星核ハンター「桜花」の日常と波乱   作:あるふぁせんとーり

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閑話:とある女性からの手紙

 「壊滅」の使令、絶滅大君「幻朧」を退け、仙舟「羅浮」の危機を救った星穹列車。その厄災の収束を祝う式典が執り行われる事となり、星がそれを控えて待機していたその時だった。

 

『ハーイ、星』

『突然悪いのだけれど、太卜司まで来てくれるかしら?』

『座標は今送ったわ』

『そうそう、誰にも言わないで、一人で来てほしいの』

『君の忠実なカフカより』

 

 スマホの通知音と共に送られてくる、初期状態の匿名アカウントからのメッセージ。いつものように列車内のゴミ箱でくつろいでいた彼女は「まさか」と驚きつつも、疑うこと無く短絡的に、反射的に返信する。

 

『えっホントにカフカ?』

『ええ、そうよ』

『ほら』

 

 星が尋ねると、少し間を置いてからカフカから自撮り写真が送られてきた。目元から下を切り取ったその写真を星は「えっちだなぁ」と即座に保存すると、彼女に返信する。

 

『ホントだ。カフカ、もう帰っちゃったと思ってた』

『ふふっ、信じてくれるのね』

『実はしばらく身動きが取れなくて、君の助けが必要なの』

『刃ちゃんの魔陰の症状が少し悪化していて、回復するまで離れられそうもないのよ』

『君も知っての通り、仙舟はまだ刃ちゃんの指名手配を撤回していなくてね。だから、彼はまだ最高レベルの指名手配犯のままなの』

『だからお願い、星。君の力を貸してくれないかしら?」

『いいよ』

『でも』

『座標受信するの失敗しちゃったからもう1回送って』

『匿名が位置情報を共有しました』

『これでいいかしら?……君のことを待ってるわ』

『爆速で行く』

 

◇◇◇

 

「おまたせ、カフカ」

「こんばんわ、星。君はきっと来てくれると信じてた」

 

 太卜司の一角、人気のない路地の小屋にて彼女を待っていたカフカ。星が小屋を覗くと、中では刃がその包帯を巻き直され、静かに寝かされている。

 

「現在とは選択の瞬間であり、過去とは選択の蓄積であり、未来とは選択の可能性である……。ねえ、星。「私の頼みに応え、助けてくれる」、これが君の選択?」

「もちろん。私カフカ好きだし。私の力が必要なんでしょ?」

「ええ、そうよ。刃ちゃんの状況は中々芳しくなくてね。あの子達も戻ってくるのにもう少し時間がかかりそうだから。この仙舟で頼れるのは君だけなの」

 

 そして星はもう一度小屋の窓の隙間から眠っている刃の様子をちらっと確認すると、「そういえば、「魔陰」って何?」とカフカに尋ねた。

 

「「魔陰の身」……それは、「豊穣」の祝福を受けた長命種とは切っても切り離せない宿命。長い時の中で抱え続けた感情と、積み重なった記憶が我を失わせ、狂気に陥れる……そんな病なの。刃ちゃんはほとんど全てを忘れてしまったのに、それでもなお「魔陰の身」は彼を蝕み続けている……」

「大変だね」

「ええ。だから、私は「言霊」で「魔陰の身」の影響を弱め、しばらくの間封印しようと思ってるの。でも、言霊に集中している間は私は他のことまで手が回らない。君にはその間、私のことを守っていてほしいの」

「近づいてくるやつをボコボコにすればいいってこと?それなら大得意だよ」

「ふふっ、頼もしいのね。星、私はいつ、どんな危機が訪れるかを君に伝える。だから、君はそれに対処してくれればいい。全て上手くいくし、君が被害を被ることもないと約束するわ」

 

 そしてカフカは辺りを見回すと、星の耳にそっと囁いた。

 

「星、近くをモンスターがうろついているの。やっつけてきてもらえるかしら?大丈夫、必ず君が勝つわ」

「分かった。頑張る」

 

◇◇◇

 

 そしてモンスターを自慢のバットで動物愛護法に引っかかるくらいボコボコにして戻って来た星。彼女がカフカの言霊が終わるのを待っていると、処置が一段落した彼女は目を開け、星の方を見た。

 

「目を開けたら君がいるなんて……少し懐かしい体験だわ」

「カフカ、私めっちゃ勝ったよ」

「そう、それは良かったわ」

「それで、刃はまだ大変そう?」

「そうね、そんなにすぐには終わらないわ」

 

 そう言ってカフカは締めていたすだれの端を上げると、再び眠った刃の顔を見せる。

 

「今、彼は五感が強制的に断たれている状態なの。私の声だけは分かるけど、それしか分からない。そしてこれから、私は彼の意思を出来る限り仙舟から隔離しようと思うの。景元将軍、鏡流、応星、そして君のお友達でもある星穹列車の丹恒、彼らに関する記憶の一切を封印するつもりよ。そして、この過程もさっきと同じように君に守ってもらわないといけないわ」

「そうなの?じゃあまた頑張るね」

「ありがとう。……ああ、そうだ。報酬の代わりといってはなんだけれど、その前に私とゲームをしない?」

「ゲーム?スマホの容量はいっぱいなんだけど……」

「ふふっ、君が思うようなゲームじゃないわ。名前を「嘘か真かゲーム」っていうの」

「なにそれ?」

 

 カフカの言葉に、星は少し興味深そうに尋ねた。そしてカフカは彼女の反応に嬉しそうに答える。

 

「簡単な心理戦みたいなものよ。1回ずつ、お互いに質問するのを2回繰り返すの」

「2回はなんでも答えてくれるってこと?」

「ええ、そうよ。でも1つだけ注意点があって、答えは必ず「1つの嘘と1つの真」でないといけないの。もちろん、それは明かされず、質問した人の判断に委ねられる……どう?やってみるかしら?」

「うん、いいよ。でも、全部真実だったらどうなるの?」

 

 星の質問に、カフカはたしなめるように言った。

 

「あら、ルール違反はいけないわ。ゲームは双方がルールを守ることで始めて成立する。でも、私にはそれを確かめる術がないから……君を裁くのは、「道徳」、ということになるわ」

「じゃあ、カフカはルールを守ってくれるの?」

「もちろん、そう誓えるわ。私の答えは必ず「1つの嘘と1つの真」である、と」

 

 そうカフカが言うと、星は「じゃあ、私もそうするよ」と頷く。カフカはまた微笑んで、「それでは、ゲームを始めましょうか」と言った。

 

「……あら、そんなに緊張しなくてもいいのよ。このゲームの本番は「2回目」なんだから。1回目は力を抜いて答えればいいの。……それじゃあ、1つ目の質問をするわね」

 

 そして少しの間が空いて、カフカは尋ねた。

 

「君は、私のことをどう思っているの?」

 

 星は少し考え、小さく頷いてから口を開いた。

 

「だいだいだいだいだいっきらい!!二度と星穹列車に来ないでほしいし、ご飯とかも別に行きたくない!!お小遣いもいらないし、お年玉だってほしくない!!」

「……そう。ほら、簡単なゲームでしょう?次は、君が質問する番よ……と言いたいところだけど、一時中断ね」

 

 そう言ってカフカは少し離れた門の方を指差した。そこにはおそらく先程、モンスターが現れたと通報を受けた仙舟「羅浮」の軍隊、雲騎軍が駆けつけていた。

 

「星、彼らを追い払ってもらえるかしら?」

「良いよ、伝えてくる」

「あら、それじゃあ駄目よ。君と彼らとは、この場では衝突は避けられないもの」

 

 カフカの忠告を「はいはい」と聞き流し、星は彼らに気さくに声を掛けに行った。

 

◇◇◇

 

「ボコボコにしちゃった……」

「だから言ったでしょう、衝突は避けられない、って」

 

 食い違いのようになってしまい、そのまま流れで戦いになってしまった星。カフカは戻って来た彼女をたしなめた。

 

「星、未来には無限の可能性があるように見えるけど、実際はそうじゃない。既に決まっている未来も確かに存在しているの。なぜなら、他の可能性が存在しなかったから。私はまだ言霊を掛け終わってないけど、あと1回だけならゲームを続けることが出来る。質問の準備は良いかしら?」

 

 星は少し考えた後、「うん」と頷いた。

 

「じゃあ、行くよ、カフカ」

「ええ」

「カフカは、前は何をしてたの?」

 

 カフカもまた、少し考え、そして口を開いた。

 

「私は昔「純美の騎士」だったの。私達は純美の星神「イドリラ」を讃え、崇拝し、その美しさを守り抜くと誓った。けれど、ある日イドリラが姿を消してしまって、その行方は誰にも分からなくなった。そんな自らの意義を失いかけてた時にエリオにスカウトされて、私は星核ハンターになったの」

 

 星はその答えに首をひねった。そして次に「さっきのは本当?」と聞こうとしたが、それでは興ざめになるとその首を横に振った。カフカは「そう、それでいいの」と頷いた。

 

「星、次に君は仙舟の機械兵器、金人と戦うことになるわ。君はこの運命を変えられるかしら?」

「……分かった、やってみる」

 

◇◇◇

 

「ふふっ、君は心の底から私の「予言」を変えたいのね」

 

 戻って来た星に、カフカはそう言った。事前に金人のバッテリーを落とし、さらには今いる場所の四方の扉を閉じることで侵入者も入ってこれないようにした星。しかし、カフカは「でも、まだこれからよ」と続ける。

 

「これから、雲騎軍の若い剣士がやってくる。きっと手ごわい敵になるわ」

「そっか……」

「でも、その前にゲームの続きをしましょう。私の質問ね」

 

 そして一拍置いて、カフカは尋ねた。

 

「君は、私にまた会いたいと思う?」

「うん。いっぱい会いたいよ」

 

 即答した星に、カフカは「そう」と嬉しそうに頷いた。

 

「これで私の番は終わりね」

「どう?楽しかった?」

「ええ。君から直接聞けて嬉しかったわ。……君の、最後の質問よ」

 

 「準備はいいかしら?」とカフカが尋ねると星はその首を縦に振り、「じゃあ、行くね」と言った。

 

「……カフカは、私のママなの?」

 

 大真面目に聞いた彼女に、カフカは思わずクスッと笑う。そして、彼女は答えた。

 

「生物学的に言えば、私と君に血の繋がりは無いわ。ただ少し戦闘なんかを教えただけ。君は星核を宿すために作られた人造人間なんだもの。育ての親、というのであれば、ほんのちょっとだけ当てはまるかもしれないけど」

 

 その答えに「そっか……」と少し残念そうに呟く星。しかし、カフカはまだ回答を続けた。

 

「……そうね、でも、私が君の母親なら、彼女は君の姉にあたるのかしら」

「え、お姉ちゃん?」

「ええ。君も会ったことがあるでしょう?彼女は設計思想だけで言えば、君の姉にあたるの」

 

 カフカが話す中、気がつけば起き上がった刃は小屋を出てきていた。そしてカフカは時計を見ると、「あら、そろそろ時間みたい」と残念そうに呟く。

 

「少し喋りすぎたかしら」

「待って、それって……」

「あら、そんなに焦らなくても良いわ。君は近い内に彼女の秘密を知り、そして彼女達と共に難関に挑むことになる。……じゃあ、元気でね、星」

 

 彼女が別れを告げた瞬間、辺りは突如として黒い桜吹雪に包まれ、それが晴れると2人は忽然と姿を消していた。遠くに、星核ハンターを探す雲騎軍の声が聞こえた。




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