星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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星々に響く歌声

「……着きました。ここを抜ければ、アナタ達はきっと夢から覚めるはずです」

 

 「秩序」による侵食を受け、崩れつつある「エナの夢」の中の「開拓」。その短くも意味に溢れた旅の果て、彼女達が辿り着いたのは、その夢の本来の姿である「流刑地」だった。彼女達が知るドリームリーフと違う点があるとすれば、全く人がいないこと、そして「時計屋」の眠る花畑へと続く道に固く閉ざされた扉が立ち塞がっているということ。そして、その前に立ったロビンは背後に振り返り、「これを、開ければいいのね?」、そうミハイルに尋ねた。彼は静かに頷いた。

 

「ボクに出来ること、アナタ達を導けるのはここまでです。人を夢から目覚めさせることが出来るのは自分自身だけですから。そして、それは今眠っている彼等も例外ではありません。誰かを起こす必要はなく、ただ、一つの前例、目覚めるきっかけを作れば人はきっと目を覚ませる」

 

 彼はそのように、自らの名が刻まれるはずだった無銘の墓石の前に立って言った。

 

「「生命体は、何故眠るのか」、その答えは一人一人が持つべきものですが、それと同時に、誰かが明確な答えを示すべき問いでもある。だから、その答えは今戦っているボクの後輩に委ねます」

「あなたはとても強く「開拓」を信じているのね」

「「開拓」とは誰もが持つ未来を望む心であり、人の強さの源だとボクは信じています。そしてそれは、きっとボクだけじゃない。人の誰しもが、心の何処かで「人は強い」と信じたがってるんです。その気持ちは、ボクは絶対に裏切りたくない」

「「人は強い」、か〜、ふふっ、手羽男ちゃんとは真逆だね!」

「手羽男ちゃん……ああ、彼のことですね」

 

 そしてミハイルは「少し思い出しました」と、コートの胸元から何かを取り出しながら言った。一つの懐中時計だった。

 

「これを、彼に渡してくれませんか。ナナシビトの「ラグウォーク・シャール・ミハイル」ではなく、この夢を創り上げた「時計屋」として、ピノコニーの後輩に託したいんです。きっと、ボクと彼は似た者同士ですから」

「あははっ、夢の中の物なのに渡せるの?」

「この「「開拓」の記憶域」は、この懐中時計を中心に人々の意志が集まって形作られました。これだけは、疑いようもない「現実」の物です」

「これを、兄様に……うん、分かったわ。必ず渡す」

「その言葉が聞けて安心しました」

 

 そう答えたミハイルは、まるで「虚構」を見破られたギャラガーのように少しずつ薄れていく。ピノコニーの人々の持つ「開拓」、その集合として彼女達の前へ姿を現した彼は、「良い旅を」、最期にそう言い残した。彼女達もそれに別れを告げ、そして、扉に手を掛けた。

 

「っていうか、花火必要?こういうのって大体ロビンちゃんみたいなのが1人で受け継いで〜、みたいな奴が王道じゃない?ま、花火王道とか好きじゃないけど!」

「いいえ、あなたは間違いなく必要だわ。どうして「調和(シペ)」が「開拓」を歩む星に一瞥したか、今の私には分かる。「調和」も「開拓」も、決してひとりよがりじゃ成り立たない、人がいて、また他の人がいて、それで初めて成り立つものだって。だからきっと、この扉も1人で開けるべきじゃないの」

「ふふっ、いいよ!そういうことなら花火が手伝ってあげる!」

 

 観音開きになった扉の、それぞれの取っ手に彼女達は力を込める。ゆっくり、ゆっくりとそれは開いていった。そして、その扉が開き切り、彼女達がドリームリーフの「時計屋」の花畑へと辿り着くと共に、ギャラガーが最期にロビンに託した置き土産が彼女達を出迎える。

 

「……」

「……大丈夫、怖くないわ」

 

 ロビンが優しく撫でると、それも彼女を信用するかのようにそっとその身を委ねる。そして花火が心底面白そうな顔をする中、ロビンは優しく語りかける。

 

「お願い、兄様を起こしたいの。力を貸して、「ネムリ」」

 

◇◇◇

 

「「「アナタ達が「秩序」の夢から覚めたとて、ピノコニーの未来は変わらない……!!」」」

 

 「ハルモニア聖歌隊」ディエス・ドミニクス・ハレルヤの激しく振るう指揮棒によって、「秩序」の旋律が吹き荒れる。それは再び星達を「エナの夢」へと取り込まんと彼女達を包むが、星達も負けじとそれを振り払い、ディエス・ドミニクス・ハレルヤに抵抗する。そんな一進一退の攻防が続く中、彼がその金色の指揮棒を振り上げた瞬間だった。

 

「「「何──」」」

「……!」

 

 その指揮棒を吹き飛ばした黒い刃。その影はかつての星にとってあまりにも悍ましく、そして全てを知った今の星にとってあまりにも心強い。その背に乗った彼女達と、目が合ったのだ。

 

「あっはは!鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃって!そんなんだから手羽男ちゃんなんだよ?手羽男ちゃん!」

「「「愚者……!?」」」

「っていうかさ、よそ見してる暇あるのかな?あ、手羽男ちゃんがいいならいいんだけどね?」

 

 そう言って煽るようなニヤけ笑みを浮かべながら自らの頭上を指差す花火。「ネムリ」の創り出した黒い影が何かを隠しているようだったが、抱かれた疑念はすぐさま晴らされることになる。その影の中から姿を現したのは、彼が最も良く知る「歌姫」だったのだ。

 

「「「……何故……!?何故、アナタがそこに……ロビン……!!」」」

「兄様、兄様が天上から一人で「秩序」の賛歌を奏でるというのなら、私は皆と「調和」と「開拓」を歌い、彼方の星々まで届けてみせる。兄様が一人で理想を抱え込んで沈んでしまうなら、私は皆と理想を目指して大空を飛んでみせる。私は、未来を諦めない……!!」

「……!今なら皆を起こせるよ、トモダチ!」

「うん、せーの……!」

「「クロックトリーック!!」」

 

 ロビンの歌声、「翼の生えた希望」と共に、星とクロックボーイの「開拓」の叫びがピノコニーの夢に響き渡る。夜明けは、迫っていた。

 


 

 彼女は終末獣を討ち、宇宙ステーション「ヘルタ」の未来を守った。

 

 彼は星核の災いを退け、ヤリーロ=Ⅵ「ベロブルグ」の未来を守った。

 

 彼女は「壊滅」の使令を滅ぼし、仙舟「羅浮」の未来を守った。

 

 そして彼女達はそれぞれの「開拓」を果たした先で同じように目を覚ました。

 

「ホタル!アベンチュリン!インシァン!いつまで寝ておるんじゃ!体調管理は「開拓」の礎じゃぞ!」

 

 そう、「星穹列車」で。

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