「……ふう、やっと着いた」
「追われない旅路っていうのも、案外悪くないかも」なんて呟きながら、ホタルは暉長石号に降り立った。ルーサン家当主、オーディ・アルファルファによって1琥珀紀前に建造されたその客船はまさしく「大仰」という言葉がよく似合っている。
「だけど……インシァンがやってくれたにしても、やっぱりファミリーの警備は緩い気がするなぁ。あたし、一応100億の首なのに……」
まあ、警備が甘くて損することもないか、と彼女は改めて辺りを見回す。そして見渡す限りの豪華絢爛さに少しクラっとするような感覚さえも覚える中、彼女は銀狼から聞いた都市伝説、「「担保」と引き換えに願いを叶えてくれる質屋」を探して暉長石号の中を歩き出した。
「名前は……「ポーンショップヒスイ」、だっけ。本当に、この船にあるのかな……」
◇◇◇
「──、これを星穹列車へのサプライズにしたいの。手配してもらえるかしら?」
「承知しました、ロビンさん」
彼女がポーンショップヒスイを探して船内を歩いていると、丁度ロビンがファミリーの使用人と話し終えたところだった。ホタルは部屋を出た彼女と入れ替わりになるように、使用人に声を掛ける。
「あの……」
「「暉長石号」へようこそ、お嬢さん。なにか御用でしょうか?」
「うん、そうなんだ。「質屋」への行き方って、知ってたりする?」
「質屋……もしかして、「レディ・ヒスイ」をお探しですか?」
「ヒスイ……うん、その人だと思う」
ホタルが頷くと、使用人は手元の端末を操作して彼女のスマートフォンに座標を送信する。開かれたマップアプリの中にピコンと、一つのマークが追加された。
「よろしければ、そちらの方までご案内しましょうか?」
「ううん、大丈夫。一人で行けると思うから」
「そうですか。また何か困り事などありましたら、遠慮なく言ってくださいね」
そして使用人に別れと礼を告げ、ホタルは送られた座標へ向けて進んでいく。「レディ・ヒスイ」という名前も、銀狼から聞いた記憶があるから間違いない。
「そういえば銀狼、天才クラブに行くみたいなこと言ってたけど大丈夫かな……インシァンも一緒なら安心なんだけど……」
そんな独り言を呟きながら階段を上がっていた、その時だった。
「もし私が勝ったら──あんたの宝箱は、私のものだから!」
ゲームコーナーから聞き慣れた声が響く。ホタルがそちらの方向へ目をやると、そこではこれまた見慣れた美少女がオムニックの男性に挑戦状を叩きつけているところだった。
「何を勘違いしているんですか?誰も賭けをするなど言っていないでしょう」
「いーや、私が言ったね!たった今!」
そんな屁理屈じみた論理を押し付ける星を(相変わらず、元気いっぱいだなぁ)とまさしく甘やかしまくりの姉のような目線で見るホタル。しかし今は彼女に声を掛けるより、先に「レディ・ヒスイ」を見つけないとという状況。
「また後でね」
誰にも聞こえないくらいの声でホタルは呟いた。
◇◇◇
「「ポーンショップヒスイ」、暉長石号支店へようこそ」
それからもうしばらく経って辿り着いたホタルを、「レディ・ヒスイ」は出迎える。そして名前を尋ねられたホタルが「サミュエル」と名乗ると、彼女は「素敵な名前ね」と微笑んだ。
「それでサミュエルさん、あなたは何を求めているの?その対価に何を払えるの?」
「あたしは……あなたについて、知りたいの。代わりに、あたしについて教えてあげるから」
「それは……ふふっ、こんな面白いお客さんとは久しぶりね」
「ええ、私と取引をしましょう」、「レディ・ヒスイ」……スターピースカンパニー戦略投資部「十の石心」ジェイドはそう頷いた。