【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~   作:どくたあちょこら~た

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◎旧作キャラ解説
・里香…『東方封魔録』一面&Exボス。戦車技師であり、『ふらわ~戦車』『イビルアイΣ』を駆る。

・小兎姫(ことひめ)…『東方夢時空』登場。人里の警官であるが、人格破綻者。


第六話 暗雲と雷鳴①

 

「ーーーーーーー止まれ!動くななのです!

そこから一歩でも動いてみなさいっ!

この『ふらわ~戦車』の88ミリ砲弾が!

二キロ先の民家を木っ端微塵に消し飛ばす絶大な威力でっ!

貴女たちの身体をバラバラに引き裂くであります!」

「だ~か~ら~~っ!

さっきからずっと動いてないでしょ!何度も何度もしつこいのよ人間!」

「…まあまあまあまあまあまあ、待てチルノよォ。

向こうさんだって何も俺らに嫌がらせしたくて、こんな里の外で待ちぼうけさせてるわけじゃあねーんだ。

イロイロあんのさ、人間の『組織』ってヤツにゃあよォ……」

カッとなり怒鳴り返すチルノを、馬上のホル・ホースは眼光鋭く相手を注視しつつたしなめる。

二人は現在、人里の門の手前50メートル付近、バリケードがそこかしこに設置された検問にて、足止めを食っていた。

 

事の発端は、こうだ。

vsミスティア戦の後、二人は『霧の湖』の住処に戻り、しばしの休息と状況の整理、情報収集を行っていた。

ミスティアの所属する【敵】は、規模も目的も未知数。

さらに【遺体】の存在を知っていたこと、刺客をミスティアとリグルの二段構えで放ち、こちらの様子を伺ったことを踏まえても、明らかに只事ではない。

【敵】に先を越される前に【遺体】の回収を急ぎ、あえて派手に動いておびき寄せ尻尾を掴む、その選択肢もあった。

しかし、元来の慎重(臆病とも言う)なホル・ホースの性質、【幻想郷】という未知のフィールド環境、数多の修羅場をくぐり抜けて来た経験が培った老獪さが、その『賭け』を拒んだ結果だった。

そんな時である。

チルノが高揚した面持ちで【紅魔館】の廃棄した新聞を持ち帰って来たのは。

 

“新たな【スタンド使い】現る ーーー二人組の『外来人』 その能力は『治療』と『加工』”ーーーーーー

興奮を抑えられない様子でチルノが突き付けた、大きく踊るその見出し。

その日のホル・ホースの方針が、決定された瞬間だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これは警告なのです!

その場を一歩も動くな、なのです!

さもなくば貴様らは、我が愛機『ふらわ~戦車』の!

たとえ火の中水の中、森や山であろうともっ!

あらゆる地形を薙ぎ倒し踏破する、この無限軌道のシミと消えることになるでありますっ!」

「だあぁ~~っ!うっさいわねこのバカっ!

いったいどれだけ待たせるつもりなのよ!?

早くあたいたちを通しなさい!それか口にチャックなさい!」

というわけで、現在二人は自警団の入里許可が下りるまで、検問にて待機させられているのだ。

「チルノよォ、このくらいの待機時間なら、マダマダ全然マシだぜ。

俺が中東のとある国から出国しようとした時は、報道スパイの嫌疑で三日間軟禁されて取り調べを受けたモンだ。

最終的には処刑が決定したモンで、隙を突いて【皇帝(エンペラー)】で全滅させて無理矢理突破した…

アン時は流石に寿命が縮んだぜ…」

「はあ 三日間っ!?

そいつら絶対大バカでしょ!」

『仕事』の件もあり、待つことには慣れているホル・ホース。

実のところ、彼はこのような事態に陥ることを予測していたし、また、その対策も十分に用意してきていた。

退屈だと駄々をこねるチルノを紛らわせるため、巧みな話術と稀有な経験を活かし、彼のスリルに富んだ、少しだけフィクションを織り交ぜた思い出話を彼女に語って聞かせる、その予定だった。

チルノの住処の外、星空の下で焚き火を囲みながら、寝床に就くまでの刻を大妖精も交えて語らって過ごした夜は、これまでも幾度となくあったのだ。

彼の話す刺激的な物語は二人の冒険心をくすぐり、若き日の剽軽な出来事、息を呑む絶体絶命の修羅場をハッとするような機転で切り抜けるパズルめいた面白さで以って、飽きさせない面白さがあると自信たっぷりだったし、実際これまでもその通りだった。

彼の想定を超えていたのは、そこに頻繁に水を差す輩がいたことだ。

赤みがかった茶髪を二本のおさげにし、赤いマントを羽織った少女。

巨大な陰陽マークを象った戦車に乗り込み、意気揚々とこちらに主砲を向け、警告とは名ばかりの愛車自慢を繰り返している。

拡声器でがなり立てる彼女の『警告』は数十秒に一度の頻度で、チルノの神経を逆撫でするのだった。

「(ーーーーーチルノにはああ言ったが…

『嫌がらせ』の意図も含んでやがるんだろーなァ…この『お喋り』にはよぉ…)」

それは恐らく、ホル・ホースとチルノ、二人が余計なヒソヒソ話で妙な考えを交わさせないため。

そして、この程度の挑発にも激昂しない、最低限の気の長さを持ち合わせているか確認するため。

「(ーーーーー今、『人里』は【幻想郷】最大の火薬庫だ…

『外来人』への不信、妖怪の連続殺人事件による人間と妖怪間の不和……

何よりも……、そんな状況にも関わらず隔離も許されねえ、力のバランスも全く釣り合っちゃいねェ…

一匹、たった一匹でもならず者妖怪が暴れたら、そんだけで退治屋が駆けつけるまで成す術もねェ……

イヤでも『牧場の羊』を想起させやがる、【幻想郷】の縮図じみた環境…!

不信が不信を呼ぶ悪循環も無理ねェよ・・・同じ人間同士ですら、こんな状態なら即殺し合いだぜ…!)」

ホル・ホースの喉が鳴る。

脳裏にちらつく、『仕事』のため訪れた数々の紛争地での記憶。

乾燥、疫病、飢え、蝿、死体。

大人が子供を調教し、子供が子供を嬲り殺す、この世の地獄の特大パノラマ。

ヘマをやらかせば、自分自身がその火種になるやも知れぬという緊迫感。

それを押し切ってまでこの場に姿を晒しているのは、『二人組のスタンド使い』とやらが、里の面々に好意的に受け入れられている“らしい”、という新聞の記述に望みを託したからに他ならない。

 

と、その時である。

銃剣付きのライフルを握り、しかし銃口を空に向け引き金に指は掛けず、戦車の少女と共に二人をバリケードの後ろから遠巻きに監視していた自警団員らの間に、明らかにざわつきが拡がった。

「ッ…!

なあ、チルノ…いよいよ『責任者様』のお出ましだぜ。

事前に確認したこと、覚えてるな?」

「ーーーーー!

…分かってるわよ、【スタンド】のことは秘密。『弾幕』もホル・ホースが良いって言うまで撃たない…でしょ?」

「ああ…ゼッテェ破らねーよう、気ィ付けてくれよ。」

互いに顔は合わさず、呟くようにトーンを落とした声で、最後の確認を交わす。

二人の注視する先、整列した自警団員の列の奥。

『責任者様』が姿を現した。

「……!」

何より二人の目を引いたのは、『責任者様』の乗り物だった。

ふわふわと浮遊する雲に乗って移動する、足まで届く赤髪の、如何にも日本的な着物を纏った少女。

彼女は漂うようにのんびりと、二人のもとへと接近してくる。

「「ーーーーーーーーーーーーーーー」」

ゴクン、チルノの唾を呑む音が、隣のホル・ホースの耳に届いた。

無言で見守る二人の手前、少女は三メートルの所まで近付くと、動きを止めーーーーー

「ハッロ~~~♪」

いきなり陽気な笑顔で手を振り、朗らかにそう告げた。

「……

ーーーーー…あ~…ゴホン、…こんにちは」

不意を突かれたが、挨拶は大事である。『古事記』にもそう書かれてあるらしい。

ややぎこちない滑り出しであったが、ホル・ホースも笑顔で応えた。

が、

「里香ちゃ~ん!もしかして、もう『自己紹介タイム』って終わってたりするのかしら~?」

少女は、既にホル・ホースを見ていなかった。

「……!?」

後方を振り返り、戦車の少女に呼び掛ける彼女の後ろ姿に、ホル・ホースはあっけに取られた表情を向ける。

「いっ、いえっ!交わした会話は最低限の『警告』のみであります!

それ以上の不用意な接触は規約違反なのです!」

戦車少女の返答に、雲少女は顔を綻ばせる。

「あら、まだだったの~?

よかった~!みんな自己紹介し終わって、私だけ後からなんて寂しいかな~って心配してたのよ♪

え~、ケホンケホン……

それじゃあさっそく!自己紹介タ~イム♪」

咳払いの後、戦車少女からホル・ホース達に顔を向け、満面の笑みを浮かべると、

「里香、まずは貴女からっ♪」

彼女の視線は奇異の目を向ける二人を素通りして、そのままクルンと一回転し、戦車少女に向けて“ジャジャーン!”とばかりに両手を差し出した。

「えええ!?わ、私が先でありますかっ?!

こ、こういうのは上官が先と相場が決まって……」

「上官命令よ、じょ・う・か・ん・め・い・れ・い♪

イヤなら良いわよ、逮捕拘束のあと更迭してやるんだから♪

今までだって、河童の集落から部品の密輸してるの見逃してあげてるんだしーーーーー」

「わ~わ~わ~っ!!ちょちょちょ、止めてくださいなのです!?

分かった!分かったでありますからっ!」

戦車少女は慌てて要求を呑み、ホル・ホースらに向き直る。

「…え~、こほん…

自警団技術隊副長、里香(りか)なのです!

特技は戦車の扱いと『おばけ』の精製であります!」

咳払いの後、戦車少女ーー里香は、そう名乗った。

「はいは~い♪次わたしわたし!」

雲少女が右手をブンブン振り注目を集め、

「私は小兎姫(ことひめ)、自警団機動隊長!

ねえ、貴方!貴方の地域では、“月には女の横顔が映る”って言うんでしょ?」

挨拶もそこそこに、雲少女ーー小兎姫は身を乗り出して目を輝かせ、いきなりそんな質問を飛ばして来た。

「ン、あ、ああ…?

確かに、ヨーロッパでは月の模様を女の横顔に例えたりするなァ…

日本では兎が薬だか餅だかをついてるっツー風に云われてるらしいが…」

調子を狂わされっぱなしのホル・ホースは、咄嗟に返事をするのだが、

「ちっが~う!!違う違う違うのよぉっ♪」

小兎姫の顔が目と鼻の先に迫り、絶句した。

「ッ!?」

フッーーーーー、と、何の予備動作も無く、気付いた時には彼女は身を乗り出して、彼の眼前に肉迫していた。

彼は、断じて油断などしていない。

十全に警戒を払っていたし、【マンハッタン・トランスファー】で常時遠方の自警団員一人一人の挙動に至るまで余さずチェックしていたのだ。

にも関わらず

あまりにも自然に、あっさりと

まるで意識の隙間を縫うように

「(ーーーーー何モンだ……ッ…この嬢ちゃん…ッ?!)」

ホル・ホースの驚愕を他所に、小兎姫は“兎のように紅い目”をキラキラと輝かせて、熱愛するアイドルグループにお熱な少女よろしく熱っぽく熱弁を振るう。

「【月】にはね、兎がいるの!私知ってるのよ!

みんなすっごく可愛いの!

ほんとに可愛い兎がいっぱいっ!

薬を挽いたりお餅をついたり、とっても働き者さんなのよ!

【月】にも女はたくさん居たけど、そっちに目が行っちゃうなんてセンスが無粋!英語で言うとナンセンス!

女なんて地上にもたくさん居るじゃない!

兎は別!と~~~~っくべつなのっ!

【月】の兎は最っっ高よっ!

ねっ?貴方も分かるでしょ?」

ここにきて、チルノもホル・ホースも言葉でなく心で理解した。

“ーーーーーこの娘、手に負えない。負えっこないーーーーー”

現に、自警団員も里香も小兎姫の後方から“ま~た始まったよ…”と言わんばかりのどんより曇った視線を投げ掛けている。

と、小兎姫の視線がホル・ホースの脚に降りた。

「ーーーーーあら、貴方…

『脚』、動かないの?」

「ッ!?」

“何故分かった”、そう問い返そうとしたが、小兎姫は口を挟む暇も与えず、立て板に水を流すようにしゃべくった。

「人間の『筋肉』は信用できないわ。

皮膚が『風』にさらされる時、筋肉はストレスを感じて、微妙な伸縮を繰りかえす…

それは肉体ではコントロールできない動き。

特に、『骨』でささえられていない時…骨が地面の確かさを見失い、足腰が地面と乖離している時には、ね♪

でも、貴方の『脚』は違う!

鐙には乗せているけど、ただそれだけ。

踏み締めてない、全く『安心』していない・・・、なのに1ミリも動かない!

だからきっと、貴方の『脚』は『死体』なのよ!」

全くの無遠慮、無礼、無配慮。

「~~~~っ

アンタはーーーーーッ!」

ホル・ホースの隣のチルノが、カッとなり喰いつく。

「チルノ、大丈夫だ…“気にするな”」

ホル・ホースが、手で制した。

「っーーーーー

…………へんっ!イ~~っだ!」

“気にしてねぇよ”ではなく、“気にするな”

その言葉で彼の心情を察したチルノは、辛うじて激昂を抑え込み、腹いせに小兎姫に向けて歯を剥いて威嚇する。

「ーーーーー嬢ちゃん、感心したぜ。とんでもなく鋭い観察眼だ…

流石、自警団機動隊長と言ったトコか…恐れ入ったよ

…ツーことは、俺らの『目的』が何かまで、とっくに察しはついてんだよな?」

穏やかな笑顔を小兎姫に向け、問う。

にっこりと笑って、小兎姫は答えた。

「里の『外来人ペア』に、『脚』を治してもらいに来たんでしょ?

この後遺症は、“永琳でも治せない”もの♪」

「やっぱお見通しだったか、話が早くて助かるぜ。」

にこやかに微笑を浮かべるホル・ホース。

「それじゃあ、あの二人の所に案内するわよ~♪」

小兎姫はクルリと背を向けて、

「えーっと……貴方たち、名前は何だっけ?

ごめんなさいね、私、人の名前を覚えるの苦手なの♪」

顔だけ此方に戻し、全く悪びれない微笑みでそう問うた。

「……御心配無く、まだ、名乗ってねぇからな…俺たちゃよォ……」

頭痛を覚えてきたホル・ホースはテンガロンハットの鍔を下ろし、疲労の溜息を押し殺す。

「あら、そうだったの♪

貴方たちの自己紹介、し終わってなかったのね!良かった~♪」

二人は明らかに疲れの見える様子で、簡潔に名乗った。

「…ホル・ホース、見てのとおり『外来人』だ。」

「ーーーーチルノ、最強の妖精よ。」

里に入る前の時点でこれである。先が思いやられる展開だ。

「そう、よろしくねお二人さん♪」

二人の自己紹介に満足した小兎姫は、

「ーーーーーところで……

あなたの『あんよ』は、『天国』に行けたのかな?」

おもむろにホル・ホースの『脚』へと手を伸ばし、撫でた。

「「え?」」

ホル・ホース、チルノは、同時に疑問符をふんだんに散りばめた声を上げる。

唖然とする二人の前で、

「こほんこほん…、では、僭越ながら~…

貴方の『あんよ』の“御冥福”を祈って~……」

小兎姫は可愛いらしい咳払いの後、厳かに朗々と読み上げると、

 

ブワァッーーーーー!

 

両腕をクロスさせ、両足をグッと開き、跳躍するッ!

思わず“稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)”と叫びたくなるような、圧倒的なまでの攻守における完璧さッ!

目を見開く二人の眼前!空中に身を躍らせる小兎姫は両腕のクロスを強調させるように前のめりの体勢でーーーーー!

「『あ~めんッッ 』」

両腕ででっかく“十字を切り”、小兎姫の叫びが里の近郊に木霊したーーーーー

 

 

 




投下終了です。
今回はリハビリも兼ねておりますので短めです。申し訳ございません。
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