東方裏影録   作:寒月

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存在

 ベリルの言葉を皮切りに、激しい弾幕ごっこが繰り広げられる。

先ほどまでの四対一のときは、(そもそもあまり被弾してはいなかったが)、どちらかというと、こちらが有利に進んでいたものの、四体二になった今、それは逆転しつつある。

 

 「えぇい、これでもか!」

 「魔十字『グランドクラス』」を展開するも、こちらも決定打にはいたらない。あえて使用率の低い弾幕を使っているのだが。

 そういえばアリスと弾幕ごっこをするのはしばらくぶりかももしれない。そこに加えて、二人のコンビネーションは抜群さである。アリスの弾幕を的確に補佐し、当たりそうな弾幕は処理をする。アリスの人形により手数も多くなるし、このままではジリ貧になってしまう。

 

 さてどうしたもんか、と霊夢の方をちらりと見た、その時だった。

 「魔理沙さん!!」

 早苗の声がしてふと前に視線を戻すと、…うん、これは『詰み』だ。回避不可能になってしまった弾幕が見える。残るスペルカードは…くそっ、とっておきのマスタースパークぐらいしかない。これで相手の被弾まで押し切れるほど、この弾幕は薄くない。

 

 「すまん。後は頼んだ」

 ただ当たって終わってしまうのであれば、私は他の人の道を私が切り開く他ない。そう思い、

 「恋府『マスター…」

スペルカードを切ろうとした。そのとき、ふと一つの道が見える。

 正直、いけるかいけないかは、かけレベルの隙間だ。だが、かけてみる価値はある。

 

 私はその隙間めがけてフルスピードで、弾幕に突っ込んでいく。

 「ちょっと霧雨ちゃん、まじ!?」

 諏訪子がそう叫ぶが、もうここまできたら行くしかないぞ。むしろ、これを避けられれば一気にアリスたちに近づくことができ、大きなアドバンテージになる。

 

 いざ、行くと決めた瞬間、突然弾幕がゆっくりに見える。箒もいつもより軽く、小回りも効いている感じがする。集中力がいつもと段違いで働いている感覚だ。

 「なんだか、神がかっているプレーですね…!!」

 早苗は今は防御一点集中しているようだ。私の弾幕の避けっぷりを見て、そう言う。

 「…神奈子の勝負強さが出たってところ?全く、遅いよねー本領発揮するの。…早苗、行くよ。被弾覚悟でこっちも攻め、だ。魔理沙を援護してあげないと。神奈子のなけなしの加護が無駄になるよ」

 「…!!了解です!」

 

 諏訪子と早苗がこちらの援護に周る。その分、防御がおろそかになるのは仕方のないことだ。早速、諏訪子がその餌食になる。4人がバランスよく攻防していた均衡が崩れ、一人、戦線から切り離される。それを見たベリルはアリスに一瞬目配せをした後、諏訪子の元へと向かっていった。

 

――――――――

 

 「お、来た来たー。こっちに来たってことは、あっちは三対一?ちょーっときついんじゃない?それも、あの三人は私よりも弾幕ごっこは上手いよ?」

 本線から切り離された諏訪子は、ベリルと対峙する。私はアリスたちの方を見ながら言うが、ベリルはちらっとそちらを見るにすぎなかった。

 「『私の方は問題ないから、片づけて来い』ってさ。ただ時間はかけてられないから、手短にさせていただくわ」

 ベリルは早速といわんばかりにスペルカードを宣言する。

 「せっかちなことで」

 そう呟く。私は余裕そうな表情を浮かべているが、額には汗がにじんでいる。今日だけではなく、連日連夜、異変の対策に追われていたこともあり、正直疲労はピークに達していた。あっという間に追い詰められ、被弾してしまう。被弾の威力はそこそこ強く、直後落下し、地に尻もちを着いてしまう。

 地であれば諏訪子の力が十分に発揮できる場であるが、それは相手にとっても同じこと。むしろ、体制をすぐに立て直せない上に、しっかりと追い打ちの弾幕も展開されている。万全な状況だったら土着神の名にかけて全力で相手してやったのに…と、私は負けを悟る。

 「降参、降参!!」

 「意外に呆気なく諦めるのね」

 私が大人しく白旗を上げると、ベリルはすっと展開していた弾幕を消す。

 「時間稼ぎには十分っしょ?正直、私がこの最後の戦いに挑んだのは、おまけみたいなものだったんだから。異変解決ならあの三人で十分すぎるくらいだったろうし」

 「話はそれだけ?…私は戻るわよ。やっぱりアリス一人じゃ少しきつそうだわ」

 

 4人の激しい戦いを見てベリルが言う。手数、火力不足は人形が補っているが、すぐに撃沈されてしまっている。

 

 「…人間を恨んでる?」

 立ち去ろうと宙に浮いたベリルに、私は質問を投げかける。これを聞きたくて私はこの戦いに参加したのだ。ベリルは動きをぴたりと止め、こちらに視線だけをよこし、口を開く。

 「恨む?…いえ、恨むなどするはずもない。人間の『渇望』が私たちへの『怖れ』を超えただけのこと。私たちは消えゆく運命だった。そして、それはある種、当然であったかもしれない。って、土着神ならわざわざ言う必要なんてなかったわね」

 そういうと、すぐに前線に戻っていく。

 

 愚問だ。土着神はその地と人を愛する。人もまた、私を恐れつつも、愛す。ぞんざいに扱われたのならまだ恨みも抱こうものだが、ただ私たちを頼っていただけの我が子のような人々が、私たち神から自立をしたにすぎないのである。

 …だが彼女はどうだったのだろうか、と、ふと彼女のことを知った時に思ったのである。いいように使われ、必要なくなったら捨てられる。 利用する、利用されるの関係であったのであればまだしも、そうでもなかったとすれば、恨みを抱いているに違いない。

 で、あれば、私は何としても彼女を止めなくてはならない。この気持ちが誰よりも理解できる者が、止めることが彼女へのせめてものの敬意だと感じたのである。

 

 あの様子だと、別にそんなこと考える必要などなかったな、と地面に仰向けに寝っ転がる。アリスに助力すべく、本線に戻っている彼女の後姿を眺めつつ、私は誰にいうでもなく、呟く。

 「…でも、まだ完全に消え失せたわけではない。私も、あなたも、まだこうして存在している。私たちは幻想のものとなってしまったかもしれないけど。いつか、それさえも失われてしまうその時まで。私たちは存在することを許されているのだから」

 

 草木の香り、地面の感触、月明り、そして空一面の弾幕。音と光。

五感全てで世界を感じ、嬉しそうに空を見上げる諏訪子であった。

 

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