「「「ナナシビト!!!」」」
「「「ナナシビト!!!」」」
そんなコールが響き渡る暉長石号。目立ちたがりの星には何とも心地よいシチュエーションで、彼女やなのかもその大歓声に応えて手を振り返す。
「えへへっ、今回の開拓も大変だったけど、その分、とびっきりの報酬だね!」
「まあ美少女はハッピーエンドになるって相場が決まってるからね」
そんなことを相変わらずのドヤ顔で言っていると、星はふと自分のスマートフォンが着信で震えてることに気がつく。「あれ、電源切ったと思ってたんだけど」なんて、届いたメールを開いた瞬間、彼女は思わずその目を見開いた。否、メールの内容にではない。それは差出人も件名も内容も記されていない、シンプルなイタズラメール。普段の彼女であれば、迷うこと無くスマホを閉じていただろう。ならなぜ彼女はその目を見開かざるを得なかったのか。
「ねえ芦毛ちゃん、楽しんでる?」
それは、彼女が囁いたからだった。景色は時間の流れ方を忘れてしまったようなスローモーションに染まり、宙を錦のような金魚が揺蕩い、長いリボンを靡かせる手毬があまりにも遅い箒星の真似をする。そんな戸惑いまみれの星の前に、彼女は一つの、華やかな装飾の施されたボタンを差し出した。彼女はハイタッチをするように、止まった星の手のひらにそれを押し当てた。
「あはは、押しちゃった。実はね、爆弾仕掛けたんだぁ。一悶着あったほうが楽しいもんね〜」
「あ、時間は10分だけあげるよ」、彼女はそう言い残し、姿を消す。星ははっと顔を上げた。
「あら、どうしたの?時限爆弾に気付いたみたいな顔をして」
「ごめんロビン!ちょっとお腹痛くなっちゃった!」
そう言って星はステージを離れ、人のいない暉長石号の片隅で再びスマートフォンを開く。そこには先程のメッセージが変化し、仕掛けられた無数の爆弾の配置マップが添付されていた。一人じゃ流石の銀河打者も分が悪いと彼女はその場にいそうなありったけの知り合いを「ゲロカス鬼ヤバ案件」と名付けたグループに集めて協力を呼びかける。
『星、突然どうしたの?』
『あんたがいなくなった後、ロビンさんも突然どっか行っちゃったんだけど!』
『緊急事態』
『船の上に虚数中性子爆弾が仕掛けられてる』
『詳しく聞かせてくれ』
『あの仮面の愚者がやらかしやがりました』
『呼ばれて飛び出て花火様〜!』
『助かるけど助かんないねあんた』
『大変だったんだよ〜、結局みんな配ったボタン押してくれなかったから、スキマ時間でちまちま自分で押したんだ』
『スキマスイッチ?』
『ベイビー、こいつイカれてやがる!』
『こればかりはブートヒルさんに同意せざるを得ません……』
『もはや愚鈍という言葉すら温いな』
『仮面の愚者も大変なんだね……』
『てなわけで、999個の花火様人形の中に一個だけ大当たりがあるから、みんなで探してみてね〜!』
『打ちミスだよね???』
『取り敢えず何か分かった人はここに共有しましょう。それと、なるべく騒ぎも起こさないようにね』
『カンパニーも手伝うよ。どうしてこんな時に限ってジェイドさんもアベンチュリンもいなくなっちゃうかな……』
『理解:協力してこの難局を打破しましょう』
こうして事情を知らぬゲストがお祭り騒ぎを続ける中、彼女達は最後の大仕事、爆弾解除に奔走することとなった。
◇◇◇
「っていう感じだけど、みんな見つけられるかな〜?」
暉長石号の隠し部屋でわさびスラーダを飲みながら花火は言う。そして一本イッキした後に「うっわマッズ〜」とビンを投げ捨てた彼女に、「ならどうしてそんなものを飲んだんだい?」と至極真っ当な疑問をぶつけるアベンチュリン。彼はため息を吐いた後、スマートフォンの着信を確認した。
「やれやれ、トパーズはだいぶ不安らしい。このままじゃ業務連絡が埋もれちゃうよ」
「仕方ないわ。普通だったら、爆弾騒ぎなんて不安になって当然だもの」
「私だって、知らなかったらそうなっていたかもしれないわ」とこっそりと回収しておいたオードブルをお供に紅茶を飲むロビン。どこか楽しげなその様子を花火が問いかけると、彼女は笑って言った。
「私も、突き詰めればあなたの同類。根っからのエンターテイナーなの。ハッピーエンドにはいつだって、盛大な高低差が必要だっていうあなたの考えには同意できるわ」
「あの歌姫様に褒めてもらえるなんて光栄〜!花火、今回は冗談抜きでだいぶ頑張ったからなぁ。なんてったって──」
「ごめんなさい、少し遅れました」
そんな謝罪とともに、隠し部屋の扉が開く。「仕掛け人部屋、ここですよね」、インシァンは、そう言って姿を現した。