「クラークフィルムランドに、「虚無」が?」
箱庭からワープし、「エナの夢」の中の「黄金の刻」、エディオンパークに降り立った彼女達。聞き返したロビンにアベンチュリンは静かに頷く。
「ここまで来て、ようやく思い出せた。これが「ネムリ」じゃいけなかった、僕を殺すのが「黄泉」でなければならなかった本当の理由。僕はあのショーの果て、クラークフィルムランドごと彼女の刃に切り裂かれた。その傷痕はまだ痛々しく「黄金の刻」の中のクラークフィルムランドに刻まれたままだ。そして「エナの夢」は極限まで拡大し、現実に近づいた夢境。つまり……」
「……!ピノコニーの夢境で起きた出来事は「エナの夢」に持ち込める……!」
「ああ。いくらサンデーが「使令」の力を得ようと、対等である使令級の「虚無」は打ち消せない。「七日目」まで到達した今、もう一度やり直す時間ももうお互いに残ってない。あいつはこの致命的欠陥を見逃すしかなかったんだ」
もちろん、サンデーも無策だった訳では無い。「エナの夢」に堕ちた人々に施される強力な調律によって彼等は一部の記憶にまで干渉される。当然、クラークフィルムランドの一連の顛末についても。しかし、「エナの夢」で思考を続け、先へ進むということは「秩序」から目覚める意志を抱くということ。故に思考を加速させる度、その思考は「秩序」の影響下を抜け出し、その記憶の破片を取り戻していく。
「桜花ちゃんも愚者も、「運命」がなくたって頭は回るタイプだ。僕が彼女達の実力を正しく測れているなら……きっと、今頃彼女達もこの結論に辿り着いてるだろうね」
「なら──」
「眠りましょう」
「先を急がないと」、ロビンがそう言いかけた時、「秩序」に操られた人々の声が響いた。「眠りましょう」、「「眠りましょう」」、「「「眠りましょう」」」と徐々に増え、反響し、アベンチュリン達を囲む眠る人々。その「同調圧力」も次第に強まり、「「「眠りなさい」」」、「「「眠るのです」」」、「「「眠れ」」」と人々の声が大きくこだましている。
「ロビン、これは……」
「……ええ。私達をクラークフィルムランドに行かせたくないみたい。よほど「秩序」にとって都合が悪いのね」
「分かってるだろ?わざわざサンデーは僕達の答え合わせをしてくれてるんだ。ありがたく、先に進もうじゃないか」
そう、アベンチュリンはいつものような不敵な笑みを浮かべた。
◇◇◇
「……あっ、インシァン!見えたよ、クラークフィルムランド……!」
そうホタルが声を掛けると、彼女に背負われたインシァンは頷いた。「秩序」の影響を抜けつつあるとはいえ、その体力は未だ大きく消耗したまま。それに対して、クラークフィルムランドでは数多くの「秩序」に操られた人々がその地に人を踏み入らせるまいと待ち構えている。「なんとか手段は」、そうホタルもインシァンも考えた時、「あっはは!ひっさしぶり~!」と場に似つかわしくないほどの明るい声が響いた。
「……!金魚ちゃん……!」
「それにブラックスワンさんも……!」
「ええ。二人とも、お疲れ様ね」
「ふふっ、桜ちゃんは過労死寸前ってところかな〜?」
「……お恥ずかしながら。「秩序」以外の「運命」がない世界は……ええ、中々に辛いものがあります」
「でも、これで一人も欠けることなく私達の道は再び収束した……そうでしょう?アベンチュリンさん」
ブラックスワンが声を掛けると同時、彼等も門の前に立つインシァン達に合流する。少なからず消耗しながらも幾つもの包囲を抜けたアベンチュリンとロビンだった。
「なんとか間に合ったみたいだね」
「皆が無事で、本当に良かったわ」
「……!ロビンさん、顔に傷が……!」
「大丈夫、この程度すぐに治るわ。私の顔なんかより、ピノコニーの未来の方がずっと大事だもの」
そう強く言い切り、ロビンはクラークフィルムランドの奥へと目を向ける。「秩序」に操られた人々も、一斉に彼女達へと目を向けた。
「……大丈夫です、ホタルちゃん。もう、出来ます」
「……分かった。無理はしないでね、インシァン」
「いっつもは私がそれを言ってるのに、まさかホタルちゃんに言われるなんて」
「ええ、悪くありませんね」、そう微笑み、そして次の瞬間にはその微笑みの一切を崩さない、ある意味で人工的な瞳が人々へ向けられた。
「……通ります、少し」