【第一部】~吉良吉影は静かに生き延びたい~/【第二部】~Saint Babel Run~ 作:どくたあちょこら~た
なかなか納得のいく文章にすることができず、苦労しました。
【ジョジョの奇妙な東方Project@Wiki http://www28.atwiki.jp/shinatuki/pages/1.html】より転載。
「――――――――で、その博麗霊夢という巫女はいったいどういった人物なんだい?」
「そうだな、けっこうあっさりした奴だけど、直情的な感じかな。」
「そうか……第一印象を良くするためには、やはり賽銭を入れたほうがいいだろうか?」
「ああ、大当たりだな。
どうも金に困ってるらしくて、神社に来る奴にはよく賽銭を要求しているらしい。」
「うむ…、慧音からもらった小遣いで足りるだろうか…?」
「それは大丈夫だろう。
金に汚いとよく言われているけど、意外と異変解決とかは真面目にやってるし、実際ただの外来人相手に―――――能力持ってるけど―――――とにかく露骨に金をせびるなんてことはないはずだ。」
二人は、博麗神社の石段を上っていた。
さすがに妹紅の背に背負われて巫女の前に登場するのはバツが悪いので、吉影は自分の足でかなりの長さの石段を登っていた。
以前の彼なら、ばてていたかもしれないが、何故かこの世界に来てからは【スタンド】以外に本体の肉体の調子も良かったので、楽に足が進む。
「ところで、博麗神社ってのは、なんの神様を祀っているんだね?」
「あ~それがな…………、よく分からないんだ。」
「…どういうことだ?」
「巫女本人も分かっていないらしいんだよ。」
彼に合わせて飛ばずに石段を上っている妹紅が、何でもないと言う風にさらりと答えた。
「―――――――――大丈夫なのか?」
「は?何が?」
「そんな巫女に結界の管理を任せて、不安じゃあないのかね?」
「う~ん、結界の管理に神様は関係ないし、それで困ることはないから別に。」
「…なるほど、『幻想郷』では常識にとらわれてはいけないんだな。」
「まあ、少なくとも【外】の常識にはな。
それと、少し前に異変起こした外来人があなたと同じこと言ってたよ。」
「ふ~む、【外の世界】出身の者は皆同じ感想を抱くようだ。」
「ただ、その外来人も風祝で神様ニ柱と一緒に神社ごと引っ越して来たんだけど。」
「……分かった、さっきの発言は撤回しよう、【外】の常識が間違っているんだと。」
「ははっ、そんなこと言ってたら外に帰った時に苦労するんじゃないか?」
「わたしはもとから【非常識】だ。」
「なるほど。」
しばらくすると、鳥居が見えてきた。
石段を登りきると、目の前には小さめながらもなかなか荘厳な神社があった。
そして――――――――
「よう、霊夢、景気はどうだ?」
「…相変わらずよ。」
箒で境内を掃除している少女の姿があった。
腋を強調したデザインの服にどうやって腕に引っ付いているのか分からない裾、赤いリボン。
博麗霊夢だ。
「何よ、貴女が神社に来るなんて珍しい。
何かうまい儲け話でもあるの?」
彼女は不機嫌そうにこちらを一瞥し―――――――――吉影に目をとめた。
「ああ、その外来人のことね。」
「(服装で分かったか。
これで話はスムーズに進む。
あとはタイミングを見誤らずに取り入っていけば……)」
「そうだ。彼は【外の世界】から迷い込んで来てね、あなたなら彼を外に帰してあげられるだろう?」
二人の目が吉影に向いたのを見計らって、吉影は話を始める。
「わたしは川尻浩作、3日前この世界に迷い込んだ者だ。
博麗の巫女なら【外】に帰してくれると聞いて来たが、頼めるだろうか。」
吉影はあえて敬語を使わずに話を切り出した。
妹紅の話を聞いたかぎりでは、あまり堅苦しいことは嫌いな性格のようであったからだ。
「―――――――――何で私がそんなことしなきゃいけないのよ。」
霊夢は明らかに何か見返りを要求する素振りを見せている。
「(―――――――――妹紅の話通り、金を欲しがっているようだ。
なら……)」
彼は無言で霊夢の脇を通り過ぎ、賽銭箱へと足を進めた。
背中に期待に満ちた視線を感じながら、ゆっくりと歩み寄り、賽銭箱の前で財布を取り出す。
「(……やはり相手の望む物を渡してやるべきだろうな。)」
財布の中身を、音がよく響くように賽銭箱の中に放り込んだ。
チャリンチャリンチャリン………
心地よい音が境内に響く。
あえて【二拝二拍手一拝】をしなかったのは、この巫女はそんな上っ面だけの【形式】よりもストレートな【取引】のほうが好みだと見たからだ。
「(…さて、効果のほどは………)」
吉影が振り返ると、彼女はさっきの不機嫌さが嘘のように柔らかい笑顔を浮かべていた。
「あら、ありがとう。
神様は礼儀正しい人には優しいわよ。」
霊夢はにこやかに話しかける。
「(―――――――――分かりやすい奴で良かった。)
では、早速だが、外の世界に帰る方法を……」
吉影が二人のところに帰ってきた時だった。
「妹紅、悪いけど石段の下に下りて待っててくれる?」
突然、霊夢が妹紅に視線を向けると、かなりつっけんどんに言い放った。
「―――――――――どういうことだ?
私が居たら何か不都合なのか?」
妹紅が霊夢の口調にややむっとして言う。
「そうよ、これから私は彼と【交渉】するのよ。
あなたが居たら一対一で【取引】ができないじゃない。
分かったらさっさと下りてって。」
「…………………」
妹紅が霊夢を睨む。
無言で彼女の考えを読み取ろうとしている。
それを霊夢は平然と見返す。
しばしの間境内が穏やかではない空気に包まれる。
吉影はやや焦りを感じながらその様子を見守っていたが、やがて妹紅が引き下がり、吉影に『上手くやりな』とアイコンタクトをして鳥居をくぐって下りて行った。
境内に残ったのは、吉影と霊夢の二人となった。
そして――――――――
「(…なんだ…?
何故こいつはこれほどピリピリしている…?)」
妹紅のくぐった鳥居を見つめる霊夢の横顔からは、尋常じゃない覇気が漏れ出していた。
「(…まずいな…、何時でも【外】に帰れるよう手筈を整えさせないといけないのに……
…とにかく『会話』をしなければ…)」
吉影が話しかけるタイミングを窺っていた時だった。
「!?」
霊夢がサッと顔を吉影に向け、
「―――――――――胸ポケット、右手首、左右ズボンポケット、襟の裏、懐のポケット、左靴……」
「―――――――?!」
彼は、不覚にも目の前の少女に驚きの表情を晒してしまった。
何故なら―――――――――
「―――――――――何故分かった…?
透視能力の類いか…?
それともまさか心を読んだ…?」
―――――――――彼がいざというときのために服のあちこちに隠しておいた金の在処をすべて的中させてしまったからである。
「残念ながら違うわ。
貴方が巫女を舐めすぎたってだけよ。」
霊夢が吉影にゆっくりと歩み寄る。
「―――――――――心配しなくてもいいわよ、別にお金を隠していたからといって、【手数料】アップしたりはしないから。」
霊夢の据わった眼を見下ろす吉影の表情が、僅かに歪む。
「(嘘だッ……こいつは、叩けば出ると分かったなら肉片になるまでぶん殴った後でローラーで絞り出すタイプ……わたしの長年の経験がそう告げているッ……)」
平穏無事な生活を望む彼は人との付き合いにも注意を払っていた。
その人物がどういった性格なのか、自分の平和を脅かす可能性はないか、気を付けて観察するうち、彼には相手の人格を読み取る能力が備わっていた。
「だって、あなたを見た瞬間からそんな端金なんて御布施してもらおうと考えていなかったから。」
吉影は【スタンド】を出したりせずに、精神的に身構える。
「………いくらだ?」
彼女は大したことじゃないとでも言うように、サラリと言い放った。
「―――――――――なん…だと…!?」
3日ほど人里で慧音の買い物に付き合ったり店の商品を見たりしていた彼は、幻想郷の貨幣価値をだいたい把握していた。
だから苦もなく理解し、ストレートに衝撃を受けた。
霊夢の要求した途方もない金額に。
「そんな…無茶だ!
一体どうやってそんな金を…………」
「あら、やっぱりあなた巫女をなめているのね。」
「……なめている…だと…?」
不条理な要求に沸き上がる怒りを抑え、彼は聞き返す。
霊夢は彼を頭の天辺から爪先まで眺め回し、
「―――――――――さっきお金が入ってるって言った胸ポケット、腕時計が入ってるわね。
さっさと出しなさい。」
有無を言わさぬ霊夢の口調に吉影は渋々腕時計を取り出す。
「―――――――――言っておくが壊れてい―――――」
吉影が口を開きかけたが、霊夢はそれを遮って話を続ける。
「分かってるわよ。
でも修理は出来そうだし、なんとなく高そうな雰囲気してるわ。
魔法の森の入り口に『香霖堂』っていう外の世界の品物を扱ってる店があるから、そこで売ればそれなりの値段にはなるんじゃない?」
「…………は…?」
「それと、服も納めなさい。
妖怪の間では流通しているけど、人里では洋服はあまり出回ってないのよ。
価値は高くつくはずよ。
あと何だったっけ、【しゃーぺん】?だったかしら?
墨が無くてもものが書ける筆、あれも売り払いなさい。
珍しいし便利だから、結構な足しになるはずだわ。
あとアレ、【ケータイ】?
外来人が耳に当てる箱、あれも奉納なさい。
人里じゃなくて山の河童達に売るのが良いわ。
あいつら【外】の機械に興味津々だから、目の色変えて涎垂らして飛び付くわよ。
それと、【幻想入り】した時にまさか手ぶらだったなんて事はないわよね、カバンも中身と一緒に洗いざらい売りに出しなさい。
それでも多分足りないでしょうけど、そのときは人里で職を見つけてあくせく労働していればいいわ。
【外の世界】で暮らしていたんだから、働くの得意でしょう?」
「……ッ!!!?」
とんでもないことをつらつらと口走る霊夢を、吉影は思わず怒りをあらわにして睨み付ける。
「身ぐるみ剥ごうと言うのか…?
このわたしを…!?」
まだ本気で殺気を滲ませてはいなかったからか、完全に吉影を軽く見ているのか、霊夢は彼の視線をさらりと受け流し、平然と言い放つ。
「ふん、どう受け取っても結構よ。
でも、あなたを【外】に帰すのは私にしかできないし、それを考えたら『希少価値』を考慮してそのくらい当然じゃないかしら?」
吉影は、はらわたの煮えたぎる思いだった。
「(こ、この金の亡者が……
間違いない、こいつはわたしをなめきっているッ………
『外来人』だと、『余所者』だと、だから邪険に扱ってもいいと思い込んでいる………!!)」
『【外】に帰れないかもしれない』という不安より、『こんなド田舎の芋臭い巫女にコケにされた』怒りの方が強かった。
「(……だが……どうする……?
べつにこの小娘を『始末』するのは簡単だ……故に命を担保に『脅迫』し従わせることも容易い……
しかし、わたしはまだこの世界を出るつもりはない……慧音の【手首】を手に入れてからだ……その後ならすぐにでも、こんな【化け物】だらけの世界に別れを告げてやる。
だから、『今』は駄目だ……今はこの生ガキと敵対すべき時じゃあない……
今だけは無力で善良な小市民を装い、『博麗の巫女様』のご機嫌取りに甘んじてやる………)」
吉影は爆ぜんばかりに沸騰する憤怒を表に出さぬよう気をはりつめ、静かに懐から一枚の貨幣を取り出す。
「―――――――――そうか…分かった……よ~く分かったよ………」
貨幣をコイントスをするように、握った右手の親指にのせた。
「(だがな……
わたしの最も嫌いなことは………他人に注目されることだ。
わたし自身について何か知られることだ。
だがそれと同じくらい……)
そういう話なら仕方ないな……
今日のところはこの『ケチった』分のお金も奉納して、帰ることにしよう………後日貯金をこさえて、出直すとするかな……」
【キラークイーン】の腕を出現させ、自身の腕と重複させる。
「(―――――――――コケにされることが……大嫌いだ……)」
【キラークイーン】の指先が貨幣に触れる。
貨幣は見かけの上では一切異常を表さなかったが、確かに、そして静かに、その内部で性質が変化を遂げていた。
「(コイツを賽銭箱の中にぶち込んでやる。
なあに、殺しはしない……コイツをお前が取り出して家の中に持ち込み、日が暮れて寝床に就いた頃、真夜中に少々『爆音』を聞いて飛び起きるくらいだ………ささやかな意趣返しというものだよ……)」
賽銭箱に狙いを定め、【キラークイーン】の親指を貨幣に当てがう。
「(くれてやる……
賽銭箱がはち切れんばかりの御布施をな……)」
【キラークイーン】の親指が貨幣を賽銭箱にぶち込もうとした、
ゾォッ――――――――
「…ッ!?」
瞬間、強烈な悪寒が吉影の背筋を、電流のごとく駆け巡った。
ガィインッ!
咄嗟に【キラークイーン】に防御体勢をとらせ、霊夢が放った『針』を弾く。
賽銭箱に放り込むはずだった貨幣は、クルクルと宙を舞ってあらぬ方へと飛んで行き、林に消えた。
「(ぐゥッ…!?
こ、この『針』…!?)」
『針』を弾いた【キラークイーン】の腕が、バットでぶん殴られたかのようにビリビリと痛んだ。
「(な……なんだ……なんだというんだ!?
いきなり攻撃してきやがったッ!
まさか……?バレていたのか……【キラークイーン】が貨幣を『爆弾』に変えていたことが…!?
…………いや……!『もう遅い』…ッ!!
こいつは……ッ!既にッ!)」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨―――――――
ギリギリと歯を喰い縛る吉影の眼前、博麗霊夢は、『博麗の巫女』は、睨んでいた。
吉影の前に立ちはだかる、彼の精神の片割れにして最凶の護衛、【キラークイーン】を。
「……今……弾いたわね、私の『封魔針』を。」
霊夢は【キラークイーン】を、否、正確には『【キラークイーン】のいる空間』を、じろじろと睨み回す。
「見えはしないけれど……『何か』いるようね……そこに。」
霊夢が指差した先、そこにはまさしく【キラークイーン】の凶悪な顔面があった。
「(威圧感に圧されて、思わず防御してしまった………
くそッ……!
なんということだ……【スタンド】のことが…バレているッ!
ただ貨幣を飛ばそうと構えただけだというのに……!)」
吉影の額に、汗が浮かんだ。
妹紅の時のように、血や肉片で輪郭が見えていたのなら分かる。
だが、今回は違う。
全く【スタンド】の存在に気付く要素など無いにも関わらず、この紅白巫女は容易くその存在を看破してみせたのだ。
『洞察力』や『超反応』では説明できない、恐るべき『探知能力』であった。
「強力な【力】を持った『何か』を、操ることができる………
外の同業者?
いや、まさかね………精々【背後霊】ってとこかしら?」
「……なぜ分かった?
わたしの『能力』……【スタンド】が……」
吉影は後退り、腕の痛みに顔を歪め、声を絞り出し問い掛けた。
「………あなた、やっぱり巫女をなめきってるわね。
あなたが普通の外来人じゃないことぐらい、一目見た瞬間から分かってたわよ。
……それと…『仏の顔も三度』という名言を知らないのかしら?」
彼女は何処から取り出したのか、お祓い棒を吉影に突き付け、怒気を籠めた声で言い放った。
「博麗神社の敷地内で、この私に喧嘩を売ろうだなんて、良い度胸してるわね。
いいわ、買ってあげるわよ、その喧嘩。
ただし、損害分はあなた持ちよ。
しっかり請求してあげるわ。」
「―――――――――…なんの………ことだ?
確かにわたしはこの『能力』のことを君に黙っていた。
そのことは確かに君に対して失礼だったかもしれない、『悪かった』、謝罪しよう。
だが、わたしは今ただ純粋に『御布施』をしようとしただけだ。
喧嘩を売ったつもりなど……」
「しらばっくれるんじゃないわよ、なんか仕込んだんでしょ、さっきのお金に。」
霊夢はかなりキレた様子だった。
空気がピリピリと霊夢の怒りを吉影の肌に伝える。
「(…グ……!
【スタンド】だけじゃあない…
やはり完全にバレているッ!
さっきからの何もかも分かっているかのような言動………!
神通力かなにかか……!?)」
吉影はさらに後退し、このピンチを切り抜ける手段を考える。
「(だが、この守銭奴も【スタンド使い】というわけではない……
流石に我が【キラークイーン】の動きを完璧に読むことはできまいッ……
それならば………)」
吉影は【スタンド】を引っ込め、緊張を解いた。
普段の穏やかな態度を装い、だが精神面での警戒は弛めない。
「……攻撃するのか?このわたしを……」
こちらを睨む霊夢に対して、吉影は悪意や敵意を感じさせない声と表情で語りかける。
「ええ、そうよ。
私に本気の敵意を向けたヤツは、二度とそんなまねできないようにコテンパンにしてやるわ。」
言いながら、霊夢は僅かに眉を潜めた。
吉影の雰囲気の変化を読み取ったのだろう。
「…緊張をといたわね。
観念したのかしら?
それなら今日のところは五体無事に帰してあげてもいいけど……」
張りつめていた闘志を引っ込め、お祓い棒を下げた時、
「いや……少し心配でね……『君のことが』……」
吉影が静かに口を開いた。
「?
私が?何言ってるの、するなら自分の心配をしなさいよ。」
訝しむ霊夢に、吉影は言葉を続ける。
「さっきわたしを『スペルカードルール』無しでいきなり攻撃したな?
君は博麗の巫女なんだろう…?
『【スペルカードルール】を定めた張本人である、いわば【最高責任者】が、いくら外来人相手とはいえ、"怪しい"という勘だけで、【スペルカード】を使わずに、人間を、いきなり攻撃した』
……なんて噂になっては、マズいんじゃあないかね………?」
吉影の発言を聞き、再びキッと吉影を睨み付ける。
「『脅迫』のつもりかしら?
気が変わったわ、やっぱり叩きのめす。
痛い目をみれば、ちょっとは自分の立場を理解できるでしょうよ。」
お祓い棒を握り直し、振り上げた霊夢を吉影は右手で制す。
「まあ待て待て待て待て待て待て。
そうじゃあない……『脅迫』しているつもりはさらさら無いんだ……
ただ、君とわたし両方にとって『利』のある、平和的な『交渉』をしようと言いたいんだよ……」
「『交渉』……?」
「そうだ……君とわたしが後腐れ無く、正当な手段で互いの我を張れる『勝負』を、君に申込みたい。」
『幻想郷』ではかなり高身長と言える、175cmの身体をしゃんと立たせ、吉影は『交渉』を開始した。
―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――
「確認するぞ。
先ほど決めた『ルール』で問題無いな?」
「ええ、結構よ。
いつでもいいわ。始めましょう。」
吉影、霊夢は博麗神社境内で、十メートルほど放れた位置で向き合っていた。
吉影は地面に立ち、霊夢は二メートルほど宙に浮かび、対峙している。
吉影の提案は、こうだった。
まず、霊夢は吉影を【外の世界】に帰す際、手数料として大金をせしめたい。
そして同時に、『スペルカードルール無しで人間を襲った』という過失を払拭したい。
その両方をまとめて解決でき、さらに吉影にも『無償で【外】に帰りたい』という望みが叶えられるチャンスが与えられる方法。
それは二者の利害が対立している時、恨みっこなしの決闘で勝敗を決する『幻想郷』流の解決方法、『スペルカードバトル』。
しかし当然、吉影はスペルカードなど持っていない。
そこでいくつかのルールを設定した。
「勝敗条件を確認させてもらうわ。
貴方が十秒以上肩か背中を地面に着けたら、私の勝ち。
私が三メートル以上上昇するか地面に降ろされたら、貴方の勝ち。
私が勝ったら貴方は、さっき言った額の『手数料』を払って【外】に帰る。
負けたら、私は貴方を『無償』で帰す。
これでいいわね?」
「オーケーだ。
わたしが3つカウントしたら開始する。」
霊夢はお祓い棒を構え、吉影は【キラークイーン】を出現させ、身構える。
両者の間に緊張が走った。
吉影がカウントを始める。
「……いくぞ。
3……2……」
吉影と霊夢、二人の視線が空中で交差する。
「1ッ!」
吉影が声を張り上げた瞬間、
【キラークイーン】が右手のスイッチを押す!
ドグオォォォォォ!!
「きゃあっ!?」
耳をつんざく爆裂音が、先程貨幣がすっ飛んでいった方角から大音量で発せられた。
流石の霊夢もこの音はこたえたようで、耳を押さえてフラフラとしている。
「『【キラークイーン】第1の爆弾』……君の耳はしばらく使い物にならなくなった……」
吉影は耳を塞いでいた【キラークイーン】の指を退けさせる。
「当たりだよ…大当たりだ……さっきの貨幣は【キラークイーン】によって【爆弾】に変えておいた……
まあ、いくらわたしが喋っても今の君には何も聞こえないだろうがな……」
吉影は足下の小石を拾い上げ、【キラークイーン】に射撃体勢をとらせる。
「殺しはしない……わたしにとってマズいことになるからな……
二割程度の力で眉間に撃ち込み、昏倒させて地べたに叩き落とす。」
【キラークイーン】が小石を撃ち出した。
パワーAのスタンドによって弾き出された石つぶては、暴徒鎮圧用のゴム弾並みの衝撃力を伴って、無防備な霊夢の額に肉薄し……
カキーィンッ
軽い音を高らかにあげて、あらぬ方へと弾き飛ばされた。
「む!?」
予想外の現象に、吉影は眉をひそめ、霊夢を凝視する。
「―――――――夢符『二重結界』――――――――」
吉影がよく目を凝らすと、霊夢の周りは正方形の青白いオーラのようなもので囲まれていた。
「なんだと……ッ妖怪ですら昏倒寸前になる【爆音】を受けて、なお闘えるなど……」
驚愕し、声をあげる吉影の様子を見て、霊夢は顔をしかめさせて独り言を呟いた。
「―――――――――――ああ、耳が痛い…なにも聞こえないわ……」
ブンブンと頭を振り、意識をはっきりさせ、改めて吉影を見据える。
「あなた、どうやら『音を操る程度の能力』を持ってるようね。」
「――――――ッ……」
吉影はギリッと歯を噛み締める。
霊夢はさらに苛々とした様子で叫んだ。
「ああもうっ!
自分の声も聞こえないなんて、話なんてできっこないわ!!」
彼女はブンブンとお祓い棒を振り回し、吉影に突き付ける。
「まっ、話なんかよりも、【こっち】の方が得意なんだけど。」
「ぐっ!」
彼女がお祓い棒を一振りすると、
「なッ!?」
吉影は目を見開き驚愕した。
彼の視界を埋め尽くしたのは、無数の陰陽弾と、隙間が見えないほど密集したばらまき弾だった。
「【キラークイーン】ッ!!」
スタンドを完全に出現させ、拳の乱舞で迎え撃つ。
巨大陰陽弾をへしゃげさせ、叩き潰し、ぶっ飛ばす。
だが―――――――――
「うおォォォォあぁぁぁぁぁッ!!」
熊に群がる蜂の如く襲いかかる光弾が、【キラークイーン】の身体を打つ。
巨大陰陽弾に手いっぱいの彼にはそれらを弾くことなど到底できず、彼の身体は傷付いていくばかりだった。
そして遂に――――――――――
「ぐばぁ!!」
額に強烈な衝撃を受け、頭を大きく後ろに反らし、彼はぶっ飛ばされた。
空中できりもみに回転しさらに林の奥へと飛ばされ、背中から岩に激突する。
「ぐあッ!ウググ………!」
彼は地面にへたり込みそうになるのをなんとかこらえ、顔をあげた。
背中をしたたかに岩に打ち付けたため、衝撃が肺を貫き呼吸不能に陥る。
立っているのがやっとであるが、それでも彼は最後の力を振り絞り、沸き上がる敵意を隠さず霊夢を睨み付ける。
「やっぱり、飛べもしない外来人に弾幕勝負は無理だったかしら?」
まあ、最初からこうなるのは分かってたけど、と霊夢はただ宙に浮かび吉影を見下ろす。
「あなたが素直に言うこと聞いていたら怪我することなんてなかったのに、自業自得だわ。
私まで耳がおかしくなっちゃったし。
もし医者にかかることになったら治療費も請求するわよ。」
若干聴力が回復してきたのだろう、霊夢は吉影に挑発の言葉を投げ掛ける。
しかし、吉影は彼女の言葉に耳を貸したりはしなかった。
代わりに痛みをこらえ、戦闘体勢をとると――――――――――
「【キラークイーン】ッ!」
自分が激突した巨大岩を【キラークイーン】で頭上に抱え、鷹のように鋭い目で霊夢を睨み付けた。
【キラークイーン】が岩を空中高く放り上げ、
【キラークイーン】の脚で跳躍し岩に追い付くと、
「しばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!!」
岩に渾身のラッシュを叩き込んだ。
岩は空中で粉砕され、散弾銃の弾丸のように神社へと降り注ぐ。
「くっ…!」
霊夢が顔をしかめる。
自分ならこの程度の瓦礫の雨を避けるのは簡単だが、神社はそうはいかない。
「避けられるならッ!避けてみろッ!!」
全身の傷と痛みなど気にも留めない様子で、吉影は叫んだ。
着地し、霊夢に向かって全速力で駆け出す。
「くっ…!
卑怯なことやってくれるわね…!
大人げない………」
自分が月でやった所業を棚に上げ、霊夢は怒りを露にする。
「避けるつもりなんてないわっ!」
霊夢はフワリと真上に浮き上がり、
「叩き落とせばいいだけよ!」
懐から【スペルカード】を取り出し、頭上に掲げ宣言する。
「神霊『夢想封印』!!」
「―――――――――――むっ!?」
霊夢を中心に、先程の【通常弾幕】とは比べ物にならないほどの巨大な紅白陰陽弾が現れた。
それらはギュルンギャルンと高速回転し、岩の欠片をかき消していく。
さらに、
「くそっ!」
その内の何発かは吉影に向かって来た。
しかもどうやら彼の動きをホーミングしているらしく、彼の動きを正確に予測して狙ってくる。
「まだこんな強力な技を………!
だがッ!!」
【キラークイーン】が右手のスイッチを押した。
ドグオォォォォォォォォォ―――――――――!!
岩の破片が爆発し、爆炎が霊夢の『夢想封印』を破壊した。
「えっ、【爆発】――――――――――」
霊夢が『目を見開き』、一瞬の怯みを見せた時、
「いっ…!?」
突然両目に痛みが走り、反射的に目を閉じる。
「痛っ…何よこれ…!?」
目をこする彼女を見て、吉影は口角を上げた。
「【第一の爆弾】ッ!
自慢の弾幕でも塵は撃墜できまいッ……」
完全に視力を失った霊夢を見上げ、勝ち誇った笑いを上げる吉影。
「さらにこれでッ肉弾戦に持ち込める!
我が【キラークイーン】のパワーとスピードに、目も見えずに太刀打ちできるはずがないッ!!」
【キラークイーン】の脚で跳躍し、霊夢の正面に現れ、右腕を振り上げる。
「(さっきの弾幕……かなり痛かったぞ……
昏倒させる程度の打撃でケリをつけるつもりだったが気が変わった!
病院送りになる一歩手前の怪我を負わせてやるッ!)」
【キラークイーン】の拳が霊夢の脳天を狙う。
「しばっ!!」
パワーAの【スタンド】の拳が、振り下ろされた。
ドガァッ!
【キラークイーン】の拳が、少女の脳天を捉えた。
少なくとも、吉良吉影はそう思っていた。
だが―――――――――
「―――――――――――え?」
勝利を確信していた彼は、顔面に重い衝撃を受け、顔を歪めた。
「えっ!?」
【キラークイーン】の振り下ろした腕は、お祓い棒に受け流され、彼の顔面には霊夢の拳がめり込んでいた。
「えっ!?なん…ッ?
はぐっ!?」
さらに腹に数発パンチを受け、吉影はまた空に叩き上げられる。
「(こ…このクソアマッ…まさか……【キラークイーン】のパワーとスピードに勝ったというのかッ!?
そんな…事が…ヤツは人間だぞ…?
しかも目も見えないというのに……そんな…馬鹿なことが…!?)」
錯乱し状況が理解できないまま、吉影は為す術無く宙を舞う。
「ハッ!?」
霊夢は既に彼の隣にいた。
吉影は咄嗟に【キラークイーン】の腕でガードの構えをとった。
が、
「ぶげあああっ!!」
踵落としが腹部に叩き込まれた。
彼の内臓に強烈な衝撃が与えられ、呼吸不能になる。
「(は…速すぎる…強すぎる!
なんだ?
承太郎の【スタープラチナ】とは違った感覚…まるで【重力】の束縛から解放されたように、【無限の加速】のごとき速さだ……!!)」
彼はガクリと首を落とし、そのまま仰向けに落下していった。
全身を襲う激痛に苛まれなている間も、地面はグングン近付いて来る。
気が遠くなりかけながらも、気力で意識を繋ぎ止め反射的に【キラークイーン】の腕で身を守った。
グシャッ!!
「ぐばぁ!!」
境内の石畳に叩き付けられ、一瞬息が詰まる。
「ぐがっ!ゲホッ…………!」
咳き込み、苦しげに呼吸をする。
「(………あの守銭奴……【スタンド】の攻撃を受け止め、わたしの【キラークイーン】を上回るスピードで………)」
背中の痛みに呻き、動けずうつ伏せに倒れている吉影の側に、霊夢がフワリと降り、ホバリングする。
「―――――――――――何度言われたら気が済むの?
あなた、巫女をなめすぎよ。」
霊夢は倒れた吉影に向かって、お祓い棒を突き付けた。
「『背中と肩』……地面に着いていないわね。
まだやるつもりなの?
そんなに死に急いで何がしたいのかしら?」
「ッ……く……」
【キラークイーン】の手で石畳を引き剥がそうとしていた吉影は、息を飲み動きを止める。
「しょうがないわね。
そんなになっても闘いたいのなら………」
霊夢がバックジャンプで距離を取り、お祓い棒を振り上げる。
「まったく、疲れるから嫌なのよね、コレ。」
ブツブツとなにか呪文のような言葉を呟き、お祓い棒を振って祈祷する霊夢。
それを見ながら何もできず、歯軋りして死にかけのカナブンのように這いつくばる吉影。
吉影が固唾を飲んで見つめる前で、祈祷はものの数秒で完了した。
「――――――――――天石門別命(あまのいわとわけのみこと)」
霊夢が厳かに呟いた。
「………ッ!!!?」
ゴォッ!!
吉影は唯一動かせる目すら見開いたまま固まってしまった。
「なっ!なんっ…!?」
宙に浮く霊夢の足下に、漆黒の円が出現した。
「そ、それは…!」
ゴオオオオオオォォォォ―――――――――
円は石畳を呑み込みながら拡がっていく。
「【ルーミアの闇】と同じ……?
いやッ、違う!これは……これはッ…!」
拡散する闇の円盤が、吉影の身体を呑み込もうと目前に迫って来た。
「これは……【穴】だ!
途方もなく深い【穴】だッ!!」
闇が到達し、吉影の身体を支える石畳をかき消した。
身体がガクッと穴に堕ち込もうとする。
「【キラークイーン】ッ!!」
彼は自分の【スタンド】の名を叫び、穴から引き揚げさせようとした。
だがしかし……
「なぁッ―――――――――」
【キラークイーン】は彼の呼び掛けには応えなかった。
「なんだとォォォォォ―――――――」
吉影の両腕からは、なれ親しんだ筋骨隆々の腕のビジョンは現れず、【穴】の淵へと伸ばした手は空を切った。
「そんな…バカな…!
【スタンド】が封じられるなど…!!」
彼の身体は重力に従い、伺い知ることのできない闇の底へと向かい始めた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――――――」
彼はドス黒い暗黒をなみなみとたたえた口の中へ、真っ逆さまに堕ちていった。
「―――――――――そんな…………こんな…事が………」
薄れゆく意識の中で、吉影は独り言を呟いた。
「ゆ…【夢】だ……これは…【夢】だ………
この私がこれほどまでに追い詰められてしまうなんて………きっと…これは【夢】なんだ……」
高速で落下しながら、彼はもう随分小さくなった【穴】の入り口を見上げた。
見ている間にもグングン小さくなっていく。
遠く離れていく。
「……わたしは…また違う世界に連れて行かれるのか……それとも今度こそ裁かれるのか………」
闇へと堕ちていく意識の中、もう最後になるだろう光地上の光を目に焼き付けようと―――――――――
「―――――――――?
待て………何故【キラークイーン】が現れなかったんだ?」
彼は何かに気付いた。
もう点にしか見えない地上の光より確かで強い光が、希望が彼の心に冷静さをもたらす。
「…『能力を封じる能力』………?
いや、それならこんな穴に叩き落とさなくてもいいはず………
それに、わたしは確か【攻撃】の前にはすでに【キラークイーン】を出していた……なぜいつの間にか消えていたんだ?
わたしが無意識のうちに仕舞ったというのか?」
どんなヒドイ時にこそ…最悪の時にこそ、【チャンス】というものは訪れるという過去からの教訓。
それが彼の元来持つ高い知能を覚醒させた。
「いや、それ以前に、この【穴】はなんだ?
堕ち始めた瞬間に見たが、この穴には側面があった……実際に見たり聞いたりしたことはないが、【空間の狭間】とかなら横にも無限に広がっているんじゃないか?」
吉影はハッと閃いた。
強く輝く希望が、光が、彼の精神を照らす。
奈落の闇の侵略を止め、絶望を打ち払う。
「そうかッ!
これは……これは【夢】だッ!!
わたしの中だけで起こっている、ただの【夢】ッ!!」
彼の身体が、落下を止めた。
重力から解き放たれたように、フワリと浮き上がる。
「これは…幻覚だ…!!」
彼の身体から光が漏れ出した。
光は闇を消し飛ばし、拡散し、染み渡っていく。
彼の視界いっぱいに柔らかい光が広がっていった―――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――……………
「―――――――――は…………っ…」
彼は、目を開けた。
その目の1cm下には、境内の石畳が広がっていた。
「………ぐっ」
吉影が顔を上げると、そこには靴があった。
その上にあるのは、彼を見下ろす霊夢の姿。
「たいした外来人ね、あなた。
神様の幻覚を看破するなんて。
なめていたのはお互い様ってことね。
でも……」
言葉とは裏腹にたいした感動もなく霊夢は話し掛ける。
「もう動けないんでしょ?
指先一本………」
「ぬぅぅ………」
吉影は呻くことしかできない。
実際、先程の幻覚による精神ダメージで彼は【キラークイーン】を動かすことができずにいた。
「もう決着はついたわよ。
早く帰りなさい。
まっ、その様子じゃ歩けもしないでしょうけど。」
射程距離に入っているのに何もできず、悔しさを噛み締める吉影。
そんな状況で………
「おいっ!なんださっきの光と弾幕は!?
いったい何を…、!!」
妹紅が文字通り飛んで来て鳥居をくぐり、そしてこの光景を目撃した。
「お、おいっ?川尻、どうしたんだ!?
何故そんな傷だらけに……」
彼女の目が霊夢に移る。
「霊夢っ!お前っ川尻をこんなにしたのかっ!
彼は外来人だぞ?
何故こんな…!」
「(まずいっ妹紅に介入されては、さらに話がこじれてしまう……
何より…妹紅ではコイツには勝てないッ!)」
怒りに髮から火花を散らす妹紅を、吉影は呼び止める。
「やめろ…妹紅…」
「川尻!?どうしてだ?こいつは…」
「いや…いいんだ……これは二人で同意して行った【スペルカード戦】の結果…わたしが負けた、それだけだ………」
「【スペルカード】?霊夢っ!お前っ川尻に何故そんなことを…」
「あら、【交渉】が決裂したからよ。
『幻想郷』での争いの解決方法がこれだって聞いていたらしくて、彼の方から持ち掛けてくれたわ。」
「なん…だと…?
卑怯なっ!川尻が圧倒的に不利なのは、目に見えているじゃあないか!!」
「妹紅、【スペルカードルール】では、負けた方がおとなしく引き下がるのだろう?
だったらルールにしたがって………」
「何を言っているっ!
こんなヒドイ出来レースにルール違反もへったくれもあるか!!」
「妹紅…頼む、お願いだ……ここで言い争っても何も解決しない。
それよりもわたしは人里に戻りたいんだ……早く診療所に行きたい……」
「………川尻…」
吉影の弱々しい声に、妹紅はひとまず怒りを抑え、彼の所まで飛び、彼に肩を貸した。
吉影はボロボロの身体に力をこめ、なんとか立ち上がる。
「お帰りのようね。
じゃ、夜道に気を付けて。」
霊夢は無愛想にそれだけ言い残すと、二人に背を向け神社に戻ろうと――――――――――
「(…っ!?)」
霊夢は身震いして振り返る。
その先では、妹紅に肩を貸されて鳥居をくぐろうとしている吉影が、こちらを振り返っていた。
「(何……?
いま、一瞬だけ、とてつもない…【殺気】…が…!?)」
吉影は、妹紅に悟られないように、正確に霊夢だけを射抜くように、殺気を発した。
霊夢をギロリと睨み、心の中ではただひとつのことが渦巻き反響していた。
霊夢……確かに彼女は強い。
今の吉影では、本気で殺すつもりで闘っても、いくら策を練っても、到底敵わない。
だが―――――――――
殺意、憎悪をこめて睨み付ける。
霊夢との闘いの中で、吉影は【絶望】したことはあったが、『死の恐怖』を感じたことは一度もなかった。
―――――――――霊夢からは微塵も殺意や殺気が感じられなかったからだ。
つまり、彼女は吉影を殺すつもりなど毛ほどもなかった。
また、そのことは彼女が【外の闘争】を経験したことはないことも表していた。
つまり、狂気の殺人鬼と楽園の素敵な巫女では、殺し、殺されかけた経験が桁違いなのだ。
吉影にはそれがよく分かっていた。
だから彼は心の中で繰り返し、呪詛のように呟いたのだ。
「(【始末】してやる…!)」
霊夢から目を離し、妹紅の背におぶさりながら、吉影は憑かれたようにそう繰り返していた。
「(【始末】してやるぞ……
わたしに【赤っ恥】の【コキッ恥】をかかせてくれた、守銭奴巫女……
わたしの【平穏な暮らし】を邪魔してくれた小娘………
きさまの生きてきた十数年の間、殺しも残虐もないぬるま湯の世界の中で、感じたこともなかった【死の恐怖】を味わわせてやる……)」
二人は鳥居をくぐり、沈みゆく夕日の方角へと飛び出していった。
境内にひとり残った霊夢は、がらにもなく真剣な表情をして、ポツリと呟いた。
「―――――――――晩御飯、何にしようかしら…?」
第五話、いかがだったでしょうか。
楽しんでいただけたなら幸いです。
霊夢には悪役を演じてもらいましたが、私は彼女を【自由奔放】と捉えており、さらに霊夢総受けの愛されいむがジャスティスな程度には霊夢を良い娘だと信じて疑わないので、悪者っぽく描くのに苦労しました。
彼女の辛らつな態度にも、理由はございます。
最後まで御覧いただければ、おのずと分かっていただけることでしょう。
次回からはつかの間の日常パートです。お楽しみに。