【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~ 作:どくたあちょこら~た
これをもちまして【第一部】完結です。
読んでくださった方、評価お気に入りコメントいただいた方、本当にありがとうございました!
博麗神社の縁側に、二人の少女が腰掛けていた。
一人は博麗霊夢、この神社の巫女にして、【幻想郷】で最も強大な人間。
もう一人は八雲紫、【幻想郷】の管理者にして、最強と評される大妖怪。
「【お仕事】ご苦労様。」
夜空を見上げながら、紫は隣に座る霊夢に話し掛ける。
霊夢はというと、別段月を眺めたりせず、普段通り御茶を飲んでいた。
「せっかくの【皆既月食】よ?
貴女の生きているうちでは、二度と拝めないわ。
ちゃんと観ておきなさいよ。」
「………この間見たし、別にいいわ。
妖怪が大人しくなってくれるのはありがたいけどね。」
湯飲みを口から放し、下ろすと、遠くを見るような目で、ポツリと呟いた。
「………私達が何もしなければ、あの人も問題起こさずにすんなり【外】に帰れたかもしれないのに。」
紫は微笑して、霊夢を流し見る。
「何度も言ったでしょう?
あの男の犠牲のおかげで、私達はこうして欠けた月を眺めて、御茶を飲みながら話をしていられる。
これが最善で、最良の方法だった。」
紫の言葉を聞いても、霊夢の表情は晴れず、湯飲みを脇に置いて続ける。
「よってたかって一人の人間を苛めて、起こさなくていい問題を起こさせて、里の人間にも迷惑かけて………
それで最後においしいとこだけかっさらって、英雄気取り。」
憮然とした顔つきで、霊夢は吐き捨てるように呟いた。
「私達、最低最悪の極悪人じゃない。」
「―――――――……ええ、そのとおりよ。
でも、こうしなければ、もっと大勢の人と妖怪が犠牲になっていた。
たった一人の外来人の犠牲だけで、それを丸く治めることができた、それで上々なのよ。」
何度このやり取りをしたことだろう。
納得はできず釈然としなかったが、飽きずに何度も返事してくれる紫に、霊夢は少しだけ感謝していた。
「……そう言えば、あの【外の神様】はどうなったの?」
答えの出ない問いは頭の隅に追いやり、別の話題を口にする。
「……さあ、よく分からないわ。
なにせ、遠く天上の別世界にいるからね。」
一度言葉を切り、紫は口を開く。
「でも、その神様の下僕が何をしたかは、よく分かっているわ。
彼は全世界を一度滅ぼして再び創造し、【神の国】を創ろうとした。
だけど、もうあと一息というところで失敗、世界は『四ヶ月時間が遅れた、【一巡後の世界】』になるに留まった。
でも、失敗だとしても、不成功だとしても、【幻想郷】にとっては脅威だった。
貴女も知っての通り、【幻想郷】の妖怪達は、【外の人間】を極度に恐れているわ。
【広い世界】から自分たちを追い出し、【幻想郷】の外では存在を保つことさえできないような世界を創ってしまった人間たちに、恐怖と脅威を抱いている。
そんな状況でもし、『【幻想郷】を終焉まで導き、再構築する』ほどの強大な力が、【外の人間】によって干渉してきたら………?
結果は目に見えている……
【幻想郷】の崩壊。
だからこそ、【外の人間】ではなく、【亡霊】であり【吸血鬼】であるあの男が犯人でなければいけなかった。
だからこそ、この世界は再構築でなく、『過去に戻された』と認識される必要があった。
そして、私が【大結界】を強めて【外】と時間軸を切り離し、
私達の手によってあの男が倒される瞬間、【時の堰】を切って、あの男が『四ヶ月時間を戻した』ことにした。
その【幻想】がこの世界を覆って、ようやく私達の【仕事】は終わったのよ。」
紫は話を終え、自分に用意された御茶を飲む。
「………今までの【異変解決】も大変だったけど……こんなに疲れたのは、管狐に憑かれた時以来だわ。」
溜め息を吐き、霊夢は【幻想郷】が無事であったことに胸を撫で下ろして安堵した。
「……ごちそうさま。」
紫は湯飲みを置くと、空中に指を走らせた。
【スキマ】が開き、立ち上がって中に入っていく。
「もう帰るの?
月蝕鑑賞を言い出したのは貴女の方なのに。」
「流石に私も、ちょっと疲れちゃったのよ。
今夜はゆっくりくつろぐわ。
お休みなさい、霊夢。」
手を振ると、紫はスキマの中へと消えた。
スキマは閉じ、神社には霊夢だけが残される。
「…………私も寝ることにしようかしら。」
空の湯飲みの載った盆を持ち、部屋に入ると、障子を閉めた。
―――――――不気味な目と紫色に満たされた、スキマ空間内。
紫は目的の場所に向かい、飛翔する。
【位置】に着くと、九つの尾を持つ彼女の式神が、複雑な魔方陣に囲まれて何事か呟いていた。
「―――――――……ああっ、紫様……!」
紫の気配に気付き、八雲藍は振り返った。
ホッと安心した表情を浮かべているが、その顔は引きつり、滝のように汗が流れ、額には青筋が浮き出ている。
「……ご苦労様、藍。
よく単身【大結界】を維持してくれたわ。
私が交代するから、暫く休んでいなさい。」
微笑み、紫は魔方陣の中に足を踏み入れる。
「あ………ありがとうございますぅぅ…………」
藍は持ち場を離れ、フラフラとした足取りで魔方陣の外に出ると、バタリとその場に倒れ込んだ。
ピクリとも動かず、数秒後には寝息が聞こえてきた。
紫は魔方陣の中心へと足を進め、【位置】に立つと、【大結界】の点検を始めた。
世界を一巡させた張本人の、病的ともいえる猛烈な【信仰】。
それが【歴史】に介入し、元はただの人間であった【ヤツ】を、【予言者】、【救世主(メシア)】、そして【神の子】へと、完全な姿で【受肉】させ、この世に転生させてしまった。
それは【偶像】とも、【一巡前の世界】にあった全ての人外のように、神話によって形成された【人が生んだ神】とも異なる。
最初から【神】になるべくして生まれた、真性の【唯一神】、この世の【創造主】。
その影響は、とある軍人を死の運命から救い、合衆国第二十三代大統領の首をすげ替えたかもしれない。
或いは、大陸を横断するという途方もない一大競技を催し、自分の完全な【復活】の手助けをさせたかもしれない。
その超存在が【幻想郷】に及ぼす圧力は比類無く、紫と藍、二体の全能力を全開で以て酷使し続けても、【博霊大結界】を維持させるので精一杯だ。
そして、【唯一神】の啓示の下、世界統一の使命を地上代行する、二つの影。
【大結界】を超えることなく、【幻想郷】を自由に出入りする、謎の存在。
【月人】など赤子同然に思える【超常の王】を相手取り、たった一人誰にも知られることなく紫は、敗色濃い戦に足を踏み込もうとしていた。
「―――――――この人外と神々の楽園を、自分だけの地球儀に加えようとする輩がいる………」
眼光鋭く、紫はキッと魔方陣の文字盤を睨み付ける。
「させはしない………
この世界に住まう、全ての存在のために…!
生き残った【幻想】のためにっ!!」
持てる力の全てを注ぎ、【大結界】の修繕を開始した。
――――――――――――――
「―――――――ご報告にあがりましたわ、姫様。」
後ろで、女の声がした。
私は振り返らず、ただ佇み、続きを待つ。
「姫様も既に体感なさったかと存じておりますが、僭越ながら、この娘々めに『あの男』の結末をご報告させていただきたく存じますわ。」
恭しく、羽衣をたなびかせて、あの邪仙は深々と頭を下げていることだろう。
「こら芳香、姫様の御前よ。
貴女も頭を下げなさい。」
「うおお~…、せいがさまー腰が曲がんないぞ~」
「もう、仕方無い娘ねぇ……」
いつも通り下僕のキョンシーとイチャつき始めたので、私は口を開いた。
「もう良いわ、さっきの【一巡】を体験して、なんとなく分かった……
報告ご苦労、下がりなさい。」
「ははっ、畏まりましたわ。
行くわよ芳香、帰ったら柔軟体操しましょうね。」
「おお~、頑張るぞ~」
二人は談笑しながら部屋を後にした。
障子を開け閉めする音が聞こえなかったから、きっと『抜けて』退室したのだろう。
まったくあの邪仙、丁寧なのかそうでないのかよく分からない。
「……『吉良…吉影』…は…我々の役に立ってくれたぞ……」
隣から、男の声が話し掛けた。
一目見て人間じゃないと分かる容姿。
塩基配列の描かれた包帯状のラインが全身に走っており、顔の上半分と肩、腰の辺りは紫色の装飾品のようなもので覆われている。
【ホワイト・スネイク】、【月の都】を阿鼻叫喚木霊する地獄に変えた、恐るべき【能力】へと成長する【スタンド】だ。
「八雲紫……あの大妖怪の【限界】を知るための、よい実験材料になってくれた……
最後は逆に、八雲紫に利用されたがな。」
【ホワイト・スネイク】は不気味に響く人間離れした声で、私に語り掛ける。
それにしても、よく喋る【スタンド】だ。
『自意識』のあるタイプは、どいつもこうなのか。
私は自室の丸窓から、夜空を見上げた。
今夜は皆既月食。
地球の影に月が呑まれ、力が逆転する晩だ。
私が地上に落とされてから、幾度となく目にしてきた光景。
私はこの現象が好きだった。
掛けていく満月を見ていると、心に溜まった鬱憤が晴れるようで、爽快な気分になる。
私を『穢れている』と糾弾し、地上に落とした御高くつとまった連中め。
プライド高い者ほど、いざ自分が『堕ちた』時、千切と乱れ、愚かとしか言えない行動をとる。
まして愚か者で心がだだ漏れの兎たちがいたのでは尚更だ。
高貴な者達が住まう【月の都】は今、『時の加速』を生き延びた『穢れた者達』と、死んで生まれ変わった『清い者達』、血で血を洗う内戦の最中である。
自分達の思想がいかに無茶苦茶で、高慢ちきで、恵まれた者の驕りでしかなかったのか、死の恐怖の中で少しは思い知るといい。
もっとも、酸素の薄い場所にいる連中の麻痺した頭では、今自分達がどれほど平生の信条とはかけ離れた行為に及んでいるか理解できていないのだろうが。
そうでなければ、こんな内戦など続くはずがない。
【ホワイト・スネイク】にバレないように、胸の内でせせら笑う。
と、その時、私の良い気分でいるのを狙いすましたかのように、騒々しい音が廊下から近付いてきた。
「あらファニー!
いつの間にいらしていたのですか?
足音がしないから気付かなかったわ(はぁと」
艶かしい声で話し掛けながら、青娥が再び入室して来た。
またしても障子を開閉する音が聞こえない。
というか正直、鬱陶しい。
「【左腕部】はどうなったのかしら?
私が拾得しておいた………」
「今は竹林に戻っているだろう……『一巡』したのだからな……」
青娥に腕を取られ寄り掛かられている男は、彼女を見下ろしそう答えた。
「ええっ、勿体無い!
今すぐわたくしめが回収に向かえば――――――」
「止めておけ。
【悪魔の手のひら】の出没する場所、時間は、誰にも予測できない。
それに………」
ファニーと呼ばれた男は、青娥を諫めると、チラリと【ホワイト・スネイク】を横目で見て言った。
「…【素材】は揃った。
スパイとして『君』が紅魔館へ放った、あの娘……ヤツなら決して気付かれず、目的を果たしてくれると信じていたが、予想通り首尾良くこなしてくれた。
あの娘の【サバイバー】のおかげで、『彼』と図書館の魔女との溝は深まり、遂に『あの男』と共に蜂起して、ゴミの如く死に……
我々の配下に下ってくれたのだからな……
『彼』の【ファイル能力】は、我々の【計画】に必要不可欠だった……それが揃ったのだから、我々は焦る必要がない。」
青娥から顔を背け、【ホワイト・スネイク】に向き直ると、ファニー・ヴァレンタインは問う。
「しかし、『あの男』……なかなか見所があったじゃあないか。
我々の援助がもっと直接的で、多大であったなら、或いは八雲紫を葬ってくれたかもしれないが………」
【ホワイト・スネイク】、いや、『月の姫君』の背後に佇む男を見据え、ヴァレンタインは言葉を繋いだ。
「………【遺体】を貸してやったのに、ワーハクタクの女やら吸血鬼の小娘やらにうつつを抜かすような男、我々には必要ない。」
【ホワイト・スネイク】の背後の男は、神父服を身に纏い、右目には縦に切り傷が刻まれていた。
彼こそが、狂信の果てにこの世の理(ことわり)をも創り変え、その副作用として【月の都】を壊滅させた男。
男は残された左目に憎悪と使命感を湛え、宣言した。
「―――――――さあ諸君、準備を始めよう。
次の聖戦のために。
次の次の聖戦のために。
次の次の次の聖戦のために―――――――」
―――――――――――――――――――――
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→to be continued…
これをもちまして【第一部】完結です。
読んでくださった方、評価お気に入りコメントいただいた方、本当にありがとうございました!
最後に一言コメントをいただけたらトニオさんのミネラルウォーターを飲んだかのごとく泣いて喜びます!
すぐに【第二部】の予告を投稿致しますので、少しお待ち下さい。