「黄昏戦争」の後、空は空虚となった。海は混沌となった。陸は凄惨となった。そして世にある万物を人の認識へと定めるべく、「
其は星々をプレクトラムに、白鍵と黒鍵が織り成すチェンバロを創り上げた。白鍵は太陽を呼び、黒鍵は月を呼ぶ。かくして、昼夜が成り立った。これが、二日目のこと。
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幕前劇・第一幕「囚人賛歌」
それは、かつてピノコニーが監獄であった頃の話。琥珀暦2147紀、ハヌヌという名の1人の囚人が監獄を支配するカンパニー相手に大戦争を始め、勝利を収めた。この戦争はカンパニーの資料では「辺境戦争」、アスデナ星系の歴史書では「独立戦争」と呼ばれることとなる。ハヌヌは確かに戦争の天才であったが、英雄ではなかった。すなわち、囚人達に勝利を与え、彼等を解放することは出来ても、真の自由を与えるには至らなかったのだ。
それを為そうとしたのは、アスデナ星系に留まった三人のナナシビトだった。彼等は「開拓」を広め、ピノコニーに再びの平穏をもたらそうとした。しかしそれも徒労に終わり、ピノコニーは再び戦火に包まれることとなった。その火は、ピノコニーの中から燃え上がった。囚人は所詮囚人に過ぎず、自由を求めることは出来ても自由に生きることは出来なかった。
「この焦土の上に築かれた──自由の地を、気に入ってもらえると良いんだが」、そう言って、解放されたにも関わらず囚人達は奴隷の様に新たな看守を創り上げた。彼等を捕らえていた檻は、彼等自身の心だったのだ。
自由は遍在するが、万人の味方ではない。自由とは自由を信じる者にのみ微笑むのだから。
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其は星の流れを集めて筆先とし、それを以て発音と数の記号を記した。これにより、万物は程度と属性を授かった。これが、三日目のこと。
其は星屑を集めて川を創り、善と義を川上に、悪と不義を川下に定めた。これにより、人々は善悪と利害を知るようになった。これが、四日目のこと。
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幕前劇・第二幕「愚僕賛歌」
それは、ピノコニーが流刑の地と称されるようになった時代の、クランと権力の物語。ピノコニーには、木、草、花、鳥、獣、果実、虫の七大クランが次々と姿を現した。
流刑の地の秩序は乱れに乱れ、内憂外患に陥っていた。七大クランは上辺のみで協調し、内実誰もが違った思惑を抱え、争っていたのだ。最初に内戦から淘汰されたのは
後にゴフェルがファミリーを率いて流刑の地を訪れると、残った五大クランは次々とそれに従うようになった。それから、ピノコニーは新たに「夢の地」と称されるようになった。
新しい主人は言う。「外から来た客人。どうか、この屋敷に隠れている煽動者の毒から救ってくれないか。彼等に理性を取り戻させ、もう偽りの支配に操られないようにしてほしい」
彼等は最後まで気が付くことが出来ない。自分達が、自由を与えられただけの奴隷に過ぎないことに。
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其は星の輪を拾い、人々に行動規範を定めた。これにより、人々は自らの生きる術を知った。これが、五日目のこと。
其は白鍵と黒鍵のあるチェンバロを楽器、発音と数の記号を音符、流れる川を旋律に、その行動規範を定めた掟を曲とした。これにより、人々は楽章の中での自らの役目を見つけ出した。これが、六日目のこと。
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幕前劇・第三幕「秩序の歌」
それは、ピノコニーにこれから訪れる未来の話。あらゆる問題は排除され、一つの調律の下に全てが一致し、団結する。ただそれだけの物語。
そこに不幸はなく、そこに選択はない。全ての自由は「秩序」のみによって保証され、与えられる。
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其は世界の人々に「意義」を与え、天から海、海から地、地から天へと至るまで、万物を人のために揃え、そして、全ての創造の手を止めた。しかし、人々は気付き、そして「
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三つの幕前劇を終えた星達を、響き渡る歓声と賛歌が出迎えた。ステージの中心へと引かれた長い、長いレッドカーペット、その先に、彼は待ち構えていた。まもなく、調和セレモニーの幕は上がろうとしている。そして、星は彼に向けて言い放った。
「「秩序」の墓、建てに来てあげたよ」