東方裏影録   作:寒月

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第一部、最終話です。


光、ぬくもり、そして終焉

 「ごめん、遅くなった」

 「まったく、こっちは魔力切れ起こすかと思ったわよ。ただでさえ、あなたの復活で少し持ってかれているんだから」

 アリスの元へと戻ったベリル。アリスは軽口をたたいているが、少し、いやかなりの疲労を見てとれる。それもそのはずだ。諏訪子と早苗の援護により、魔理沙は窮地を脱し…いや、窮地に立たされていることは変わりがないが、ここにきて圧倒的な回避と一発逆転の可能性を見せている。アリスはそんな魔理沙を、ベリルが諏訪子の対処に追われているなか、霊夢と早苗の攻撃をいなしつつ、瀬戸際でなんとか抑えきったのだ。

 

 私はこの一瞬で状況を整理する。魔理沙はなんとか弾数で押し切るとして、早苗は隙を狙っている様子であるため、こちらの隙を与えず対処する。早苗は対処能力が、他の二人に比べてまだ低い。であれば十分に可能性はある。霊夢は…未だ様子見か?今いる位置からこちらに弾幕を放ってきたとして、こちらに大ダメージを与えられるものは多くはない。それさえ警戒していれば、こちらのスペルカードで「相手の移動を遅め」、「行動範囲をもっと狭め」れば問題ないだろう。

 

 「ここからが本番ってところね」

そういい、アリスと二人で同時にスペルカードをきる。

 「…っつ!しつこいなーこの追尾弾!!影みたいにまとわりついてくる!しつこさは過去一だぜ!」

魔理沙がたまらずそう叫ぶ。

 「お褒めの言葉をどうもありがとう。…そろそろお疲れでしょうし、これで終わりにしましょうか」

 そして二枚目。相手が自分たちの弾幕に対処できるようになってからカードをきる。今度はもっと陰湿に。相手の移動速度を遅くする。相手の影のスピードを緩めれば、おのずと本体にも支障はでる。『このタイミングでよければ、ちょうど次の弾も避けられる』、そう学習した者にこそ、この弾幕は効く。急に移動速度を変えられ、「頭ではできている、できるはずであるのに、肝心の身体が追いついてこない」という現象を引き起こすのである。

 

――――――――――

 

 急に移動速度を変えられ、先ほどまで絶妙なバランスでかわし続けていた魔理沙は、自分の感覚を完全にずらされ、徐々に被弾が増え、焦りが生まれる。やっと、あともう少しで。あと一歩で十八番のマスタースパークを確実に当てられる距離にいるのに…!致命傷にいたるほどのものではないが、このままでは―。

 目の前が明るさに包まれる。今迄で一番明るいそれは、直撃を免れない弾幕。…無理だ、さすがにこれは。諦めかけたそのとき

 「魔理沙さん!あなたに最後に追い風を!」

突如、視界が開ける。これは…早苗のスペル、『開海「モーゼの奇跡」』か?

 早苗はこの一番きつい状況で、私にスペルカードを使ってくれたのか。

 「今回ばかりは、お前ら山の神社組に感謝だな」

 「人助けは、我々にとっては大事なことですから」

ふんすと、少し胸を張り自慢げな様子だ。

 「いきなさい、魔理沙!援護はしてあげるわ!夢符『封魔陣』!!」

 霊夢も私よりも遠いところから声をかける。彼女もスペルをちょうどきる様子が見られる。ここで完全に勝負を決めるつもりだ。

 突如私が目の前に、自身の弾幕という防御壁もないまま現れ、二人は一瞬呆気に取られた顔をする。私はこの好機を逃すほどバカじゃあない。そのまま私の一番をお見舞いする。

 

 「恋符『マスタースパーク』」!!

 だが、さすがに直撃をするほど愚かではなかったらしい。二人は左右にばらけ、私の弾幕を避けようとする。

 私はそのまま八卦炉を…まずはこっちだ。より近いアリスに向かって横に振る。

 「…っつ!!」

 アリスの半身が光に包まれている。よし、このまま押し切る!!しかし、その瞬間、彼女の手を引き、なんとか完全な被弾を逃れさせる存在がいる。

 

 ベリルだ。早苗は…くそっダメだったか。早苗が落下していくのが小さく目に留まった。そんなベリルも右腕がほとんど使いものになっていないようだ。だらりと力をなくしている右腕は、どうやらアリスのもとへ一刻も早く駆けつけるために霊夢の弾幕の犠牲にしたらしい。よく見たら、あちこち傷も増えている。かなり無理な避け方をしてきたようだ。しかし、マスタースパークも時間切れが近い。二人を倒すにはあと5秒ほどあれば…!!と、ちょうど光がきれてしまうそのタイミングで頭上から霊夢の声が響き渡る。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 私のマスタースパークのきれる瞬間が分かっていたかのようなドンピシャのタイミングで霊夢がスペルカードをきっている姿が私の視界の隅に映った。

 

 

 

 

 自分よりもずっと高く飛び、自分を見下ろす存在。

 

 そこから放たれる美しい光の弾。

 

 徐々に光に包まれる感覚。

 

 不安は…ない。この光には嫌悪を感じない。むしろ私はどこかそれを歓迎している。光と影は対照的な存在だが、光がなければ影も生まれないのも、また事実であるのだ。

 

 

 ―なにより、右手をぐっと再度握りしめられる感覚が私を安堵をもたらしてくれる。

 

 光に包まれる。影も消え失せてしまうほど。

 

 

 「ずっっと私を警戒していたわね。だけど、あんな距離なんてあってないようなもの。

弾幕を知られている?上等だわ。影で私をしばろうなんて、ちゃんちゃらおかしい。

私は、何にもしばられない。どこからも影響を受けない。私は、あんたたちの想像を超えていける。いとも簡単に、容易くね。

空を飛ぶ、浮くこと。それができるのが博麗の巫女たる私であるのだから」

 

 

―――――――

 

 

 気持ちの良い朝だ。

 白く枠が塗られた洋風の窓からは柔らかな朝の日差しが降り注ぎ、部屋の中には心地よい紅茶の香りが漂っている。私はカップに注がれた紅茶を一口すする。かちゃりと小さく音を立ててソーサーに置き、その香りと暖かな日差しを堪能する。

 完璧な朝だ。…外から人々の怒号、罵声が聞こえてくることを除けば。

 私は立ち上がり、そっとカーテンの隙間から窓の外を伺う。

 

 二階の部屋は周囲の様子がよく見渡せる。

 怒声は私の家に向かって浴びせられている。今にも人々は私の家のドアをこじ開けようとしているし、窓や壁には石が投げつけられていた。

 本当は外を見なくても分かっていた。私の家…ではなくその声が私に向けられていることは。

 

 私はカーテンを揺らさぬように、そっとティーカップが置かれているテーブルの元へ戻る。

 少々お行儀が悪いが、テーブルに軽く腰をかけて、優雅に紅茶をすする。窓の方を向き、太陽の光のまぶしさに目を細めながら、再度、そのあたたかさを身体全体で感じる。

 

 今、この家には誰もいない。ゆえに誰も私のこの姿を見ることがないのだから、少しくらい行儀が悪くても問題はないだろう。

 人払い…いや妖怪払いは早くから済ませていた。いつか、こうなることは、分かっていたのだ。

 

 階下の玄関ドアをこじ開けようとする音がどんどん強くなっている。ドアをこじ開けるのが先か、しびれを切らして窓を割り入ってくるのか。どちらにせよ、家の中に入ってくるのは時間の問題だろう。

 逃げることは簡単だ。私が片手を振れば、入口にいる人間は肉塊と化すし、本気で逃げた私を見付けることは並大抵の人間では、まず不可能だ。

 

 だが、私はそれを望んでいない。

 

 視界におさめることができないもの、影、そのほか。それらへの恐怖から生まれた、ただの妖怪。それらへの恐怖が損なわれることがないように気まぐれに人を襲い、独り森で暮らしていた私。そんな私に新たな力を、愉しさを生み出させてくれた、この国から背くことは私の否定にもなってしまう。人間くさくなってしまったところはあれど、そこを失うほど私は妖怪としての矜持を失ってはいないのだ。

 

 私を慕ってくれていた人妖には随分と引き留められたが、私はここで終わる必要がある。それをして初めて、この国は、いや、人の世は始まるのだ。

 

 最後の一口の、自分で淹れた、お世辞には美味しいとはいえない紅茶を飲み干し、部屋を後にする。

 さてさて、悲鳴をあげている私の家のドアを救いに行かなくては。

 

――――――

 

 夏の青々とした葉が色づき、少しずつ枯れ、冬が近づいてくる季節。

 ふと漂う、紅茶の良い香りでアリス・マーガトロイドは目が覚める。

 随分とリアルな夢を見ていた気もするが、それを全てかき消し、さっぱりと目覚めさせてくれる。

 

 こんな乾燥する季節の朝は、これに蜂蜜を入れて、喉を潤し、そこから心地よい朝を迎えるのが一番だ。あまり温度の変化に敏感ではない私であっても、布団から起きるのが少し億劫であるが、起きることが―

 「って、なんであなたがここにいるのよ!?」

 「あら、おはよう、アリス。ちょうどお茶を淹れ終えたところよ」

 私の突っ込みをものともせず、先の異変の元凶であったベリルがティーカップに注がれている紅茶を優雅にすすっている。私はまだ起きていないのに、紅茶の香りが漂ってくることに盛大な違和感を感じ、飛び起きると、これだ。

 

 私が半呆然として立っていると、彼女は半自立人形に慣れた様子で命令を下し、お湯で一度温めたマグカップを持ってこさせる。さらに彼女が座る目の前のテーブルの上には、しっかりと蜂蜜が用意されており、こいうところ、少し気が利くのが、なんとも言えない気分になる。

 

 ふーっと息を吐き、少し心を落ち着かせてから人形を操り、用意されたレモンティーを注ぎ、そこに好みの量の蜂蜜を加える。マグカップで少し冷えた手を温めながら、まるで自分の家かのようにくつろぐ彼女に向かって質問をする。

 「それで、なんでここにいるのよ」

 「やっと終わったからよ。スキマ妖怪との話し合いを。散々話し込んだ上に、眠いから話は終了といって一方的に切り上げてきたわよ、あいつ。まぁ私も疲れたし、少し休もうかと思って―」

 「いえ、答えになってないわ」

 即座に突っ込むと、彼女は、はぁと溜息をつきながら言葉を返す。

 「私が住むところまで確定させることができなかったのよ。異変の落としどころとか話しているうちに、ね。縄張りとかもあるじゃない?…こっちでよさげなところ調べておくから、とりあえずしばらくはアリスちゃんのところでもいててちょうだい、ですって」

 それを聞いた私は、脳内で紫がウインクしながらそういう姿が思わず浮かんでしまい、思わず目頭を抑える。

 「冗談じゃないわよ。影なんだから、いくらでも休める場所はあるでしょう?」

 「いやよ。これから寒くなるっていうのに。…というのは冗談として。おそらく紫は私がしばらくの間は目が届く範囲にいて欲しい、かつ幻想郷のパワーバランスを加味して言ったのでしょうね」

 

 言わんとしていることは分かる。彼女の能力、妖怪としての存在は周りの妖怪、ひいては人間にとっては毒に近い。毒されるかもしれないし、反対に他の勢力にとっての脅威ともなるのだ。でも、自分の元に置いておくのは…という判断故だろう。

 「…理解はしたわ。要するに貧乏くじをひかされたってことね」

 「あら、どこに行っても邪魔者扱いね。…ちょっといたずらしちゃおうかしら」

くすくす笑いながら、全く悲しそうな姿を見せずに言う。

 「そういうところよ。…あなたがそれをすると危ないのよ」

良くて洗脳、悪くて妖怪としての存在が死んでしまうのだ。どっちにしても地獄に変わりない。

 

 「冗談だけどね。しばらくは大人しくしているわよ。まぁ、あなたの家にいれるのはちょうど良かったけどね」

 「ちょっと、どういうこと?」

 「私、あなたに『かし』をしているわけじゃない? それを返せるからよ」

 「確かにそんな話はしたけど、家にいてくれ、とは頼んでないわ」

 「はい、お土産」

 

 渡されたそれは、見たことがない部品だ。幻想郷では見たことがないものだが…。

 「もしかして、外の世界の?」

 「ご想像にお任せするわ」

にやりと笑って返される。この部品なら、人形の腕の可動域を広げることができるな。ちょっと人外た動きになるかもしれないが、動きの切り替えが早くでき…いやいや、思考を一度止めろ、アリス。やめるんだ。

 頭の中で渡された部品をどう人形に組み込むか、設計図を広げ始めた脳内の私を必死に止める。

 「物でつられるほど、私はやわじゃ…」

 「あら、この人形、随分と古い術式を採用しているじゃない。お試し中なのかしら? 自分流にアレンジしようと悪戦苦闘しているようだけど、これだと動かないわよ」

 即座に彼女は作業台の上に置いてある、人形に目を向けて話す。用意されていたような返答に、私はぐっと言葉を飲み込む。

 「…詳しいの?」

 「それなりに、ね」

 「…一週間は、いていいわよ」

 私は苦虫を噛み潰したような顔で言う。負けた。魔女の探求心には抗えなかった。

 そうそう、そうこなくちゃ、という顔でゆったりと紅茶をすするベリル。

 

 そんな彼女を見て、私の生活は、これから少し騒がしくも、充実したものになることを感じるのであった。

 




【あとがき】

 やっと一部完結に至ることができました。
 昨年の10月頃に書き始め、ここまでまぁズルズルと時間がかかったものです。

 それこそ5月の頭にはほぼ、一部完結できていたのですが、二部の頭を書いてから投稿した方が…となっているうちに、二部も書かずに新作に取りかかっているという。全く何をしているんだか。

 本来は二部のために書き始めたものだったのですが、なんだかんだ一部の想像も膨らむ膨らむ。というより、キャラが私の想像を超えて(勝手に)動き始めてしまってこうなりました。
 アリスは賢く立ち回り、守矢神社メンバーがここまで活躍することは想像すらしておらず。妖怪寺メンバー、特に星たちは登場する予定もなかったです。そして霊夢と魔理沙は人里の閉鎖を早くにするという英断ぷっり。本当はアリスと人里でドンパチ一戦交える予定だったんですよ?皆々様、本当にさすがです。

 さて、今後の予定ですが、まずは新作。こちらは短編集の予定なので、おそらく時間はそうはかからない、はず。そして一作目の『学修』シリーズを優先的に書きつつ、二部も少しずつ取り組んでいくつもりです。
 学修シリーズは頭を使うので時間がかかる…二部なんて大まかなストーリー、なんなら設定ぐらいしか考えられてないです。エンディングを決めてから描き始めているからか、辻褄合わせようと時間のかかることったらありませんね。これがよくないのか…?いや、もちろん人によって書き方も、合っているやり方もあるとは思いますが…。

 のんびりとしたペースにはなってしまいますが、これからもお付き合いいただければと思います。


 寒月
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