「やあ、はじめまして。私が君達の身体表現の審査担当だ。先程の演技も見せてもらったが、とても素晴らしいものだった」
「あはは……ど、どうも……」
「ここでも君達の実力が遺憾なく発揮されることを願っている」と如何にも真面目、まさしく堅物といった雰囲気で挨拶を述べる審査員。星は内容を悟られないようにしながらも「こいつも見る目無い側じゃん……」と囁いた。しかし、よくその演技力でアイリス家の役者を名乗ろうとしたなでおなじみ、棒読み大根役者兼星核ハンターのホタルは彼女の囁きに「だ、駄目だよ……そんなこと言っちゃ……」と嗜める。が、もちろん演技面で足を引っ張っているのは十中百で彼女であり、サンデーやファミリーを出し抜くために出来る限りの策謀を張り巡らせたアベンチュリンと花火が熱砂の刻の片隅でここまでドキドキハラハラさせられているのももちろんホタルのせいである。
「ここでは「身体言語」を用いて、君達にこの物語の情景を表現してもらう。もちろん、その物語とは先程の続きだ。砂漠に倒れた君達だったが、通り雨によってその生命を救われる。そして互いの心には再び闘志が沸々と湧き上がってきた……さあ、君達仲間はどのようにしてお互いの意志を確かめ、再起を誓うのか?」
「再起、かぁ……」
「あ、私案あるよ」
そして星は「ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョゴニョ」とホタルに耳打ちする。それに対して「ゴニョゴニョじゃ伝わらないよ……」と彼女が答えると、星は少し不満そうにしながらもコソコソ話でその内容を伝えた。
「ええっと……本当に、それだけで良いの……?」
「うん。古今東西仲間といえばこれだよ」
「そうなんだ……うん、分かった。取り敢えずやってみよう」
少しの静かな時間が訪れる中、彼女達は頷き合い、そして審査員に背を向けながら思いっきり左手を天に突き上げた。背中と僅かな動作だけで全てを語る彼女達の演技に、審査員は思わず「おお……!」と感嘆の声を漏らす。
「なんと力強い演技……!まるで突き上げた先から雨雲が晴れていく様さえも見えるようだ……!」
「わ、本当に高評価だ……」
「本当は手にバツマークあると効果百倍なんだけどね」
◇◇◇
「これ大丈夫なのかい?愚者」
「大丈夫って何が?」
「著作権、かな」
「……花火知らな〜い」
◇◇◇
「こうして奮起した君達は新たに商売を起こした。強い日差し、激しい雨、吹き荒れる砂嵐にも負けない頑丈な傘を売り出したんだ。それは次第に人気を博し、その商売も徐々に軌道に乗り始めた──だが、そのビジネスチャンスに目を付けた商売敵が現れ、君達と同じような製品を不当に安い価格で販売しだしたんだ!」
「こういうの、ダンピングって言うんだって。前銀狼が株に手を出した時教えてもらったの」
「へー、ちなみに銀狼どうなったの?」
「お小遣い半年分溶かして、それでインシァンからお金借りてたかな」
「草生える」
「そして君達はどうにか商売を続けるために原価割れで商品を売らざるを得なくなった。しかし商売敵は手を緩めない。その結果、君達の金は底をつき、破産寸前まで追い込まれてしまった──さあ、不屈の開拓者達はどのようにこの状況を乗り越える?」
その問いかけに、星は「語るまでもない」と言わんばかりに目の前のマイクスタンドを蹴り飛ばす。そして「そう!それだ!」と語るような目つきの審査員を、まるで商売敵張本人であるかのようにキッと睨みつけた。
「そう!真の夢追い人はその程度の障害で夢を諦めたりはしない!しかし、その怒りの矛先である商売敵には既に大きく水を開けられてしまった。そこで君達は何らかの策を打ち、再び攻勢に出るタイミングを伺わなければならなくなった──さあ、君はどうする?」
「じゃあ……あたしは、ピノコニーを出て協力者を探すよ。どうしても、外の力が必要だろうから」
「そうだ、二人とも最高の演技だとも!卓越した才能を私は目にしている!」
「ああ、やっぱり見る目が無い側だった……」
「君達ならば次の舞台も、次のステージも、最終ステージに待ち受ける史上最難の審査員さえも乗り越えることが出来るだろう。さあ、次の舞台へと進み、新たなオーディションの伝説を私に見せてくれ!」
それはそれは感動しているらしい審査員の声とともに、次の舞台に続く道が開ける。そこに待っていたのは如何にも厳しそうな、いわばヒステリック中年女性教員といった感じの審査員。「これは不味い……」と少し足を止めて考えた星は、数秒の後にポンと手を叩いた。
「よし、クロックトリックを使おう」
「クロックトリック……って、あの?」
「うん。洗脳」
そして彼女は何らかに代わってお仕置きしそうな構えと「くろっくとりーっく!」と相変わらずの気の抜けそうな声でその照準を審査員に定める。そして一瞬気を失ったようにガクッと彼女は項垂れ、そして顔を上げた時には既にその表情は恐ろしく柔らかいものに代わっていた。
「ああ、なんて素晴らしい演技なの!まるで演技じゃないみたい!ああ……もう私から言えることは何も無いわ。さ、この先であなた達の実力を見せつけてちょうだい!」
「ね、ホタル。このおばさん頭おかしくなっちゃったのかな」
「星が頭弄ったからじゃなくて……?」
「元からかもしれないじゃん」
そんなことを話しながら、心底幸せな感覚に陥っている審査員を尻目に彼女達は開いた第2ステージへの入口をくぐっていった。ちなみに、何故だか中継映像はNiceなboatに差し替えられていたらしい。