアタック】が両断された。

 

「~っ!?」

予想だにしなかった現象に驚き、レミリアは声にならない叫びを上げる。

背後に気配を感じ、振り返ると、そこには―――――――

 

 

 

「――――ハァ―――ハァ……っ

な……なんとか……ゲホッ…

間に合ったみたいですね……っ」

肩で息をし、ぼろぼろの姿で立ち上がって扇を突きつける、射命丸文の姿があった。

「文……っ!

な…なんで……っ!」

『なんで死んだフリしてたんだこのアマ』と続けようとしたレミリアの言葉を遮り、射命丸はニッと笑って話し始めた。

「…いえ、運良く首から掛けてたカメラが背中に回って、盾になってくれましてね……!

なんとか直撃は避けて、翼と背中抉られただけで済みました……!」

言い終えると、射命丸は夜空を見上げた。

両断された吉影の左手首が血飛沫を上げて落下し、切り裂かれた【シアーハートアタック】の中から【咲夜の懐中時計】が溢れ出て落ちた。

「向こうは…どうなってますか?」

「……もう終わりそうよ。」

レミリアの視線の先、激戦の末美鈴の投げた【髪針】が吉影の左肩に刺さり、吉影が動きを止めた。

妹紅が右手に凝集させ硬質化させた焔で、彼の胸を貫いた。

 

 

 

「(―――――――!)」

美鈴との死闘の最中、吉影は確かに感じた。

【シアーハートアタック】が倒され、自分の【能力】が消滅する喪失感を。

「(なに……ッ!?

【第一の爆弾】の防護が…破られただとォ…ッ!?)」

思わず振り返り、そして、死んだ筈の射命丸の姿を視認した。

その時彼が見せた隙を、美鈴が見逃す筈がなかった。

「JAOOOOOOOOOOOOッッ!!!!」

声を張り上げ、美鈴は【髪針】を投擲した。

【髪針】は吉影の左肩に刺さり、膨大な【気】を流し込んで、彼の動きを止める。

「ぐうぅ…ッ!!」

筋肉が麻痺し、身動きがとれないが、気力だけで強引に【キラークイーン】を動かし、ショットガンで反撃しようとした。

その時だった。

『―――――――吉良吉影……

心が迷ったなら………撃つのはやめなさい。

切り捨てるのだ……

【新しい道】への扉が開かれるだろう………』

「ッ!?」

まただ。

再び彼の背後に神々しい気配が現れ、男の声が彼の耳に響いた。

「(この感じ…!

この後光に照らされ輝く神聖なイメージは…ッ!!

やはり…!【イエス様】……ッ!?)」

次の瞬間には、背後の気配は無くなっていた。

だが、確かに声は耳に焼き付いている。

「(『迷ったなら………撃つのはやめなさい』………)」

【あの御方】の御言葉を、頭の中で反芻する。

【霊魂化】状態の妹紅が体勢を立て直し、火矢のような速さで迫って来た。

【気】に身体を拘束され、吉影には回避できなかった。

妹紅が右手に凝集させ硬質化させた焔で、彼の胸を貫いた。

「(―――――――もう『迷わない』)」

身体を内側から焼き崩されながら、吉影は【キラークイーン】に最期の命令を下した。

【キラークイーン】がショットガンを手放し、自分の頭に触れた。

「(…………自分を【捨てる】)」

【キラークイーン】が自身の身体をまるごと【第一の爆弾】に変え、スイッチを押した。

 

 

 

「―――――――!?」

美鈴は、見た。

焔の槍に胸を貫かれ、即死しようとする敵の背後、

【キラークイーン】が武器を棄て、自身の頭部に触れたのを。

「(まさか………っ!?)

あぶな―――――――!!」

美鈴が叫ぼうとした瞬間、

 

ドグオオオオォォォォォォォォォォォォ―――――――ッッ!!!!

 

吉影の身体が爆炎を噴き上げ爆裂した。

「えっ―――――――」

【キラークイーン】の肉体を使い捨てに起爆する、文字通り掛け値無しの【最終手段】。

これまでのどの爆発より強力に、美鈴、妹紅を捲き込み、粉砕した。

だが、【キラークイーン】が自爆を謀る直前、彼が【捨てた】ものは、爆風に煽られて無傷のまま飛んで行った。

【遺体左腕部】、【腕時計】、【マンダム】、【空気弾】に封入されたそれらは、吸血鬼すら灰塵に帰す爆心地にありながら無事であった。

 

パァン―――――――

 

『―――19:34:12―――』

 

【腕時計】を包んでいた【空気弾】が割れて、その衝撃で秒針が【六秒】戻った。

通常状態の【マンダム】が起動し、時間を巻き戻した。

 

 

 

ドオォォォォ―――――z――ンンン……

 

 

 

『―――19:34:06(三回目)―――』

 

 

 

「―――――――はっ!?」

美鈴と妹紅が気付いた時、既に吉影は行動を起こしていた。

振り向き様に背後の美鈴に【重機関銃】を突き付け、引き金を引く。

「いぃっ!?」

なぜ自分と吉影が生きているのか、困惑する美鈴に生じた隙は、彼女の卓越した察知能力と反射神経をもってしても補い切れないものだった。

 

ガガガガァンッ!

 

銃口がカメラのフラッシュのように光を発し、銃声ががなった。

 

ズバアァァンッ!

 

「うぐっ……ッ!?」

超至近距離から発射された超音速弾が、美鈴の右腕を千切り去った。

「うおおォォォォォォッ!!」

フルオート射撃の反動を利用し、吉影は身体を反転させる。

その勢いのまま、横薙ぎにフルオートで乱射した。

「えっ!?」

気が付いたら死んだフリをしていた時のまま、地面に倒れていた射命丸は、咄嗟に扇を抜き鎌鼬で弾丸を切り裂く。

両断された銃弾は彼女の傍の地面に着弾し、爆発した。

「きゃあぁっ!?」

爆風に吹っ飛ばされ、悲鳴をあげてもんどりうって地面に叩きつけられた。

「はっ!?」

満身創痍で倒れ込んでいたレミリアは、自分に迫る鉛の豪雨に気付き、反射的に身体を【霧化】させた。

超音速弾は彼女を透過して地面に突き刺さると、爆裂した。

「あぐっ…!」

爆圧に【霧化】した身体が吹き千切られ、レミリアは苦痛に呻く。

「こ、これは……!?」

確かに自爆し、自分もろとも爆風に砕け散ったはずの吉影が五体満足で【重機関銃】を乱れ打ちしているのは、『時間を戻す能力』の結果なのだと妹紅が思い至った瞬間、

 

ガチンッ!

 

吉影がリボルバーを抜き、撃鉄を起こし、引き金を引いた。

ロクに狙いもつけず放たれた【高速空気弾】は、しかし、軌道を自在に曲げ、妹紅に命中した。

 

ドグオオォォォ!

 

【第一の爆弾】が炸裂し、【霊魂化】した妹紅の身体を抉りとった。

「ぐああぁァッ!!」

派手にぶっ飛ばされ、きりもみ回転して地べたに落ちた。

一瞬で四人を戦闘不能に陥らせ、吉影は踵を反し走り出す。

彼の目の先には、うつ伏せに倒れ動かない咲夜の姿。

「(ああっ……!)」

一直線に吉影の向かう先に気絶した従者がいることに気付き、レミリアは愕然とする。

あの男のことだ、人質なんて生易しいことには使うまい。

「(まずいわ、咲夜を【憑代(よりしろ)】にして、【バイツァ・ダスト 吉良吉影特製リワインドウォッチ】が発動してしまう…!!)」

 

 

 

「(またこの【一時間】も……失敗してしまった…か!)」

猛然と駆けながら、吉影は考えを巡らせる。

「(輝之輔が倒された今、【計画】は頓挫した…

恐らく親父も危険に晒されているに違いない…!

十六夜咲夜にも【バイツァ・ダスト】の存在を知られるのはリスクが高いが、やむを得ん…)」

【キラークイーン】の脚で地面を蹴り、咲夜のもとへと急ぐ。

「(咲夜を【媒体】に、【バイツァ・ダスト】を発動させる!

リスクはつきまとうが、メリットもある……

今回の【取引】は、彼女のせいで決裂した。

だが、【次の一時間】では奴は口を挟むことができない!

時が戻った後、即座に交渉に向かえば、容易くレミリアを籠絡できる…!

或いは、レミリアの『運命を操る程度の能力』を我が物にできたように、咲夜の『時間を操る程度の能力』をも手中に収めることができるかもしれない…!

この『ブッ飛ばした一時間』分の時間を【須臾】にまで分解し、それをわたしのものとして使って、時間を止めたり、加速させることも可能になるかもしれないッ…!)」

咲夜の身体はすぐ目前だった。

地面を強く踏み締め、跳躍する。

「(そうだ……!

『繰り返す』度に、わたしは強くなる!

『巻き戻す』毎に、【障害】は取り除かれる…ッ!

そうして全ての【不安要素】を塗り潰し、万全の準備を整えて、博麗の巫女に挑むのだ…

那由多の道の中で、【正解】がただ一つであっても…!

全ての道を残らず踏破すれば、【100パーセント】だッ!

何度間違えようと、どれだけ傷付こうと…ッ!)」

咲夜を飛び越え着地し、振り向き様に【キラークイーン】の左手を振り上げる!

「(何度だろうとッ!!

やり直せばいいッ!!)」

咲夜に向かって、手を振り下ろした。

 

 

バヂバヂィッ!

 

【キラークイーン】の指が咲夜に触れようとする寸前、突如吉影を閃光が包み、電撃に撃たれたような衝撃が全身を駆け巡った。

「な………あッ…ッ!?」

身体を仰け反らせ、吉影は硬直する。

【キラークイーン】もその空間に縫い付けられたかのように、微動だにできない。

 

「えっ……?」

レミリア、美鈴、射命丸、妹紅は、目を見開いて吉影の異変を見つめる。

 

―――――――クパァ

 

「ッ!?」

彼の眼前で空間が割け、無数の瞳が覗く悪趣味な紫の亜空が現れた。

中から腕が伸びて、咲夜の襟を掴み、続いて【キラークイーン】腹部のスペースで縮こまっていた【ストレイ・キャット】を握ると、紫の亜空間の中に引き込み呑み込んだ。

「くっ………

こ…っ、これ……ッ…は………ッ!!」

鉄の棺の中に閉じ込められたように、強烈な重圧に縛られ身動きできない吉影は、辛うじて瞳だけ動かし、【それ】をみた。

「うわあ…神社炎上中ってレベルじゃないぜ。

焼け跡すらも残ってない!

こりゃ、今すぐ退散した方がいいかもな…巻き添え喰っちまう前に。」

「聖!

あの男です!

【妖怪殺し】の外来人は…!」

吉影から離れた場所で空間が割け、ガヤガヤと話しながら人影が降り立つ。

魔理沙と命蓮寺の面々だ。

「まあ、酷いこと。

天人の地震騒ぎの時の比じゃないわね。

地盤や植林から修理していかないと。

いっそ、里の傍にでも移転したらどうかしら?

参拝者も増えるわよ。」

日傘を差し、金髪を夜風に靡かせて、優雅に佇む妙齢の美女。

彼女の後ろには黄金色の九本の尾を持つ女が、咲夜と【ストレイ・キャット】を抱え控えている。

「う………

うう…………う…

吉影………吉影ェェ…………」

その女性の後ろには、全身バラバラにされ、輪切りのハムのように成り果てた吉良吉廣が、半透明で妖しく紫に光る結界の中に無造作に放り込まれていた。

「(親父……ッ!!)」

ギリッと歯を軋ませ、凶悪に表情を歪める。

 

スッ―――――――

 

金髪の美女が指で空中を撫でると、空間が割け、中から【シアーハートアタック】が飛び出した。

「コッチヲミロォ~!」

美女に向かって突進しようとするが、空間の裂け目が【シアーハートアタック】を挟み、動きを封じる。

美女は人差し指と中指を立て、【シアーハートアタック】を斬るような仕草をした。

 

シッパアァァァ―――――――ン

 

空条承太郎の【スタープラチナ】の、『オラオラのラッシュ』でも砕けなかった【シアーハートアタック】が、バラバラに切り裂かれた。

 

ブシャァッ――

 

【シアーハートアタック】のダメージがフィードバックし、左手甲がサイコロステーキのように切り刻まれ、抉れ飛んだ。

「ぐううゥ……ッ!?」

ぽっかりと穴があいた左手甲は、十字架に釘で打ち付けられた【遺体】のそれとぴったり重なっていた。

まるで【あの御方】の救済劇をなぞるように、これから吉影にも降り掛かる【受難】を予言しているかのようだ。

紅い華の如く弾けた血飛沫が指先まで飛散し、滴となって手首に伝う。

【シアーハートアタック】の体内から【咲夜の懐中時計】が落ち、開いた空間にキャッチされた。

空間は咲夜の上に繋がり、【懐中時計】は彼女の胸の上に落ちた。

「バカ言わないでよ。

ここから神社を移動なんてできないことくらい、貴女が一番分かってるでしょ?」

美女の前に歩み出た少女を視認して、吉影は愕然と表情を強張らせる。

 

 

 

―――――――紅いリボン、

紅白を基調とした衣装、

どうやってくっついているのか不明な袖、

右手に握った祈祷棒、

 

神技『八方鬼縛陣』で吉影を拘束し、養豚場の豚を流し見るような目で、博麗霊夢が彼を睨んだ。

 

 

 

ED ゼッケン屋 『THE LEGEND OF HAKUREI CHANG』

 

―――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――

 

Magna culpa nostra(我らの罪は重く)

 

Poena danda nobis(罰を受けねばならぬ)

 

You can't force yourself upon me(汝の意思を強いる事はできない)

 

And you never will(汝も左様な事はしまい)

 

You can't keep digging in

Desecrated graves(冒涜の墓を掘り続ける事はできない)

 

No more innocence left to spill(血を滴らせる事以外に純白を示す手段は残されていない)

 

Don't be afraid,participate and(恐れず戦列に加われ)

 

Just give us all your trust(我らに全てを委ねよ)

Your soul will be saved(さすれば汝の魂は救われん)

 

Just honour me,(我を称えよ)

 

I'll set you free so(自由を与えん)

 

Get ready to join the

Very last crusade(最後の聖戦に備えよ)

 

Get ready to taste the

Final victory(最後の勝利に備えよ)

 

Ad finem temporum(終末の時に)

 

 

 

 

 




第二十五話、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたなら幸いです。
『ぼくのかんがえたさいきょうのうりょく』なんてものは、こうやってちゃっちゃと倒してしまうに限りますよね。

今回、第二十一話の伏線回収と、【世界観】の明示を致しました。
輝之輔の敗北が、吉影の敗因となってしまった形です。
そして、吉影達がいる世界は、【一巡後の世界】です。
また、外の世界と幻想郷の間で【日付】にズレがあり、幻想郷の時間では、吉影の闘っている日は『四月の満月の日曜日』、キリスト教の【イースター(復活祭)】前夜。
しかも外の世界は西暦2011年12月10日、【皆既月食】の晩です。
これらの事が、【黒幕】の思惑と密接に関係しています。
是非ご考察下さい。

次回、吉影VS霊夢の因縁の対決の火蓋が切って落とされます。
当然彼は抜け目無く『VS霊夢用の切り札』を隠し持っています。
ただ、紫をゲロ吐くくらい恐れているので、序盤は危ういですがね。
何にせよ、次回で正真正銘の【最終決戦】です。
一度は全く敵わなかった相手に吉影がどうやって立ち向かうのか、ご期待下さい。
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