非化学戦旅団活動報告書   作:Ⅵ号鷲型

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ハボマイ演習後段

 草原をひた走る界異となったBMP-2M歩兵戦闘車に揺られ、セルゲイは手にしている魔術兵向けに改修されたAK-74Mをを握りしめる。お世辞にも乗り心地良いとは言えないが、ひた走る歩兵戦闘車の後ろを走らされるよりかは遥かにマシなのは確かだが。

 遠くからは砲声が轟き、所々で遠くからの爆発音が響き渡る。恐らく近くで砲兵隊が砲撃訓練でもしているのだろう。演習場に着いてかずっと四六時中撃ちまくってご苦労な事だ。

 

「タチアナ大尉。現場に着いたらセルゲイ伍長に同行してくれ」

「…………軍曹?」

 

 分隊長のラベノフ軍曹の衝撃の発言に思わずセルゲイを言い出した張本人の顔を見た。今、この分隊長様はなんといった? 

 当の軍曹の顔から「この決定に口出しはさせないぞ」という睨みに、セルゲイはガックリと肩を落とす。やはり今日は厄日のようだ。

 

「うっす軍曹。セルゲイ伍長、よろしくっす!!」

 

 ガラガラとやかましい音を立てて走る歩兵戦闘車の走行音に負けじと、タチアナ大尉はその小柄な体躯から懸命に声を張り上げる。セルゲイは渋々片手を挙げてそれに応えた。

 とんだ貧乏クジにお守り役を押し付けた軍装を恨みながら、遠くに仮設された村を視界に入れる。

 あそこで今日はドンパチだ。退屈な警戒任務や連邦少女やヴォスホート部隊が本来やるような祓魔任務よりは幾らか楽しい。

 

「よしお前ら! 内容のおさらいだが、今日はあの村に潜む敵勢力を連邦少女と共同でこれを排除、村を確保するのが今日の仕事だ!! 村の中で俺たち以外は全員敵だと思え!! 良いな!!」

「「хорошо!!」」

「х、хорошо!!」

 

 分隊全員の声に遅れてタチアナ大尉も返事する様子にセルゲイはやれやれと首を振った。何も無ければいいが、どうせお偉方は喝を入れるとかいって変な隠し玉を用意してるに違いない。

 

「まったく、今日はツイてない…………」

 

 

 ─────────────────────

 

 

 さらにBMP-2M歩兵戦闘車の上に揺さぶられること数分。ようやく村がはっきりと見えてきた時、ガクンと少しつんのめるように停まってその上にいたセルゲイ達も大きく揺さぶられた。

 荒々しい運転はいつもの事だが、いつももう少しマトモに停る事は出来ないのかとセルゲイは悪態をつく。

 楽に移動できるのはここまでだ。だがお楽しみはここからだ。

 

「着いたな。よっし、お前ら!! さっさと降りろ!」

 

 軍曹の号令で歩兵戦闘車からゾロゾロと兵士たちは降り、セルゲイも外套の裾を掴んでサッと素早く降りる。

 そして歩兵戦闘車に残されたタチアナ大尉は少しだけ困った顔。その表情にセルゲイはまさかと思った。

 

「大尉? まさとは言いませんよね?」

「あー、そのまさかって言ったらどうするっす?」

 

 ビンゴだ。幾ら祓魔においてのプロフェッショナルたる連邦少女といえど、体格問題に関してはどうしようも無い部分はある。

 ため息をつきながらセルゲイはまるで両腕を挙げた。

 

「いやー、まさかこの歳で抱っこされるなんて思わなかったっすねー」

 

 軽く言ってみせる大尉の両脇に手を差し込んで、少しだけ力を入れて歩兵戦闘車から降ろす。

 助かったっすと言われても、今度から自分で降りろと階級が数段以上も上の相手には言えずただ苦笑いを浮かべた。

 

「セリョージャ、ボヤボヤすんな!! 大尉もBMPの後ろに!!」

 

 軍曹の一声に押されるように二人でBMP-2M歩兵戦闘車の背後に隠れた。

 それを合図に歩兵戦闘車がゆっくりと前進し、村へと突入を開始した。

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 歩兵戦闘車の砲塔がぐるりと周り、ズダダダダッとよく響く発砲音と共に家屋を模した小屋に次々と真っ黒な弾頭の30mm機関砲弾が撃ち込む。中にいた一号級の鬼種界異はこれは堪らんと出たが運の尽き。

 

「射撃開始!!」

 

 分隊長の号令一下、家屋の入口を狙っていた軽機関銃が、セルゲイらの握っている突撃銃が一斉に火を吹き次々とその鬼達の体を黒不浄の弾頭が貫き断末魔とも怒号ともとれる咆哮を響き渡らせる。だがそれでも弾幕は止まない。

 

「セリョージャ!! アリョーシャとオルガ、大尉を連れてそこの建物に入れ!! 残りはここで援護!!」

「了解!! 大尉、こっちに!!」

「うっす!!」

 

 羽織っているデジタルフローラ迷彩の外套がなびき、手にあるAK-74Mの銃口から閃光が瞬く。銃弾の嵐の中を三人の兵士と一人の連邦少女が建物へと飛び込む。

 走る最中でもわらわらと出てくる歩骸相手に銃撃は止めない。

 取り付いた建物の外壁を背に居そうな窓へ向けて二、三発窓へ黒不浄弾を叩き込む。

 

「伍長!! あそこら辺にいるんすか!?」

「分かりませんよ!! ただ居そうな所に撃ってるだけです!!」

 

 喋りながら窓という窓に次々と弾を叩き込む。タチアナは少しの間だけ不思議そうな顔をしたが、セルゲイはほか二人に射撃を続けさせながらそっちへ顔を向けた。

 

「奴らが窓から出て横から襲われたら俺たちはオシマイなんですよっ!! だからこうして撃ってるんです!!」

「了解っす!!」

「オルガ!! "ストルジガ"を打っとけ!! 確保するぞ!!」

 

 銀髪セミロングにデジタルフローラ迷彩のキャップを被った女、オルガは頷くと撃っていたAKS-74Uカービン銃を下ろすとポケットから数本の金属製の黒い杭を取り出す。

 ストルジガの杭、非化学戦旅団でよく使われる縁起でありその能力は打ち込んだ結界範囲内の境界を分離し外からの術等の霊的攻撃を無効化するという代物。

 強力なものであればあるほど無効化出来る。セーフゾーンを作る意味で打っておいて損は無い。

 

「そことそこの二点と壁に打っとけ!! 打ち込んだら入るぞ!!」

 

 セルゲイが言い終える前に杭が打ち込まれ、同時にセルゲイも入口付近へ。最後の一本が打ち込まれると道路で制圧射撃を試みる分隊長へ目配せしてみせた。

 

「"ネラプシ"投げるぞ!!」

 

 ポーチから取り出した古びたコインを投げ込み、深呼吸して数秒待つ。そしてスナップを効かせて扉の中へコインを滑り込ませ同時にセルゲイが踏み込む。

 撃ちながら部屋に入るが案の定、中には二体の歩骸がいるが大した脅威でない。照準を合わせ鋭い目線でそれを見る。

 その瞬間、照準器の中にいた歩骸は一発の弾丸も斬撃も受けずに崩れ落ちた。そのまま滑るようにもう一体に照準を合わせ´睨み"を効かせ、睨まれた歩骸は同じように崩れ落ちた。そして間髪入れずに一発ずつただの骸に弾を撃ち込む。

 

「クリア!!」

「クリア!!」

「クリア!!」

 

 セルゲイの左右にアリョーシャとオルガが左右に展開。二人ともそれぞれ部屋の窓と扉を警戒。ワンテンポ遅れてタチアナも部屋に飛び込んできた。

 ふわりと彼女の衣服がはためき、僅かに見えた健康そうな肌色に一瞬目が行きそうになるがすぐに視線を外へ向ける。

 

「オルガ、アリョーシャ、お前で上階を陣取って狙撃支援!! 大尉は俺とここを守る!」

「了解だ。アリョーシャ、行くぞ」

 

 二人が身を翻して階段へと突き進み、セルゲイはタチアナと共に出入り口へ銃口を向ける。

 

 その瞬間。

 

 轟音と共に壁が崩れ落ち、獣にも機械音にも聞こえる咆哮。空気が震え衝撃が走る。

 

「Сука!!」

 

 土埃の方向へ銃を向けた時、2mはある鬼の拳が迫る。衝撃、全身が圧迫されて息が詰まる。息が出来ない。世界がひっくり返る。そして何かが背中を叩きつけた。

 

「блядь…………」

 

 突然の奇襲。朦朧とする意識の中で無線で誰かが叫び、歪む視界で誰かが戦っている。だが、よく見えない。

 

「閉所で鬼種と1on1はキツイっすねぇ!」

 

 余裕のない軽口。タチアナ大尉か。かなり追い詰められてるのか、時折うめき声が混じる。

 

「●■●◆▼■▲▲■!!」

 

 鬼が叫ぶ。こっちを殺さんとその拳を振り回す度に家具やら壁やらの破片があちこち飛び回る。

 手元に銃はない。だが武器はまだある。

 

 ゆっくりと立ち上がり、腰に差している鞘からシャシュカ刀型の黒不浄を引き抜く。見れば形代が二回分ほど消えている。

 

「やってくれるぜクソ野郎…………」

「伍長?! 立ち上がっちゃマズイッスよ!!!!」

 

 タチアナの悲鳴にも取れる声と同時に鬼がこっちへと注意を向けた。不気味に光る眼に捉えられるが、恐怖心なんて微塵もない。

 

「大尉は下がれ…………

 来いよデクノボウ。相手になってやろうじゃねぇか…………!」

 

 シャシュカをくるりと回してから下段に構え、殺意を瞳に宿して鬼を見据える。

 

 鬼が駆け、セルゲイも同時に駆ける。

 

 連邦少女に、目の前のデクノボウに見せてやる。

 非化学戦旅団の近接戦闘を。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 蹴り上げた鬼の爪先を数センチ差でバックステップで避け、カウンターとばかりに着地した左足に力を込めて跳躍。その脚の狙って黒不浄シャシュカが表層を斬りつける。

 しかし効果は薄い。穢装が想像以上。だがやりようはある。

 

 小人を叩き潰さんとする横凪の拳が迫り来る。目にも止まらぬ速さ。その拳に合わせてくるりと回り、羽織っている外套が花開いた。

 同時に右手に握った黒不浄シャシュカが鬼の筋を斬り裂く。しかし手応えが軽い。

 

「どんだけ硬いんだこのクソはッ!!」

 

 悪態に答えるように鬼は吠え、左手が高々と振り上げられる。

 

「クソッ!!」

 

 咄嗟に右に跳んだ刹那。凄まじい轟音。数秒前に自分の居た木製の床に大穴が開いた。その一撃はまさに鬼の名に相応しい。

 だが大振りな一撃は往々にして当たらない。それは対人戦闘訓練の時に嫌というほど分隊長や小隊長に叩き込まれている。そしてその隙を見逃すほど甘ちゃんじゃない。

 床に突き刺さったその腕に足場に駆け、肩を踏み台に跳んだ。そしてその落下エネルギーを刃に込めて振り下ろす。

 着地と同時に床を蹴って前に回転、素早く体勢を整える。

 

 ドサッと重たい何かが床に落ちると同時に先程聞いた咆哮に似た、悲痛な叫びにも聞こえる咆哮が木霊した。

 それでもセルゲイの機動は止められない。

 

「じゃあなクソ野郎。地獄に帰りやがれッ!」

 

 ダッと部屋を駆け跳躍して壁を蹴る。軋む壁を足場にその速度に物言わせて肉薄。そしてこっちを目視するべく伸ばした首に一刀を入れた。

 

 動きを止めた鬼から咆哮は無く、少しの間を置いて首が僅かにズレる。そして自分の首を斬り落とした相手を恨めしく見る目だけが光っていた。

 

「クソが時間かけさせやがって…………」

 

 シャシュカを鞘に納め、鬼だったモノは倒れると同時に消え失せるのを見届けた。歯応え抜群の相手だった。

 たぶんあの鬼は二号級くらいなのだろう。我ながらよく倒せたものだ。

 鬼のいた場所をじっと見ていたが、外からの機関砲のけたたましい音にハッと我に返る。

 あの小さな大尉殿は無事だろうか。

 

「大尉、無事ですか?」

「生憎ながら生きてるっすよ~。しっかしよくもまぁ鬼を一人で倒せたっすねぇ」

「俺が気を失っている間に大尉殿がヤツを消耗させてくれてたお陰ですよ。俺一人だったらあのままお陀仏でした」

 

 部屋の隅にまで吹き飛んでいった自分のAKを回収して、大尉の方に視線を向けた。

 多少の傷はあれどまだまだやれるようだ。

 流石はわが祖国が誇る連邦少女といったところか。

 

《伍長! 大丈夫ですか!? 下で何があったんです!? 伍長!!》

 

 無線から若い男の心配そうな喧しい声にうんざりする顔をしてみせる。声の主が誰かは既に見当がついてるからだ。

 

「鬼退治しただけだアリョーシャ上等兵。無線で犬みたいにキャンキャン吠えるな」

《セルゲイ伍長の言う通りだアリョーシャ。伍長、そっちはどうだ?》

「大尉と共に二号級と思われる鬼を倒しました。オルガとアリョーシャが上階を制圧。建物は確保しました」

《了解だ。俺達もそっちへ行く。援護をくれ》

「…………了解」

 

 外の戦闘も落ち着いたのか、近くで銃声や爆発といった戦闘の喧騒はない。ちらりと窓を視線を移せば、乗ってきたBMP-2M歩兵戦闘車が小刻みに砲塔を動かして警戒しているのが見えた。

 まだ村は制圧していないし演習も終わっていない。

 ここから更に激しくなっていくだろう。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 建物を制圧し、外にいた軍曹率いる火力班と合流。一息つく間もなく、次は前進する味方の援護だ。

 手にしていたAKから空の弾倉を外して新しい弾倉を填める。

 少し肩で息をしているが、この程度ならいつもの事。多少の疲労は無視する。

 

「よし、全員装備を確認しろ。村役場までの道路は第一と第三分隊、戦車小隊が進む。俺たちは脇道を通って界異どもを掃討しつつ前進するぞ。伍長はオルガ、アリョーシャ、大尉を連れて道の反対側を進め。

 残りは俺について来い」

「一息つく間もありゃしないな…………

 オルガ、アリョーシャ、ついて来い。大尉。ピッタリとついてきて下さい」

 

 三人をちらりと見てから軍曹に頷く。

 ここから先は外での戦闘。四方八方から襲ってくるのは間違いない。

 だが幸い盾はある。

 

「BMPを盾にして他の分隊と合流する。良いな! 行くぞ!」

 

 軍曹を先頭に次々と兵士達も続き、セルゲイもその後を追うように建物から飛び出す。

 同時に何処から湧いてきたのか、歩骸がまた家屋という家屋から現れてはどんどんこっちに向かって突撃してくる。

 

 だが盾となっている歩兵戦闘車の30mm機関砲と7.62mmの機関銃が次々とそれらを薙ぎ倒し、歩骸の方から時折飛んでくる銃弾をはじき返す。何れも黒不浄弾が装填されているから1号級程度の歩骸に対しては効果絶大だ。

 

「相変わらずとんでもないな。敵にはしたくない…………」

 

 群れを一掃する様子を横目に道路脇に展開したセルゲイはポツリと漏らす。

 オマケに界異化しているから通常の対戦車兵器は通用しない上に、人間から発する加護を嗅ぎ取って索敵してくる。祓魔師だろうが相手するには苦労するだろう。

 

 通りを歩き、窓や扉を見かける度に三発の銃弾を浴びせる。居るか分からないが、敵に顔を出させないクリアリング。

 時間が限られる中での最低限で済ませて突き進む。

 余計な思考は全て停止させてただの機械になりきる。

 

 しかしその歩みは道の反対側を歩いていた分隊長が停止のハンドサインを示して止まる。何事かと歩みを止めた瞬間、明らかに巨大な質量を持つ足音が演習場に響く。

 

「おいおい今度はなんだ…………」

 

 歩骸の頭を撃ち抜き、さっと片膝をついて警戒態勢を維持。そしてその音の発生源が姿を現した。

 

「マジかよ。本命じゃねぇか…………!」

 

 全高5mはあるであろう巨大な体躯にギョロリと周囲を見渡す1つ目。そして岩石を連想させる硬そうな皮膚を持つ巨人。

 3号級界異の中でも大型の部類に入る鬼だ。

 まさかこの演習の敵兵器役として投入されているとは予想外。あれの一撃を受けようものなら確実に消し飛ぶ。

 そしてそのギョロ目がこっちを向いた。これは不味い。いや、不味いなんてもんじゃない。

 

「クソが!!」

 

 さっとAKを構えるが、撃ち出す黒不浄弾が通用するかは怪しい。だが何もしないであの拳に押し潰されるよりはマシだ。

 持っているAKのセレクターを連射のポジションに切り替える。

 

「射撃開始!! 」

 

 軍曹の号令を合図にトリガー引く。全ての銃声が合唱しだす。大物相手の連戦だが、やらないという選択肢はない。

 セルゲイはAKの弾倉を新しいものに交換して、その狙いを迫り来る巨人の目に合わせた。

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