星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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わらしべピアポイント(その3)

「じゃ、2人の設定について説明する」

 

 宇宙船が大気圏を出る頃、銀狼は積まれていたポップコーンを開けながらホームシアターを起動した。当然、そのホームシアターは銀狼の持つエーテルカセットに接続されている。「バレたりしない?」とホタルが尋ねると、彼女は「1日くらいなら保つと思う」と答える。そして銀狼が手元のキーボードをカタカタと弄ると、インシァンとホタルのプロフィールのようなものが映し出された。

 

「とりあえず、二人共支社でハイスピード出世を遂げた後に若くしてハブに配属って事にしてある。P17だけど、支社の課長じゃなくてハブの平社員ってこと」

「そうなんだ……って言っても、あたしは仕事とかよく分かんないんだけど……」

「はい。私も、あまりそういうことには疎いもので」

「そこら辺は心配しないで。それっぽく調整しておいた」

 

 そう言って銀狼は画面をスクロールする。九割以上の嘘で適当に埋められたプロフィールの下にはこれまた九割以上の嘘の経歴が書き連ねられていた。

 

「二人共、ハブでの配属先は戦略投資部。支社だとホタルが市場開拓部の警備部門、インシァンが技術開発部の生命科学部門で、ハブに配属されるタイミングで引き抜かれたって感じかな」

「意外としっかり考えたんですね、銀狼ちゃん」

「当たり前。こんな書類審査如きでミスして私のゲームが取り返せなくなったら、それこそ堪ったもんじゃない。いい?ホタル、インシァン、アカウントを奪い返せるかどうかはあなた達に懸かってるんだから」

「うん。がんばるね、銀狼」

 

 ホタルがそう意気込むと同時に、2人のスマホの通知が鳴る。そして銀狼はカンパニーのデータベースにホタルとインシァンの情報を打ち込みながら「今送ったの確認して」と2人にスマホを見るように促した。

 

「えっと……顔写真?」

「……誰ですか?これ」

「今出社してるP25のおえらいさんリスト。こいつら見かけたらガツンとやっちゃって」

 

 そう言って親指を下に向ける銀狼。「了解」「了解です」と2人もそれに頷く。

 

「ま、今確認しとくべきなのはこんなもんかな。後はキャリーケースの中から指示するから」

「うん、分かった。でも銀狼、キャリーケースの中って大変じゃない?」

「思ってるよりもキツくない。急ごしらえにしては悪くないかな」

 

 そう応える銀狼に、ホタルは「なら良かった」と頷いた。

 

◇◇◇

 

 数時間後、現在彼女らの位置するクローウディニア星系、その中心であるクローウディニア-Ⅰのハブに降り立った彼女達。時刻は現在システム時間13時30分46秒、エリオの脚本ピッタリである。インシァンとホタルは銀狼の入った大きなキャリーケースを転がしながら、午後出勤の社員に紛れて社屋の方へ向かう。そしてホタルはキャリーケースの中の彼女にメッセージを送った。

 

「銀狼、次はどこに行けばいい?」

「取り敢えずさっき送った奴らを探して。マップによると……社屋の52階に戦略投資部の役員会議室が入ってる。そっちの方へ行けばそれっぽいのがいるかも」

「分かった。行こう、インシァン」

「はい。……少し、楽しいですね」

「それは……ちょっとあるかも」

「楽しむのもいいけど、私のゲームのことも忘れないで?」

 

 そして社屋に入った彼女達。溢れるような人は数十個のエレベーターによって順々に捌かれていく。インシァンとホタルも人の波に流されるようにエレベーターに乗り込んだ。

 

「ねえ、どうしよう銀狼?このエレベーター40階までしか行かないよ?」

「みたいですね。というか、40階にしか止まらないみたいです」

「は?なにそれ意味わかんない。取り敢えず40階で降りて乗り換えて」

「了解しました」

 

 エレベーターを降りた2人はエレベーターホールを端から確認していく。そして「50」という数字を見つけると、再びメッセージを送る。

 

「……あ、あったよ銀狼!50階行きのエレベーター!」

「じゃあ今すぐそれ乗って。それと、50階着いたら上手いこと課長辺り仕留めて社員証奪って。50階より上はP21以上じゃないと入れないみたいだから」

「交換回数がもう1回必要になった、ということですか?」

「そういうこと」

 

 その指示通りに彼女達はそれに乗り込んで50階へ向かう。そして止まったエレベーターのドアが開くと、そこには小洒落た空間が広がっていた。

 

「着いたよ、銀狼」

「オッケー。今50階の戦略投資部のP21以上のリスト送ったから、この中から適当に2人くらいやっちゃって」

「了解です」

 

 2人はキャリーケースを転がしながらオフィス内を探索する。時々社員に話しかけられると、「実は、ウェリタル-Ⅻの支社から新しく配属されたんです」と銀狼の指示通りに説明する。それを聞くと社員達は特に疑うこともなく納得し、彼女達は再び探索へ戻った。

 

「……あ、インシァン。あれじゃない?」

「ですね。というか、隣の方もそうでは?」

「ほんとだ。……よし、行こう、インシァン」

 

 そして彼女達はキャリーケースを少し角の方に寄せると、自動販売機の前で談笑する戦略投資部第一課課長と係長の背後へ迫る。そして全員の視界から外れた瞬間、彼女達はその背後を急襲した。一切の抵抗を許さずにインシァンはその右首の外頸静脈に例の混合剤を突き刺し、ホタルも機械生命体の係長に市販の物とは一線を画す、死なないだけの超高電圧スタンガンを突き立てた。そして倒れた彼らの胸元の社員証を素早く抜くと、彼女達は気がついた社員達に「突然課長達が倒れて……」と説明する。

 

「ちょっと待って、俺担架持ってくる!」

「ええ、お願い!……君達も大変ね。配属初日なのに……何か分からないことがあったら課長の代わりに私が答えるわ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 

 そして課長達が運ばれていくのを尻目に、2人はキャリーケースを回収し、銀狼によるハッキングの終わった社員証をかざして50階以上へ向かうエレベーターに乗り込む。インシァンは手元のメモ帳に「改善の余地あり」と書き込んだ。

 

「着いたよ、52階。いかにも高級って感じだけど……」

「……確認出来た。ちょうど第4役員会議室でP25の2人が業務中。防犯カメラも偽装したから速攻で終わらせちゃって」

 

 銀狼のメッセージを確認し、彼女達は再び非殺傷兵器を携えてフロアを進む。そしてインシァンは視界の端に「04」と掛かったドアを発見した。

 

「あれ、でしょうか」

「間違いない」

 

 彼女達は近くに人がいないことを確認すると、そっとその扉を開けた。インシァンの手元には先程の混合剤とは別の、スプレー缶のようなものが握られている。

 

「……な、何だ君達は?!」

「役員フロアになぜ入ってきている?!」

「失礼します」

 

 一言だけ謝罪を入れ、インシァンはそのスプレー缶の中身を散布した。それは一発で五感を掻き乱すスグレモノ。霧状になった強烈な麻酔薬のようなものだった。並の人間でも30分程度で症状は跡形もなく消え去るが、例によって例の如く効果時間前後の記憶もすっかり消し去る忘却剤も混ぜられている。「人に試したい薬剤には忘却作用も用意しておきなさい」、母からの教えであった。そして体質故にそれが効かないインシァンとホタルは会議室に入ると、彼らのジャケットの中からP25と刻まれた社員証を手に入れた。

 

「銀狼ちゃん、手に入りました」

「じゃ、今すぐ1階まで降りて。エレベーターの使用履歴は消しておくから出来るだけ早く」

「戻ろう、インシァン」

「はい、ホタルちゃん。……そういえば銀狼ちゃん、ピアポイントまではどれくらい掛かるんですか?」

「P25になるともう二つ上の高速船が使えるから……まあ、10時間かからないくらいじゃない?」

 

 そして晴れて戦略投資部のP25まで出世を遂げた2人は、係長と課長のみならず部長クラス2人まで倒れるという災難に見舞われたハブ・クローウディニア-Ⅰを去るのだった。




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