✧✧✧✧✧インシァン・ルアン・メェイ(風・繁殖)
キャラクター詳細
「桜花」として星核ハンターに身を置く「天才クラブ」#81、ルアン・メェイの一人娘。「繁殖」と「知恵」の完全なバランスの上に存在している彼女はあらゆる「運命」の可能性が重ね合わさった存在であり、自らの可能性と「運命」そのものの在り様を追い求めて研究を続ける敬虔な探求者でもある。
誰に対してもその穏やかさを崩さないその様子は母の教育によるものか、あるいは生物種としての圧倒的な隔絶故か、彼女自身でさえもその答えを知らない。確かなことは、彼女が今を楽しんでいるということと、彼女は多大な愛を注がれているということである。
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ストーリー・1
「これが気になりますか?」
母親から尋ねられると、幼い少女は静かに頷いた。少し高い棚に置かれた香ばしい匂いを漂わせる焼き菓子は、まだ小さな彼女では背伸びしても手が届かなかった。母親は彼女の代わりにそれを手に取り、幼い手のひらに握らせる。少女がそれを頬張ると、白餡の柔らかな甘さと梅の甘酸っぱさが、小さな口の中いっぱいに広がった。
少女が次に手を伸ばしたのは、寝室に置かれた弦楽器だった。梅の装飾が施されたそれは、まだ小さな彼女の手では抱えるのも精一杯だった。母親はそんな彼女の様子を見て、その音色を奏でてくれた。透き通るような調べが、月夜の景色とともに少女の記憶へと刻まれた。
「お母様、私にも今度教えてほしいです」
「ええ、もちろん。インシァンは賢いですから、きっとすぐに上達しますよ」
ストーリー・2
物心ついた時から、彼女は母親と二人だった。同じ布団で目覚め、同じ食卓に着き、同じ物を食べ、同じ浴槽に浸かり、同じ布団で眠る。時々お菓子を作ったり、街へ出かけたり、成長してからは実験を手伝うこともあった。知識として、子は父親と母親の間に生まれるということを彼女は知っていたが、自分が母親と二人であることに彼女は疑問を抱かなかった。鏡に映る彼女達の姿は生き写しだった。母親が好きな物を彼女は好きになった。彼女が好きになった物に母親は興味を持った。
そして彼女が少し大きくなり、母親から自らの出自を告げられた時、彼女は何よりも喜んだ。「繁殖」の星神、古獣、クローン、母親は彼女がそれらを受け止められると信じてそれを明かし、彼女は望まれた通りにそれを受け止め、噛み締めた。自分が望まれて生まれてきたという事実は、彼女にとって何よりの贈り物だった。
ストーリー・3
彼女が母親に別れを告げたのは、彼女を作り上げたあの日の母親と同じ歳になった日のことだった。かつての母親が「生命」の本質に恋い焦がれ、それに執着したように、彼女は宇宙に溢れる「運命」に、どうしようもないほどに心惹かれていた。母親に付き添って、「天才クラブ」に出向くようにもなっていた頃だった。
母親はそれを快く受け入れ、週に一回は連絡してほしいということ、月に一回は帰ってきてほしいということ、今まで通りお小遣いは送らせてほしいということ……その他諸々の条件と共に、とある星に彼女のための研究室を誂えた。それが完成した頃には、彼女は誰よりも美しく育っていた。そして出発の日、母親は最後の条件を付け足した。
「帰ってくる時は、お土産のお菓子を忘れないでくださいね」
「ふふっ……ええ、もちろんです、お母様」
ストーリー・4
気が付けば、彼女には「家族」と呼べるような相手が増えた。まるで双子のような、「血の繋がった」、生体兵器の少女。彼女達を温かく見守る、恐怖を知らぬ殺し屋の麗人。寡黙だが決して冷酷ではない、過去と死を追う不死の剣客。少し小柄で感情豊かな、何よりもゲームを愛する天才ハッカーの少女。そして末っ子気質で世間知らずな、「星核」を収める器として作られた少女。「研究」を介さない、一人の少女としての彼女の仲間。
仲間が増える度、彼女は母親に手紙を書いた。その返信には研究の進捗と、最近美味しかったお菓子と、流行りの演劇と、庭に咲いた旬の花と……書き連ねられた話題でいっぱいだった。少し分厚い便箋が送られてくる度、彼女は嬉しそうにそのページを捲った。
「インシァン、お母さんからの手紙?」
「じゃない?また何か送ってくれるとか?」
「はい。また今度焼き菓子を送ってくれるみたいです」
「あら、それは楽しみね」
「……前回のも、中々悪くなかった」
そして彼女は、母親に向けて返事を書いた。
「私は、とても幸せです」