東方裏影録   作:寒月

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…書いとくかぁの作品2。

宴会のあとに、紫とのお話合いをする場面です。


【閑話休題3】 話し合い

 「あらあら、お疲れさま。宴会は随分と盛り上がったそうじゃない」 

 ベリルはズキズキと痛む頭を抑えながらソファーに座る。目の前のソファーで一足先にくつろいでいるのは、八雲紫。少し後ろには紫の式の八雲藍が立っている。

 

 ここは洋風な部屋の一室。紫との待ち合わせ場所に行くと、そこにあったのは隙間。私が中に入ると、この部屋に着いたのだ。全く移動に違和感を感じなかったあたり、能力のことを知っていても、驚きが勝る。

 

 「…そういえば、あなた来なかったわね。様子は見ていたんでしょうけど」

 「まぁ、ね。その様子を見るに、まだ疲れは取れてないようね」

 「えぇ。まだなんだかお酒が残っている感じがするわ。後片付けからはなんとか逃れたけれど。やっぱり色々疲れもあると、お酒も弱くなるわね」

 「相当飲んでいたと思うけどね」

 「…絶対あの巫女に負けたくなかったのよ。我ながら大人気なかったわ」

 「でも、話し合いは頑張ってもらうわよ」

 「はいはい、それは大丈夫よ」

 そこで私は目の前の紅茶に手をつける。うん、美味しい。少し酔いが覚めた感じがする。

 

 「じゃあ、まずは…最初にあなたが最も気にしているところから話し合いましょうか。ずばり、今回の異変を起した、貴方への罰ね。罰といっても、別に異変を起したことを責める、というわけではないのよ。それはもうすでに霊夢たちがしていることだしね。…問題は、あなたが起した異変が幻想郷の秩序を十分に脅かす可能性があったということ。このルールは他の妖怪も犯してはならないもの。故意ではなかったとはいえ、ここで何も私が咎めなければ、他の妖怪に示しがつかない。なにより、他の妖怪も我先にと、ルールを破るものが現れてしまいかねないわ」

 「それはそうね。…それで、私に何を望むの?」

 私は組んでいた足を組みなおし、続きを促す。

 

 「それはね、あなたがこっち側に来ることよ」

 「…こっち側っていうと、なに幻想郷の管理者にでもなれっていうの?」

 「まぁ簡単にいってしまうと、そうなるのかしら。あなたの能力は、うってつけかと思ってね」

 「あら、あなたは私の能力のどこをかっているのかしら。というより、私の能力をどこまで理解して言っているんだか」

 アリスに話した内容を聞いていて、知っていて話しているのだとしたら、こいつは幻想郷のすべての人妖の心身を掌握したいとしか思えない。八雲紫の性格上、人妖が幻想郷で自由に振る舞うことを、どこか楽しんでいるような感じがするし、それをしたいとは言わないと思うのだが…。

 「あなた、心読めるでしょう?…それも、さとり妖怪のように思っていることだけではなく、もっと本質的な…」

 

 その瞬間、紫に対する警戒度を一段上げる。幻想郷にいる者で、このことを知っている者は誰一人としていないはずだ。なぜ知っている?

 「安心して、このことを知っているのは私だけ…あぁ、今、うちの式にも伝わったけれど、この二名だけよ」

 

 動揺を表に出さないようにしたが、どうやら紫には、私の僅かな様子の変化が伝わったのだろう。ちらりと八雲藍の方に目を向けるが、少し驚いた表情をしているあたり、そこに間違いはないだろう。

 

 「先になんでそのことを知っているのか、教えてもらってもいいかしら。確かに私の妖力が他者の影にいたとき、本人の願望や本質を引き出してはいたけれど、こちらから一方的に伺い知れるとは一言も口にしていないわよ」

 「私には古い友人がいてね。先日、ようやくコンタクトが取れて、相談したところ教えてくれたわ。まぁ元から可能性があることは考えていたけれど、裏付けがとれたから、今こうして話しているわけだけどね」

 「私のこと、特に私の能力について詳しい者など、いたかしら?」

 「誰かは、私の口からは言わないわ。…いずれ会うこともあるだろうって本人は言っていたから。そして、どうにか探ろうとしてくるの、やめてくれないかしら?今回の話し合いではそういった能力での腹の探り合いは望んでいなくてよ」

 …バレたか。こいつの腹の底を、それこそ能力で探ろうとしたのだが。まぁ本気ではしていない。礼儀知らずだということは重々承知しているからだ。

 

 「悪いわね。ちょっとびっくりしちゃって。それが誰なのかは一旦置いておくとして、話を戻すわね。…いかにも、その通りよ。私は人妖の本質的な望みや心の動きを読みとることができる。もちろん、条件が揃わないと難しいし、常にしておけるほど汎用性に優れているものでもないわ」

 この能力は、私という妖怪の力を遺憾なく発揮させるためのサブにすぎない。影というのは単に起こる現象だけを指すのではない。時にある者の背後にいる者を指すこともあるし、本人の裏の側面を現わすこともあるのだ。影と一言で示しても、内容は多岐にわたる。故に融通は効きやすいが決定打には欠けるのだ。

 

 「具体的には?」

 「探りたい対象相手が誰かを知っていること、近くにいる、もしくは相手の影にもぐりこめる環境にあること。最後に…私が集中できる環境にあること」

 「結構よ。問題ないわ。そのあたりなら、私が補完できるわ」

 「あなたは私の能力で何をしたいわけ?」

 「それはもちろん、幻想郷のため、よ。異変も幻想郷の秩序を脅かす強大なものから、そうでないものまで色々ある。危険だからといって片っ端から私が規制してしまっては、意味がない。選別はある程度必要だけれど、私にはその判断材料がないわけ。そこで、あなたの能力が便利だな、と思っただけよ」

 「まぁ別に能力を使ったからといって減るものでもないし、別にそれは問題ないけれど…完全にそっち側に行くのは嫌よ?自由でいさせて欲しいわ」

 私は一本の止まり木さえあれば、割とふらふらするタイプなのだ。止まり木を決めてしまった以上、増やす必要などない。何より、管理者なんて大変そうなもん、幻想郷のことを愛して愛して止まないくらいじゃなきゃ、できない。

 

 「そう、それは残念だわ。でも既に約束はしていたし、いいでしょう。必要なときに呼び出させてもらうくらいで」

 紫は想定内だという表情でテーブルの上の紅茶を手に取る。そうだ、もう一つ条件を付け加えておかなければ。どちらかというと、こちらの方が問題に発展しやすい。

 

 「あともう一つ追加。…私の光となっているものが、そっち側の意思に反しているとき。そのときは残念ながら、あなたたちの力にはなれないわよ」

 すると紅茶を飲む手が一瞬、ピタリとやむ。

 「…っていうと、今ならアリスちゃんってこと?」

 「そうなるわね。まぁアリスはそんなこと思わないだろうけどね」

 「…まぁあの人形使いなら大丈夫でしょう。何より、それはあなたのアイデンティティだし、そのぐらいは多めに見てあげましょう」

 「助かるわ。まだ私の力は十分に戻ってないから、戻ってからになるけど」

 「はいはい。あなた、随分としっかり外堀を埋めるわね。私、そんなに厳しく見えるかしら」

 

 えーんという泣き真似を見せる。

 「当然でしょ?あなたの評価は胡散臭く、油断ならない。良かったわね、最高の褒め言葉よ」

 白けた表情で言う。ちなみに、八雲藍はそんな主人を見て見ぬふりしている。

 

 「ま、慎重なのは良いことね。じゃあ契約は決まったところで、幻想郷の注意点を教えるわね。そうね…まずは立地から説明しましょうか」

 そういうと、紫は地図を隙間から取り出す。大まかな幻想郷の地理は、宴会のときに魔理沙に教えてもらったものとはかけ離れていなかった。

 「ここは神社、人里。そしてここは魔法の森。…ま、この辺は知っているでしょうね。そして迷いの竹林があるわ。ここは立ち入ったら出られなくなるわよ。あ、ここは地底。そこは妖怪は立ち入り禁止よ」

 「理由は?」

 「そういう盟約を結んでいるから。嫌われ者の妖怪が多くいるのよ」

 「ふーん、ま、分かったわ。…外の世界には行ってはいけないの?」

 「基本はダメよ。結界を傷つけずに行くのは…目を瞑ってあげましょう。行くことのできるものはいるのは事実だし」

 

 私は地図と、そこを縄張りにしている妖怪たちのことを頭に叩き込む。ま、百聞は一見にしかずだし、のんびり、色々見て回ることにしよう。

 私がそう結論づけたタイミングで、紫は場をしきりなおす。

 「じゃ、私からの話は終わりね。…次は貴方の番よ。今回のこととか、色々教えてもらいましょうか」

 「そうね、どこから話しましょうか」

 藍が私のカップと紫のカップに追加の紅茶を注ぐ。私はその様子を見ながら、考える。表向きのことは重々承知なのだろうし、私はその裏で何が起こっていたのかを説明するとしましょうか。

 

 「永い封印の時の中で、もう考えることも放棄してしまった時。見たあの景色は、この幻想郷であったことは間違いないでしょう。あれはまだ私が封印されていた時の話―」

 

 紅茶の香りで安らぎながら、少しずつ自身の体験を語り始めるベリルであった。

 

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