東方裏影録   作:寒月

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あれ、おかしい。すぐに投稿しようと思ったのに前回から間がこんなに空いている…。

そしてどこで話を分けるか迷う。

視点が頻繁に変わっております。


月食、復活、そして急展開

「おいおい、全然見当たらないじゃないか。こっちの方向にこのまま進むと、妖怪の山に行くことになるぞ?」

「…あってるわよ、本当に、多分、おそらく」

 

 この霊夢の言葉がどんどん自信なさげに言っているのなら、可愛いもんなんだが、どんどん強気になっている当たりさすがとしか言いようがない。

 さて、どうしたものかというところで、ものすごいスピードで、見覚えがある烏天狗が飛んでくる。

 

「あややや、霊夢さんと魔理沙さんじゃないですか。お久しぶりですね」

「文じゃないか。見回りか?」

 私がそう尋ねると、文屋の射命丸文は、まぁそんなところです、と答える。

 

「すっかり騒動が落ち着きましてね。…といってもゼロになったわけではないですが」

 

 文のあとを追ってきた白狼天狗が二人。こちらは全く見たことがないやつらだ。二人はこちらを警戒した様子を見せ、一歩前に出るが、文がそれを手で制する。やはり見回り中だったのか。

 

「侵入者がいるとの連絡があり、飛んできたところ、お二人だったわけですね。まぁ、お二人は山に入っても問題ないでしょう。先日、いらっしゃったことは烏天狗の間ではそこそこ有名なところです。…そこで何を話されたんですか?あとは異変解決の進捗状況、そして―」

 

 なるほど。記事のネタを聞きに来たわけだ。さすがに誰かぐらい、連絡を入れてきた天狗は分かっただろうし、私と霊夢が来たとあれば、大方ネタが手に入ると思って文字通り、風のようにやってきたのだろう。

 

「質問はこっちがするわ。…ねぇ、アリスを見ていない? 絶対に、おそらく、多分この辺に来たと思うんだけど」

 しかし一筋縄では絶対にいかない霊夢が反対に質問をする。

 

「アリスさんですか?いや、見てませんが…。そんなことより…

っていやいや!アリスさんがなにか関係あるんですか?そういうことですか?!」

こっちも一筋縄では…というか全くへこたれない。

 

 私は文の質問を無視し、霊夢と話をする。

「だそうだ。…はずれだな」

「そんなはずないんだけど」

霊夢はどこか不服そうにいう。

 

「おーい、聞いてますかー?質問に答えたんですから、私の質問にも答えてくださいよー」

文は私たちの顔を覗き込みながら、聞いてくる。

 

「…何をしているんですか。この厳戒態勢の中の独断行動は、いくらあなたでもご法度ですよ」

すると、白狼天狗が3人。そのうち、一人は見たことがある顔だ。

犬走椛がこちらにやってきた。

 

「あやややや、お早い到着で」

文はひきつった顔で椛と距離を取る。

 

「侵入者の連絡があったから、来たんじゃなかったのか」

私がそういうと、椛は顔をしかめる。

 

「…文さんがそういったんですか?…侵入者の連絡があったのは事実ですが、対応するように命じられたのは、私たちの班です。最初に、白狼天狗のみの班がが駆けつけ、様子をうかがってから、実働部隊が駆けつけることになっています。といっても、霊夢さんたちだったことは分かっていましたので、どう対応するのか、上と相談したいたところだったんですが…」

そこまで話をしてちらりと文の方を見る。

「霊夢さんたちだと聞いた瞬間、どこだかの班の者が最速で駆けつけたようですね」

 

「…これって、私、やばい?」

文がひきつった顔で尋ねる。

 

「そこそこやばいです。だいぶ状況は収まってきましたが、それでもまだ、上は少しピリピリしていますからね。こちらにも面子がありますから」

「あやややや…」

文は先ほどまでのひきつった笑みを維持したまま…だがあまり反省はしていない様子だ。

「まぁ、あなたへの処分は追々、下るでしょう。

それより、霊夢さん魔理沙さん。上の者が呼んでおります。お越しいただいても?」

「アリスを探しに来たんだけど…ま、少し寄るくらいならいいでしょう」

「?まぁよくわかりませんが、助かります。こちらへどうぞ。…ちなみに、文さんには何か話しましたか?」

「いえ?何も?」

「そうですか。それは何よりです。…文さんは見回りを続けてください。独断行動はくれぐれも控えてくださいね」

少し不服そうな顔をしている文と、私たちも怒られるんだろうな、という不安そうな顔の白狼天狗たちをおいて、私たちは椛たちに着いていく。

 

「…それにしても、お二人がアリスさんを探しているだなんて、珍しいですね。アリスさんはこちらに来られることはまぁないですけど」

この方向は…守矢神社か。どうやら捜査本部にでもされているであろう、守矢神社に向かっている途中で、椛に尋ねられる。

「まぁ色々あってな。やっぱり見てないのか?」

いつもなら追い返される面子に先導されることに、なんとなくの違和感を感じながら、こちらも話をする。

「えぇ。普段ならまだしも、今の状況でバレずに山に入ることは、ほぼほぼできないでしょうから、いないことは確かだと思いますが」

「普段、ガバガバ警備だから、説得力がないな」

というと、霊夢も全くだ、という顔をする。

 

「魔理沙さんは頻繁に侵入しすぎですし、霊夢さんにいたっては堂々と入って、周りを蹴散らしていかれるでしょうに…つまり、お二方とも我々の忠告、警備をフルに無視しているだけにすぎないのですが…まぁいいです」

 

 なぜアリスを探しているのか、気になってはいる様子であるが、そこをあえて聞かない椛。文のように、自分の私利私欲を優先しないあたり、妖怪にしてはめずらしく仕事に忠実だ。…まぁ、そういう妖怪の性かもしれないが。

 

―――――――――――

 

「…捲いた?」

 

 妖怪の山の、ここは3合目あたりであろうか。草木が異常に生い茂るり、ちょっとやそっとでは見付けれないところで、私は様子を伺う。…といっても、千里眼の前では意味のないものだろうが。

 

『えぇ。おそらくね』

と、その言葉とは裏腹に、ベリルはなんだか苦々しげな表情でいう。

 

 私はほっとし、大きな木の根に腰をかける。ちょうど土のところで盛り上がっており、さらにこの大きな木が土の養分や日光を、周りのものの分まで取ってしまっているのだろう。この辺のみ、草木の生えが少なく、ちょっと落ち着くにはちょうどいいところだ。

 

「何か気になっていること、あるの?」

『気持ち悪い。なんだか居心地が悪いわ。…これが幻想郷を敵に回すっていう感覚なのかしら』

表情に疑問を覚え、尋ねると、なんだか不穏な返答が返ってくる。

 

『さっきから見られていない、気付かれてはいないはずなのに、どことなく視線…というか探られている感じがするのよ。そのせいで、さっきから気分が良くないわ。…うまく言えないのがもどしいけれど』

「…紫かしら」

『誰だかはわからないけどね。そして誰を探しているのか…あなたか、それとも私かは』

 

 少し会話が落ち着いたところで、ふと、前に、感じた疑問をぶつける。

 

「そいうえば、あなた能力、未だによく分かっていないんだけど…その、『まぎれる』ってなんなの?」

『周りに溶け込んでいるのよ。ものすごくかみ砕いていえば、影を薄くしているってこと。私の妖力を追っているのであれば、私の妖力が点在している場所に。私の姿を追っているのであれば、人間がいるところに。周りに擬態する対象があればあるほど、それは強力になるわ。だから、あなたの姿を追っている今、正しくは❝他の人がいるところ❞に逃げるのが一番なのだけど…そんなところは存在しないしね』

 

「…なるほどね。それで?それだけじゃないんでしょう?」

すると少し言いたくなさそうな表情で押し黙ってしまう。

 

「話してもらうわよ。包み隠さずね」

言いたくない気持ちは分かる。妖怪の能力や性質を語るということは、自分自身の弱点を語ることに他ならない。力関係が全ての妖怪同士の間柄では、それは致命的な行為である。

 

私の強い決意を感じ取ったのか、ベリルはため息をつきながら話を切り出す。

 

『私の能力は主に二つ。

一に、相手の影を操ること。影の動きを止めたり、形を変えることで本体に影響を及ぼすことができるのよ。ただ、本体に与えられる影響は、本体のポテンシャルに左右されるけれど。

…例えば、そうね。目の前に木の枝があるでしょう?そこにできている影を、折れている形に変形させると、本体も折れてしまうってこと。本体があれば影がある、逆もその然りってことよ』

「ポテンシャルに左右されるってことは、本体が頑丈なものであるほど、効きにくいってこと?鬼とか、吸血鬼たちみたいに」

私が身体能力が極めて高い妖怪を例に挙げると、彼女はうなずく。

 

『えぇ、そうね。あとは空高く飛んでいたりして、影の形を十分に捉えることができなかったら、効果が激減するわ』

「二つ目は?」

すると生まれる、一瞬の間。

 

そして諦めたかのように、再度ため息をつきながら答える。

『二つ目は、相手の精神を操作すること。…といっても、相手の精神を乗っ取るとかそういうものではないわ。こればっかりは説明しにくいんだけど…影で操る人になるっていえば分かりがいいかしら?』

「分かるようで、分からないわ」

私は率直に答える。

『まぁそうよね。…私という妖怪の影響を与えることができる、といった方がいいかしら。あらゆるものは周りの影響を受けながら、変化しながら生きている。それをすこし強力にした感じよ。半強制的に私という妖怪を人、妖怪問わずに反映させることができるのよ』

 

「…あなたが言いたくなかった理由が分かったわ。それで、私が嫌悪…というか、協力しなくなるのを恐れたわけね」

 

一つ目の能力は霊力や魔力を持たない人間には効果が絶大である。地を歩き、肉体も丈夫とは言い難い人間にとって、十分な脅威であるだろう。

二つ目の能力は、片や妖怪に対し強い能力だ。「在り方」を重要視する妖怪にとって、その妖怪としての在り方を歪められ、自分そのものを塗り替えられてしまうことは、自身の死を意味する。影響を強く受けてしまえば、文字通り自身の意思がなくなり、傀儡にしかなれなくなるということだろう。

 

『相手が強い精神力を持つものであれば、拒むこともできるし、人間に対してであれば、酷く影響を与えなけっれば少し物の考え方が変わってしまう程度で、命に別状はないしね。

私が何かを命じない限り、行動への影響もほとんどないし。

…この能力はまだ曖昧で不確定なところが多いのよ。真に私の意思通りに物事が進まないことも多いわけで、わりと使い勝手悪いのよね。相性もあるし』

「相性?」

『強い精神力があれば拒むことができるって説明したでしょう?それのことよ。

自分というものを強く持っているものに対しては効果が薄くなるの。

例えば…あなたみたいな魔法使いとか。魔法使いは、自分はこうあるべき、こうあるしかないという軸を持っているでしょう?』

 

なるほど、理解ができた。周りに左右されない者には強いということか。…かく言う私は人形を作り、人形に囲まれ、人形への研究をする者だと心の底から思っているし、パチュリーも同様だろう。他のことに今更左右されることなどないことは確かである。

 

「…一応聞くけど、私に能力を使ってないわよね?」

『誓ってね』

それを聞いて安心する。となれば、まぎれるという能力はサブのものに過ぎないのか。

 

「一つ目の能力が今回の異変に現れなくて本当に良かったわ。里の人間が死んでいたりしたら、あなた、弾幕ごっこどころの騒ぎでは済まなかったわよ」

『全くだわ。まぁ死ぬほどの影響は出なかったでしょうけど。…多分ね』

「あともう一つ、あなたはなぜ、そんなに視線に敏感なの?」

『影は注視されるものでもないし、見られるものではないからよ。単純に慣れていないから、敏感になっているだけよ』

 

…月食まで、あと4時間。

 

 

―――――――――

 

「やっほー、進捗はどう?こっちは突然、ピタリと収まって拍子抜けしいているところだよー」

 椛たちに連れられ、守矢神社の敷地に着いた途端、声をかけてきたのは諏訪子だ。鳥居の近くでぶらぶらしていたようである。

 

「あれ?他のやつらはどうしたんだ?」

私が尋ねると、諏訪子は小石を蹴とばしながら答える。

「中で難しーい話をしているよ。…全く、意味なんてないのにね。

だってこっちは姿も形もしらないんだからさ。憶測で話を進めても、進んでいる気になっているだけで、ちっとも前進なんてしていないのに」

「それで?そっちはどう?」

「犯人もだいぶ絞られてきたわ。今は情報収集のために、こっちにいるはずのアリスを探しているところよ」

霊夢がそういうと諏訪子はパッと明るい表情を見せる。

「えぇ?!まじ?!てかアリスちゃん?ちょっと状況が読めないんだけど

…てかそれなら、中!!中に入ろ!?」

早く早く、と私たちをぐいぐい引っ張りながら中へと連れていく。

 

そして部屋の一つの扉をバンっと開いたと思えば

「聞いて聞いて!!分かったって!犯人が誰か!!」

と大興奮の様子で話し始める。

 

 最初は神奈子も早苗も、次いでに龍も呆気に取られた顔をしていたが、すぐに皆、キラキラと目を輝かせる。

 

「誰だ?誰なんだ?我々の縄張りを侵略してくれた不届き者は?」

「妖怪の山の面子にかけて、そいつには痛い目にあってもらわないと、示しがつかないわ」

「どうやって?!どうやって見付けたんですか?ていうか、その人?妖怪?は今どこにいるんですか?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。一気に質問されても答えられないわ。

そして、諏訪子、話を誇張しないでくれる?犯人を絞れたって言っただけで、特定したとは言っていないわ」

「あ、そうだっけー?ごめんごめん。でも、どうせ分かってるんでしょー?

隙間妖怪とかから話を聞いていたりしてー?」

ぺろっと舌を出しながら悪びれもなく謝る諏訪子。

「そういえば、あいつはどこまで掴んでいるのかしら…」

霊夢は、ふと、あの胡散臭い妖怪の顔を思い浮かべたのであろう、少し顔をしかめながら、ぼそりとつぶやくのであった。

 

 

―――――――――

 

 

「じゃあ、特に準備することはないのね?」

「不必要よ」

 

 まだ景色は見通せるが、だんだんと暗くなり、月食がもうじき始まろうと…いや、もう少し始まりかけているころ。

 彼女の能力を聞き終えたところで、復活に向けて行動を始める。といっても、特にやることはないらしい。召喚や解呪であるなら、何かしら準備が必要そうなものではあるのだが。

 

「精神と身体とのつながりがある以上、必要がないわ。あなたという、魔界と幻想郷のアンカーがあるしね」

「…じゃあ、このまま月食が起こる時間までじっとなにもしてなくていいわけ?」

「まぁ、その時間が近づいたら、あなたの身体を一瞬、かしてもらうけど。

それまでは…そうね。私が復活したらあなたはどうするのか…いや、どうしたいのかの答えを考えておきなさいな」

 

 その言葉にドキッとする。ずっと後まわしにしていた問題だ。

 手元にある本の表紙をそっとなでる。自身のグリモワール。

片時も離したことがない自身の魔導書だ。これは私の魔女として歴史であり、全てである。なんとなく、ページをめくり、眺める。一ページ目には、まだ理論も拙く、幼い内容が書き連ねられている。今読み直しても笑ってしまうような内容だ。

 

 これは私がまだ人間だったときのものだ。未だにこのページだけは、なんとなく残している。これがあることで、魔女と成ることを決意したあの日を思い出せるような気がして。

 

 私はパチュリーのような生粋の魔女でも、人間としての魔女であり続けている魔理沙とも違う。自らの意思で、妖怪となることを決めた魔女だ。だが、ここで私は妖怪として名を挙げることは、私の原点を軽んじてしまうことになるのではないか?

 たかが弾幕の「ごっこ遊び」。されど幻想郷においては、自分の存在を他に知らしめる行為の一つである。そして、それは私において、重大な意味もつことである。

 

 私は再度、思考をめぐらせながら、2ページ目を開く。暗さで文字が読めなくなるそのときまで。そのときまでに。

 

…月食まで、あと2時間。

 

――――――――

 

「…それで!?よくわかんないけど、犯人はアリスちゃんなの?!」

「分からない!けど、いそうだと思った方向から、今度はやっと少しだけど、妖力を感じるの!隠しているつもりかもしれないけど…私には分かる!

あれは、忘れもしない、あの陰湿でいやな妖力よ!とりあえず、関係しているんだからぶっ飛ばす!ただそれだけよ!!」

 

 そういう霊夢と諏訪子の声は大きく、少し離れた後ろを飛んでいる私の耳にも届いてくる。というのも、今は霊夢の勘に従い、妖怪の山を飛んでいる最中なのだ。

 

 説明が終わった後、みなの反応は落胆したものであった。それでも、招いた以上…と早苗がお茶を出してくれようとしたのだが、めずらしく霊夢はそれを断る。

 妖怪の山に着いて以来、ずっとそわそわと落ち着かない様子であったのだが、守矢神社に着いてからは特にその様子は顕著になる。暗くなっていく空と、空に上り少しずつ姿が明らかになっていく月を、しきりに交互に見つめている。

 

「どうした?便所か?」

ふざけて私がそう茶化すも、霊夢はそれにさえ乗ってこない。

「嫌な予感がするの。…今日ってなんかあった?」

「なんかってなんだ?天気か?今日は朝から晩まで、快晴だぞ?」

そこまで答え、霊夢の目線を追い、言葉を紡ぐ。

「…月?か?…そういえば、今日は皆既月食だったな」

私がそうなり、霊夢は舌打ちをして、外に出る。

 

「おいおい、お前、妖怪の山について以来ずっと落ち着きがないが、どうしたんだ?」

「今日よ、この瞬間。ここで」

「は?何言ってんだ?」

「復活は今日。ここ、妖怪の山で起きる。おそらく、アリスのいる場所。

早く場所を特定しないと。これ以上、好きにはさせないわ」

真顔の霊夢を久々に見て、一同は表情を硬くする。霊夢はそのまま外に出る。

 

「…ついてくわ。私がいた方が面倒ごとにならなくていいっしょ?」

「助かる。私は天狗に話をつけてこよう」

最初に動き出したのは諏訪子、続いて龍だ。

「わ、私は…」

「早苗。お前は諏訪子についていけ」

「わ、分かりました!」

次いで、早苗、神奈子だ。

 

「おい、霊夢!それだと、アリスをぶっ飛ばすことになるんじゃないのか?!」

私は話が急展開すぎて、頭がついていかず、皆より出遅れてしまう。

「…白黒の。いいか、誰であろうかなんて、関係ない。『異変を起こした者』と『異変を解決する者』。結局のところ、あるのは二者だけだ。もしそこに、人形遣いがいたのなら、お前は話を聞き、納得すれば引き下がるのか?」

「いや…それは…」

「そうだろう?で、あれば迷う必要などないはずだ。異変解決者として、お前は成すべきことをすれば良いだけだ。お前は感情豊かであるが、それに流されないように冷静に物事を判断しようとしている。それは最善ではあるが、必ずしも最良となるわけではない」

「何が言いたいんだ…?」

そういうと、神奈子は苦笑しながらいう。

 

「感情の赴くままに動いてみるのも、たまにはいいんじゃないかってことさ」

「お前、たまには神っぽいことを言うんだな」

「『たまに』ではなく『いつも』、だ」

「…ん、ありがとな、なんだか少しすっきりしたぜ」

私が素直にお礼を言うと、神奈子は少し拍子抜けした顔をする。

 

「これは、おまけだ」

そういうと、神奈子は、ぽんっと私の背中に触れる。

「私が行けない分、少し加護をつけてやるよ」

軍神としての加護か。

 

 それを聞いて、私はにやりと笑う。

「せいぜいお前の分まで暴れてきてやるよ」

その言葉に、神奈子もにやりと笑う。

 

 私は部屋を出る。気が付くと日はほとんど沈み、半分ほど影が月を飲み込んでいる。

小さく3人が飛んでいる方へ向かって、箒へまたがり、フルスピードで飛ぶ。

…そして先ほどに至るわけだ。

 

 

「よっ、遅くなったな」

私が皆に追いつき、声をかける。

 

 すると会話を中断し、皆が私に視線をむける。

「遅かったわね。魔理沙。…ってなんか神っぽい感じするけど」

霊夢が私の方を見て言う。

 

「…ほんとです!どこか…これは、神奈子さまの感じがします!」

「大方、神奈子が加護でもつけたんでしょ。出しゃばりなんだから」

白けた目を諏訪子が向ける。

 

「私からしたら、お前も、今回は随分と出てくるじゃないか」

 そういうと、諏訪子は、あーという表情を向ける。

「ん-…ちょっと気になってね。最初はさ、純粋に私たちの住む土地にちょっかいかけてきたのが気に入らなかっただけなんだけどさ。もしさ、霊夢が持っている本の内容通りの妖怪だったらさ、その妖怪、為政者だったわけでしょ?」

「まぁ、そうなるわね」

「同じような境遇なら、どんな考え方しているのか気になってさ。…なんなら、人間のこと恨んでいてもおかしくないし」

「ふーん…ま、変な気を起さなければ別にいいわ。あと、足手まといにならなければ」

「私が?足手まとい?冗談言わないでよね。早苗、あんたしっかりついてきなさいよね」

「は、はい!もちろんです!」

 

 霊夢の言葉にケラケラと笑う諏訪子と、任せてください、と言わんばかりに、やる気に満ち溢れている様子の早苗。

 

…月食まで、あと30分。

 

――――――――――

 

『…時間よ。アリス』

 

 その言葉に私は顔を上げる。不思議なものだ。文字を追っていた時は、暗くなっていることに気付かないのに、我に返ると、その暗さに驚く。

 私は本を閉じ、立ち上がる。スカートを払い、空を見上げる。日は完全に沈み切っており、それどころか影がほとんど月を多い、赤みを増している。

 

『さて、身体をかしてちょうだい。大丈夫、すぐに終わるわ』

「…本当に大丈夫なんでしょうね」

『えぇ。ものの数十秒で、あなたは晴れて自由の身。やっと私という居候者を追い出すことができるのよ』

 

 私はその言葉をきき、息を吐き、覚悟を決めた後、ふっと力を抜く。その瞬間、彼女が表に出ていった感覚がする。空を見上げると、ちょうど完全に、影が月を飲み込んでいる。

 

「さて、始めましょうか」

 私の声で、私じゃない者の言葉。片手を前にだし、目を閉じる。

 

 真っ暗になる視界。

 

 …月食まで、あと0秒。

 

 

 身体の力が抜け、崩れ落ちていく感覚。視界からの情報がないために、なおさら自分の身体がどうなっているか分からない。…もしかして、もう抜けたのか?

 慌てて自分の意識を表面に持っていこうとする。間に合わない。倒れる。…後ろに!

 

 そう思った瞬間に誰かに手をぐっと掴まれる。そのとき、やっと私は目を開くことができた。

「危ない危ない。…当然、そうなるわよね。悪かったわ。そこまで考えが及んでいなかったわ」

申し訳なさそうそうに、私の手を掴んでくれた者の姿が明瞭になる。

 

 白い肌に、黒いセミロングの髪。切れ長の瞼から私を見つめる瞳は緑色で、整った顔立ち。一見人間の姿をしているが、どことなく人外味を感じてしまうのは、誰が見ても「美形」といえる、美しさ故だろうか。

 

「この姿では始めまして、よね。改めまして。私はベリル。分かりやすく説明すると…影の妖怪ってところかしら。よろしくね。アリス・マーガトロイド」

「…ちゃんと声かけてよね。危うく怪我するところだったじゃない」

私がそうふくれっ面で返すと、苦笑して返される。

「申し訳なかったわ」

「それがあなたの本体?」

「えぇ。身体が何事もなくて、安心したわ。…まだちょっと気怠い感じがするけれど。私の身体も地獄のような時間を味わっていたみたいだし。…ま、ちょっと身体を動かせばなんとかなるでしょう」

私のことを掴んでいた手を離し、ベリルは首を回し、ゴキゴキと鳴らす。

 

「封印されていたときの記憶があるの?」

「うーん、説明が難しいところだけど…封印される時に、無理やり肉体から精神を引き離しだものだから、その欠片みたいのが残っていたみたいね。といっても、特に物事考えられるみたいな思考力は持ち合わせていなかったみたいだけど。細かい話は、また追々、ね。

…この近くを少し歩いてくるわ。貴方も少し、一人でゆっくりと落ち着くといいわ。結構力、使ったと思うし」

 

 確かに、少し疲労感がある。というより、なんだかまだ心と身体がムズムズする感じだ。今まで何かいたところが、急に空っぽになったから、そこに、ゆっくりと自分が浸透していく感覚…いや、うまく言葉では表せないが。

だが、まだ本調子ではないことは確かだ。

 

 気が付くと、ベリルは、そのまま静かに歩き、茂みに消えていった。

 一瞬、こちらを見た瞳が紅く光った…ような気がした。

 

――――――――

 

「…見てるんでしょ?出てきなさいよ」

完全にアリスから離れたところで、ベリルは虚空に向かって声をかける。

 

 すると、彼女の背後が裂け、一人の妖怪が姿を現わす。

「死ぬ前に姿を消す猫のように、わざわざアリスちゃんから離れるだなんて

…その潔さに免じて痛みなく葬ってあげますわ」

 

 その声に後ろを振り向き、対峙する。その言葉に対し、ふんっと鼻で笑って返す。

「やれるもんならやってみなさいよ。…そのつもりなんて毛頭もないくせに」

その言葉に、紫はわずかに口角を揚げ、肩をすくめて返す。

 

 「貴方が隙間妖怪…八雲紫か。

なるほど、この結界を作り上げたっていうのもうなずけるわ」

「お褒めの言葉をどうもありがとう。どうかしら?幻想郷は?といっても、アリスちゃんの中からだったからまた違って見えるかしら?」

 紫は今の時間では明らかに必要のない日傘をさし、くるくると回しながら質問を投げかける。

 

「いや、どこの誰から見ても一緒よ。完全にして不完全。平等にして不平等」

「道理ですわ」

くすくすと笑いながら紫はそう応える。

 

「…一体いつから私のことを認知していたわけ?」

と、今度はこちらから質問をする。

 

「意外に遅いものですわ。あなたの姿を認識できたのは、もちろん復活した直後ですし、アリスちゃんの中にいるって分かったのは、あなたたちが妖怪の山に入ってから。

霊夢たちに追いやられてか、それとも復活を前にしてからか、ちょっと行動が大胆すぎたわね」

「そう。そのあたりからね。…まぁ想定の範囲内ね。こちらとしても、行き場がなくなったのは分かってたしね」

ベリルは自分の後ろにある木に向かい、ちょうど、紫の正面を見据えるように、もたれかかる。

 

「ちょっと不可解な行動をしていることはわかってたわ。まさか、藍と接触しているとは思ってもいなかったけど。

…あの子なら気付いていてもおかしくはなかったし、きつくお灸をすえておきましたわ」

「…あぁ、あの九尾か。あまり言ってやるなよ。その辺の妖怪にしては上出来な部類だ」

 

 私は人里で出会った九尾を思い出しながら言う。あのレベルは妖怪が闊歩していた、かつての時代であっても、そんじゃそこらでは出会えるレベルではない。

 

「私の式ですもの。まずその辺の妖怪と一緒にしてもらっては困りますわ。

まぁ、すぎたことは良いでしょう。こうしてあなたも無事、霊夢たちに退治される立場になったわけですし」

「…それだけで良いわけ?」

私はほんの少し、呆気にとられる。

 

「異変を起した妖怪は、弾幕ごっこにおいて、人間に退治される。それが幻想郷ですわ。

…ただし、今回の異変は混乱を招きすぎた点もある。人里の閉鎖、妖怪の山の下剋上。

特に後者は幻想郷のパワーバランスを崩すことになりかねない。騒動を起したのが下の下の妖怪たちであったから特に問題はなかったものの、これは幻想郷の秩序を脅かす、重罪。それ相応の見返りは必要でしてよ」

「覚悟はしていたわ。良いでしょう。

あなたの手の内に入るのだけは遠慮させていただくけどね。それとも…」

そういって私は妖気をまとう。その瞬間、空気が一変したことを感じる。

 しかし、紫はその妖気を、はらりと流す。

 

「無理やり従わせるつもりは元々ありませんわ。あなたと敵になるつもりも。

…あなたとの能力の相性の悪さはよくわかっていますもの。

ただ…ちょっと手伝ってほしいときに手を貸してくださるだけで良いのよ」

「貴方、胡散臭いって言われるでしょう。まぁもともと拒否権はないわけだし、それで条件をのみましょう。ただ…細かい話は後にしてくれる?」

 

 私は歩いてきた方向…の少し先の空を見つめる。

 

「そうですわね。そろそろ来る頃でしょう。

…ではまた後日。そのときは今回の異変のこともたくさん、教えていただくとしましょう」

紫も同じ方向を見つめ、そう応える。

 

「では、ご武運を。妖怪としてのあなたを応援させていただきますわ」

そういって紫は隙間を作り、中に入っていく。

 

「同時に、異変を解決する人間たちも応援しているんでしょう?

全く、中立者とはよく言ったものだわ」

「自身が作った郷のため。あなたも、どこまでも自分のことしか考えていない妖怪なだけだわ」

 

 最後の言葉は紫に届いたかは分からない。

 





【紫との相性について】
 良くはない。というより、相性がつきにくい関係。
 影と本体に境界をつくることはできるので、紫の方が有利ではあるが、そうすると影を好き勝手できてしまうので、後々のことを考えるとしない方が懸命である。
 というより、本体と影を切り分けてしまうのは、自分を否定することになりかねないので、妖怪としてはあまりしたくない。
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