「ふふっ、また会ったね!」
調和セレモニー開幕まで残り1時間を切っている。暉長石号の粗方を探索し終えて暇になり、バルコニーの片隅のベッドに寝転がった星。そんな彼女の顔を、見慣れた影が覗き込む。星は「あ……!」と、心底嬉しそうな声を漏らしてベッドから起き上がった。
「良かった、ホタルも元気そうで!」
「君達が頑張ってくれたおかげだよ。それで……調和セレモニーまではまだあるよね?良かったら、あたしと少し話さない?」
「もちろん!ほら、座って座って!」
そう言って星はホタルを自らの隣に座らせる。そして彼女は楽しげに足をパタパタさせながら「それで、どんな話?」と問いかける。ホタルは少し考えた後、「いろんな話かなぁ」とはにかんだ。
「だって、この夢には何もかもがあったんだから。秘密、裏切り、再会、共闘……全く違う運命を歩む人々が、それぞれの求めるものを手に入れるために肩を並べて「美しい夢」へと立ち向かい、そしてそれを打ち砕いた……確かに夢の中で起こったことなのに、こうして口にすると夢の中でさえ味わえないような大冒険のようにも思えてこない?」
「確かにそうかも。風邪の時に見る夢の方がよっぽどあっさり風味だよね」
「うん。……ふふっ、君の顔を見る限り、君はピノコニーでお望みのものを手に入れられたみたいだね」
「お望みのもの……そうだね、喋るゴミ箱にもいっぱい会えたし!」
屈託のない笑みを浮かべながら言う星。ホタルは「相変わらず良い笑顔だなぁ」と親戚のお姉さんみたいな目で彼女のことを見守っている。
「君達のことだもん、このセレモニーが終わったら、星穹列車はまた旅に出るんだよね。次の目的地は決まってるの?」
「ううん、まだ何にも決まってないよ。……あ、よかったらホタルもついてくる?」
「うーん、君からのお誘いはとっても嬉しいんだけど……今のあたしは、星核ハンターでの旅を続けたいって強く願ってるんだ」
「少し、昔話をするね」とホタルは少し遠くの、わずかにぼやけたピノコニーの街並みを見ながら言う。「聞かせて」と星はそれに相槌を打った。
「星核ハンターに入る前、あたしは居場所を失って、ひとりぼっちで宇宙を彷徨ってたの。それを拾ってくれたのが、カフカとエリオ。あの時はまだ、「星核ハンター」なんて名前もついてなかったような気がするけど、どうだったかな……」
「ホタル、もしかして……」
「……うん。この頃はだいぶロストエントロピー症候群も進行してて、あたしは二人の名前もちゃんとは覚えられてなかった。治療が始まるまでのことはほとんど忘れちゃってるんだ。大切だったはずの思い出も、もうはっきりとは思い出せないの」
「そっか……」
「それで、あたしは一度カフカ達の誘いを断ったんだ。あの時のあたしは、人らしく生きることは諦めて、せめて人らしく死ぬことばっか考えてたから。……でも、死に場所を探してる中で出会ったの。治るはずのないロストエントロピー症候群を治せる研究者、インシァン・ルアン・メェイに」
「インシァン……」
「もちろん、最初は少し戸惑ったよ。だって、あたしは死に場所を探してたんだから。多分、インシァンもそうだったんだと思う。実際、あたし達が打ち解けられたのは星核ハンターに入った後のことだったし……って、少し話が逸れたね」
「ううん、大丈夫。ホタルの話、面白いよ」
「相変わらず、君は優しいなぁ。……それで、インシァンと出会ってロストエントロピー症候群の治療が始まって、それと同時に、あたしもあの子もエリオと取引をして、星核ハンターに入ったの。「君達の今までにそれがなかったというのなら、これから始まる君達の旅の名が「人生」だ」なんて、エリオはそう言ってたな」
「それが、ホタルがここにきた理由?」
星がそう尋ねると、ホタルは静かにその首を縦に振る。「もちろん、それだけじゃないけどね」、彼女は笑った。
「君にももう一度会いたかったし、インシァンとの買い物も楽しみにしてたし、何より、夢を見てみたかったの」
「そっか……やりたいこと、いっぱいあったんだね」
「うん。でも「人生」って、あたしはそういう風にあってほしいんだ。あたしは、自分のために一生懸命に生きるって決めてるから」
「自分のため……うん、私も応援してるよ、ホタルのこと」
彼女がそう言い終えたところで、船内アナウンスが響く。どうやら、間もなく調和セレモニーが始まるらしい。ホタルは「じゃあ、また」と彼女に別れを告げてどこかに去っていく。その背中が消えるのを見送った後、星は暉長石号の船首ステージへと移動した。