「……あ、ホタルちゃん……!」
「やっと見つけた、インシァン……」
「黄金の刻」、オーディ・ショッピングセンターで再会を果たした彼女達。僅かに乱れた彼女の髪に手を触れ、インシァンは「何かありましたか?」と優しく尋ねる。ホタルはそれに頷いた。
「「エナの夢」に気が付いてドリームボーダーで目を覚ましてから、あたしはインシァンを探すために「黄金の刻」に向かってたの。でもその最中、「秩序」に操られた人達に囲まれて……」
「……ホタルちゃん、一つ聞きたいんですが……「サム」は、使えましたか?」
「インシァン、それって……」
「大丈夫です。今のホタルちゃんがそのような人々にグラモスの力を向けることがないのは分かっていますから。ですので、これは単純な質問です。「サム」は、使えましたか?」
インシァンの問いかけに、ホタルは静かにその首を横に振る。「やっぱり、そういうことなんですね」とインシァンは合点がいったように呟いた。
「……まさか、インシァンも使えないの?「繁殖」の力……」
「はい、そういうことです。私も、ホタルちゃんも、今はきっと「普通の人間」にされている。そして、恐らく、これが「エナの夢」の本質。弱肉強食が世に蔓延るのであれば、全ての強さを取り除いてしまえば良い、全てが等しくあるべきだという「同願」の延長線上の「同調圧力」。ホタルちゃんを襲った彼等の正体もこれだと思います。そこには「秩序」以外の運命は無く、人々を均せば、彼等は夢の中で同じような人間として同じような幸せを掴むことが出来る……確かに、全ての人々に幸せを「与えようと」するなら最善策ではあるでしょうが……」
「人は、それほど簡単に幸せになれる生物じゃない」と、インシァンは「調律」に頭を抑えながら言う。思考を動かす度に、それを取り除くかのように奔る痛み。「エナの夢」の拡大が進んでいるのか、支配欲の現れたるその鈍痛は、たった一つの「秩序」のみが存在する中で「繁殖」の力を失った彼女に容赦なく襲いかかるが、それでもインシァンは「その程度じゃ、「知恵」は奪え、ません……」と抵抗していた。
「ホタルちゃん、今から作戦を話します……一回しか言いませんから、ちゃんと、聞いててください……」
「分かった、任せて」
「……まず、アベンチュリンさん達との合流を目指してください。恐らくアベンチュリンさんとロビンさん、金魚ちゃんとブラックスワンさんが一緒ですから……それで、合流できたら、この「黄金の刻」の中にある、「エナの夢」の綻びを探すんです……」
「……っ、大丈夫!?インシァン!?」
ホタルにそう伝え、危うく地面に倒れ伏しそうになったインシァンを彼女は受け止める。「ちょっと、疲れちゃいました」、そう申し訳無さそうに苦笑する彼女は、ホタルが見たことないほどに消耗していた。
「そっか、インシァン、身体は強くても、体力は「繁殖」の力で維持してるから……」
「……ごめんなさい、ホタルちゃん。私、「繁殖」から切り離されるの、初めてなので……自分でも、勝手が分からないんです」
「大丈夫だよ、ほら、だっこするから」
「ありがとう、ございます……」
そう言って、インシァンはホタルに身体を預ける。産まれたその瞬間より、常人よりも遥かに強く「運命」の影響を受けているインシァンにとって、「エナの夢」の中の幻想の肉体とはいえ、「繁殖」から切り離されることは本来であれば発生し得ない異常。ただでさえ脚本外の「死」によって激しく消耗している彼女には、さらなる重い枷となって伸し掛かっていた。そしてホタルは、自らの腕の中でうずくまった彼女に優しく声を掛ける。
「……じゃあ、行くよ、インシァン」
「はい、よろしくお願いします、ホタルちゃん……」