「やあ、調子はどうだい?愚者」
「熱砂の刻」、その片隅の茶屋でオーディションの中継を眺めながらつぶあんの団子を頬張っている彼女にアベンチュリンは声を掛けた。彼女は口の中に入ったそれを飲み込むと、「あ、や〜っと来た!」と彼の方へ振り返った。
「花火、君のこと待ってたんだよ。ふふっ、「口の利けない人」にはなれたみたいだね〜?」
「ああ、おかげさまで。君こそ、まだ「黄金の刻」にいるんじゃないか心配だったよ。「ロビン」を演じるのに忙しいんじゃないか、ってね」
「そんなこと?そっちの方は桜ちゃんがどうにかすると思うよ〜。今は星穹列車のメガネちゃんに手羽先兄妹、それに夢の主!皆でおしゃべりしてるらしいんだけど……ま、そろそろ終わるんじゃないかな〜」
「というか、もう終わっているだろうね。あの羽頭のことだ、そんな機会を設けるはずがない」
そして花火と合流したアベンチュリンは少し悩んだ後、ウェイトレスに一杯の煎茶と白餡の練切を注文した。数分して届けられたそれを彼は「こ、こうか……?」と戸惑い、慣れない手付きながらも竹串を入れて口に運ぶ。
「へえ、こんな味か……うん、悪くないね」
「あははっ!孔雀ちゃんにはもっと豪華な方が似合うと思ってた〜!ほら、金箔とかまぶしたやつとかさ〜!」
「褒め言葉として受け取っておくよ、愚者。それよりも……ほら、もう始まるみたいだ」
そう言ってアベンチュリンは顔を上げ、花火の視線も茶屋に設置されたディスプレイへと戻る。そこには、今まさにオーディションの第1ステージに挑もうとする星とホタル……ではなく「銀河打者」と「サミュエル」の姿があった。第1ステージ「ドリームバトル」の内容は「演技派」と「アクション派」の2つに分かれ、そのどちらかを選ぶという形式。彼女達が選んだのはなんと「演技派」。これにはあのバット担いだ銀河打者をご存知のアベンチュリンも花火も驚きを隠せない。
「『二人のチャレンジャーが選んだのは「演技派」!彼女の熱演は見事に審査員の心を揺さぶり、そしてまた次のステージへと駒を進めることが出来るのでしょうか!?』」
「『やはりスターというものには演技力は欠かせませんからね。心を打つ演技は要素として重要ですよ』」
実況と解説がそんな風に述べる中、カメラはステージの奥へと進む二人の姿を追う。そしてその道中のガイドがステージ内容について二人に説明し始めた。
「『この先には3つの舞台があり、それぞれで「時計屋」の脚本に沿って、ピノコニー開拓時代を舞台とする1つのストーリーを演じてもらいます。そしてそれぞれの審査員から無事に合格を勝ち取れたのなら次のステージに進むことが出来ます。それでは、お二人の健闘を祈っています!』」
「『あ、あはは……がんばります……』」
そう曖昧な感じで言ったホタルに、星はマイクに拾われない程度の声で「ホタル、演技出来るの?」とそっと尋ねる。ホタルは肯定するでも否定するでもなく、これまたマイクに拾われない程度の声で「ここは君に任せたよ」と耳打ちした。しかし、彼女の甘い思惑はいとも簡単に打ち砕かれた。
「『あら、画面の前の皆!この2人を見て!どうしてこんなスターの原石が今まで埋もれてたのかしら!』」
「埋もれてないよね、孔雀ちゃん」
「うん。僕達は気付いてたよ」
「『あなた達の魅力は最大限引き出されるべきだわ!今からペア用のシーンを用意するわね!』」
そう言って分厚い台本を捲るセリフ審査員に「あ、やべ」と言わんばかりの顔をするホタルと「あ、これ演技できないな」と察する星。そしてそれを画面越しながら察し、にわかに慌て始めるアベンチュリンと花火。もしここで彼女達がオーディションを突破できず、星穹列車がピノコニー大劇場に辿り着けないなんてことになれば計画は大幅に狂い、彼等の今までの丁寧な布石も水の泡。せっかく花火が身元を偽ってなのかにエントリーチケットを用意した意味もなくなってしまう。
「というか桜花ちゃん、あの星核ハンターのお友達が演技できないなんて大事なこと言ってなかったと思うんだけど……愚者、君は覚えてる?」
「う〜ん、全然覚えてないけど、桜ちゃんだったら「出来るとは一言も言ってませんよ」とか言う気がするな〜」
「うーん、確かに言いそうだね。これは不味いことになった。……そうだ、君は役者だろう?今すぐ彼女と入れ替わって突破してきてくれないかい?」
「つまんない演技の演技?あははっ、ちょっと面白そうかも〜!」
「よし、じゃあ君に──ああ駄目だ始まってる!」
そうして始まった彼女達の熱演を、「こんなところまでオール・オア・ナッシングか……!」とアベンチュリンは固唾を飲んで見守った。