「……ええ、そうよ。少し顎を上げて、うがいしている状態を固定するような感覚で……」
「……こ、こうかな……?」
「上手上手。声優デビューも夢じゃないわ。それじゃあ、一回頭から台本読んでみましょうか」
「ああ、やってみるよ。……こほんっ、「アタシは「ギャンブラー」人形!今日は「暉長石号」のゲームコーナーを潰しに来たんだけど、せっかくだし──」、……いややっぱりおかしくないかな!?」
アベンチュリンがそう抗議すると、ロビンは「あら、どうかした?」とまるで皆目見当もつかないと言わんばかりに聞き返す。花火の仕組んだ「暉長石号を救え!ドキドキ爆弾探しゲーム!」の撮影セット……の傍らにまたもやいつの間にか作られていた収録スタジオに、カチンコの音が大きく響いた。
「ダメだよ孔雀ちゃん!そんなんじゃ芦毛ちゃん来ちゃうよ〜?」
「ならもっと前から教えてほしかったなオフレコするって!」
そう、何をやらされているかといえば彼、花火人形の声を無理矢理担当させられているのである。それも女声で。「どうしてこんなことに……」などと彼は必死に心当たりを探すが、そんなものはあろうはずがない。そう、あるわけがないのだ。なんて言ったってその理由とは毎度恒例「愉悦」御用達、花火様の思いつき(バージョン16pro)なのである。
「くっそ、代わり映えのしないスマホの最新機種みたいな数字しやがって……」
「まあ頑張ってください、アベンチュリンさん」
「というか君もそっち側かい桜花ちゃん?」
「美味しいお菓子を頂いたので」
「ああギャラリティが安いな」
ちなみに彼はスマホの性能はそろそろ頭打ちだと思っている人間なので、最新機種というよりは少し前に出たハイエンドモデルなんかを愛用しているタイプ。ついでに他のメンバーのスマホ事情も記しておくと、ロビンは仕事用は常に最新機種だがプライベート用は長く使うタイプで、インシァンは自作、花火はリンゴが嫌い。
「というわけで健闘を祈り……あっ、金魚ちゃん、星ちゃん来ましたよ」
「わっホントだ。孔雀ちゃん、準備大丈夫?」
「大丈夫に見えるかい?」
「大丈夫だそうよ」
「ロビン?」
「3、2、1、アクション!」
「それオフレコじゃ駄目じゃないですか?」
「くっ……「アタシは「ギャンブラー」人形!今日は「暉長石号」のゲームコーナーを潰しに来たんだけど、せっかくだし──」」
アベンチュリンがさっき中断したところまで読み上げたその瞬間、星の慣れた手つきによるフルスイングが炸裂する。「ギャンブラー」人形が置かれたスロット台ごと一切躊躇うこと無く粉砕するその様子はまさしく銀河打者。未だ覚悟が決まっていなかったアベンチュリンはほっと胸を撫で下ろしたが、その隣ではロビンが少し残念そうに肩を竦めていた。
「手羽子ちゃん才能あるよ。花火と「愉悦」やんない?」
「残念ながらお断りさせてもらおうかしら。フリーだったら少し考えていたかもしれなかったけれど」
「これは……助かった、のか……?」
「お団子美味しいです」
「あ、次は桜ちゃんね」
「んぐっ」
「いやそう来るとは思ってたんですけど」と詰まり掛けたお団子をスラーダで流し込むインシァン。ロビンも「歌姫」人形に向けてウォーミングアップを始めている。そんな中で、とある事実にアベンチュリンは気がついてしまった。
「……僕の女声、星核ちゃんに聞かれてるじゃないか……!!」
そして音が聞こえそうなくらい、アベンチュリンは膝から崩れ落ちた。