末永くお付き合いいただければ幸いです。
輪廻転生、生まれ変わり、再来、永劫回帰。言い方は多々あれど、私の経験した事実は一つだ。すなわち、別世界からの転生である。そしてこの世界が『俺』のいた世界での創作物の世界であることも理解している。
何故か、と問われれば、私は『神』なる者に会ったのだ、と答えよう。頭がイカレた人間だと思われて当然の事であるから、誰かに話したことはないが、私の存在と私の能力が、いずれその証明になると私は信じている。
思えば、随分と勝手な条件での転生だった。曰く、『創作物の世界に自分の気に入った魂を送り込んで、その世界を観察しようとした結果、影響が本来関係しない異世界にまで及ぶ可能性が出てきたためそうなったときの安全装置となること』とは、神とやらも随分と人間臭い。
もっとも、火消しが必要になる可能性は低く、異世界に過度の干渉をしようとしなければ力を自由に振るってくれて構わないという条件は、事故死して未練だらけの『俺』には随分と魅力的に映ったようである。
『俺』の望む力を特典として付けるというのも『俺』が転生に乗った理由だとも思う。
『俺』が望んだ力……つまり、別世界での『俺』が願い、『私』が持っている能力であるが、それは
自分の暇つぶし、世界の観測に悦楽を求めている『神』ではあるが、良心はあったのだろう。『俺』の魂の容量では
が、『俺』はとんだマヌケだったらしく、それでもこの能力がいいとごねた。転生以前の変質を迎える前の私が成した事とはいえ、まったくもって恥ずかしい限りだ。
容れ様のない物を無理に押し込めるにはどうすべきか。その為には、転生に際して生じる作業工程の一部を省略しつつ、同時にかつての自身が保有していた情報容量を削減する事で領域的余地を抉じ開ければよい。
具体的には、
しかし、我が事ながら情けなく、また愚かしい。そんなことをすれば自分が自分でなくなる、『俺』が『私』に代わってしまう程度のことにも気づかなかったのだから。おかげで、前世の人格である『俺』は私の判断基準に軽い影響を及ぼすのみ、記憶にいたっては情動を伴わない知識に成り下がった。
とはいえ、それも今となっては後の祭り。
『私』は『私』として、既に個を確立しているのだから。
それに、これを斟酌してか否か、『神』は火消しとしての役割を十全に発揮できるよう、能力の一つとして
『神』だ『神』だと言ったが、この世界で人が生み出した既存宗教論に語られるような『神』ではない。私が出会ったその『神』は、世界と世界の境界に揺蕩うモノ、即ち『狭間の神』と自らを名乗った。まぁ、あの神が何者であるかなど、転生する私にとっては詮無き事。今更の些事、ナンセンスという物だろう。
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さて、今の私の自己紹介を記しておこう。いつか読み返すときが……くるかどうかはわからないが、あの時はこうだったと思い出すということは『無駄』ではないだろう。
私の名前は、
そんな私は今、一族類型に於いて冷ややかな目を向けられる立場にある。所謂、ネグレクトという奴だ。
吸血鬼とは、牙でもって生き血を啜り、コウモリや狼にその姿を変え、霧となって惑わし、鏡に映らず、棺で休息を得て、怪力と巧みな魔術でもって君臨する夜の王でなければならない。というのが私の父母や一族の考えであり、誇りである。己の柱を己の力ではなく種族の特性に求めるあたり、
それに、かく言う私は純血の吸血鬼でありながらこれらの能力の一部一旦しか使用することが出来ない。コウモリや狼、霧への変化が出来ず、鏡に写り、棺を必要としない。魔術・怪力に秀でてはいるものの、あくまで同属の間での話だ。
再生能力であれば他の吸血鬼に比べて極めて優秀な部類だが、彼らからすれば霧となってしまえばいいという考えが大勢を占める、さして評価されるものではない。彼らにとって大切なものは“吸血鬼らしさ”というわけだ。まったくもってくだらない。
吸血鬼の能力を私が使えない原因もおおよそ予想はついている。『俺』が求めた魂の前借分、
上でも述べたが私は未だ
話を戻そう。私が一族から無視される理由は吸血鬼としての能力を使うことが出来ないに他ならないが、加えて一族の弱点である十字架、流水、家に招かれなければ入れないことや魔除けの香草の類が一切効果をなさず、日光しか主だった弱点がないことも恨まれる一助だろう。
現在、私と普通に接しているのは姉のエルヴィラだけであり、正直なところ私は彼女以外の親族に対して、親愛どころか最早怒り等を含む何の感情も浮かばなくなっていた。最後に彼らが私と普通に接したのは4歳の頃だったか。6歳の誕生日から彼らは私を、ほとんど存在しないものとして扱い始めた。
『俺』の精神では持たなかったか、姉に依存していたであろうことが容易に推測される。まったく、甘ちゃんな上にマヌケとは前世の私は随分とダメな男だと突きつけられているようで溜め息をつきたくなる。
私とて高い代償を払った能力が使えないからといって、ただ怠惰に過ごしていたわけでもない。
能力は発現しない以上鍛えられないが肉体的な、魔術的な部分は鍛えることが出来る。単純な肉体的なパワーであれば、私の知りうる吸血鬼の中に限れば私が最も優れている自負はある。
それに幸い、唯一まともに接してくれる姉上は魔術的な素養があり、魔術・魔眼の使い手として若いながらに名を馳せている。そんな彼女から学べる環境というのは、彼女以外の親族に価値がなくとも、存外素晴らしいものかもしれん。
この日記を書き始めようと思った切欠も彼女から学んだ魔術が一定を納め、私だけの異空間への収納が可能になったからというのが大きな理由として挙げられるのだから。
あぁ、そういえば私の目標をいまだ記していなかったか。原作への積極的な改変だとか介入、そんなものに興味はない。私の他のもう一人の転生者とやらが動き、結果として原作とやらがオリジナルと分岐するかもしれんが瑣末なことだ。
そもそも私、いや、『俺』はこの原作とやらをさして知らん。『美少女』と『パワーインフレ』と『おっぱい』、『駒王町』といったキーワードと、話のあらすじ、好みのキャラの容姿程度の知識しか有していない。使えん奴だ。
……また話がズレたか。私の悪い癖だ、直していかねばなるまい。私の目標、目的と言っても良いが、より多くの『魂の在り方』を私は知りたい。『俺』にとってここは創作物の世界だが、『私』にとってここは現実の世界だ。中途半端に『俺』と
故に私は近い将来この閉鎖された吸血鬼の街を出て行こうと思う。彼らの伝統だとか“らしさ”にこだわる姿勢は十二分に見させてもらった。最早必要ない。出て行く条件は、
私が出て行くのに反対するというのなら、彼らと戦ってみるのも面白いかもしれない。
楽しみだ。
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ペンを置き、インクが乾くのを待つ。初めて日記というものを書いたが、なるほど、これが自分の考えをまとめる上でそれなりに有用であることに疑う余地はない。私が生まれ、18の歳月が流れた。前世の記憶や情動は少しずつ薄れており、じきに完全に『俺』は『私』に統合されるだろう。前世の記憶や情動は薄れているが、今世の記憶は薄れずに記憶し続けることが出来ている。世界を渡った結果か、特殊な転生の結果か……もっとも、私にとっては事実であり、事象でしかないが。
『俺』が完全に『私』となる前の考えを日記に書き残せたことは、この先見返した際に面白いのではないかと思う。本来なら前世でのあの時、あの瞬間に終わってしまっていた命だ。望外の幸運で私はここにいる。3度目はあるまい。
そう、だからこそ……
「フフフ……2度目の命、楽しませてもらおうじゃあないか。」
原作9巻読了10巻なう
続き買いにいかなきゃ(使命感
ここまで読んでいただきありがとうございました。