星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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あのキャラが出てきます


わらしべピアポイント(その4)

 スターピースカンパニー。「存護」の派閥に属するそれは、銀河の経済的統一と経済的独裁を成し遂げた宇宙最大の星間企業にして、「琥珀の王」星神クリフォトの最も忠実な下僕。その始まりはいずれ来たる宇宙の敵に備えて壁を作り続けるクリフォトの為に建築資材を捧げ続けた「後方支援隊」と呼ばれる人々に由来する。彼らの捧げた資材はただ一度としてクリフォトに使われることは無かったものの、彼らはより多くの資材を琥珀の王に捧げることを求め、より効率的に資材を集めるために商業に手を出した。これが現在の「スターピースカンパニー」である。故に彼らは商業団体でありながらクリフォトを信仰する宗教団体でもあり、今なおその社訓は「全てを「琥珀の王」に捧げよ」と掲げられている。その影響力は絶大であり、彼らの通貨である「信用ポイント」、そして彼らの暦である「琥珀歴」は銀河のあらゆる星系、あらゆる星、あらゆる国、あらゆる街で等しく存在する。彼らの定めた価値こそ星間市場における価値であり、彼らの定めたルールこそ星間市場のルールなのだ。

 そして、彼女達はその本社「ピアポイント」にとうとう足を踏み入れた。多くの社員は一生をカンパニーに捧げてもなお訪れることはないであろうその地は「巨構本部」と称される通りに一つの星そのものがカンパニーの本社機能を担っている。銀狼をキャリーケースに隠しながら宇宙船を降りたインシァンとホタルは、ターミナルを出ると彼女達を迎えに来た社用車に乗り込んだ。自動運転車の合成音声が長旅を終えた彼女達を労う。

 

「お疲れ様です、インシァン様、ホタル様。本日はどちらへ向かいましょうか?」

「銀狼、どこに行けば銀狼のアカウントを取り戻せるの?」

「ちょっと待って……あ、あった。第31データベース管理棟だ」

「では、第31データベース管理棟までお願いします」

「かしこまりました」

 

 自動運転プログラムはそのように相槌を打つと、静かにそのモーターを動かし始めた。

 

◇◇◇

 

 「間もなく第31データベース管理棟へ到着します」、そう自動運転プログラムが知らせたのはひたすらにビルの並ぶ街並みを数十分走り続け、ホタルが代わり映えのしない景色に飽きてきた頃だった。そして彼女達が降りる準備を終えると、社用車は管理棟の玄関前で停止した。

 

「ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

「二人共、周りにホテルみたいな建物あるでしょ?そこ、社員用の宿泊所だから、次はそこへ向かって」

「えっ、管理棟は目の前だけど、入らなくていいの?」

「うん。そこで最後の作戦会議をする」

 

 2人は銀狼の指示に従い、キャリーケースを転がして宿泊所へ向かう。既にシステム時間23時を回っているが、そんなことはお構いなし。今日もカンパニーは24時間、1分1秒たりとも業務を止めることはない。暗い空の下でもビルは酷く明るい。そして宿泊所のロビーに入った彼女達は、少し疲れた顔の社員達に混ざってチェックインの機械に並んだ。

 

「利用は2人で……P25で……あ、ホタルちゃん、社員証、貸してもらえますか?」

「えっと……あ、あった。はい」

「ありがとうございます。……出来ました。313号室、4番エレベーターに乗ればいいみたいです」

「了解、行こう」

 

 エレベーターに乗り込み、割り当てられた部屋まで向かった彼女達。部屋に到着するなりキャリーケースを出た銀狼は、自前のモニターやらキーボードやらを展開し、ハッキングの準備を整え始めた。

 

「ふう、すっきりした。やっぱり外の空気の方が美味しい」

「あ、やっぱり中大変なんだ……」

「それじゃあ、最後の説明始めるよ」

 

 そう言って銀狼はベッドに寝転がり、空中にホログラムを映し出す。

 

「ここまで来たら後は簡単、さっきの管理棟に忍び込んで私のアカウントを奪い返すだけ……っていうのだったら楽なんだけど、実はそんなに簡単な話じゃない」

「そうなの?」

「そう。第一に、あの第31データベース管理棟だけでも数百のサーバールームが存在してる。残念ながら腐ってもカンパニーの本社、外部からの痕跡を残さない程度のハッキングじゃそこまでは絞り込めなかった。第二に、アカウントデータそのものはオフラインのメモリに保存されてるせいでハッキングじゃどうにもならない」

「だから、ここまで来る必要があったってことですか?」

「そういうこと。というわけで流れについて説明していくんだけど、まず今回はインシァン一人でお願い」

 

 銀狼の言葉に、ホタルは少し驚いたような反応をした。そして彼女は「やっぱりあたしじゃ力不足だよね……」と自信なさげに呟いた。

 

「そうは言ってない。適材適所ってこと。この作戦は管理棟に潜入するインシァンとハッキングする私の2面攻撃なんだけど、ハッキング中の私は物理的に無防備なの。ここからハッキング仕掛けてる間、もし二人共管理棟に行っちゃったら私のことは誰が守るの?」

「じゃあ、私はここに残って銀狼と一緒にいればいいんだね?」

「そういうこと。あ、でも力不足なのも事実。ホタル、細かい作業とか苦手でしょ?ここはカンパニーの本部なんだし、何でもかんでも「サム」で解決できるわけじゃない」

「うう……言い返せない……」

「それで、私は具体的には何を?」

 

 インシァンが尋ねると、銀狼は手元のキーボードを操作して何かを送りつけた。インシァンのスマホの通知が鳴る。

 

「……何ですか?これ」

「ビーコンアプリ。それを管理棟のサーバーに接続してから起動すれば、インシァンのスマホを中継して内部へアクセス出来るようになる」

「……ああ、それで凍結されたアカウントの保存場所を確認して、メモリ内のデータをコピーすればいいということですか?」

「当たり。これで作戦会議終了。インシァンはいつでも行っちゃって良いよ」

「了解です。では、「速戦即決」と行きましょうか」

 

 そう言ってインシァンはネクタイを締め直すと、制帽を被って部屋を出発した。

 

◇◇◇

 

「……P25、戦略投資部「インシァン」。確認が完了しました。お通り下さい」

 

 入口に社員証をかざし、管理棟に足を踏み入れたインシァン。そこには全く同じような扉が端が見えないほどに並んでいて、彼女は辺りを見回した後に、「少し、大変ですね」と呟いた。

 

「おや、何が大変なんだい?」

 

 彼女の独り言を聞いていたのか、一人の若い男が彼女の背に声を掛ける。インシァンが振り向くと、赤紫と青が混ざった鮮やかな虹彩が特徴的な、身なりの良い容姿端麗な男だった。

 

「すまないね、困ってるようだったからつい」

「あ、いえ……心配させてしまったみたいで申し訳ありません」

「良いんだ、同じカンパニーの仲間だからね。それで、何か困りごとかな?」

「……はい。実は友人のアカウントが間違って凍結されたみたいで、状況だけ確認したくて……」

 

 インシァンがそう言うと、男は少し考えた後に「そうだ」と右指を鳴らした。

 

「なら、僕の調べ物を手伝ってくれないか?その後で良かったら凍結アカウントの保存場所に案内しよう」

「良いんですか?」

「ああ。むしろ手伝ってもらえるならこっちにメリットがある。それに、君は戦略投資部なんだろう?なら僕の部下みたいなものだからね」

「でしたら……はい。ぜひよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。……そうだ、名前を言ってなかったな」

 

 インシァンの前をゆっくりと歩いていた彼はそう言って立ち止まると、彼女の方へ振り向き、そして口を開いた。

 

「僕はアベンチュリン。よろしく頼むよ、マイフレンド?」

 

◇◇◇

 

「そうか、クローウディニアからなのかい?僕も何度か出張で行ったことがあるけど、あそこは中々統率が取れていて悪くない」

「はい。短い間だったんですが、皆さん優しくして頂いて……」

 

 アベンチュリンの手伝いは意外なほど呆気なかった。ただメモを渡され、そこに書いてある番号のメモリをいくつか回収するだけ。ものの15分程度のものだった。道中の自販機で一杯のココアを奢ってもらったインシァンは「美味しいです」とそれをちまちまと啜りながら彼の後をついて行く。

 

「ところで、さっき集めていたメモリは何のデータなんですか?」

「何、大したものじゃない。近々ちょっとした出張があってね。その出張先のデータを集めていたというわけさ。……ほら、この部屋だ」

 

 そう言ってアベンチュリンは自らの社員証をかざし、その部屋のドアを開けた。相変わらずずらりと棚に並ぶメモリの数々。インシァンは「ありがとうございます」と彼に頭を下げた。

 

「ここからは、多分私一人でも大丈夫だと思います」

「そうかい?……なら、これを君に」

 

 そう言ってアベンチュリンはジャケットの内ポケットから1枚のチップを取り出した。金と黒、そしてスペードを基調とした、彼の衣装にもよく似たチップ。インシァンはそれを受け取ると、「良いんですか?」と尋ねる。

 

「ああ。これは……そうだな、僕からのちょっとしたおまじないだ。君が成功して、いつか共に仕事が出来ることを祈ってるよ」

 

 そう言い残して、アベンチュリンはどこかに去っていく。インシァンは彼がいなくなったことを確認すると、インシァンはボイスチャットを起動しながら部屋の奥の管理端末に自らのスマートフォンを接続した。

 

「おっ、来た来た。意外と早かったね?インシァン」

「優しい方がいたので。……どうですか?」

「……お、あったあった。4FF3E1だ」

「了解です」

 

 インシァンは並んだ棚の中からその番号が貼られたメモリを拝借すると、素早く管理端末にセットした。銀狼は「そう!これこれ!」と少し興奮気味になりながらその中身をコピーしてアカウントを復旧していく。

 

「オッケーインシァン!私のアカウント復活した!全部!」

「了解です。戻りますか?」

「もちろん!っていうかもう部屋出たからビルの前で待ってて!もう帰りの宇宙船も手配したから!」

「早いですね」

「一応もうログボは取ったけど早くコンテンツ消化しないと!」

 

 そう言って銀狼はボイスチャットを切る。インシァンは管理端末からスマホを外し、メモリを元の場所に戻すと悠々と部屋を去った。

 

「ミッションコンプリート、ですね」

 

◇◇◇

 

「へ〜、君、あんなに軟派な人間だったんだ?」

 

 自らのオフィスに戻ろうとビルを出たアベンチュリンに、戦略投資部の高級幹部「十の石心」の同僚であるトパーズが声を掛けた。「まさか」と否定する彼の足元では彼女のペットであり相棒でもある、次元プーマンの「カブ」がフンフンと鼻を鳴らしている。

 

「違う。僕は彼女に可能性を感じただけだ。どのような形であれ、彼女はきっと僕の力になってくれる」

「ココア一杯とチップ1枚で?」

「ああ。あれが今の彼女に対するベットの上限だ。あれ以上でもあれ以下でもいけなかった」

 

 その言葉にトパーズは溜息を吐くと、手元の端末を操作して彼に見せる。

 

「いい?アベンチュリン、P25のリストに「インシァン」という社員が追加されたのはシステム時間で13時間前。そもそも、カンパニーの社員に「インシァン」という人間が加わったのは今から21時間前。つまり、彼女は身分を偽装してる可能性が極めて高い」

 

 トパーズの指摘に対して、アベンチュリンは特に驚くこともなく「ああ、そうかもしれないね」と相槌を打つ。

 

「だがトパーズ。君が一番良く知っているだろう?ギャンブルというのはハイリスク・ハイリターンが常。そして僕はギャンブルに負けたことがない」

「……分かった。それで、ピノコニー出張の準備は出来てるの?もうすぐ出発でしょ?」

「ああ。何一つ問題はないね。P44に下がった君とはまた差がついてしまうかもしれない」

「あっそ。ま、君の成功を祈ってるよ」

 

 そう言ってトパーズは一足先にビルを去っていく。アベンチュリンは「やれやれ」と呆れてみせると、いくつものメモリでポケットを重くしながら夜の空を見上げた。

 

「……全ては、「オール・オア・ナッシング」だ」




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あと私は星アベ過激派なんで安心してください
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