ハイスクールD×D+DIO   作:ダストブロワー(缶)

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第9話 バイサー

 彼は、悪魔に転生して命を拾ったらしい。

 

 報告を聞いて、彼が死ななかったことに私は安堵し、彼が悪魔になったことで堕天使と人間の頃以上に隔たりが出来てしまったことに寂しさを感じずにはいられなかった。

 

 虫のいい話だが、願わくば、私の計画を阻まず悪魔として平穏に暮らしてほしい。彼が『性質の悪い女に引っかかっただけだ』と、いつか笑い話に出来るようになればいいと、そう思う。

 

 

 

 ミッテルト、カラワーナ、ドーナシーク。私に従う堕天使。

 

 彼らもまた、私と同じくどこか歪んでいる。

 

 ミッテルトは物事を決定することが出来ない。自分に自信が持てず、誰かに従わないと精神が不安定になってしまう。

 探査・感知を得手とし、補助系統に優れた力を持っている。

 

 カラワーナ、ドーナシークの兄妹は三勢力大戦の末期に生み出された天使で、本質的な部分で戦いを求める。なまじ自分を律せるがゆえに、大規模戦闘を禁じる総督の命に背けず、戦う機会を失い、どうしようもないところまで追い込まれてしまった哀れな子達だ。

 

 彼らは皆、私が意図的に上層部の命令を曲解していることに気づいている。気づいていても、道を違える事を選べないミッテルト、戦えるかもしれないという淡い期待の為に見て見ぬフリをしてしまうカラワーナとドーナシーク。

 

 

 

 どうすればよかったのだろう。私は、私達は。

 

 完全に満たされたいとは言わない。ただ、私は彼らの最低限を満たしてやりたいだけ。

 

 これが悪手なのはわかっている。神器が有用だからといって、本当はアーシアに犠牲を強いるべきではないのだろう。

 

 だけど、私にはもうどうすればいいのかわからない。わからないのだ。

 

 

 

 彼なら、イッセー君なら、私達に何か―――やめよう。彼はもう、私達とは関係がない一悪魔に過ぎないのだから。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔 バイサー についてをまとめた報告書をパラパラと見やる。なかなかどうして、面白い結果になったものだ。

 

 『魔王製造計画』の成果。実験体は全て最前線に送られている以上、処分されたと思ったが、どうやら残っていたらしい。

 

 『魔王製造計画』―――戦時中、同属の純血悪魔が減少するなかで発案、実行された計画。血を保つことができなくなった血族に対し、純血の悪魔の子供一人が出来るまで支援をする代わりに、指定された悪魔とのハーフを秘密裏に生産、徴収する。徴収した悪魔同士で強引に子を生産し、徴収した悪魔――つまり親となった悪魔――の記憶を消去して本来の血族に戻す。

 

 純血を尊ぶ発想を180°転換し、純血ではなくひたすらに混血を極めることで多数の悪魔の特徴を受け継がせ、人為的に魔王になりうる強大な悪魔を作る計画だ。4種以上を継ぐと血を御しきれず生まれてまもなく死亡する例がほとんどの為、実験体そのものの数の少なさ、加えて計画の途中で中心となっていた上級悪魔全員が戦死。計画そのものの秘匿性もあって一般どころか新政権にすら引き継がれなかったと見える。

 

私も、旧魔王ルシファーの側近を務めていたロフォカレが仲間にいなければ知り得なかったことは想像に難くない。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。私が興味を持つのはバイサーの今後だ。

 

 7種の悪魔と人間の血が混ざった悪魔、数奇な生まれが故かはわからないが『引力』は私とバイサーを引き合わせた。

 

 ……会ってみるか。手遅れなほどに自我を失っていれば消せば良いだけの事。

 

 弥彦と黒歌に命令として伝えておくことを頭においておこう。

 

 

 

 そういえば、最近この街に入り込んでいた堕天使だが、どうやら狙いは希少な神器の摘出らしい。大勢に影響を与えれる物ではないため放置することにしたのだが、摘出される神器の持ち主にピエールが興味を持ったようだ。

 

 ピエールも元を辿れば教会に属していた人間。 教会を去った人間と、教会から追われた神器所有者。何か思うところがあるのかもしれん。

 

 放置する心積もりではあったが、本人が興味を持って接触するのであれば話は別だ。介入を禁止せず好きなように動くよう指示を出し、後は随時報告を行わせれば、私は待っているだけでで詳しい情報を手にできる。必要なら私やジラマ婆が首を突っ込むのも一興だろう。彼がそれでいいという場合に限るが。

 

 彼は、己の求める答えを今度こそ見つけられるだろうか。

 

 『答えは神のみぞ知る』と言うには、彼の信じていた聖書の神が既に死んでいるのは随分と皮肉なものだ。

 

 

 

 

 さて、俗に言う『原作』が始まるからだろう。ここ何年かは実に興味深い因縁や巡り会わせの者が多い。今後も期待できそうで私としてはなによりである。

 

 あぁそうだ。気になる報告があがっていたな。赤龍帝に弟がいる。薄れて余り信用出来ない『俺』の記憶だが、確か赤龍帝に弟はいなかったはずだ。

 

 となれば、彼を転生者候補として見ておく必要があるか。一応情報を集めておくよう指示せねばなるまい。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 俺は兵藤慎二、いわゆる転生者ってやつだ。あ、兵藤一誠は俺の兄だ。年子ってことになる。

 

 転生するときによくある転生特典が貰えたから俺は『戦える能力』が欲しいって願ったんだけど、元が一般人な俺には魂の限界を超えてしまうらしく、無理だった。世知辛いぜ。

 

 でも、転生先がハイスクールD×Dって聞いた当時の俺氏、なんとかならないかとごねた。いやぁごねた。土下座攻勢に出てたね。

 

 結果として、原作知識の九割以上と、前世でのサブカルチャーや学校で勉強した内容とか、いろいろ代償に忘れたけど、俺は元気です。ではなく、ハイスクールD×D世界相応に弱体化した『戦える能力を使用できる可能性』を確保することに成功したぜ。訓練と修行と心構え次第で使える、かもしれないってことだな。

 

 まぁ、困ったことがあってさ、原作知識に加えて、肝心要の転生特典に何選んだかも特典を使えるようにするために忘れちゃったから、特典が戦闘で使えるものであることと、原作では戦いが結構あったことくらいしか、この世界についてわからないんだよな。

 

 何でも、知識に記憶も価値は同じではないそうで、未来予知になる原作知識や他の世界での創作物の知識なんかは、別世界への転生にあたって非常にコストが高くなるらしい。まぁ、戦闘系の能力を貰いつつも、一部とはいえ前世の記憶を引き継げただけ良かったと思おう。

 

 

 

 それに俺も馬鹿じゃない(と思ってた)し、何かしら戦いとかがあるんだろうなとは考えた。だから、小学校入る前くらいから走ったり筋トレしてみたり、体を鍛えてみたりもした。そうそう、中学三年で腹筋割れたり、上腕モリってなったり、所謂『カッコイイ細マッチョ体型』になれたのは正直嬉しかった。剣道部で全国大会まで行けたのも思い出深いな。

 

 おまけに家の近くのコンビニには話しやすい気のいい美人な姉御肌店員もいるし、女子受けも変態魔神イッセーの影響を除けばおおむね中立ないし好意的だ。覚えてないけど残念だった前世と比べれば雲泥の差がありそうだ。

 その店員に、『君の兄さん、好色本を買いに来てたよ。ハハハ、青いねぇ。あぁ大丈夫。未成年だし勿論売ってないよ。』と言われた時は恥ずかしかった。本当に恥ずかしかった。一兄はそんなんだから女子に蛇蝎の如く嫌われてるって何故気づかないのか。後、エロくない方の兵藤と言われる俺の気持ちを少しは考えて欲しいと真剣に思う。

 

 高校も志望していた駒王学園に入学できたし、新しい人生、結構上手くいってるじゃんってそう思ってた。

 

 

 

 だけど正直、そんな甘い考えはこの世界を舐めてただけだった。

 

 

 

 あの日、変態道を突き進む性欲の権化な俺の兄が、彼女とデートに行くなんて言うから、絶対失敗すると思った俺はこっそり尾行することにした。そして夕暮れ、金髪で青い眼をした可愛い女の子に道を聞かれて、実はその子が堕天使で、ぐっさりやられて気絶した。

 

 

 

 最後に見たのは、俺を刺した堕天使の、今にも泣き出しそうなほどに歪んだ顔と、哀しげな瞳だった。

 

 

 

 起きたら家だった。あぁ、あいつも堕天使だったのか。正直、15年も平和に暮らしていたせいで、読んだ原作小説なんてほとんど忘れてしまってた。

 

 でまぁ、そこからは急展開。一兄ともどもオカルト研究部に呼び出だされ、俺が『戦車』の駒を、一兄が『兵士』8個の『悪魔の駒』を使って一命を取り留めたことを知る。俺が重傷で、一兄は致命傷だったらしい。ほら、一兄。そこは『なんとか致命傷ですんだぜ』って言ってほしかったよ。

 

 ただ、俺は『悪魔の駒』を使われたにも関わらず、悪魔に転生していないという珍妙過ぎる状態になっており、現状では原因がわからないようだ。もしかしたら今後、冥界で精密検査をするかもしれないので覚えておく。

 

 魔方陣等、悪魔の技術的には眷属として認識されるし、『戦車』として力も上がっているようだけど、種族的には悪魔になっていない中途半端な状態のようだ。心当たりが転生特典な気がするけど、覚えてないのでどうしようもない。参っちゃうぜ。

 

 それから神器を発現させる羞恥プレイを実施。何をしたのかは思い出したくないので割愛する。

 一兄が赤色の凄く凝った篭手を出現させることに成功し、間近で見てテンション急上昇の俺。

 

 俺にもあるらしい神器を発現させたところ、出てきたのは、刀身が曇り錆付いた上に中央で折れた西洋風の直剣。

 

 主人公補正とやらがないからこうなんだろうかと真剣に悩んだのは秘密である。この折れた剣が転生特典なら、きっと修行とかすれば戦えるようになるはずだ!というかそうじゃないと剣みたいに心が折れそうだぜ。なんで『悪魔の駒』の転生が中途半端なのかもまるでわからないし、神器も最初から破損状態……。

 

 ……あ、前途多難さだけは主人公っぽいか?嬉しくないなぁ……。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、今日は悪魔としてではなく眷属としてはぐれ悪魔討伐に同行している。悪魔としての契約とかもあったらしいけど、どっちつかずな俺はとりあえず保留になりました。眷属にはなっているようなので、どうあれ今後は荒事に巻き込まれる可能性が高いと考えられる為、経験だけはしておくべきということになったのだ。

 

 討伐に戦力にならない俺達を連れて行っても、と一兄が言っていたが、下僕の特性――『悪魔の駒』の特性と言い換えれる――の説明を、リアス先輩は実践を通して俺達に教えることにしたらしい。後、流石に武器無しは怖いので木刀(京都土産)を装備していく。素手よりはマシなはずだ。

 

 駒集めの説明が一段落したところでリアス先輩に質問をしておく。

 

「ところで、今回のはぐれ悪魔ってどんな奴なんです?」

 

 戦うことになるだろう相手だ、事前情報は聞いておかないと。

 

「そうね。昔一度会ったことがあるのだけど、そのときは大人しそうな方で、とても主殺しをするようには見えなかったわ。」

 

「……主殺し。」

 

 搭城さんがつぶやく。

 

「あれ?小猫ちゃんどうかしたの?」

 

 一兄が塔城さんに話しかけている。一兄は確かに紛うことなきエロ大好きのド変態ではあるが、人の心の機微を読み気を配ることに関しては長けている。普段はエロが前にでてくるから親しくないと気づけないけれど。まぁ、親しくなるにはエロさが特大の障害なわけだが。

 

「いえ…・・・なんでも、ないです」

 

 昔何かあったのかな。今聞けるような話でも雰囲気でもなさそうだ。

 

「話の続きだけれど、バイサーは出自が明らかではない悪魔なの。複数の悪魔の血を引いているのだけれど記録がほとんどなくて、残っている資料の部分からは大戦時の私生児と予想されているわ。

 本人も上級悪魔付近までの魔力量を持っているのに親が一族の子だと認知しなかったってことは大戦に巻き込みたくなかったからじゃないかと私は思っているの」

 

 ふむふむ、でもそうなると聞けば聞くほど反逆しそうな人(悪魔か?)には思えないけどなぁ。

 

「そんな人が裏切るなんて、そこまで主は酷い奴だったんですか?」

 

「アモン家の三男で、確かに古い血統、純血にこだわる悪魔で評判は悪かったわ。眷属の扱いもよくはなかったようだし……。

 けれど彼女にとって見れば、主を殺してはぐれ悪魔になるほどの悪さではなかったと思う。待遇に不満があれば、手続きを踏めば眷属契約を一時的に凍結する制度も試験的に始まっているし、他の悪魔を頼ってもよかったはず。」

 

 でもそれだと本格的に理由がわからないな。うーん、何か見落としがって考えても俺は直接あったわけじゃないし無理だよな。

 

「ですが、原因はどうあれ今は討伐依頼が出されているはぐれ悪魔ですわ」

 

 姫神先輩がそう言い、それにリアス先輩が返事をする。

 

「そうね。気を抜かずに――――ッ!」

 

 

 

 背筋が粟立つ。この廃工場に来てから、ずっと感じていたピリピリとした感じが急激に増大する。

 

 試合中に強いやつが放ってきた気持ちのいい敵意じゃない。こちらを害することのみを考えた紛れもない殺意が叩きつけられる。

 

「あら?あらあらあらあら、アラアラアラアラアラアラアラアラアラ。

 どちら様かしら?お客様かしら?アモン様に御用かしら?」

 

 闇の中から場に見合わない明るい声と、膨大な殺気が放たれる。

 その中心、俺たちから見て前方の暗闇から裸の女性の上半身が現れる。だが、位置がおかしい。あの位置に胴体があるなら彼女は浮いていることに―――違う。

 

――ずんっ。

 

 歩くには重過ぎる足音。

 

 次に現れたのは巨大な獅子の顔と前足、コイツ、女性の体が獅子の首と胴体の付け根から生えてやがるんだ。

 続いて彼女の体の後ろからヌっと出てきたのは黒く、そして捩れた巻き角を持ったヤギの頭とヤギの後ろ足、そして鱗で覆われ、間には皮膜が張られた羽。

 うげっ。尻尾は蛇か!独立して動いてんのかよ……。それと、近づいてきたからわかったが人間部分の腕もドラゴンみたいに鱗で覆われてるじゃないか。

 

「アモン様に御用があるのね?あぁ!お茶をいれないと!あぁでも、アモン様は私が、私が……。違う!違うちがうちがうチガウチガウチガウチガウ!!

 

 私は、私が……?あ、ああああああ、アアァァァアァァッァァァァァァアァァァアァァ!!!!

 

 …………ねェ、貴方達。私お腹が空いてしまいました。少々はしたないですが、ちょっと食事にしようと思います。食べ終わった頃には貴方達も私の主様であるアモン様に会えると思いますから、アモン様がどこに行かれたか、後で教えてくださいね?」

 

 

 どう考えても尋常じゃない。人間では絶対に出来ず、俺の知ってる悪魔ともかけ離れた異形と化したバケモノ『はぐれ悪魔バイサー』との戦いが、始まろうとしていた。

 

 




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