「アタシは「ギャンブラー」人形!今日は「暉長石号」のゲームコーナーを潰しに来たんだけど、せっかくだし──」
「次!」
「ワタシは「研究者」人形。「存護」の「愉悦」や「壊滅」の「愉悦」、そして「愉悦」の「愉悦」といった、この宇宙の「愉悦」について研究を──」
「はい次!」
「ワタクシは「歌姫」人形。「愉悦セレモニー」の主役を務めるために──」
「次次!」
「もう、花火の奴どこにいるの……!?」
明らかに誰かに似ていた「ギャンブラー」人形、「研究者」人形、「歌姫」人形を片付けた星は、自慢の相棒であるバットを片手に「暉長石号」を走り回っていた。もちろんターゲットは例の仮面の愚者。本体ぶん殴るのが一番早いというスーパークレバーな思考の下の行動である。
何せ人形を999個見つけたにも関わらず事態が全く変わっていないのだ。内訳としては星が4個、ブラックスワン達が131個、ブートヒル達が217個、ヴェルト達が145個、トパーズ達が329個、なのか達が173個とまあ少しの差があるが、それにしても良く延長込み30分でここまで見つけたなという感じである。しかし、その中に肝心の虚数中性子爆弾は0。今の星は「もうあいつ自身が爆弾なんでしょ」と決め打ちして突っ走っている状態だった。
「……!あいつから……!」
そんな時、花火からの最後のメッセージがグループチャットへと届けられた。
『ぱんぱかぱーん!呼ばれて飛び出て花火様〜!』
『あんたその挨拶気に入ってるの?』
『花火、みんなの頑張りをず〜っと見てたんだよ?そしたらもうみんなすっごく一生懸命だから、花火もついつい協力したくなっちゃったんだ〜!』
『というわけで、みんなに教えてあげる!1000個目の人形、そして1つ目の爆弾の場所!』
『あ、本物は1つだけだからね!』
そう言い残して花火がグループチャットを退出した瞬間、そのグループに入っていた全員にバラバラの座標が送られてくる。もはや時間は残されていない。照らし合わせている暇なんてあろうはずがない。誰もが一切相談などすることなく、自らに送られてきた座標目掛けて走り出した。
「……っ!「暉長石号」のプール……!!」
◇◇◇
「28分46秒……28分45秒……28分44秒……」
プールの中に沈められた「本物の爆弾」人形が自動音声のように残り時間を刻む中、そこへと向かっていた星を一つの人影が待っていた。
「……あっ、やっぱり来た!」
「ホタル……!いや、ホタル……?」
「あたしは本物だよ!……って、そんなこと言ってる場合じゃなくて、星もあの仮面の愚者に呼ばれたんだよね?あたしもさっきメッセージが来て……」
「ほら、これ……!」と彼女は自らのスマホの画面を星へと見せる。そこに写っていたのは、30分ほど前に送られた匿名のメッセージ、そしてそれに添えられた一つの座標だった。
「これが送られてきて、あたしもすぐに駆けつけたの。そしたら……」
「27分52秒……27分51秒……」
「……これがあったんだ?」
「そう。もうこの美しい夢に「
「ホタル、分かるの?」
「一応、少しはこういうのも分かるんだ。さっきようやく調べ終わったんだけど、あの爆弾は既存のものとは全く違うかなり特殊な構造をして。その上に、運命の力で強固なロックが掛かってるの。……多分、作った人以外は解けないんだと思う。あたしがインシァンくらい出来たなら話は別なんだけど……」
「だったら、インシァン連れてくれば……!」
「ううん、さっきから全く連絡がつかないの。船の何処かにはいると思うんだけど、探してたら多分間に合わなくなる」
そしてホタルは少し目を瞑ってから、「あたしに、一つだけ方法があるの」と口にする。星は静かにそれに頷くと、「……聞かせて」と口にした。
「覚えてるかな、君に教えた「脚本」の話。あの脚本には、あたしが夢の中で三度の死を経験するって書いてあったんだ。でも、あたしはまだ二回しか死んでない。言い換えれば、あたしは後一枚、死ぬためのチケットを持ってるの」
「まさか、ホタル……」
「もう知ってると思うけど、あたしは君達と少し違う方法でここにいる。だから、君達には出来ないことが出来るんだ。例えば……この美しい夢を抜け出す、とか」
その言葉で、ホタルが何を果たすつもりなのかを悟った星。「そんなことは……」と彼女はそれを否定するように首を横に振るが、ホタルは「これは、あたしにしか出来ないことだから」とその手を握って言った。
「あたしは憶質の水圧を越えて、「原始の記憶域」に爆弾を持っていく。誰もいない、深い、深い深海まで。そうすれば……少なくとも、この夢を守ることが出来る。そうでしょ?」
「でも、ホタルが巻き込まれる。それなら、私は……」
「ううん、あたしに任せて。あたしは君と、君達に恩返しをしたいの。あたしはこの夢の中で沢山のものを手に入れた。だから、その分のお返し。あたしは夢を見られないけど、それでも、誰かの夢を守りたいんだよ」
「それに「サム」の力だったら、きっと無事に戻ってこれるよ」と笑うホタル。それでも不安そうな星に、「なら、この言葉を覚えておいて」と彼女は再び、星を安心させるようにその手を強く握る。
「昔……あたしのロストエントロピー症候群を治した時、インシァンが言ってたんだ。「不可能とは、結局のところ未だ訪れてない全てを括っているだけだ」って。この夢にも、この空にも、「不可能」って言われるようなものはまだ無数に転がってる。けれど、それは明日も「不可能」ってわけじゃないと思うんだ。きっといつか、あたし達の手が届いて、それが「可能」に変わる日が来る。だからあたしは、「不可能」を手繰り寄せてみせるよ」
「……」
「……もう、そんな顔しないでよ。「運命」にどんな結末が定められていたって、それが訪れてない限りは何も恐れる必要はないの。大事なのは、それまでにどんな行動をして、どれだけの選択を重ねたかっていうことだけ。だから、あたしは今、そうする選択をしたんだ。あたしが望む「ハッピーエンド」のためにね。……「運命」があたし達を造るんじゃなくて、あたし達が「運命」を創るんだよ」
◇◇◇
あたしは、それでもまだ、どこか悲しそうな顔をする星に背を向けて、プールに足を踏み入れた。
冷たいような、温いような水の感覚が足から、身体の上へと上がっていく。
人形を拾い上げる前に、あたしは、「サム」を起動した。
中に沈んでいた人形を水の中から取り出すと、「ちょっと順調過ぎるので、カウントダウンを早めま〜す!」とカウントダウンの音声はより鮮明になる。
あたしは星に別れを告げること無く、美しい夢の空へと飛び立った。
星穹列車と星核ハンターは、光と影。
違うようで同じ道を進み、無関係なようでもどこかにお互いの姿がある、そんな「運命」を共に旅してる。
その旅にはいつか終わりがあるだろうけど、それはまだ、遠く先。
舞い上がるホタルも、咲き誇る桜も、瞬く星も、この宇宙の中じゃほんの一瞬に過ぎないのかもしれない。
けれど、あたし達はそれでも旅を続けることを選んだ。
最後の最後に、たった一つでも後悔しないために。
「これで良かった」って胸を張れる、そんな選択をするために。
あたし達には、その権利がある。
そうでしょ?
ありがとう、星。
ありがとう、インシァン。
あたしは、最高の夢を見れたよ。
◇◇◇
その姿が彼方へと小さくなる。
燃える火の赤が、燃え尽きるような緑白へと変わる。
そこに、夜空の全ての光が収束していくような、そんな錯覚を星は覚えた。
そして、ほんの数秒が空くと、収束した光が、臨界するように細やかな点滅を繰り返す。
「ホタル──!!」、そう言おうとして、声にならない叫びと共に彼女はその光の方へ手を伸ばす。
そして、その瞬間は訪れた。
夜空を、満開の花火が覆った。
次回、ピノコニー編最終回です