ピノコニーの頂点に響き渡る「秩序」の旋律。歩む運命は異なれど、紛れもなく「使令」たるその力に星達は防戦を強いられる。
「っ……こんなの、眠いとか通り越して頭割れそうだよ……っ!」
「「調和」の使令が「秩序」に取り込まれたとでも言うの……!?」
「「「皆さんの利発さ、賢明さはこのピノコニーでの活躍で重々承知しています。故に、アナタ達に問いかけましょう。──何故、「調和」と「秩序」は混ざり合えたのでしょうか?」」」
「……っ、それは……っ!」
星が答えようにも、頭蓋骨が内部から引き裂けるかのような感覚を覚えるほどの眠気、彼女達を「エナの夢」へと強烈に誘う旋律の前に、彼女は「時計屋」の帽子越しに頭を押さえ、気を失わぬように歯を食いしばることしか出来ない。そしてその黄金の指揮棒を揺らしながらディエス・ドミニクス・ハレルヤは答える。
「「「それはどちらも、「乱す者」、すなわち「不協和音」を受け入れないことにあるのです!」」」
「っ、また力が強くなった……!なんか別の世界が見えてきた……かもっ……」
「三月ちゃん、気をしっかり保って!奴の「調律」に惑わされちゃ駄目よ!」
「「「そしてこの夢における「不協和音」とは「時計屋」であり、「開拓」の意志……すなわち、アナタ達であると──!」」」
ディエス・ドミニクス・ハレルヤはそう言い放ち、彼女達を美しい夢に取り込むには十二分なほどの虚数エネルギーをその指揮棒に蓄積する。それと同時に彼を囲む「永劫の願いへの賛歌」も力を溜め込むように輝きを放ち始めた。正真正銘の「秩序」の賛歌が、まさしく響き渡らんとする中、星はその帽子に力を込め、追い込まれながらも再び立ち上がる。
「それでも、あんたを止めないと……だから……っ!」
「「「ならば、今こそ「
「そこまでだ……!」
静かな怒り、決意のこもった声とともに、清流によって形作られた蒼龍がディエス・ドミニクス・ハレルヤを貫く。思わず「嘘……」と呟く星。「「「何、だ……!?」」」と黄金の巨躯が崩れ落ちたその後ろには、威風堂々と夢境の空を舞う星槎の数々、そして金色の武神と悠々たる蒼龍の姿。すなわち、飲月の力を解放し、また結盟玉兆を起動した丹恒と、それに応えた仙舟「羅浮」の景元将軍が雲騎軍を率いてピノコニーの夢境まで進軍してきたのである。
「丹恒……!」
「ウチらのこと、忘れてなかったんだね!」
「話は後だ。……星を灌ぐ蒼龍よ──」
「我が守護神たる煌々の威霊よ──」
「「討て──!!」」
振り下ろされた武神の矛と天を舞う蒼龍の牙が、再びディエス・ドミニクス・ハレルヤを捉える。そしてそれが彼の体を吹き飛ばしたその瞬間、星の意識は麻酔を打たれたかのように消し飛び、体は全身の力が抜けたように崩れ落ちた。
◇◇◇
「……きて!起きてってば!」
肉体を襲う激しい揺さぶりと、そんな呼びかけで星の意識は引き戻される。そして身体を起こした彼女は濃霧が掛かったようにぼやけた頭を押さえながら、まるで信じられないものを見るかのような目をなのかに向け、そして部屋を見渡した。改めて確認すると、ホテル・レバリーの客室のドリームプールで寝ていたところ、部屋に入ったなのかに叩き起こされたらしい。それを理解した上で、星は彼女に問いかけた。
「……ねえ、ここってまだ夢?」
「はぁ、あんたまだ寝ぼけてんの?丹恒と景元将軍達が助けに来てくれたおかげでウチらは夢から覚めれたんじゃん!皆も夢境から戻ってきてて、今はロビーの方に集まってるんだ。あんたも早く行こうよ!」
「……ううん、早く終わらせないと……」
「だから、それはもうサンデーをやっつけたんだから──」
「……それそのものが「夢」だったとしたら?」
強く答える星に、「あんた何言ってんの……?」となのかは全く意味の分からないといった風に聞き返す。だが星は「何も終わってるはずない」と断言して譲らない。
「なんでそんなこと言え──」
「ホタルが来てない」
「ホタル?ホタルって……誰?」
「……「必ず君の下へ駆けつける」って、「またね」って言った。でも、私はホタルと会えてない」
「なら、それが嘘だったってことじゃ」
「嘘なんかじゃない」
「私はホタルを信じてる」、星のその言葉に込められたのはピノコニーでの思い出か、あるいはカフカが忘れさせたはずの星核ハンター時代の記憶か。ホタルへの信頼は美しい夢への懐疑へと変わり、星の思考を加速させていく。黄泉、花火、ブラックスワン、ロビン、アベンチュリン、インシァン……確かにこのピノコニーで彼女を助けてくれたはずの人々を思い出し、彼女の頭の霧が晴れていく。そしていつかの天才にもたらされた「知恵」はゆっくりと、それでいて今出来る限りに星の持つ記憶、情報を繋ぎ、彼女にたった一つの冴えたやり方を示した。
「……やっぱり、あんたはなのかなんかじゃないし、ここにいる皆も皆じゃない」
呆然と彼女を見つめる三月なのかの形をした憶質に言い放つ星。その手には一本の、今持っているはずのない桜模様の扇子が握られている。私に出来るの?ううん、やってみせる。ホタルだって、もう二回は味わった。私だって、一回くらい。そう、星は開いた扇子を喉笛に当てた。
「……私は、「エナの夢」から目覚める」
そして、星は自らの首を掻き切った。
◇◇◇
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◇◇◇
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◇◇◇
◇◇◇
「ふふっ、珍しいわね。ねぼすけさんが早起きなんて」
彼女は、そう微笑んだ。