東方裏影録   作:寒月

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妖怪寺、アリス邸

 紫からの助言を受け、私と霊夢は人里はずれにある妖怪寺こと、命蓮寺に向かう。

…人里はずれといっても、当然今は人里が存在していないが。

 

 時刻は昼頃。朝にしては当然遅く、昼にしても…やや遅い時間だ。

 昨日寝るのが少し遅くなったためか、(とはいっても、いつもゴロゴロしているのだろうが)、霊夢の寝起きが悪く、本当は朝一で出発したかったが、遅くなってしまったのである。

 

 

 命蓮寺の門の前、そこにいたのは命蓮寺のトップである、聖白蓮。

 「お待ちしておりましたよ。どうぞこちらにお越しください」

と、にこにこと言っている。

 

 「おいおい、なんで私たちが来るって分かっていたんだ?まさか、朝から待っていたわけじゃあるまいよな?」

思わずそういうと、聖は首を横にふりながら答える。

 「いえいえ、まさか。

単純に、そろそろ来る感じがしたからですよ。

此度の異変についてですよね? 私が話せることであれば、お話しましょう」

 どうぞこちらへ、と聖の案内にしたがってついていく。

着いたのは、本堂。 そこで待っていたのは毘沙門天の化身、寅丸星と、その部下にあたるナズーリンであった。

 

 これで聖にとっては全員が揃ったようであった。

私たちも星たちの前に座ると、彼女は一つうなずき、話始める。

 

 「人払いはすませてあります。

あまり多くの人に知られるのは、これから動くうえで障害になりかねませんので。

…問題はないとは思いますがね。 情報は制限しておいておくにこしたことはないでしょう」

 「早速だけど、単刀直入に聞くわ。

あなたは今回の異変の首謀者と思わしき妖怪を知っている。間違いないわね?」

と霊夢が聞く。

 

 「はい。…先に言わせていただきますが、決して隠していたわけではないのですよ?

ご存じだと思いますが少し前に八雲紫と話す機会がありました。

そのときに、『幻想郷や外界にいる妖怪ではないかもしれない』という話を聞き、魔界に、それらしき妖怪がいた

…可能性があることを思いつたのですから」

と、どこか申し訳なさそうに聖は話し始める。

 

 「可能性がある?結構、曖昧なのね」

 「この言い方をしたのは、私が見たことがないという理由だけではありません。

私が知る上で、魔界にいる人妖も誰も見たことがなく、その存在も噂にすぎないからです。

…魔界と一口にっても様々な場所がありますが、墓場と称されるような場所があります。

そこに、いるのではないかと言われているのです」

 「なんで誰もそこに行って確かめたりしないんだ?

一人ぐらい、噂をつきとめようとするやつがいるだろう?

まさか、妖怪が今更、墓場を恐れるようなことなんてあるはずもない」

私が疑問を率直に言葉にすると、聖は少し曖昧な表情を浮かべる。

 

 「皆さんが想像するような墓場、であるなら、そう思ってしまうかもしれません。

ですが、そこはただの墓場はありません。

…視界は一寸先も見通せず暗く闇が広がっており、地は底なし沼のようであり、歩くことはもちろん、飛び進むこともできない。

そこにいる者は、もう生きているか封印されたまま死んでしまっているのかも分からない。

興味本位で足を踏み入れたものは、そこに封印されている極めて凶悪な妖怪たちの餌食になるか、それとも出られなくなり封印という同じ運命をたどるか。

そう言われていますし、実際に飛び込んだものは二度と帰ってきた試しはないそうです。

それゆえ、誰も近づくことはないのです」

 

 「なるほどな、死んだ者がおさめられる『墓場』ではなく、そこが妖怪の『墓場』となる、ということか」

 「そうともいえるかもしれませんね」

 「でも不思議ね。…どうしてそこに…仮の名称として、『影の妖怪』とでもいいましょうか。

そいつがいるって言われているのかしら? 誰も確かめてもいないのに」

霊夢がそういうと聖は苦笑しながら答える。

 

 「ここに封印される妖怪は、極めて悪質・凶悪な妖怪や、殺す術がない妖怪などがほとんどです。

誰からも殺されそうなものの姿が見えなくなると、『あそこにいるのではないか』と皆が噂するものですよ。

さらに今回でいえば、その妖怪のことを、よく知るという妖怪が『魔界に封印されている』と語っていたらしいですから。

…その妖怪も私が封印される前に亡くなってしまったらしいですけど」

 「ふーん、ま、わかったわ」

 「私が話せることはこれで全てですね」

聖が話を締めくくる。すると、じっと話を聞いていた星が声を発する。

 

 「では、ここからは私の出番ですね。…といっても、ナズーリンが主になるでしょうが」

 「うん?とりあえず話を聞きに来ただけのつもりだったが、何かあったか?」

私は思わず聞き返す。

 

 すると星が笑いながら答える。

 「ここまで来て話だけ、というのも手土産としては不十分でしょう。

…こちらも人里からの来訪者が減ってしまい、迷惑しておりますので、お力をかしましょう。

うちのナズーリンの能力はご存じですよね?」

 「私が封印物を見つけ出そう、ということさ。

ここいらで博麗の巫女に恩を売っておくのも悪くない」

 「なるほど、『探し物を見つけ出す能力』で封印物を探し出してしまおう、ということね。

いいじゃない、やられっぱなしは性に合わないわ」

 

 ナズーリンの言葉に、霊夢も乗り気になる。

 「力を取り戻させて、そこをたたくんじゃなかったのか?」

私は素直に疑問をぶつけると、霊夢は答える。

 「もちろん、そのつもりよ。 ただ、見付けられることに越したことはないわ。

手がかりになるし、また封印物に力が多く残っているのなら、これを人質に、大人しく事をおさめなさいと交渉できるかもしれないじゃない」

久方ぶりに見た、生き生き、キラキラとした表情で霊夢は語り、皆が苦笑する。

 

 「交渉、という脅迫だがな」

私が思わずそういうと、聖も言葉を続ける。

 「さすがに寺を無人にするわけにはいかないので、星とナズーリンだけを同行させましょう。

…せいぜい、お手柔らかにしてあげてくださいな。

封印されている苦しみというのは、私が感じたものとは比にならないものでしょうから」

 

 

 

 「…聖も思うところがあるんだろうな。同じ魔界に封印されていたものとして」

 星、ナズーリン、霊夢、私で妖怪寺を出て、早速ナズーリンの導きにしたがって飛んでいると、

ナズーリンが開口一番にぽつりと呟く。

 

 「私には理解できかねるけどね。 そこに入れられるのって悪いやつらなんでしょ?」

霊夢がそういうと、妖怪である2人はなんとも言えない表情を浮かべる。

 

 「善か悪か、ただの一言で表すのは難しいでしょう。

私たちも聖を助け出すために異変を起しました。

それはあなたたちから見れば悪かもしれませんが、私たちにとっては仲間を助け出すための善です。

そしてそれを見て、周りに迷惑をかける悪として見る者もいるかもしれませんし、仲間思いだと善として見る者もいるでしょう。

…決して肩をもっているわけではありませんよ?」

 

 「私に迷惑をかけるものは悪、人里に迷惑をかけるのも悪。…はっきりしたものだと思うけどね」

霊夢ははっきりと言い切る。

 「…あなたは羨ましいです。周りに捕らわれず、きちんと軸をもっている。

それが強さでもあり、弱さでもあると思いますがね」

と星は言う。

 

…霊夢はそういったが、私はそう言い切ることもできそうにないかもな。

結局、善か悪かなんて、その人の価値観でしか測れないものなんだから。もちろん、死後の裁きを下す閻魔は除いて。

 

 「とりあえず、今回のやつには一泡吹かせてもらいたいものだ。

人里からの集客はゼロになり、弱い妖怪は不安が募り、聖を頼ってくれるのはありがたいが、こうも続くようであればこちらの負担も大きくなるだけだ」

ナズーリンがそうしめくくる。

 

 「…こっちの方向は、魔法の森方面か?」

私が話を聞きながら、飛んでいた方向に検討をつけて質問をする。

 「うむ。そのようだな。…といっても二つ…三つほど反応があってその一つを追っているんだが」

 「三つ?そんなにあるの?」

霊夢が尋ねる。

 「とりあえず、一番強い反応を示しているところから向かっている。

私の能力は、魔力や妖力といったものも拾い上げることができる。

今回の手がかりが『どんなもの』におさめれているか分からない以上、妖力などを一つの手がかりとして探し当てたほうが手っ取り早いと思ってな。

ちなみに、本気を出せば道筋まで追えるぞ」

誇らしげにナズーリンは答える。

 

 「ちなみに、ほかにどこに反応があるんだ?」

私も質問すると、ナズーリンは少し間を置き、考え込むような表情をした後、答える。

 「…妖怪の山にうすく1、霧の湖紅魔館方向にかなりもっとうすく1、といったところか」

 「もしかしたらとは思っていたけど、あちこちに封印物が分散されているのかもね。

で、あれば各地で同時並行的に影響を及ぼせるのも納得できるし」

 「ま、今回封印物を見付けられればはっきりとするな」

私がそういうと、皆がうなずく。

 

 

 …それにしても、この方向…アリスの家じゃないか?

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 『アリス、起きて』

 「…まだあと少し。誰かさんのせいで尋常じゃないほど疲れているのよ」

 『魔女なんだから、睡眠は必要ないはずよ』

 「休養よ。それも心のね」

 

 私は布団を深くかけなおし、二度寝の体制に入る。

 

 昨日、結果としては無事に妖力を回収できた。

…それは何よりだが過程としては散々だ。

 人里、妖怪の山へと飛び回ったうえに、妖怪の山では天狗にしつこく追われ続ける始末。

 その挙句、木陰で息をひそめていた私を、何かを感じ取った守矢の連中がこちらに歩み寄ってきて…

 うん、あのときのアレには心臓が止まりかけたぞ。

 

 …見つかりもしなかったし、私だとバレはしなかったのが奇跡レベルだ。

 

 『申し訳ないけど、急を要するのよ。こちらに一直線に向かってくるものがいるわ』

 「…間違いなく私のところに向かってきているの?」

 

 その発言で少し思考がクリアになる。 魔法の森で一点に集中して向かう場所など、あまりに少ない。

 

 『おそらく、ね。3…いや、4かしら?

…陸路から来なさいよね。 そうすればもう少し完璧に割り出せるのに』

舌打ちをしながらそう呟く。

 

 妖力を回収できたことで、以前より探知能力には磨きがかかっているようだ。

1や2なら魔理沙たちであろうが…これは最悪を想定したほうがいいかもしれないな。

 

 あたたかいお布団に別れを告げ、私は身体を起こす。

 

 「貴方のことがバレたのかしら?…それとも私を探していると思う?」

思い当たる節が多すぎて、分からないぞ。 服を着替えつつ、人形たちに家を出る支度をさせる。

 

 『…おそらく私でもなく、貴方でもない。

私自身は完全に貴方の魔力で覆い包まさっている状態であるし、この距離では簡単には見付けられないはず。

…ダメね、検討がつかない。

とりあえず、私たちは家から出て、様子をみましょう』

 

 そう語る間も、こちらに向かってくる者の動向を探っているのだろう。

…こういうとき同時に物事を考えられるのは便利だな。 誰かに追われる機会なんて二度とないほうがいいが。

 

 「そうね。…よし支度は終わったわ。さぁ、家を出ましょう」

 最後に部屋にいる何人かの人形と視覚を共有する。

さすがに操れる数には限りがあり、死角がないとはいえないが、大方は網羅できるはずだ。

 

 『大丈夫、十分間に合うわ』

その言葉にうなずき、家を出て、人形との共有が途切れないギリギリの位置で様子を伺う。

 

 千里眼持ちでもなければ私のことを見付けられない距離は開けられている。

…大丈夫、ばれはしない、はずだ。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 「おいおい、やっぱりアリスの家じゃないか」

見慣れた家にたどり着き、私は思わず声をあげる。

 

 「この中だ、間違いない」

ナズーリンは確信した表情を浮かべる。

 「アリスが持っているのかしら?

…おーい、アリス、いる?いるなら出てきなさいー」

霊夢はドアをコンコン…ではなくドンドンとたたく。

 

 「…いなさそうだな」

窓から中の様子を伺っていた星が言う。

 

 「あいつがいないことは間違いないな。

こんだけ騒々しくしていて、人形1人も出てこないのはおかしい。…家を空けているのは珍しいが。

紅魔館でも行っているのか?」

 

 私はそういい、ちょっとかせ、と霊夢からドアの主導権を奪う。

そしてスカートのポケットからヘアピンを一本とりだし鍵穴にさし、ドアノブを少しガチャガチャと動かす。

…ほどなくして、かちりと無事解錠された音がし、ドアが開く。

 

 「よし、見て周ろうぜ」

そういってドアを開け、中に入るが、皆は微動だにしない。

  「…どうした?中、入らないのか?」

振り向き、皆の様子を見るが、三者ともども、ありえない、という表情を浮かべている。

 

 「これからは…施錠をしっかり…いや、魔理沙対策考えなきゃ…」

と言い霊夢は呟く。

 「魔理沙さん…普段やっている訳ではないですよね?」

 「失礼な。物を借りるときだけだぜ。今回は異変解決のため、家宅捜索だ」

星の質問に対し、堂々という。

 

 それを聞き、唖然とした表情をする星。

 

 「…ご主人、魔理沙に色々いいたいことはあるでしょうが、それは後にしましょう。

ここで家主が帰ってきて、同類扱いされるのはごめんですから」

とナズーリンが、どこか諦めたようにいい、ため息をつきながらナズーリンもアリスの家の中に入り、封印物を探し始める。

 「おいおい、失礼だな」

皆もナズーリンの後に続き、続々と入るが、誰も私の言葉に反応しない。

 

 私は肩をすくめ、ナズーリンに話しかける。

 「んで、どこにある?」

 「…これだ。この本だ」

探し物はすぐに見つかった。リビングの上に置いてあった本だ。

 「『きんぐだむ おぶ ワイヤー…』 …なにこれ」

霊夢はパラパラと本をめくる。

 「『kingdom of wire puller』、だな。

前、来た時にはこんな本なかったぞ。 だから紅魔館の本じゃないのか?」

 

 「…見たところ、空っぽだけどね。この本。

残念だけど、中に何かがいるってわけじゃないみたい」

パタンと本を閉じて霊夢が言う。

 

 「はずれですか。…残念ですね」

星が口惜しそうに言う。

 

 「魔理沙、この前来た時っていつ?」

 「うーん…異変が起こり始める少し前だったかな? 具体的にいつ、と言われると定かではないが」

 「…ということは、封印が解かれたのはアリスの手にわたった後である可能性もあることになるわね。

あのとき、アリスに聞いたときには心当たりはないって言っていたけど」

 

 「ま、あの発言に嘘はなさそうだったな」

 「魔理沙(嘘つき)がいうと、説得力があるわね」

 「さっきから失礼だな」

不本意だぞ、という顔をすると、霊夢は笑い流しながら言う。

 

 「とりあえず、この本は押収させてもらいましょ。

紅魔館の本なら、アリスも文句言わないでしょう」

 

 「この本についてパチュリーに聞くか?」

 「うーん、聞いたところでさしたる情報は得られないでしょう。

もしなにかが封印されていると知っていたら、アリスにになんてそもそも本をかさないでしょうし」

 「そうだろうな」

あいつはあれでも、おひとよ…魔女好しである。

分かっていて危ないものを渡すようなことはするまい。

 

 「アリスに聞いてみるか。そっちの方が手っ取り早そうだ。

魔女が目のまえの好奇心を抑えずに、調べつくしていないはずがない」

 「ふーん、ま、その辺はよくわからないけど。そうしましょうか。アリスは何か関係している気がする」

 「ここにきて、勘が働き始めたか。ここで待つか?」

 「いや、おそらくあっちのほうにいるわ。私の勘が言っている」

 「それ、本当に当てにしていいんだろうな?」

 「博麗の勘はよく当たるのよ」

あっけらかんとした表情で言う。

 

 「それであれば、私たちは残りの反応を追いましょう。まだ何か手がかりが見つかるかもしれません」

 「助かるわ」

 「いえいえ。この貸しは大きいですよ?」

星は笑いながら言い、ナズーリンと共に部屋を後にする。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 『…なるほど、目的はあの本か。良かったわね、アリス。貴方の身は守られたわ』

 「いやいや、私が関係していると明白になったわけじゃない。問題ありありだわ」

遠くでじっと見守っていた私たちは、霊夢が本を持って家から出てくる様子を見て話をする。

 4人は珍しいと思ったが、聖のところの妖怪たちに協力を仰いでいたのか。

 

 『…ん?いや、なんでそうなる?

なんで博麗の巫女はこっちを指さしながら向かってくるんだ?』

 その声に、考え事を中断する。

見ると、何かを話したと思ったら、霊夢がこちらを指さしながら向かってくる様子であった。

 

 「あぁ、霊夢だからね。おそらく勘で動き出しているんでしょう?」

 『勘であんなに的確に動く、普通?』

 「遠くからならまだしも、近くまで来られたら…さすがに気づかれるわよね。霊夢なら、確実に。

…とりあえず移動しましょうか。さすがにいる方向になんとなく向かっているだけで、ここにいるとは思っていないでしょうし」

 『さっきから理由になっていないんだけど…』

 

 理由?理由なんて「霊夢だから」の一言でしか言い表せない。 こればっかりは口では説明しにくいのだから。

 

 ベリルの声を完全にスルーし、霊夢が指さす方向へ向かって、距離をとるように飛び、移動する。

 

 「さて、このままだとジリ貧だけど、どうしましょうか」

 『…バレてしまうと、どうなると思う? その❝霊夢❞とやらならどうすると思う?』

私の思考を感じ取ったのか、これ以上の問いは不問とばかりに、ため息をつき、言う。

 

 「大人しく、ことの経緯を説明して、あなたの力を取り戻して、あなたを復活させるまで待ってもらおうってこと?

…おそらく今の騒動をおさめることには協力的ではあると思うわ。

でも、その後の行動は未知数ね。

少なくとも、大人しく復活させるようなことはしなさそうだけど」

 

 下手すると、二人一緒にそのままでいろ、と言いかねない。

復活したら、したで面倒ごとを起こしそう、これ以上悩みの種を増やされるぐらいなら、私を生贄に

…いや、言いそう。 現実味を帯びてきた。

こればっかりは嫌だぞ。なんのために、こいつに協力していると思っているんだ。

 

 「いや、やめた方が良いわ。やっぱり」

 『ちょっと今、失礼なこと考えたような気がするけど…。

ま、いいわ。 このまま当てもなく逃げ続けるのは得策ではないことは確かね。

とりあえず、妖怪の山に行きましょう。

木を隠すなら森にってね。あそこなら私の妖力が小さいながらも分散されている。

私の妖力を隠すには好都合だわ」

 「そうね。…ねぇ、あとどのくらいで復活できそう?」

そういえば、その相談をまだしていなかった。

昨日集めた力は、そこそこあった気もするが、具体的にはどの程度必要であるのだろうか。

力が分散されているといっても、集められるものには限りがあるだろうし、大人しく地道に妖力を練る必要があるなら時間がかかりすぎる。

 

 『もう少し妖力が欲しいところではあるわね。 幻想郷の結界を超えるには少し物足りないかも。

あと妖怪の山の残りを集めて…でも足りな……ん、いや。

昨日は月が随分と明るかったわね?…ねぇ、月。 月の周期はどうなっている?』

 「月?今日の夜は…確か月食じゃなかったかしら」

 

 魔女たるもの、月の具合は完璧に把握している。

魔法に限ったことではないが、魔力は月によって左右されるのだ。

ちなみに、月食と魔力の相関性は(もちろん月食の種類にもよるが)極めて良好だ。

 

 『ふふ。完璧ね。 天は味方しているようだわ。

それともこうなったのは必然なのかもしれないけど。

…月食は地球の影が月を食らう。 すなわち、月の力を十二分に使うことができる。

それなら今、探知できている分を集めればいけるわ』

 「助かったわ。 このまま逃げ続けながら地道な道をたどることにならなくて済んで。

霊夢から逃げ続けるということは、幻想郷そのものから逃げることと同意。

隙間妖怪もいる以上、不可能すぎるわ」

 

 『…いや、聞かない。

聞いたところで理解できそうにないしね。

百聞は一見に如かず。 身体が戻った暁に、自分の目で判断することにしましょう』

 「そうね、そうしてちょうだい。

…聞いてなかったけど身体が戻ったらどうするの?

紫とか霊夢とかに勘づかれることは間違いないと思うけど」

 

 そういえば、全くそのことに関して話をしていなかったことを思い出す。

 『もちろん、ずっと隠れていようなんては思ってはいないわ。

異変を起妖怪が起こし、それを人間が解決する。

幻想郷に来た以上、幻想郷のルールに従うべきでしょう。 それを実行するまでよ。

少なからず騒動を起こしてしまったことは理解しているし、きちんと悪として裁かれることにするわ。

もちろん、ただでやられる気はないけれど。

スペルカードルールには明るくない私程度でやられるようじゃ…この郷をそっくりそのまま私のものにするまでよ』

と、にやりと笑いながら言う。

 

 『というわけで、アリス、あなたの持っている情報、教えてもらうわよ。

あなたの弾幕、あなたが知りうる弾幕。

しっかり準備させてもらうわ』

 

 口で説明なんてしようがない…と思ったが、別に口で説明する必要はないのか。

といわけで、ちょっとあなたの記憶覗かせてもらうわねーと言ったところで心の声がぷっつりと聞こえなくなった。

 

 本当は嫌だが、これぐらいは仕方あるまいな。回避不可能な弾幕や、当たったら怪我どころでは済まない弾幕を展開されても困るし。 せめてしっかり、ごっこ遊びに準じて欲しいところだ

 

 

 …いざ復活したところで、私はどうするべきなのだろうか?

 

 私は自分の身体を人質に乗っ取られて協力させられていたのだから、被害者ではあるだろう。

だが不可抗力とはいえ、共犯者であることには変わりがない。

私も霊夢にいずれ制裁を受けることは間違いないだろうが、果たして復活した際、私はどちらの立場にいるべきなのだろうか?

 

 悪か、善か。私はそれまでに答えを出さなければいけない。

 

 日の向きと角度をちらりと確認する。

 

 月食まで、あと6時間。

 

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