星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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不協和音

「『スラーダ™リミテッドカンパニー協賛、第20回熱砂の宴「スラーダ™セレモニーオーディション」、第33試合!「スター・オブ・ザ・フェスティバル」の座に輝いたのは──銀河打者&サミュエル!!』」

 

 盛大なアナウンスとともに、観客席から響く万雷の拍手喝采、あとどっと疲れたような2つの小さな溜息。アルジェンティは膝を着いたまま、握手を求めて二人に手を伸ばす。彼女達はそれを力強く握った。

 

「ああ、なんと素晴らしいのでしょう!正々堂々、貴女達はピノコニーを救うに足る実力を示し、その上で奢ることなく敗者である僕にも勝者のあるべき姿、礼を示したのです。ええ、貴女達こそ、紛れもなくこのオーディションの優勝者であり、そして歴史に名を刻む英雄です!」

「あはは……なんか、恥ずかしいな……」

「行こう、ホタル。スターの座はすぐそこだよ。アルジェンティも、間違いなく今のが大会のベストバウトだった。流石あんただね」

「そう言っていただけて光栄です。もし僕の力が必要でしたら、いつでもお呼び下さい。我が友のために力を尽くしましょう」

 

 「改めて、本当におめでとうございます!」、そう言って最後まで聖人オーラを崩さないまま二人を送り出したアルジェンティ。ホタルも「また会おうね、純美の騎士」と彼に別れを告げ、オーディション会場のゴールへと向かう。そしてその前には同じくオーディションを突破したなのかと姫子の姿もあった。

 

「……あ、やっと来た!あんた達、すっごい盛り上がってたみたいだね!中継もあんた達に掛り切りでウチらの方全然映んなかったんだから!」

「取り敢えず、無事に合流できて何よりだわ。気を抜かず、ゴールの方へ向かいましょう。誰かが私達を待ってるみたいなの」

「……本当だ、誰かの気配がある」

「そういうことならさっさと進もう。こういうのはのろのろしてちゃ尺稼ぎみたいになるし」

 

 「最悪バットでどうにか出来るし」と相変わらずの銀河打者っぷりを発揮して言う星。長いレッドカーペットを進み、彼女達はオーディション会場の最奥にまで足を踏み入れる。そして、そこで待っていた彼は「「スター・オブ・ザ・フェスティバル」、おめでとうございます」と丁寧に彼女達を祝福した。

 

「……どうして、ここにいるの?」

「いえ、ファミリー(主催者)を代表して、盛大なオーディションの優勝者に心からのお祝いを申し上げようかと。どうか、アナタ達に「調和」の祝福がありますように」

 

 ホタルの問いかけに、その微笑みを崩さずサンデーは答えた。星は「「調和」の祝福なんて、模擬宇宙にはまだないんだけどね」とからかうように笑い、そしてその目に鋭い、真剣な光を灯して言う。

 

「で、交渉がまとまるにはいささか早すぎるんじゃない?」

「ええ。ですがその話の前に、ワタシから皆さんにも何か報酬を用意するべきだと思いまして、このような場を設けさせてもらいました」

「報酬?ウチら、何かもらえるってこと?」

「残念ながら、物質的なものではありません。ワタシが用意したのは、互いの誠実さを再確認する場です」

「誠実さ……詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 

 そう言って姫子は僅かな警戒心を解かずにサンデーに尋ねる。彼は「構いませんよ」と静かに頷いた。

 

「それでは、結論から申し上げましょう。残念ながら、ピノコニーと星核についての、夢の主との交渉は決裂しました」

「ってことは……!」

「ええ。……ファミリーの代表として、ワタシ達は皆さんの要求には答えられません」

「……あたしの聞き間違いじゃなければ、君は今「ファミリーの代表として」って言ったよね?」

「伝わっているようで何よりです。ピノコニーは「楽園」、弱肉強食が蔓延る無秩序な夢追いの舞台ではありませんし、そうあるべきではありません。ですから──聞かせてください、星さん。もしアナタが「星核」なんてものを持たない、脆弱な1人の人間に過ぎなかったのなら──アナタは「楽園」と「夢追い」の、どちらを求めますか?」

「質問が悪いね、サンデー。「現状維持」、「停滞」は紛れもなく「悪」だよ」

 

 「新しいことを知る、新しい何かを拓く、そんな日々のない「楽園」なんて私は要らないね」と切り捨てる星。サンデーは「やはり、アナタは紛れもなく「英雄」ですね」と丁寧に、冷たく答えた。

 

「サンデーさん、残念ながら私達に禅問答に時間を費やす余裕はないの。星核はピノコニーの全ての人を巻き込みかねない厄災、今はその解決に尽力するべきよ。それに、ロビンさんやヴェルトが何故ここにいないのかも、私達には知る権利があるはずだわ」

「そうですね、ナビゲーター。丁度今から話そうと思っていました。既に役者は揃いましたので、その話し合いの顛末から説明しましょう。苦境、選択、理想、信念、運命……そして、それらが導く、一つの道について」

 

◇◇◇

 

「「「……なるほど。つまり、長年に渡り其の祝福を届けてきたセレモニーを、自らの野望のために利用した悪党がいる、そう言いたいのだな」」」

 

 1羽のワタリガラスが見守る中、反響し、和音と鳴る夢の主の声にロビンは静かに頷く。

 

「もしこのまま調和セレモニーを開催してしまえば、星核の災いは歌声とともに夢境を包み、今このピノコニーで夢を見ている全ての人々が永遠に目覚めない夢の中に囚われることになります」

「「「それが本当なら、由々しき事態だ。夢境とは五大クランの在り方そのもの、並大抵の人間に干渉できるものではない。それが出来るのは、よほど高い地位についている人間だろう。今のところ、誰と見立てを立てているのかな?」」」

「その前に、一つ聞かせて欲しい。あなたは本当に星核について知らなかったのか?」

 

 明らかな懐疑心を以て尋ねるヴェルトに、夢の主は「「「流石ナナシビト、歯に衣着せぬ物言いだ」」」と相変わらずあまり抑揚を見せずに返す。

 

「気分を害したのなら謝罪しよう。だが、あいにく今は差し迫った状況でな、疑いを精査している暇も俺達には残されていない。これもピノコニーのためだと思って、俺達の疑いを晴らしてくれるとありがたいんだが」

「調和セレモニーと星核の災いが無関係であり、この疑惑が杞憂に過ぎないと明かされれば、私は予定通りにステージに立ち「調和」の歌声を響かせましょう」

「「「サンデー、ロビン、君達は本当に立派になった。幼い頃から君達を見守っている私は、君達の気質もよく知っている。その上で、今の君達は最も其の信仰に厚い代弁者達だ。その決意、しかと受け止めよう。この件は、確かにピノコニーの命運を揺るがす極めて重要な案件だ。ヴェルトさんについても、必要とあれば私も含めて、オーク家はあなたの要望に答えるとしようじゃないか」」」

「星穹列車を代表して礼を言おう、オーク家の協力に感謝する」

「「「さあ、そうとなれば……サンデー、星神に祈りを捧げ、其の光を私に降り注がせるのだ。そして君が其に代わって問いかければ、全ての嘘は其の名の下に暴かれるだろう。ロビンは、しかとこの結末を見届けるのだ」」」

「ええ、御意のままに」

 

 そしてサンデーは静かに目を瞑り、神の名の下に洗礼を始めた。荘厳な空気が、辺りを満たした。

 

「「3つの顔を持つ魂よ。その熱き鉄を彼の舌と手のひらに押し当て、嘘偽りの誓いを口にできないようにしたまえ」」

「「「さあ、始めよう。私はいつでも構わない」」」

「「質問:アナタは己の神に対して敬虔であり、他の神にその崇拝を捧げたことはありませんか?」」

「「「もちろん」」」

「「アナタは己と等しく己の神を愛し、其の教えを片時も忘れることはありませんか?」」

「「「もちろん」」」

「「アナタは己の神が望む道の行人であり、其の忠実な下僕であり続けていますか?」」

「「「もちろん」」」

「「アナタは己の神に対して領分以上の要求を述べたり、創造物としての在り方を外れたことはありますか?」」

「「「一度もない」」」

「では、最後の質問です──「アナタは過去、現在、未来、全ての時に在って、全ての約束を果たせると誓えますか?」」

「「「神に誓い、私は私から一切の嘘偽りと一切の欺瞞を取り除こう。それが果たせなかったのなら、私は掟に従って呪いを受けようとも」」」

「……其はアナタの言葉を聞き届け、それを認めました。これにより──」

「いや、まだだ」

 

 間もなく洗礼を終えようとしたところに待ったをかけたのはヴェルトだった。「どうかしましたか?」と尋ねるサンデーに、彼は「もう1つ、尋ねて欲しい質問があるんだ」と答える。

 

「俺が知る限りでは、ファミリーは個々の「調和」を是とし、それは「掟」などという厳格な縛りを以て行われるものではないはずだ。君達の言う「神」とは、本当に「調和(シペ)」のことなのか?」

「「「ヴェルトさん、あなたほど聡明な方なら分かっているだろう。ファミリーとは名の通りの「家族」、其の光の下に団結する者達だ。二心を抱けば、それは等しく「調和」の名の下に裁きを受けるだろう。それとも、我らの奏でる複雑で繊細な、それでいて完全に調和したこの旋律を、「調和(シペ)」以外のどの神が治められると言うのだろうか?」」」

「「完全に調和した」、問題はそこなんだ。今ピノコニーを蝕んでいる不協和音は、紛れもなくファミリーの内側から発生したものだろう。……少し昔話になるが、かつてこの宇宙には一柱の星神が在った。それは指先一つで銀河の掟を創り出し、其を崇める信徒達は「天外聖歌隊」となって全宇宙に荘厳かつ神聖な音色を届けた。しかし、其は宇宙の蝗害の後に「調和」と衝突し、飲み込まれ、内に組み込まれた。信徒が奏でていた合唱は止み、再び音が響くと、既に「調和」の賛歌と変わっていた……」

「「「何が言いたい?」」」

「星神が消えたとしても、其の遺した軌跡はそう簡単に消えるものじゃない。現に蝗害の残滓は未だ宇宙の片隅を蝕み続けている。ましてや、万物を包含する「調和」の中に、かつての雑音が蘇ったとしても何ら不思議なことじゃない」

「「「では、君に一つ、人生の先輩としてアドバイスをあげよう。……「利発すぎる」ということは、考えものなのだ。特に、孤立無援の時はね」」」

 

 夢の主の言葉に物怖じ一つすることなく、ヴェルトは「やはりそうか」と相対する。

 

「「「サンデー、私達の偉業のためだ。彼等には少し休んでもらうとしよう」」」

「……申し訳ありません、ロビン」

 

 夢の主の洗礼が、ヴェルトに降り注いだ。そして「アナタには、真実を知らないままでいてほしかった」、そう告げると共に、サンデーは洗礼をロビンに向ける。彼女は僅かに顔をしかめ、その頭を押さえた。

 

「つまり、そういうことだったのね。私が歌えなくなった理由も、ピノコニーがおかしくなった理由も──」

「ええ。ワタシ達は最初から「調和」の子ではなかったのです。「調和(シペ)」には、ワタシ達の理想の楽園を創り上げることはできません。人々の幸福は、目覚めた1人が約束し続けるしかないのですよ。人が人の世を築くのは、常に「掟」あってのこと。そしてその「掟」は……「秩序」の中に生まれるのです」

 

 サンデーは、静かに告げる。自らが「秩序」の道を歩んでいること、それすなわちロビンとは道を違えたこと。ロビンは「秩序」の洗礼を堪えつつも、彼に凛とした瞳を向けた。

 

「……ごめんなさい、兄様──」

「ロビン?」

「──そんなこと、全部知ってるわ……!」

「「「どういうことだ?」」」

「兄様の悪い癖よ、大事なことは全部1人で抱え込んで、私には知らせてくれないもの。だから、私も一つ嘘を吐いたの。……「兄様は疑っていない」って」

「……、まさか……」

「ヴェルトさん!」

 

 予想だにしなかった妹の言葉に、サンデーは思わず目を見張り、夢の主も想定外に対する苛立ちを隠しきれてはいない。本来は「秩序」の洗礼によって満足に思考することさえ難しいものの、今の彼女は「血清」によってその影響を跳ね除ける。そしてロビンから声を掛けられたヴェルトはその経験によって洗礼を堪えながらも「そういうことか……!」と懐に入れていた一本の、黒地に桜の彩られた扇子を開き、それを天高く放り投げた。

 

「たとえ兄様が道を違えたとして、たとえピノコニーが「秩序」の手にあったとして、それでも私は「調和」を諦めたりなんかしない……どんな手を使ってでも、必ず兄様を止めて見せる……!」

「「「ロビン……本気で言っているのだな?」」」

「ええ、これが、私の選んだ道だもの……!」

 

 扇子が空に吸い込まれ、ロビンがそう言い切ったその瞬間、黄金の刻の夜空は、何処までも沈みそうなほどの、黒い嵐に包まれた。その荒れ狂う風は街並みを飲み込み、舞う桜吹雪が僅かな色彩を添える。サンデーはその光景を思い出し、夢の主も彼女の言葉を思い出し、その正体を悟る。そして彼女は、「お待たせしました。ロビンさん、ヴェルトさん」と、まるで舞台挨拶でもするかのように、あまりにも優雅に舞い降りた。

 

「ああ、はじめまして、「夢の主」。それに、サンデーさんも。どうやら「八日目」を待つ必要もありませんでしたね」

「……どういうことですか?「桜花」」

「どうもこうも、あなたの目にしている通りです。あなた達を疑い、私達と手を組んだロビンさんは、「秩序」に対抗するべく調査を重ね、殺された後もドリームリーフで準備を進めていました。この瞬間はその一つの結実です」

「ああ、よく来てくれた……」

「「「だが、君がこの場に現れる必要はあったのだろうか?残念ながらその選択によって「秩序」は紛れもなく、君に牙を剥くだろう」」」

「「秩序(エナ)」?ふふっ、その程度が一緒にお茶をした友人との天秤に掛けられるとでも?」

 

 死したとはいえ星神を「その程度」と言い切る彼女。だが、その目には「ファミリー(夢の主)」に対する明確な敵意が宿っている。「私を、脅したんですよね?」と。彼女は微笑みを崩さぬまま、軽くコートを払った。

 

「それ以上用が無いようでしたら、私はこれで。どうか、後悔は無いように」

「……兄様、私の未来は私が決めるわ」

 

 黒い桜吹雪は彼女を、ヴェルトを、そしてロビンを包み込み、そしてまるで雪のようにふわりと消え失せる。夢の主が沈黙する中、サンデーはその風でジャケットの裾がズレていることにも気付かず、静かにその拳を握り締めた。

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