「つまりアンタ達、ウチらのこと裏切ったってこと!?」
「「決裂」とはそういうことです。残念ながら、ワタシが求めていたモノとアナタ達が求めていたモノは違ったのですよ」
「……そうだね、今の話を聞いて確信できたよ。サンデー、あんたは絶対に間違ってる」
真剣な眼差しと共に星はもう一度言い放つ。「「停滞」は「悪」である」と。だがサンデーも退くことなく「それは「英雄」のみに許される傲慢なのです」と諦観の混ざったような反論を叩きつける。
「未来が英雄の特権であり、そして幸福が有限であるのなら、誰かが責任持ってそれを分け与えねばなりません。人々は弱く、弱者にはいつだって藻掻くだけの現在しか存在しないのです」
「ふざけないで。未来は誰かが独占するもんじゃない。それこそあんたの言う「傲慢」だよ」
「うん、星の言う通りだよ。昨日を生きて、今日を頑張って、そんな人達のために明日は待ってるの。そこに特権なんてものはないし、少なくとも「弱者」なんて決めつけて奪って良いようなものじゃない」
「やはり、アナタ達は何も分かっていない。当然です、アナタ達は奪われる弱者にも虐げられる敗者にもなり得ないのですから」
冷たい視線と共にサンデーは言った。ピノコニーも、この宇宙も、現実にあるその全ての幸福は弱者の屍の山に成り立っている、と。そして、「秩序」のみがその茶番劇を終わらせ、真の「理想郷」を創り上げることが出来るのだ、とも。だが姫子は「「
「興味がお有りでしたら、ワタシとしても隠す理由はありません。ワタシはかねてより、このセレモニーに招待された全ての人々に楽園の席を用意するつもりでした」
「アンタまだ何かやるつもり?正直株価とかストップ安なんだけど?」
「力を抜いてください。皆さんに手を出しはしませんから。ただ、「秩序」の有り様、かつてのワタシをその目で見ていただくことで、より良い選択をしていただければと思いまして。……これが、ワタシの辿ってきた道です」
そして彼がゆっくりと腕を広げると共にその身体は空間へと吸い込まれるように消える。ディスプレイに囲まれただだっ広い空間に対談用の椅子が2つという景色は変わらないものの、何かが変わったような雰囲気に俄に戸惑った彼女達に、何処からともなくサンデーの声が響いた。
「『ようこそ、ワタシの心境へ。景色は変わりませんが、そこは取り立て重要なものではありませんので』」
「……まさか、私達を閉じ込めたってこと?」
「アンタ、ヨウおじちゃんにもおんなじことしたの……?」
「『これは一種の「調律」です。多少精神を摩耗することもありますが、その分より強い効果が見込めます。残念ながら、あのハンターには試す時間がありませんでしたが』」
「舐めないで。この程度、インシァンに効くはずない。星、こんなのさっさと終わらせよう」
「『それはワタシが決めることです。この調律が終わる頃には、皆さんもワタシの感情を十分に理解できることでしょう。そして、ワタシが隠し事をしていないことも』」
「『それでは、大画面を見てください』」、サンデーの言葉とともに、ディスプレイに何かが映る。そこにあったのは、一羽の怪我した雛鳥を優しく掬い上げる少女の手のひら。「『これは、ワタシがかつて経験した選択の数々です。皆さんにも、共に考えていただきたい』」とサンデーは静かに言った。
「『1つ目の選択は、ある雛鳥について』」
そして、彼はかつての自分とロビンの境遇などを語る。星核の災いに晒された兄妹はファミリーのゴフェル、後の「夢の主」に引き取られたこと、そこでしばらくは子供らしい生活を送っていたこと、ある日、落ちた瀕死の雛鳥を見つけたこと、その鳥に鳥カゴを用意し、部屋で世話したこと……彼は一通りを話し終えると、彼女達に2つの選択肢を示す。「鳥を空に帰すべきか」「否か」、と。星は、迷うことなく帰すことを選び、彼女達もそれに同意した。
「鳥は空に生きるべきだよ。鳥カゴは終の棲家なんかじゃない」
「『その果てに、雛が何度空に挑もうと墜ちることを繰り返し、苦痛の死を迎えたとしても?』」
「それこそが必死に雛自身が生きようとした証だよ。自由な空に帰ろうと命を懸けたことは悼まれはしても憐れむべきものなんかじゃない」
「『……分かりました。それでは、2つ目の選択です』」
彼が次に示したのは、ピノコニーに密航してきたある夢追い人の話だった。彼は、文字通り全てと引き換えにピノコニーを訪れた。家、土地、そして二人の子供……彼は、子供達に対して「奴隷になれば食べていくことは出来る」と、そう言った。そして彼はいつか成功した暁に子供達を買い戻す予定だったが、ハウンド家に目を付けられてしまった。サンデーはその話を聞き、すぐにハウンド家の追跡を中止させた……そして、彼はまた2つの選択肢を示した。「追跡を止めるか」「否か」。星は、少し迷っているようで、姫子、なのか、ホタルともう一度話し、そして結論を出した。
「私は止めないよ」
「『それは、何故?』」
「子供を買い戻すためなら、ピノコニーにいる必要はないから」
「『……分かりました。その結末がどのようなものになるのかは分かりません。彼は上手く逃げおおせるかもしれませんし、あるいは捕まった挙げ句に精神を錯乱させて死ぬのかもしれません。ですが、アナタ達の選択は確かに聞き届けました。それでは、最後の選択です』」
彼は言った。最後の話は、彼がオーク家の当主に就任した日のことだった。彼は、その日「夢の主」、ゴフェルと話し合った。だが、彼の目的とは一通の手紙をサンデーに渡すことだった。それはロビンからのもので、中にはピノコニーを出た彼女の様々な体験が記されていた。そして、「夢の主」は「ロビンはどこにいるか知っているかな?」と彼に尋ねた。彼は手紙の内容から推測し「カスビリンアート-Ⅷ」だと答えた。それは正しかった。「夢の主」は続けて言った。「ロビンが、その地の戦争で流れ弾に当たった」と。彼女は「調和」を広め、その星を救うためにそこに出向いていた。「ロビンは今どこに!?」と酷く狼狽えた様子で彼は尋ねる。「野戦病院で眠っているだろうな」と「夢の主」は言った。その銃弾は、ロビンの首を直撃していた……そして、彼は優しく、悲しげに、まるで、悩む子どものように、選択肢を示した。「ロビンの「調和」を応援するか」「否か」。星は、皆の意見を聞いて、それでも確固たる自我の下に、その答えを出した。
「応援するよ、絶対。それこそが、誰もが持つ「開拓」だから」