「で、これから30分後、あそこの白雲レストランにカンパニーの「資材物流部」のアルバイトが到着する」
ちょっとした変装に身を包み、喫茶店のカウンター席でコーラの入ったグラスを揺らす銀狼。同じく変装に身を包んだホタルとインシァンは軽い昼食を取りながら新たに書き下ろされた「脚本」に目を通す。
「今回の脚本は、随分と短いんですね」
「うん。ちょっとした時間くらいしか書いてない」
「ま、結局私のアカウントを取り戻すだけだし。エリオとしてもこんなもんでしょ」
そう言って銀狼は机の上にホログラムを展開すると、2人へ向けて今回の作戦を説明する。
「作戦名、「わらしべ長者」〜」
「……って何?」
「「わらしべ長者」は、仙舟などに伝わる民話です。神からのお告げをもらった主人公が藁1本から物々交換を始めて行って、最終的には億万長者になる、といった内容だったかと」
「説明ありがと、インシァン。ま、「カンパニーの社員になりすまして、その身分を順に交換してって本社まで辿り着こう」って感じかな」
「カンパニーの本社……ピアポイントだよね。何回くらい交換すれば良いんだろ……」
「カンパニーのバイトがP1でバイトリーダーがP2。正社員になるとP3。本社で私のデータにアクセスするには……一番早くて戦略投資部のP25くらいかな。ってことは……まあ、10回行かないくらいでどうにかなるんじゃない?」
「うわあ、長いね……一週間くらい掛かるかな……?」
「まあ、ピノコニー前の最後の息抜きと思えば」
「「脚本」によると、ピノコニーは相当大変なシナリオになりそうですから」とインシァンはホタルに微笑みかけた。その言葉にホタルも「そうだね」と頷き、そして手元のレモンティーを啜る。
「二人共、そろそろ時間だ。バレる前に彼らと入れ替わらないと」
そして会計を済ませると、彼女達は少し離れた交差点で止まっているトラックの方へ歩き出した。
◇◇◇
「……うわっ?!なんだお前ら?!」
「失礼しますね」
突然の侵入者に酷く驚く2人のアルバイト。インシァンは容赦なく、その首に注射器を突き立てる。そしてぐたっと白目を剥いて倒れた2人を銀狼はエーテル編集で適当な病院のそばに飛ばし、彼女達は置いてあったカンパニーの制服に袖を通すと何食わぬ顔で運転席に着いた。
「ガッツリ白目剥いてたけど、インシァン何ブチ込んだの?」
「麻酔薬と忘却剤の混合剤です。1回注射してあげれば即座に気絶して、5分間の記憶がまっさらに消えます。即効性と威力重視ではありますが、人体への影響は大してありません。それに、記憶の回復も私にしか出来ませんので」
「なら安心だね」
そしてカンパニーの制帽を被ると、インシァンは自動運転をオンにする。効率は悪いし遅いけれど、「今回はステルスゲームだから。バレた瞬間即死だから」となんとかアカウントを取り戻したい銀狼の説得にインシァンは仕方なく応じていた。そんな彼女はこの3人の中で唯一顔が割れているため、大人しく後部座席にうつ伏せになって周囲の防犯カメラのハッキングに勤しんでいる。
「……あ、あそこだよね。「白雲レストラン」」
「そう。二人共、降りる準備して」
後部座席に隠れたままの銀狼と、少し深めに制帽を被り直すインシァンとホタル。彼女達は搬入口に着くと、トラックの窓を開けた。
「カンパニーの資源物流部です。荷物をお届けに参りました」
「おお、お疲れ様!」
「銀狼、お願い」
「はいはい」
操作のよく分かっていない彼女達に代わって銀狼が手元のキーボードを動かすと、コンテナに積まれていた荷物がガコン、ガコンと降ろされる。そして全ての荷物を引き渡し終えてサインを貰うと、彼女達は意気揚々と引き上げていった。
「案外、分からないものですね」
「うん。バレないもんだね」
「当然でしょ?この宇宙にカンパニーの社員なんて星の数ほどいるの、一人一人を気にしている暇があるような狂人なんているわけない。ましてやアルバイトなんてなおさら」
「それも、そうですね」
「では、第一の目的地に向かいましょうか」とインシァンは再び自動運転をオンにした。
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