「インシァン、着替えた?」
「はい。大丈夫ですよ、ホタルちゃん」
その言葉を聞いて、先に着替え終えたホタルはいっせーのーせの合図で試着室のカーテンを開ける。そして彼女達は、顕になったお互いの姿を見るなり笑みを溢した。
「ふふっ……うん。似合ってるよ、インシァン」
「はい、ホタルちゃんも。ですが……私達、少し浮かれてるみたいです」
そう言って笑うインシァンのファッション、即ちホタルセレクションは、いわゆる地雷系。本人曰く「黒髪にピンクメッシュなんて一回地雷系やるしかない」とのこと。まんざらでもなさそうにインシァンが揺らした手も萌え袖のような少し長い袖に隠れている。しかも目元には涙袋を強調するメイクまで。いつの間にか化粧まで済ませたらしい。
それに対してホタルはなんとゴシックロリィタ。モノトーンカラーの服の胸元にはメタリックな合金製ネックレスが煌めいていた。もちろんこれを選んだのはそこで地雷系やってるインシァンである。普段の彼女が身に纏うような、ラフな清楚系といった装いからは考え難いものではあり、ホタルも最初は目を疑ったがそれはインシァンも同じこと。しかし顔が良ければそれなりに様になるというのもまた事実であり、店員も「お二人共良くお似合いですよ〜!」とわりかし心からの言葉を二人にかける。そしてインシァンとホタルはお互いの服の会計を終え、写真を撮り、少しだけ恥ずかしくなって着替え直し、店を出た。
「インシァン、次はどこ行こっか?」
「んー……あ。だったら、お芝居を観に行きませんか?丁度、アイリス家の公演があるみたいなんです。ホタルちゃん、「自分はアイリス家の役者だ」って星ちゃんに言ったんでしょう?だったら一度くらい、そのアイリス家の実力を見てみる、というのも悪くないと思いますよ」
「確かに、そういうのも良いかも」
というわけでこれまた荷物を配送サービスへ預け、今度は「黄金の刻」の中のコンサートホールへと向かう二人。「アイリス家ってどんな感じなのかな〜」なんてことを言うホタルに、インシァンは「楽しみですね」と微笑む。そして彼女達はコンサートホールで開演の時を待った。
◇◇◇
「……あ、あたし……あんなのを名乗ろうとしてたんだ……」
閉幕するなり、ホタルは顔を青くしてそう呟いた。上演されたのはありきたりな英雄譚。しかし役者の演技はどれも真に迫るものであり、見事に観客の胸を打つ。自分は演技がそれなりに出来なくもないと思っていたホタルは「二度と演技はやらない……」と完全に打ち負かされた様子。そんな素晴らしいものを見たのにも関わらず落ち込んでいるホタルを連れて、インシァンはホールを出た。
「ほら、元気だしてくださいホタルちゃん。そろそろ調和セレモニーですよ」
「あ、そっか。暉長石号ってところでやるんだよね」
「はい。「ブルーアワーの刻」だそうです」
そして「私はもう少しだけ「黄金の刻」に用があるので、先に行っててください」というインシァンの言葉に頷き、「うん、セレモニーで待ってるよ」とホタルは「黄金の刻」を後にする。彼女の背が見えなくなったのを確認した後、インシァンはパチンと指を鳴らした。吹雪いた桜が、彼女の姿を暴いた。
「アッハ!今度こそはバレないと思ったんだけどな〜」
「ふふっ、それは失礼しました。それで、「ハッピーエンド」の準備は大丈夫ですか?金魚ちゃん」
「もちろんだよ〜!」、そう頷いた花火に、インシァンは「楽しみにしてますから」と柔らかく答える。そして彼女は自分の「準備」を果たすべく、「黄金の刻」の街並みへと繰り出した。