「ということで、はじめまして、ジェイドさん」
「ええ、はじめまして。あなたがホタルちゃんの言っていたインシァンちゃんね。それで、こっちは……」
「ぼ……じゃなくて、わたしは、アベンチュリンの妹の……」
「アベンチュリンさんです」
「桜花ちゃん?」
なんとかはぐらかそうと目を逸らし、初ながらやたらとクオリティの高い女声で誤魔化そうとするアベンチュリンだったが、インシァンからの無慈悲な一刺しが炸裂して見事爆散。それどころか「坊や、そんな才能まであったのね」とスタックの溜まったジェイドによる追加攻撃まで。彼が星5ぶっ壊れ存護でなければとても耐えらず、見事手頃な墓に入ることになっていただろう。いや、夢の中で死を迎えられないことを再証明したのは彼本人なのだが。
「ねえ坊や、石心のトークグループに送っても良いかしら」
「逆にどうして良いと思ったんだい?桜花ちゃんからも何か言ってくれよ」
「ホタルちゃんに見せても良いですか?」
「桜花ちゃん?」
「全く、天丼は好みじゃないんだけどな」とため息を吐くアベンチュリン。しかし観念したのか、彼は少し目をつぶった後に女装姿のままジェイドの方へ向き直った。
「それで、ファミリーとの商談は上手く行ったのかい?もし途中で抜け出してきたっていうなら僕が手伝ってあげてもいいけど」
「あら、せっかくの休日を返上してなんて、随分と殊勝な心掛けね。けれど、もうとっくに決着はついたの。あなたが打ち込んだ楔によって、カンパニーはピノコニーの勢力図へと入り込んだわ」
「それはご苦労さま。事が終わった後に甘い蜜を頂いていくのはカンパニーが一番得意とすることだからね」
「ええ。それに、この商談によってもう一つ大きな成果を私達は手にしたの」
「成果?」
アベンチュリンが聞き返すと、ジェイドは静かに首を縦に振る。傍からそれを聞いていたインシァンは「私、少し離れましょうか?」と申し出たが、彼女は「構わないわ」と答えた。
「ルーサン家当主、オーディ・アルファルファとの会談によって、スターピースカンパニーはピノコニーの株式の30%を取得することが決定した。そして、その内の5%を星穹列車へと譲渡し、そのナビゲーターである姫子さんを独立取締役とすることにしたの。これによって、私達は「開拓」へ一つ恩を売ったわ」
「ははっ、そんなことか。それならとっくのとうに僕はナナシビトの星核ちゃん達と仲良くなってる。僕の方が一足早かったみたいだね」
「そういうことにしておいてあげるわ。……そうそう、少し話は変わるのだけど、インシァンちゃん、坊やとご飯を食べたのよね?」
「はい。美味しい仙舟料理を御馳走になりました」
「あら、そうだったのね。それで、少し聞きたいことがあって……坊やのマナー、大丈夫だった?一応、昔から教えてはいたのだけど……」
「あ、はい。綺麗だったと思いますよ。あまり音も立ててませんでしたし、身体の使い方も良かったですし……」
「「天才」の御令嬢にそう言ってもらえるのなら安心ね」
そんなこんなで少し盛り上がりながら話している二人を、アベンチュリンは自分の母親と同級生が仲良くなっているみたいな雰囲気を感じながら眺めている。女装のまま。視界右上の虚空を眺めながら毛先をいじるその姿はまさしく年頃の美少女といった様相であった。
「そうだ、住所とか聞かせてもらえるかしら?別にカンパニーの軍隊を送り込もうってわけじゃないわ。年に何度かお歳暮やらお中元を送ろうってだけだから」
「そういうことでしたら、大丈夫だと思います。こっちからはアベンチュリンさん宛で大丈夫ですか?」
「ええ、そうしてちょうだい。もしお小遣いなんかが足りなくなったらいつでも言って。優秀な人材ならカンパニーはいつでも受け入れるわ」
「短期バイトでよかったら、ぜひ」
そして彼女達が話し終えたところで、暉長石号に船内アナウンスが鳴り響き、人々を甲板デッキへと誘導する。どうやら、調和セレモニーが始まるようだった。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「ええ、行ってらっしゃい。私は少し「頼み事」を解決しないといけないから」
「ああ、君に変わってたっぷりと楽しんでくるよ、ジェイド。ただ……その前に一つ良いかい?桜花ちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「……更衣室、どっちだい?」
「あっちです」
そうインシァンが指差すなり、アベンチュリンは彼女から受け取った自分の洋服とともに猛ダッシュする。二人はその背を見送ったが、彼の姿が消えた頃、インシァンは「あ」と声を漏らした。
「あっち、女子更衣室だったかもしれません」
「あら」
運命は、彼の幸運に委ねられた。