「おい、見てるか?じいさん、あんたの描いた、まさしく「夢物語」と言って良いほどの無謀を可愛い後輩共が成功させようとしてるんだぞ。全く……ナナシビトの脚にはブレーキなんぞ搭載されてないってことか?」
「……ああ、今肌で感じてる。この偽りの美しい夢は間もなく終わろうとしてるってな。あのナナシビト達はまだ若いが、間違いなくあんたが遺した大儀を、この夢を終わらせるに足る力を持ってるんだ。かつてのあんたらが、この夢を作ったようにな」
「あんたがそれを目に出来ないのは惜しい話だが……今となっちゃお互い様だ。何せ、俺もその景色を見届けられそうにはないからな。全く、思ったよりも見破られた「虚構」は保たないもんだ。ここまで上手く行くんだったら、種明かしをもう少し引き伸ばすべきだったかもな」
「ふっ、だが、あんたに似てるのはナナシビト達だけじゃない。あのファミリーの羽小僧もかつてのあんたに瓜二つだ。頑固で、涙脆い癖に誰にもそれを見せようとしない……全く、運命の悪戯ってやつか?このクソみたいな「運命」さえなければ、俺達は隣でカクテルでも飲みながら笑い合ってたかもしれない。……いや、あいつがそれに気付ければ、今からでもあいつはあんたの後輩に加わるのかもな」
「だが、結局俺達はあいつらに鬱憤を晴らしてもらったんだ。「後を託す」ってのも、中々痛快な結末だな。じいさん、あの連中が俺達に言った言葉、あんたはまだ覚えてるか?──「地獄に堕ちろ、この裏切り者共」──奴らは、確かにそう言ったんだ。今でも笑えるよ」
「ピノコニーを夢見た男、「時計屋」ラグウォーク・シャール・ミハイル。もしあの連中の言葉が正しかったとして、自由を求めることが地獄行きになるというなら……」
「俺はあんたにとびきりのカクテルを振る舞ってやれそうだ、じいさん」
「ああ、これを忘れちゃいけない。後輩を見送るのはいつだって先達の最後の仕事だ」
「「時計屋」に代わって、この「集いと別れは時の定め」でお前に敬意を示そう、星」
「完璧ではないお前達の明日に、乾杯」
◇◇◇
「ねえ、丹恒さん。「ビアリ・スカマンドロス星」という星の話について、あなたは聞いたことがあるかしら?」
ブラックスワンが問いかけると、丹恒は「列車のアーカイブに残っていたはずだ」と頷く。
「その星は「調和」の影響下にあり、大小ダルダヌ星系の社会の中心となっているはずだ」
「ふふっ、詳しいのね。じゃあ、そこで開かれたファミリーの「祭典」についても知っている?半琥珀紀前、彼等はそこで史上かつてないほどの大規模な祭典を開き、その星にいた全ての人々を「ファミリー」へと加えたの」
「つまりピノコニーでも同じことが起ころうとしていると、君はそう言いたいんだな?メモキーパー」
「それ以外にファミリーの目的があると思う?彼等はわざわざ「時計屋」の招待を黙認し、数多の運命の勢力を巻き込んでおきながら「虚無」の使令だけをこうして追放した……」
「「虚無」の運命を歩む者は、他の運命の影響を受け辛く、逆手に取って他の運命を侵食することも決して難しいことじゃない……おそらく、私は彼等にとって、あまり望ましくない「変数」だったのかもしれない」
「だが、それはその惑星に限った話という可能性も十分にある。「ビアリ・スカマンドロス星」は確かにアーカイブには残っていたが、信用ポイント体系に加わっていなければ「
「……もし、彼等が本当に「
黄泉の言葉に、レイシオは「まさか……」とその目を僅かに見開き、そして思考する。そして、彼女は話を続けた。
「つまり、ピノコニーの「調和」には明確な、決して無視することは出来ない「異物」が混ざっているということだ」
「丹恒さんが少し口にしたけれど、タイズルスが「繁殖」の星神へと昇格したことから始まった「宇宙の蝗害」は銀河の3分の2を巻き込み、そして数多の運命が交錯したことで神々の戦いへと縺れ込んだの。その戦いの果て、最終的には2つの運命が星神を失うことになった。それが「繁殖」と「秩序」……でも、其の殞落は同時にある運命、ある星神の発生を引き起こしたの」
「……それが「
「ベイビー、つまりは主人のいない2つの運命がピノコニーで大暴れしようとしてるってのか?」
「だが、ピノコニーにはまだ蟲は現れていないはずだ」
「いいえ、ピノコニーにも「繁殖」の運命の行人は姿を現している。丹恒さんも、決して知らない名前ではないはずよ」
「……まさか「桜花」か?もしそうなら、ピノコニーの問題には星核も絡んでくることになるが……」
呟いた丹恒に「間違いなくそうだろうな」と答えるレイシオ。正確さを重んじる聡明な学者である彼の断言が丹恒の抱いた疑念をより一層確信へと近づける。
「オーク家の当主がピノコニーの星核について言及した、その可能性は限りなく高い。おそらく、ピノコニーの夢境は星核の災いによってもたらされたものだろうな」
「でも安心してちょうだい、丹恒さん。このピノコニーにおいて、星核ハンターは決して星穹列車の敵ではない。むしろ、最も頼れる味方の一つと考えてもらっても構わないわ」
「……分かった。もう少し状況を整理しよう。レイシオやブラックスワン、黄泉からの情報を統合すると、現在ピノコニーでは「天外聖歌隊」の残党がファミリーの内部に潜み、「調和セレモニー」を利用してエナの復活を企んでいて、それを阻止するためにカンパニーや星核ハンター、そして星穹列車が動いている、そうだな?」
「そう考えてもらえれば大丈夫だ。少なくとも、ここにあなた達の敵はいない」
「おいおい、こんなキュートなロリポップみたいな状況になってんのにどうしてオレ達はアスデナを離れてんだ?まさかお手上げってわけじゃねえよな?」
「ああ。だが、セレモニーの開幕が目前に迫っている以上、それを確認するためにはどうしても跳躍が手っ取り早かったんだ」
ブートヒルからの問いかけにそう答えた黄泉。だが、丹恒は少し考えた後に「あれを使うしかないな」と口にした。
「あれ、って……おい、アンタまさか……!?」
「ああ、そのまさかだ。「結盟玉兆」を使い、仙舟に増援を求める。時間がない以上はこれが最善のはずだ」
「「結盟玉兆」……仙舟「羅浮」の至宝とは聞いていたが、本当に実在しているのか」
「おい、考え直せ!そいつは一生に一度の切り札なんだぞ!」
「それは重々承知している。だが、俺の仲間も一生に一度しか得られないんだ」
そうして丹恒が結盟玉兆を手に取ろうとしたその瞬間。車内にパムのけたたましいアナウンスが響く。
「『総員、衝撃に備えよ!繰り返す、総員、衝撃に備えよ!アスデナ星系、ピノコニー方向から謎の物体がものすごいスピードで飛んできておる!』」
窓の外を見ると、確かに紅蓮の炎をまとった鉄の鎧のようなものがアスデナ星系外で停車中の星穹列車へと向かってきている。しかしそれは徐々に減速し、やがて力尽きるように、星穹列車の乗車口の前で停止した。
「ホーリーベイビー、あれ回収した方がいいんじゃねえか!?」
「ああ。パム、ハッチを開けてくれ」
「『お、おお!要救護者ならすぐに助けてやるんじゃぞ!』」
「黄泉さん、彼女は……」
「ああ。……あなたは、役目を果たせたんだな……ホタル」